説明

排ガス処理装置

【課題】脱硫装置の吸収液として海水を用い、かつ、格別な排水処理を設けることなく、放流海水中の水銀濃度を許容値以下に抑える。
【解決手段】石炭の燃焼により発生した水銀を含む酸性排ガスに、還元剤を添加して触媒存在下で酸性排ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝装置7と、脱硝装置7から排出される酸性排ガス中の硫黄酸化物を海水に吸収させて除去する脱硫装置13とを備え、脱硝装置7の入口側の酸性排ガス温度は、脱硝装置7における酸化水銀の生成反応を抑えて脱硫装置13の入口側の酸化水銀濃度が設定値以下になるような温度に設定することで、脱硫装置13の放流海水中の水銀濃度を許容値以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理装置に係り、特に、石炭の燃焼により発生した水銀を含む酸性排ガス中の硫黄酸化物を海水に吸収させて除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、石炭の燃焼により発生した窒素酸化物及び硫黄酸化物を含む酸性排ガスを脱硝装置に導入し、触媒存在下でアンモニア等の還元剤により窒素酸化物を還元し、脱硝装置から排出された酸性排ガス中の硫黄酸化物をカルシウム系等の吸収液に吸収させて除去する排ガス処理装置が提案されている。また、同文献には、酸性排ガス中に含まれている水銀は、脱硝装置の触媒により同排ガス中に含まれる塩素等のハロゲンと反応して酸化水銀に変換され、この酸化水銀は脱硫装置の吸収液に吸収されて除去されることから、脱硝装置における酸化水銀の生成反応を促進させて水銀の除去を行うことが記載されている。
【0003】
一方、特許文献2には、海の近くに脱硫装置を建設する場合、脱硫を安価に行うために、脱硫装置の吸収液に海水を利用することが提案されている。同文献は、硫黄酸化物を含む排ガスに海水を噴霧して海水に硫黄酸化物を吸収させた後、海水を炭酸カルシウムで中和処理して海に戻すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−226238号公報
【特許文献2】特開平8−206447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の脱硫装置の吸収液に、特許文献2に記載の海水を用いた場合、海水中に酸化水銀が溶け込んでしまうため、海水を放流する際に中和処理するだけでは、有害物質である水銀を除去することができない。そこで、放流する海水から水銀を除去するための排水処理を行わなければならないから、脱硫装置の吸収液として海水を用いる利点がない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、脱硫装置の吸収液として海水を用い、かつ、格別な排水処理を設けることなく、放流海水中の水銀濃度を許容値以下に抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、石炭の燃焼により発生した水銀を含む酸性排ガスに、還元剤を添加して触媒存在下で酸性排ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝装置と、脱硝装置から排出される酸性排ガス中の硫黄酸化物を海水に吸収させて除去する脱硫装置とを備え、脱硝装置の入口側の酸性排ガス温度は、脱硝装置における酸化水銀の生成反応を抑えて脱硫装置の入口側の酸化水銀濃度が設定値以下になるような温度に設定されることを特徴とする。
【0008】
これによれば、脱硝装置入口側の温度により酸化水銀の生成反応を調節できるから、脱硫装置に導入される酸性排ガスの酸化水銀濃度を制御でき、脱硫装置の吸収液である海水に吸収される酸化水銀を少なくして、放流する海水中の水銀濃度を許容値以下にできる。そのため、放流海水の水銀を除去する排水処理を行う必要がない。なお、脱硫装置入口側の酸化水銀濃度の設定値は、放流海水中の水銀濃度の許容値に応じて適宜選択する。
【0009】
なお、脱硝装置入口側の酸性排ガス温度を、脱硫装置から排出される放流海水中の水銀濃度が設定値以下になるような温度に設定することができる。すなわち、放流海水中の水銀濃度が許容値(規準値)以下になるように、脱硫装置から排出又は脱硫装置に循環される吸収液である海水中の水銀濃度の許容値を設定し、吸収液である海水中の水銀濃度を検出して許容値を満たすように、脱硝装置入口側の酸性排ガス温度を設定する。
【0010】
また、脱硫装置の後流側に酸性排ガス中の水銀を吸着除去する水銀吸着装置を設けることが好ましい。これによれば、排ガス処理装置から放出される排ガス中の水銀濃度を低減できる。
【0011】
なお、脱硝装置入口側の酸性排ガス温度は、放流海水中の水銀濃度の許容値に応じて適宜設定でき、例えば、100%負荷時において400℃以上になるように設定できる。すなわち、脱硝装置における酸化水銀の生成反応は、高温なると抑制されるから、脱硝装置入口側の酸性排ガス温度を高温にすることが好ましい。この場合において、脱硝装置入口側の酸性排ガス温度を過度に高くすると、脱硝率の低下や、触媒等の耐熱温度を超えるおそれがあるから、脱硝装置入口側の酸性排ガス温度は、例えば、450℃以下にすることが好ましい。
【0012】
また、本発明の発明者らは、脱硝装置入口側の酸性排ガス温度を400℃以上に設定し、かつ、脱硝装置の触媒をタングステンを添加したチタンにより形成することで、脱硝装置における酸化水銀の生成反応を抑制できることを知見した。特に、チタン/タングステン=60/1〜50/40の割合の触媒を用いることで、脱硝装置における酸化水銀の生成反応を一層抑制できる。
【0013】
また、脱硝装置における酸化水銀の生成反応は、酸性排ガス中の塩素濃度が高いと促進されるから、石炭を水洗処理して石炭に含まれる塩素分を減らした後に燃焼することが好ましい。これによれば、脱硝装置に導入される酸性排ガス中の塩素濃度を低減でるので、酸化水銀の生成反応を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脱硫装置の吸収液として海水を用い、かつ、格別な排水処理を設けることなく、放流海水中の水銀濃度を許容値以下に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態の排ガス処理装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態の排ガス処理装置1は、例えば、石炭を燃焼するボイラ3に接続され、ボイラ3から排出された排ガス、例えば、窒素酸化物、硫黄酸化物等の酸性成分及び水銀を含む排ガスを清浄処理するようになっている。
【0017】
排ガス処理装置1には、例えば、選択的接触還元法により排ガスを脱硝する脱硝装置7が設けられている。脱硝装置7は、排ガスに還元剤5、例えば、アンモニアを添加して触媒存在下で排ガス中の窒素酸化物を還元するようになっている。脱硝装置7の出口側には、例えば、ボイラ3の燃焼用空気を排ガスで加熱する空気予熱器9が設けられている。空気予熱器9の出口側には、排ガス中の飛灰等の粉粒体を捕集して排ガスから除去する集塵装置11が設けられている。集塵装置11の出口側には、排ガス中の硫黄酸化物を海水に吸収させて除去する湿式の脱硫装置13が設けられている。
【0018】
脱硫装置13は、例えば、ポンプ等により汲み上げた海水を排ガスに噴霧するようになっている。これにより、排ガス中の硫黄酸化物を海水に吸収させて除去できる。脱硫装置13には、例えば、図示していない浄化装置が設けられ、海水に吸収させた硫黄酸化物を除去し、硫黄酸化物を除去した海水を海に放流するようになっている。なお、脱硫装置13は、吸収液である海水を循環使用した後に放流する循環型、又は海水を循環使用せず、一度使用した海水を放流するワンスルー型等、適宜選択できる。
【0019】
脱硫装置13の出口側には、排ガス中の水銀を吸着除去する水銀吸着装置15が設けられている。水銀吸着装置15は、例えば、水銀を吸着可能な活性炭が充填される吸着塔17と、活性炭に吸着した水銀を除去して活性炭を再生する再生塔19が設けられている。これにより、図1の点線で示すように活性炭を循環使用して排ガスから水銀を除去できるようになっている。水銀吸着装置15の出口側には、煙突が設けられ、浄化された排ガスを大気中に放出するようになっている。
【0020】
次に、本実施形態の排ガス処理装置の特徴構成を説明する。脱硝装置7入口側の排ガス温度は、脱硫装置13入口側の酸化水銀濃度の検出値又は設計値が設定値以下になるような温度に設定される。脱硝装置7入口側の排ガス温度は、例えば、ボイラ3内の節炭器等の伝熱面積又はボイラ3内を通流する給水量を適宜調整することで設定できる。これにより、脱硝装置7の入口側排ガス温度を、脱硝装置7における酸化水銀の生成反応を抑える温度、例えば、400℃以上に設定する。また、酸化水銀濃度の設定値は、脱硫装置13の放流海水中の水銀濃度が許容限度の規準に応じて適宜設定する。すなわち、放流海水中の水銀濃度は、脱硫装置13入口側の酸化水銀濃度に相関し、脱硫装置13入口側の酸化水銀濃度は、脱硝装置7入口側の排ガス温度により調整できるので、脱硫装置13入口側の酸化水銀濃度が設定値以下になるように、脱硝装置7入口側の排ガス温度を設定する。
【0021】
このように構成される排ガス処理装置1の動作を説明する。ボイラ3から排出された排ガス中の窒素酸化物は、脱硝装置7により脱硝される。脱硝された排ガスは、空気予熱器9に導入され、ボイラ3の燃焼用空気との熱交換により減温される。減温された排ガス中の灰分や未燃炭素等の粉粒体は、集塵装置11により排ガスから除去される。集塵装置11から排出された排ガスには、脱硫装置13により海水が噴霧され、排ガス中の硫黄酸化物を海水に吸収させ脱硫される。硫黄酸化物を吸収した海水は、例えば、硫黄酸化物を除去する浄化処理がされた後、海に放流される。
【0022】
脱硫装置13から排出された排ガスは、水銀吸着装置15の吸着塔17に導入される。これにより、排ガス中の金属水銀が活性炭等の吸着材に吸着されて排ガスから除去される。水銀が除去された排ガスは、例えば、再加熱器により加熱された後、煙突21から大気中に放出される。
【0023】
次に、本実施形態の特徴作用を説明する。一般に、脱硝装置7の触媒存在下においては、以下の(式1)に示すいわゆる脱硝反応と、(式2)に示す二酸化硫黄の酸化により三酸化硫黄が生成する反応と、(式3)に示す金属水銀の酸化により酸化水銀が生成する反応が生じる。
4NO + 4NH + O → 4N + 6HO・・・(式1)
2SO + O → 2SO・・・(式2)
2Hg + 4HCl + O → 2HgCl + 2HO・・・(式3)
この(式3)の反応により、水に溶けにくい金属水銀(Hg)が水に溶けやすい酸化水銀(HgCl)に変換されるので、脱硝装置7の後流に配置した脱硫装置13の吸収液である海水に酸化水銀が溶け込み、脱硫装置13の放流海水に水銀が混じることになる。そこで、脱硫装置13の入口側の酸化水銀濃度が設定値以下になるように、脱硝装置7入口側の排ガス温度を、酸化水銀の生成反応を抑える温度に設定することで、脱硫装置13の海水に吸収される酸化水銀を少なくでき、放流する海水中の水銀濃度を許容値以下にできる。その結果、海水から水銀を除去するための処理設備を設ける必要がない。
【0024】
また、脱硫装置13の吸収液である海水中の酸化水銀濃度を検出し、この検出値が設定値以下になるように、脱硝装置7入口側の排ガス温度を、酸化水銀の生成反応が抑制される温度に設定する。すなわち、脱硫装置13から排出され又は脱硫装置13に循環される吸収液である海水中の水銀濃度の許容値を設定し、吸収液である海水中の水銀濃度が許容値以下になるように、脱硝装置7入口側の排ガス温度を設定することができる。これにより、脱硫装置13から排出される放流海水中の水銀濃度を設定値以下にできるから、水銀を除去するための処理設備を設ける必要がない。
【0025】
また、酸化水銀の生成反応は、後述する実施例によれば、高温雰囲気で抑制されるので、脱硝装置7入口側の排ガス温度を、例えば、100%負荷時において400℃以上に設定することが好ましい。なお、脱硝装置7入口側の排ガス温度を過度に高くすると、脱硝率の低下や、触媒等の耐熱温度を超えるおそれがあるから、脱硝装置7入口側の排ガス温度は、例えば、450℃以下にすることが好ましい。
【実施例】
【0026】
ここで、脱硝装置7入口側の排ガス温度と酸化水銀の生成率(水銀の酸化率)の関係を実施例に基づいて説明する。実施例1は、酸化チタンを触媒とした脱硝装置7において、脱硝率を90%に設定し、脱硝装置7入口側の排ガス温度を400℃に設定した例である。比較例1は、実施例1の条件において、脱硝装置7入口側の排ガス温度を350℃に設定した例である。比較例2は、脱硝装置7入口側の排ガス温度を380℃に設定した例である。これらの実施例1及び比較例1、2において、酸化水銀の生成率を実測した結果を表1に示す。なお、その他の測定条件は、表1に示すとおりである。
【0027】
【表1】

【0028】
これによれば、脱硝装置7入口側の排ガス温度を400℃に設定した実施例1は、350℃に設定した比較例1よりも約82%酸化水銀の生成を抑制でき、380℃に設定した比較例2よりも約67%酸化水銀の生成を抑制できた。すなわち、酸化水銀の生成反応は温度に相関し、温度が高くなると酸化水銀の生成反応を抑制できることがわかる。したがって、脱硝装置7入口側の排ガス温度により酸化水銀の生成反応を調節でき、脱硫装置13に導入される排ガスの酸化水銀濃度を制御できるから、脱硫装置13の海水に吸収される酸化水銀を少なくでき、放流する海水中の水銀濃度を許容値以下にできる。
【0029】
次に、脱硝装置7の入口側排ガス温度を400℃に設定した実施例1の触媒に、酸化チタンに助触媒としてタングステンを添加した触媒を用いた例を実施例2とし、実施例2の石炭を水洗処理した後に燃焼した例を実施例3として、実施例3の触媒量を減らして脱硝率を80%に設定した例を実施例4として、酸化水銀の生成率(水銀の酸化率)を実測した結果を、表2に示す。その他の測定条件は、実施例1と同一である。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例2〜4によれば、実施例1と比較して、さらに、酸化水銀の生成反応を抑制できることがわかる。つまり、脱硝装置7入口側の排ガス温度を400℃に設定し、かつ、タングステン(W)を添加した酸化チタンにより触媒を形成することで、酸化水銀の生成反応を一層抑制できる。なお、助触媒であるタングステンの割合は、要求される脱硝率や排ガス温度、排ガス量等に応じて適宜選択できる。しかし、添加するタングステン量が少なすぎると、酸化水銀の生成を抑制する効果が低くなり、また、触媒劣化速度が速くなる。一方、タングステンは高価であるから、過剰なタングステンの使用は触媒価格を著しく高くする。したがって、タングステンの添加量は、Ti/W=60/1〜50/40の範囲にすることが好ましい。
【0032】
また、金属水銀と塩化水素が反応して酸化水銀が生成するから、実施例3に示すように、石炭を水洗処理して石炭に含まれる塩素分を少なくした後に燃焼することで、ボイラ3から排出される排ガス中の塩素分を少なくでき、酸化水銀の生成を抑制できる。また、求められる脱硝率が、例えば、実施例4に示すように80%の場合は、脱硝装置7内に設置する触媒量を減らすことで、触媒による酸化水銀の生成反応を抑制できる。したがって、実施例2〜4によっても、脱硫装置13における酸化水銀の生成反応を抑制でき、脱硫装置13に導入される排ガス中の酸化水銀濃度を少なくできるから、脱硫装置13の海水に吸収される酸化水銀を少なくでき、放流する海水中の水銀濃度を許容値以下にできる。
【符号の説明】
【0033】
1 排ガス処理装置
5 還元剤
7 脱硝装置
13 脱硫装置
15 水銀吸着装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭の燃焼により発生した水銀を含む酸性排ガスに、還元剤を添加して触媒存在下で酸性排ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝装置と、該脱硝装置から排出される酸性排ガス中の硫黄酸化物を海水に吸収させて除去する脱硫装置とを備え、
前記脱硝装置の入口側の酸性排ガス温度は、前記脱硝装置における酸化水銀の生成反応を抑えて前記脱硫装置の入口側の酸化水銀濃度が設定値以下になるような温度に設定されてなる排ガス処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排ガス処理装置において、
前記脱硫装置の入口側の酸化水銀濃度に代えて、前記脱硫装置から排出され又は前記脱硫装置に循環される吸収液である海水中の酸化水銀濃度が設定値以下になるような温度に、前記脱硝装置の入口側の酸性排ガス温度は設定されてなる排ガス処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の排ガス処理装置において、
前記脱硫装置から排出される酸性排ガス中の水銀を吸着除去する水銀吸着装置が設けられることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の排ガス処理装置において、
前記脱硝装置を通流させる酸性排ガスの温度は、400℃以上に設定されることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の排ガス処理装置において、
前記脱硝装置の触媒は、タングステンを添加したチタンにより形成されることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の排ガス処理装置において、
前記石炭は、水洗処理された後に燃焼されることを特徴とする排ガス処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−45521(P2012−45521A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192295(P2010−192295)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】