説明

排ガス分析装置および排ガス分析方法

【課題】 排ガス分析の精度を向上させることができ、排ガス分析を容易にリアルタイムで行なえ、低コストで分析が可能な排ガス分析装置を提供する。
【解決手段】 排ガス分析装置10は、エンジン2から排出される排ガスに、レーザダイオードLD1〜LD5に駆動パルスを印加して発生させたレーザ光を光ファイバ24を通して照射し、排ガス中を透過したレーザ光をディテクタ25で受光し、受光された透過レーザ光に基づいて排ガスの成分の濃度や温度を測定し、レーザ光の光強度を調整する光減衰器34をさらに備え、光減衰器34は受光された透過レーザ光に基づいて差分型光検出器40でフィードバック補正量を算出しフィードバック制御される。駆動パルス50は電流値が経時変化する電流走査区間52と、この電流走査区間に連続し、電流値が一定となる電流一定区間51とを備え、さらに終了電流一定区間53を備えると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の排ガスの分析装置および排ガス分析方法に係り、特に、排気経路中に取り付けることで、排気経路中を通過する排ガスの成分濃度や温度を正確にリアルタイムに測定でき、低コストで排ガスを分析できる排ガス分析装置と、排ガス分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の排ガス分析装置として、特許文献1に記載の車載型HC測定装置がある。この測定装置は、エンジンに連なる排気管を流れる排ガス中のHC(炭化水素)濃度を連続的に測定するためのNDIR(非分散型赤外分光法)型ガス分析計と、排気管を流れる排ガスの流量を連続的に測定する排ガス流量計と、NDIR型ガス分析計および排ガス流量計のそれぞれの出力を演算処理して、排ガス中のTHC(全炭化水素)量を連続的に算出する演算処理回路を車両内に搭載可能としている。
【0003】
前記の特許文献1等に記載のNDIR(Non−Dispertive Infrared Analyzer)非分散型赤外分光法では、サンプルガスが供給されるセル内に、赤外光を照射する赤外光源が設けられている。
【0004】
また、前記の非分散型赤外分光法や、FID(Flame Ionization Detector)法、CLD(Chemical Luminescence Detector)法等を用いた各種の排ガスの計測装置や分析装置があるが、これらの測定法は、すべての測定原理において、校正用の基準ガスや、分析に使用するための補助ガスが必要となる。さらに、赤外線吸収法による測定では、赤外レーザ光発生手段に印加される駆動パルスは、波長を掃引するため三角波の駆動パルスが使用されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−117259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記構造の車載型HC測定装置や、他の排ガス分析装置では、前記のとおり測定に際して基準ガスや補助ガスが必要であり、基準ガス等の設備を含めて分析装置全体が大掛かりになると共に、多大なランニングコストが必要である。また、これらの化学分析を実施するには、排ガス中の水分や汚れ(すす)を除去したあとに測定を行なう必要があり、分析する排ガスをサンプリングし、希釈等の処置を施して分析を行なうため、排ガスのリアルタイム分析ができない。
【0007】
さらに、赤外線吸収法による測定では、レーザ光発生手段に印加される駆動パルスは通常、前記のとおり三角波が使用されている。この三角波状の駆動パルスPは、例えば図12に模式的に示されるような形状をしており、数Hz〜数10Hz程度の周波数帯のパルスを使用している。図12において、横軸は時間tを示し、縦軸は電流値Aを示している。この三角波の駆動パルスPをレーザ光発生手段に印加すると、所定の周波数帯にピークを有するレーザ光を発生させることができ、周波数帯を排ガス中の成分ガスに合わせることで成分ガス濃度を測定できる。
【0008】
しかしながら、このようにして発生させたレーザ光は、ピークの光強度を一定にすることが難しく、排ガス分析を行うときにノイズによりピーク部分が埋もれて正確なガス濃度測定が行えない問題点がある。前記のノイズは、例えばエンジン始動の振動による光学的ノイズ、電気的ノイズ等が含まれる。また、レーザ光の光強度を一定化させるべく、レーザ光の光強度を測定してフィードバック制御することも行われているが、光強度のばらつきを一定化させることが難しいのが現状である。さらに、特許文献1に記載の測定装置は、HC以外の成分ガスの測定ができない。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、排ガス中を通過させるレーザ光の光強度が安定しており、ノイズを除去して排ガス分析の精度を向上させることができる排ガス分析装置および排ガス分析方法を提供することにある。また、基準ガス等を用いることなく、容易に排ガス分析をリアルタイムで行なえ、低コストで多種の成分ガスの分析が可能な排ガス分析装置と排ガス分析方法を提供することにある。さらに、構成が簡単で小型化でき、車載することもできる排ガス分析装置と、排ガス分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、排ガス分析装置に使用するレーザ光の光強度を一定化させるレーザ光発生手段につき鋭意研究を重ねた結果、以下の特徴を有する本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明に係る排ガス分析装置は、エンジンから排出される排ガスに、レーザ光発生手段に駆動パルスを印加して発生させたレーザ光を照射し、排ガス中を透過したレーザ光を受光し、受光されたレーザ光に基づいて排ガスの成分の濃度や温度を測定して排ガスを分析する装置であって、この装置はレーザ光発生手段から発生されるレーザ光の光強度を調整する光減衰器をさらに備え、光減衰器は受光されたレーザ光に基づいてフィードバック制御されるものであり、レーザ光発生手段に印加される駆動パルスは、電流値が経時変化する電流走査区間と、電流走査区間に連続し、電流値が一定となる電流一定区間とを備えていることを特徴としている。
【0011】
前記のごとく構成された本発明の排ガス分析装置は、レーザ光発生手段に供給される駆動パルスに電流値が一定の電流一定区間を形成し、この電流一定区間で波長を固定して得られた信号光と測定光の光バランスを一定に保てるように、例えば測定光側に挿入された光減衰器をフィードバック制御で調整するため、信号光と測定光のバランスを正確に保つことができる。このため、排ガスによる熱揺らぎやレーザ光と受光部分との光軸のずれ、レーザ光を反射させるミラー等の汚れによってバランスが崩れても、光減衰器を調整してレーザ光発生手段にフィードバックをかけることでバランスを初期状態に復帰させることができ、精度の良い排ガス分析が可能となる。また、この排ガス分析装置は、基準ガスを必要としないため、リアルタイムで容易に排ガスを分析できると共に、低コストで多種の成分ガスを分析することができる。
【0012】
また、本発明に係る排ガス分析装置の好ましい具体的な態様としては、前記駆動パルスは、前記電流走査区間の始端側の電流値で一定となる開始電流一定区間と、この開始電流一定区間から直線的に電流が増加する前記電流走査区間とを備えることを特徴としている。この構成によれば、電流値が一定の開始電流一定区間から直線的に電流が増加する電流走査区間を有する駆動パルスをレーザ光発生手段に印加することで、オーバーシュートを防止してレーザ光を安定させて発生させることができる。すなわち、始端側に開始電流一定区間を設けることで、発振開始時に波形にノイズがのる可能性を除去できる。
【0013】
さらに、本発明に係る排ガス分析装置の好ましい具体的な他の態様としては、前記駆動パルスは、前記電流走査区間に連続し、電流走査区間の終端の電流値で電流を一定とした終了電流一定区間をさらに備えることを特徴としている。この構成によれば、電流値が経時変化する電流走査区間の前段に開始電流一定区間を有し、後段に終了電流一定区間を有しているため、中間の電流値を経時変化させることでレーザ光の波長を掃引し、吸収波長を含む波長域の前後を吸収の無い一定波長で固定でき、波長安定性を高めることができる。
【0014】
他の態様として、排ガスが通過する貫通孔に前記レーザ光を照射する照射部と、排ガス中を透過したレーザ光を受光する受光部とを備えるセンサ部を形成し、該センサ部を排ガスの排気経路中に設置し、前記照射部から排ガスにレーザ光を照射した後、前記受光部で排ガス中を透過したレーザ光を受光して排ガスを分析することが好ましい。特に、このセンサ部を排気経路中の複数箇所に設置することが好ましい。このように構成すると、エンジンから排出される排ガスの排気経路中の途中位置における排ガスの成分の濃度や温度を測定することができ、例えば触媒装置を通過する前後の排ガスの成分の濃度等をリアルタイムで検出することができる。また、装置構成を簡単にでき、小型化できるので車載することも可能となる。
【0015】
本発明に係る排ガス分析方法は、レーザ光発生手段に、電流値が経時変化する電流走査区間と、該電流走査区間に連続し、電流値が一定となる電流一定区間とを備える駆動パルスを印加してレーザ光を発生させ、該レーザ光を信号用レーザ光と測定用レーザ光に分波し、該測定用レーザ光を光減衰器を介して排ガスに照射して排ガスを透過したレーザ光を受光し、受光された透過レーザ光と信号用レーザ光とに基づいて光減衰器を補正するフィードバック補正量を算出し、該フィードバック補正量を光減衰器に入力して測定用レーザ光の光強度を調整すると共に、信号用レーザ光と透過レーザ光とに基づいて排ガスの成分の濃度や温度を算出することを特徴とする。このフィードバック補正量は、透過レーザ光を差分型光検出器に入力し、透過レーザ光と信号用レーザ光との光バランスから算出することが好ましい。この構成によれば、排ガス中を透過したレーザ光に基づいてレーザ光発生手段から発生されるレーザ光の光強度を調整し、調整された光強度のレーザ光により信号用レーザ光と透過レーザ光との光バランスを制御することで、エンジン等の排気経路内の環境の変化に対応でき、精度の良い排ガス分析を行なうことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の排ガス分析装置および排ガス分析方法は、レーザ光を発生させる手段に印加する駆動パルスを、電流が直線的に変化する電流走査区間と、該電流走査区間に連続し、電流値が一定となる電流一定区間とを備える形状とすることで、オーバーシュートの無い状態でレーザ光を発生させることができ、レーザ光の波長安定性を高めることができる。また、この駆動パルスを用いてレーザ光発生手段から発生されるレーザ光の光強度を調整することで、信号光と測定光とのバランスが良くなり、精度の高い排ガス分析を行うことができる。さらに、この波長安定性の高いレーザ光を用いて、基準ガスを使用しないで排ガスの成分の濃度を正確に低コストで検出することができる。そして、排気パイプ末端からの最終形態の測定だけでなく、排気経路の途中位置での多種類の成分ガスの測定が行なえると共に、高温状態での測定が可能なため排出直後の高温の排ガスの成分の濃度測定も行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る排ガス分析装置の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る排ガス分析装置を車両に搭載した要部構成図、図2は、図1の排ガス分析装置をエンジンベンチに設置した状態の要部構成図、図3は、排ガス分析装置のセンサ部の要部構成を示す分解斜視図、図4は、レーザ発振・受光コントローラの要部構成および信号解析部としてパーソナルコンピュータを含む排ガス分析装置の全体構成を示すブロック図である。
【0018】
図1において、本実施形態の排ガス分析装置10は、自動車1に設置されたエンジン2から排出される排ガスを分析する装置である。また、図2に示すように、エンジンベンチ1Aに設置されたエンジン2の排ガスを分析する装置である。エンジン2の各気筒から排出される排ガスは、エキゾーストマニホルド3で合流され、排気管4を通して第1触媒装置5に導入され、さらに第2触媒装置6に導入され、そのあとマフラー7を通して排気パイプ8から大気中に放出される。排気経路は、エキゾーストマニホルド3、排気管4、第1触媒装置5、第2触媒装置6、マフラー7、排気パイプ8を接合して形成され、エンジン2から排出された排ガスを第1触媒装置5で浄化し、さらに第2触媒装置6で浄化したあと、マフラー7により消音、減圧して大気中に放出する。なお、マフラーはメインマフラーとサブマフラーの2つを有するものでもよい。
【0019】
排気経路を構成する複数の部材は基本的にはパイプ状の管部材であり、フランジ部同士を対接させてボルト等で接続されている。例えば、第1触媒装置5は大径の本体部の上流、下流側に排気パイプ部が連結され、これらの排気パイプ部の端部にフランジ部F,Fが溶接等により固着されている。また、第2触媒装置6も大径の本体部の上流、下流側に排気パイプ部が連結され、これらの排気パイプ部の端部にフランジ部F,Fが固着されており、フランジ部を接続して排気経路が構成されている。なお、末端の排気パイプ8はマフラー7に直接溶接等により固着されている。
【0020】
本実施形態の排ガス分析装置10は、前記の排気経路中の複数箇所に取り付けられた複数のセンサ部11〜14を備えて構成される。第1のセンサ部11は第1触媒装置5より上流側のエンジン側の排気管4との間に設置され、第2のセンサ部12は第1触媒装置5の下流側に設置され、第3のセンサ部13は第2触媒装置6の下流側に設置されている。そして、第4のセンサ部14はマフラー7の下流の排気パイプ8に設置されている。センサ部14は排気パイプの途中に設置されても、排気パイプの末端の開口部に挿入して設置するものでもよい。第1のセンサ部11は、エキゾーストマニホルド3で合流する前の1気筒毎の排気管に設置するように構成してもよい。
【0021】
排気管4や第1触媒装置5、第2触媒装置6、マフラー7は、図3に示すように、フランジ部F,Fをボルト(図示せず)で締め付けることで連結されており、排気経路を構成する部材の間に設置されるセンサ部11,12,13は、フランジ部F,Fで挟まれた状態で設置されている。フランジ部F,Fは、排気経路を構成する部材の両端部に形成され、フランジ部同士の接合面は排気経路の中心線に対して直角に交差している。この結果、センサ部11〜13はフランジ部F,Fに挟まれて排気経路を横切るように設置される。第4のセンサ部14は排ガスが大気中に放出される直前の分析を行うものであり、マフラー7から突出する排気パイプ8の中間部にフランジ部F,Fで挟んで設置してもよい。なお、センサ部の設置数は任意に設定すればよい。
【0022】
排気経路中に取り付けられるセンサ部11〜14はほぼ同一構成であり、1つのセンサ部11について、図3,4を参照して詳細に説明する。センサ部は厚さが例えば5〜20mm程度の所定厚さの板材から形成されたセンサベース21を有し、中心部に排気パイプ部の内径と略同じ直径の貫通孔22が形成されている。貫通孔22は排気経路中を通過する排ガスが通過する。貫通孔22の形状は、排気流れを乱さないように排気パイプ部の内径とほぼ同じ直径の円形が好ましい。板材としては金属板材やセラミック製の板材を用いているが、材質については特に問わない。センサベース21には外周面から貫通孔に向けて貫通する2つのセンサ孔21a,21bが形成されている。一方のセンサ孔21aにはレーザ光を集光するコリメータ23が固定され、このコリメータにレーザ光を照射する光ファイバ24が接続され、他方の孔21bにはレーザ光を受光するフォトダイオード等のディテクタ25が固定されている。
【0023】
センサベース21の貫通孔22内には、対向して上下2枚の反射板26,27が固定されている。2枚の反射板は平行状態に固定され、照射側の光ファイバ24からコリメータ23を通して集光され出射される赤外レーザ光が先ず下方の反射板27により上方に向けて反射され、次いで上方の反射板26により下方に向けて反射され、2枚の反射板26,27により交互に反射されることで、受光側のディテクタ25に到達するように構成されている。このようにして、レーザ光の排ガス中の透過距離が長くなるように設定されている。
【0024】
反射板26,27は排ガスにより劣化しないもので形成されることが好ましく、ベースとなる板材に金やプラチナ等の薄膜が形成され、その上に保護層として、MgFやSiOの薄膜が形成されているものが好ましい。また、反射板は、赤外レーザ光を効率良く反射できるように反射率が高いことが望ましい。反射板はエンジンの起動中は排ガスに晒され、汚れが付着するため、必要に応じてフランジ部F,Fからセンサベース21を取外して清掃することが好ましい。反射面を覆う保護層を拭くことにより、付着した汚れを容易に清掃することができ、反射率を向上させることができる。
【0025】
センサベース21はフランジ部F,Fに挟まれた状態で固定され、フランジ部F,Fとセンサベース21との間にはガスケット28,28が挟まれた状態で図示していないボルト、ナット等により固定される。ガスケット28は石綿等で形成され、排気管の内径と同じ直径の貫通孔が開けられている。この構成により、フランジ部F,Fの間にセンサベース21を挟んで排気経路を接続しても、排ガスが途中で漏れることはなく、排気経路の長さの増加も少ない。図3では、排気管4の下流端に溶接されたフランジ部Fと、第1触媒装置5の上流側の排気パイプ部5aの端部に溶接されたフランジ部Fとの間に、ガスケット28,28を挟んでセンサベース21が固定される構成である。
【0026】
センサ部11にレーザ光を供給する光ファイバ24と、センサ部11で排ガス中を透過したレーザ光を受光して電気信号を出力するディテクタ25はレーザ発振・受光コントローラ30に接続される。すなわち、レーザ発振・受光コントローラ30の後述するレーザダイオードから出射される赤外レーザ光が、光ファイバ24を通してセンサベース21のセンサ孔21aを通して貫通孔22内に照射され、反射面26,27で反射された赤外レーザ光がセンサ孔21bを通して受光側のディテクタ25で受光され、ディテクタ25から出力される電気信号がケーブル29を介してレーザ発振・受光コントローラ30に入力される構成となっている。
【0027】
レーザ発振・受光コントローラ30から出射された赤外レーザ光の信号光の発光強度と、排ガス中を透過しディテクタ25で受光された測定光(透過レーザ光)の受光強度が信号解析部であるパーソナルコンピュータ45に供給され、パーソナルコンピュータで排ガスの成分の濃度や温度を測定して分析する構成となっている。このように、排ガス分析装置10は、複数のセンサ部11〜14と、レーザ発振・受光コントローラ30と、パーソナルコンピュータ45とを備えて構成される。そして、この排ガス分析装置10は、エンジンから排出される排ガスをセンサ部の貫通孔22に導入し、排ガスに光ファイバ24を通してレーザ光を照射し、排ガス中を透過したレーザ光をディテクタ25で受光し、受光されたレーザ光に基づいて排ガスの成分の濃度や温度を測定して分析する装置である。
【0028】
ここで、レーザ発振・受光コントローラ30について、図4を参照して説明する。レーザ発振・受光コントローラ30は、複数の波長の赤外レーザ光を発生するレーザ光発生手段として、複数のレーザダイオードLD1〜LD5にファンクションジェネレータ等の信号発生器31から複数の周波数の信号を供給し、レーザダイオードLD1〜LD5は各周波数に対応してそれぞれ複数の波長の赤外レーザ光を発生させる。レーザ発振・受光コントローラ30の信号発生器31から出力される複数の周波数の信号がレーザダイオードLD1〜LD5に供給されてレーザ光を発生し、例えばLD1は波長が1300〜1330nm程度、LD2は1330〜1360nmというように、検出しようとする成分ガスのピーク波長が存在する波長帯が連続するような波長帯の赤外レーザ光を発生させるように設定されている。
【0029】
排ガス中を透過させる赤外レーザ光の波長は、検出する排ガス成分に合わせて設定され、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、アンモニア(NH)、メタン(CH)、水(HO)を検出する場合は、5つの波長の赤外レーザ光を使用する。例えば、アンモニアを検出するのに適した波長は1530nmであり、一酸化炭素を検出するのに適した波長は1560nmであり、二酸化炭素を検出するのに適した波長は1570nmである。また、メタンを検出するのに適した波長は1680nmであり、水を検出するのに適した波長は1350nmである。このように、排ガス中を透過させる赤外レーザ光は、複数種類の単波長レーザ光を合波したレーザ光を使用することが好ましい。さらに、他の排ガスの成分の濃度を検出する場合は、排ガス成分の数に合わせて異なる波長の赤外レーザ光を使用する。排ガスの成分の濃度の測定は、同じ成分でも異なる波長を用いて測定することができるため、適当な波長を選択して測定すればよい。このように、レーザダイオードLD1〜LD5は、複数種類の波長帯を有する単一のレーザ光発生手段(単一光源)を構成する。
【0030】
各レーザダイオードLD1〜LD5から発生されたレーザ光は光ファイバ32…により分波器33…を通して、信号光と測定光に分けられる。そして、5つの分波器33…で分けられた測定用レーザ光は途中に光減衰器34を設置した光ファイバ35Aを通して合波器36で合波され、光ファイバ24を通してセンサ部11〜14の照射部に導光され、コリメータ23を通して貫通孔22内に照射される。また、5つの分波器33…で分けられた信号用レーザ光は光ファイバ35Bを通して合波器37で合波される。測定用および信号用のレーザ光は、排ガスの複数の成分ガスに合わせて複数の波長のレーザ光を合波した赤外レーザ光となっている。
【0031】
本実施形態では、前記のように分波器33で分波された測定用レーザ光は光減衰器34を通して合波されるように構成されている。この光減衰器34は測定用レーザ光の光強度を制御して排ガス中を透過させる測定用レーザ光の強度を調整する機能を有している。すなわち、排ガス中を透過した透過レーザ光の光強度と信号用レーザ光の光強度とに基づいてフィードバック補正量を算出し、この補正量を光減衰器34に入力して測定用レーザ光の光強度を調整する。光減衰器34は、レーザ光の光路中に透過率を変更できるフィルタを置き、透過光量を変更して光強度を調整するもの、また光路中にミラーを置き、ミラーの反射角度を変更して光強度を調整するもの等、適宜の形態のものを使用できる。なお、光減衰器は分波された信号用レーザ光を調整するように構成してもよく、信号用レーザ光と測定用レーザ光の両方を調整するように構成してもよい。
【0032】
信号発生器31から出力されレーザダイオードLD1〜LD5に供給される駆動パルス50は、図5,6に示されるような開始電流一定区間51と、この開始電流一定区間に連続する電流走査区間52と、さらにこの電流走査区間に連続する終了電流一定区間53とを備えて形成される。より詳細には、本実施形態の駆動パルス50は、電流値が経時変化する電流走査区間52の始端側の電流値で電流を一定とした開始電流一定区間51と、この開始電流一定区間に連続し、時間と共に電流値が直線的に増加する電流走査区間52と、この電流走査区間に連続し、この電流走査区間の終端の電流値で電流を一定とした終了電流一定区間53とを備えて構成される。一例として、1つのパルスの時間幅はおよそ30〜100μS程度に設定され、電流値は最大値で数100〜400mA程度に設定されている。
【0033】
図5はレーザダイオードを2つ使用する場合の駆動パルスを示しており、例えば上段の駆動パルスはレーザダイオードLD1に相当し、下段の駆動パルスはレーザダイオードLD2に相当する。レーザダイオードが5つの場合は、図示していないが5つの駆動パルスが順次、時間的にずらされて形成される。図5の横軸は時間tを示し、縦軸は電流値Aを示している。なお、図中の破線で示す三角波は、従来の駆動パルスである図12に示す三角波Pを重ねて示している。
【0034】
このような駆動パルス50を用いてレーザダイオードを駆動すると、図6に示すように、T1〜T2の開始電流一定区間51では電流値が一定のため波長は一定波長λ1で固定され、発振開始時に波形にノイズがのる可能性を少なくすることができる。そして、T2〜T3の電流走査区間52では電流の変化に伴って波長が掃引され、吸収波長を含む波長域で排ガスの吸収強度がピーク波長λ2となって現れ、排ガスの成分の濃度を測定することができる。また、T3〜T4の終了電流一定区間53では電流値が一定のため波長が一定波長λ3に固定される。このように、電流値が一定の開始電流一定区間51と、終了電流一定区間53では波長が固定され光強度が一定となるため、ピーク波長の光強度が安定する。この結果、レーザ光強度バランスに基づいて後述する差分型光検出器40からフィードバック線41を介して光減衰器34をフィードバック制御して信号用レーザ光の光強度を安定した状態で調整することができる。そして、電流値が直線的に増加する電流走査区間52では排ガスの成分ガスに相当するピーク波長の光強度から排ガスの成分の濃度や温度を正確に測定することができる。
【0035】
なお、駆動パルスは図7aの前記した駆動パルス50の代わりに、図7bの駆動パルス61のように、電流走査区間61bの始端側の電流値で電流を一定とした開始電流一定区間61aと、開始電流一定区間から連続して電流値が経時変化する電流走査区間61bとから構成してもよい。また、図7cの駆動パルス62のように、電流走査区間62bの始端側の電流値で電流を一定とした開始電流一定区間62aと、これに連続して電流値が直線的に減少する電流走査区間62bと、これに連続して終端の電流値で電流を一定とした終了電流一定区間62cとから構成してもよい。さらに、図7dの駆動パルス63のように、電流走査区間63bの始端側の電流値で電流を一定とした開始電流一定区間63aと、これに連続して電流値が直線的に減少する電流走査区間63bとから構成することもできる。駆動パルスは、前記のように電流走査区間と、この電流走査区間に連続する開始電流一定区間と終了電流一定区間との少なくとも一方を備えていれば、どのような形状でもよい。
【0036】
前記のいずれの駆動パルス50,61,62,63も、電流値が一定の開始電流一定区間を有しているためレーザ光の波長をガス成分による吸収の無い一定波長で固定して発振開始時にノイズののる可能性を除去でき、レーザ光の光強度バランスの調整を精度良くフィードバック制御することができる。また、電流値が経時変化する電流走査区間で波長掃引させることができ、排ガスの成分ガスによる吸収に合わせたピーク波長の光強度を用いて排ガスの成分の濃度等を検出することができる。特に、電流値が一定の開始電流一定区間と終了電流一定区間が電流走査区間の両側にある場合は、光強度バランスをより安定させることができ、排ガスの成分の濃度等の測定精度を向上させることができる。
【0037】
図4において、センサ部11の受光部に固定されたディテクタ25から出力される電気信号は、ケーブル29を介して差分型光検出器40に供給される。また、信号光用合波器37から光ファイバ38で供給された信号用レーザ光は差分型光検出器40に入力され、フォトダイオード等の光電変換器により電気信号に変換される。差分型光検出器40は、排ガス中を透過した測定用レーザ光の電気信号と、排ガス中を透過しない信号用レーザ光の電気信号とに基づいて、測定光の光強度を一定にするべくフィードバック補正量を算出し、フィードバック線41を通して測定光用合波器36の前段に配置された光減衰器34に入力する。
【0038】
フィードバック補正量は成分ガスごとに算出され、成分ガスのピーク波長を発生させるレーザダイオードの測定光ごとに光減衰器34に供給され、測定光の光強度を調整制御する。また、差分型光検出器40は複数のセンサ部から出力された電気信号を、排ガスの成分の濃度や温度を算出する信号解析部としてのパーソナルコンピュータ45に入力する。なお、信号光は差分型光検出器に直接入力させず、フォトダイオード等を介して電気信号に変換してから入力してもよい。
【0039】
光減衰器34では、供給されたフィードバック補正量に基づきレーザダイオードから発生されたレーザ光を減衰させて、信号光と測定光との光強度が一定となるように、レーザダイオードLD1〜LD5を制御する。差分型光検出器40で算出された信号光と測定光の差分に相当する電気信号は、例えば図示していないプリアンプで増幅され、A/D変換器を介して信号解析部であるパーソナルコンピュータ45に入力され、パーソナルコンピュータでは差分型光検出器からのデータを濃度値へ変換して排ガスの成分の濃度の算出や、排ガスの温度を算出する。
【0040】
なお、センサ部11〜14の受光部としてセンサベース21に固定されたディテクタ25の代わりに、受光用の光ファイバをセンサベース21に固定し、受光されたレーザ光を分波器でガス成分ごとに分波して、フォトダイオード等でガス成分ごとの出力電圧を検出し、測定光と信号光とからパーソナルコンピュータ45で排ガスの成分の濃度を算出するように構成してもよい。
【0041】
本発明の排ガス分析装置10は、例えば赤外レーザ光を排ガス中に透過させ、入射光の強度と排ガス中を透過したあとの透過光の強度に基づいて排ガスの成分の濃度を算出し、排ガスを分析するものである。すなわち、排ガスの成分の濃度Cは、以下の数式(1)から算出される。
【0042】
C=−ln(I/I)/kL…(1)
【0043】
この数式(1)において、Iは透過光強度、Iは入射光強度、kは吸収率、Lは透過距離である。したがって、信号光である入射光強度(I)に対する透過光強度(I)の比、シグナル強度(I/I)に基づいて排ガスの成分の濃度Cは算出される。透過光強度Iは、光ファイバ24を通して排ガス中を透過してディテクタ25から出力され、入射光強度Iは、合波器37から光ファイバ38を通して差分型光検出器40に入力され、図示していないフォトダイオード等から出力される。本実施形態では入射光強度Iとして排ガス中を透過しない信号光強度を用いている。
【0044】
前記の如く構成された本実施形態の排ガス分析装置10の動作について以下に説明する。排ガスの成分の濃度等を測定して排ガスを分析するときは、レーザ発振・受光コントローラ30の信号発生器31を作動させて各レーザダイオードLD1〜LD5に図5に示すような駆動パルス50を印加して各レーザダイオードLD1〜LD5から所定の波長の赤外レーザ光を発生させる。各レーザダイオードLD1〜LD5から発生された赤外レーザ光は、光ファイバ32…を通して分波器33…に至り、ここで測定光と信号光に分波される。各分波器で分波された測定光は光減衰器34、光ファイバ35Aを通して合波器36で合波されて測定用レーザ光となり、センサ部11〜14の照射部に光ファイバ24を通して導光される。また、各分波器33…で分波された信号光は光ファイバ35Bを通して合波器37で合波されて信号用レーザ光となり、差分型光検出器40で入射光強度Iとして計測される。
【0045】
信号発生器31から出力される駆動パルス50は図5に示されるような開始電流一定区間51と、電流値が直線的に増加する電流走査区間52と、さらに終了電流一定区間53とを有しており、前後の電流一定区間では発光するレーザ光の波長が変わらず、中間の電流走査区間でのみ波長が変化するため、ノイズの少ない安定したレーザ光を発生させることができる。すなわち、図6に示すように、開始電流一定区間51では吸収の無い一定波長λ1で固定し、中間の電流走査区間で電流値を経時変化させることで波長を掃引し、吸収波長を含む波長域でレーザ光の吸収強度を計測することによりピーク波長を安定させることができ、ノイズ成分を低減してS/N比を向上させることができる。また、終了電流一定区間53では一定波長λ3で波長を固定する。
【0046】
そして、センサ部11〜14に光ファイバ24から照射された測定用レーザ光は、排ガスが通過している貫通孔22内に照射される。測定用レーザ光は反射面26,27で反射されることを繰り返して受光部のディテクタ25に到達する。排ガス中を通り減衰した測定用レーザ光は受光部であるディテクタ25で透過光強度Iとして受光され、電気信号に変換されて差分型光検出器40に入力される。測定用レーザ光は反射を繰り返されることにより排ガス中を透過する距離が大きくなり、前記数式(1)の透過距離Lが長くなることで減衰量が大きくなるため、精度の良い瞬時の排ガスの成分の濃度測定が可能となる。このように信号用レーザ光の光強度Iと、測定用レーザ光の透過光強度Iとの比(I/I)であるシグナル強度を算出し、このシグナル強度比に基づいて排ガスの成分の濃度を算出する。ディテクタ25で受光される光強度は、光ファイバ24から照射される光強度に対して30%以上となることが好ましい。30%を下回るとノイズとの判別が難しくなるからである。
【0047】
差分型光検出器40では、排ガス中を透過して減衰した測定用レーザ光からフィードバック補正量を算出して、各波長に対応するレーザダイオードLD1〜LD5の光強度を調整するべく光減衰器34をフィードバック制御する。光減衰器34はレーザダイオードごとに光強度を調整し、測定用レーザ光の校正を行う。例えば、外乱により測定光強度が低下した場合、自動的に検出して減衰率を下げることで光強度を上げ、初期状態と同等なバランスを保つことができる。なお。信号光はレーザ光の発生から受光までに外乱要素がなく、レーザ出力が変化しない限り信号用レーザ光強度は変化しないので、測定用レーザ光強度を光減衰器で調整し、バランスをとることが好ましい。
【0048】
また、差分型光検出器40では信号用レーザ光と測定用レーザ光との差を取り、信号解析を行うべくパーソナルコンピュータ45に信号を供給する。パーソナルコンピュータ45では、信号用レーザ光の光強度と、排ガス中を透過して減衰した測定用レーザ光のピーク波長の光強度との比(I/I)を算出し、センサ部が設置された排気経路中の位置における排ガスの成分の濃度を算出する。また、複数箇所に設置されたセンサ部11〜14により排気経路中の複数箇所の排ガスの成分の濃度の相対変化も分析できる。
【0049】
本実施形態では、排気経路中に複数のセンサ部11〜14が設置されており、各センサ部の位置における排ガスの成分の濃度と温度が測定される。このため、エキゾーストマニホルド3の下流部分での排ガスの成分の濃度と温度や、第1触媒装置5の上流側および下流側での排ガスの成分の濃度や温度を測定できる。例えば、触媒装置5,6を通過したあとの温度と排ガスの成分の濃度と、触媒装置5,6で処理される前の温度と排ガスの成分の濃度により、触媒装置5,6の性能を評価できると共に、触媒装置の例えば経年変化による劣化等も検出することができる。
【0050】
排ガスの成分の濃度や温度を測定するときに使用するディテクタ25の出力は、振動等の外乱によるノイズの影響を受けやすい。ノイズが出力パターンに重畳されると、正確な測定は不可能となる。図8は、排ガス分析装置のディテクタ25の出力パターン図を示しており、図8aは、本実施形態のディテクタから出力されたノイズが少ない安定した出力を示している。これに対して、図8bでは光学ノイズ等が重畳して信号が不安定な状態となっている。本実施形態の排ガス分析装置のディテクタ25の出力は、レーザ光発生手段を駆動する駆動パルスに、電流値が一定の区間を有する構成としているため、図8aに示すように安定した出力パターンを得ることができ、排気経路内の環境の変化に対応して正確な排ガスの成分の濃度測定や温度測定を可能とする。なお、図8の横軸は時間tを示し、縦軸は出力電圧Vを示している。
【0051】
つぎに、本実施形態の排ガス分析装置を用いて温度の測定を行なう動作を説明する。気体は、それぞれ固有の吸収波長帯を持っており、その吸収波長帯には、例えば図9に示すように、多くの吸収線が存在している。図9aは低温のときのシグナル強度(=分子数割合)を示しており、図9bは高温のときのシグナル強度を示している。このように、シグナル強度は温度に依存して変化するため、シグナル強度比を計測することにより、測定時の排ガスの温度を算出することができる。なお、図9の横軸は波長λを示し、縦軸はシグナル強度を示している。このようにして算出した排ガスの温度も、排ガスに照射される赤外レーザ光が安定しているため、精度の良い測定が可能となる。
【0052】
つぎに、本発明の他の実施形態を図10に基づき詳細に説明する。図10は本発明に係る排ガス分析装置の他の実施形態のレーザ発振・受光コントローラ30Aの要部構成および信号解析部を含む全体構成を示すブロック図である。なお、この実施形態は前記した実施形態に対し、レーザ光発生手段から発生された信号用レーザ光を光検出器で検出し、この検出結果からレーザ光発生手段を校正することを特徴とする。そして、他の実質的に同等の構成については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0053】
この実施形態のレーザ発振・受光コントローラ30Aは、レーザ光発生手段を校正する構成装置70を備えている。校正装置70は、信号用レーザ光の合波器37から出力され差分型光検出器40に入力する光ファイバ38にビームスプリッタ等の分波器71を介して設置され、分波された信号用レーザ光の一部が供給される。校正装置70は信号用レーザ光の一部を2つに分波する分波器72と、分波器で分けられた一方のレーザ光が入力される検出器73と、他方のレーザ光がフィルタ74を通して入力される検出器75と、2つの検出器の結果に基づいてレーザ光発生手段の波長を制御する波長制御装置76とを備えており、この波長制御装置76からの出力を信号線77でレーザダイオードLD1〜LD5に各々供給して出力を制御する装置である。
【0054】
校正装置70で用いられるフィルタ74は波長依存性を有するフィルタが使用される。このフィルタ74は波長に対して光透過率がリニアに変更する特徴を有するものであり、例えば図11aに示すように、波長が長くなると共に透過率がリニアに減少するものが用いられる。一方の検出器73から出力されるレーザ光の波長と、フィルタ74を通して他方の検出器75から出力されるレーザ光の波長との比を常時モニタし、レーザダイオードLD1〜LD5をフィードバック制御する。なお、波長依存性を有するフィルタは、波長が長くなると透過率が増加するものを用いてもよい。
【0055】
すなわち、図11bのように、検出器73から出力される一方のレーザ光は所定の波長帯で一定の光強度I1に設定され、他方の検出器75から出力される他方のレーザ光は波長依存性のあるフィルタ74により所定の波長帯で光強度I2がリニアに変化する。光強度が一定の一方のレーザ光と光強度がリニアに変化する他方のレーザ光とは、モニタ上で交差するので、この交点が所定の波長λ5からλ6にずれた場合に、例えば駆動パルスの電流を増減することで所定の波長に合わせることができる。
【0056】
このようにして校正装置70はレーザダイオードの光出力(発光量)を容易に校正できるため、排ガス分析装置10は排ガスの成分の濃度や温度を精度良く測定することができる。例えば、レーザダイオードを駆動する駆動パルスの電流を変化させ、レーザダイオードの出力を調整する。この校正装置70を使用すると、レーザダイオード等のレーザ光発生手段の検定器を用いた校正メンテナンスが不要となり、排ガス分析にかかる手間や費用を低減することができる。
【0057】
以上述べたように、本実施形態の排ガス分析装置10は、レーザ光発生手段に印加する駆動パルス50を電流走査区間と、これに連続する開始電流一定区間および終了電流一定区間の少なくとも一方とを備えるパターンとすることで、レーザ光のオーバーシュートを防止でき、電流一定区間で波長を固定することによって測定光と信号光との光バランスを検出し、フィードバック制御により光減衰器で測定用レーザ光を調整するため、精度の良い排ガス分析が可能となる。また、排気経路中の複数箇所で排ガスの成分の濃度や温度を測定し、排気経路中の途中の排ガスの成分の濃度の分析を行なうことができるため、触媒装置等の評価を行なうこともできる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、排ガスの成分ガスとして、窒素酸化物(NOx)の測定を行うこともできる。この場合は、排ガス中を透過させる赤外レーザ光として、NOxに適した波長(例えば1800nm)を用いることは勿論である。また、照射部から照射されるレーザ光は赤外レーザ光に限られず、可視レーザ光や紫外レーザ光でもよい。
【0059】
センサ部のセンサベースに光ファイバを介してレーザ光の照射部を取り付け、センサベースにフォトダイオードを固定して受光部とする例を示したが、センサベースに直接レーザダイオード等の照射部を装着してレーザ光の照射部としてもよい。また、センサベースに直接受光部であるディテクタを固定せず、光ファイバを固定してディテクタまで導光するように構成してもよい。光減衰器は測定用レーザ光側でなく、信号用レーザ光側に設置してもよい。
【0060】
また、反射面として、金やプラチナの薄膜を形成する例を示したが、酸化チタン等の薄膜を形成してもよく、耐熱性に優れ、鏡面加工できるものであれば材質は特定されない。反射面はミラー等の反射板を使用せず、排ガスが流れる貫通孔の内面に直接形成してもよい。この場合は、貫通穴の内周面を研磨してから、めっきや蒸着等の手法により反射面を形成すればよい。反射面はミラー等を使用せず、貫通孔の内周面を研磨して金やプラチナの薄膜を形成してもよく、その上に保護層として、MgFやSiOの薄膜を形成してもよい。これにより反射面の構成を簡略化することができる。
【0061】
前記の実施形態ではセンサ部をエキゾーストマニホルドの下流側に設置した構成を示したが、エキゾーストマニホルドとエンジンのシリンダブロックとの間に設置してもよい。このように構成すると、エンジンの気筒ごとの排ガスの成分の濃度や温度を測定することができ、例えばエンジンの不調等の原因を気筒ごとに判断することができる。特に、本発明の排ガス分析装置は、基準ガス等を使用せずに、レーザ光の透過を用いて排ガスの成分の濃度を検出するため、高温でも測定できる特徴があり、エンジンから排出した直後の800℃程度の高温の排ガスの成分の濃度の測定も精度良く行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の活用例として、この排ガス分析装置を用いてボイラー等の燃焼装置の排ガス分析を行うことができ、自動車の排ガス分析の他に船舶等で使用する内燃機関の排ガス分析の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る排ガス分析装置を車両に搭載した一実施形態の要部構成図。
【図2】本発明に係る排ガス分析装置をエンジンベンチに搭載した実施形態の要部構成図。
【図3】センサ部の要部構成を示す分解斜視図。
【図4】レーザ発振・受光コントローラの要部構成および信号解析部を含む排ガス分析装置の全体構成を示すブロック図。
【図5】本発明の排ガス分析装置で用いられるレーザ光発生手段を駆動する駆動パルスの電流パターン図。
【図6】図5の駆動パルスの動作説明図。
【図7】駆動パルスの他の実施形態のパターン図。
【図8】レーザ光を受光したディテクタの出力を示し、(a)はノイズの少ない出力パターン図、(b)はノイズの多い出力パターン図。
【図9】吸収スペクトルの温度の影響を示し、(a)は低温のときのシグナル強度の説明図、(b)は高温のときのシグナル強度の説明図。
【図10】本発明に係る排ガス分析装置の他の実施形態のレーザ発振・受光コントローラの要部構成および信号解析部を含む全体構成を示すブロック図。
【図11】(a)は図10の実施形態で使用する校正装置のフィルタの特性を示す図、(b)は校正動作の説明図。
【図12】従来の排ガス分析装置で用いられるレーザ光発生手段を駆動する駆動パルスの電流パターン図。
【符号の説明】
【0064】
1:自動車、1A:エンジンベンチ、2:エンジン、3:エキゾーストマニホルド(排気経路)、4:排気管(排気経路)、5:第1触媒装置(排気経路)、6:第2触媒装置(排気経路)、7:マフラー(排気経路)、8:排気パイプ(排気経路)、10:排ガス分析装置、11〜14:センサ部、24:光ファイバ(照射部)、25:ディテクタ(受光部)、30,30A:レーザ発振・受光コントローラ、31:信号発生器、33:分波器、34:光減衰器、36,37:合波器、40:差分型光検出器、41:フィードバック線、45:パーソナルコンピュータ(信号解析部)、50:駆動パルス、51:開始電流一定区間、52:電流走査区間、53:終了電流一定区間、61,62,63:駆動パルス、61a,62a,63a:開始電流一定区間、61b,62b,63b:電流走査区間、62c:終了電流一定区間、LD1〜LD5:レーザダイオード(レーザ光発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出される排ガスに、レーザ光発生手段に駆動パルスを印加して発生させたレーザ光を照射し、排ガス中を透過したレーザ光を受光し、前記受光された透過レーザ光に基づいて排ガスの成分の濃度や温度を測定して排ガスを分析する装置であって、
該装置は、前記レーザ光発生手段から発生されるレーザ光の光強度を調整する光減衰器をさらに備え、該光減衰器は前記受光された透過レーザ光に基づいてフィードバック制御されるものであり、
前記レーザ光発生手段に印加される前記駆動パルスは、電流値が経時変化する電流走査区間と、前記電流走査区間に連続し、電流値が一定となる電流一定区間とを備えていることを特徴とする排ガス分析装置。
【請求項2】
前記駆動パルスは、前記電流走査区間の始端側の電流値で一定となる開始電流一定区間と、該開始電流一定区間から直線的に電流が増加する前記電流走査区間とを備えることを特徴とする請求項1に記載の排ガス分析装置。
【請求項3】
前記駆動パルスは、前記電流走査区間に連続し、該電流走査区間の終端の電流値で電流を一定とした終了電流一定区間をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の排ガス分析装置。
【請求項4】
排ガスが通過する貫通孔に前記レーザ光を照射する照射部と、排ガス中を透過したレーザ光を受光する受光部とを備えるセンサ部を形成し、該センサ部を排ガスの排気経路中に設置し、前記照射部から排ガスにレーザ光を照射した後、前記受光部で排ガス中を透過したレーザ光を受光して排ガスを分析することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排ガス分析装置。
【請求項5】
前記センサ部を排気経路中の複数箇所に設置することを特徴とする請求項4に記載の排ガス分析装置。
【請求項6】
レーザ光発生手段に、電流値が経時変化する電流走査区間と、該電流走査区間に連続し、電流値が一定となる電流一定区間とを備える駆動パルスを印加してレーザ光を発生させ、該レーザ光を信号用レーザ光と測定用レーザ光に分波し、該測定用レーザ光を光減衰器を介して排ガスに照射して排ガスを透過したレーザ光を受光し、受光された透過レーザ光と信号用レーザ光とに基づいて前記光減衰器を補正するフィードバック補正量を算出し、該フィードバック補正量を前記光減衰器に入力して測定用レーザ光の光強度を調整すると共に、前記信号用レーザ光と透過レーザ光とに基づいて排ガスの成分の濃度や温度を算出することを特徴とする排ガス分析方法。
【請求項7】
前記フィードバック補正量は、前記透過レーザ光を差分型光検出器に入力し、透過レーザ光と信号用レーザ光との光バランスから算出することを特徴とする請求項6に記載の排ガス分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−337326(P2006−337326A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165691(P2005−165691)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】