説明

振動デバイス、振動デバイスの製造方法及び電子機器

【課題】設定時と実使用時との抵抗値のずれによるサーミスターの温度検出精度の悪化を回避し、温度補償回路による良好な周波数温度特性を維持することが可能な振動デバイス、及びこの振動デバイスを備えた電子機器の提供。
【解決手段】水晶振動子1は、水晶振動片10と、サーミスター20と、水晶振動片10及びサーミスター20が搭載されたパッケージ30と、を備え、サーミスター20は、予め設定されている設定抵抗値に対して製造工程における変化分が補正された補正抵抗値のものが用いられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動デバイス、振動デバイスの製造方法及びこの振動デバイスを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動デバイスとしては、底壁層と枠壁層とを有して凹状とした積層セラミックからなる容器本体と、容器本体内に収容されて底壁層の一端側に一端部両側が固着された水晶片と、水晶片とともに容器本体内に収容されたサーミスターと、を有する表面実装用の水晶振動子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記水晶振動子は、サーミスターにおける周辺温度の変化に伴う抵抗値の変化に基づいて水晶片の動作温度を検出し、温度補償機構(以下、温度補償回路という)が、周辺温度の変化に伴う水晶片(以下、振動片という)の共振周波数のずれを補正することにより、優れた周波数温度特性を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−205938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者らの実験によれば、上記サーミスターは、例えば、サーミスターを収容(収納)する容器本体内への実装時のリフロー炉を用いたハンダ接合処理や、同じく実装時の導電性接着剤の加熱硬化処理などの加熱処理により、常温抵抗値が加熱処理前の値に対して変化(シフト)することが判明した(具体的には、常温抵抗値が増加する傾向にある)。
この原因は、サーミスターの導電組成物中に含まれている低分子化合物(例えば、ワックス類)の加熱による部分的な酸化によるものと考えられている。
【0005】
これにより、上記水晶振動子(以下、振動デバイスという)は、サーミスターの温度検出の基準となる常温抵抗値において、設定時の値と実使用時の値とにずれが生じることとなる。
この結果、上記振動デバイスは、サーミスターの温度検出精度が悪化し、サーミスターにおける周辺温度の変化に伴う抵抗値の変化に基づいて行われる温度補償回路による振動片の共振周波数の補正に不具合を生じ、周波数温度特性が劣化する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例にかかる振動デバイスは、振動片と、サーミスターと、前記振動片及び前記サーミスターが搭載された容器と、を備え、前記サーミスターの抵抗値の温度特性は、あらかじめ設定されている設定抵抗値の温度特性となるように製造工程における抵抗値の温度特性の変化分が補正されていることを特徴とする。
【0008】
これによれば、振動デバイスは、サーミスターの抵抗値の温度特性が、あらかじめ設定されている設定抵抗値の温度特性となるように製造工程における抵抗値の温度特性の変化分が補正されている。
これにより、振動デバイスは、サーミスターの実使用時の抵抗値(常温抵抗値)の温度特性が製造工程における変化分が反映された、本来の設定抵抗値の温度特性と同一または近似した値となっていることから、従来のような、設定時と実使用時との抵抗値の温度特性のずれによるサーミスターの温度検出精度の悪化を回避し、温度補償回路による優れた周波数温度特性を維持することができる。
【0009】
なお、本発明における常温とは、特に但し書きがない場合、日本工業規格(JIS Z 8703)に規定されている20℃±15℃(5℃〜35℃)の範囲を含む標準的な温度(特に冷やしたり、熱したりしない温度)のことをいう。
【0010】
[適用例2]上記適用例にかかる振動デバイスにおいて、前記振動片及び前記サーミスターは、前記容器の同一収納部内に収納されていることが好ましい。
【0011】
これによれば、振動デバイスは、振動片及びサーミスターが容器の同一収納部内に収納されていることから、サーミスターによる振動片の周辺温度の検出を、より正確に行うことができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例にかかる振動デバイスにおいて、前記容器は、前記振動片及び前記サーミスターが搭載された容器本体と、前記容器本体に接合され、少なくとも前記振動片を覆う導電性の蓋体と、を備え、前記容器本体の外底面に前記振動片または前記サーミスターと接続された複数の電極端子が設けられ、前記電極端子の少なくとも1つは、前記蓋体と電気的に接続されていることが好ましい。
【0013】
これによれば、振動デバイスは、容器本体の外底面に振動片またはサーミスターと接続された複数の電極端子が設けられ、電極端子の少なくとも1つは、蓋体と電気的に接続されていることから、例えば、外部からのノイズや静電気に対するシールド性を向上させることができる。
【0014】
[適用例4]上記適用例にかかる振動デバイスにおいて、前記蓋体と電気的に接続されている前記電極端子は、アース端子であることが好ましい。
【0015】
これによれば、振動デバイスは、蓋体と電気的に接続されている電極端子がアース端子(GND端子と同義)であることから、電極端子が接地されることでシールド性を更に向上させることができる。
【0016】
[適用例5]上記適用例にかかる振動デバイスにおいて、一対の電極を備える前記サーミスターの一方の前記電極は、前記アース端子と電気的に接続されていることが好ましい。
【0017】
これによれば、振動デバイスは、一対の電極を備えるサーミスターの一方の電極が、アース端子と電気的に接続されていることから、周辺温度の変化に伴うサーミスターの抵抗値の変化を電圧値の変化に置き換えて出力することができる。
【0018】
[適用例6]本適用例にかかる振動デバイスの製造方法は、振動片を用意する工程と、予め設定されている設定抵抗値よりも低い抵抗値のサーミスターを用意する工程と、前記振動片及び前記サーミスターを搭載する容器を用意する工程と、前記振動片及び前記サーミスターを前記容器に搭載する工程と、前記サーミスターを加熱して前記抵抗値を前記設定抵抗値に合わせ込む工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
これによれば、振動デバイスの製造方法は、予め設定されている設定抵抗値よりも低い抵抗値のサーミスターを用意し、製造工程でサーミスターを加熱して抵抗値を設定抵抗値に合わせ込むことから、従来のような、設定時と実使用時との抵抗値のずれによるサーミスターの温度検出精度の悪化を回避し、例えば、温度補償回路による優れた周波数温度特性を維持することが可能な振動デバイスを提供することができる。
【0020】
[適用例7]本適用例にかかる電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の振動デバイスを備えたことを特徴とする。
【0021】
これによれば、本構成の電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の振動デバイスを備えたことから、上記適用例のいずれかに記載の効果を奏する電子機器を提供できる。
【0022】
[適用例8]上記適用例にかかる電子機器において、前記振動片を駆動する発振回路と、前記振動片の温度変化に伴う周波数変動を補正する温度補償回路と、を備えたことが好ましい。
【0023】
これによれば、本構成の電子機器は、振動片を駆動する発振回路と共に、振動片の温度変化に伴う周波数変動を補正する温度補償回路を備えたことから、発振回路が発振する共振周波数を温度補償することができ、温度特性に優れた電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態の水晶振動子の概略構成を示す模式図であり、(a)はリッド(蓋体)側から見た平面図、(b)は(a)のA−A線での断面図、(c)は底面側から見た平面図。
【図2】サーミスターの加熱処理を伴う各製造工程後の常温抵抗値の変化の推移を示すグラフ。
【図3】水晶振動子の主要製造工程を示すフローチャート。
【図4】(a)、(b)は、主要製造工程を説明する模式断面図。
【図5】変形例の水晶振動子の概略構成を示す模式図であり、(a)はリッド側から見た平面図、(b)は(a)のA−A線での断面図、(c)は底面側から見た平面図。
【図6】第2実施形態の携帯電話を示す模式斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
(第1実施形態)
最初に、振動デバイスの一例としての水晶振動子について説明する。
図1は、第1実施形態の水晶振動子の概略構成を示す模式図である。図1(a)は、リッド(蓋体)側から見た平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A線での断面図であり、図1(c)は、底面側から見た平面図である。なお、図1(a)では、リッドを省略してある。また、分かり易くするために、各構成要素の寸法比率は実際と異なる。
【0027】
図1に示すように、水晶振動子1は、振動片としての水晶振動片10と、温度センサー(感温素子)として機能するサーミスター20と、水晶振動片10及びサーミスター20が搭載(収納)された容器としてのパッケージ30と、を備えている。
【0028】
水晶振動片10は、例えば、水晶の原石などから所定の角度で切り出されたATカット型であって、平面形状が略矩形に形成され、厚みすべり振動を励振する振動部11と振動部11に接続された基部12とを一体で有している。
水晶振動片10は、振動部11の一方の主面13及び他方の主面14に形成された略矩形の励振電極15,16から引き出された引き出し電極15a,16aが、基部12に形成されている。
【0029】
引き出し電極15aは、一方の主面13の励振電極15から、水晶振動片10の長手方向(紙面左右方向)に沿って基部12に引き出され、基部12の側面に沿って他方の主面14に回り込み、他方の主面14の励振電極16の近傍まで延在している。
引き出し電極16aは、他方の主面14の励振電極16から、水晶振動片10の長手方向に沿って基部12に引き出され、基部12の側面に沿って一方の主面13に回り込み、一方の主面13の励振電極15の近傍まで延在している。
励振電極15,16及び引き出し電極15a,16aは、例えば、Crを下地層とし、その上にAuが積層された構成の金属被膜となっている。
【0030】
サーミスター20は、例えば、チップ型(直方体形状)の感温素子(感温抵抗素子)であって、一対の電極20a,20bを長手方向の両端に有し、温度変化に対して電気抵抗の変化の大きい抵抗体である。
サーミスター20には、例えば、温度の上昇に対して抵抗が減少するNTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスターと呼ばれるサーミスターが用いられている。NTCサーミスターは、温度の変化に対する抵抗値の変化が比例的なため、温度センサーとして多用されている。
【0031】
サーミスター20は、パッケージ30に収納され、水晶振動片10近傍の温度を検出することにより、温度センサーとして水晶振動片10の温度変化に伴う周波数変動の補正に資する機能を果たしている。
本実施形態において、サーミスター20は、予め設定されている設定抵抗値に対して、製造工程における変化分が補正された補正抵抗値のものが用いられている(詳細は後述する)。
【0032】
パッケージ30は、平面形状が略矩形で略平板状の容器本体としてのパッケージベース31と、パッケージベース31に接合され水晶振動片10及びサーミスター20を覆う平板状の蓋体としてのリッド32と、を有し、略直方体形状に構成されている。
パッケージベース31には、セラミックグリーンシートを成形して積層し焼成した酸化アルミニウム質焼結体(積層セラミックに相当)、水晶、ガラス、シリコン(高抵抗シリコン)などが用いられている。
リッド32には、パッケージベース31と同材料、または、コバール、42アロイ、ステンレス鋼などの金属が用いられている。
【0033】
パッケージベース31の一方側の主面である第1主面33には、水晶振動片10が搭載される第1凹部34が設けられ、第1凹部34の底面34aには、サーミスター20が搭載される第2凹部36が設けられている。パッケージ30は、第1凹部34及び第2凹部36により収納部39が構成されている。
これにより、水晶振動片10及びサーミスター20は、パッケージ30の同一収納部39内に収納されていることとなる。
【0034】
パッケージベース31の第1凹部34の底面34aには、水晶振動片10の引き出し電極15a,16aに対向する位置に、内部端子34b,34cが設けられている。
水晶振動片10は、金属フィラーなどの導電性物質が混合された、エポキシ系、シリコーン系、ポリイミド系などの導電性接着剤40を介して、引き出し電極15a,16aが内部端子34b,34cに接合されている。
【0035】
パッケージベース31の第2凹部36の底面36aには、サーミスター20の電極20a,20bに対向する位置に電極パッド36b,36cが設けられている。
サーミスター20は、電極20a,20bが導電性接着剤40を介して電極パッド36b,36cに接合されている。
なお、サーミスター20は、長手方向がパッケージベース31の長手方向と交差(直交)するように配置されていることが好ましい。これにより、水晶振動子1は、パッケージベース31の反り(傾向的に長手方向の反りが大きい)に起因するサーミスター20の固定強度(接合強度)の低下を抑制することができる。
【0036】
パッケージベース31の第1主面33とは反対側の主面である外底面としての第2主面35の4隅には、それぞれ電極端子37a,37b,37c,37dが設けられている。
4つの電極端子37a〜37dのうち、例えば、一方の対角に位置する2つの電極端子37b,37dは、水晶振動片10の引き出し電極15a,16aと接合される内部端子34b,34cと接続され、他方の対角に位置する残りの2つの電極端子37a,37cは、サーミスター20の電極20a,20bと接合される電極パッド36b,36cと接続されている。
なお、内部端子34b,34c、電極パッド36b,36c、電極端子37a〜37dは、例えば、W、Moなどのメタライズ層にNi、Auなどの各被膜をメッキなどにより積層した金属被膜からなる。
【0037】
水晶振動子1は、サーミスター20がパッケージベース31の電極パッド36b,36cに接合され、水晶振動片10が内部端子34b,34cに接合された状態で、パッケージベース31の収納部39がリッド32により覆われ、パッケージベース31とリッド32とがシームリング、低融点ガラス、接着剤などの接合部材38で接合されることにより、パッケージベース31の収納部39が気密に封止されている。
なお、パッケージベース31の気密に封止された収納部39内は、減圧された真空状態(真空度の高い状態)または窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが充填された状態となっている。
【0038】
なお、パッケージ30のリッド32が金属製(導電性の材料)の場合には、接合部材38に導電性の材料を用い、電極端子37cが、導通ビア(金属などの導通部材が充填されているスルーホール)36d、内部配線36e、導通ビア36f、接合部材38を経由してリッド32と電気的に接続されていることが好ましい。
この電極端子37cは、サーミスター20のアース側(GND側)の電極20aに接続され、アース端子(GND端子)となっている。
なお、電極端子37cとリッド32との電気的な接続には、パッケージベース31の外側の角部に、パッケージベース31の厚み方向に沿って形成された図示しないキャスタレーション(凹部)に設けられた導電膜を用いてもよい。
【0039】
水晶振動子1は、電極端子37b,37d、内部端子34b,34c、引き出し電極15a,16a、励振電極15,16を経由して外部から印加される駆動信号によって、水晶振動片10が厚みすべり振動を励振されて所定の周波数で共振(発振)する。
また、水晶振動子1は、サーミスター20が温度センサーとしてパッケージベース31における水晶振動片10の周辺温度を検出し、電極端子37a,37cを介して検出信号を出力する。
【0040】
ここで、サーミスター20の抵抗値(常温抵抗値と温度特性)について説明する。
前述したように、発明者らの実験によれば、サーミスター20は、サーミスター20を収納するパッケージ30内への実装時の導電性接着剤40の加熱硬化処理などの製造工程における加熱処理に起因して、常温抵抗値が加熱処理前の値に対して増加する傾向にあることが判明した。また常温抵抗値の変化に伴い、抵抗値の温度特性もシフトしていることが判明した。これについて、図2を用いて詳述する。
【0041】
図2は、サーミスターの加熱処理を伴う各製造工程後の常温抵抗値の変化の推移を示すグラフである。縦軸は常温抵抗値の変化率(%)を表し、横軸は製造工程を工程順に表している。水晶振動子1のサンプル数は5個で、グラフには5個の平均値をプロットした。なお、サーミスター20の常温抵抗値(ここでは、25℃における抵抗値)は100kΩである。
【0042】
図2に示すように、サーミスター20の常温抵抗値は、各製造工程を経るごとに増加傾向にある。具体的には、3工程目の「封止工程」後において約0.5%増加し、4工程目の「なまし1工程」後において約1.0%増加し、最終工程の「なまし2工程」後において1.5%弱増加しているのが分かる(各工程の詳細については後述する)。
この結果から、サーミスター20は、例えば、予め設定されている設定抵抗値が100kΩ(定格)であれば、上述した製造工程における抵抗値の変化分(1.5%弱の増加)を補正し、補正抵抗値として常温抵抗値が98〜99kΩ(定格)のものを用いるようにする。
これにより、水晶振動子1は、設定時と実使用時との抵抗値のずれによるサーミスター20の温度検出精度の悪化を回避することができる。
【0043】
詳述すると、水晶振動子1に用いられる温度検出回路は、例えば、一対の電極を備えるサーミスター20の一方の前記電極を接地(アースに接続)し、他方の前記電極を電源に接続することによって、周辺温度の変化に伴うサーミスター20の抵抗値の変化を電圧値の変化に置き換えて温度補償回路へ出力する構成となっている。そして、温度補償回路は、この電圧値の変化に基づいて補正信号を発信回路に出力し、発振回路は、この補正信号に基づいて補正した駆動信号を水晶振動子1に印加する。これにより、水晶振動子1は、周辺温度の変化に伴う水晶振動片10の共振周波数の変動が補正され、優れた周波数温度特性が得られることとなっている。
【0044】
このとき、サーミスター20の基準となる常温抵抗値がずれてしまうと、温度検出回路は、周辺温度の変化に伴うサーミスター20の抵抗値の変化を電圧値の変化に置き換えて出力する際に、出力電圧値が本来の値と異なる値となってしまう。
これにより、水晶振動子1は、周辺温度の変化に伴う水晶振動片10の周波数変動が精度よく補正されなくなり、優れた周波数温度特性を得られなくなる虞がある。
【0045】
これを踏まえて、本実施形態では、サーミスター20には、例えば、予め設定されている温度特性と設定抵抗値が100kΩであれば、上述した製造工程における変化分を補正し、補正抵抗値として常温抵抗値が98〜99kΩのものを用いるようにしている。
これにより、水晶振動子1は、設定時と実使用時との抵抗値の温度特性と常温時の抵抗値のずれによる上記のようなサーミスター20の温度検出精度の悪化を回避することができる。
【0046】
次に、水晶振動子1の製造方法の一例について、加熱処理を含む工程を中心に説明する。
図3は、水晶振動子の主要製造工程を示すフローチャートである。図4(a)、図4(b)は、主要製造工程を説明する模式断面図である。なお、断面図の断面位置は、図1(b)と同じである。
図3に示すように、水晶振動子1の製造方法は、水晶振動片準備工程と、サーミスター準備工程と、パッケージ準備工程と、素子搭載工程と、乾燥工程と、アニール工程と、封止工程と、なまし1工程と、なまし2工程と、を含んでいる。
【0047】
[水晶振動片準備工程]
まず、前述した水晶の原石などから所定の角度で切り出されたATカット型の水晶振動片10を用意する。
[サーミスター準備工程]
ついで、予め設定されている設定抵抗値よりも低い抵抗値のサーミスター20を用意する。具体的には、設定抵抗値(設定された常温抵抗値)が100kΩであれば、前述したように、製造工程における変化分(増加分)を見込んで(補正して)常温抵抗値が98〜99kΩのサーミスター20を用意する。
[パッケージ準備工程]
ついで、前述した水晶振動片10及びサーミスター20を搭載(収納)するパッケージ30を用意する。
【0048】
[素子搭載工程]
ついで、図4(a)に示すように、素子としての水晶振動片10及びサーミスター20を、それぞれパッケージベース31の収納部39の第1凹部34及び第2凹部36に導電性接着剤40を用いて搭載(収納)する。
具体的には、ディスペンサーなどの塗布装置を用いてペースト状の導電性接着剤40を内部端子34b,34c及び電極パッド36b,36cに塗布した後、まず、電極パッド36b,36cにサーミスター20の電極20a,20bを、次に、内部端子34b,34cに水晶振動片10の引き出し電極15a,16aを、それぞれ位置合わせして水晶振動片10及びサーミスター20を第1凹部34及び第2凹部36に搭載する。
【0049】
[乾燥工程]
ついで、この状態で、例えば、乾燥機、恒温槽、加熱炉などの加熱装置を用いて150℃程度で約1時間加熱し、導電性接着剤40を乾燥、硬化させる(加熱硬化処理)。このとき、サーミスター20も加熱されて図2に示すように、乾燥工程後の状態で常温抵抗値が僅かに増加する。
【0050】
[アニール工程]
ついで、水晶振動片10の周波数調整後、加熱装置を用いて270℃程度の雰囲気中に約1時間放置し、アニール処理(導電性接着剤40の残留ガス成分除去、残留歪み除去)を行う。このとき、サーミスター20も加熱されて図2に示すように、アニール工程後の状態で常温抵抗値が更に増加する。
【0051】
[封止工程]
ついで、図4(b)に示すように、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で、リッド32をパッケージベース31に接合部材38としてシームリングを用いてシーム溶接(抵抗溶接)により気密に接合する。なお、シーム溶接時には、パッケージベース31の収納部39(第1凹部34、第2凹部36)内の温度は、100℃〜200℃程度になっているものと考えられる。このとき、サーミスター20も加熱されて図2に示すように、封止工程後の状態で常温抵抗値が約0.5%増加する。
【0052】
[なまし1工程]
ついで、加熱装置を用いて200℃程度の雰囲気中に約24時間放置し、1回目のなまし処理(残留歪み(応力)除去)を行う。このとき、サーミスター20も加熱されて図2に示すように、なまし1工程後の状態で常温抵抗値が約1.0%増加する。
【0053】
[なまし2工程]
ついで、加熱装置を用いて200℃程度の雰囲気中に約48時間放置し、2回目のなまし処理(残留歪み(応力)最終除去)を行う。このとき、サーミスター20も加熱されて図2に示すように、なまし2工程後の状態で常温抵抗値が1.5%弱増加する。
これらの工程を経ることにより、サーミスター20の常温抵抗値は、予め設定されている設定抵抗値である100kΩと同一または近似した値に合わせ込まれたこととなる。
【0054】
上記各工程などを経て、図1に示すような水晶振動子1を得る。なお、水晶振動片準備工程、サーミスター準備工程、パッケージ準備工程は、順番を適宜入れ換えてもよい。
なお、サーミスター20の常温抵抗値の増加は、上記各工程における加熱により、増加要因であるサーミスター20の導電組成物中に含まれている低分子化合物の酸化が進行し終え、概ね飽和状態にあるといえる。
これにより、完成した水晶振動子1を、例えば、電子機器へ実装する際の加熱時に、サーミスター20の常温抵抗値は、殆ど増加しないといえる。
【0055】
上述したように、第1実施形態の水晶振動子1は、サーミスター20に、予め設定されている設定抵抗値(例えば、常温抵抗値で100kΩ)に対して製造工程における変化分(増加分)が補正された補正抵抗値(例えば、常温抵抗値で98〜99kΩ)のものが用いられている。
これにより、水晶振動子1は、サーミスター20の実使用時の抵抗値が、製造工程における変化分が上乗せされた、本来の設定抵抗値と同一または近似した値となることから、従来のような、設定時と実使用時との抵抗値のずれによるサーミスター20の温度検出精度の悪化を回避し、温度補償回路による優れた周波数温度特性を維持することができる。
【0056】
また、水晶振動子1は、水晶振動片10及びサーミスター20がパッケージ30の同一収納部39内の第1凹部34及び第2凹部36に収納されていることから、サーミスター20による水晶振動片10の周辺温度の検出を、両者が別々の収納部に収納されている場合よりも、より正確に行うことができる。
【0057】
また、水晶振動子1は、パッケージベース31の第2主面35に水晶振動片10またはサーミスター20と接続された複数の電極端子37a〜37dが設けられ、電極端子37a〜37dのうち、電極端子37cは、リッド32と電気的に接続されていることから、例えば、外部からのノイズや静電気に対するシールド性を向上させることができる。
加えて、水晶振動子1は、リッド32と電気的に接続されている電極端子37cがアース端子(GND端子)であることから、電極端子37cが接地されることにより、シールド性を更に向上させることができる。
【0058】
また、水晶振動子1の製造方法は、予め設定されている設定抵抗値よりも低い抵抗値のサーミスター20を用意し、いくつかの工程においてサーミスター20を加熱して抵抗値を設定抵抗値に合わせ込むことから、従来のような、設定時と実使用時との抵抗値のずれによるサーミスター20の温度検出精度の悪化を回避し、温度補償回路による優れた周波数温度特性を維持することが可能な水晶振動子を提供することができる。
【0059】
(変形例)
次に、第1実施形態の変形例について説明する。
図5は、第1実施形態の変形例の水晶振動子の概略構成を示す模式図である。図5(a)は、リッド側から見た平面図であり、図5(b)は、図5(a)のA−A線での断面図であり、図5(c)は、底面側から見た平面図である。なお、図5(a)では、リッドを省略してある。
また、第1実施形態との共通部分には、同一符号を付して詳細な説明を省略し、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0060】
図5に示すように、変形例の水晶振動子2は、第1実施形態と比較して、パッケージ130の第1主面133側の構成が異なる。
水晶振動子2は、パッケージベース131の第1主面133から第1凹部34が除去され、第1主面133にサーミスター20が収納された第2凹部36が設けられている。また、この第1主面133には、水晶振動片10を搭載する内部端子34b,34cが設けられている。
【0061】
水晶振動子2は、パッケージベース131の第1主面133側が水晶振動片10を覆う金属製の蓋体としてのリッド132により気密に封止されている。リッド132は、コバール、42アロイ、ステンレス鋼などの金属を用いて、全周につば部132aが設けられたキャップ状に形成されている。
水晶振動子2は、リッド132のキャップ部分の膨らみにより、水晶振動片10の振動が可能な内部空間132bが確保されている。
リッド132は、つば部132aがシームリング、ろう材、導電性接着剤などの導電性接合部材138を介してパッケージベース131の第1主面133に接合されている。
【0062】
れにより、水晶振動子2のパッケージ130の収納部139は、内部空間132b及び第2凹部36を含んで構成されていることとなる。換言すれば、水晶振動片10及びサーミスター20は、同一収納部139内に収納されていることとなる。
水晶振動子2は、上記収納部139内が第1実施形態と同様に、減圧された真空状態(真空度の高い状態)または窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが充填された状態となっている。
【0063】
変形例の水晶振動子2は、第1実施形態の効果に加えて以下のような効果を奏することができる。
上述したように、水晶振動子2は、パッケージベース131の第1主面133から第1凹部34が除去され、第1主面133にサーミスター20が収納された第2凹部36が設けられている。これにより、水晶振動子2は、例えば、セラミックグリーンシートの積層枚数が減らせるなど、パッケージベース131の構造を第1実施形態と比較して簡素化することができる。
この結果、水晶振動子2は、パッケージベース131の製造が容易となり、製造コストを削減することができる。
【0064】
なお、第1実施形態及び変形例において、水晶振動子1,2は、サーミスター20が収納された第2凹部36を、パッケージベース31,131の第2主面35側に設けた構成としてもよい。これによれば、水晶振動子1,2は、サーミスター20が水晶振動片10の反対側に露出して搭載されていることから、例えば、水晶振動片10に不具合があった場合でも、露出している良品のサーミスター20を取り外して再利用することが容易に行える。
【0065】
(第2実施形態)
次に、上述した水晶振動子を備えた電子機器として、携帯電話を一例に挙げて説明する。
図6は、第2実施形態の携帯電話を示す模式斜視図である。
携帯電話700は、上記実施形態及び変形例の水晶振動子を備えた携帯電話である。
図6に示す携帯電話700は、上述した水晶振動子(1または2)を、例えば、基準クロック発振源などのタイミングデバイスとして用い、更に液晶表示装置701、複数の操作ボタン702、受話口703、及び送話口704を備えて構成されている。なお、携帯電話700の形態は、図示のタイプに限定されるものではなく、いわゆるスマートフォンタイプでもよい。
【0066】
上述した水晶振動子などの振動デバイスは、上記携帯電話に限らず、電子ブック、パーソナルコンピューター、テレビ、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ビデオレコーダー、ナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器などのタイミングデバイスとして好適に用いることができ、いずれの場合にも上記実施形態及び変形例で説明した効果を奏する電子機器を提供することができる。
【0067】
なお、携帯電話700に代表される電子機器は、前述したように上記水晶振動子(1または2)の水晶振動片10を駆動する発振回路と、水晶振動片10の温度変化に伴う周波数変動を補正する温度補償回路と、を備えていることが好ましい。
これによれば、携帯電話700に代表される電子機器は、水晶振動片10を駆動する発振回路と共に、水晶振動片10の温度変化に伴う周波数変動を補正する温度補償回路を備えていることから、発振回路が発振する共振周波数を温度補償することができ、温度特性に優れた電子機器を提供することができる。
【0068】
なお、振動片の形状は、図示した平板状のタイプに限定されるものではなく、中央部が厚く周辺部が薄いタイプ(コンベックスタイプ、ベベルタイプ、メサタイプ)、逆に中央部が薄く周辺部が厚いタイプ(逆メサタイプ)などでもよい。
なお、振動片の材料としては、水晶に限定されるものではなく、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、四ホウ酸リチウム(Li247)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)などの圧電体、またはシリコン(Si)などの半導体でもよい。
また、厚みすべり振動の駆動方法は、圧電体の圧電効果によるものの他に、クーロン力による静電駆動であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,2…振動デバイスとしての水晶振動子、10…振動片としての水晶振動片、11…振動部、12…基部、13…一方の主面、14…他方の主面、15,16…励振電極、15a,16a…引き出し電極、20…サーミスター、20a,20b…電極、30…容器としてのパッケージ、31…容器本体としてのパッケージベース、32…蓋体としてのリッド、33…第1主面、34…第1凹部、34a…底面、34b,34c…内部端子、35…外底面としての第2主面、36…第2凹部、36a…底面、36b,36c…電極パッド、36d,36f…導通ビア、36e…内部配線、37a,37b,37c,37d…電極端子、38…接合部材、39…収納部、40…導電性接着剤、130…パッケージ、131…パッケージベース、132…リッド、132a…つば部、132b…内部空間、133…第1主面、138…導電性接合部材、139…収納部、700…携帯電話、701…液晶表示装置、702…操作ボタン、703…受話口、704…送話口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動片と、
サーミスターと、
前記振動片及び前記サーミスターが搭載された容器と、を備え、
前記サーミスターの抵抗値の温度特性は、あらかじめ設定されている設定抵抗値の温度特性となるように製造工程における抵抗値の温度特性の変化分が補正されていることを特徴とする振動デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の振動デバイスにおいて、前記振動片及び前記サーミスターは、前記容器の同一収納部内に収納されていることを特徴とする振動デバイス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の振動デバイスにおいて、前記容器は、前記振動片及び前記サーミスターが搭載された容器本体と、前記容器本体に接合され、少なくとも前記振動片を覆う導電性の蓋体と、を備え、
前記容器本体の外底面に前記振動片または前記サーミスターと接続された複数の電極端子が設けられ、
前記電極端子の少なくとも1つは、前記蓋体と電気的に接続されていることを特徴とする振動デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の振動デバイスにおいて、前記蓋体と電気的に接続されている前記電極端子は、アース端子であることを特徴とする振動デバイス。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の振動デバイスにおいて、
一対の電極を備える前記サーミスターの一方の前記電極は、前記アース端子と電気的に接続されていることを特徴とする振動デバイス。
【請求項6】
振動片を用意する工程と、
予め設定されている設定抵抗値よりも低い抵抗値のサーミスターを用意する工程と、
前記振動片及び前記サーミスターを搭載する容器を用意する工程と、
前記振動片及び前記サーミスターを前記容器に搭載する工程と、
前記サーミスターを加熱して前記抵抗値を前記設定抵抗値に合わせ込む工程と、
を含む振動デバイスの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の振動デバイスを備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項8】
請求項7に記載の電子機器において、前記振動片を駆動する発振回路と、
前記振動片の温度変化に伴う周波数変動を補正する温度補償回路と、
を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−98608(P2013−98608A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236929(P2011−236929)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】