説明

振動アクチュエータ、レンズ鏡筒及びカメラ

【課題】簡単な構造で温度上昇を低減可能な振動アクチュエータを提供する。
【解決手段】本発明の振動アクチュエータは、電気機械変換素子(12)の励振により振動波を生じる振動子(11)と、前記振動子(11)に加圧接触されて前記振動波によって駆動され、前記振動子(11)に対して相対移動する移動子(15)と、前記移動子(15)の相対移動に連動して送風を行う送風手段(30)と、を備えること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動アクチュエータ、レンズ鏡筒及びカメラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動子の振動により、その振動子に加圧接触された移動子を回転駆動する振動アクチュエータがある。このような振動アクチュエータにおいては、移動子と振動子との間の摩擦により熱が発生し、振動アクチュエータの駆動に悪影響を与える可能性がある。このため、従来、移動子の外周に複数のフィンを一体形成し、移動子の回転とともに風を発生し、移動子及び振動子に送風を行う振動アクチュエータがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−65673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術は、移動子自体を加工するので、構造が複雑になり製造コストがかかる。
【0005】
本発明の課題は、簡単な構造で温度上昇を低減可能な振動アクチュエータ、並びにそれを備えるレンズ鏡筒及びカメラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0007】
請求項1に記載の発明は、電気機械変換素子(12)の励振により振動波を生じる振動子(11)と、前記振動子(11)に加圧接触されて前記振動波によって駆動され、前記振動子(11)に対して相対移動する移動子(15)と、前記移動子(15)の相対移動に連動して送風を行う送風手段(30)と、を備えること、を特徴とする振動アクチュエータ(10)である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の振動アクチュエータ(10)であって、前記送風手段(30)は、前記移動子(15)に対して前記振動子(11)と接触する側と反対側に設けられていること、を特徴とする振動アクチュエータ(10)である。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の振動アクチュエータ(10)であって、該振動アクチュエータ(10)における前記送風手段(30)によって風が当たる部分に熱放射塗料が塗布されていること、を特徴とする振動アクチュエータ(10)である。
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)であって、前記送風手段(30)に、熱放射性塗料が塗布されていること、を特徴とする振動アクチュエータ(10)である。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)を備えること、を特徴とするレンズ鏡筒(3)である。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)を備えること、を特徴とするカメラ(1)である。
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡単な構造で温度上昇を低減可能な振動アクチュエータ、並びにそれを備えるレンズ鏡筒及びカメラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態のカメラを説明する図である。
【図2】超音波モータの断面図である。
【図3】送風部材の斜視図である。
【図4】超音波モータの駆動装置を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、一実施形態のカメラ1を説明する図である。
カメラ1は、撮像素子を有するカメラボディ2と、レンズ7を有するレンズ鏡筒3とを備えている。レンズ鏡筒3は、カメラボディ2に着脱可能な交換レンズである。なお、本実施形態では、レンズ鏡筒3は、交換レンズである例を示したが、これに限らず、例えば、カメラボディと一体型のレンズ鏡筒であってもよい。
【0011】
レンズ鏡筒3は、レンズ7、カム筒6、ギア4,5、超音波モータ10等を備えている。本実施形態では、超音波モータ10は、カメラ1のフォーカス動作時にレンズ7を駆動する駆動源として用いられており、超音波モータ10から得られた駆動力は、ギア4,5を介してカム筒6に伝えられる。レンズ7は、カム筒6に保持されており、超音波モータ10の駆動力により、光軸方向(図1中に示す、矢印O方向)に略平行に移動して、焦点調節を行うフォーカスレンズである。
【0012】
図1において、レンズ鏡筒3内に設けられた不図示のレンズ群(レンズ7を含む)によって、撮像素子8の撮像面に被写体像が結像される。撮像素子8によって、結像された被写体像が電気信号に変換され、その信号をA/D変換することによって、画像データが得られる。
【0013】
図2は超音波モータ10の断面図である。超音波モータ10は、振動子11に振動を発生させて振動エネルギーを生じさせ、この振動エネルギーを出力として取り出し、駆動力を得る装置である。
超音波モータ10は、圧電素子12と弾性体13とを有する振動子11と、弾性体13の駆動面に加圧接触される移動子15とを備え、本実施形態では、振動子11側を固定とし、移動子15を駆動するようになっている,
【0014】
振動子11は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する電気−機械変換素子である圧電素子12と、圧電素子12を接合した弾性体13とを備え、振動子11には、圧電素子12の励振により進行性振動波(以下、「進行波」という)が発生する。なお、本実施形態では、電気−機械変換素子として圧電素子を用いるが、電歪素子などを用いてもよい。
【0015】
弾性体13は、圧電素子12と接触して設けられ、圧電素子12の駆動により振動する部材であって、共振先鋭度が大きな金属材料から構成された円環形状の部材である。圧電素子12が接合される反対面には、溝が切られた櫛歯部13bがあり、櫛歯部13bの先端面(溝がない面)が駆動面となり、移動子15に加圧接触される。溝を切る理由は、進行波の中立面をできる限り、圧電素子12側に近づけ、これにより、駆動面の進行波の振幅を増幅させるためである。
【0016】
溝が切られていないベース部13aには、溝側とは反対面に圧電素子12が接合されている。この弾性体13は、その駆動面にNiP等の表面処理がなされている。この弾性体13は、ベース部13aの内周側にフランジ部13cが設けられ、その部分を用いて固定部材16(16a,16b)に固定されている.フランジ部13cは、ベース部13aの、厚さの中央に位置している。
【0017】
圧電素子12は、円周方向に沿って2つの相(A相、B相)に対応する部分に分かれており、各相に対応する部分においては、1/2波長毎に分極が交互となった要素が並べられていて、A相に対応する部分とB相に対応する部分との間には、1/4波長分間隔が空くようにしてある。圧電素子12は、各相の電極にFPC(フレキシブルプリント基板)14が接続されており、圧電素子12を励振させるための駆動信号が入力される。
【0018】
移動子15は、振動子11の圧電素子12が設けられている部分とは異なる部分に接触して設けられ、弾性体13の振動により、振動子11に対して相対移動をする部材であり、アルミニウムなどの軽金属から構成され、摺動面の表面には、耐摩耗性向上のためのアルマイトの表面処理が施されている。
【0019】
軸部材18は、弾性部材17を介して移動子15に結合されており、移動子15と一体に回転する。軸部材18と移動子15との間の弾性部材17は、ゴムによる粘着性で移動子15と軸部材18を結合する機能と、移動子15からの振動を軸部材18へ伝えないための振動吸収機能とが求められており、ブチルゴムなどが好適である。
【0020】
加圧部材19は、コイルバネなどであり、軸部材18に固定されたギア4とベアリング受け部材21との間に設けられている。ギア4は、軸部材18のDカットに嵌まるように挿入され、Eクリップなどのストッパ22で固定され、回転方向及び軸方向に軸部材18と一体になるようにされている。また、ベアリング受け部材21は、ベアリング23の内径側に挿入され、ベアリング23は、固定部材16aの内径側に挿入された構造となっている。このような構造により、移動子15が振動子11の駆動面に加圧接触するようになっている。
【0021】
本実施形態の超音波モータ10における移動子15の外周には、送風部材30が嵌め込まれている。図3は送風部材30の斜視図である。送風部材30は、移動子15の外周に嵌め込まれる円環部31と、円環部の外径側に設けられたプロペラ部32とを有している。プロペラ部32は円環部31の外周に均等な間隔で5枚設けられている。
【0022】
個々のプロペラ部32は、回転時における空気抵抗が少ないように、回転方向Cに沿った断面で先端側が薄く、後端側が厚くなっている。また、回転時においてプロペラ部32によって生じた風は移動子15と弾性体13(振動子11)との接触部側に送風される形状となっている。
【0023】
送風部材30の表面には、放熱効率の高い塗料、例えば黒ラッカーや白ペイントなどの塗料が塗布されている。さらに、移動子15と弾性体13とにおける、送風部材30により発生された風が当たる部分(移動子15と弾性体13との接触部を含む部分)にも、放熱効率の高い塗料、例えば黒ラッカーや白ペイントなどの塗料が塗布されている。
【0024】
図4は、超音波モータ10の駆動装置100を説明するブロック図である。超音波モータ10の駆動装置100は、発振部101と、制御部102と、移相部103と、増幅部104,105と、検出部106とを有する。
発振部101は、制御部102の指令により所望の周波数の駆動信号を発生する部分である。
移相部103は、発振部101で発生した駆動信号を、90°位相の異なる2つの駆動信号に分ける部分である。
増幅部104,105は、移相部103によって分けられた2つの駆動信号を、それぞれ所望の電圧に昇圧する部分である。増幅部104,105からの駆動信号は、超音波モータ10に伝達され、この駆動信号の印加により振動子11に進行波が発生し、移動子15が駆動される。
【0025】
検出部106は、光学式エンコーダや磁気エンコーダ等により構成され、移動子15の駆動によって駆動されたレンズ7の位置や速度を検出する部分である。本実施形態では、カム筒6の位置や速度を検出することにより、レンズ7の位置や速度を検出している。
【0026】
制御部102は、カメラボディ2に設けられた不図示のCPUからの駆動指令を基に、超音波モータ10の駆動を制御する部分である。制御部102は、検出部106からの検出信号を受け、その値を基に、位置情報と速度情報を得て、目標位置に位置決めされるように発振部101が発生する駆動信号の駆動周波数を制御する。
【0027】
超音波モータ10は、以下のように駆動される。
まず、図1を参照して説明すると、制御部102に目標位置が伝達される。発振部101からは、駆動信号が発生し、その信号から、移相部103により90°位相の異なる2つの駆動信号が生成され、増幅部104,105により所望の電圧に増幅される。
【0028】
次に、図2を参照して説明すると、駆動信号は、超音波モータ10の圧電素子12に印加され、圧電素子12が励振され、その励振によって、弾性体13には、4次の曲げ振動が発生する。圧電素子12は、A相とB相とに分けられており、駆動信号は、それぞれA相とB相とに印加される。A相から発生する4次曲げ振動とB相から発生する4次曲げ振動とは、位置的な位相が1/4波長ずれるようになっており、また、A相駆動信号とB相駆動信号とは、90°位相がずれているため、2つの曲げ振動は、合成され、4波の進行波となる。
【0029】
進行波の波頭には、楕円運動が生じ、弾性体13の駆動面に加圧接触された移動子15は、この楕円運動によって摩擦駆動される。
移動子15は摩擦駆動により、振動子11に対して回転を開始する。移動子15の回転は弾性部材17を介して軸部材18に伝達され、軸部材18が回転するとギア4も回転する。
さらに、図1を参照すると、ギア4の回転はギア5に伝達されてカム筒6が回転され、レンズ群7が移動される。
【0030】
再び図4に戻り、光学式エンコーダ等の検出部106は、移動子15の駆動により駆動されたカム筒6の位置や速度を検出し、電気パルスとして、制御部102に伝達される。制御部102は、この信号を基に、レンズ7の現在の位置と現在の速度とを得ることが可能となり、発振部101が発生する駆動周波数は、これらの位置情報、速度情報及び目標位置情報を基に制御される。
【0031】
ここで、圧電素子12により、弾性体13が励振されると弾性体13は弾性変形して熱を発生する。また、移動子15は弾性体13との摩擦によって駆動されるので、移動子15及び弾性体13、特に両者の接触部には摩擦熱が発生する。従って、弾性体13及び移動子15、特に両者の接触部は超音波モータ10の駆動とともに温度が上昇してくる。
【0032】
しかし、本実施形態の場合、移動子15に送風部材30が嵌め込まれている。この送風部材30は、移動子15の回転とともに回転し、移動子15と弾性体13との接触部を含む部分に送風を開始する。この送風により、弾性体13及び移動子15における放熱が促進される。
【0033】
さらに、送風部材30の表面には、放熱効率の高い塗料、例えば黒ラッカーや白ペイントなどの塗料が塗布されている。そして、移動子15と弾性体13とにおける、送風部材30により発生された風が当たる部分(移動子15と弾性体13との接触部を含む部分)にも、放熱効率の高い塗料、例えば黒ラッカーや白ペイントなどの塗料が塗布されている。これにより、非駆動時における、移動子15と弾性体13との接触部及び送風部材30からの放熱も可能となり、また駆動の際も効率的に放熱することが可能になる。
【0034】
以上、本実施形態によると、以下の効果を有する。
(1)超音波モータの駆動に伴い、移動子15と弾性体13との温度(特に両者の接触部の温度)が上昇するが、移動子15の回転とともに送風部材30が回転し、移動子15と弾性体13に送風される。従って移動子15と弾性体13の放熱が促進されるので、駆動時の発熱を抑制することができる。
【0035】
(2)また、超音波モータ10の回転に伴って送風が開始される。この際、別途電源等は必要としない。従って、安価且つ簡単な構造で冷却効果を得ることができる。
(3)移動子15自体の形状を変更することなく、移動子15の外周に送風部材30を嵌め込むだけなので、既存の超音波モータにおいて過熱を低減することができる。また、移動子15の形状が変化しないので、超音波モータ10としての特性の変更も少ない。
【0036】
(4)送風部材30の表面には、放熱効率の高い塗料、例えば黒ラッカーや白ペイントなどの塗料が塗布されているので、非駆動時の放熱も可能となり、また駆動の際も効率的に放熱することが可能になる。
(5)移動子15及び弾性体13の風が当たる部分に放熱効率の高い塗料が塗布されているため、駆動時のみならず非駆動時にも放熱が可能となる。
【0037】
(変形形態)
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)本実施形態では、プロペラ部32の数が5の場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、4以下でもよく、また6以上でも良い。また、送風部材30の回転駆動など駆動方向は問わない。また、送風機構はプロペラ部を有する構造に限定されるものではない。
【0038】
(2)本実施形態では、送風部材30を1つ備える形態について説明したが、これに限定されず、例えば移動子15と弾性体13との接触部分を挟むようにして2つ設けても良い。この場合、一つの送風部材30は移動子15及び弾性体13の接触部への送風を行い、もう一つの送風部材30は、その空気の流れを促進するように、移動子15と弾性体13との接触部分の空気を送り出すように配置することもできる。
なお、実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0039】
1:カメラ、3:レンズ鏡筒、10:超音波モータ、11:振動子、15:移動子、30:送風部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械変換素子の励振により振動波を生じる振動子と、
前記振動子に加圧接触されて前記振動波によって駆動され、前記振動子に対して相対移動する移動子と、
前記移動子の相対移動に連動して送風を行う送風手段と、
を備えること、を特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の振動アクチュエータであって、
前記送風手段は、前記移動子に対して前記振動子と接触する側と反対側に設けられていること、
を特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動アクチュエータであって、
該振動アクチュエータにおける前記送風手段によって風が当たる部分に熱放射塗料が塗布されていること、
を特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータであって、
前記送風手段に、熱放射性塗料が塗布されていること、
を特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動アクチュエータを備えること、
を特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動アクチュエータを備えること、
を特徴とするカメラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−109787(P2011−109787A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261475(P2009−261475)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】