説明

担子菌抽出物およびブタ肝臓抽出物含有組成物

【課題】担子菌抽出物の味を改善し、服用しやすい組成物を提供する。
【解決手段】担子菌抽出物およびブタ肝臓抽出物を含む担子菌抽出物含有飲食品または医薬品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担子菌抽出物の呈味改善に関する。さらに詳しくは担子菌抽出物およびブタ肝臓抽出物を含む担子菌抽出物含有飲食品または医薬品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
担子菌類には様々な薬理作用が報告されており、漢方薬として使用されている種類も多く、その有用性は非常に高い。一例としてはシイタケ菌糸体抽出物があり、その薬理作用については、ラット、マウスでの発癌実験において、動物の大腸、肝臓などの腫瘍形成及び移植腫瘍細胞の増殖を抑制し、動物の生存率を上昇させた(N.Sugano et al., Cancer Letter,17:109, 1982;鈴木康将ら、日本大腸肛門病会誌、43:178, 1990など)、マイトジェン活性を示した(T. Tabata et al., Immunopharmacology, 24:57, 1992; Y. Hibino et al., Immunopharmacology, 28:77, 1994など)、抗体産生を増強し、抗体を介するADCC(antibody-dependentcell-mediated cytotoxicity)による免疫学的肝細胞障害に抑制効果を示した(溝口靖紘ら、肝胆膵、15:127, 1987)などの種々な報告がなされている。
【0003】
担子菌類はこのように機能性を有する極めて有用な素材であるにもかかわらず、中にはシイタケ菌糸体抽出物のように独特の苦味、酸味を有する種も多く、その為に服用する際に抵抗を覚える人もいた。
【0004】
天然由来成分の味改善に関しては、アミノ酸によるサポニンの味改善効果が公知であるが(特許第3246738号)、担子菌抽出物の味改善についての報告はない。また、ブタ肝臓抽出物を配合する特許としては、ブタ肝臓の加水分解物を抗酸化剤として使用する特許が出願されている(特開平11-302170)が、ブタ肝臓抽出物の味改善効果についての報告は知られていない。
【非特許文献1】N.Sugano et al., Cancer Letter,17:109, 1982;鈴木康将ら、日本大腸肛門病会誌、43:178, 1990
【非特許文献2】T. Tabata et al., Immunopharmacology, 24:57, 1992; Y. Hibino et al., Immunopharmacology, 28:77, 1994
【非特許文献3】溝口靖紘ら、肝胆膵、15:127, 1987
【特許文献1】特許第3246738号
【特許文献2】特開平11-302170
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、担子菌抽出物の味を改善し、服用しやすい組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ブタ肝臓抽出物を担子菌抽出物に配合することによって担子菌抽出物の呈味を顕著に改善できることを発見して本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
(1)担子菌抽出物およびブタ肝臓抽出物を含む担子菌抽出物含有飲食品または医薬品組成物。
(2)担子菌が、シイタケである(1)記載の組成物。
(3)シイタケの使用部位が菌糸体である(1)または(2)記載の組成物。
(4)ブタ肝臓抽出物の配合量が、担子菌抽出物1重量部に対して0.1〜10重量部である(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)ブタ肝臓抽出物を担子菌抽出物に添加することを含む、担子菌抽出物含有飲食品または医薬品組成物の味改善方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における担子菌類とはマツタケ(Tricholoma matsutake)、マイタケ(Grifola frondosa)、シイタケ(Lentinus edodes)、アガリクス(Agaricus blazei Murrill)、冬虫夏草(Cordyceps sinensis)、メシマコブ(Phellinus linteus)などが挙げられ、苦味や酸味などの不快な呈味を有する点から、シイタケ菌糸体(Lentinus edodes mycelia)、アガリクス、冬虫夏草、メシマコブなどが挙げられ、中でもシイタケ菌糸体の抽出物が好ましい。本発明におけるシイタケ菌糸体抽出物は、食用にされる子実体の前段階の菌糸の状態のものが好ましく、培養により生産されたものであっても天然より採取されたものであってもよい。好ましくは、シイタケ菌を固体培地上で培養して得られる菌糸体を用いる。典型的なシイタケ菌糸体抽出物は以下の方法によって得られるが、これに限定されない。すなわち、バガス(サトウキビのしぼりかす)と脱脂米糠を基材とする固体培地上にシイタケ菌を接種し、次いで菌糸体を増殖して得られる菌糸体を含む固体培地を、熱水存在化で粉砕、すりつぶし、得られた懸濁状液をろ過することによって得られるシイタケ菌糸体抽出液、またはこれを濃縮したもの、あるいはこれをスプレードライによって乾燥して得られるシイタケ菌糸体抽出物乾燥粉末などが好ましい。
【0009】
同様に、アガリクス、冬虫夏草、メシマコブなどの抽出物は、それぞれの子実体または菌糸体を用いて調製することができる。
本発明におけるブタ肝臓抽出物は、ブタ肝臓を粉砕、水で抽出して得られる抽出物、またはブタ肝臓もしくは前記抽出物を酵素分解して得られる加水分解物、あるいはこれらを濃縮、乾燥したものを用いることができる。市販品としては日本ハム(株)製PレバーEX(登録商標)(Lot.PL0710A)、伊藤ライフサイエンス(株)製Liver-Hi(登録商標)などを使用することもできる。
【0010】
一般には、担子菌抽出物1重量部に対して、ブタ肝臓抽出物の配合量が、0.1〜10重量部で使用されるが、中でも担子菌抽出物1重量部に対して、ブタ肝臓抽出物を0.2〜3重量部配合することが好ましく、0.3〜1重量部配合することがさらに好ましい。
【0011】
本発明の組成物は飲食品または医薬品として使用できる。
医薬品として用いるときの経口投与に適した製剤には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、シロップ剤などが含まれるが、これに限定されない。
【0012】
医薬品には薬剤的に許容できる担体を添加することができ、これらには当業界で公知の適当な賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香料、着色剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などを含むが、これに限定されない。
【0013】
本発明の組成物の投与量は患者の年齢、体重、症状、投与経路などを考慮して医師、薬剤師、栄養士などにより決定される。例えば、本発明の組成物に含まれるシイタケ菌糸体は食品として使用されてきたものであり、極めて安全であるところから、投与量を厳しく限定する必要はないが、通常シイタケ菌糸体抽出物粉末に換算して1日あたり10mg−50000mg、好ましくは100mg−5000mgである。
【0014】
本発明の組成物は、食品の形で提供することもできる。好ましい食品としては顆粒、麺類、キャンディー、ゼリー、クッキーなどが挙げられる。さらに、本発明の組成物は、飲料の形で提供することもできる。このような食品、飲料には本発明の組成物の他に、ビタミン剤、カルシウムなどの無機成分、キトサンなどの食物繊維、大豆抽出物などの蛋白質、レシチンなどの脂質、乳糖などの糖類などを追加してもよい。
【0015】
本発明を以下の実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の方法を種々変更、修飾して使用することが当業者には可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0016】
(調製例)
1)シイタケ菌糸体抽出物の調製
バガス(サトウキビのしぼりかす)900g、米糠100gからなる固体培地に純水を適度に含ませた後に、シイタケ種菌を接種し、温度25℃および湿度90%に調節した培養室内に3ヶ月放置し、菌糸体を増殖させた。菌糸体が固体培地に蔓延した後、このうち1kg(固体培地を含む重量である)を100Lの95℃熱水存在化で粉砕、すりつぶし、得られた懸濁状液をろ過することによってシイタケ菌糸体抽出液80Lを得た。これを10Lまで濃縮した後、スプレードライによる乾燥を行い、シイタケ菌糸体抽出物乾燥粉末250gを得た。
2)アガリクス子実体抽出物の調製
アガリクス実体抽出物は、アガリクス子実体粉末(チハヤ株式会社製有機栽培アガリクス)100gを95℃の熱水10Lで抽出し、抽出液9.2Lを得た。これを500mLまで濃縮した後、凍結乾燥を行い、アガリクス子実体抽出物乾燥粉末31gを得た。
3)冬虫夏草菌糸体抽出物の調製
冬虫夏草菌糸体抽出物は、冬虫夏草菌糸体粉末(杭州中美華東製薬有限公司製CORBRIN CAPSULE)100gを95℃の熱水10Lで抽出し、抽出液9.0Lを得た。これを500mLまで濃縮した後、凍結乾燥を行い、冬虫夏草菌糸体抽出物乾燥粉末27gを得た。
4)メシマコブ子実体抽出物の調製
メシマコブ子実体抽出物は、メシマコブ子実体粉末(チハヤ株式会社社製メシマコブ子実体滅菌末)100gを95℃の熱水10Lで抽出し、抽出液9.4Lを得た。これを500mLまで濃縮した後、凍結乾燥を行い、メシマコブ子実体抽出物乾燥粉末32gを得た。

実施例1:シイタケ菌糸体抽出物における味改善効果試験
(試験方法)
シイタケ菌糸体抽出物にブタ肝臓抽出物を添加したときの味改善効果を試験するために、下記表1、表2、表3に示す配合比で組成物を作製した。なお、ブタ肝臓抽出物としては、日本ハム(株)製PレバーEX(登録商標)(Lot.PL0710A)を使用した。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
【表3】

【0020】
表3に示す試験は、ブタ肝臓抽出物による味改善効果が、ブタ肝臓抽出物中に含まれるアミノ酸による効果であるかどうかを検討するために実施したものである。まず、ブタ肝臓抽出物中の遊離アミノ酸含有量を測定したところ、表4に示す値になった。
【0021】
【表4】

【0022】
表4に記載の各アミノ酸の値に基づいて、ブタ肝臓抽出物中のアミノ酸と同じ成分の混合アミノ酸を調製した。アミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、トリプトファン)は協和発酵(株)製を使用した。上記調製法により得られた混合アミノ酸を表2の各実施例におけるブタ肝臓抽出物中のアミノ酸含量と同じになるようにシイタケ菌糸体抽出物に添加して組成物を作製したのが表3に記載の各比較例である。
(評価方法)
作製した組成物について、20名のパネラーにより官能評価してもらい、その平均値を求めた。評価基準を表5に示す。
【0023】
【表5】

【0024】
評価結果を表6・表7・表8に示す。
【0025】
【表6】

【0026】
【表7】

【0027】
【表8】

【0028】
表6・表7・表8の結果から、シイタケ菌糸体抽出物単独である比較例1と比較して、シイタケ菌糸体抽出物1重量部に対してブタ肝臓抽出物0.1〜10重量部配合した組成物で酸味、苦味が改善され、美味しさが改善された。中でもブタ肝臓抽出物を0.2〜3重量部配合した場合に強く美味しさが改善されており、特に0.3〜1重量部配合した場合において著しく改善効果が見られた。
【0029】
また、ブタ肝臓抽出物に代えて混合アミノ酸を添加した場合には、味改善効果があまりみられなかったことから、シイタケ菌糸体抽出物の味改善効果はアミノ酸によるものではないことが示された。

実施例2:アガリクス子実体、冬虫夏草菌糸体、メシマコブ子実体の抽出物における味改善効果試験
アガリクス子実体、冬虫夏草菌糸体、メシマコブ子実体の抽出物を用いて、表9、表10に従って組成物を作成した。6名のパネラーにより実施例1と同様に官能評価してもらい、その平均値を求めた。
【0030】
【表9】

【0031】
【表10】

【0032】
評価結果を表11・表12に示す。
【0033】
【表11】

【0034】
【表12】

【0035】
表11・表12の結果から各担子菌類抽出物単独である比較例10、11、12と比較して、アガリクス子実体抽出物もしくは冬虫夏草菌糸体抽出物もしくはメシマコブ子実体抽出物1重量部に対してブタ肝臓抽出物を0.7重量部配合した組成物それぞれにおいて酸味、苦味が改善され、著しく美味しさが改善された。

実施例3:処方例
以下に処方例を示す。
[医薬品組成物の処方例]
処方例1.トローチ 重量%
シイタケ菌糸体抽出物 55.0
ブタ肝臓抽出物 14.0
マルチトール 21.0
アラビアガム 1.5
ショ糖脂肪酸エステル 2.5
クエン酸 3.0
粉末香料 1.0
キシリトール 残部
合計 100

[食品組成物の処方例]
処方例1.タブレット 重量%
アガリクス抽出物 60.0
ブタ肝臓抽出物 15.0
デンプン 11.0
トウモロコシタンパク質 2.0
ショ糖脂肪酸エステル 9.0
麦芽糖 3.0
合計 100

処方例2.散剤 重量%
冬虫夏草抽出物 20.0
ブタ肝臓抽出物 5.0
ブドウ糖 20.0
デンプン 55.0
合計 100

いずれの素材を用いた場合でも、同様に呈味の改善効果が確認出来た。また、上記処方例と同様の処方により各種組成物を調製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担子菌抽出物およびブタ肝臓抽出物を含む担子菌抽出物含有飲食品または医薬品組成物。
【請求項2】
担子菌が、シイタケである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
シイタケの使用部位が菌糸体である請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
ブタ肝臓抽出物の配合量が、担子菌抽出物1重量部に対して0.1〜10重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
ブタ肝臓抽出物を担子菌抽出物に添加することを含む、担子菌抽出物含有飲食品または医薬品組成物の味改善方法。

【公開番号】特開2009−235039(P2009−235039A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86216(P2008−86216)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】