説明

排ガス浄化装置

【課題】排ガス浄化装置に関し、粒子状物質の捕集量分布を均一にし、フィルタの再生効率を向上させる。
【解決手段】エンジン8の排気通路5に、排気中に含まれる粒子状物質を捕集する第一フィルタ1を設け、その下流側に第二フィルタ2を設ける。第一フィルタ1の担体の気孔率を第二フィルタ2の担体の気孔率よりも高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガスを浄化するための排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関、特にディーゼルエンジンの排ガスに含まれる粒子状物質(パティキュレートマター、Particulate Matter;以下PMと略す)を除去するための浄化装置として、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF,Diesel Particulate Filter;以下フィルタと略す)が知られている。PMとは炭素からなる黒煙(すす)の周囲に燃え残った燃料や潤滑油の成分,硫黄化合物等が付着した粒子状の物質であり、フィルタ上にはこれらのPMに見合った大きさの多数の細孔が形成される。
【0003】
排ガス中のPMはフィルタにより捕集されるが、PMが捕集され続けるとフィルタが目詰まりし、最終的には排ガスが流れなくなってしまう。このため、捕集されたPMを燃焼(焼却)して除去する必要が生じる。PMの除去方法としては、フィルタの温度をPMの燃焼に必要な温度まで意図的に昇温・維持することでフィルタ上に捕集されたPMを強制的に燃焼除去する方法(強制再生式)や、フィルタの温度を意図的に昇温する事なく、通常運転中に燃焼除去する方法(連続再生式、自然再生式)などがある。
【0004】
連続再生式の排気浄化装置としては、例えば、フィルタの上流に配置した酸化触媒で、排ガス中の一酸化窒素(NO)から二酸化窒素(NO2)を生成し、フィルタ上に捕集されたPMと上記方法により生成した二酸化窒素とを反応させて連続的にPMを燃焼除去する手法がある。また、フィルタの表面には触媒が担持されていても良く、この場合、排ガス中の二酸化窒素とフィルタ上に捕集されたPMとの反応を促進する事が可能となる。
【0005】
一方、強制再生式の排気浄化装置としては、例えば、フィルタの上流に配置した酸化触媒に未燃燃料(HC)を供給し、酸化触媒にて未燃燃料が酸化される際に発生する反応熱を利用してフィルタを昇温する手法がある。このような手法により、フィルタに捕集されたPMが除去され、フィルタが再生浄化される。
【0006】
このようなフィルタの再生効率は、PMをフィルタの全体で満遍なく捕集し、均一な温度でのPMの酸化反応を促すことで向上する。そこで、排ガスの流通方向についてのPMの分布を均一にするためのフィルタ構造が提案されている。
例えば特許文献1には、セル隔壁の細孔径が異なる複数の触媒付きフィルタを用いた排ガス浄化装置が開示されている。この技術では、複数のフィルタを排ガスの上流側から下流側に向かって平均細孔径が大きなものから小さなものへと順に直列に配置している。このような構成により、各々のフィルタに捕集されるPMの粒径を相違させ、PMの捕集量を排ガスの流通方向に分散させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−225540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、フィルタに導入される排ガス中に含まれるPMの粒径分布は必ずしも均一ではない。そのため、PMの捕集量の分布に偏りが生じ、良好な再生効率が得られない場合がある。流入してきたPMは、フィルタの上流部分から順に捕集されるという特徴があるため、特に、粒径の大きなPMが排ガス中に多く含まれている場合には、フィルタの下流部分が十分に機能しないことになり、再生効率が大きく低下する。さらに、フィルタの上流部分に大量のPMが捕集され、排気通路の圧力損失が著しく増大するため、エンジンの出力低下や燃費の低下が懸念される。
【0009】
また、特許文献1のような技術では、排ガスの流通方向に垂直な方向についてのPMの捕集量を分散させることができない。
例えば、フィルタの中央部に対して排ガスが導入されるストレートタイプのケーシングを備えた排ガス浄化装置では、フィルタ外周部よりもフィルタ中心部での捕集量が増加しやすい反面、排ガスの流れが中央に導入されていることと、PMが燃焼する際に発生する反応熱が高くなることから、相対的にフィルタ中心部の温度が上昇しやすい。そのため、フィルタ中心部に捕集されたPMが優先的に除去される事になり、圧損の関係から、新たに流入してくる排ガスは、捕集されたPMが除去されたフィルタ中央部に偏って流れ込み、結果として、フィルタ外周部にPMの燃え残りが生じやすく、再生効率を向上させにくい。
【0010】
あるいは、フィルタの入口近傍で排ガスの流通方向が変化する屈曲タイプのケーシングにおいても、屈曲した排気通路の内側よりも外側へと排ガスが流れやすくなり、フィルタの内側寄りの位置では良好な再生効率が得られにくい。
これらの現象は、連続再生式でも、強制再生式でも同様に発生する。連続再生式の場合には、PMの燃焼に必要な要素として温度のみならず、フィルタ上流の酸化触媒で生成した二酸化窒素も必要となるため、ガス流れによる影響は強制再生式と同レベルである。
【0011】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、排ガス浄化装置でのPMの捕集量分布を均一にし、排ガス流通方向及びこれに垂直な方向のそれぞれにおいてフィルタの再生効率を向上させることである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)ここで開示する排ガス浄化装置は、内燃機関の排気通路に設けられ、排気中に含まれる粒子状物質を捕集する第一多孔体と、前記排気通路の前記第一多孔体よりも下流側に設けられ、前記排気中に含まれる粒子状物質を捕集する第二多孔体とを備え、前記第一多孔体が、前記第二多孔体よりも高い気孔率を有するものである。
(2)また、前記第一多孔体が、上流側の端部及び下流側の端部がともに開放された流路を形成するオープンフロー型の担体として設けられる。
【0013】
(3)また、前記第二多孔体が、上流側の端部及び下流側の端部の少なくとも何れか一方が閉鎖された流路を形成するクローズドフロー型の担体として設けられる。
(4)また、排気の流通方向に垂直な断面において、前記第一多孔体の断面積が、前記第二多孔体の断面積以上の大きさである。
【0014】
(5)また、前記第一多孔体が、前記第二多孔体よりも大きな気孔径を有する。
(6)また、前記第一多孔体及び前記第二多孔体が、複数のセル壁で区画されたハニカム構造の担体であって、前記第一多孔体のセル壁厚が、前記第二多孔体のセル壁厚よりも小さい。
【0015】
(7)また、前記第一多孔体及び前記第二多孔体が、単一のケーシング内に配置される。
(8)また、前記第一多孔体が、70%以上の気孔率を有する。
(9)また、前記第二多孔体が、55%以下の気孔率を有する。
【発明の効果】
【0016】
開示の排ガス浄化装置によれば、第一多孔体の気孔率を第二多孔体の気孔率よりも高くすることで、排気の上流側での圧力損失を下流側での圧力損失よりも小さくすることができ、下流側での粒子状物質(PM)の捕集率を相対的に向上させることができる。これにより、排気の流通方向についての粒子状物質の捕集量を均一にすることができ、装置全体での粒子状物質の捕集効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態に係る排ガス浄化装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】図1の排ガス浄化装置のフィルタの内部構成を例示するものであり、(a)は担体を透視して示す斜視図、(b)は上流側の担体の端面〔図2(a)のA部〕を拡大して示す斜視図、(c)は下流側の担体の端面〔図2(a)のB部〕を拡大して示す斜視図、(d)はその要部断面図である。
【図3】図2のフィルタ内部における排ガスの流速分布を示す図であり、(a)は上流側の担体の入口側端面の近傍〔図2(a)のC−C断面〕での流速分布、(b)は下流側の担体の入口側端面の近傍〔図2(a)のD−D断面〕での流速分布である。
【図4】図2のフィルタ内部における温度分布を示す図であり、(a)は上流側の担体の入口側での温度分布、(b)は下流側の担体の出口側での温度分布である。
【図5】変形例としての排ガス浄化装置の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して排ガス浄化装置について説明する。なお、以下に示す実施形態は、あくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0019】
[1.全体構成]
本排ガス浄化装置は、図1に示すような内燃機関(エンジン)の排気通路上に適用されている。
図1に示すエンジン8は、軽油を燃料とするディーゼルエンジンであり、このエンジン8には排気通路5及び吸気通路6が接続される。エンジン8の各気筒の燃焼室には吸気通路6を介して吸気が導入され、燃焼後の排ガスは排気通路5を介して外部へ排出される。
【0020】
排気通路5上には、排ガスの流れの上流側から順に、ターボチャージャー7,酸化触媒3及びフィルタ4が介装される。ターボチャージャー7は、排気通路5及び吸気通路6のそれぞれを跨ぐように介装された過給器であり、排気通路5を流通する排ガスの排気圧でタービンを回転させ、その回転力を利用してコンプレッサを駆動することにより、吸気通路6からの吸気を圧縮してエンジン8への過給を行う。
【0021】
酸化触媒3は例えば三元触媒であり、排ガス中に含まれる一酸化窒素を酸化して二酸化窒素を生成し、これを下流側のフィルタ4に供給するものである。また、酸化触媒3は、流入した排ガス中の未燃燃料(HC)や一酸化炭素(CO)といった有害成分を酸化・浄化する機能を有するとともに、その反応熱により、排ガスの温度を上昇させる機能も有する。
【0022】
フィルタ4は、排ガスに含まれるPMを捕集するとともに、これを燃焼させて除去する強制再生式フィルタであり、その表面には触媒が担持される。なお、酸化触媒3で未燃燃料を酸化する事により発生した反応熱を利用し、フィルタ4を所定の温度まで昇温・維持させ、フィルタ4上に捕集されたPMを所定の温度条件下で燃焼させる。
【0023】
[2.フィルタの詳細]
図2(a)に示すように、フィルタ4はケーシング9とその内部に直列に配置された第一フィルタ1及び第二フィルタ2を備える。第一フィルタ1及び第二フィルタ2は同一径の円筒状であり、互いに円形の端面が平行に向かい合うように配置され、ケーシング9内に固定される。第一フィルタ1と第二フィルタ2との間には所定の間隙11が設けられ、フィルタ同士が互いに物理的に非接触とされる。間隙11では、排ガスの流動が許容されるとともに、排ガスの混合が促進される。
【0024】
ケーシング9は金属製の容器であり、円筒状に形成された本体部9aとその上下両端部を縮径して排気通路5に接続する円錐台状の入口部9b及び出口部9cを有する。ケーシング9は屈曲タイプであり、排気通路5が入口部9bに接続される部位での流路中心軸が本体部9aの筒軸に対してやや傾いている。また、出口部9cに接続される排気通路5の流路中心も同様に、本体部9aの筒軸に対して傾斜している。
【0025】
第一フィルタ1は上流側のフィルタであり、第一フィルタ1の内部には、セル壁1a(第一多孔体)によって排ガスの流通方向に沿って複数の通路に分割されたハニカム構造の複数のセル1bが形成される。これらのセル1bは、図2(b)に示すようにオープンフロー型であり、上流側及び下流側の端部はそれぞれ開放される。これにより、排ガスは第一フィルタ1のセル1bの内部を上流側から下流側へと流通し、あるいは、セル壁1aの内部の空隙を通り抜けて隣接するセル1bへと移動する。
【0026】
一方、第二フィルタ2は第一フィルタ1よりも下流側に配置されるフィルタである。第二フィルタ2の内部にも、セル壁2a(第二多孔体)によって排ガスの流通方向に沿って複数の通路に分割されたハニカム構造の複数のセル2bが形成される。これらのセル2bは、図2(c)に示すようにクローズドフロー型であり、上流側及び下流側の何れか一方の端部がセル壁2aと同種の材質の目止め2cで閉塞される。これにより、全ての排ガスは第二フィルタ2のセル2bを通過して下流側へと流れる。
【0027】
第一フィルタ1のセル壁1a及び第二フィルタ2のセル壁2aは、その表面又は内部にPMを捕集する多孔体である。これらのセル壁1a,2aの表面には、捕集されたPMを酸化するための触媒層が設けられる。触媒層の化学的な構造は任意である。また、セル壁1a,2aの材質は、例えば金属,多孔金属(メタル担体)としてもよいし、コーディエライト,炭化ケイ素,窒化ケイ素等のセラミックス(セラミックス担体)としてもよい。
【0028】
第一フィルタ1のセル壁1aは、第二フィルタ2のセル壁2aよりも高い気孔率を持つ。例えば、セル壁1aの気孔率を70[%]以上とし、セル壁2aの気孔率を55[%]以下とする。つまり、第一フィルタ1でのPMの捕集効率を第二フィルタ2での捕集効率よりも低く設定する。なお、セル壁1a,2a内での気孔の分布は均一としてもよいし、あるいはセル壁1a,2aの内部よりもその表面側に多くの気孔が偏ったもの(セル壁1a,2aの表面に露出する気孔の多いもの)としてもよい。
【0029】
ここでいう気孔率とは、セル1b,2bの空間を除くセル壁1a,2aのみの見かけの体積(セル壁1a,2aの外形によって規定される体積であって、セル壁1a,2aに内包される気孔を含む体積)に対する気孔の体積の割合である。したがって、気孔率はセル壁1a,2aのみによって定まり、セル1b,2bの大きさに依存しない。
【0030】
また、第一フィルタ1のセル壁1aの平均気孔径は、第二フィルタ2のセル壁2aの平均気孔径よりも大径とする。例えば、セル壁1aの平均気孔径を50[μm]以上とし、セル壁2aの平均気孔径を25[μm]以下とする。さらに、第一フィルタ1のセル壁1aの厚み(セル壁厚)は、第二フィルタ2のセル壁2aの厚みよりも小さくする。このように、第二フィルタ2よりもPMが捕集されにくく空隙の多い多孔体を第一フィルタ1の担体として用いる。
【0031】
[3.作用,効果]
[3−1.整流]
セル壁1aは気孔率が高く、内包される気孔1cが多い。そのため、セル壁1aの表面に多数の開口部が露出することになり、表面近傍における排ガスの運動方向に乱れが生じやすくなる。例えば、図2(d)に示すように、排ガスの流通方向が紙面の上から下への方向であるとき、一部の排ガスはセル壁1aの表面に露出した気孔1cの内面に沿ってセル壁1aの内側に向かって運動しようとし、また他の一部の排ガスは気孔1cからセル1b側(外側)に向かって運動しようとする。これにより、下流側ほど排ガスの拡散,混合が促進される。
【0032】
また、セル壁1aは気孔率が70[%]以上と高く設定されているため、排ガスが一つのセル1bから隣接する他のセル1bへと移動しやすい構造であるといえる。つまり、上述の排ガスの左右方向への拡散作用と相まって、排ガスはその流通方向に垂直な方向に第一フィルタ1内を移動する。これにより、排ガスの拡散,混合が促進される。さらに、第一フィルタ1のセル1bはオープンフロー型となっているため、セル1bの下流端から流れた排ガスは、その直後に間隙11内で左右方向へと拡散する。
【0033】
一方、第二フィルタ2のセル壁2aは気孔率が55[%]以下と低く設定されており、排ガスが一つのセル2bから隣接する他のセル2bへと移動しにくい構造である。また、第二フィルタ2のセル2bはクローズドフロー型となっているため、排ガスはセル壁2aを通過後に下流端から流れ出ることになり、流路抵抗が増大する。これにより、排気の一部が第一フィルタ1と第二フィルタ2との間隙11に滞留しながら拡散する。このような傾向は、セル壁2aの平均気孔径が小さい(25[μm]以下)ことによってさらに助長される。
【0034】
したがって、第一フィルタ1を通過した排ガスの流通方向の偏りを均すことができ、第一フィルタ1よりも下流側の排ガスを整流することができる。
また、セル壁1aは、気孔率だけでなくセル壁2aよりも大きな気孔径(平均気孔径が50[μm]以上)を有するため、排ガスの流通方向の偏りを均しやすい特性を持つ。これにより、第一フィルタ1よりも下流側の排ガスの整流効果をさらに向上させることができる。
【0035】
[3−2.流速分布改善]
排ガスの流通方向だけでなく流速も均一化される。排ガスの流速分布図を図3(a),(b)に示す。フィルタ4のケーシング9は屈曲タイプであるから、第一フィルタ1の入口端面における排ガスの流速は、屈曲した排気通路5の外側ほど大きくなる。
【0036】
図3(a)に示す例では、排ガスが高速に流れる領域と緩やかに流れる領域とが、第一フィルタ1のほぼ中央から紙面の左右方向に分離している様子を読み取ることができる。一方、第二フィルタ2の入口端面における排ガスの流速分布は、図3(b)に示すように均質であり、ほぼ全面にわたって等速度である。
【0037】
このように、空隙の割合が大きいセル壁1aを第一フィルタ1に適用することにより、その内部を通過する排ガスの流速の偏りを均すことができ、第二フィルタ2の入口端面の全面に対してほぼ同じ速度で排ガスを導入することができる。特に、セル壁1aの気孔率が70[%]以上に設定されているため、排ガスの流速の均等化作用を向上させることができる。
さらに、セル壁1aは、気孔率だけでなくセル壁2aよりも大きな気孔径を有するため、排ガスの流速の偏りに関しても均しやすい特性を持つ。特に、平均気孔径が50[μm]以上であるため、排ガスの流速の均等化作用が向上する。したがって、より効果的に排ガスの流速の偏りを均すことができ、排ガスの流通方向に垂直な面内での流速分布を容易に均一にすることができる。
【0038】
[3−3.温度分布改善]
また、排ガスの温度分布についても均等化される。第一フィルタ1の入口近傍及び第二フィルタ2の出口近傍での排ガスの温度分布図を図4(a),(b)に示す。前述の通り、第一フィルタ1の入口近傍では排ガスの流速分布に偏りがあるため、図4(a)に示すように、温度分布に関しても屈曲した排気通路5の外側ほど高温になり、内側ほど低温になる。
【0039】
一方、第一フィルタ1のセル壁1aは気孔率が高いため、熱が一つのセル1bから隣接する他のセル1bへと移動しやすい。特に、セル壁1aの気孔率が70[%]以上であるから熱の移動が促進される。そのため、排ガスの熱はその流通方向に垂直な方向に第一フィルタ1内を移動する。これにより、排ガスの熱が第一フィルタ1内で拡散する。
【0040】
また、第一フィルタ1及び第二フィルタ2間には間隙11が設けられているため、間隙11の中で排ガスがさらに流動,混合する。さらに、気孔率の低い第二フィルタ2では排ガスの流速が低下するため、排ガスは間隙11内に一旦停留し、その後、第二フィルタ2に流入する。特に、セル壁2aの気孔率が55[%]以下であるから、排ガスの流速の低下量が適切となる。これらの過程で排ガスの熱は間隙11内で拡散する。
したがって、図4(b)に示すように、第一フィルタ1を通過した排ガスの熱的な偏りを均すことができ、第二フィルタ2における排ガス温度,触媒温度の分布を均一にすることができる。
【0041】
さらにセル壁1aは、気孔率だけでなくセル壁2aよりも大きな気孔径を有するため、排ガスの熱の偏りを均しやすい特性を持つ。このような特性は、平均気孔径を50[μm]以上とすることによってさらに助長される。これにより、第一フィルタ1よりも下流側の温度分布をさらに改善することができる。加えて、セル壁1aは、第二フィルタ2のセル壁2aよりも薄いセル壁厚を有するため、熱を移動させやすい特性を持つ。このような点においても、温度分布の均質化に有利である。
【0042】
[3−4.圧力損失低減]
第一フィルタ1のセル壁1aの気孔率が第二フィルタ2のセル壁2aの気孔率よりも高いため、排気通路5の圧力損失を低減させることができる。特に、セル壁1aは気孔率が70[%]以上と高く設定されているため、圧力損失の低減作用が高い。加えて、セル壁1aの平均気孔径が50[μm]以上であるから、圧力損失がさらに減少する。
また、第一フィルタ1のセル1bはオープンフロー型であるから圧力損失が小さく、エンジン8の負荷を増大させるおそれがない。さらに、上流側のセル壁1aは下流側のセル壁2aよりも薄いセル壁厚を有するため、圧力損失をさらに低減させることができる。
【0043】
[3−5.フィルタ断面方向の堆積分布改善]
排ガスの流通方向に垂直な面内でのPMの堆積量分布に関して、前述の通り、第二フィルタ2の入口近傍では排ガスの流通方向の偏りが解消され、流速が均一となる。これにより、第二フィルタ2に捕集されるPMの分布を均一にすることができる。また、第二フィルタ2のセル壁2aは第一フィルタ1のセル壁1aよりも低い気孔率を有しているため、第一フィルタ1よりもたくさんのPMを回収することができる。
【0044】
なお、第一フィルタ1に捕集されるPMの堆積量分布は、屈曲の外側に偏る可能性があるが、第一フィルタ1のセル壁1aは気孔率が高いため、PMの堆積量が第二フィルタ2よりも少なく、過堆積や過昇温等のリスクが小さいというメリットがある。
【0045】
[3−6.排ガス流通方向の堆積分布改善]
排ガスの流通方向についてのPMの堆積量分布に関して、例えば同一の捕集効率を持つフィルタを排気通路5に直列にタンデム配置した場合には、上流側ほど堆積量が多くなり、下流側の堆積量が少ない不均一な分布となることが考えらえる。
これに対して本排ガス浄化装置では、上流側に配置される第一フィルタ1は第二フィルタ2よりも捕集効率が低い構造であるため、配置に由来するPMの堆積しやすさと第一フィルタ1の構造に由来するPMの堆積しにくさとが相殺され、堆積量が適正化される。
【0046】
一方、第二フィルタ2はクローズドフロー型のセル2bを有する捕集効率が高い構造であるため、配置に由来するPMの堆積しにくさと第二フィルタ2の構造に由来するPMの堆積しやすさとが相殺され、堆積量が適正化される。これにより、整流された排気が導入される第二フィルタ2の上流側の端面全体にわたって、PMの捕集効率を高めることができる。
また、前述の通り、本排ガス浄化装置では上流側の第一フィルタ1での圧力損失が下流側の第二フィルタ2での圧力損失よりも小さくなるため、下流側でのPMの捕集率が相対的に向上する。したがって、排気の流通方向について、フィルタ4の全体でのPMの堆積量分布を均一にすることができる。
【0047】
特に、上述の実施形態では、第一フィルタ1のセル壁1aの気孔率が70[%]以上であるのに対して第二フィルタ2のセル壁2aの気孔率が55[%]以下であるから、PMの堆積量分布の均一化効果が高められる。また、第一フィルタ1のセル壁1aの平均気孔径が50[μm]以上であるのに対して第二フィルタ2のセル壁2aの平均気孔径が25[μm]以下であるから、PMの堆積量分布の均一化効果がさらに高められる。
【0048】
また、第一フィルタ1のセル壁1aは第二フィルタ2のセル壁2aよりも平均気孔径が大径であるから、第二フィルタ2と比較して粒子径の大きいPMを捕集する。一方、セル壁1aは気孔率も高く大量の空隙を有するため、粒子径の大きいPMを捕集したとしても、空隙が全て閉塞するようなことがない。したがって、たとえフィルタ4に導入される排ガス中に含まれるPMの粒径分布が均一でなかったとしても、これに対応することができる。例えば、粒径の大きなPMが排ガス中に多く含まれている場合であっても、第一フィルタ1に大径のPMを大量に捕集させることができる。
【0049】
[3−7.そのほかの効果]
上記の作用効果に加えて、本排ガス浄化装置では、PMの堆積分布及び温度分布が均一化されるため、再生効率を向上させることができるとともに、予め想定した制御ロジックに近い制御が可能となる。また、第二フィルタ2上でのPMの捕集状態が想定しやすくなり、再生制御の安定性及び正確性を向上させることができる。
【0050】
また、再生制御が正確になると、制御後にフィルタ4上に燃え残るPM量が減少するため、予期しない過昇温を生じにくくすることができる。さらに、再生効率が高くなり、かつ、過昇温に対するマージンが増加するため、再生時間を短縮することができるとともに、再生制御のインターバルを長期化することができる。これにより、燃費の改善が可能であるほかオイルダイリューションを低減させることが可能であり、さらに燃料のポスト噴射量の減少による排ガス性能の向上が期待できる。
【0051】
また、本排ガス浄化装置では、第一フィルタ1と第二フィルタ2とが単一のケーシング9内に配置されるため、間隙11の寸法を正確に設定することが可能であり、間隙11での排ガスの流動状態や混合状態の予測,把握が容易となる。したがって、排ガスの流通方向の偏りや温度分布,流速分布をさらに均一にすることができる。
【0052】
[4.変形例等]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0053】
上述の実施形態では、第一フィルタ1と第二フィルタ2とが同一径に形成されたものを例示したが、図5に示すように、第一フィルタ1の担体径D1を第二フィルタ2の担体径D2よりも大径(D1≧D2)としてもよい。この場合、第一フィルタ1を通過した排ガスの流動性,混合性を高めることができ、排ガスの流通方向の偏りや温度分布,流速分布の均一化が容易となる。また、第一フィルタ1の担体径D1を増大させるほど、排気通路5の圧力損失をより低減させることができる。
【0054】
また、上述の実施形態では、上流側の第一フィルタ1にオープンフロー型の担体を使用し、下流側の第二フィルタ2にクローズドフロー型の担体を使用したものを例示したが、担体のタイプはこのような組み合わせに限定されない。少なくとも上流側に下流側よりも気孔率の高い担体を使用すれば、上述の効果を得ることができる。
なお、上述の実施形態のフィルタ4は、第一フィルタ1及び第二フィルタ2をともに単一のケーシング9内に固定したものであるが、二種類のフィルタを別個のケーシングに固定して排気通路5上に直列に配置してもよい。
【0055】
また、上述の実施形態では、排気通路5に二つのフィルタを直列にタンデム配置したものを例示したが、フィルタの個数はこれに限定されず、三個以上のフィルタを直列に配置してもよい。この場合、最も上流側に最も捕集効率の低いフィルタ〔例えば、高気孔率,高気孔径でセル壁厚の小さい(薄い)フィルタ〕を設け、下流側ほど捕集効率が高くなるように配置する。
【0056】
また、フィルタの個数については上記以外にも、排気流れ方向に沿って捕集効率を変化させた一個のフィルタを配置することとし、上流側部分のフィルタの捕集効率を低くし、下流側ほど捕集効率が高くなるように形成してもよい。この場合、捕集効率が相違する境界となる部分に所定の間隙11を設けず、セル壁1a,2aを連続的に形成することが考えられる。例えば、一端側及び他端側で捕集効率が相違する単一のフィルタを形成し、捕集効率の低い側(気孔率が高い側や気孔径が大きい側など)が排気の上流側となるように排気通路5上に介装させる。
【0057】
このような構成でも、上述の排ガス浄化装置と同様に、排気の上流側での圧力損失を下流側での圧力損失よりも小さくすることができる。また、排気の流通方向についてのPMの捕集量を均一にすることができ、装置全体でのPMの捕集効率を向上させることができる。
また、上述の実施形態ではディーゼルエンジンの排気系に本発明を適用したものが例示したが、ガソリンエンジンの排気系への適用も可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 第一フィルタ
1a セル壁(第一多孔体)
1b セル
1c 気孔
2 第二フィルタ
2a セル壁(第二多孔体)
2b セル
2c 目止め
3 酸化触媒
4 フィルタ
5 排気通路
6 吸気通路
7 ターボチャージャー
8 エンジン
9 ケーシング
9a 本体部
9b 入口部
9c 出口部
11 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気中に含まれる粒子状物質を捕集する第一多孔体と、
前記排気通路の前記第一多孔体よりも下流側に設けられ、前記排気中に含まれる粒子状物質を捕集する第二多孔体とを備え、
前記第一多孔体が、前記第二多孔体よりも高い気孔率を有する
ことを特徴とする、排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記第一多孔体が、上流側の端部及び下流側の端部がともに開放された流路を形成するオープンフロー型の担体として設けられる
ことを特徴とする、請求項1記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記第二多孔体が、上流側の端部及び下流側の端部の少なくとも何れか一方が閉鎖された流路を形成するクローズドフロー型の担体として設けられる
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
排気の流通方向に垂直な断面において、前記第一多孔体の断面積が、前記第二多孔体の断面積以上の大きさである
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記第一多孔体が、前記第二多孔体よりも大きな気孔径を有する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記第一多孔体及び前記第二多孔体が、複数のセル壁で区画されたハニカム構造の担体であって、
前記第一多孔体のセル壁厚が、前記第二多孔体のセル壁厚よりも小さい
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記第一多孔体及び前記第二多孔体が、単一のケーシング内に配置される
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項8】
前記第一多孔体が、70%以上の気孔率を有する
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項9】
前記第二多孔体が、55%以下の気孔率を有する
ことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−13059(P2012−13059A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153247(P2010−153247)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】