説明

排ガス浄化装置

【課題】 簡素な構成によって、製造コストを抑制しながら効率良く排ガスを浄化することができるようにする。
【解決手段】 車両用エンジン11から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、排ガスをろ過するフィルタ担体14と、貴金属を含有する第1触媒層15aと、PM燃焼用酸化物を含有する第2触媒層15bとを有し、第1触媒層15aと第2触媒層15bとを共通のフィルタ担体14に担持し、第1触媒層15aを、フィルタ担体14上の上流側に担持し、第2触媒層15bを、第1触媒層15aよりも下流側のフィルタ担体14に担持して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから排出される排ガス中の有害成分である粒子状物質(PM)を効率よく燃焼除去する、排ガス浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球環境の保護が強く求められる近年、車両の駆動源として一般的に用いられるガソリンエンジンやディーゼルエンジンといったエンジンにおいては、とりわけ排ガス中に含まれる、窒素酸化物(NOx),炭化水素物(HC),一酸化炭素(CO)或いは、粒子状物質(Particulate Matter; 以下、PMという)といった有害な排ガス成分を除去する技術の重要性が高まっている。
【0003】
このうちPMは、主にディーゼルエンジンの排ガス中に含まれるもので、詳細には炭素の微粒子(以下、ススという)、可溶性有機物質(Soluble Organic Fraction; 以下、SOFという)、酸化硫黄等からなるものである。
PMの大気排出量を低減する技術の一例としては、排ガス通路の途中にディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter;以下、DPFという)を設け、このDPFでPMを捕集する技術が挙げられる。
【0004】
しかしながら、時間の経過に伴ないDPFへのPMの堆積量が増加していくため、排気圧損が増加する。このため、DPFに堆積したPMの堆積量を排気圧損や車両の走行距離から推定し、PMを強制的に燃焼除去(DPFの強制再生)させたり、通常の状態でエンジンを運転させながら、連続的にPMを燃焼除去(DPFの連続再生)させたりすることが一般的である。
【0005】
ところで、これらのDPFの中には、PM中に含まれるススとSOFの燃性の違いに着目し、両物質を分離捕集することにより、DPFの連続再生の効率を高め、PMの大気排出量を低減する技術が知られており、例えば、以下の特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−153733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1においては、排ガス流路の上流側に、排ガス中のSOFを吸着及び燃焼する機能とススを通過させる機能とを有するフロースルー型モノリス触媒を配設し、その触媒の下流側に、触媒を通過した上記ススを捕集し燃焼する機能を有するフィルタ触媒を配設する構成が開示されている。つまり、上流側に配置されるフロースルー型モノリス触媒は、良燃性のSOFを選択的に分離し、燃焼除去する。一方、難燃性のススはフロースルー型モノリス触媒には吸着されずに通過し、下流側に配設されたフィルタ触媒に流され、捕集され、燃焼除去される。
【0008】
しかしながら、フロースルー型モノリス触媒とフィルタ触媒とは別体であり、両触媒は排ガス流路上の上流側と下流側とに離れて配設されており、上流側に配設されたフロースルー型モノリス触媒で良燃性のSOFを燃焼する際に生成される反応熱は、下流側に配設されたフィルタ触媒へ伝導し難い。したがって、このフィルタ触媒によって難燃性のススを燃焼する際に上記反応熱を有効活用できていない。
【0009】
また、特許文献1の技術では、比較的サイズの大きな構成にせざるを得ず、限られた車両スペースを有効活用し難いという点も課題である。
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、簡素な構成によって製造コストを抑制しながら、排ガス中の有害成分であるPMを効率良く無害化し、排ガスを浄化することができる排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は上記目的を達成するため、車両用エンジンから排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、該排ガスをろ過するフィルタ担体と、貴金属を含有する第1触媒層と、PM燃焼用酸化物を含有する第2触媒層とを有し、該第1触媒層と該第2触媒層とは共通の該フィルタ担体に担持され、該第1触媒層は、該フィルタ担体上の上流側に担持され、該第2触媒層は、該第1触媒層よりも下流側の該フィルタ担体上に担持されていることを特徴とする。
【0011】
これにより、PM燃焼用酸化物及び貴金属が共通の担体の上流側及び下流側とで別々に担持されるため、PM燃焼用酸化物及び貴金属の個々の排ガス浄化性能を十分に発揮させることができ、簡素な構成によって製造コストを抑制しながら、排ガス中の有害成分であるPMを効率よく無害化し、排ガスを浄化することができる。
【0012】
また、該PM燃焼用酸化物が、下記式(1)で表されるペロブスカイト型複合酸化物であることを特徴とする。
La1-xBaxMnyFe1-y3・・・(1)
(上記式(1)において、0<x<0.7、0≦y≦1である。)
これにより、排ガス温度が比較的低い場合であっても、ススを効率良く燃焼させることができる。
【0013】
また、該貴金属が、Pt、Rh、Pd、Ru及びIrからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする。
これにより、比較的入手が容易である貴金属を使用することで、製造コストを抑制しながら排ガスを浄化することができる。
また、排ガス浄化装置は、該第2触媒層を該フィルタ担体上に形成し、該第1触媒層を該第2触媒層上に形成しても良い。
これにより、排ガス浄化装置の製造がし易く、また、PM燃焼用酸化物及び貴金属の個々の排ガス浄化性能を維持し易い。
【発明の効果】
【0014】
以上の記載のごとく、本発明の排ガス浄化装置によれば、PM燃焼用酸化物及び貴金属が共通の担体の上流側及び下流側とで別々に担持されるため、PM燃焼用酸化物及び貴金属の個々の排ガス浄化性能を十分に発揮させることができ、簡素な構成によって製造コストを抑制しながら、排ガス中の有害成分であるPMを効率よく無害化し、排ガスを浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置を有する車両を模式的に示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置を示す模式的な拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の要部(図2中の符号A)を示す模式的な拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の要部(図2中の符号B)を示す模式的な拡大断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置のPM積算燃焼量に関する作用を主に示す模式的なタイムチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の一酸化炭素排出量に関する作用を主に示す模式的なタイムチャートである。
【図7】本発明の一実施形態の変形例に係る排ガス浄化装置の担体及び触媒層を示す模式的な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面により、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、車両10には、この車両の駆動源としてディーゼルエンジン11が搭載されている。
また、ディーゼルエンジン11の下流側には排ガス通路12を介して、ディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter、以下、DPFという)13が接続されている。
【0017】
このDPF13は、排ガス中に含まれる粒子状物質(Diesel Particulate Matter以下、PMという)を捕集することで、PMが大気中に排出されることを防ぐものである。
なお、ディーゼルエンジン11の排ガス中のPMは、詳細には炭素の微粒子(以下、ススという)、可溶性有機物質(Soluble Organic Fraction; 以下、SOFという)、酸化硫黄等からなるものである。
【0018】
また、このDPF13は、捕集したPMを加熱し燃焼させることで無害化することができるようになっている。
より具体的には、本実施形態におけるDPF13はフィルタ担体14を有し、このフィルタ担体14はSiCを主成分とするもので、図2に示すようにハニカム状のセル孔を多数有し、前端部分と後端部分に交互に目封じされている。なお、この様な構造のフィルタは、一般的にウォールフロー型と呼ばれている。また、フィルタ担体14に含まれるSiCの空孔率は例えば52%程度であり、細孔径は例えば23μm程度である。
【0019】
つまり、このフィルタ担体14は、第1触媒層15a及び第2触媒層15bを有する触媒層15(後述する)を担持するだけでなく、有害な排ガス成分であるPMを捕集することができるようになっている。
図2で示すように、フィルタ担体14の表面には、排ガスの流れに対して上流側に第1触媒層15aが担持され、且つ、第1触媒層15aよりも下流側に第2触媒層15bが担持されている。つまり、第1触媒層15a及び第2触媒層15bは、混合されておらず、また、別体ではなく共通のフィルタ担体14に担持されている。
【0020】
また、この第1触媒層15aには、貴金属として白金(以下、Ptという)が含まれている。そして、図3で示すように、この第1触媒層15aは、フィルタ担体14に捕集されたPMの中で、良燃性のSOF(HCを主に含む)を主に燃焼し排ガスを浄化する酸化触媒として機能するようになっている。なお、第1触媒層15aで主に行われる反応は、下記の式(1)に示すとおりである。
【0021】
4HC+5O→4CO+2HO ・・・(1)
また、第1触媒層15aにおけるPtの含有量は、例えば第1触媒層15aの容積に対して0.1g/L以上である。
一方、第2触媒層15bには、PM燃焼用酸化物として、下記化学式(2)で示すペロブスカイト型複合酸化物が含まれている。そして、図4で示すように、第1触媒層15aを通過したPMの残り成分の中で、難燃性であるスス(Cを主に含む)を主に燃焼し排ガスを浄化する酸化触媒として機能するようになっている。また、本実施形態で使用したペロブスカイト型複合酸化物は、PMの燃焼開始温度を低下することに優れている。なお、第2触媒層15bで主に行われる反応は、下記の式(3),(4)に示すとおりである。
【0022】
La0.8Ba0.2FeO3 ・・・(2)
C+O→CO ・・・(3)
C+2NO→CO+2NO・・・(4)
また、第2触媒層15bにおけるPM燃焼用酸化物の含有量は、例えば第2触媒層15bの容積に対して、通常10g/L以上、100g/L以下である。
【0023】
このように、本実施形態におけるDPF13は、いわゆる連続再生型のDPFである。本来、一般的なDPFにはPMが捕集され、時間の経過に伴ないDPF13へのPMの堆積量が増加していくため、排気圧損が増加する。しかしながら、本実施形態のDPF13では、通常の状態でエンジンを運転させながら、連続的にPMを燃焼させ、この排気圧損の増加を抑制している。
【0024】
本発明の一実施形態に係わる排ガス浄化装置は、上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。
まず、DPF13では、フィルタ担体14はウォールフロー型のフィルタを形成しているため、PMを捕集することができる。しかしながら時間の経過に伴ないDPF13へのPMの堆積量が増加し、排気圧損が増加することを防ぐため、捕集したPMを燃焼により除去する。
【0025】
また、DPF13においては、Ptを含有する第1触媒層15aとペロブスカイト型複合酸化物を含有する第2触媒層15bとを、共通のフィルタ担体14において、上流側と下流側とでそれぞれ別々に担持し、且つ、Ptとペロブスカイト型複合酸化物とは混合されることなく近傍に配置されている。このため、まず上流側に担持されるPtによって排ガス中に含まれるPM中の、特に良燃性のSOFが選択的に燃焼され排ガスが浄化される。
【0026】
そしてこの時、燃焼によって生成される反応熱が、フィルタ担体14の上流側でありPtが含まれる第1触媒層15aから、フィルタ担体14の下流側でありペロブスカイト型複合酸化物が含まれる第2触媒層15bへと効率良く伝達する。したがって、フィルタ担体14の下流側では、この伝達された反応熱によって効率よくペロブスカイト型複合酸化物が活性化され、DPF13の上流側及び下流側でPMを燃焼除去することが出来る。
【0027】
なお、本実施形態で使用した上記の化学式(2)で示すペロブスカイト型複合酸化物は、比較的低温でのススの燃焼に優れるが、排ガス中にSOFが多く含まれると、ススの燃焼が悪化する特性がある。これは、SOFがスス燃焼の阻害要因となるからである。
しかしながら本実施形態では、上流側で第1触媒層15aに含まれるPtによって、まずPM中の良燃性のSOFが主に燃焼されるため、ペロブスカイト型複合酸化物の含まれる第2触媒層15bが担持されたフィルタ担体14の下流側には、主にススを含んだPMが流れることになる。このため、SOFによってススの燃焼が悪化されることがなく、排ガスを浄化することができる。
【0028】
つまり、本実施形態では、下流側に担持される第2触媒層15bでは、上流側の第1触媒層15aのPMの燃焼で生成された反応熱を利用しながら、第1触媒層15aで燃焼されなかったPM中に多く含まれるススが、低温でのススの燃焼に優れるペロブスカイト型複合酸化物によって低温域でも効率よく燃焼され、DPF13の上流側及び下流側で排ガス中のPMを無害化して排出することができる。
【0029】
また、時間の経過に伴なった、PMの堆積量の増加による排気圧損の増加を防ぐために、一般的には、DPFに堆積したPMの堆積量を排気圧損や車両の走行距離から推定し、PMを強制的に燃焼除去(DPFの強制再生)させたり、通常の状態でエンジンを運転させながら、連続的にPMを燃焼除去(DPFの連続再生)させている。しかしながら、本実施形態では、上述のように比較的低温でのススの燃焼に優れたペロブスカイト型複合酸化物を含有する第2触媒層15bを使用し、さらにフィルタ担体14の上流側で生成された反応熱を第2触媒層15bの活性に利用することができる。したがって、DPF13の再生を行なう上で、PM燃焼用の酸化触媒の活性のために余分な燃料噴射を行なってDPF13内の温度を上昇させる必要がなく、さらに効率よく連続再生を行ないながら、排ガスを浄化することができる。
【0030】
また、PMの酸化触媒として一般的に使用されるPtの浄化性能の一部を代替させる目的で、Ptに加えペロブスカイト型複合酸化物も使用することで、高価なPtの使用量を低減することができ、製造コストを軽減することができる。
ここで、本発明者らは、Ptとペロブスカイト型複合酸化物とを混合してからフィルタ担体14に塗布すると、Ptが不活性化され、触媒としての機能が低下してしまう点に着目した。このPtの不活性化は、Ptがペロブスカイト型複合酸化物の構造内に固溶してしまうために生じる、と考えられる。さらに、Ptが不活性化され触媒としての機能が低下すると、フィルタ担体14の上流側で主に燃焼されるはずのSOFが排ガス中に残留し、フィルタ担体14の下流側に到達することとなる。すると、ペロブスカイト型複合酸化物のススを燃焼するという排ガスの浄化性能がSOFによって低下し、ススの大気中への排出が憂慮される。このペロブスカイト型複合酸化物の排ガスの浄化性能の低下は、ペロブスカイト型複合酸化物がSOFの酸化性能に乏しいため、本来ペロブスカイト型複合酸化物が酸化可能なスス成分との接触が、残留するSOFによって阻害されるために生じると考えられる。
【0031】
これに対して、本実施形態では、Ptとペロブスカイト型複合酸化物とは混合されず、共通のフィルタ担体14に別々に担持される。したがって、Ptの不活性化を招くことがなく、フィルタ担体14の上流側でPtを含有する第1触媒層15aによってPM中のSOFが主に燃焼され、フィルタ担体14の下流側でペロブスカイト型複合酸化物を含有する第2触媒層15bによって、第2触媒層15bに流入する排ガス中のPMに多く含まれるススが主に燃焼される、といったPt及びペロブスカイト型複合酸化物の個々の排ガス浄化性能を十分に発揮させることができ、より確実に効率良く排ガスを浄化することができる。
【0032】
さらに、フィルタ担体14がフロースルー型構造ではなくウォールフロー型構造であり、フィルタ機能を有するため、上流側でもある程度のススを捕捉し燃焼することができるため、より確実に排ガスを浄化することができる。
さらに、第1触媒層15aに含まれる貴金属として、比較的入手が容易であるPtを用いることで、製造コストを抑制しながら排ガスを浄化することができる。
【0033】
ここで、図5及び図6を参照しながら、Ptとペロブスカイト型複合酸化物とを混合して含む触媒層をフィルタ担体に担持させたDPFに比べ、Pt及びペロブスカイト型複合酸化物が混合されることなく共通の担体14に担持されている本実施形態のDPF13が、どのような点で優れた排ガス浄化性能を発揮しているのかについて説明する。
図5及び図6は、Pt及びペロブスカイト型複合酸化物を混合して含む触媒層がフィルタ担体に担持されているDPF(図中実線、以下、参考例1のDPFという)と、ペロブスカイト型複合酸化物を含むがPtを含まない触媒層がフィルタ担体に担持されているDPF(図中一点鎖線、以下、参考例2のDPFという)と、Ptを含むがペロブスカイト型複合酸化物を含まない触媒層がフィルタ担体に担持されているDPF(図中破線、以下、参考例3のDPFという)との関係を示している。なお、これらのDPFはここで説明した点を除き、同様の構成としている。また、温度は、参考例1〜3に係る各DPFの入口温度を示している。実験条件としては、模擬排ガス雰囲気下で、1分当たり触媒層の温度を20℃ずつ上昇させた。
【0034】
まず、参考例1〜3に係る各DPFのPM積算燃焼量に関する作用を主に示す模式的なタイムチャートである図5について説明し、本実施形態のDPF13がPMの燃焼に優れている点について説明する。
この図5に示すグラフは、各DPFで排出される一酸化炭素(以下、COという)量及び二酸化炭素(以下、COという)量に基づきPMの積算燃焼量を測定したものである。
【0035】
エンジンが冷態始動した直後で、DPF入口温度が25℃程度(図中T1)である時点t1においては、参考例1〜3に係る各DPFのいずれもPM積算燃焼量が非常に少ない。つまり、各DPFの入口温度は極めて低いためPM燃焼用の酸化触媒の活性が低く、参考例1〜3に係る各DPFのいずれにおいてもPMがほとんど燃焼されていないことがわかる。
【0036】
また、時点t1からDPF入口温度が200℃程度(図中T2)である時点t2までの間では、DPF入口温度は上昇しているものの、依然として、参考例1〜3に係る各DPFのいずれにおいてもPM積算燃焼量が少なく、PMがあまり燃焼されていないことがわかる。
一方、時点t2以降は、PM積算燃焼量の増加が見られ始め、それぞれのDPFではPMの燃焼が行なわれていることがわかる。
【0037】
しかしながら、DPF入口温度が十分に上昇した600℃程度(図中T3)の時点t3においては、参考例3のDPFでは、参考例1および2のDPFに比べPM積算燃焼量が著しく多く、活発にPMを燃焼していることがわかる。
このように、参考例3のDPFのPM積算燃焼量が非常に多い理由は、参考例3のDPFに含まれるPtの強い酸化力によるものだと考えられる。
【0038】
しかしながら、参考例1のDPFはPtを含むにも係わらず、Ptを含む参考例3のDPFとはPM積算燃焼量が大きく異なり、Ptを含まない参考例2のDPFとほとんど違いが見られない。
このように、参考例1のDPFは強い酸化力を有するPtを含んでいるにも係わらず、Ptを含まない参考例2のDPFとPM積算燃焼量に関して違いがあまり見られない理由は、以下のように考えられる。
【0039】
本来、Ptは強い酸化力を有し、DPF入口温度の上昇に伴なってPtが活性化することでPMの燃焼が開始される。その後、Ptの排ガス浄化による酸化熱によって触媒内部温度が上昇することにより、PMの燃焼が促進される。しかしながら、参考例1のDPFではPtとペロブスカイト型複合酸化物とを混合したことによって、Ptがペロブスカイト型複合酸化物中に固溶してしまい、DPF入口温度の上昇によって生じるはずのPtの活性化が抑制されたからであると考えられる。
【0040】
しかしながら、本実施形態のDPF13は参考例1のDPFと同様に、Ptとペロブスカイト型複合酸化物とを含んでいるものの、参考例1のDPFとは異なり、Ptを含有する第1触媒層15aと、ペロブスカイト型複合酸化物を含有する第2触媒層15bとが、図2に示すようにフィルタ担体14において上流側と下流側とで個々に担持されている。つまり、本実施形態のDPF13では、参考例1のDPFとは異なりPt及びペロブスカイト型複合酸化物とを混合していないため、参考例3のDPFのようにPtの強い酸化力を維持しつつ、さらにペロブスカイト型複合酸化物のススを燃焼するという排ガスの浄化性能も発揮しながら、PMを燃焼することができるため、PMの燃焼に優れている。
【0041】
次に、DPFのCO排出量に関する作用を主に示す模式的なタイムチャートである図6について説明し、本実施形態のDPF13がPMの燃焼に優れている点について説明する。
PM中に含まれるSOFやススは、完全燃焼により無害なCOとなる。しかしながら、PMの燃焼では、一部に不完全燃焼が生じるとCOが発生し、一般的にはPMの燃焼量が多くなるに伴なってこのCOの排出量は増加する。
【0042】
図6に示すグラフは、参考例1〜3に係る各DPFにおいて、PMの不完全燃焼によって生成され排ガス中に排出されるCOの割合を測定したものである。
参考例1〜3に係る各DPFの入口温度が比較的低く、200℃程度(図中T2)である時点t2においては、参考例1〜3に係る各DPFいずれもCOをほとんど排出していない。図5に示すグラフを踏まえて考慮すると、いずれのDPFにおいてもCOの排出量が少ない理由として、時点t2ではPMの燃焼があまり行われていないからである、と考えられる。
【0043】
また、参考例1〜3に係る各DPFの入口温度が十分に上昇し、600℃程度(図中T3)である時点t3においては、参考例3のDPFでは依然としてCOをほとんど排出していない。図5に示すグラフを踏まえて考慮すると、参考例3のDPFでは、時点t3においてPMの燃焼が活発に行われているが、このとき、PMの燃焼が触媒層に含まれるPtの強い酸化力によりほぼ完全燃焼となっており、COがほとんど排出されていないと考えられる。
【0044】
一方、参考例1および2のDPFでは、時点t3では時点t2に比べCOの排出率が増加しており、PMの燃焼が行われる際に、不完全燃焼が生じていることがわかる。
ここで参考例1および2のDPFを比較すると、時点t3において、図5に示すPM積算燃焼量に関してはあまり差が見られないにもかかわらず、図6に示すCO排出率に関しては大きく異なっている。このCOの排出率に違いが生じる理由は以下のように考えられる。
【0045】
参考例2のDPFでは、参考例3のDPFのように触媒層に酸化力の強いPtを含むのではなく、ペロブスカイト型複合酸化物を含んでいるため、参考例3のDPFに比べPMの燃焼が十分ではなく、PMの燃焼の一部が不完全燃焼となりCOが排出されるが、ペロブスカイト型複合酸化物の酸化力によって完全燃焼も比較的良好に行われる。
一方、参考例1のDPFでは、Ptとペロブスカイト型複合酸化物とを混合したことにより、Ptがペロブスカイト型複合酸化物中に固溶してしまい、DPF入口温度の上昇によって生じるはずのPt及びペロブスカイト型複合酸化物の両酸化力が低下してしまい、PMの燃焼の際に、参考例2のDPFよりも不完全燃焼の割合が増加し、参考例2のDPFよりもCOの排出率が高くなっている、と考えられる。
【0046】
しかしながら、本実施形態のDPF13は参考例1のDPFと同様に、Ptとペロブスカイト型複合酸化物とを含んでいるものの、Ptを含有する第1触媒層15aと、ペロブスカイト型複合酸化物を含有する第2触媒層15bとが、図2に示すようにフィルタ担体14において上流側と下流側とで個々に担持されている。つまり本実施形態のDPF13では、Pt及びペロブスカイト型複合酸化物とを混合していないため、参考例1のDPFとは異なり、Ptの酸化力及びペロブスカイト型複合酸化物の酸化力のどちらも発揮することができる。したがって、本実施形態のDPF13は、PMが燃焼される際に不完全燃焼を抑制し、完全燃焼が主として行われ、COの排出を抑制できる。
(その他)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更しうるものである。
【0047】
上記の実施形態では、図2に示すように、第1触媒層15a及び第2触媒層15bが、上流側から下流側に向かって重なることなく且つ途切れることなく、フィルタ担体14に担持されているが、第1触媒層15a及び第2触媒層15bとが多少重なっていても良い。また、第1触媒層15aと第2触媒層15bとの間で多少隙間がある状態で、第1触媒層15a及び第2触媒層15bがフィルタ担体14に担持されていても良い。
【0048】
また、上述の実施形態においては、車両10にディーゼルエンジン11が搭載されている場合について述べたが、これに限定するものではない。例えば、ディーゼルエンジン11の代わりにガソリンエンジンやアルコール混合燃料エンジン等を用いても良い。
また、上記の実施形態では、DPF13のフィルタ担体14としては、SiCを主成分とする場合について説明したが、これに限定するものではなく、セル孔を多数有し、ウォールフロー型と呼ばれるフィルタを形成しているものであれば制限はない。したがって、排ガス中のPMを捕集することができる、従来のDPFのフィルタ担体に用いられているものをフィルタ担体として適宜用いることができる。例えば、ゼオライト、コージライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム等の多孔質材料を用いることができる。
【0049】
また、上記の実施形態では、第1触媒層15aがフィルタ担体14の上流側に担持され、この第1触媒層15aよりもフィルタ担体14の下流側に第2触媒層15bが担持される場合について説明したが、図7に示すように、第2触媒層15bがフィルタ担体14上に形成され、この第2触媒層15b上に第1触媒層15aが形成されるようにしても良い。
【0050】
これにより、貴金属及びPM燃焼用酸化物が混合されずに担体に積層された状態で担持されるため、貴金属及びPM燃焼用酸化物の個々の酸化力を発揮し易い。また、貴金属とPM燃焼用酸化物とが近傍に配置されるため、第1触媒層15aでのPMの燃焼による反応熱が第2触媒層15bに伝わり易く、この反応熱を利用して第2触媒層15bに含まれるPM燃焼用酸化物を活性化させ、効率よく排ガスを浄化することができる。さらに、貴金属を含む第1触媒層15aとPM燃焼用酸化物を含む第2触媒層15bとを順に積層させ製造するため、製造がし易い。
【0051】
また、上記の実施形態では、DPF13の第1触媒層15aに含まれる貴金属としてPtを用いる場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、貴金属として、ロジウム(以下、Rhという)、パラジウム(以下、Pdという)、ルテニウム(以下、Ruという)及びイリジウム(以下、Irという)を単独で用いても良い。或いは、貴金属として、Pt、Rh、Pd、RuやIrから適宜選択して混合したものを用いても良い。いずれの貴金属もPMを燃焼し排ガスを浄化する機能を有する。
また、第1触媒層15aにおけるこれらの貴金属の含有量は、Ptを用いた場合と同様に、例えば第1触媒層15aの容積に対して通常0.1g/L以上である。
【0052】
また、上記の実施形態では、DPF13の第2触媒層15bに含まれるPM燃焼用酸化物としてペロブスカイト型複合酸化物を用いる場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、PM燃焼用酸化物として、アルカリ金属、アルカリ土類金属もしくは遷移金属の中の2種以上含む材料、又はAgを含む材料を単独で用いても良い。或いは、PM燃焼用酸化物として、ペロブスカイト型複合酸化物;アルカリ金属、アルカリ土類金属もしくは遷移金属の中の2種以上含む材料;Agを含む材料;から適宜選択して混合したものを用いても良い。いずれのPM燃焼用酸化物も比較的低温でも良好にPMを燃焼し排ガスを浄化する機能を有する。
また、第2触媒層15bにおけるPM燃焼用酸化物の含有量は、ペロブスカイト型複合酸化物を用いた場合と同様に、例えば第2触媒層15bの容積に対して、通常10g/L以上、100g/L以下である。
【0053】
また、上記の実施形態では、DPF13は連続再生型のDPFについて説明したが、強制再生型のDPFにも適用することができる。つまり、触媒活性のためにDPF温度を上昇させるための燃料噴射等を行なう構成にも、本願の排ガス浄化装置を用いることができる。
【0054】
また、上記の実施形態では、DPF13上に酸化触媒としての機能を有する貴金属及びPM燃焼用酸化物であるペロブスカイト型複合酸化物を設けたが、さらにDPF13よりも上流側に、又は下流側に、或いは両側にDPF13とは別体で酸化触媒を設置しても良い。
【符号の説明】
【0055】
10 車両
11 ディーゼルエンジン(エンジン)
12 排ガス通路
13 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
14 フィルタ担体
15 触媒層
15a 第1触媒層
15b 第2触媒層
A 排ガス浄化装置の要部
B 排ガス浄化装置の要部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用エンジンから排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
該排ガスをろ過するフィルタ担体と、
貴金属を含有する第1触媒層と、
PM燃焼用酸化物を含有する第2触媒層とを有し、
該第1触媒層と該第2触媒層とは共通の該フィルタ担体に担持され、
該第1触媒層は、該フィルタ担体上の上流側に担持され、
該第2触媒層は、該第1触媒層よりも下流側の該フィルタ担体上に担持されている
ことを特徴とする、排ガス浄化装置。
【請求項2】
該PM燃焼用酸化物が、下記式(1)で表されるペロブスカイト型複合酸化物である
ことを特徴とする、請求項1に記載の排ガス浄化装置。
La1-xBaxMnyFe1-y3 (1)
(上記式(1)において、0<x<0.7、0≦y≦1である。)
【請求項3】
該貴金属が、Pt、Rh、Pd、Ru及びIrからなる群より選ばれる1種以上である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−56393(P2011−56393A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208633(P2009−208633)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】