説明

押出成形又は射出成形用の組成物及び成形体の製造方法

【解決手段】水に不溶の粒子と水溶性バインダーと水を含む押出成形又は射出成形用の組成物において、水に不溶の粒子の平均粒子径が0.2〜20μmの真球状の粒子であることを特徴とする押出成形又は射出成形用の組成物。
【効果】本発明によれば、基質である水不溶性の粒子に対して低添加量でバインダーを使用して、成形性が良好で成形後の形状安定性に優れる成形体の成形が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望材質粉体から所望形状の成形体を得るための押出成形又は射出成形用の組成物及びこれを用いた成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所望の成形体を製造する方法として、粉体材料をバインダー類と共に所望形状とし、バインダーの接着力で形状を維持させることが一般的に行われている。この場合、セラミックの成形にあっては、成形物から脱バインダーを行いつつ焼結することが行われている。
【0003】
これらの成形手法としては、所望する成形形状により、バインダーと材料粉を混合してプレス成形する方法や、バインダーを溶剤に溶かしてこれに所望の粉体を混合し、シート状物であれば所望の厚みに調製した後、溶剤を蒸発して成形する方法が採用される。また、形状の複雑なものにあっては、石膏などの鋳型に同様のスラリーを流しこみ、石膏型表面の微少な孔を通じて溶剤を除去し、成形後、乾燥させて所望の形状としたり、粘性や保形性をもたせたバインダーの溶剤溶液と所望粉体との混合物からなる坏土を適正な金型に注入し、金型形状を転写して乾燥する射出成形が行われる。同様のセラミック坏土を、格子状のスリットからなる排出通路とこのスリットの交点に坏土を供給する通路を備える押出用口金を通過させることにより、ハニカム状の成形体や、平板状、棒状などの一定の断面形状からなる成形体を得る押出成形法なども行われている。
【0004】
しかしながら、かかるセラミック材料の成形では、流し込みや鋳型や金型への所望材料の流入は容易にする一方、流し込み後の鋳型や金型の形状を維持したまま乾燥された成形体を得るため、乾燥後に使用された基質の粉体材料を結合させるバインダーの添加が必須であり、このバインダーの選択によって成形後の乾燥過程での形状維持をはかることが一般に行われる。ここで、乾燥過程での形状を安定化させようと強固な結合性をもつバインダーを用いた場合には、得られた坏土は流動性が悪くなり、型への充填は極めて困難となる。これを解決するために、結合力の弱いバインダーを使用すると、成形後の乾燥に至るまでの過程で形状が崩れてしまったり、クラックの発生が生じたりする。
【0005】
これらの問題点を解決する方法として、例えば特開平04−209747号公報(特許文献1)では、特定の水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロース類をバインダーとして用いる手法が開示されているが、セラミックの粒子形態や大きさによっては必ずしも期待される効果が得られていない。これに対して、例えば特開平06−092715号公報(特許文献2)では、これらのバインダーとポリアルキレングリコール類を組み合わせることで坏土の可塑性や流動性を改善することが記載されており、特開平07−138076号公報(特許文献3)では、セラミック原料に0.2〜3質量%のエマルジョン化したワックスと2〜7質量%のメチルセルロースを添加して押出成形可能に可塑化したセラミック坏土を使用することにより、坏土の潤滑性を向上させる手法が開示されている。更に、特許第2756081号公報(特許文献4)では、コージェライトセラミック化原料バッチ中に親水基と疎水基との重量比で定義されるHLBが10以上のポリオキシエチレンオレイルエーテル又はポリオキシエチレンラウリルエーテルを添加することにより、押出ダイスと坏土との摩擦を低減できることが開示されている。特開2001−179720号公報(特許文献5)には、前記特許文献4に記載の内容では十分な改善効果が得られないとして、ソルビタン脂肪酸エステルを外配で0.1〜6.0質量%添加したセラミック坏土を押出成形することにより、コージェライト質ハニカム構造体を製造することで坏土との摩擦を低減できることが記載されている。しかしながら、これらのいずれの方法をもってしても、前述のごとくセラミック粒子の形態や大きさによっては十分な期待効果が発揮されない問題点があった。更にこれらのバインダー類は基質に対して異種物質であり、本来の目的とする基質に対して不純成分でしかありえず、添加されるバインダーは極力少なくして成形することが求められてきたが、期待できる効果は見出されてきていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平04−209747号公報
【特許文献2】特開平06−092715号公報
【特許文献3】特開平07−138076号公報
【特許文献4】特許第2756081号公報
【特許文献5】特開2001−179720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、素材となる基質粒子からバインダーを用いて成形体を作るときに、成形時の流動性が改善され、かつ成形後に保形性の維持を行うことができて、必要となるバインダーを極力低い添加量として行うことを可能とする押出成形又は射出成形用の組成物及びこれを用いた成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定粒子径の真球状の粒子を用いることにより、本発明の課題が解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の押出成形又は射出成形用の組成物及び成形体の製造方法を提供する。
請求項1:
水に不溶の粒子と水溶性バインダーと水を含む押出成形又は射出成形用の組成物において、水に不溶の粒子の平均粒子径が0.2〜20μmの真球状の粒子であることを特徴とする押出成形又は射出成形用の組成物。
請求項2:
水に不溶の粒子100質量部に対し、水溶性バインダーを2〜10質量部、水を5〜40質量部含んでなる請求項1記載の押出成形又は射出成形用の組成物。
請求項3:
真球状の粒子が、水不溶性のセラミック粒子、ガラス粒子、又は炭素を含む合成高分子粒子である請求項1又は2記載の押出成形又は射出成形用の組成物。
請求項4:
水溶性バインダーが水溶性のメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる1種又は2種以上の配合物である請求項1、2又は3記載の押出成形又は射出成形用の組成物。
請求項5:
ハニカム構造の押出成形体製造用である請求項1乃至4のいずれか1項記載の押出成形又は射出成形用の組成物。
請求項6:
請求項1乃至5のいずれか1項記載の組成物を押出成形又は射出成形した後、得られた成形体を脱バインダーし、焼結することを特徴とする水に不溶の粒子からなる成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基質である水不溶性の粒子に対して低添加量でバインダーを使用して、成形性が良好で成形後の形状安定性に優れる成形体の成形が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に使用する真球状の水不溶性の粒子は、平均粒子径が0.2〜20μm、好ましくは0.3〜18μm、更に好ましくは0.5〜15μmのものである。この粒子径より小さいと、粒子の凝集が激しく、本発明の目的とする効果は期待できず、この粒子径より大きいと、粒子の流動性が悪くて成形時の流動性改善効果が期待できない。
ここで、この粒子の平均粒子径は、ベックマンコールター社のコールターカウンターを用いた電気抵抗法による専用電解質溶液中での測定値である。
【0012】
本発明で用いる水不溶性の粒子は、真球状のものであり、真球度が1.1以下のものを使用する。真球性の尺度としては、特開平06−64916号公報に記述されている「平均真球度」を用いる。「真球度」とは各粒子における最大径/最小径の比をいい、「平均真球度」とは無作為抽出による100個のものの真球度の算術平均値をいう。
【0013】
具体的には、電子顕微鏡ないし顕微鏡によって、かかる基質粒子の写真を撮り、100個の粒子について各粒子における最大径/最小径の比をとり、この値の平均が1.1以下、更に好ましくは1.05以下のものを用いる。この値が1.1を超えると、この粉体から作られる坏土の流動性は改善されない。
【0014】
また、これらの粒子の粒度の分布については特に規定しないが、分布があるものの方が成形後の保形性を良好にする上で好ましい。
【0015】
本発明で使用する基質粉体としての水不溶性の粒子は、セラミック材料としては、コージェライト材料からアルミナ、ムライト、シリカ、炭化珪素、窒化珪素、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛などあらゆるセラミック材料が使用できる。ガラス材料としては、石英ガラス、ナトリウムガラス、硼珪酸ガラス、鉛ガラスなどあらゆる種類のガラス材料が使用できる。合成高分子材料としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、メチルメタクリート、ポリウレタンなどの粒子が使用できる。その他に、セルロースやキチンなど、一般に水不溶性の天然多糖類も使用し得る。
【0016】
本発明の組成物は、水溶性のバインダーを含む。バインダーとしては、セルロースエーテルやポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン系界面活性剤などが用いられるが、とりわけ成形後の保形性を維持する性能に優れるメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が本発明の効果を発揮するものとして適している。
【0017】
使用できるメチルセルロースとしては、1984年薬事日報社発行の化粧品原料規準注解1146ページに記載されているような、塩化メチル法ないしはジメチル硫酸法により製造し得るもので、メトキシ置換度が26〜33質量%で、2質量%水溶液の20℃での粘度が25〜30,000mPa・sのものが使用できる。また、ヒドロキシエチルセルロースとしては、1984年薬事日報社発行の化粧品原料規準注解840ページに記載されているような、エチレンオキサイドをセルロースに作用させる方法で得られるものが使用でき、ヒドロキシエチル置換度としては40〜60質量%のものが使用できる。粘度として2質量%水溶液の20℃での粘度が20〜100,000mPa・sのものが使用できる。ヒドロキシプロピルセルロースとしては、1984年薬事日報社発行の化粧品原料規準注解849ページに記載されているような、プロピレンオキサイドをセルロースに作用させて製造し得るもので、ヒドロキシプロピル置換度としては50〜70質量%で、2質量%水溶液の20℃での粘度が50〜10,000mPa・sのものが使用できる。
【0018】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースやヒドロキシエチルメチルセルロースのごとき混合エーテルは、メチルセルロース製造時に使われる塩化メチル又はジメチル硫酸に加えてエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを反応させて製造できる。これらの置換度は、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとしては、メチル基が19〜30質量%、ヒドロキシエチル基又はヒドロキシプロピル基が4〜12質量%のもので、2質量%水溶液の20℃での粘度が50〜200,000mPa・sのものが用いられる。これらの置換度や粘度の測定は、第14改正の日本薬局方に記載の方法で測定が可能である。ここで記載した置換度より低かったり高かったりするセルロースエーテルでは、水への溶解性が不足し、セラミック成形体の乾燥時に結着力を十分発揮しない場合がある。また、その粘度も低すぎると、この結着力が不足し、高すぎると押出成形時に粘性が高くなりすぎて押出成形しにくくなる場合がある。
【0019】
本発明では、これらのメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースから選ばれるセルロースエーテルの1種又は2種以上の配合物の添加量としては、水不溶性の粒子(基質粉体)100質量部に対して好ましくは2〜10質量部、より好ましくは3〜8質量部添加する。これらのセルロースエーテルの添加量が2質量部未満では、保形性が悪くなり、自重や外力で変形する場合があり、10質量部を超えると成形乾燥後の加熱による脱バインダー時に割れが発生しやすくなる。
【0020】
また、本発明の組成物は、水を上記水不溶性の粒子100質量部に対して好ましくは5〜40質量部、より好ましくは6〜30質量部添加する。水の配合量が少なすぎると、成形性(潤滑性)が損なわれ、多すぎると、押出時の水の分離及び乾燥収縮による製品の寸法精度が損なわれる。
【0021】
なお、本発明の組成物には、必要に応じ、グリコール、グリセリン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ソルビトール等の各誘導体、脂肪酸エステル、脂肪酸塩等の界面活性剤等を本発明の目的を阻害しない範囲で配合し得る。
【0022】
本発明の押出成形又は射出成形用の組成物を用いて所望の形状の成形品を得る方法としては、従来から行われている押出成形法又は射出成形法を適用でき、成形条件としても公知の条件が使用できる。成形後は、上記バインダーを除去し、次いで焼結して上記水不溶性の粒子からなる成形体を得ることができる。
成形体形状としては、特に制限されないが、ハニカム構造の成形体、特に押出成形体を得るのに有効である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0024】
[実施例1〜9]
表1に示すように平均粒子径0.4〜13μmのアドマテックス(株)製の真球度1.01〜1.04のアルミナ粒子100質量部に対して表1に示すセルロースエーテルを外配で2.0〜10.0質量部添加すると共に、表1に示す量の水を加え、川田製作所製のスーパーミキサーにて1,000rpmの撹拌羽により混合し、更に井上製作所製の小型3本ロールミルにて品温度を15℃にして混合した後、宮崎鉄工製のハニカム押出成形用小型押出成形機を用いて壁厚み0.2mmで壁間5mm、直径20mmのハニカムダイスにより押出ハニカム構造体に押出成形し、100℃にて16時間乾燥して、ハニカム構造体を得ることを行った。乾燥されたハニカム構造体を500℃にて2時間脱バインダーした後、電気炉にて1,700℃で焼結した。
表1に示す実施例1〜9のいずれの成形においても、成形時の隔壁の波打ち、特に外周近傍の隔壁の波打ち発生もなく、成形後の乾燥工程でクラックの発生がないセラミックハニカム構造体が得られた。
【0025】
【表1】

【0026】
メチルセルロース:
メトキシ置換度30質量%
2質量%水溶液の20℃での粘度4,000mPa・s
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:
メトキシ置換度29質量% ヒドロキシプロピル置換度10質量%
2質量%水溶液の20℃での粘度200,000mPa・s
ヒドロキシエチルメチルセルロース:
メトキシ置換度29質量% ヒドロキシエチル置換度10質量%
2質量%水溶液の20℃での粘度100,000mPa・s
ヒドロキシエチルセルロース:
ヒドロキシエチル置換度55質量%
2質量%水溶液の20℃での粘度4,000mPa・s
ヒドロキシプロピルセルロース:
ヒドロキシプロピル置換度60質量%
2質量%水溶液の20℃での粘度4,000mPa・s
【0027】
[実施例10〜18]
実施例10〜18として、上記実施例1〜9の配合品を使用し、壁厚み0.1mmで壁間4mm、直径20mmのハニカムダイスにより押出ハニカム構造体に押出成形し、100℃にて16時間乾燥してハニカム構造体を得ることを行った。乾燥されたハニカム構造体を500℃にて2時間脱バインダーした後、電気炉にて1,700℃で焼結した。
実施例10〜18のいずれの成形においても、成形時の隔壁の波打ち、特に外周近傍の隔壁の波打ち発生もなく、成形後の乾燥工程でクラックの発生がないセラミックハニカム構造体が得られた。
【0028】
[比較例1〜3]
実施例1〜3の基質を、平均真球度1.3〜1.7で平均粒子径0.4μmの昭和軽金属(株)製のアルミナに代えた以外は上記と同様にして成形を行ったが、得られた成形体は保形性が不十分で、乾燥時のクラック発生が多かった。
【0029】
[比較例4〜9]
実施例1〜3の基質を、平均真球度1.8〜2.7で平均粒子径10μmの日軽化工(株)製のアルミナに代えた以外は上記と同様にして成形を行ったが、得られた成形体は保形性が不十分で乾燥時のクラック発生が多かった。
実施例及び比較例より、本発明の効果は明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に不溶の粒子と水溶性バインダーと水を含む押出成形又は射出成形用の組成物において、水に不溶の粒子の平均粒子径が0.2〜20μmの真球状の粒子であることを特徴とする押出成形又は射出成形用の組成物。
【請求項2】
水に不溶の粒子100質量部に対し、水溶性バインダーを2〜10質量部、水を5〜40質量部含んでなる請求項1記載の押出成形又は射出成形用の組成物。
【請求項3】
真球状の粒子が、水不溶性のセラミック粒子、ガラス粒子、又は炭素を含む合成高分子粒子である請求項1又は2記載の押出成形又は射出成形用の組成物。
【請求項4】
水溶性バインダーが水溶性のメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる1種又は2種以上の配合物である請求項1、2又は3記載の押出成形又は射出成形用の組成物。
【請求項5】
ハニカム構造の押出成形体製造用である請求項1乃至4のいずれか1項記載の押出成形又は射出成形用の組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の組成物を押出成形又は射出成形した後、得られた成形体を脱バインダーし、焼結することを特徴とする水に不溶の粒子からなる成形体の製造方法。

【公開番号】特開2007−331978(P2007−331978A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165806(P2006−165806)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】