説明

押出し成形用ダイス、押出し成形装置、多孔質膜、電解質膜および燃料電池

【課題】PTFEファインパウダーからなるペーストを効果的に練り混ぜることで、繊維化を十分に促進させることのできる押出し成形用ダイス、押出し成形装置と、該押出し成形装置によって製造される多孔質膜、電解質膜および燃料電池を提供する。
【解決手段】成形用ダイス1は、PTFEファインパウダーからなるペーストが充填される第1の中空体2と、中空体2に連通し、側面視が扇状の第2の中空体4とからなり、中空体2の下部開口22aは断面視矩形に成形され、その内壁面のうち、扇状の面に並行な辺の辺長をb、該辺に直交する辺の辺長をaとし、中空体4の2つの扇状の部分の離間長をcとした場合に、a/b>1、かつ、a/c>1の条件を満足するように構成されている。また、中空体4の内壁面には、中央付近が中空内部側に最も突出し、端部に向かって突出長が漸減する突起部41aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)からなるシート材を押出し成形する際に適用される押出し成形用ダイスと、該ダイスを備えた押出し成形装置、該押出し成形装置によって製造される多孔質膜、電解質膜および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFEシートは、シールテープや多孔質膜として広範に利用されている。このPTFEシートは、PTFEファインパウダーに潤滑油を混合して流動性を備えたペーストを製造し、このペーストを押出し成形機を通して、もしくは円柱状に押出した後に2本のカレンダーロールで圧延することによって製作されている。
【0003】
上記するPTFEシートには、強度的異方性が少ないことが望まれている。しかし、押出し成形方法によってPTFEシートを製造しようとすると、押出し成形装置を構成するダイスの中央付近の材料の押出しが側部付近の材料の押出しに比して促進される傾向にあり、したがって、シート材の部位によって成形時の伸張量が相違し、結果的に強度的異方性のある部材が成形され易いという問題があった。
【0004】
上記の問題に対し、特許文献1に開示のポリテトラフルオロエチレンシートおよびその製造方法にかかる発明では、ダイスにおけるペーストの通路において、その中央部に比して端部を狭小な通路とすることで、端部における押出し方向への流動を抑制し、中央部と端部とのペーストの流動の差異を緩和しようとするものである。双方の流動差異が緩和されることにより、押出し成形されるシート材の強度的異方性を低減することが可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−216760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献によれば、ダイスを構成するペースト通路のうち、中央部に比して端部を狭小化することで双方を通過するペーストの流動差異が緩和されるというものである。しかし、本願の発明者等の検証によれば、端部に比して中央部ほどペーストの押出し方向への流動性が促進されることが判明しており、逆に中央部の流動性を抑制する、ないしは中央部に流れるペーストを端部に流す必要があるという結論が導かれている。
【0007】
また、ファインパウダー内のPTFE分子は、折りたたみ鎖結晶(ラメラ)を有しており、ファインパウダー間にせん断をかけることでラメラの解除を促し(繊維化)、パウダー同士が接続されることで機械強度に優れた多孔質性のシート材が成形されることとなる。しかし、特許文献1に開示の構成要件、すなわち、ダイスのペースト通路部の端部を狭小化するだけでは、面方向および膜厚方向に均質な繊維化を図ることは難しい。この繊維化は、多数のファインパウダーを多軸的に十分に練り混ぜることによって促進されるものである。したがって、押出し成形装置もしくはその構成部材であるダイスに関し、ファインパウダーの繊維化を効果的に促進させる構造ないしは機構に関する技術の開発が切望されていた。
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、例えばPTFEファインパウダーからなるペーストを効果的に練り混ぜることで、面方向および膜厚方向の繊維化を十分に促進させることのできる押出し成形用ダイスと、該ダイスを備えた押出し成形装置、さらには、該押出し成形装置によって製造される多孔質膜、電解質膜および燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による押出し成形用ダイスは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む樹脂を押出し成形することによってシート材を成形する際に適用される押出し成形用ダイスであって、前記押出し成形用ダイスは、樹脂が充填される第1の開口を備えた一端面と、樹脂が押出される第2の開口を備えた他端面とを具備する筒状部材が、その途中から該第2の開口に向かって縮径する縮径部を具備してなる第1の中空体と、前記第2の開口に連通し、かつ、第1の側面視が2つのテーパー辺と該テーパー辺の端部同士を繋ぐ円弧とからなる扇状であり、該第1の側面視方向に直交する第2の側面視が矩形である内壁面形状を有し、端面に開設された第3の開口からシート状の樹脂が押出される第2の中空体と、からなり、前記第2の開口は断面視矩形に成形されており、該矩形において、前記第2の中空体の扇状の面に並行な第1の辺の辺長をb、該第1の辺に直交する第2の辺の辺長をaとし、第2の中空体の2つの前記扇状の部分の離間長をcとした場合に、a/b>1、かつ、a/c>1の条件を満足するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明のダイスは、PTFEを含む樹脂を押出し成形する際に適用されるものである。このダイスは、例えばPTFEファインパウダーに潤滑油を混合してなるペーストが通過する筒状部材からなる中空体(第1の中空体)と、この中空体に連通する第2の中空体とから構成される。
【0011】
第1の中空体は、その一端にペーストが充填される開口(第1の開口)を備え、その他端にペーストを第2の中空体に送る開口(第2の開口)を備えている。また、この中空体を構成する筒状部材は、その途中から第2の開口に向かって内壁寸法が縮径するように形成されており、かかる縮径部において、ラムにて加圧されたペーストの密度を高めること(ないしはファインパウダー同士のインタラクションを高めること)ができる。
【0012】
上記する第1の中空体から押出されたペーストは、該第1の中空体に連通する第2の中空体に送られる。この第2の中空体は、いわゆるフラットダイスであり、その側面視形状は扇状に成形されている。より具体的には、一つの側面視方向から見た形状(第1の側面視)が、2つのテーパー辺と該テーパー辺の端部同士を繋ぐ円弧とからなる扇状であり、この方向に直交する方向から見た形状(第2の側面視)が矩形である内壁面形状を有している。この第2の中空体の上端部には開口が開設されており、この開口と第1の中空体の第2の開口が連通するように接続固定されており、第2の中空体の下端(扇状部分の下面)には最終的にペーストがシート状に押出される第3の開口が開設されている。なお、扇状を形成するテーパー辺の長さや扇形の中心角は、成形されるシート材の幅に応じて適宜設定されるものである。
【0013】
また、第1の中空体を構成する第2の開口と、第2の中空体の上端開口とは、直接接続される実施の形態のほかに、例えば双方の開口断面を有する中空部材を介して双方が接続される構成であってもよい。また、この中空部材の中空部の寸法が、第2の開口側から上記する上端開口側に向かって漸増する形態の中空部材であってもよい。
【0014】
本発明のダイスでは、ファインパウダーの練り混ぜ効果を高めるために、第1の中空体を構成する第2の開口の内壁寸法と第2の中空体の内壁寸法に一定の関係を持たせるものである。具体的には、第2の開口を断面視矩形に成形し、該矩形において、第2の中空体の扇状の面に並行な第1の辺の辺長をb、該第1の辺に直交する第2の辺の辺長をaとし、第2の中空体の2つの扇状の部分の離間長をcとした場合に、a/b>1、かつ、a/c>1の条件を満足するように構成するものである。かかる構成により、第2の開口を通過する際にペーストが受ける最大の押圧力と、第2の中空体を通過する際にペーストが受ける最大の押圧力は双方が直交する方向(異なる方向)の圧力となり、したがって、本ダイスをペーストが通過する際に該ペーストは複数方向に練り混ぜられることにより、そのファインパウダーの繊維化をより促進させることに繋がる。
【0015】
第3の開口から押出されたペーストは、可及的に強度的異方性の少ない状態で押出されることとなり、従来のシート材に比してその強度特性に優れた樹脂シート(例えばPTFEシート)を得ることが可能となる。なお、ここでいう強度とは、引張強度や剥離強度などを意味している。
【0016】
また、本発明による押出し成形用ダイスの好ましい実施の形態は、前記第2の中空体の内壁面において、中空内部側に突出する突起部が設けられており、該突起部は、扇状の中央付近が中空内部側に最も突出し、扇状の端部に向かって突出長が漸減するように形成されていることを特徴とする。
【0017】
既述するように、発明者等の実験によれば、フラットダイスを適用してなる押出し成形に際し、その端部に比して中央のペーストの押出し(流動)が相対的に促進されることが特定されている。そこで、本発明のダイスでは、第2の中空体の内壁面の中央付近が中空内部側に最も突出し、扇状の端部に向かって突出長が漸減するような態様の突起部を形成するものである。この突起部は、第2の中空体の内壁面の任意のレベルに一つ設ける形態であってもよいし、任意のレベルにおいて対向するように2つの突起部を設けた形態であってもよいし、さらには、それらが複数のレベルに設けられた形態であってもよい。
【0018】
また、上記突起部の表面は滑らかな曲面に形成しておくことが好ましい。通過するペーストに対して該突起部に起因する局所的で想定外の外力を付与させないようにするためである。
【0019】
上記する突起部を第2の中空体の内壁面に形成しておくことにより、その中央部におけるペーストの押出しを抑制することができ、中央部に流れるペーストを側部(端部)へ流すことにより、双方からの押出しペースト量の差異を可及的に低減することができ、より強度的異方性の少ないシート材を成形することが可能となる。
【0020】
また、本発明による押出し成形装置は、少なくとも押出し機と、該押出し機に装着された前記押出し成形用ダイスと、からなることを特徴とする。
【0021】
本発明の押出し成形装置は、公知の押出し機に既述する本発明のダイスの第1の開口を装着し、押出し機を構成するラムによって第1の中空体内部に提供されたペーストを押し込み可能に構成してなるものである。なお、最終的に押出されたシート材を一定の形状や寸法に形成するためのサイザーや、冷却装置等を含むこともできる。
【0022】
上記する押出し成形装置を適用して、例えばPTFEファインパウダーを主原料とする多孔質膜、シールテープ、この多孔質膜を複合させた電解質膜、さらにはこの電解質膜が水素極と酸素極の間に介在されてなる燃料電池を製造することができる。
【0023】
かかる多孔質膜等は、既述する本発明のダイスを適用して製造されているため、強度的な異方性が極めて少ない高品質な材質からなるものである。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の押出し成形用ダイスおよび押出し成形装置によれば、強度的異方性の極めて少ない高品質なPTFEファインパウダーからなるシート材を押出し成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明のダイスの一実施の形態の斜視図を、図2は、図1のII−II矢視図を、図3は、図1のIII−III矢視図を、図4は、図1のIV−IV矢視図を、図5は、図1のV−V矢視図を、図6は、図5のVI−VI矢視図をそれぞれ示している。図7は、ダイスのa/b,a/cの値を変化させ、各ダイスにて成形されたシート材の剥離応力を示した実験結果である。なお、図示するダイスを備えた押出し成形装置全体の図示は省略しており、その構成部材であるラムのみを図示している。
【0026】
図1は、本発明のダイスの一実施の形態の斜視図を示している。このダイス1は、PTFEファインパウダーに潤滑油を混合して流動性を備えたペーストが充填される開口21aを上端に備えた筒状部21と、下端に開口22aを備えた縮径部22とが一体に成形された中空体2と、この開口22aに連通するように接続固定された中空の繋ぎ材3と、この繋ぎ材3に接続固定された中空体4とから大略構成されている。なお、この繋ぎ材3は中空体2と一体に成形されてもよい。また、他の実施の形態として、この繋ぎ材3のないダイスであってもよい。
【0027】
中空体4は、図示するX1方向からの側面視形状が扇状であり、該X1方向に直交する図示のX2方向からの側面視形状が矩形に形成されている。中空体4は、扇状の側部41,41と矩形面の側部42,42、下方の端面44とから構成されており、上端には繋ぎ材3の中空に連通する開口43が開設されており、端面44には開口44aが開設されている。なお、図示する実施の形態では、ペーストの流動方向を規制するための規制部46が、その中空部46aを開口44aに連通させた姿勢で端面44に接続されており、規制部46の下端面46bから最終的にシート材が押出されるようになっている。
【0028】
図2は、図1のII−II矢視図であって繋ぎ材3の下端部(開口43に臨む箇所)の断面を、図3は、図1のIII−III矢視図であって中空体4の扇状の幅広部の断面を示した図である。
【0029】
図2に示すように、繋ぎ材3の中空部下端面の断面視形状は矩形に形成されており、中空体4の扇状の側部41に並行な側部31の内面31aの辺長をb、それに直交する側部32の内面32aの辺長をaとする。ここで、a/b>1となるように面32aの辺長を面31aの辺長よりも長くなるように内壁面が形成されている。なお、この繋ぎ材3の中空部33に連通する中空体2の開口22a、および中空体4の上端開口43の双方の内空も図示する矩形断面と同形かつ同寸法に形成されている。一方、図示を省略するが、繋ぎ材3の中空部上端面の断面視形状も矩形に形成されており、その内面の直交する辺長はともにa,aである。繋ぎ材3の中空部は、この上端面から下端面に向かって寸法が漸増するように成形されており(図5の繋ぎ材3を参照)、ペーストはこの繋ぎ材3を通ることによってシート材の膜厚方向への練り混ぜがおこなわれることとなる。
【0030】
一方、中空体4のうち、側部42に対応する内壁面42aの辺長(扇状の側部41,41の離間長)をcとし、上記する面32の辺長をaとの間にa/c>1となるように該内壁面42aの辺長cが設定されている(図3参照)。
【0031】
各部の内壁面の辺長を上記のように設定することで、まず、繋ぎ材3の中空部33をペーストが通過する際には長手方向(図2のX3方向)にペーストが押し広げられ、次いで、中空体4の中空部45をペーストが通過する際には、図3に示すように上記のX3方向に直交するX4方向にペーストが押し広げられることとなる。このように、ダイス1の内部をペーストが通過する際に複数の方向にペーストが押し広げられることにより、該ペーストの練り混ぜが十分に促進され、多数のPTFEファインパウダー同士の繊維化が促進されることとなる。
【0032】
また、中空体4の内部には、図4に示す一組の突起部41a,41aが形成されている。この突起部41aは、中空体4の中央が最も中空内部に突出しており、端部に向かって突出長が漸減するように形成されている。さらに、突起部41aの表面が滑らかな曲面に形成されている。かかる一組の突起部41a,41aを内部に形成することにより、中空部45の中央部(図中のQ1)において押出されるペーストが側方(図中のQ2)側へ流れるとともに、中央部におけるペーストの押出しが抑制されることとなり、中空体4の下端開口44aから押出されるシート材がその一方の端辺〜他方の端辺まで可及的に均一に押出されることとなる。なお、従来の構成(端部が狭小化された形態)では、中央部からのペーストの押出しが相対的に促進される結果、中央部が突出する楕円状にシート材が成形されてしまい、その強度的な異方性が多分に存在する結果となっていた。
【0033】
図5は、図1のV−V矢視図(縦断図)を、図6はこれに直交する方向の縦断図である。図5より、ラム5によって押出された(Y1方向)ペースト6は中空体2、繋ぎ材3、中空体4を通り(Y2方向)、規制部46の下端開口46bを介してシート材7として押出される(Y3方向)。また、図6に示すように、中空体4においては突起部41a,41aによってペーストが中央部から側部へ押出され(Y4方向)、開口44a(および開口46b)から押出し成形されるシート材7は強度が一様に均一な状態で成形される(Y3方向)。
【0034】
上記するダイス1を備えた不図示の押出し成形装置によって製造されるシート材7は、シールテープ、電解質膜に適用することができ、この電解質膜を用いて燃料電池を製造することができる。
【0035】
[実証実験1]
発明者は、既述する特許文献1に開示の端部が狭小化された形態の突起部を有するダイス(以下の表中の比較例1)と、図4に示す本発明の突起部を有するダイス(以下の表中の実施例1)にてPTFEシートを製造し、複数の計測部における引張応力と伸びについて検証した。なお、ダイスの構成は突起部の形態以外は図1に示す本発明のダイスを適用している。引張応力に関する実験結果を以下の表1に、伸びに関する実験結果を以下の表2にそれぞれ示す。
【0036】
【表1】

【0037】
ここで、MD方向とはペーストの流れ方向を、TD方向はMD方向に直交する方向である。また、図示するA〜Fは、幅12〜13cmに成形されたシート材を2cm間隔で6片の試験片を切り込み形成したものである。
【0038】
【表2】

【0039】
表1,2に示す実験結果より、シート材の強度特性のうち、引張応力、伸び性能ともに比較例1に比して実施例1の方が試験片ごとのばらつきが極めて少ない結果となった。具体的には、引張および伸びの両特性ともに、MD方向とTD方向でその特性値に差異がほとんどなく、さらには、試験片ごとに強度特性に差異がほとんどないこと(すなわち、シートの中央部と側端部で強度特性に差異がないことを意味する)である。
【0040】
なお、比較例1のシート材では、ダイスの最終出口開口の中央部と端部でペーストの流動性が異なり、中央部が相対的に流動方向(MD方向)に長くなってしまい、シート材を巻き取った後は、全体的にラグビーボール状となった。
【0041】
実施例1のシート材が強度的異方性の極めて少ない結果となった理由として、ダイスを構成する中空体4内部の突起部の形態により、中央部に流れるペーストが側端部へ流されることによってMD方向のみならずTD方向へもペーストが流動し、結果としてペーストの練り混ぜ効果が高められることが挙げられる。かかる練り混ぜ効果により、ファインパウダー同士の繊維化が促進されることとなる。また、中央部に最も突出する突起部によって中央部におけるペーストの流動速度が低下させられる結果、中央部と側端部とでペースト流動速度の差異が解消され、シート材の強度の均質性(等方性)が達成できたものと特定される。
【0042】
[実証実験2]
次に、上記する実施例1で適用した本発明のダイスを使用し、図2,3に示すa/b,a/cの各値を多様に変化させてダイスを形成し、それぞれのダイスにて成形したシート材の強度特性の一つである剥離強度(剥離応力)の検証をおこなった。その実験結果を図7に示す。
【0043】
図7において、P1は、a/b=1,a/c=5の場合(比較例2)を、P2は、a/b=5,a/c=5の場合(実施例2)を、P3は、a/b=5,a/c=10の場合(実施例3)を、P4は、a/b=5,a/c=15の場合(実施例4)をそれぞれ示している。
【0044】
図7より、まず、比較例2のP1の値と実施例2のP2の値を比較すると、a/bを1より大の5とすることで剥離強度が2倍程度に向上することが分かる。これは、中空体2〜繋ぎ材3にかけて、通過するペーストがシート材の厚み方向に広げられることによって該方向へのせん断力を受け、ファインパウダー同士の繊維化が促進される結果、剥離強度が向上したものと判断できる。
【0045】
また、実施例2〜4にかけて順にa/cの値を2倍、4倍に設定することにより、剥離強度は、2割増、4割増に向上する結果となっている。a/cの値が大きくなることは、最終的にペーストが押出される中空体4において、ペーストの通過空間が中空体2〜繋ぎ材3に比して狭小化されるため、ペーストにより大きなせん断力が作用し、特にペーストのTD方向への流れが励起され、ファインパウダー同士の繊維化が促進されるためであると特定できる。これらの理由により、シート材の面方向(MD方向、TD方向)への繊維化のみならず、シート材の厚み方向への繊維化も促進される結果、該シート材の剥離強度が向上するものと特定される。
【0046】
上記実験結果より、図2,3に示すダイスの構造において、a/b>1かつa/c>1なる構造規定を設けることで、成形されるシート材の面方向への繊維化は勿論のこと、その厚み方向への繊維化も促進され、シート材の剥離強度を向上させることができると断定できる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のダイスの一実施の形態の斜視図。
【図2】図1のII−II矢視図。
【図3】図1のIII−III矢視図。
【図4】図1のIV−IV矢視図。
【図5】図1のV−V矢視図。
【図6】図5のVI−VI矢視図。
【図7】ダイスのa/b,a/cの値を変化させ、各ダイスにて成形されたシート材の剥離応力を示した実験結果。
【符号の説明】
【0049】
1…ダイス、2…中空体(第1の中空体)、21…筒状部、22…縮径部、21a…開口(第1の開口)、22a…開口(第2の開口)、3…繋ぎ材、33…中空部、4…中空体(第2の中空体)、41,42…側部、41a…突起部、43…開口、44…端面、44a…開口(第3の開口)、45…中空部、46…規制部、5…ラム、6…ペースト、7…シート材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む樹脂を押出し成形することによってシート材を成形する際に適用される押出し成形用ダイスであって、
前記押出し成形用ダイスは、樹脂が充填される第1の開口を備えた一端面と、樹脂が押出される第2の開口を備えた他端面とを具備する筒状部材が、その途中から該第2の開口に向かって縮径する縮径部を具備してなる第1の中空体と、
前記第2の開口に連通し、かつ、第1の側面視が2つのテーパー辺と該テーパー辺の端部同士を繋ぐ円弧とからなる扇状であり、該第1の側面視方向に直交する第2の側面視が矩形である内壁面形状を有し、端面に開設された第3の開口からシート状の樹脂が押出される第2の中空体と、からなり、
前記第2の開口は断面視矩形に成形されており、該矩形において、前記第2の中空体の扇状の面に並行な第1の辺の辺長をb、該第1の辺に直交する第2の辺の辺長をaとし、第2の中空体の2つの前記扇状の部分の離間長をcとした場合に、a/b>1、かつ、a/c>1の条件を満足するように構成されていることを特徴とする押出し成形用ダイス。
【請求項2】
前記第2の中空体の内壁面において、中空内部側に突出する突起部が設けられており、該突起部は、扇状の中央付近が中空内部側に最も突出し、扇状の端部に向かって突出長が漸減するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の押出し成形用ダイス。
【請求項3】
少なくとも押出し機と、該押出し機に装着された請求項1または2に記載の押出し成形用ダイスと、からなることを特徴とする押出し成形装置。
【請求項4】
請求項3に記載の押出し成形装置によって製造されることを特徴とする多孔質膜。
【請求項5】
請求項4に記載の多孔質膜からなることを特徴とする電解質膜。
【請求項6】
請求項5に記載の電解質膜が水素極と酸素極の間に介在されていることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−296646(P2007−296646A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123921(P2006−123921)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】