指静脈認証システム
【課題】 指静脈認証において認証に用いるテンプレートに反映される血管パターンの鮮明度と再現性の向上を実現する指静脈認証システムを提供すること。
【解決手段】 本人確認を行うために記憶手段に新規登録する指静脈パターンデータ及び登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定し、判定結果を表示すると共に、判定結果に応じて再登録操作を促す処理を行う確認手段を備えることを特徴とする。
【解決手段】 本人確認を行うために記憶手段に新規登録する指静脈パターンデータ及び登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定し、判定結果を表示すると共に、判定結果に応じて再登録操作を促す処理を行う確認手段を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報として指静脈パターンを用いて本人確認を行う生体認証システムに関わり、特にその認証性能の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のセキュリティ意識の高まりやネットワーク利用の拡大により、情報セキュリティにおいて強固なセキュリティを保持し、かつ利便性の高い個人認証システムが求められている。認証方法としては、パスワードを利用した認証が最も一般的であるが、パスワードを利用した認証は、利用者が覚えやすくするため簡単な文字列をパスワードとして設定する場合が多く、また他人に盗み見られたり教えたりすることにより本人以外にも利用が可能なため、セキュリティ面から見ると非常に脆弱である。
これらの脆弱性を解決するために、さまざまな認証方法が考えられてきたが、中でも人間の体の一部を利用して本人確認を行う生体認証は、より強固でかつ利便性に優れた認証方法として注目を集めている。
生体認証技術としては、指紋、声紋、虹彩、顔、そして手や指の血管パターンなどを用いた手法が研究されているが、特に指の血管パターンを用いた指静脈認証は、指紋のように生体の表面ではなく内部の特徴を読み取るために偽造が困難であること、また虹彩のように眼球に光を照射しないため心理的抵抗感が少ないこと、声紋や顔に比べ認証性能が良いこと、手の血管パターンに比べ、装置を小型化できるという利点がある。
【0003】
指静脈認証について簡単に説明すると、光源より発する近赤外光を指から透過させ、その透過した光をカメラによって撮像する。カメラには近赤外域の波長のみを通す光学フィルタを装着する。撮像した画像は、血液中の成分が近赤外光を良く吸収するため、血管部分の光が透過せず暗く写る。このようにして撮像された画像に対して特徴抽出処理を施し、指の血管パターンを強調したテンプレートを作成する。
個人認証は、予め同様の方法で作成し登録しておいた個人のテンプレートとのパターンマッチングにより行う。
【0004】
パターンマッチングによる個人認証において重要なことは、指静脈パターンの鮮明度と再現性である。指静脈パターンがより鮮明であるほど、また指静脈パターンの再現性が良いほど(撮影毎のパターンの相違が小さいほど)、他人のパターンと識別し易くなり、また本人のパターンとして同定し易くなる。即ち、これらを改善することで、生体認証の性能を示す指標である認証精度(他人受入れ率と本人拒否率)を向上させることができる。
【0005】
指静脈認証において前記パターンの鮮明度と再現性を改善する先行技術としては、下記の特許文献1及び特許文献2がある。
特許文献1には、指の位置が特定の位置に自然に誘導され、撮影画像に対して、位置合わせや回転補正を行う必要がなく安定した照合ができると共に、指の圧迫等による血管パターンの欠落のない認証の精度を向上できる指静脈認証装置とその指置きガイドが開示されている。
特許文献2には、不正テンプレートと呼ばれる不適切な撮影条件で撮影したパターン情報の特徴点情報をあらかじめ保持しておき、これから登録あるいは認証しようとするテンプレートに対し、前もって不正テンプレートと照合させ、類似度が高い場合は不適切なテンプレートとみなして登録または認証させないようにし、さらに使用者に問題解決のためのガイダンスメッセージを表示する生体情報認証装置及び認証方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−128936号公報
【特許文献2】特開2007−272501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、指静脈認証においてはテンプレートに反映される血管パターンの鮮明度と再現性が良いことが重要であるが、それらを悪化させる要因として次のケースが挙げられる。
1つは、利用者の指の置き方に関する要因である。例えば、指を認証装置に置くとき、強く押付けた場合、血管が圧迫され血管パターンが一部欠落したテンプレートとなる。また、力を入れて過度に伸ばした状態(指を反らした状態)の場合、表皮の緊張によって血管が圧迫され同様に血管パターンが一部欠落したテンプレートとなる。
もう1つは、利用環境に関する要因である。例えば、認証装置全体を照らす外光が変化すると、撮像される画像の明るさやコントラストが変化する。太陽光や照明光にも、近赤外域の光が含まれており、光が回り込んで血管パターンの撮像のされ方に影響を与える。また、冬場の寒さが厳しい時期の屋外など気温・湿度が低い環境で、特に女性やお年寄りで血管の収縮による血流の悪化や乾燥による手荒れの影響で、血管パターンが一部欠落したテンプレートとなる。
【0008】
このようなケースで作成されたテンプレートは、登録した当初は一見問題なく認証できるように見える。なぜなら、短時間では前記要因はほとんど変化しないからである。例えば、指の押付けで同程度の力の入れ具合であれば作成されるテンプレートは登録時と同程度に血管パターンが一部欠落したものとなるため、パターンマッチングによる認証では一致とみなされる。しかし、時間を経ることで前記要因が徐々に変化し、将来的にある時を境として認証し難くなる(認証が失敗する頻度が増加する)可能性が高い。例えば、指の置き方に慣れてくるに従い、指の力の入れ具合が変化すると、テンプレートに反映される血管パターンの欠落度合いが登録時と差異が生じる。
ところが、ほとんどケースで利用者は前記要因に対し無自覚であるため、なぜ認証し難くなったのか原因を特定し、自己解決することは大変困難である。また、原因の特定を難しくしている要因として、利用者が実際に撮像された血管パターンを確認することができないことも挙げられる。これは、指静脈認証はパターンマッチングによる認証であり、パターンマッチングはパターン形状そのものが認証のキーとなるため、利用者に開示してしまうと、秘匿性が著しく低下してしまう。そのため、血管パターンを画面上に表示することはできないためである。また、これは利用者だけでなくシステムインテグレータにも当てはまる。
生体認証装置は単独で使用されることは少なく、大抵の場合、システムインテグレータによって他の業務システム等と連携して使用される。しかし、血管パターン画像は認証装置ベンダの極めて重要な機密情報であるため、システムインテグレータに開示されないケースが多い。従って、最終的に原因追求は認証装置ベンダが担当することになり、それに対応するための時間と保守要員の人件費は膨大なものとなる。
従って、このようになることを回避するには、前記の血管パターンの鮮明度と再現性を悪化させるようなケースでテンプレートが登録されないようにする手段と、登録後も利用者自身が使用しているテンプレートがどの程度の鮮明度と再現性なのか確認する手段と、その結果を受け自己解決できるように誘導する手段が必要である。
【0009】
本発明は、以上の問題点を鑑みてなされたものであり、指静脈認証において認証に用いるテンプレートに反映される血管パターンの鮮明度と再現性の向上を実現する指静脈認証システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る認証システムは、人間の指の静脈パターンに関する生体情報を用いて本人確認を行う指静脈認証システムであって、
本人確認を行うために記憶手段に登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定し、判定結果を表示すると共に、判定結果に応じて再登録操作を促す処理を行う確認手段を備えることを特徴とする。
また、前記確認手段は、記憶手段に記憶した登録済みの指静脈パターンデータと撮影手段により撮影した指静脈パターンデータとの相違度と、指静脈パターンデータの鮮明度とをチェックし、これら相違度と鮮明度のデータの組合せに基づき、新規登録する指静脈パターンデータ及び登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定することを特徴とする。
また、前記指静脈パターンの相違度による判定は、同一指同士の指静脈パターンを照合した際の相違度頻度分布から決定した閾値より、相違度を4段階に分けて判定することを特徴とする。
また、前記静脈パターンの鮮明度による判定は、指静脈パターン画像を2値化し、さらに細線化した画像から特徴点を抽出し、特徴点をもとに抽出した静脈線の長さの頻度分布から算出した静脈パターンの鮮明度を4段階に分けて判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る認証システムによれば、指静脈パターンの鮮明度と再現性を悪化させるようなケースでテンプレートが登録されないようにすること、登録後も利用者自身が使用しているテンプレートがどの程度の鮮明度と再現性なのか確認し、その結果を受け自己解決できるように誘導することにより、認証に用いるテンプレートに反映される指静脈パターンの鮮明度と再現性を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の指静脈認証システムに用いる指静脈認証装置の構造を説明する断面図である。
指静脈認証装置は、大まかに光源部104と撮像部105から構成される。
光源部104は撮像部105へ近赤外光を照射するように設置される。また、光源部104と撮像部105の間には撮像窓106として近赤外光のみ透過するフィルタが設置される。光源部104と撮像窓106の間の空間に指103を挿入することで、光源部104から照射された近赤外光が指を透過し、撮像窓106を通してそれを撮像部105で撮影することによって、撮像部105にて指静脈の血管パターン画像が得られる。
なお、光源部104の設置方式として、近赤外光を指103の両側面から照射するように設置する横入射方式101と、指103の上面から照射するように設置する上入射方式102がある。どちらの方式においても、本発明を同様に適用することが可能である。
【0013】
図2は、本発明に関わる指静脈認証システムの実施の形態を示すシステム構成ブロック図である。
指静脈認証装置220は、指に近赤外光を照射し静脈を撮像するカメラモジュール221とカメラモジュールを制御し、撮像した指静脈の血管パターン画像をPC220に送信するMPU222から構成され、その構造は図1に示したものである。
PC(パーソナルコンピュータ)210は、指静脈による生体認証機能を提供するソフトウェアを実行するCPU211と、ソフトウェアのデータやプログラムを一時的に読み込み、CPU211とやり取りするためのメモリ212と、ソフトウェアのデータを長期的に保存するためのHDD(ハードディスク)213と、指静脈認証装置220から指静脈の血管パターン画像を受信するためのI/Oインタフェース214から構成される。
【0014】
図3は、本発明に関わる指静脈認証システムのソフトウェアとその機能の構成を示すブロック図である。
生体認証を利用したソフトウェアの応用例は多々存在するが、本発明の実施例として、あるシステムへログインするために指静脈認証を利用するソフトウェアを例に説明する。
前記ソフトウェアは、登録ソフトウェア310と認証ソフトウェア320から構成される。
登録ソフトウェア310は、ユーザ情報の登録手段311、ユーザ情報の編集手段312、認証の確認手段313から構成される。
ユーザ情報の登録手段311は、指静脈認証によりシステムにログインするための指静脈パターンを登録する機能である。指静脈認証装置220から指静脈パターンを取得し、特徴抽出処理を施し登録用のテンプレートを作成する。また、利用者が入力した指静脈認証によるログイン対象のシステムのログイン情報(ユーザID及びパスワード等)と前記登録用のテンプレートを関連付け、ユーザ情報としてHDD213に保存する。
ユーザ情報の編集手段312は、ユーザ情報の登録機能311により登録されたユーザ情報の変更・削除を行うものである。例えば、登録済テンプレートの再取得、対象システムのログイン情報の変更、特定のユーザ情報の削除がある。
【0015】
認証の確認手段313は、本発明の中核をなす機能であり、登録した指静脈パターンが指静脈認証に適しているかどうかを確認する機能である。後述する認証手段321との違いは、ここでは指静脈パターンが指静脈認証に適しているかどうかを確認するのみで指静脈認証に適しているという判定結果であっても対象システムへのログインは行わないことである。その代り、テンプレートの適正度を判定し、その判定結果を画面表示し、登録した指指静脈パターンが指静脈認証にどの程度適しているか利用者に通知する。
また、認証の確認手段313は、ユーザ情報の登録手段311の終了直後に続けて実行され、判定結果が良くなければ、再登録を促すよう利用者に通知し、ユーザ情報の編集手段312へ誘導する。これが本実施形態の第1の特徴点である。
【0016】
認証ソフトウェア320は、認証手段321、対象システムへのログイン手段322、認証の確認手段323から構成される。
認証手段321は、指静脈認証により本人確認を行う機能である。指静脈認証装置220により認証する指の指静脈パターンを取得し、特徴抽出処理を施して照合用のテンプレートを作成する。そして、ユーザ情報の登録機能311でHDD213に保存したユーザ情報から登録済テンプレートを取得し、前記照合用テンプレートと照合を行い、本人の指と一致するかどうか判定する。また、一致した場合は、対象システムへのログイン手段323にその旨を通知する。なお、ここで言う「一致」とは照合用テンプレートと登録済テンプレートの指静脈パターンの相違度が予め設定した許容範囲におさまっている場合を意味する。
対象システムへのログイン手段322は、認証が成功した際に、対象システムにログインする機能である。認証手段321より認証成功の通知を受けると、前記ユーザ情報の登録機能311によりHDD213に保存されたユーザ情報から、認証が成功した登録済テンプレートと関連付けられた対象システムのログイン情報を取得し、それを用いて対象システムへログインを行う。
【0017】
認証の確認手段323は、登録ソフトウェア310における認証の確認手段313と処理内容は同じである。登録ソフトウェア310における認証の確認手段313との違いは、登録ソフトウェア310では、ユーザ情報の登録手段311と組み合わせて使用されるが、ここでは単独で利用者により使用される。その用途はHDD213に既に保存された指静脈パターンがどの程度指静脈認証に適しているか確認することであり、判定結果が良くなければ、再登録を促すよう利用者に通知し、ユーザ情報の編集手段312へ誘導する。この機能が本実施形態の第2の特徴点である。
すなわち、本実施形態におけるシステムは、登録ソフトウェア310における登録手順311の終了直後に、認証の確認手段313を起動し、新規に登録した指静脈パターン(テンプレート)が適切であるかを確認し、また認証ソフトウェア320における認証の確認手段323を起動し、HDD213への指静脈パターンの登録後に、その登録済みの(登録済みテンプレート)が同一利用者の同一指の指静脈認証にどの程度適しているかを確認し、確認の結果が適切でない場合はその旨を利用者に通知し、再登録を促すよう誘導することが特徴である。
【0018】
以下、認証の確認手段313の詳細について、図4のフロー図を用いて説明する。
最初に、指静脈認証装置220により認証する指の指静脈の撮影を行う(ステップ401)。
次に、撮影した指静脈画像より、照合用テンプレートを作成する(ステップ402)。
次に、HDD213よりユーザ情報の登録手段311で登録したユーザ情報からこれから認証しようとする指の登録済テンプレートを読み込む(ステップ403)。
次に、ステップ402で作成した照合用テンプレートとステップ403で取得した登録済テンプレートとを照合し、相違度をチェックする(ステップ404)。
ここで、相違度とは、照合した照合用テンプレートと登録済テンプレートにどの程度の相違があるかを示す値であり、値が小さいほどより一致していることを示す。
【0019】
認証手段321であれば、ここまでで得た相違度により、予め設定された相違度の閾値を下回るか否かで、認証成功(一致)か、認証失敗(不一致)かを判定して終了であるが、認証の確認手段313では、次に、ステップ402で作成した照合用テンプレートとステップ403で取得した登録済テンプレートとステップ404で取得した相違度をもとに、テンプレートの適正度の判定を行う(ステップ405)。
判定結果は4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)で取得される。テンプレートの適正度判定の詳細は後述する。
最後に、認証の確認結果として、ステップ405で取得したテンプレートの適正度判定に応じた内容を画面に表示する。
【0020】
図5は、認証の確認手段313の結果を表示する画面の一例である。
画面は、判定結果のシンボルの表示部(511、521、531、541)と、判定結果に応じたメッセージの表示部(512、522、532、542)と、判定結果に応じて利用者が操作するボタン(513、523、533、534、543)から構成される。
判定結果が◎または○の場合は、利用者が現在使用している指は指静脈認証に適しているため、その旨をメッセージ表示し、認証の確認を終了するボタン(513,523)のみ表示する。
また、判定結果が△の場合、利用者が現在使用している指は指静脈認証に適していない可能性があるため、再度認証の確認機能を実行し、それでも判定が変わらない場合は他の指で再登録することを推奨する旨をメッセージ表示する。そのため、ボタンは指を再登録する画面(図3のユーザ情報の登録手段311を呼び出しても良いし、別途の登録画面でも良い)に誘導するボタン533と、とりあえず再登録しないで戻るためのボタン534の2つを表示する。
また、判定結果が×の場合、利用者が現在使用している指は指静脈認証に適していないため、別の指で再登録することが必須である旨をメッセージ表示し、必ず再登録がなされるように指を再登録する画面に誘導するためのボタン543のみ表示する。
【0021】
テンプレートの適正度判定の詳細について、図6のフローチャートを用いて説明する。
テンプレートの適正度は、2種類の異なる見地からの判定を統合して判定する。
最初に、静脈パターンの相違度(再現性)による判定を行う(ステップ701)。
図4のステップ404で得られた相違度を入力し、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)の判定結果を得る。静脈パターンの相違度による判定の詳細は後述する。
次に、静脈パターンの鮮明度による判定を行う(ステップ702)。図4のステップ402,403で取得した照合用テンプレート及び登録済テンプレートを入力し、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)の判定結果を得る。静脈パターンの鮮明度による判定の詳細は後述する。
最後に、上記2種類の判定結果から、図14の表に基づいてテンプレート適正度の最終判定の結果を決定する(ステップ703)。最終判定の結果は、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)である。
【0022】
静脈パターンの相違度による判定の詳細について、図7を用いて説明する。
図7は同一指同士の照合により得られた相違度の頻度分布を表すグラフである。横軸は照合用テンプレートと登録済テンプレートを照合して得られる相違度であり、縦軸はその相違度が出現する頻度である。
認証の閾値は、目標とする認証精度を評価するに足りる数のサンプルデータから得た頻度分布から算出される認証精度(本人拒否率)が目標を満たすように決定される。
認証の判定では、相違度が認証の閾値より小さい場合は一致(認証成功)、大きい場合は不一致(認証失敗)の2つに1つの判定であるが、静脈パターンの相違度による判定では、3つの閾値A〜Cにより、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)で判定する。なお、閾値A、Bは本発明の適用先システムごとにサンプルデータを用いた実験により決定する。閾値Cは認証の閾値と同値とする。
【0023】
静脈パターンの鮮明度による判定の詳細について、図8のフロー図を用いて説明する。
最初に、テンプレートは符号化されているため、静脈パターン画像の形式に復元する(ステップ801)。
次に、静脈パターン画像を2値化する(ステップ802)。図9に、静脈が鮮明なテンプレートの静脈パターン画像を2値化した例901と、静脈が不鮮明なテンプレートの静脈パターン画像を2値化した例902を示す。ここで、白は静脈が有る領域を黒は静脈が無い領域を表す。静脈が鮮明なテンプレートでは白領域がつながった画像となるのに対し、不鮮明なテンプレートでは白領域の一部が擦れ欠落し粒状に散らばった画像となる。
次に、2値化した静脈パターン画像を細線化し、白領域を幅1ドットの線に変換する(ステップ803)。
図10に、静脈が鮮明なテンプレートの2値化画像を細線化した例1001と、静脈が不鮮明なテンプレートの2値化画像を細線化した例1002を示す。静脈が鮮明なテンプレートでは白領域が長く連続した線が結合された画像となるのに対し、静脈が不鮮明なテンプレートでは白領域が細かく分断された短い線が散在した画像となる。
【0024】
次に、細線化した画像から特徴点(端点、分岐点、交叉点)を抽出する(ステップ804)。
図11に、静脈が鮮明なテンプレートの細線化画像から特徴点を抽出した例を示す。
次に、抽出した特徴点をもとに静脈線を抽出する(ステップ805)。静脈線の抽出は、各特徴点の間にある点列を追跡することで行う。
次に、抽出した全ての静脈線から長さ(ドット数)の頻度分布を集計する(ステップ806)。
【0025】
図12に静脈が鮮明なテンプレートの静脈長の頻度分布の例1201と、静脈が不鮮明なテンプレートの静脈線長の頻度分布の例1202を示す。グラフの横軸は静脈線長であり、縦軸は静脈線長の出現頻度である。静脈が鮮明なテンプレートの分布に比べ、静脈が不鮮明なテンプレートの分布では、静脈線長の短い方に頻度が集中した急勾配な分布となる。
最後に、静脈線長の頻度分布より静脈の鮮明度の値を算出し(ステップ807)、その値をもとに、3つの閾値A〜Cにより、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)で判定する(ステップ808)。
図13に、静脈の鮮明度を算出する計算式1301と算出した値から判定結果を決定する表1202を示す。静脈の鮮明度は、長い静脈線が数多くあるほど、より大きな値となる。
なお、閾値A〜Cは本発明の適用先システムごとにサンプルデータを用いた実験により決定する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に用いる指静脈認証装置の構造を示す断面図である。
【図2】本発明に係る指静脈認証システムの実施の形態を示すシステム構成ブロック図である。
【図3】本発明に係る指静脈認証システムのソフトウェアとその機能の構成を示すブロック図である。
【図4】認証の確認手段の処理を示すフローチャートである。
【図5】認証の確認の判定結果を表示する画面の一例を示す図である。
【図6】テンプレートの適正度判定処理を示すフローチャートである。
【図7】同一指同士の照合による相違度の頻度分布と相違度によるテンプレート適正度の判定方法を示す図である。
【図8】静脈パターンの鮮明度によるテンプレートの適正度判定処理を示すフローチャートである。
【図9】テンプレートから復元した静脈パターン画像を2値化した画像の例を示す図である。
【図10】2値化した静脈パターン画像を細線化した画像の例を示す図である。
【図11】細線化した静脈パターン画像から特徴点を抽出した例を示す図である。
【図12】静脈線長の頻度分布を集計した例を示す図である。
【図13】静脈パターンの鮮明度を算出する式とその結果からテンプレート適正度の判定方法を示す図である。
【図14】最終的なテンプレート適正度の判定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
101 横入射方式の指静脈認証装置
102 上入射方式の指静脈認証装置
103 指
104 光源部
105 撮像部
210 PC
211 CPU
212 メモリ
213 HDD
214 I/Oインタフェース
220 指静脈認証装置
221 カメラモジュール
222 MPU
510 認証の確認画面(判定:◎)
511 判定結果表示(判定:◎)
512 メッセージ表示(判定:◎)
513 終了ボタン
520 認証の確認画面(判定:○)
521 判定結果表示(判定:○)
522 メッセージ表示(判定:○)
523 終了ボタン
530 認証の確認画面(判定:△)
531 判定結果表示(判定:△)
532 メッセージ表示(判定:△)
533 再登録ボタン
534 終了ボタン
540 認証の確認画面(判定:×)
541 判定結果表示(判定:×)
542 メッセージ表示(判定:×)
543 再登録ボタン
701 同一指同士の照合による相違度の頻度分布曲線
901 2値化した静脈パターン画像(静脈が鮮明な例)
902 2値化した静脈パターン画像(静脈が不鮮明な例)
1001 細線化した静脈パターン画像(静脈が鮮明な例)
1002 細線化した静脈パターン画像(静脈が不鮮明な例)
1201 静脈線長の頻度分布(静脈が鮮明な例)
1202 静脈線長の頻度分布(静脈が不鮮明な例)
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報として指静脈パターンを用いて本人確認を行う生体認証システムに関わり、特にその認証性能の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のセキュリティ意識の高まりやネットワーク利用の拡大により、情報セキュリティにおいて強固なセキュリティを保持し、かつ利便性の高い個人認証システムが求められている。認証方法としては、パスワードを利用した認証が最も一般的であるが、パスワードを利用した認証は、利用者が覚えやすくするため簡単な文字列をパスワードとして設定する場合が多く、また他人に盗み見られたり教えたりすることにより本人以外にも利用が可能なため、セキュリティ面から見ると非常に脆弱である。
これらの脆弱性を解決するために、さまざまな認証方法が考えられてきたが、中でも人間の体の一部を利用して本人確認を行う生体認証は、より強固でかつ利便性に優れた認証方法として注目を集めている。
生体認証技術としては、指紋、声紋、虹彩、顔、そして手や指の血管パターンなどを用いた手法が研究されているが、特に指の血管パターンを用いた指静脈認証は、指紋のように生体の表面ではなく内部の特徴を読み取るために偽造が困難であること、また虹彩のように眼球に光を照射しないため心理的抵抗感が少ないこと、声紋や顔に比べ認証性能が良いこと、手の血管パターンに比べ、装置を小型化できるという利点がある。
【0003】
指静脈認証について簡単に説明すると、光源より発する近赤外光を指から透過させ、その透過した光をカメラによって撮像する。カメラには近赤外域の波長のみを通す光学フィルタを装着する。撮像した画像は、血液中の成分が近赤外光を良く吸収するため、血管部分の光が透過せず暗く写る。このようにして撮像された画像に対して特徴抽出処理を施し、指の血管パターンを強調したテンプレートを作成する。
個人認証は、予め同様の方法で作成し登録しておいた個人のテンプレートとのパターンマッチングにより行う。
【0004】
パターンマッチングによる個人認証において重要なことは、指静脈パターンの鮮明度と再現性である。指静脈パターンがより鮮明であるほど、また指静脈パターンの再現性が良いほど(撮影毎のパターンの相違が小さいほど)、他人のパターンと識別し易くなり、また本人のパターンとして同定し易くなる。即ち、これらを改善することで、生体認証の性能を示す指標である認証精度(他人受入れ率と本人拒否率)を向上させることができる。
【0005】
指静脈認証において前記パターンの鮮明度と再現性を改善する先行技術としては、下記の特許文献1及び特許文献2がある。
特許文献1には、指の位置が特定の位置に自然に誘導され、撮影画像に対して、位置合わせや回転補正を行う必要がなく安定した照合ができると共に、指の圧迫等による血管パターンの欠落のない認証の精度を向上できる指静脈認証装置とその指置きガイドが開示されている。
特許文献2には、不正テンプレートと呼ばれる不適切な撮影条件で撮影したパターン情報の特徴点情報をあらかじめ保持しておき、これから登録あるいは認証しようとするテンプレートに対し、前もって不正テンプレートと照合させ、類似度が高い場合は不適切なテンプレートとみなして登録または認証させないようにし、さらに使用者に問題解決のためのガイダンスメッセージを表示する生体情報認証装置及び認証方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−128936号公報
【特許文献2】特開2007−272501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、指静脈認証においてはテンプレートに反映される血管パターンの鮮明度と再現性が良いことが重要であるが、それらを悪化させる要因として次のケースが挙げられる。
1つは、利用者の指の置き方に関する要因である。例えば、指を認証装置に置くとき、強く押付けた場合、血管が圧迫され血管パターンが一部欠落したテンプレートとなる。また、力を入れて過度に伸ばした状態(指を反らした状態)の場合、表皮の緊張によって血管が圧迫され同様に血管パターンが一部欠落したテンプレートとなる。
もう1つは、利用環境に関する要因である。例えば、認証装置全体を照らす外光が変化すると、撮像される画像の明るさやコントラストが変化する。太陽光や照明光にも、近赤外域の光が含まれており、光が回り込んで血管パターンの撮像のされ方に影響を与える。また、冬場の寒さが厳しい時期の屋外など気温・湿度が低い環境で、特に女性やお年寄りで血管の収縮による血流の悪化や乾燥による手荒れの影響で、血管パターンが一部欠落したテンプレートとなる。
【0008】
このようなケースで作成されたテンプレートは、登録した当初は一見問題なく認証できるように見える。なぜなら、短時間では前記要因はほとんど変化しないからである。例えば、指の押付けで同程度の力の入れ具合であれば作成されるテンプレートは登録時と同程度に血管パターンが一部欠落したものとなるため、パターンマッチングによる認証では一致とみなされる。しかし、時間を経ることで前記要因が徐々に変化し、将来的にある時を境として認証し難くなる(認証が失敗する頻度が増加する)可能性が高い。例えば、指の置き方に慣れてくるに従い、指の力の入れ具合が変化すると、テンプレートに反映される血管パターンの欠落度合いが登録時と差異が生じる。
ところが、ほとんどケースで利用者は前記要因に対し無自覚であるため、なぜ認証し難くなったのか原因を特定し、自己解決することは大変困難である。また、原因の特定を難しくしている要因として、利用者が実際に撮像された血管パターンを確認することができないことも挙げられる。これは、指静脈認証はパターンマッチングによる認証であり、パターンマッチングはパターン形状そのものが認証のキーとなるため、利用者に開示してしまうと、秘匿性が著しく低下してしまう。そのため、血管パターンを画面上に表示することはできないためである。また、これは利用者だけでなくシステムインテグレータにも当てはまる。
生体認証装置は単独で使用されることは少なく、大抵の場合、システムインテグレータによって他の業務システム等と連携して使用される。しかし、血管パターン画像は認証装置ベンダの極めて重要な機密情報であるため、システムインテグレータに開示されないケースが多い。従って、最終的に原因追求は認証装置ベンダが担当することになり、それに対応するための時間と保守要員の人件費は膨大なものとなる。
従って、このようになることを回避するには、前記の血管パターンの鮮明度と再現性を悪化させるようなケースでテンプレートが登録されないようにする手段と、登録後も利用者自身が使用しているテンプレートがどの程度の鮮明度と再現性なのか確認する手段と、その結果を受け自己解決できるように誘導する手段が必要である。
【0009】
本発明は、以上の問題点を鑑みてなされたものであり、指静脈認証において認証に用いるテンプレートに反映される血管パターンの鮮明度と再現性の向上を実現する指静脈認証システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る認証システムは、人間の指の静脈パターンに関する生体情報を用いて本人確認を行う指静脈認証システムであって、
本人確認を行うために記憶手段に登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定し、判定結果を表示すると共に、判定結果に応じて再登録操作を促す処理を行う確認手段を備えることを特徴とする。
また、前記確認手段は、記憶手段に記憶した登録済みの指静脈パターンデータと撮影手段により撮影した指静脈パターンデータとの相違度と、指静脈パターンデータの鮮明度とをチェックし、これら相違度と鮮明度のデータの組合せに基づき、新規登録する指静脈パターンデータ及び登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定することを特徴とする。
また、前記指静脈パターンの相違度による判定は、同一指同士の指静脈パターンを照合した際の相違度頻度分布から決定した閾値より、相違度を4段階に分けて判定することを特徴とする。
また、前記静脈パターンの鮮明度による判定は、指静脈パターン画像を2値化し、さらに細線化した画像から特徴点を抽出し、特徴点をもとに抽出した静脈線の長さの頻度分布から算出した静脈パターンの鮮明度を4段階に分けて判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る認証システムによれば、指静脈パターンの鮮明度と再現性を悪化させるようなケースでテンプレートが登録されないようにすること、登録後も利用者自身が使用しているテンプレートがどの程度の鮮明度と再現性なのか確認し、その結果を受け自己解決できるように誘導することにより、認証に用いるテンプレートに反映される指静脈パターンの鮮明度と再現性を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の指静脈認証システムに用いる指静脈認証装置の構造を説明する断面図である。
指静脈認証装置は、大まかに光源部104と撮像部105から構成される。
光源部104は撮像部105へ近赤外光を照射するように設置される。また、光源部104と撮像部105の間には撮像窓106として近赤外光のみ透過するフィルタが設置される。光源部104と撮像窓106の間の空間に指103を挿入することで、光源部104から照射された近赤外光が指を透過し、撮像窓106を通してそれを撮像部105で撮影することによって、撮像部105にて指静脈の血管パターン画像が得られる。
なお、光源部104の設置方式として、近赤外光を指103の両側面から照射するように設置する横入射方式101と、指103の上面から照射するように設置する上入射方式102がある。どちらの方式においても、本発明を同様に適用することが可能である。
【0013】
図2は、本発明に関わる指静脈認証システムの実施の形態を示すシステム構成ブロック図である。
指静脈認証装置220は、指に近赤外光を照射し静脈を撮像するカメラモジュール221とカメラモジュールを制御し、撮像した指静脈の血管パターン画像をPC220に送信するMPU222から構成され、その構造は図1に示したものである。
PC(パーソナルコンピュータ)210は、指静脈による生体認証機能を提供するソフトウェアを実行するCPU211と、ソフトウェアのデータやプログラムを一時的に読み込み、CPU211とやり取りするためのメモリ212と、ソフトウェアのデータを長期的に保存するためのHDD(ハードディスク)213と、指静脈認証装置220から指静脈の血管パターン画像を受信するためのI/Oインタフェース214から構成される。
【0014】
図3は、本発明に関わる指静脈認証システムのソフトウェアとその機能の構成を示すブロック図である。
生体認証を利用したソフトウェアの応用例は多々存在するが、本発明の実施例として、あるシステムへログインするために指静脈認証を利用するソフトウェアを例に説明する。
前記ソフトウェアは、登録ソフトウェア310と認証ソフトウェア320から構成される。
登録ソフトウェア310は、ユーザ情報の登録手段311、ユーザ情報の編集手段312、認証の確認手段313から構成される。
ユーザ情報の登録手段311は、指静脈認証によりシステムにログインするための指静脈パターンを登録する機能である。指静脈認証装置220から指静脈パターンを取得し、特徴抽出処理を施し登録用のテンプレートを作成する。また、利用者が入力した指静脈認証によるログイン対象のシステムのログイン情報(ユーザID及びパスワード等)と前記登録用のテンプレートを関連付け、ユーザ情報としてHDD213に保存する。
ユーザ情報の編集手段312は、ユーザ情報の登録機能311により登録されたユーザ情報の変更・削除を行うものである。例えば、登録済テンプレートの再取得、対象システムのログイン情報の変更、特定のユーザ情報の削除がある。
【0015】
認証の確認手段313は、本発明の中核をなす機能であり、登録した指静脈パターンが指静脈認証に適しているかどうかを確認する機能である。後述する認証手段321との違いは、ここでは指静脈パターンが指静脈認証に適しているかどうかを確認するのみで指静脈認証に適しているという判定結果であっても対象システムへのログインは行わないことである。その代り、テンプレートの適正度を判定し、その判定結果を画面表示し、登録した指指静脈パターンが指静脈認証にどの程度適しているか利用者に通知する。
また、認証の確認手段313は、ユーザ情報の登録手段311の終了直後に続けて実行され、判定結果が良くなければ、再登録を促すよう利用者に通知し、ユーザ情報の編集手段312へ誘導する。これが本実施形態の第1の特徴点である。
【0016】
認証ソフトウェア320は、認証手段321、対象システムへのログイン手段322、認証の確認手段323から構成される。
認証手段321は、指静脈認証により本人確認を行う機能である。指静脈認証装置220により認証する指の指静脈パターンを取得し、特徴抽出処理を施して照合用のテンプレートを作成する。そして、ユーザ情報の登録機能311でHDD213に保存したユーザ情報から登録済テンプレートを取得し、前記照合用テンプレートと照合を行い、本人の指と一致するかどうか判定する。また、一致した場合は、対象システムへのログイン手段323にその旨を通知する。なお、ここで言う「一致」とは照合用テンプレートと登録済テンプレートの指静脈パターンの相違度が予め設定した許容範囲におさまっている場合を意味する。
対象システムへのログイン手段322は、認証が成功した際に、対象システムにログインする機能である。認証手段321より認証成功の通知を受けると、前記ユーザ情報の登録機能311によりHDD213に保存されたユーザ情報から、認証が成功した登録済テンプレートと関連付けられた対象システムのログイン情報を取得し、それを用いて対象システムへログインを行う。
【0017】
認証の確認手段323は、登録ソフトウェア310における認証の確認手段313と処理内容は同じである。登録ソフトウェア310における認証の確認手段313との違いは、登録ソフトウェア310では、ユーザ情報の登録手段311と組み合わせて使用されるが、ここでは単独で利用者により使用される。その用途はHDD213に既に保存された指静脈パターンがどの程度指静脈認証に適しているか確認することであり、判定結果が良くなければ、再登録を促すよう利用者に通知し、ユーザ情報の編集手段312へ誘導する。この機能が本実施形態の第2の特徴点である。
すなわち、本実施形態におけるシステムは、登録ソフトウェア310における登録手順311の終了直後に、認証の確認手段313を起動し、新規に登録した指静脈パターン(テンプレート)が適切であるかを確認し、また認証ソフトウェア320における認証の確認手段323を起動し、HDD213への指静脈パターンの登録後に、その登録済みの(登録済みテンプレート)が同一利用者の同一指の指静脈認証にどの程度適しているかを確認し、確認の結果が適切でない場合はその旨を利用者に通知し、再登録を促すよう誘導することが特徴である。
【0018】
以下、認証の確認手段313の詳細について、図4のフロー図を用いて説明する。
最初に、指静脈認証装置220により認証する指の指静脈の撮影を行う(ステップ401)。
次に、撮影した指静脈画像より、照合用テンプレートを作成する(ステップ402)。
次に、HDD213よりユーザ情報の登録手段311で登録したユーザ情報からこれから認証しようとする指の登録済テンプレートを読み込む(ステップ403)。
次に、ステップ402で作成した照合用テンプレートとステップ403で取得した登録済テンプレートとを照合し、相違度をチェックする(ステップ404)。
ここで、相違度とは、照合した照合用テンプレートと登録済テンプレートにどの程度の相違があるかを示す値であり、値が小さいほどより一致していることを示す。
【0019】
認証手段321であれば、ここまでで得た相違度により、予め設定された相違度の閾値を下回るか否かで、認証成功(一致)か、認証失敗(不一致)かを判定して終了であるが、認証の確認手段313では、次に、ステップ402で作成した照合用テンプレートとステップ403で取得した登録済テンプレートとステップ404で取得した相違度をもとに、テンプレートの適正度の判定を行う(ステップ405)。
判定結果は4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)で取得される。テンプレートの適正度判定の詳細は後述する。
最後に、認証の確認結果として、ステップ405で取得したテンプレートの適正度判定に応じた内容を画面に表示する。
【0020】
図5は、認証の確認手段313の結果を表示する画面の一例である。
画面は、判定結果のシンボルの表示部(511、521、531、541)と、判定結果に応じたメッセージの表示部(512、522、532、542)と、判定結果に応じて利用者が操作するボタン(513、523、533、534、543)から構成される。
判定結果が◎または○の場合は、利用者が現在使用している指は指静脈認証に適しているため、その旨をメッセージ表示し、認証の確認を終了するボタン(513,523)のみ表示する。
また、判定結果が△の場合、利用者が現在使用している指は指静脈認証に適していない可能性があるため、再度認証の確認機能を実行し、それでも判定が変わらない場合は他の指で再登録することを推奨する旨をメッセージ表示する。そのため、ボタンは指を再登録する画面(図3のユーザ情報の登録手段311を呼び出しても良いし、別途の登録画面でも良い)に誘導するボタン533と、とりあえず再登録しないで戻るためのボタン534の2つを表示する。
また、判定結果が×の場合、利用者が現在使用している指は指静脈認証に適していないため、別の指で再登録することが必須である旨をメッセージ表示し、必ず再登録がなされるように指を再登録する画面に誘導するためのボタン543のみ表示する。
【0021】
テンプレートの適正度判定の詳細について、図6のフローチャートを用いて説明する。
テンプレートの適正度は、2種類の異なる見地からの判定を統合して判定する。
最初に、静脈パターンの相違度(再現性)による判定を行う(ステップ701)。
図4のステップ404で得られた相違度を入力し、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)の判定結果を得る。静脈パターンの相違度による判定の詳細は後述する。
次に、静脈パターンの鮮明度による判定を行う(ステップ702)。図4のステップ402,403で取得した照合用テンプレート及び登録済テンプレートを入力し、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)の判定結果を得る。静脈パターンの鮮明度による判定の詳細は後述する。
最後に、上記2種類の判定結果から、図14の表に基づいてテンプレート適正度の最終判定の結果を決定する(ステップ703)。最終判定の結果は、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)である。
【0022】
静脈パターンの相違度による判定の詳細について、図7を用いて説明する。
図7は同一指同士の照合により得られた相違度の頻度分布を表すグラフである。横軸は照合用テンプレートと登録済テンプレートを照合して得られる相違度であり、縦軸はその相違度が出現する頻度である。
認証の閾値は、目標とする認証精度を評価するに足りる数のサンプルデータから得た頻度分布から算出される認証精度(本人拒否率)が目標を満たすように決定される。
認証の判定では、相違度が認証の閾値より小さい場合は一致(認証成功)、大きい場合は不一致(認証失敗)の2つに1つの判定であるが、静脈パターンの相違度による判定では、3つの閾値A〜Cにより、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)で判定する。なお、閾値A、Bは本発明の適用先システムごとにサンプルデータを用いた実験により決定する。閾値Cは認証の閾値と同値とする。
【0023】
静脈パターンの鮮明度による判定の詳細について、図8のフロー図を用いて説明する。
最初に、テンプレートは符号化されているため、静脈パターン画像の形式に復元する(ステップ801)。
次に、静脈パターン画像を2値化する(ステップ802)。図9に、静脈が鮮明なテンプレートの静脈パターン画像を2値化した例901と、静脈が不鮮明なテンプレートの静脈パターン画像を2値化した例902を示す。ここで、白は静脈が有る領域を黒は静脈が無い領域を表す。静脈が鮮明なテンプレートでは白領域がつながった画像となるのに対し、不鮮明なテンプレートでは白領域の一部が擦れ欠落し粒状に散らばった画像となる。
次に、2値化した静脈パターン画像を細線化し、白領域を幅1ドットの線に変換する(ステップ803)。
図10に、静脈が鮮明なテンプレートの2値化画像を細線化した例1001と、静脈が不鮮明なテンプレートの2値化画像を細線化した例1002を示す。静脈が鮮明なテンプレートでは白領域が長く連続した線が結合された画像となるのに対し、静脈が不鮮明なテンプレートでは白領域が細かく分断された短い線が散在した画像となる。
【0024】
次に、細線化した画像から特徴点(端点、分岐点、交叉点)を抽出する(ステップ804)。
図11に、静脈が鮮明なテンプレートの細線化画像から特徴点を抽出した例を示す。
次に、抽出した特徴点をもとに静脈線を抽出する(ステップ805)。静脈線の抽出は、各特徴点の間にある点列を追跡することで行う。
次に、抽出した全ての静脈線から長さ(ドット数)の頻度分布を集計する(ステップ806)。
【0025】
図12に静脈が鮮明なテンプレートの静脈長の頻度分布の例1201と、静脈が不鮮明なテンプレートの静脈線長の頻度分布の例1202を示す。グラフの横軸は静脈線長であり、縦軸は静脈線長の出現頻度である。静脈が鮮明なテンプレートの分布に比べ、静脈が不鮮明なテンプレートの分布では、静脈線長の短い方に頻度が集中した急勾配な分布となる。
最後に、静脈線長の頻度分布より静脈の鮮明度の値を算出し(ステップ807)、その値をもとに、3つの閾値A〜Cにより、4段階(良い←{◎,○,△,×}→悪い)で判定する(ステップ808)。
図13に、静脈の鮮明度を算出する計算式1301と算出した値から判定結果を決定する表1202を示す。静脈の鮮明度は、長い静脈線が数多くあるほど、より大きな値となる。
なお、閾値A〜Cは本発明の適用先システムごとにサンプルデータを用いた実験により決定する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に用いる指静脈認証装置の構造を示す断面図である。
【図2】本発明に係る指静脈認証システムの実施の形態を示すシステム構成ブロック図である。
【図3】本発明に係る指静脈認証システムのソフトウェアとその機能の構成を示すブロック図である。
【図4】認証の確認手段の処理を示すフローチャートである。
【図5】認証の確認の判定結果を表示する画面の一例を示す図である。
【図6】テンプレートの適正度判定処理を示すフローチャートである。
【図7】同一指同士の照合による相違度の頻度分布と相違度によるテンプレート適正度の判定方法を示す図である。
【図8】静脈パターンの鮮明度によるテンプレートの適正度判定処理を示すフローチャートである。
【図9】テンプレートから復元した静脈パターン画像を2値化した画像の例を示す図である。
【図10】2値化した静脈パターン画像を細線化した画像の例を示す図である。
【図11】細線化した静脈パターン画像から特徴点を抽出した例を示す図である。
【図12】静脈線長の頻度分布を集計した例を示す図である。
【図13】静脈パターンの鮮明度を算出する式とその結果からテンプレート適正度の判定方法を示す図である。
【図14】最終的なテンプレート適正度の判定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
101 横入射方式の指静脈認証装置
102 上入射方式の指静脈認証装置
103 指
104 光源部
105 撮像部
210 PC
211 CPU
212 メモリ
213 HDD
214 I/Oインタフェース
220 指静脈認証装置
221 カメラモジュール
222 MPU
510 認証の確認画面(判定:◎)
511 判定結果表示(判定:◎)
512 メッセージ表示(判定:◎)
513 終了ボタン
520 認証の確認画面(判定:○)
521 判定結果表示(判定:○)
522 メッセージ表示(判定:○)
523 終了ボタン
530 認証の確認画面(判定:△)
531 判定結果表示(判定:△)
532 メッセージ表示(判定:△)
533 再登録ボタン
534 終了ボタン
540 認証の確認画面(判定:×)
541 判定結果表示(判定:×)
542 メッセージ表示(判定:×)
543 再登録ボタン
701 同一指同士の照合による相違度の頻度分布曲線
901 2値化した静脈パターン画像(静脈が鮮明な例)
902 2値化した静脈パターン画像(静脈が不鮮明な例)
1001 細線化した静脈パターン画像(静脈が鮮明な例)
1002 細線化した静脈パターン画像(静脈が不鮮明な例)
1201 静脈線長の頻度分布(静脈が鮮明な例)
1202 静脈線長の頻度分布(静脈が不鮮明な例)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の指の静脈パターンに関する生体情報を用いて本人確認を行う指静脈認証システムであって、
本人確認を行うために記憶手段に登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定し、判定結果を表示すると共に、判定結果に応じて再登録操作を促す処理を行う確認手段を備えることを特徴とする指静脈認証システム。
【請求項2】
前記確認手段は、記憶手段に記憶した登録済みの指静脈パターンデータと撮影手段により撮影した指静脈パターンデータとの相違度と、指静脈パターンデータの鮮明度とをチェックし、これら相違度と鮮明度のデータの組合せに基づき、新規登録する指静脈パターンデータ及び登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定することを特徴とする請求項1に記載の指静脈認証システム。
【請求項3】
前記指静脈パターンの相違度による判定は、同一指同士の指静脈パターンを照合した際の相違度頻度分布から決定した閾値より、相違度を4段階に分けて判定することを特徴とする請求項2に記載の指静脈認証システム。
【請求項4】
前記静脈パターンの鮮明度による判定は、指静脈パターン画像を2値化し、さらに細線化した画像から特徴点を抽出し、特徴点をもとに抽出した静脈線の長さの頻度分布から算出した静脈パターンの鮮明度を4段階に分けて判定することを特徴とする請求項2に記載の指静脈認証システム。
【請求項1】
人間の指の静脈パターンに関する生体情報を用いて本人確認を行う指静脈認証システムであって、
本人確認を行うために記憶手段に登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定し、判定結果を表示すると共に、判定結果に応じて再登録操作を促す処理を行う確認手段を備えることを特徴とする指静脈認証システム。
【請求項2】
前記確認手段は、記憶手段に記憶した登録済みの指静脈パターンデータと撮影手段により撮影した指静脈パターンデータとの相違度と、指静脈パターンデータの鮮明度とをチェックし、これら相違度と鮮明度のデータの組合せに基づき、新規登録する指静脈パターンデータ及び登録済みの指静脈パターンデータが適正であるかどうかを判定することを特徴とする請求項1に記載の指静脈認証システム。
【請求項3】
前記指静脈パターンの相違度による判定は、同一指同士の指静脈パターンを照合した際の相違度頻度分布から決定した閾値より、相違度を4段階に分けて判定することを特徴とする請求項2に記載の指静脈認証システム。
【請求項4】
前記静脈パターンの鮮明度による判定は、指静脈パターン画像を2値化し、さらに細線化した画像から特徴点を抽出し、特徴点をもとに抽出した静脈線の長さの頻度分布から算出した静脈パターンの鮮明度を4段階に分けて判定することを特徴とする請求項2に記載の指静脈認証システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−79448(P2010−79448A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244874(P2008−244874)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】
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