説明

振動発生装置、その駆動方法、異物除去装置および光学装置

【課題】従来のものに比べ、より一層の駆動効率の向上を図ることが可能となる振動発生装置を提供する。
【解決手段】圧電材料で形成された圧電体を電極で挟持して構成された圧電素子と、
前記圧電素子が接合された振動体と、
前記圧電素子に交番電圧を印加する電源と、
を備え、前記電源による前記圧電素子への交番電圧の印加によって、前記振動体に振動を発生させる振動発生装置であって、
前記圧電素子は、交番電圧印加に伴なって共振周波数が高周波側に変化する圧電体によって構成され、
前記電源の印加による交番電圧の周波数を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記圧電素子へ印加された交番電圧の周波数を制御することにより、前記圧電素子が有する共振周波数の変化範囲を包含する周波数範囲において、該圧電素子の共振周波数を低周波数側から高周波数側に逐次変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発生装置、その駆動方法、異物除去装置および光学装置に関し、特に、インクジェットヘッド、振動波モータ等の各種の共振デバイスや、撮像装置及び光学装置等の表面に付着する異物を振動により除去する異物除去装置等に利用できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギと機械エネルギを双方向に変換可能な圧電材料は、ソナー、センサー、スピーカ等の種々のデバイスとして使用されている。
その中でも、電気−機械エネルギ変換素子により振動体に振動を励振し、1つ以上の固有周波数で共振させて巨大な振動を発生させる振動発生装置は、各種の共振デバイスや異物除去装置等として使用されている。
例えば、インクジェットヘッドや振動体に励振される振動によって移動体を駆動する振動波モータ等の共振デバイスとして使用されている。
また、デジタルカメラなどの撮像装置及び光学装置に組み込まれる光学部品の表面に付着する塵、埃、水滴等、光路を阻害するような異物を、振動により除去する異物除去装置等として使用されている。
【0003】
これをインクジェットヘッドについて説明すると、インクジェットヘッドはつぎのような部材で構成されたノズルが多数個設けられている。
すなわち、インクジェットヘッドのノズルは、インク吐出口と、前記インクが満たされているインク室と、該インク室と前記吐出口とをつなぐノズル連通口と、電極を有する圧電素子が接着された振動体、で構成され、このようなノズルが多数個設けられている。
そして、上記圧電素子に電圧を印加することで、該圧電素子に応力が発生し、これによりインク室に圧力変動を発生させ、吐出口からインクを吐出させる。
また、デジタルカメラ等の表面に付着する異物を振動により除去する異物除去装置では、振動体に固着した圧電素子に電圧を印加し、この圧電素子を駆動することにより振動体を光軸方向つまり振動体の厚さ方向に変位させる弾性振動(以下、これを 面外振動:Flexural Vibrationと記す。)を発生させる。
異物除去装置では、この面外振動により振動体の表面に付着した異物を除去するように構成されている。
また、振動波モータは、例えばカメラレンズの駆動用等にも応用されている。
このような振動波モータでは、金属製の振動体の下面に電極と圧電材料を接合して構成したステーターに交番電圧を印加し、これにより該振動体に発生した振動で、該ステーターの上面に摩擦接触させたロータを回転駆動するように構成されている。
【0004】
これらの振動発生装置では、圧電逆効果によって発生する静的な変位量、変位速度は小さいため、所望の変位量、変位速度を発生させるためには、大きな電圧が必要になる。
このような大きな電圧を得るため、駆動周波数を圧電素子が持っている固有周波数と一致、またはほぼ一致させて駆動する方法が知られている。
これにより、共振現象が発生し、低電圧でも振動体に大きな変位量、変位速度を引き起こすことが可能となり、駆動効率を向上させることができる。
このように共振現象を利用した振動発生装置は、共振デバイスと称されている。これらの共振デバイスは、駆動中は常に共振周波数、もしくはその近傍の周波数で駆動することが駆動効率の面で好ましい。
【0005】
しかし、環境温度の変化や負荷等により共振周波数は変動する。
そのため、環境の変化によらず常時一定周波数で共振させて駆動することは困難である。
このようなことから、特許文献1では、駆動時に確実に共振周波数を捉えるため、一定の周波数領域を掃引する手段を用い、共振周波数での駆動を確実に実現し、安定した駆動を行うようにした振動波モータ駆動装置が提案されている。
この特許文献1では、駆動周波数を高周波数から低周波数に向かって掃引することにより、高い速度による駆動効率の向上が図られている。
また、特許文献2では、撮像素子へのゴミの付着を防止する防塵部材に振動を生じさせる振動発生手段の圧電素子を圧電セラミックで構成したゴミ除去装置が提案されている。
そして、この特許文献2には、上記圧電素子を構成する圧電セラミックの材料として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:PbZr1-xTix3)を用いることが、従来から知られているということが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−249477号公報
【特許文献2】特開2008−206013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年のCO2による地球温暖化問題や原油価格の高騰化により、各種デバイスの高効率化が図られている。
そして、上記したインクジェットヘッドや異物除去装置、振動波モータ等の振動発生装置、共振デバイスにより一層の高性能化・低コスト化が求められている。上記従来例の特許文献1のものでは、高周波数から低周波数に向かって掃引することにより駆動効率の向上が図られているが、圧電素子を形成するための具体的な圧電材料の組成について何も開示されていない。
我々の鋭意によれば、圧電材料の種類によっては、必ずしも駆動周波数を高周波数から低周波数に向かって掃引することで駆動効率の向上が図られるものではなく、上記した近年の高性能化等の要請に応える上で、これらの圧電材料との関係で更なる改善が求められる。
【0008】
一方、圧電素子の圧電体を形成するための圧電材料としては、特許文献4でも開示されているように、従来から上記したようにチタン酸ジルコン酸鉛を用いることが知られている。特に、共振デバイスでは機械品質係数(Qm)が高くなるように材料設計されたチタン酸ジルコン酸鉛を使用することが、従来から一般的に知られている。
しかしながら、共振デバイスの圧電材料としてチタン酸ジルコン酸鉛を用いた場合、つぎのような課題を有している。
共振デバイスにおいて、振動変位量は振動速度と駆動周波数の比で決まり、また、共振周波数はヤング率と密度の比で決まる。
ここで、チタン酸ジルコン酸鉛の密度(アルキメデス法による密度)はおよそ7.5〜8.0×103kg/m3で圧電材料の中では高く、ヤング率は60〜80GPa程度で他の圧電材料に比べて小さい。
つまり、チタン酸ジルコン酸鉛による場合、共振周波数は他の圧電材料に比べて小さく、その結果、たとえ同じ振動速度で振動させることができても、振動変位量に換算すると実質的に小さいこととなる。
したがって、掃引による積算変位量も小さくなり、駆動効率が他の圧電材料に比べて悪くなるという課題を有している。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、圧電素子が従来のチタン酸ジルコン酸鉛による圧電材料を用いて構成されたものに比べ、より一層の駆動効率の向上を図ることが可能となる振動発生装置、その駆動方法、異物除去装置および光学装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、つぎのように構成した振動発生装置、その駆動方法、異物除去装置および光学装置を提供するものである。
本発明の振動発生装置は、圧電材料で形成された圧電体を電極で挟持して構成された圧電素子と、
前記圧電素子が接合された振動体と、
前記圧電素子に交番電圧を印加する電源と、
を備え、前記電源による前記圧電素子への交番電圧の印加によって、前記振動体に振動を発生させる振動発生装置であって、
前記圧電素子は、交番電圧印加に伴なって共振周波数が高周波側に変化する圧電体によって構成され、
前記電源の印加による交番電圧の周波数を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記圧電素子へ印加された交番電圧の周波数を制御することにより、前記圧電素子が有する共振周波数の変化範囲を包含する周波数範囲において、該圧電素子の共振周波数を低周波数側から高周波数側に逐次変化させる構成を有することを特徴とする。
また、本発明の振動発生装置の駆動方法は、上記した振動発生装置の駆動方法であって、
前記交番電圧の周波数を変化させる速度を、前記圧電素子の共振周波数の変化速度よりも大きくすることを特徴とする。
また、本発明の異物除去装置は、上記した振動発生装置を有し、該振動発生装置によって所定の方向に異物を移動させて除去することを特徴とする。
また、本発明の光学装置は、上記した異物除去装置を有し、該異物除去装置によって光路上の異物を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧電素子が従来のチタン酸ジルコン酸鉛による圧電材料を用いて構成されたものに比べ、より一層の駆動効率の向上を図ることが可能となる振動発生装置、その駆動方法、異物除去装置および光学装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の一例について説明する図であり、(a)は本発明の振動発生装置を搭載した異物除去装置の構成を説明する概略図である。(b)は異物除去装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】本発明の実施形態における振動発生装置を搭載した異物除去装置の振動の様子を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例1における振動発生装置を搭載した異物除去装置の周波数毎の振動の様子を説明するための図である。
【図4】比較例3の異物除去装置の周波数毎の振動の様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
なお、本実施形態の説明では異物除去装置について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、振動波モータやインクジェットヘッド等、共振デバイスを用いるものであれば各種の装置に適用可能である。
つぎに、本実施形態の一例として、異物除去装置の構成例について、図1を用いて説明する。
図1(a)は、本発明の振動発生装置を搭載した異物除去装置の構成を説明する概略図である。
図1(a)に示すように本実施形態の異物除去装置10は、振動体20と圧電素子30とによって構成されている。
振動体20は、後述する実施例1のように、例えば表面に付着する異物を振動により除去する対象となる赤外線カットフィルタとしての機能を有するガラス板等で構成される。
圧電素子30は、圧電材料によって板状に形成された圧電体31の一方の板面(圧電体31の裏面側)に形成された第1の電極32と、圧電体の他方の板面(圧電体31の表面側)に形成された第2の電極33とにより挟持された構成を備えている。
その際、本実施形態の圧電素子は、交番電圧印加に伴なって共振周波数が高周波側に変化する圧電体によって構成されている。圧電材料の具体例については後述する。
また、圧電素子30に電力を供給するためのフレキシブルケーブル90と、交番電圧の周波数を逐次変化させながら出力することが可能な電源装置100を含む駆動回路(図1(b))とを備える。
【0014】
図1(b)のブロック図を用いて、本発明の異物除去装置の構成を説明する。電源装置100は、メモリ111を備えた制御部110と、バッテリー120から構成されている。
異物除去装置10はフレキシブルケーブル90を介して電源装置100内の制御部110と接続されている。
この制御部110は、バッテリー120より発生した交番電圧の周波数を制御する構成を備える。
すなわち、制御部は圧電素子30へ印加された交番電圧の周波数を制御することにより、圧電素子30が有する共振周波数の変化範囲を包含する周波数範囲において、圧電素子30の共振周波数を低周波数側から高周波数側に逐次変化させるように構成されている。
この周波数の変化範囲は、メモリ111にあらかじめ記録された情報を参照して決定される。
ここで、交番電圧とは、時間とともに周期的に振幅が変化する電圧を表し、正弦波や矩形波、三角波でも良く、また、全体にオフセット電圧が印加されていても良い。
また、周波数を逐次変化させるとは、出力する交番電圧の周波数が一定の周波数領域で、低周波数から始まり高周波数で終了していれば良く、途中で高周波数から低周波数へ戻る工程を含んでも良い。
【0015】
第1の電極32と第2の電極33は、圧電材料によって板状に形成された圧電体31の板面に対向して配置されている。図1(a)では第2の電極33が配置された圧電体31の反対側の板面側から、第1の電極32の端部が第2の電極面35側に回り込んで電極面35に接着されている状態が示されている。
ここで、電極面とは電極が設置されている圧電体31の面を指している。
このように第1の電極32が第2の電極面35に回り込むようにすることで、フレキシブルケーブル90と単一面で接着可能な構造とすることができる。
電極で挟持された圧電体31で形成た圧電素子30は、振動体20の板面の例えば両端部に固着されて接合されており、圧電素子30の分極方向は板面と垂直方向に分極処理されている。
ここで挟持とは、圧電素子に交番電圧が印加される領域が少なくとも存在することを意味するもので、交番電圧が印加されない領域の有無にはよらない。
【0016】
以下に示す例では、全ての圧電素子30は、板面と垂直方向に分極処理されており、圧電素子30の分極ベクトルの平均は振動体に向かう方向を向いている。例えば、デジタルカメラ本体に組み込まれている電源装置からフレキシブルケーブル90を通じて電極に一定領域の周波数範囲で交番電圧を掃引して出力する電力を供給する。そして、圧電素子30に発生する応力により、前記振動体20を変形させて面外振動を発生させる。
本発明の異物除去装置10は、図1に示された2つの圧電素子30を、位相差を変えて駆動させることで、振動モードの異なる振動を周期的に発生させて板面全体を面外振動させ、この振動により振動体20の表面に付着した異物を除去する装置である。
ここで振動モードとは、振動体が共振する姿態を表すもので、複数の節部や腹部をもつ複次の定在波や、節部や腹部がある時間に対し振動体の長さ方向に移動する搬送波を振動体の面外振動により作り出すことができる。
【0017】
つぎに、図2を用いて本実施形態における振動発生装置を搭載した異物除去装置の振動の様子を説明する。
図2は、図1中の一点鎖線によるA−A断面の模式図(電極、フレキシブルケーブルは不図示)であり、異物除去装置10の振動原理を説明する図である。
図2の上図は、左右一対の圧電素子30に位相差がほぼ0°である同位相の交番電圧を印加し振動体20に面外振動を発生させた状態を表しており、異物除去装置10は9次の振動モードで駆動している。
図2の下図は、左右一対の圧電素子30に位相差がほぼ180°である逆位相の交番電圧を印加し振動体20に8次の振動モードで面外振動を発生させた状態を表している。
本実施形態の異物除去装置10は、このように少なくとも2つの振動モードを効果的に使い分けることで振動体の表面に付着した異物をより効率的に除去できる。
ただし、使用する振動モードの数や次数は、振動発生装置を使用する目的、形態によって異なり、例えばインクジェットヘッドでは所望の吐出性能(吐出速度、吐出量)が実現できるように選べば良い。
また、振動波モータでは所望の回転性能(トルク、回転数)が得られるように選べば良い。
【0018】
本実施形態の圧電素子30は交番電圧の印加に伴って、共振周波数が低周波数から高周波数へと変化する。
該圧電素子30を搭載した異物除去装置10では、低周波数から高周波数へと変化させる。その際、駆動周波数が共振周波数より高くなった後でも共振周波数は掃引方向に変化し続ける。
このため、振動変位量の減衰が小さく積算変位量が大きくなる。
ここで、積算変位量とは、交番電圧を低周波数から高周波数へ変化させたときに、時間と共に変化する振動変位量を時間毎に足したものである。
さらに、交番電圧を低周波数から高周波数へと変化させたときに、駆動周波数が共振周波数と同じとなる掃引も可能である。この場合、常に共振周波数付近の高い振動変位量が得られ、やはり積算変位量は大きくなる。
ここで、掃引する周波数範囲に、前記振動モードとは別の振動モードの共振周波数を複数含んでいても良く、例えば積算変位量が最大となるような周波数範囲を選択することが望ましい。
一般に、いろいろな大きさの異物をより多く除去するためには、掃引の際の積算振動変位量が大きいことが有利である。
【0019】
ここで、交番電圧を低周波数から高周波数へ変化させるときは、途中で周波数が低周波数側へ戻る工程を含んでいても本発明の効果は得られる。
好ましくは一定速度で高周波数へ変化させることが良く、さらに好ましくは共振周波数付近で速度を一定時間停止、もしくは低下させると尚良い。
ここで、駆動周波数を掃引する周波数の範囲は、1Hz以上、1×106Hz以下とする。
さらに、使用する振動モードの周波数を周波数の低い順にF1、F2、F3、・・・、Ftとすると、つぎのような周波数範囲で掃引することが好ましい。
すなわち、t=1の場合はF1−F1÷2以上、F1+F1÷2以下の周波数範囲で掃引することが好ましい。
また、t≠1の場合は、F1−(Ft−F1)÷t以上、Ft+(Ft−F1)÷t以下の周波数範囲で掃引することが好ましい。
ただし、この範囲は少なくとも1つ以上の振動モードの共振周波数が変化する範囲を包含していれば良く、その範囲であれば狭い程、駆動効率が良い。
ここで、共振周波数が変化する範囲とは、実際に使用する電圧で駆動したときに変化する範囲である。振動発生装置の使用形態によって異なるため、例えば予めレーザードップラー振動計と波形発生器等で駆動周波数を制御しながら振動変位を測定することで得られる。
【0020】
本発明の圧電体31に用いることができる圧電材料として、つぎのような圧電材料が挙げられる。
例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸カリウムナトリウムから選択されるいずれか1種の単体または2種以上の固溶体を主成分とする圧電材料が挙げられる。
このような材料は、チタン酸ジルコン酸鉛と比較して、ヤング率と密度の比が大きいため共振周波数が高くなり、これにより共振駆動時における振動速度が大きくなり異物除去率を向上させることが可能となる。
ここで、より好ましくはヤング率が大きくなることによって、前記ヤング率と密度の比が大きくなることである。
一般に、ヤング率が大きい材料はQmが大きく、共振時の振動変位量、変位速度が大きくなるため、より異物除去率が向上する。より好ましくはヤング率が100GPa以上であり、150GPa以下である。
また、ここでの密度とはアルキメデス法等で測定した実測密度を表しており、理論密度に対する比率は90.0%以上99.9%以下が好ましく、より好ましくは95.0%以上99.9%以下である。
理論密度に対する比率が小さい圧電材料は、空孔率が大きいため駆動した際に空孔部が大きく変形してしまう。
これにより、圧電素子に発生した応力差が吸収され、所望の振動変位量が得られなくなり、高い駆動効率が得られなくなる。
さらに、このような材料は例えば100μm程度、もしくはこれを超えるような大きい異物に与える力積は大きくなり、除去しやすい。
【0021】
ここで、上記圧電材料が、前記チタン酸バリウム等の鉛を使用しない圧電材料を主成分とする場合、副成分に鉛やチタン酸ジルコン酸鉛を構成する元素を含んでいても、交番電圧印加に伴なって共振周波数が高周波数側に変化する圧電材料であればよい。
好ましくは、混合後の密度がチタン酸ジルコン酸鉛よりも小さく、かつヤング率がチタン酸ジルコン酸鉛よりも大きい圧電材料を使用することで同様の効果は得られる。
現在各種デバイスに用いられている圧電素子には鉛を含有するチタン酸ジルコン酸鉛、または鉛を多量に含有する圧電材料が多く用いられている。
しかし、チタン酸ジルコン酸鉛のような鉛を多量に含有する圧電素子は一旦廃却され酸性雨を浴びたりする場合、圧電材料中の鉛成分が土壌に溶け出し生態系に害を成す可能性が指摘されている。
そこで、環境に配慮するため、本実施形態の異物除去装置10に使用される圧電材料に含まれるPbの量は、限りなく少ない事が好ましい。
例えば、圧電体31を形成する圧電材料のPb含有量が1000ppm以下であるチタン酸バリウム等を主成分とする圧電セラミックスであることが好ましい。Pb含有量が1000ppm以下であれば、例えば異物除去装置が廃却され酸性雨を浴びたり、過酷な環境に放置されたりしても、圧電材料中の鉛成分が環境に悪影響を及ぼす可能性は低い。
また、このような材料で前記ヤング率の圧電材料を用いることが望ましい。
【0022】
また、本実施形態の振動発生装置を駆動させる交番電圧の変化速度は、共振周波数の変化よりも速いことが好ましい。掃引速度が共振周波数の変化よりも速いことで、共振周波数での駆動を確実に行なうことが出来るため、極大変位量で異物除去装置を駆動させる駆動方法を実現することができる。
ここで、交番電圧の変化速度は掃引している間に共振周波数の変化速度よりも遅くなる時間が一定時間以上あっても良く、1回の掃引終了時の交番電圧の周波数が、共振周波数よりも高ければ良い。
好ましくは、掃引している時間に共振周波数が変動する範囲が掃引する周波数範囲の10^(−5)倍以上、1倍以下とする、さらに好ましくは掃引する周波数範囲の10^(−3)倍以上、1倍以下とする。これらにより、常に共振周波数付近での駆動が可能となるため、積算振動量が大きくなり、駆動効率が向上する。
【0023】
つぎに、図1で示される本実施形態の異物除去装置10の作製方法について説明する。
上記圧電材料による圧電体31の作製方法は、特に限定されないがその一例について説明する。
最初に、所望の組成に調整した圧電セラミックス粉末に分散剤等の焼結助剤を加え、高密度の焼結体にするのに必要な圧力でプレス成形して圧電セラミックス成形体を作製する。
ここで、プレス成形のみで必要な圧力が得られない場合はCIP(冷間等方圧プレス:Cold Isostatic Press)などにより所望の圧力を加えても良い。
また、プレス成形せずに最初からCIP等で圧電セラミックスの成形体インゴットを作製しても良い。
次に、圧電セラミックス成形体を焼成して圧電セラミックス焼結体を作製する。焼成は所望の圧電セラミックスに最適な方法を選択すればよく、なお、必要であれば焼成前に圧電セラミックス成形体を所望の形状に加工しても構わない。
次に、作製した圧電セラミックス焼結体を所望の寸法に研削加工して直方体の圧電セラミックス(圧電体)を作製する。
その後、銀ペーストの焼き付けやAuスパッタリング、Auめっき等により、図1に示す第1の電極32と第2の電極33を形成して圧電素子を得る。
次に、圧電体31のキュリー温度もしくは脱分極温度未満で、5分〜10時間、空気中もしくはシリコンオイル等の不燃性のオイル中、0.5〜5.0kV/mmの電界を直流電圧で印加することで分極処理をする。
以上のように、本実施形態の圧電素子30は、このような作製の過程で事前に分極処理をしておくことが好ましいが、必須ではない。
【0024】
次に、電極に挟持された圧電体31に形成された圧電素子30を例えば2つ用意し、所望の寸法に加工された振動体20に固着して接合する。電極に挟持された圧電体31は、第1の電極面(不図示)が振動体20の板面の端部に配置されるようにする。
前記圧電材料と振動体は例えばエポキシ樹脂系接着剤などで固着することが出来る。
接着剤は異物除去装置10の使用温度域での接着性や異物除去装置10の機械品質係数Qmを損なわないものを選択することが好ましい。
また、圧電素子30は既に分極処理がなされた後であるため、接着温度は圧電体31のキュリー温度もしくは脱分極温度未満であることが好ましい。
さらに、この圧電素子30の第2の電極面35にフレキシブルケーブル90を接着する。この時、フレキシブルケーブルの接地用配線と駆動用配線が、第1の電極と第2の電極のそれぞれに独立して接続されるように位置決めして接着する。この時も、接着温度は圧電体31のキュリー温度もしくは脱分極温度未満であることが好ましい。
以上に述べた分極処理を行なう工程、振動体に固着する工程、フレキシブルケーブルを接着する工程は、前記順番で行う必要は無い。
例えば、分極処理工程が最後であれば、振動体に固着する工程とフレキシブルケーブルを接着する工程は圧電体31のキュリー温度もしくは脱分極温度以上であっても良い。
このフレキシブルケーブルに周波数掃引可能な電源装置を含む駆動回路に接続することで、異物除去装置10を作製できる。
【0025】
以上、本発明の異物除去装置及びその作製方法について説明したが、本発明はこのような異物除去装置に限定されるものではない。
例えば、これら以外に、インクジェットヘッド、ビデオデジタルカメラ、複写機、ファクシミリ、スキャナ等の各種共振デバイスにも適用することができる。また、異物は主に固形物であるが、液体、蒸気、気体を問わず除去手段もしくは移動、伝播手段、として使用することもできる。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の異物除去装置の構成を適用した実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1として、圧電材料としてチタン酸バリウムの単体を主成分とした圧電素子の作製方法について説明する。
実施例では、平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子(堺化学社製、商品名BT−01(登録商標))と酢酸マンガン(II)の混合粉体に、バインダーとして濃度5質量%のポリビニルアルコール水溶液を添加して圧電材料を作製した。
添加量はポリビニルアルコール水溶液中のポリビニルアルコールが混合粉体に対し3質量%とした。
さらに、この混合溶液に分散剤(サンノプコ社製、商品名SN−ディスパーサント5020(登録商標))を濃度5質量%となるように添加した。
この混合溶液をスプレードライヤー装置を用いて造粒した。作製した造粒粉体を、45.0×7.0mmの金型内に1.6g充填し、200MPaの圧力で一軸成形した。
次に、この成形体を電気炉で空気雰囲気中1380℃で2時間焼成した。昇温速度は10℃/分とし、途中600℃で3時間保持し、上記圧電材料による圧電体を作製した。
得られた圧電体の寸法は36.4(一辺)×5.75(他辺)×1.6(厚み)mmであり、アルキメデス法により密度を測定したところ、密度は5.9×103kg/m3であり、理論密度に対する相対密度は98%であった。
また、ヤング率は101GPaであった。
【0027】
次に、分極処理後の圧電体を36.4×5.75×0.25mmに研削加工した。
そして、このように加工された圧電体の上記36.4×5.75mmの2つの面にDCマグネトロンスパッタリングでTi、Auの順でそれぞれ30nm、380nm厚さの第1の電極および第2の電極をパターン形成した。
次に、これを33.3(縦幅)×4.0(横幅)×0.25(厚み)mmに切断加工し圧電素子を形成した。
次に、上記圧電素子の上記33.3×4.0mmの2つの面間に1kV/mmの電界がかかるように、直流電源を用いてシリコンオイル中で分極処理を行った。オイル温度は100℃、印加電界は1kV/mm、電圧印加時間は100℃で30分とした。
【0028】
次に、前述のDCマグネトロンスパッタリングでTi、Auの順で回り込み電極をパターン形成することで、第1の電極面の第1の電極と第2の電極面の第2の電極とを圧電素子の片方の面を介して短絡させた。
ここで、圧電素子の横幅は本実施形態では4.0mmで作製したが、利用する振動モードによって最適な長さは異なり、(圧電素子間の距離)×2÷(振動モードの次数)の70%〜90%が駆動効率の面で好ましい。
【0029】
本実施例の圧電素子を、光学装置における赤外線カットフィルタとしての機能を有するガラス板に接着し、光路上の異物を除去する異物除去装置を作製した。具体的には、本実施例の圧電素子を、振動体を構成する50(1辺)×33(他辺)×1(厚さ)mmのガラス板の33mmの辺の片側に沿ってエポキシ樹脂系の接着剤で接着し、光学装置における異物除去装置を作製した。
次に、作製した異物除去装置において、8次、9次の振動モードが発生する共振周波数を知るために、つぎのようにインピーダンス値の変化を測定した。
すなわち、インピーダンスアナライザーを用いて第1の電極と第2の電極に対し、同相と逆相それぞれの場合で0.5Vの低電圧により周波数を変化させたときのインピーダンス値の変化を測定した。
また、振動モードの次数を知るために、レーザードップラー振動計(グラフテック社商品名:AT7200)により、ガラス板の長手方向に走査しながら、振動変位量が極大値と極小値となる腹の数を数えることで計測した。
その結果、同相駆動で周波数35kHzにてインピーダンスが極小となり、9次の振動モードが現れた。また、逆相駆動で8次の振動モードが周波数30kHzで極小となった。
また、共振周波数の変動速度よりも掃引速度を速くするため、掃引速度は同相駆動も逆相駆動も毎回の掃引時に極大値を持つように設定した。
共振周波数を駆動周波数が追い抜いているため、振動変位量は極大値をとる。
【0030】
本実施例においては、共振周波数の変動速度は1Hz/秒以上1kHz/秒以下であったため、同相駆動も逆相駆動も掃引速度は10kHz/秒で一定速度とした。
ここで、本発明による異物除去装置と効果を比較するために、ゴミに類似したポリプロピレン製ビーズを大きさ別に直径1μm、10μm、100μmの3種類を用意した。
この3種類のビーズを全てガラス板に付着させて、掃引駆動を行った後、光学顕微鏡で撮影した画像によりガラス板に残ったビーズの数を数えることでビーズの除去率を計測した。
このとき、低電圧駆動での異物除去性能を確認するために、通常使用する駆動電圧よりも7割の駆動電圧により掃引駆動を行なった。
掃引する周波数の範囲は、{(8次の振動モードが発生する周波数)+(9次の振動モードが発生する周波数)}/2を中心とする10kHzの幅の周波数とし、同相と逆相にて掃引駆動を一定時間繰り返した。
その時、ガラス板の中心付近で振動変位量が最大となる点で、同相駆動で掃引したときの周波数毎の振動変位量をレーザードップラー変位計にて計測した。
【0031】
このレーザードップラー変位計にて計測した結果を図3に示す。
図3に示されるように、駆動周波数を掃引すると共に、共振周波数付近(図中Bの領域)で急激に振動変位量が増加した。
また、共振周波数を過ぎた後、共振周波数から離れて高周波数へ掃引しても振動変位量がそれ程減衰せずに推移したため(図中Cの領域)、掃引時の振動変位量の積算変位量が大きくなることが分かる。
また、逆相で駆動したときの振動変位量も同様の傾向であった。また、1度の掃引で共振周波数が変動する範囲は、掃引する周波数範囲の10^(−2)倍あった。
ビーズの除去率を測定した結果、本実施例でのビーズの除去率は1μmのビーズ:96%、10μmのビーズ:98%、100μmのビーズ:99%であった。
【0032】
[実施例2]
実施例2として、圧電材料にチタン酸ビスマスナトリウムの単体を主成分とした圧電素子の作製方法について説明する。
本実施例では、94(Bi、Na)TiO3−6BaTiO3で表される圧電材料を作製した。
この圧電材料の作製工程以外のその他の工程は、実施例1と同様の方法で異物除去装置を作製した。
ただし、スプレードライで造粒する粉は、Bi23、Na2CO3、TiO2、BaCO3を所望の組成比になるように混合し、アルミナるつぼに入れて700℃で5時間の仮焼により得ることが出来た。
また、焼成温度は1050℃で2時間焼成し、途中200℃で10時間保持した。
以上の工程により作製した33.3×4.0×0.25mmの圧電素子により、異物除去装置を作製した。
焼成した94(Bi、Na)TiO3−6BaTiO3の圧電材料により得られた圧電体をアルキメデス法により密度を測定したところ、密度は5.8×103kg/m3であり、理論密度に対する相対密度は97%であった。また、ヤング率は122Gpaであった。
【0033】
次に、作製した異物除去装置において、8次、9次の振動モードが発生する共振周波数を知るために、つぎのようにインピーダンス値の変化を測定した。
すなわち、インピーダンスアナライザーを用いて第1の電極と第2の電極に対し、同相と逆相それぞれの場合で0.5Vの低電圧により周波数を変化させたときのインピーダンス値の変化を測定した。
また、振動モードの次数を知るために、レーザードップラー振動計(グラフテック社商品名AT7200)により、ガラス板の長手方向に走査しながら、振動変位量が極大値と極小値となる腹の数を数えることで計測した。
その結果、同相駆動で周波数40kHzにてインピーダンスが極小となり、9次の振動モードが現れた。
また、逆相駆動で8次の振動モードが周波数36kHzで極小となった。
また、共振周波数の変動速度よりも掃引速度を速くするため、掃引速度は同相駆動も逆相駆動も毎回の掃引時に極大値を持つように設定した。
共振周波数を駆動周波数が追い抜いているため、振動変位量は極大値をとる。
本実施例においては、共振周波数の変動速度は1Hz/秒以上1kHz/秒以下であったため、同相駆動も逆相駆動も掃引速度は10kHz/sとした。
【0034】
ここで、本発明による異物除去装置と効果を比較するために、ゴミに類似したポリプロピレン製ビーズを大きさ別に直径1μm、10μm、100μmの3種類を用意した。
この3種類のビーズを全てガラス板に付着させて、掃引駆動を行った後、光学顕微鏡で撮影した画像によりガラス板に残ったビーズの数を数えることでビーズの除去率を計測した。
このとき、低電圧駆動での異物除去性能を確認するために、通常使用する駆動電圧よりも7割の駆動電圧により掃引駆動を行なった。
掃引する周波数の範囲は、{(8次の振動モードが発生する周波数)+(9次の振動モードが発生する周波数)}/2を中心とする10kHzの幅の周波数とし、同相と逆相にて掃引を一定時間繰り返した。
【0035】
その時、ガラス板の中心付近で振動変位量が最大となる点で、同相駆動で掃引したときの周波数毎の振動変位量をレーザードップラー変位計にて計測した。
その結果、実施例1と同様に共振周波数付近で急激に振動変位量が増加した。
また、共振周波数を過ぎた後、共振周波数から離れて高周波数へ掃引しても振動変位量がそれ程減衰せずに推移したため、掃引時の振動変位量の積算変位量が大きくなることが分かる。
また、逆相で駆動したときの振動変位量も同様の傾向であった。
ビーズの除去率を測定した結果、本実施例でのビーズの除去率は1μmのビーズ:95%、10μmのビーズ:97%、100μmのビーズ:98%であった。
【0036】
[実施例3]
実施例3として、圧電材料としてチタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウムの固溶体を主成分とした圧電素子の作製方法について説明する。
本実施例では、88(Bi、Na)TiO3−8(Bi、K)TiO3−4BaTiO3で表される圧電材料を用いた圧電素子を作製した。
この圧電素子の作製工程以外のその他の工程は、実施例1と同様の方法で異物除去装置を作製した。
ただし、スプレードライで造粒する粉は、Bi23、Na2CO3、TiO2、BaCO3、K2CO3を所望の組成比になるように混合し、アルミナるつぼに入れて850℃で5時間の仮焼により得ることが出来た。
また、焼成温度は1100℃で2時間焼成し、途中600℃で10時間保持した。
以上の工程により作製した33.3×4.0×0.25mmの圧電素子により、異物除去装置を作製した。
なお、本実施例では、上記焼成により得られた上記圧電材料にる圧電体は、アルキメデス法により密度を測定したところ、密度は5.9×103kg/m3であった。また、ヤング率は119Gpaであった。
【0037】
次に、作製した異物除去装置において、8次、9次の振動モードが発生する共振周波数を知るために、つぎのようにインピーダンス値の変化を測定した。
すなわち、インピーダンスアナライザーを用いて第1の電極と第2の電極に対し、同相と逆相それぞれの場合で0.5Vの低電圧により周波数を変化させたときのインピーダンス値の変化を測定した。
また、振動モードの次数を知るために、レーザードップラー振動計(グラフテック社商品名AT7200)により、ガラス板の長手方向に走査しながら、振動変位量が極大値と極小値となる腹の数を数えることで計測した。
その結果、同相駆動で周波数43kHzにてインピーダンスが極小となり、9次の振動モードが現れた。
また、逆相駆動で8次の振動モードが周波数38kHzで極小となった。
また、共振周波数の変動速度よりも掃引速度を速くするため、掃引速度は同相駆動も逆相駆動も毎回の掃引時に極大値を持つように設定した。
共振周波数を駆動周波数が追い抜いているため、振動変位量は極大値をとる。
本実施例においては、共振周波数の変動速度は1Hz/秒以上1kHz/秒以下であったため、同相駆動も逆相駆動も掃引速度は10kHz/sとした。
【0038】
ここで、本発明による異物除去装置と効果を比較するために、ゴミに類似したポリプロピレン製ビーズを大きさ別に直径1μm、10μm、100μmの3種類を用意した。
この3種類のビーズを全てガラス板に付着させて、掃引駆動を行った後、光学顕微鏡で撮影した画像によりガラス板に残ったビーズの数を数えることでビーズの除去率を計測した。
このとき、低電圧駆動での異物除去性能を確認するために、通常使用する駆動電圧よりも7割の駆動電圧により掃引駆動を行なった。
掃引する周波数の範囲は、{(8次の振動モードが発生する周波数)+(9次の振動モードが発生する周波数)}/2を中心とする10kHzの幅の周波数とし、本例では99.5kHzから119.5kHzで、同相と逆相にて掃引を一定時間繰り返した。
【0039】
その時、ガラス板の中心付近で振動変位量が最大となる点で、同相駆動で掃引したときの周波数毎の振動変位量をレーザードップラー変位計にて計測した。
その結果、実施例1と同様に共振周波数付近で急激に振動変位量が増加した。
また、共振周波数を過ぎた後、共振周波数から離れて高周波数へ掃引しても振動変位量がそれ程減衰せずに推移したため、掃引時の振動変位量の積算変位量が大きくなることが分かる。
また、逆相で駆動したときの振動変位量も同様の傾向であった。ビーズの除去率を測定した結果、本実施例でのビーズの除去率は1μmのビーズ:95%、10μmのビーズ:97%、100μmのビーズ:98%であった。
【0040】
[実施例4]
実施例4として、圧電材料にニオブ酸カリウムナトリウムの単体を主成分とした圧電素子の作製方法について説明する。
本実施例では、(K、Na)NbO3で表される圧電材料を用いた圧電素子を作製した。
この圧電素子の作製工程以外のその他の工程は、実施例1と同様の方法で異物除去装置を作製した。
ただし、スプレードライで造粒する粉は、Na2CO3、K2CO3、Nb25を所望の組成比になるように混合し、アルミナるつぼに入れて850℃で5時間の仮焼により得ることが出来た。
また、焼成温度は1200℃で2時間焼成し、途中600℃で10時間保持した。以上の工程により作製した33.3×4.0×0.25mmの圧電材料により、異物除去装置を作製した。
なお、本実施例では、上記焼成により得られた上記圧電材料にる圧電体は、アルキメデス法により密度を測定したところ、密度は4.01×103kg/m3であり、理論密度に対する相対密度は89%であった。また、ヤング率は140Gpaであった。
【0041】
次に、作製した異物除去装置において、8次、9次の振動モードが発生する共振周波数を知るために、つぎのようにインピーダンス値の変化を測定した。
すなわち、インピーダンスアナライザーを用いて第1の電極と第2の電極に対し、同相と逆相それぞれの場合で0.5Vの低電圧により周波数を変化させたときのインピーダンス値の変化を測定した。
また、振動モードの次数を知るために、レーザードップラー振動計(グラフテック社商品名AT7200)により、ガラス板の長手方向に走査しながら、振動変位量が極大値と極小値となる腹の数を数えることで計測した。
その結果、同相駆動で周波数45kHzにてインピーダンスが極小となり、9次の振動モードが現れた。
また、逆相駆動で8次の振動モードが周波数40kHzで極小となった。
また、共振周波数の変動速度よりも掃引速度を速くするため、掃引速度は同相駆動も逆相駆動も毎回の掃引時に極大値を持つように設定した。
共振周波数を駆動周波数が追い抜いているため、振動変位量は極大値をとる。
本実施例においては、共振周波数の変動速度は1Hz/秒以上1kHz/秒以下であったため、同相駆動も逆相駆動も掃引速度は10kHz/sとした。
【0042】
ここで、本発明による異物除去装置と効果を比較するために、ゴミに類似したポリプロピレン製ビーズを大きさ別に直径1μm、10μm、100μmの3種類を用意した。
この3種類のビーズを全てガラス板に付着させて、掃引駆動を行った後、光学顕微鏡で撮影した画像によりガラス板に残ったビーズの数を数えることでビーズの除去率を計測した。
このとき、低電圧駆動での異物除去性能を確認するために、通常使用する駆動電圧よりも7割の駆動電圧により掃引駆動を行なった。
掃引する周波数の範囲は、{(8次の振動モードが発生する周波数)+(9次の振動モードが発生する周波数)}/2を中心とする10kHzの幅の周波数とし、同相と逆相にて掃引を一定時間繰り返した。
【0043】
その時、ガラス板の中心付近で振動変位量が最大となる点で、同相駆動で掃引したときの周波数毎の振動変位量をレーザードップラー変位計にて計測した。
その結果、実施例1と同様に共振周波数付近で急激に振動変位量が増加した。
また、共振周波数を過ぎた後、共振周波数から離れて高周波数へ掃引しても振動変位量がそれ程減衰せずに推移したため、掃引時の振動変位量の積算変位量が大きくなることが分かる。
また、逆相で駆動したときの振動変位量も同様の傾向であった。また、1度の掃引で共振周波数が変動する範囲は、掃引する周波数範囲の10^(−5)倍であった。
ビーズの除去率を測定した結果、本実施例でのビーズの除去率は1μmのビーズ:87%、10μmのビーズ:87%、100μmのビーズ:89%であった。
【0044】
[実施例5]
実施例5として、実施例1で作製した異物除去装置を用いて、駆動周波数の掃引速度を共振周波数の変化よりも遅い速度で駆動した例について説明する。
ここで、本実施例による異物除去装置との効果を比較するために、ゴミに類似したポリプロピレン製ビーズを大きさ別に直径1μm、10μm、100μmの3種類を用意した。
この3種類のビーズを全てガラス板に付着させて、掃引駆動を行った後、光学顕微鏡で撮影した画像によりガラス板に残ったビーズの数を数えることでビーズの除去率を計測した。
このとき、低電圧駆動での異物除去性能を確認するために、通常使用する駆動電圧よりも7割の駆動電圧により掃引駆動を行なった。
掃引する周波数の範囲は、{(8次の振動モードが発生する周波数)+(9次の振動モードが発生する周波数)}/2を中心とする10kHzの幅の周波数とし、同相と逆相にて掃引を一定時間繰り返した。
また、共振周波数の変動速度よりも掃引速度が遅くなるように、掃引速度は同相駆動も逆相駆動も毎回の掃引時に極大値を持たないように設定した。
【0045】
その時、ガラス板の中心付近で振動変位量が最大となる点で、同相駆動で掃引したときの周波数毎の振動変位量をレーザードップラー変位計にて計測した。
その結果、振動変位量は極大値を持つこと無く高い振動変位量を維持しつづけ、掃引時の振動変位量の積算変位量が大きくなった。また、逆相で駆動したときの振動変位量も同様の傾向であった。
ビーズの除去率を測定した結果、本実施例でのビーズの除去率は1μmのビーズ:85%、10μmのビーズ:85%、100μmのビーズ:86%であった。
【0046】
(比較例1)
次に、比較例について説明する。
比較例1として、異物除去装置を圧電材料としてチタン酸ジルコン酸鉛を用い、既に分極処理がされている圧電素子により作製した。
上記圧電素子以外は、実施例1と同様の方法で異物除去装置を作製した。
なお、本比較例では、上記圧電材料にる圧電体は、アルキメデス法により密度を測定したところ、密度は7.5×103kg/m3、ヤング率は66GPaであった。
ここで、異物除去装置の8次、9次の振動モードが発生する共振周波数を知るために、インピーダンスアナライザーを用いて、第1の電極と第2の電極に対し、同相と逆相それぞれの場合で0.5Vの低電圧により周波数応答を測定した。
また、振動モードの次数を知るために、レーザードップラー振動計により、ガラス板の長手方向に走査しながら、振動変位量が極大値と極小値となる腹の数を数えることで計測した。
その結果、同相駆動で周波数35kHzにてインピーダンスが極小となり、9次の振動モードが現れた。
また、逆相駆動で8次の振動モードが周波数30kHzで極小となった。
【0047】
ここで、本発明による異物除去装置と効果を比較するために、ゴミに類似したポリプロピレン製ビーズを大きさ別に直径1μm、10μm、100μmの3種類を用意した。
この3種類のビーズを全てガラス板に付着させて、掃引駆動を行った後、光学顕微鏡で撮影した画像によりガラス板に残ったビーズの数を数えることでビーズの除去率を計測した。
このとき、低電圧駆動での異物除去性能を確認するために、通常使用する駆動電圧よりも7割の駆動電圧により掃引駆動を行なった。
掃引する周波数の範囲は、{(8次の振動モードが発生する周波数)+(9次の振動モードが発生する周波数)}/2を中心とする10kHzの幅の周波数とし、同相と逆相にて掃引を一定時間繰り返した。
また、本比較例における共振周波数の変動速度は−1kHz/秒以上、−1Hz/秒以下であった。掃引速度は同相駆動も逆相駆動も10kHz/sとした。
その時、ガラス板の中心付近で振動変位量が最大となる点で、同相駆動で掃引したときの周波数毎の振動変位量をレーザードップラー変位計にて計測した。
実施例1乃至5の結果に比べて、変位量の積算量は小さかった。
本比較例でのビーズの除去率は1μmのビーズ:75%、10μmのビーズ:75%、100μmのビーズ:75%であった。
【0048】
(比較例2)
比較例2では、上記比較例1と同様の方法で、ただし低周波数から高周波数へ向かって駆動周波数を掃引した。このとき、低電圧駆動での異物除去性能を確認するために、通常使用する駆動電圧よりも7割の駆動電圧により掃引駆動を行なった。
また、本比較例における共振周波数の変動速度は−1kHz/秒以上、−1Hz/秒以下であった。掃引速度は同相駆動も逆相駆動も10kHz/sとした。
その時、ガラス板の中心付近で振動変位量が最大となる点で、同相駆動で掃引したときの周波数毎の振動変位量をレーザードップラー変位計にて計測した。
その結果、実施例1乃至5の結果に比べて、変位量の積算量は小さかった。
本比較例でのビーズの除去率は1μmのビーズ:72%、10μmのビーズ:71%、100μmのビーズ:72%であった。
【0049】
(比較例3)
比較例3では、上記実施例1と同様の方法で、ただし掃引駆動するときの掃引方向は、高周波数から低周波数へ向かって行なった。
その時、ガラス板の中心付近で振動変位量が最大となる点で、同相駆動で掃引したときの周波数毎の振動変位量をレーザードップラー変位計にて計測した。
その結果を説明するための模式図を図4に示す。
駆動周波数を掃引すると共に、共振周波数付近で急激に振動変位量が減少した(図中Dの領域)。
また、実施例1乃至5の結果に比べ、共振周波数よりも高周波数側での振動変位量は小さく(図中Eの領域)、その結果、掃引したときの積算振動量も小さくなった。また、逆相で駆動したときの振動変位量も同様の傾向であった。
本比較例でのビーズの除去率は1μmのビーズ:72%、10μmのビーズ:72%、100μmのビーズ:73%であった。
以上の実験結果を表1に示す。
[表1]

【符号の説明】
【0050】
10:異物除去装置
20:振動体
30:圧電素子
31:圧電材料で形成される圧電体
32:第1の電極
33:第2の電極
35:第2の電極面
90:フレキシブルケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料で形成された圧電体を電極で挟持して構成された圧電素子と、
前記圧電素子が接合された振動体と、
前記圧電素子に交番電圧を印加する電源と、
を備え、前記電源による前記圧電素子への交番電圧の印加によって、前記振動体に振動を発生させる振動発生装置であって、
前記圧電素子は、交番電圧印加に伴なって共振周波数が高周波側に変化する圧電体によって構成され、
前記電源の印加による交番電圧の周波数を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記圧電素子へ印加された交番電圧の周波数を制御することにより、前記圧電素子が有する共振周波数の変化範囲を包含する周波数範囲において、該圧電素子の共振周波数を低周波数側から高周波数側に逐次変化させる構成を有することを特徴とする振動発生装置。
【請求項2】
前記圧電材料が、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸カリウムナトリウムから選択されるいずれか1種の単体または2種以上の固溶体を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の振動発生装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の振動発生装置の駆動方法であって、
前記交番電圧の周波数を変化させる速度を、前記圧電素子の共振周波数の変化速度よりも大きくすることを特徴とする振動発生装置の駆動方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の振動発生装置を有し、該振動発生装置による振動よって異物を除去することを特徴とする異物除去装置。
【請求項5】
請求項4に記載の異物除去装置を有し、該異物除去装置によって光路上の異物を除去することを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−39754(P2012−39754A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177526(P2010−177526)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】