説明

排ガス浄化装置

【課題】触媒温度を効率よく昇温することのできる排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】触媒担体12は、カーボンからなる基材21と、基材21の表面に成膜されたSiCからなる薄膜22とから構成されている。薄膜22には、触媒が担持されている。電極15は、電極15を構成する各電極棒15aが薄膜22の端面22aに沿って接触するようにして、薄膜22に接続されている。薄膜22に電流が通電されると、SiCの抵抗加熱によって、薄膜22に担持された触媒が昇温される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は排ガス浄化装置に係り、特に、排ガス浄化装置を構成する触媒の昇温に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を低減するために、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムが開発されている。尿素SCRシステムの基本構成は、一酸化窒素(NO)を酸化して二酸化窒素(NO)にするための酸化触媒と、酸化触媒の下流側に設けられ、尿素に水を反応させて生成したアンモニアとNOxとの化学反応によりNOxを窒素及び水にするためのSCR触媒と、SCR触媒に尿素を添加するための尿素添加システムと、SCR触媒の下流側に設けられ、SCR触媒における化学反応で消費されずに残ったアンモニアを酸化するための酸化触媒とから構成される。
【0003】
酸化触媒もSCR触媒も一般的に、ある温度よりも温度が高い場合には十分な触媒性能を示すものの、ある温度よりも低い場合には、極端に触媒性能が低下してしまう。このため、例えばエンジン起動直後のような排ガス温度が低い場合には、触媒温度も低く、十分な触媒性能が得られないため、触媒の昇温が必要となる。触媒の昇温技術として、特許文献1には、触媒の上流に電気ヒーターを設置して排ガスを加熱する方式が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭49−36324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら電気ヒーターを設置する方式では、排ガスの流れが少ないときに電気ヒーターを作動させると電気ヒーターが過昇温されて断線したり、排ガス中のパティキュレートマター(PM)が付着することによりショートして断線したりするといった問題点があった。
【0006】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、触媒温度を効率よく昇温することのできる排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る排ガス浄化装置は、非金属導電性物質及び該非金属導電性物質に担持された触媒を備える触媒担体と、前記非金属導電性物質に電流を通電する通電手段とを備える。非金属導電性物質に電流が通電されると、非金属導電性物質の抵抗加熱によって触媒が昇温される。
前記触媒担体は、基材と、該基材の表面に設けられた薄膜とを備え、少なくとも前記薄膜は前記非金属導電性物質からなり、前記触媒は前記薄膜に担持されてもよい。
前記通電手段は、前記非金属導電性物質に接続された一対の電極を備え、前記電極と前記非金属導電性物質との接触部分は、複数の接触点から構成されてもよい。ここで、「複数の接触点」には、非常に狭い領域である一点で接続された接触点が複数存在することだけではなく、そのような接触点が集合して線形状や広がりを持った面形状を構成する場合も含まれるものとする。
前記触媒担体の温度を測定するための温度センサを備え、該温度センサによる測定値に基づいて、前記通電手段のオンオフ制御を行ってもよい。
前記非金属導電性物質は、カーボン、炭化ケイ素又はこれらの組み合わせであってもよい。
内燃機関が始動して排ガスが前記触媒担体に到達した後の所定時間において、前記通電手段のオンオフ制御を開始してもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、非金属導電性物質に電流が通電されると、非金属導電性物質の抵抗加熱によって触媒が昇温されるので、触媒温度を効率よく昇温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態に係る排ガス浄化装置の構成模式図である。
【図2】この実施の形態に係る排ガス浄化装置を構成するSCR触媒の詳細図である。
【図3】この実施の形態に係る排ガス浄化装置を構成するSCR触媒の触媒担体の正面図及びその部分拡大図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明の実施の形態に係る排ガス浄化装置の構成模式図を図1に示す。ディーゼルエンジン1から排出された排ガスが流通する排気管2に、酸化触媒3と、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)4と、SCR触媒5と、酸化触媒6とが設けられている。DPF4とSCR触媒5との間には、尿素水を噴射する噴射ノズル7が設けられており、噴射ノズル7は、配管8を介して、尿素水を貯留する尿素水タンク9に連通している。配管8には、尿素水タンク9内の尿素水を噴射ノズル7に供給するための尿素水添加システム10が設けられている。尿素水添加システム10は、制御装置であるECU14に電気的に接続されている。
【0011】
図2に、SCR触媒5の詳細図を示す。SCR触媒5は、コンバータケース11と、コンバータケース11内に設けられた円柱形状の触媒担体12とを有している。SCR触媒5には、触媒担体12の両端面に一対の電極15,15が接続され(図2には一方の電極15のみ図示されている)、一対の電極15,15には、電源16が接続されている。ここで、一対の電極15,15及び電源16は、通電手段を構成する。電極15は、細長い複数の電極棒15aをメッシュ状に組み合わせて構成されている。また、触媒担体12には、その内部の温度を測定するための温度センサ17が設けられている。電源16及び温度センサ17は、ECU14に電気的に接続されている。
【0012】
図3に示されるように、触媒担体12は、カーボンからなる基材21と、基材21の表面に焼結又は常圧CVD等によって成膜された炭化ケイ素(SiC)からなる薄膜22とから構成されている。基材21は、全体として円柱形状を有し、その軸方向に貫通する、断面が正方形の複数の孔23が形成されている。薄膜22には、選択還元触媒が担持されている。
【0013】
図4に示されるように、電極15を構成する各電極棒15aの断面が薄膜22の端面22aの断面と点接触するようにして、各電極棒15aは薄膜22に接続されている。すなわち、各電極棒15aと薄膜22との接触部分24は、各電極棒15aの軸方向に沿った直線形状となっている。接触部分24がこのような直線形状となっていることにより、電極15と薄膜22とが一点で接続されている場合に比べて、大電流が流れやすくなる。尚、電極棒15aが湾曲した形状の場合には、接触部分24の形状は直線形状ではなく、湾曲した線形状となる。
【0014】
図2〜4には、SCR触媒5の構造を詳細に示したが、酸化触媒3及び6についても同じ構成となっており、酸化触媒3及び6にも、それらの触媒担体の両端面に設けられた一対の電極と、一対の電極に接続された電源と、触媒担体の内部の温度を測定するための温度センサとが設けられている。
【0015】
次に、この実施の形態に係る排ガス浄化装置の動作について説明する。
ディーゼルエンジン1の始動時やアイドリング時には、ディーゼルエンジン1から排出される排ガスの温度が低いため、酸化触媒3と、SCR触媒5と、酸化触媒6とのそれぞれに排ガスが流通しても、十分な触媒性能を発揮するのに必要な温度まで温度が昇温しない。そこで、SCR触媒5について、昇温動作を説明する。
【0016】
ディーゼルエンジン1が始動してから、後述する所定時間が経過した後、温度センサ17によって測定された温度が、予めECU14に設定された温度(以下、「設定温度」と称する)よりも低い場合には、ECU14は電源16を起動させて、薄膜22に通電する。すると、薄膜22を構成するSiCの抵抗加熱によって薄膜22が昇温し、これにより、薄膜22に担持された選択還元触媒が昇温される。
【0017】
温度センサ17によって測定された温度が設定温度以上になったら、ECU14は電源16の稼働を停止する。これにより、薄膜22に通電されなくなるので、薄膜22が昇温しなくなる。これ以降、温度センサ17の測定値に基づいて、ECU14が電源16を起動させたり停止させたりすることにより、すなわち、電源16をオンオフ制御することにより、薄膜22に担持された選択還元触媒が適切な温度に保たれる。
尚、酸化触媒3及び6についても、各設定温度は異なるものの、SCR触媒5についての昇温動作と同様にして、適切な温度に保たれる。
【0018】
酸化触媒3及び6とSCR触媒5とがそれぞれ適切な温度になると、排ガスが酸化触媒3を流通することにより、排ガス中のNOがNOに酸化される。続いて排ガスがDPF4を流通することにより、排ガス中のPMがDPF4に捕捉される。ECU14は適切なタイミングで尿素水添加システム10を作動させ、尿素水タンク9内の尿素水を、配管8を介して噴射ノズル7に供給し、噴射ノズル7から尿素水がSCR触媒5に添加される。SCR触媒5に添加された尿素水は加水分解されてアンモニアと二酸化炭素となり、生成したアンモニアと排ガス中のNOxとが反応して、窒素及び水となる。SCR触媒5において消費されずに残ったアンモニアは、酸化触媒6において酸化される。このようにして、NOxが浄化された排気ガスが大気中へ排出される。
【0019】
前述したように、電源16のオンオフ制御については、ディーゼルエンジン1が始動してから所定時間が経過した後に開始される。これは、ディーゼルエンジン1の始動時には、SCR触媒5の温度が外気温度程度であり、SCR触媒5が十分な触媒性能を発揮するのに必要な温度に比べて非常に低いため、SiCの抵抗加熱によっていくら昇温しようとしても、所望の温度まで昇温させるためにはかなりの時間がかかるからである。そのため、ディーゼルエンジン1の始動時には、ある程度の時間、排気ガスの昇温を待って、排気ガスによってSCR触媒5を予め昇温させてから、SiCの抵抗加熱によって昇温させたほうが、エネルギー的に有利となる。従って、電源16のオンオフ制御は、少なくとも、ディーゼルエンジン1が始動して排ガスがSCR触媒5に到達するまでは開始しない。それから所定時間経過した後に、電源16のオンオフ制御を開始することになるが、ここで、所定時間とは、搭載されるバッテリーの能力や外気温度、ディーゼルエンジン1の稼働状況等によって決まるものであり、それらを総合してECU14が決定する。
【0020】
このように、SiCからなる薄膜22に電流が通電されると、SiCの抵抗加熱によって、薄膜22に担持された選択還元触媒が昇温されるので、触媒温度を効率よく昇温することができる。
【0021】
この実施の形態では、触媒担体12は、カーボンからなる基材21の表面にSiCからなる薄膜22が成膜された構成となっていたが、この構成に限定するものではない。基材21及び薄膜22の2つの構成からなるのではなく、SiCで一体的に触媒担体を形成してもよい。また、薄膜22の材料はSiCに限定するものではなく、カーボンであってもよく、非金属材料で導電性を有する材料、すなわち非金属導電性物質であればどのような材料であってもよい。さらに、この実施の形態では、基材21及び薄膜22が両方とも非金属導電性物質であったが、少なくとも薄膜22が非金属導電性物質であれば、基材21はどのような材料であってもよい。
【0022】
この実施の形態では、電極15は、細長い複数の電極棒15aをメッシュ状に組み合わせて構成されていたが、この形態に限定するものではない。電極15と薄膜22とが一点(非常に狭い領域)で接続される構成でなければどのような形態であってもよく、接触部分24が面積を有するように、広がりを持った面形状、例えば、平面状の電極に、触媒担体12の孔23に合う穴がパンチングされたものや、薄膜22と複数の接触点で接続するような形状であってもよい。尚、接触部分24が線形状や広がりを持った面形状は、電極15と薄膜22とが接触する非常に狭い領域の集合であると言うこともできる。従って、本明細書において、線形状や広がりを持った面形状も、電極棒15aと薄膜22とが複数の接触点で接続する場合と合わせて、「複数の接触点からなる」に含まれるものとする。
【0023】
この実施の形態では、触媒担体12の温度を測定するための温度センサ17は、触媒担体12の内部の温度を直接測定するようになっていたが、この形態に限定するものではない。温度センサ17を排気管2の任意の個所に設けて、排気管2を流通する排ガス温度を測定することにより、触媒担体12の温度を推定するようにしてもよい。
【0024】
この実施の形態では、電極15と薄膜22との接触部分24が複数の接触点からなる構成を有していたが、電極15と薄膜22とが一点で接続されていてもよい。
また、この実施の形態では、ディーゼルエンジン1が始動して排ガスが触媒担体12に到達した後の所定時間に電源16のオンオフ制御を開始したが、ディーゼルエンジン1の始動時に電源16のオンオフ制御を開始してもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 ディーゼルエンジン(内燃機関)、12 触媒担体、15 電極(通電手段)、16 電源(通電手段)、17 温度センサ、21 基材、22 薄膜、24 接触部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属導電性物質及び該非金属導電性物質に担持された触媒を備える触媒担体と、
前記非金属導電性物質に電流を通電する通電手段と
を備える排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記触媒担体は、
基材と、
該基材の表面に設けられた薄膜と
を備え、
少なくとも前記薄膜は前記非金属導電性物質からなり、前記触媒は前記薄膜に担持される、請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記通電手段は、前記非金属導電性物質に接続された一対の電極を備え、
前記電極と前記非金属導電性物質との接触部分は、複数の接触点からなる、請求項1または2に記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記触媒担体の温度を測定するための温度センサを備え、
該温度センサによる測定値に基づいて、前記通電手段のオンオフ制御を行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記非金属導電性物質は、カーボン、炭化ケイ素又はこれらの組み合わせである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
内燃機関が始動して排ガスが前記触媒担体に到達した後の所定時間において、前記通電手段のオンオフ制御を開始する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−190124(P2010−190124A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35593(P2009−35593)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】