説明

排気浄化装置

【課題】 排気浄化装置に関し、窒素酸化物及び硫黄化合物のそれぞれの還元操作時における反応性を向上させて再生効率を高める。
【解決手段】内燃機関の排気通路11に酸化触媒1とその下流側に吸蔵還元触媒2を設ける。また、酸化触媒1へ流れ込む排気に還元剤を供給する第一供給手段4を設け、酸化触媒1及び吸蔵還元触媒2間に還元剤を供給する第二供給手段5を設ける。
さらに、第一パージ制御開始条件の成立時に吸蔵還元触媒2から窒素酸化物を放出させる第一パージ制御を実施し、第二パージ制御開始条件の成立時に吸蔵還元触媒2から硫黄化合物を取り除く第二パージ制御を実施する還元剤制御手段9を設ける。
還元剤制御手段9が、第一供給手段4及び第二供給手段2のそれぞれから供給される還元剤の供給量を、第一パージ制御と第二パージ制御とで個別に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排気を浄化する排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関から排出される排気中に含まれる窒素酸化物を低減させるための触媒として、吸蔵還元触媒(別称、NOx吸蔵触媒,NOxトラップ触媒, NOx Trap Catalyst等)が知られている。すなわち、通常運転時の酸化雰囲気中において窒素酸化物(NOx)を硝酸塩の形で吸蔵するとともに、還元剤の供給を受けて間欠的に窒素酸化物を窒素(N2)へと還元するものである。
【0003】
吸蔵還元触媒への還元剤の供給手法としては、内燃機関の筒内において燃料を余分に噴射することによって排気中に未燃燃料を残留させ、これを窒素酸化物の還元剤として利用するものや、排気通路の中途にインジェクタを配し、このインジェクタから還元剤(軽油等の炭化水素やアルコール等の水酸基化合物)を排気中に噴射することにより供給するもの等が存在する。前者の手法では、排気通路の装置構成の簡素化が可能であるものの、内燃機関のトルク補正が必要とされる。また、後者の手法では、排気通路に還元剤の供給装置が要求される一方で、内燃機関で生成されるトルクに影響を与えることなく排気成分を制御することが可能である。
【0004】
また、吸蔵還元触媒よりも排気通路の上流側に酸化触媒を設けた排気浄化システムも知られている。すなわち、窒素酸化物の還元に際して悪影響を及ぼす余剰酸素を、酸化触媒上で還元剤と反応させることで除去し、還元効率を向上させたものである。例えば、特許文献1の技術では、酸化触媒の上流側、あるいは酸化触媒及び吸蔵還元触媒のそれぞれの上流側に還元剤のインジェクタを設け、エンジン排気温度に応じて還元剤の供給量を制御することにより、排気中の窒素酸化物を効率的に除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−49533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、吸蔵還元触媒には窒素酸化物だけでなく酸化硫黄等の硫黄化合物も付着する。一般に、硫黄化合物は窒素酸化物の吸着性能を阻害するため、吸蔵還元触媒上に付着した硫黄化合物を定期的に除去するための操作が必要となる。一方、硫黄化合物を還元して吸蔵還元触媒から除去するための環境条件は窒素酸化物の場合の環境条件とは異なり、例えば反応性の高い還元成分が不要である一方、排気温度が高温でなければならない。したがって、同一の吸蔵還元触媒において窒素酸化物及び硫黄化合物のそれぞれの還元操作を行う場合には、それぞれの化学反応に適した環境を生成することが望ましい。
【0007】
本件の目的の一つは、このような課題に鑑み創案されたもので、吸蔵還元触媒において窒素酸化物及び硫黄化合物のそれぞれの還元操作時における反応性を向上させて再生効率を高めることである。
なお、前記目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の排気浄化装置は、内燃機関の排気通路に設けられ、排気中の成分に対する酸化能を有する酸化触媒と、該酸化触媒よりも下流側の該排気通路に設けられ、酸化雰囲気下で該排気中の窒素酸化物を吸蔵するとともに還元雰囲気下で該窒素酸化物を還元する吸蔵還元触媒と、該酸化触媒へ流れ込む排気に、該酸化触媒によって酸化される第一の還元剤を供給する第一供給手段と、該酸化触媒及び該吸蔵還元触媒の間の該排気通路に設けられ、該吸蔵還元触媒で該窒素酸化物を還元する第二の還元剤を該排気中に供給する第二供給手段と、所定の第一パージ開始条件の成立時に該吸蔵還元触媒に吸蔵された該窒素酸化物を放出させる第一パージ制御を実施するとともに、該第一パージ開始条件の非成立時かつ所定の第二パージ開始条件の成立時に該吸蔵還元触媒に付着した該成分の一つである硫黄化合物を取り除く第二パージ制御を実施する還元剤制御手段とを備え、該還元剤制御手段が、該第一供給手段から供給される該第一の還元剤及び該第二供給手段から供給される該第二の還元剤のそれぞれの供給量を、該第一パージ制御と該第二パージ制御とで個別に制御することを特徴としている。
【0009】
また、開示の排気浄化装置は、該還元剤制御手段が、該第一パージ制御の実施時に、該第一供給手段から該第一の還元剤を噴射させるとともに該第二供給手段からも該第二の還元剤を噴射させ、該第二パージ制御の実施時に、該第一供給手段から該第一の還元剤を噴射させるとともに該第二供給手段からの該第二の還元剤の噴射を保留させることを特徴としている。
【0010】
また、開示の排気浄化装置は、該第一供給手段及び該第二供給手段のそれぞれが、該第一の還元剤及び該第二の還元剤として未燃燃料を噴射することを特徴としている。
また、開示の排気浄化装置は、該還元剤制御手段が、該第一パージ制御の実施時に、該酸化触媒における排気空燃比をストイキとする量の該未燃燃料を該第一供給手段から噴射させることを特徴としている。
【0011】
また、開示の排気浄化装置は、該還元剤制御手段が、該第二パージ制御の実施時に、該酸化触媒における排気空燃比をストイキよりリッチとする量の該未燃燃料を該第一供給手段から噴射させることを特徴としている。
また、開示の排気浄化装置は、該吸蔵還元触媒の入口における触媒入口排気温度を検出する触媒入口排気温度検出手段をさらに備え、該還元剤制御手段が、該第二パージ制御の実施時、かつ、該触媒入口排気温度検出手段で検出された該触媒入口排気温度が所定温度以上となってから所定時間が経過したときに、該第二パージ制御を終了することを特徴としている。
【0012】
また、開示の排気浄化装置は、該還元剤制御手段が、該第二パージ制御の実施時、かつ、該触媒入口排気温度検出手段で検出された該触媒入口排気温度が該所定温度未満であるときに、該第一供給手段から該第一の還元剤を噴射させるとともに該第二供給手段からも該第二の還元剤を噴射させ、該第二の還元剤の供給量が、該触媒入口排気温度を該所定温度まで昇温させるのに要する量であることを特徴としている。
【0013】
また、開示の排気浄化装置は、該還元剤制御手段が、該第二パージ制御の実施時、かつ、該触媒入口排気温度検出手段で検出された該触媒入口排気温度が該所定温度以上であるときに、該第一供給手段から該第一の還元剤を噴射させるとともに該第二供給手段からも該第二の還元剤を噴射させ、該第二の還元剤の供給量が、該触媒入口排気温度を該所定温度に維持するのに要する量であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
開示の排気浄化装置によれば、第一の還元剤及び第二の還元剤のそれぞれの供給量を個別に制御することにより、吸蔵還元触媒の上流における排気温度を任意の値に変更することができ、吸蔵還元触媒における還元対象に応じた還元場を生成することができる。これにより、窒素酸化物及び硫黄化合物のそれぞれの還元操作時における反応性を向上させることができ、再生効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に係る排気浄化装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1の排気浄化装置の制御内容を説明するためのフローチャート(メインフロー)である。
【図3】図1の排気浄化装置の制御内容を説明するためのフローチャート(第一パージ制御フロー)である。
【図4】図1の排気浄化装置の制御内容を説明するためのフローチャート(第二パージ制御フロー)である。
【図5】図1の排気浄化装置の制御内容を説明するためのフローチャート(フィルタ燃焼制御フロー)である。
【図6】図1の排気浄化装置の制御作用を説明するためのタイムチャートであり、(a)は第一パージ制御の実施状態を示し、(b)は第二パージ制御の実施状態を示し、(c)は酸素濃度Cの変動を示し、(d)は第二インジェクタからの未燃燃料の噴射状態を示し、(e)は吸蔵還元触媒の出口側の空燃比の変動を示す。
【図7】変形例に係る排気浄化装置の構成を示す模式図である。
【図8】図7の排気浄化装置の制御内容を説明するためのフローチャート(フィルタ燃焼制御フロー)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して排気浄化装置の実施形態を説明する。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも例示に過ぎず、以下に示す実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。すなわち、その趣旨を逸脱しない範囲で本実施形態を種々変形して実施してもよい。
【0017】
[1.全体構成]
図1に示すエンジン12(内燃機関)は、種々の炭素量の炭化水素(HC)を含有する軽油を燃料とするディーゼルエンジンである。このエンジン12には排気通路11及び吸気通路14が接続されている。エンジン12の気筒の燃焼室へは、吸気通路14を介して吸気が導入され、燃焼後の排気ガス(以下、単に排気という)は排気通路11を介して車両の外部へ排出される。
【0018】
エンジン12の筒内には燃料噴射用の筒内インジェクタ16が設けられる。筒内インジェクタ16から噴射される燃料の噴射量は、エンジンECU15によって制御される。エンジンECU15は、周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積した電子制御装置である。このエンジンECU15は、図示しない各種センサ情報を用いて吸入空気質量流量Mair及び燃料質量流量Mfuelを算出するとともに、これに応じた燃料が噴射されるように筒内インジェクタ16を制御するものである。なお、吸入空気質量流量Mair及び燃料質量流量Mfuelの具体的な算出手法は任意である。ここで算出された吸入空気質量流量Mair及び燃料質量流量Mfuelは、後述する再生制御装置9へ入力される。
【0019】
排気通路11上には、排気の流れの上流側から順に、ターボチャージャ13,酸化触媒1,吸蔵還元触媒2及びフィルタ3が介装されている。
ターボチャージャ13は、排気通路11及び吸気通路14のそれぞれを跨ぐように介装された過給器である。このターボチャージャ13は、排気通路11における排気圧でタービンを回転させ、その回転力を利用してコンプレッサを駆動することにより、吸気通路14からの吸気を圧縮してエンジン12への過給を行う。
【0020】
酸化触媒1はその表面に触媒貴金属を含有し、排気中の成分に対する酸化能を有する触媒である。酸化触媒1によって酸化される排気中の成分には、酸化窒素(NO),未燃燃料中の炭化水素等が挙げられる。なお、ここでいう炭化水素には、炭素骨格が単結合のみで構成される飽和炭化水素、あるいは二重結合や三重結合を持つ不飽和炭化水素が含まれる。一般に、不飽和炭化水素の方が飽和炭化水素よりも化学的に不安定であり酸化触媒1上での反応性が高い。
【0021】
例えば、酸化窒素は酸化触媒1上で酸化されると二酸化窒素(NO2)になる。また、炭化水素は酸化触媒1上で酸化されると発熱を伴いつつ二酸化炭素(CO2)や水(H2O)になる。
吸蔵還元触媒2は、カリウム(K)やバリウム(Ba)等の窒素酸化物吸蔵材(トラップ剤)を触媒表面に担持した触媒であり、二酸化窒素を硝酸塩(NO3-)の形で吸蔵する機能を備えている。吸蔵還元触媒2の表面には、上記の窒素酸化物吸蔵材だけでなく、酸化触媒1と同様の触媒貴金属の微粒子も担持されている。これにより吸蔵還元触媒2は、吸蔵還元触媒2自身が生成した二酸化窒素を酸化雰囲気下で吸蔵する。一方、吸蔵還元触媒2は、触媒の周囲が還元雰囲気になると吸蔵された硝酸塩を二酸化窒素へ還元して、窒素酸化物吸蔵材から放出する。
【0022】
ここでいう酸化雰囲気とは、排気中の酸素濃度が還元成分(炭化水素,一酸化炭素等)の濃度に対して相対的に高い状態を意味する。また、還元雰囲気とは、排気中の還元成分の濃度が酸素濃度に対して相対的に高い状態であり、かつ、酸素濃度(絶対濃度)が所定濃度以下(例えば、1.0[%]以下)である状態を意味する。
還元雰囲気下において、吸蔵還元触媒2は自らが放出した二酸化窒素と排気中の一酸化炭素,炭化水素をともに酸化させて、二酸化炭素,窒素及び水を生成する。つまり、吸蔵還元触媒2は、酸化雰囲気下で排気中の窒素酸化物を吸蔵するとともに還元雰囲気下で窒素酸化物を還元する三元触媒としての機能を有する。なお、吸蔵還元触媒2における炭化水素の酸化過程にも発熱が伴う。
【0023】
また、吸蔵還元触媒2の窒素酸化物吸蔵材には、二酸化窒素だけでなく、排気中に含まれる硫黄成分が硫酸塩(SO42-)の形で付着する場合がある。吸蔵還元触媒2に対して硫黄化合物が付着することを硫黄被毒と呼ぶ。硫黄被毒が進行すると二酸化窒素の吸蔵能力が低下するため、定期的に吸蔵還元触媒2から硫黄化合物を取り除く操作が必要である。本排気浄化装置10では、吸蔵還元触媒2からの硫酸塩を脱離させるための雰囲気温度として650[℃]程度の温度を想定している。
【0024】
フィルタ3は、排気中に含まれる炭素を主体とする粒子状物質(PM,パティキュレートマター,すす)を捕集する多孔質フィルタ(例えば、セラミックフィルタ)である。フィルタ3の内部は壁体によって排気の流通方向に沿って複数に分割されており、排気がこの壁体を通過する際に壁体内や壁体表面へ粒子状物質が捕集されて、排気が濾過される。吸蔵還元触媒2と同様に、フィルタ3においてもその表面に捕集された粒子状物質を定期的に取り除く操作が要求される。本排気浄化装置10では、フィルタ3から粒子状物質を取り除くための雰囲気温度として550[℃]程度の温度を想定している。
【0025】
酸化触媒1よりも上流側の排気通路11には、第一インジェクタ4(第一供給手段)が介装される。第一インジェクタ4は、酸化触媒1で酸化される第一の還元剤としての未燃燃料を排気中に噴射供給するものである。未燃燃料とは、筒内インジェクタ16からエンジン12の筒内へ噴射される燃料と同じものである。ここで噴射された未燃燃料が排気中の酸素と結びついて酸化触媒1及び吸蔵還元触媒2の表面で酸化されると、排気温度が上昇する。
【0026】
酸化触媒1と吸蔵還元触媒2との間の排気通路11には、第二インジェクタ5(第二供給手段)が介装される。第二インジェクタ5は、吸蔵還元触媒2において二酸化窒素を窒素に還元するための第二の還元剤として、未燃燃料を排気中に噴射供給するものである。第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5から噴射される未燃燃料は同種のものであり、かつ、エンジン12の筒内に噴射される未燃燃料と同種のものである。
【0027】
酸化触媒1と吸蔵還元触媒2との間の排気通路11には、酸素濃度センサ6(酸素濃度検出手段)及び触媒入口温度センサ7(触媒入口排気温度検出手段)が介装される。酸素濃度センサ6は、酸化触媒1と吸蔵還元触媒2との間の排気通路11における排気中の酸素濃度Cを検出するものである。また、触媒入口温度センサ7は、吸蔵還元触媒2に流入する排気温度T1を検出するものである。これらの酸素濃度C及び排気温度T1はともに、後述する再生制御装置9へ入力される。
【0028】
吸蔵還元触媒2とフィルタ3との間の排気通路11には、フィルタ入口温度センサ8(フィルタ入口温度検出手段)が介装される。フィルタ入口温度センサ8は、フィルタ3に流入する排気温度T2を検出するものである。以下、前記の二種類の排気温度を区別すべく、それぞれ触媒入口排気温度T1,フィルタ入口排気温度T2と呼ぶ。
【0029】
[2.制御の種類]
排気浄化装置10には、再生制御装置9(還元剤制御手段)が設けられる。再生制御装置9は、第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5から噴射される未燃燃料量を制御する電子制御装置であり、周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスとして提供されている。再生制御装置9は、酸素濃度センサ6で検出された酸素濃度C,触媒入口温度センサ7及びフィルタ入口温度センサ8で検出された触媒入口排気温度T1,フィルタ入口排気温度T2のほか、エンジンECU15から入力される吸入空気質量流量Mair,燃料質量流量Mfuelを用いて、第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5を制御する。
【0030】
吸入空気質量流量Mairは、エンジン12の筒内への吸入空気の質量流量である。再生制御装置9は、排気通路11を流通する排気流量として吸入空気質量流量Mairの値を流用する。また、燃料質量流量Mfuelは、エンジン12の筒内で噴射された燃料の質量流量である。再生制御装置9は、筒内インジェクタ16が筒内へ噴射した燃料量を流用して、第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5からの未燃燃料の噴射量を算出する。
【0031】
再生制御装置9は、以下に示す三種類の制御を実施する。
〔A〕第一パージ制御
〔B〕第二パージ制御
〔C〕フィルタ燃焼制御
第一パージ制御とは、吸蔵還元触媒2に吸蔵された二酸化窒素を放出させるパージ制御である。第一パージ制御の開始条件は以下の通りである。
【0032】
〔A−1〕前回の第一パージ制御の終了後、所定のサイクル時間T(例えば20[s])が経過した
また、第一パージ制御において所定のパージ効率を得るために必要な環境条件を以下に列挙する。以下の環境条件が全て成立したことを以て、第一パージ制御の終了条件が満たされたものとする。
【0033】
〔A−2〕吸蔵還元触媒2の入口における酸素濃度Cが第一所定濃度CT1未満である
〔A−3〕吸蔵還元触媒2の近傍に反応性の高い炭化水素が存在する
〔A−4〕上記の条件〔A−2〕及び〔A−3〕が所定の継続時間XT1(例えば1.0[s])継続する
ここでいう第一所定濃度CT1は、上述の還元雰囲気に必要な酸素濃度と同一であり1.0[%]である。なお、吸蔵還元触媒2の特性や排気通路11の形状等に応じて、第一所定濃度CT1の具体的な数値をこれとは異なる値に設定してもよい。また、第一パージ制御では吸蔵還元触媒2の雰囲気温度は任意である。
【0034】
第二パージ制御とは、吸蔵還元触媒2に付着した硫黄化合物を取り除くパージ制御である。第二パージ制御の開始条件は以下の通りである。
【0035】
〔B−1〕前回の第二パージ制御の終了後、走行距離が所定距離(例えば1000[km])を超えた
また、第二パージ制御において所定のパージ効率を得るために必要な環境条件を以下に列挙する。以下の環境条件が全て成立したことを以て、第二パージ制御の終了条件が満たされたものとする。
【0036】
〔B−2〕吸蔵還元触媒2の近傍における酸素濃度Cが第二所定濃度CT2未満である
〔B−3〕吸蔵還元触媒2の雰囲気温度が第一所定温度TT1以上である
〔B−4〕上記の条件〔B−2〕及び〔B−3〕が所定の継続時間XT2(例えば、120[s])継続する
ここでいう第二所定濃度CT2は、例えば1.0[%]としてもよいし、あるいは空燃比が14.5以下の予混合ガスをエンジン12で燃焼させた後の排気中における酸素濃度相当の値としてもよい。また、ここでいう第一所定温度TT1は、例えば吸蔵還元触媒2からの硫黄化合物の脱離温度である650[℃]とすることが考えられる。なお、第二パージ制御では活性の高い還元剤が不要である。
フィルタ燃焼制御とは、フィルタ3に捕集された粒子状物質を燃焼させる制御である。
【0037】
〔C−1〕前回のフィルタ燃焼制御の終了後、走行距離が第二所定距離(例えば500[km])を超えた
また、フィルタ燃焼制御において所定の燃焼効率を得るために必要な環境条件を以下に列挙する。以下の環境条件が全て成立したことを以て、フィルタ燃焼制御の終了条件が満たされたものとする。
【0038】
〔C−2〕フィルタ3が酸化雰囲気である
〔C−3〕フィルタ3に流入する排気温度T2が第二所定温度TT2以上である
〔C−4〕上記の条件〔C−2〕及び〔C−3〕が所定の継続時間XT3(例えば、600[s])継続する
ここでいう第二所定温度TT2は、例えば粒子状物質の燃焼状態が良好となる550[℃]とすることが考えられる。また、フィルタ燃焼制御では、粒子状物質の燃焼に係る酸素が多いほど好ましい。
【0039】
排気浄化装置10で実施される制御内容は、以下の表1に示すように分類される。すなわち、排気浄化装置10の再生制御は、主にパージ制御及びフィルタ燃焼制御に大別され、パージ制御の中に第一パージ制御及び第二パージ制御が含まれる。ここで、パージ制御の開始条件〔A−1〕又は〔B−1〕を第一再生開始条件と呼び、フィルタ燃焼制御の開始条件〔C−1〕を第二再生開始条件とも呼ぶ。また、第一パージ制御の開始条件〔A−1〕を第一パージ開始条件と呼び、第二パージ制御の開始条件〔B−1〕を第二パージ開始条件と呼ぶ。
【0040】
第一パージ制御,第二パージ制御及びフィルタ燃焼制御はそれぞれ、他の制御と同時に実施されることはなく、各制御に優先順位が設定されている。排気浄化装置10における優先順序は、最も優先されるものから順に、第二パージ制御,フィルタ燃焼制御,第一パージ制御の順である。
【0041】
【表1】

【0042】
[3.制御装置の構成]
上記の各制御を実施するためのソフトウェア構成として、再生制御装置9は、判定部9a,供給量演算部9b及び還元剤制御部9cを備えている。ここに示された各ソフトウェアは図示しないメモリや記憶装置に記録されおり、随時CPUに読み込まれることによって以下に説明する機能を実現する。
【0043】
判定部9aは、上記の各制御の開始条件及び終了条件を判定するものであり、上記の各制御に対応して、パージ制御判定部21及びフィルタ燃焼制御判定部24を有する。また、パージ制御判定部21には、第一パージ制御判定部22及び第二パージ制御判定部23が含まれる。
第一パージ制御判定部22は、第一パージ制御の開始条件及び終了条件を判定するものであり、前述の条件〔A−1〕〜〔A−4〕を判定する。また、第二パージ制御判定部23は、第二パージ制御の開始条件及び終了条件を判定するものであり、前述の条件〔B−1〕〜〔B−4〕を判定する。さらに、フィルタ燃焼制御判定部24は、フィルタ燃焼制御の開始条件及び終了条件を判定するものであり、前述の条件〔C−1〕〜〔C−4〕を判定する。それぞれの条件の判定結果は、供給量演算部9b及び還元剤制御部9cへ伝達される。
【0044】
[3−1.供給量演算部]
供給量演算部9bは、上記の各制御において、第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5から噴射される未燃燃料の供給量(噴射量)を演算するものである。例えば、供給量演算部9bは、パージ制御における未燃燃料の供給量とフィルタ燃焼制御における未燃燃料の供給量とを個別に演算する。また、第一パージ制御及び第二パージ制御では、吸蔵還元触媒2の上流側の酸素濃度に応じて、それぞれのパージ制御の一環として未燃燃料の供給量(噴射量)を個別に演算する。
【0045】
[A.第一パージ制御時の演算]
供給量演算部9bは、条件〔A−1〕の成立時に、以下の式1を用いて第一インジェクタ4からの供給量Mex1を演算する。式1中におけるMairは吸入空気質量流量 [g/s]であり、Mfuelは燃料質量流量 [g/s]である。
【数1】

【0046】
式1は、空燃比をストイキ(軽油の炭水比を1.8として、空燃比14.5)にするために必要な燃料量から、筒内インジェクタ16で実際に筒内へ噴射された燃料量を減算した値を与えるものである。換言すれば、供給量Mex1の演算時における燃焼サイクルでエンジン12の筒内に噴射された燃料量に加え、酸化触媒1に流入する排気の空燃比をストイキにするために第一インジェクタ4から噴射すべき燃料量の加算値を与える式である。
【0047】
次に、条件〔A−2〕の成立時には、以下の式2を用いて、第二インジェクタ5からの供給量Mex2を演算する。
【数2】

【0048】
式2は、空燃比を目標第一パージ空燃比にするために必要な燃料量から、筒内インジェクタ16で実際に筒内へ噴射された燃料量を減算し、さらに、第一インジェクタ1から噴射された燃料量を減算した値を与えるものである。換言すれば、供給量Mex2の演算時における燃焼サイクルでエンジン12の筒内に噴射された燃料量と第一インジェクタ1から噴射された燃料量とに加えて、吸蔵還元触媒2に流入する排気の空燃比を目標第一パージ空燃比にするために第二インジェクタから噴射すべき燃料量の加算値を与える式である。
【0049】
なお、ここでいう目標第一パージ空燃比は、吸蔵還元触媒2から二酸化窒素を脱離させるのに適した空燃比であって、予め設定された固定値としてもよいし、任意の手法を用いて算出された変動値としてもよい。この実施形態では、目標第一パージ空燃比が式1中に記載されたストイキの値(14.5)よりもさらに小さい値〔(目標第一パージ空燃比)<14.5〕として設定されている。
【0050】
また、供給量演算部9bは、条件〔A−2〕〜〔A−4〕の全てが成立した場合に上記の供給量Mex1,Mex2の演算を停止する。
[B.第二パージ制御時の演算]
供給量演算部9bは、条件〔B−1〕の成立時に、以下の式3を用いて第一インジェクタ4からの供給量Mex3を演算する。
【数3】

【0051】
式3は、空燃比を目標第二パージ空燃比にするために必要な燃料量から、筒内インジェクタ16で実際に筒内へ噴射された燃料量を減算した値を与えるものである。換言すれば、供給量Mex2の演算時における燃焼サイクルでエンジン12の筒内に噴射された燃料量に加え、酸化触媒1に流入する排気の空燃比を目標第二パージ空燃比にするために第一インジェクタ4から噴射すべき燃料量の加算値を与える式である。
【0052】
なお、ここでいう目標第二パージ空燃比は、吸蔵還元触媒2から硫黄化合物を脱離させるのに適した空燃比であって、予め設定された固定値としてもよいし、任意の手法を用いて算出された変動値としてもよい。ここでは、目標第二パージ空燃比を14.0未満の範囲で設定された固定値(いわゆるオーバーリッチであり、ストイキよりもリッチ側の空燃比)とする。
【0053】
また、供給量演算部9bは、条件〔B−2〕及び〔B−3〕がともに成立し、かつ第二インジェクタ5の噴射口に燃料固着が懸念される状態である場合には、第二インジェクタ5からの供給量Mex4を演算する。供給量Mex4は、吸蔵還元触媒2へ流入する排気の空燃比及び排気温度に影響を与えない程度の極微量であり、好ましくは第二インジェクタ5が噴射可能な最小量とする。つまり、ここで演算される供給量Mex4は、第二インジェクタ5の噴射口近傍における燃料の固着を防止することのみを意図された燃料量であり、排気浄化に寄与しないものである。なお、燃料固着が懸念される状態の判断条件については後述する。
【0054】
一方、条件〔B−2〕が成立し、条件〔B−3〕が成立しない場合には、吸蔵還元触媒2の近傍における排気温度を上昇させるための第二インジェクタ5からの供給量Mex5を演算する。この供給量Mex5の具体的な演算方法は任意であり、例えば、触媒入口温度センサ7で検出された排気温度T1(あるいは、排気温度T1と第一所定温度TT1との偏差)及び排気流量に対応する吸入空気質量流量Mairに基づいて供給量Mex5を演算してもよい。
【0055】
また、供給量演算部9bは、条件〔B−2〕〜〔B−4〕の全てが成立した場合に上記の供給量Mex3〜Mex5の演算を停止する。
【0056】
[C.フィルタ燃焼制御時の演算]
供給量演算部9bは、条件〔C−1〕の成立時に、第二インジェクタ5からの供給量Mex6を演算する。供給量Mex6は、フィルタ3に流入する排気温度T2を第二所定温度TT2以上にするのに必要な燃料量であり、すなわち条件〔C−3〕を成立させるために要するものである。この供給量Mex6の具体的な演算方法は任意であり、例えば、フィルタ入口温度センサ8で検出された排気温度T2(あるいは、排気温度T2と第二所定温度TT2との偏差)及び排気流量に対応する吸入空気質量流量Mairに基づいて供給量Mex6を演算してもよい。
【0057】
また、供給量演算部9bは、条件〔C−2〕〜〔C−4〕の全てが成立した場合に上記の供給量Mex6の演算を停止する。
【0058】
[3−2.還元剤制御部]
還元剤制御部9cは、判定部9aでの判定結果に応じて、供給量演算部9bで演算された供給量の未燃燃料が第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5から噴射されるように、それぞれのインジェクタ4,5を個別に制御するものである。すなわち、還元剤制御部9cは、パージ制御とフィルタ燃焼制御とでは異なる態様で排気通路11での燃料噴射を実施する。また、第一パージ制御と第二パージ制御とでも、未燃燃料の供給量を相違させる。
【0059】
[A.第一パージ制御時の制御]
還元剤制御部9cは、条件〔A−1〕の成立時に、供給量演算部9bで演算された供給量Mex1の未燃燃料が第一インジェクタ4から排気中に噴射されるように、第一インジェクタ4を制御する。第一インジェクタ4からの燃料噴射は、第一パージ制御が終了するまで継続される。
【0060】
また、条件〔A−2〕の成立時には、供給量演算部9bで演算された供給量Mex2の未燃燃料が第二インジェクタ5から排気中に噴射されるように、第二インジェクタ5を制御する。これにより、吸蔵還元触媒2の直上流に未燃燃料が供給され、条件〔A−3〕が成立することになる。第二インジェクタ5からの燃料噴射は、第一インジェクタ4と同様に、第一パージ制御が終了するまで継続される。また、還元剤制御部9cは、条件〔A−2〕〜〔A−4〕の全てが成立すると第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5の制御を終了する。
【0061】
このように、第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5からの燃料噴射量に着目すれば、第一パージ制御には、酸化触媒1のみに未燃燃料を供給する制御状態と、酸化触媒1及び吸蔵還元触媒2の双方に未燃燃料を供給する制御状態とが設けられる。
すなわち、上記の条件〔A−2〕に係る酸素濃度Cが第一所定濃度CT1未満である場合には、還元剤制御手段9cが第一インジェクタ4から供給量Mex1の未燃燃料を噴射させるとともに、第二インジェクタ5からの未燃燃料の供給を保留させる。一方、酸素濃度Cが第一所定濃度CT1以上である場合には、還元剤制御手段9cが第一インジェクタ4から供給量Mex1の未燃燃料を噴射させるとともに、第二インジェクタ5から供給量Mex2の未燃燃料を噴射させる。
【0062】
したがって、酸素濃度Cが第一所定濃度CT1以上である場合には、吸蔵還元触媒2よりも酸化触媒1に対して優先的に未燃燃料が供給される。
【0063】
[B.第二パージ制御時の制御]
還元剤制御部9cは、条件〔B−1〕の成立時に、供給量演算部9bで演算された供給量Mex3の未燃燃料が第一インジェクタ4から排気中に噴射されるように、第一インジェクタ4を制御する。第一インジェクタ4からの燃料噴射は、第二パージ制御が終了するまで継続される。
【0064】
また、条件〔B−2〕が成立した場合には、以下の三種類のうち制御のうちの何れかが実施される
(a)引き続き、第一インジェクタ4のみから燃料噴射する制御
(b)第一インジェクタの燃料噴射に加え、固着防止用の燃料噴射を第二インジェクタ5で行う制御
(c)第一インジェクタの燃料噴射に加え、昇温用の燃料噴射を第二インジェクタ5で行う制御
上記の(b)で第二インジェクタ5から噴射されるのが供給量Mex4の未燃燃料であり、上記の(c)で第二インジェクタ5から噴射されるのが供給量Mex5の未燃燃料である。また、上記の(c)は条件〔B−3〕の不成立時に実施されるものである。上記の(b)は、条件〔B−3〕が成立し、かつ、第二インジェクタ5の噴射口に燃料固着が懸念される状態である場合にのみ実施される。
【0065】
燃料固着が懸念される状態であるか否かの具体的な判断条件としては、例えば、第二パージ制御が実施された累計時間kを計測して、第二インジェクタ5の先端サック部の形状,材質等に応じて設定される固着耐久時間Kが経過したか否かを判断することが考えられる。この場合、累計時間k≧固着耐久時間Kである場合に、燃料固着が懸念される状態であると判断する。また、上記の(a)は、上記の(b)及び(c)が実施されない場合の制御であり、条件〔B−3〕が成立し、かつ、第二インジェクタ5の噴射口に燃料固着が懸念されない場合に実施される。
【0066】
また、還元剤制御部9cは、条件〔B−2〕〜〔B−4〕の全てが成立すると第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5の制御を終了する。
このように、第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5からの燃料噴射量に着目すれば、第二パージ制御においては酸化触媒1のみに未燃燃料が供給され、吸蔵還元触媒2には原則的に未燃燃料の供給が保留される。すなわち、第二パージ制御下において第二インジェクタ5からの燃料噴射がなされるのは、条件〔B−3〕の不成立時又は第二インジェクタ5に燃料固着のおそれが生じた場合のみである。
【0067】
なお、ここでいう「未燃燃料の供給の保留」とは、他の条件が成立しない限り、第二インジェクタ5からの未燃燃料の供給を停止する(すなわち、第二インジェクタ5からの燃料噴射量を0にする)ことを意味する。
【0068】
[C.フィルタ燃焼制御時の制御]
還元剤制御部9cは、条件〔C−1〕の成立時に、供給量演算部9bで演算された供給量Mex6の未燃燃料が第二インジェクタ5から排気中に噴射されるように、第二インジェクタ5を制御する。このとき、第一インジェクタ4は停止状態(第一インジェクタ4からの燃料噴射量が0)に保持され、酸化触媒1への未燃燃料の供給が保留される。第二インジェクタ5からの燃料噴射は、フィルタ燃焼制御が終了するまで継続される。すなわち、還元剤制御部9cは、条件〔C−2〕〜〔C−4〕の全てが成立すると第二インジェクタ5の制御を終了する。
【0069】
排気浄化装置10の判定部9aで判定される制御条件と制御対象のインジェクタとの関係をまとめると、以下の表2の通りとなる。
【0070】
【表2】

【0071】
[4.フローチャート]
図2〜5は、排気浄化装置10における制御の一例を説明するフローチャートである。図2のフローは三種類の制御のうちの何れか一つを選択するメインフローであり、図3〜5のフローは図2のフローに従属するサブフローである。
【0072】
[4−1.メインフロー]
図2のメインフローにおけるステップA10では、第二パージ制御判定部23において、第二パージ制御の開始条件〔B−1〕が成立したか否かが判定される。ここで、条件〔B−1〕が成立した場合には、図4の第二パージ制御フローへと進む。一方、条件〔B−1〕が成立しない場合にはステップA20へ進む。
【0073】
ステップA20では、フィルタ燃焼制御判定部24において、フィルタ燃焼制御の開始条件〔C−1〕が成立したか否かが判定される。ここで、条件〔C−1〕が成立した場合には、図5のフィルタ燃焼フローへと進む。また、条件〔C−1〕が成立しない場合にはステップA30へ進む。
ステップA30では、第一パージ制御判定部22において、第一パージ制御の開始条件〔A−1〕が成立したか否かが判定される。ここで、条件〔A−1〕が成立した場合には、図3の第一パージ制御フローへと進む。一方、条件〔A−1〕が成立しない場合には再びステップA10へと進み、所定の周期で本フローを繰り返す。
【0074】
このように、排気制御装置10における三種類の制御は、何れか一つが選択的に実施される。例えば、車両の走行状態により、条件〔A−1〕,〔B−1〕及び〔C−1〕が同時に成立したとしても、最初に第二パージ制御が実施され、その後フィルタ燃焼制御が実施され、最後に第一パージ制御が実施される。
【0075】
[4−2.第一パージ制御フロー]
図3の第一パージ制御フローにおけるステップB1では、エンジンECU15で算出された吸入空気質量流量Mair,燃料質量流量Mfuelが再生制御装置9の供給量演算部9bへ入力される。続くステップB2では、式1にしたがって第一インジェクタ4からの未燃燃料の供給量Mex1が演算される。そして続くステップB3において、還元剤制御部9cにより第一インジェクタ4が制御され、供給量Mex1の未燃燃料が酸化触媒1の上流側に噴射される。
【0076】
ここで、酸化触媒1における未燃燃料の酸化反応により、排気中に含まれる酸素が消費されるとともに排気温度が上昇する。続くステップB4では、酸化触媒1の直下流側である吸蔵還元触媒2の入口の酸素濃度Cが酸素濃度センサ6によって検出され、再生制御装置9の第一パージ制御判定部22へと入力される。
ステップB5では、第一パージ制御判定部22において条件〔A−2〕が判定される。ここで、酸素濃度Cが第一所定濃度CT1以上である場合には再びステップB1へと進み、第一所定濃度CT1未満である場合にはステップB6へと進む。つまり、吸蔵還元触媒2の入口の酸素濃度Cが第一所定濃度CT1未満となるまでの間は第一インジェクタ4のみから未燃燃料が供給され、酸化触媒1での酸素消費が継続される。
【0077】
条件〔A−2〕が成立してステップB6へ進むと、供給量演算部9bにおいて、式2にしたがって第二インジェクタ5からの未燃燃料の供給量Mex2が演算される。そして続くステップB7では、還元剤制御部9cによって第二インジェクタ5が制御され、供給量Mex2の未燃燃料が吸蔵還元触媒2の上流側に噴射される。
このとき、吸蔵還元触媒2の近傍には酸素がほとんどない(第一所定濃度CT1未満の)状態であり、かつ、第二インジェクタ5から供給された反応性の高い炭化水素を含有する未燃燃料が豊富な状態となるため、吸蔵還元触媒2に吸蔵されている二酸化窒素が脱離しやすく、二酸化窒素の還元作用が促進される。
【0078】
続くステップB8では、第一パージ制御判定部22において、第一パージ制御の終了条件の一つである条件〔A−4〕が成立したか否かが判定される。なお、条件〔A−2〕はステップB5において成立しており、条件〔A−3〕はステップB7において成立しているものとみなすことができる。
ここで条件〔A−4〕が成立した場合にはステップB9へ進み、第一パージ制御が終了する。すなわち、還元剤制御部9cによる第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5からの未燃燃料の供給が停止され、制御がメインフローへと復帰する。一方、条件〔A−4〕が不成立の場合にはステップB1へ進み、このサブフローが繰り返される。
【0079】
第一パージ制御のおよその合計継続時間は、条件〔A−4〕に規定される所定の継続時間XT1(例えば1.0[s])となり、第一パージ制御が実施される繰り返しのサイクルは、条件〔A−1〕に規定される所定のサイクル時間T(例えば20[s])となる。
【0080】
[4−3.第二パージ制御フロー]
図4の第二パージ制御フローにおけるステップC1では、エンジンECU15で算出された吸入空気質量流量Mair,燃料質量流量Mfuelが再生制御装置9の供給量演算部9bへ入力される。続くステップC2では、式3にしたがって第一インジェクタ4からの未燃燃料の供給量Mex3が演算される。そして続くステップC3において、還元剤制御部9cにより第一インジェクタ4が制御され、供給量Mex3の未燃燃料が酸化触媒1の上流側に噴射される。
【0081】
ここで、第一パージ制御を実施した場合と同様に、酸化触媒1で未燃燃料が酸化し、排気温度が上昇する。続くステップC4では、酸化触媒1の直下流側である吸蔵還元触媒2の入口の酸素濃度Cが酸素濃度センサ6によって検出され、再生制御装置9の第二パージ制御判定部23へと入力される。
ステップC5では、第二パージ制御判定部23において条件〔B−2〕が判定される。ここで、酸素濃度Cが第二所定濃度CT2以上である場合には再びステップC1へと進み、第二所定濃度CT2未満である場合にはステップC6へと進む。つまり、吸蔵還元触媒2の入口の酸素濃度Cが第二所定濃度CT2未満になるまでの間は第一インジェクタ4のみから未燃燃料が供給され、酸化触媒1での酸素消費が継続される。
【0082】
条件〔B−2〕が成立してステップC6へ進むと、吸蔵還元触媒2に流入する排気温度T1が触媒入口温度センサ7で検出される。続くステップC7では、前ステップで検出された排気温度T1に基づき、第二パージ制御判定部23において条件〔B−3〕が判定される。ここで、排気温度T1が第一所定温度TT1以上である場合にはステップC8へ進む。一方、排気温度T1が第一所定温度TT1未満である場合には、排気温度を上昇させるためのステップC21へ進む。
【0083】
なお、ステップC1〜C5の制御の繰り返しによって排気温度T1が上昇するため、通常はステップC7において排気温度T1が第一所定温度TT1未満となることはない。ステップC21以降のフローは、上記の(c)の制御に対応するものであり、何らかの理由により排気温度T1が十分に上昇しなかった場合のフェイルセーフとして設けられた制御フローである。
【0084】
まず、ステップC21では、供給量演算部9bにおいて第二インジェクタ5からの燃料の供給量Mex5が演算される。ここでは例えば、排気温度T1と第一所定温度TT1との偏差及び吸入空気質量流量Mairに基づいて、供給量Mex5が算出される。続くステップC22では、還元剤制御部9cにより第二インジェクタ5が制御され、供給量Mex5の未燃燃料が吸蔵還元触媒2の上流側に噴射される。また、続くステップC23では、還元剤制御部9cによる第一インジェクタ4の制御が継続され、供給量Mex3の未燃燃料が酸化触媒1の上流側に噴射される。その後、再びステップC7へと進み、排気温度T1が第一所定温度TT1以上になるとステップC8以降へと進む。
【0085】
ステップC8では、第二パージ制御判定部23において、第二インジェクタ5の噴射口に燃料固着が懸念される状態であるか否かが判定される。例えば、第二パージ制御の累積時間kが第二インジェクタ5の固着耐久時間K以上である場合に、燃料固着が懸念されるものとしてステップC10へ進む。また、累積時間kが固着耐久時間K未満である場合には、燃料固着が懸念されないものとしてステップC9へ進む。
【0086】
ステップC9では、還元剤制御部9cにより第二インジェクタ5からの燃料噴射が保留され、その後ステップC11へ進む。一方、ステップC10では、還元剤制御部9cにより第二インジェクタ5から供給量Mex4の燃料が噴射され、ステップC11へ進む。
続くステップC11では、第一インジェクタ4から供給量Mex3の燃料が噴射される。ここで噴射される供給量Mex3は、上記のステップC1〜C3で演算された値としてもよいし、エンジンECU15から入力される吸入空気質量流量Mair,燃料質量流量Mfuelを用い、ステップC11の中で改めて演算してもよい。ステップC9及びC11の制御は、上記の(a)の制御に対応するものである。また、ステップC10及びC11の制御は、上記の(b)の制御に対応するものである。これにより、第二インジェクタ5の噴射口が第一所定温度TT1以上の高温の排気に曝された状態で放置されることがなくなり、燃料固着が防止される。
【0087】
また、上記の(a)及び(b)の何れの制御が実施された場合であっても、吸蔵還元触媒2の近傍には酸素がほとんどない(第二所定濃度CT2未満の)状態であり、かつ、吸蔵還元触媒2へ流入する排気温度Tが第一所定温度TT1以上の状態であるため、吸蔵還元触媒2に付着している硫黄化合物が脱離しやすく、硫黄化合物の還元作用が促進される。
続くステップC12では、第二パージ制御判定部23において、第二パージ制御の終了条件の一つである条件〔B−4〕に係る継続時間のカウントが開始される。なお、すでに第二パージ制御の継続時間のカウントが開始されている場合には、このステップC12がスキップされてカウントのみが継続される。そして続くステップC13では、第二パージ制御の継続時間が所定の継続時間XT2以上であるか否かが判定される。なお、条件〔B−2〕はステップC5で成立しており、条件〔B−3〕はステップC7で成立しているものとみなすことができる。
【0088】
ここで、条件〔B−4〕が成立した場合にはステップC14へ進み、第二パージ制御が終了する。すなわち、還元剤制御部9cによる第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5からの未燃燃料の供給が停止され、制御がメインフローへと復帰する。一方、条件〔B−4〕が不成立の場合にはステップC8へ進み、第二パージ制御が継続される。
第二パージ制御のおよその合計継続時間は、吸蔵還元触媒2に流入する排気温度T1が第一所定温度TT1以上となるのに要した時間と、条件〔B−4〕に規定される所定の継続時間XT2(例えば、120[s])とを加算した時間となる。また、第二パージ制御は、車両が条件〔B−1〕に規定される所定距離(例えば1000[km])を走行する毎に、周期的に実施される。
【0089】
[4−4.フィルタ燃焼制御フロー]
図5のフィルタ燃焼制御フローにおけるステップD1では、フィルタ入口温度センサ8で検出された排気温度T2とエンジンECU15で算出された吸入空気質量流量Mairとが再生制御装置9の供給量演算部9bへ入力される。続くステップD2では、第二インジェクタ5からの未燃燃料の供給量Mex6が演算される。そして続くステップD3において、還元算制御部9cにより第二インジェクタ5が制御され、供給量Mex6の未燃燃料が吸蔵還元触媒2の上流側に噴射される。
【0090】
これにより、フィルタ3に流入する排気温度T2が上昇する。また、第一インジェクタ4と比較してフィルタ3に近い位置に配置された第二インジェクタ5から未燃燃料が供給されるため、フィルタ3に流入する排気が迅速に酸化雰囲気となる。
一方、続くステップD4では、還元算制御部9cにより第一インジェクタ4からの燃料噴射が保留される。つまり、酸化触媒1には未燃燃料が供給されない。
【0091】
続くステップD5では、ステップD1で検出された排気温度T2に基づき、フィルタ燃焼制御判定部24において条件〔C−3〕が判定される。ここで、排気温度T2が第二所定温度TT2以上である場合にはステップD6へ進む。一方、排気温度がT2が第二所定温度TT2未満である場合には、排気温度T2をさらに上昇させるべくステップD1へ戻り、第二インジェクタ5からの燃料噴射が繰り返される。
【0092】
ステップD6では、フィルタ燃焼制御判定部24において、フィルタ燃焼制御の終了条件の一つである条件〔C−4〕に係る継続時間のカウントが開始される。なお、すでにフィルタ燃焼制御の継続時間のカウントが開始されている場合には、このステップD6がスキップされてカウントのみが継続される。そして続くステップD7では、フィルタ燃焼制御の継続時間が所定の継続時間XT3以上であるか否かが判定される。なお、条件〔C−2〕はステップD3で成立しており、条件〔C−3〕はステップD5で成立しているものとみなすことができる。
【0093】
ここで、条件〔C−4〕が成立した場合にはステップD8へ進み、フィルタ燃焼制御が終了する。すなわち、第二インジェクタ5からの未燃燃料の供給が停止され、制御がメインフローへと復帰する。一方、条件〔C−4〕が不成立の場合にはステップD1へ進み、フィルタ燃焼制御が継続される。
フィルタ燃焼制御のおよその合計継続時間は、フィルタ3に流入する排気温度T2が第二所定温度TT2以上となるのに要した時間と、条件〔C−4〕に規定される所定の継続時間XT3(例えば、600[s])とを加算した時間となる。また、フィルタ燃焼制御は、車両が条件〔C−1〕に規定される所定距離(例えば、500[km])を走行する度に繰り返し実施される。
【0094】
[5.作用,効果]
[5−1.第一パージ制御時]
車両走行時における排気浄化装置10の制御作用を説明する。
図6(a)に示すように、時刻t1までは第一パージ制御,第二パージ制御及びフィルタ燃焼制御の何れの開始条件も成立せず、時刻t1に条件〔A−1〕が成立して第一パージ制御の開始条件が成立したと仮定する。再生制御装置9では、時刻t1までは図2に示すメインフローが実施され、時刻t1以降は図3に示す第一パージ制御フローが実施される。
【0095】
まず時刻t1の直後には、吸蔵還元触媒2の入口における酸素濃度Cが十分に低下しておらず、まだ第一所定濃度CT1よりも高い状態である。つまり、条件〔A−2〕が成立していないため、供給量演算部9bでは第一インジェクタ4の供給量Mex1が演算されるとともに、還元剤制御部9cによって酸化触媒1の上流側に未燃燃料が供給量Mex1で噴射される。このとき、図6(b),(d)に示すように、第一インジェクタ4のみから未燃燃料が排気中に供給され、第二インジェクタ5は停止している。
【0096】
第一インジェクタ4から噴射された未燃燃料は酸化触媒1上で酸素を消費して酸化するとともに、排気温度を上昇させる。図6(c)に示すように、吸蔵還元触媒2の入口における酸素濃度Cは徐々に低下する。また、図6(e)に示すように、吸蔵還元触媒2の出口側の空燃比も低下してストイキ(例えば、14.5)の値に漸近する。
酸素濃度Cが時刻t2に第一所定濃度CT1未満まで低下すると、条件〔A−2〕が成立し、供給量演算部9bで第二インジェクタ5の供給量Mex2が演算されるとともに、還元剤制御部9cによって吸蔵還元触媒2の上流側にも未燃燃料が供給量Mex2で噴射される。つまり、図6(b),(d)に示すように、第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5の双方から未燃燃料が噴射される。
【0097】
ここで、第二インジェクタ5からの未燃燃料の噴射により、吸蔵還元触媒2の近傍に反応性の高い炭化水素が供給されることになり、条件〔A−3〕が成立する。また、酸素濃度Cは、第一所定濃度CT1よりも低い所定値(ほとんど0%に近い、微少な所定値)となり、条件〔A−3〕の成立状態が維持される。吸蔵還元触媒2の出口側の空燃比は、図6(e)に示すように、時刻t2よりもやや遅れてさらに低下し、目標第一パージ空燃比の値に漸近する。図6(e)中の領域S1の面積は第一インジェクタ4から噴射された燃料の供給量Mex1に対応し、領域S2の面積は第二インジェクタ5から噴射された燃料の供給量Mex2に対応する。
【0098】
時刻t2から所定の継続時間XT1が経過した時刻t3になると、条件〔A−4〕が成立し、第一パージ制御が終了する。これにより、図6(c)に示すように、酸素濃度Cは徐々に増大する。また、図6(e)に示すように、吸蔵還元触媒2の出口側の空燃比も増大し、燃焼空燃比へと漸近する。
このように、開示の排気浄化装置10によれば、第一パージ制御の開始時に酸化触媒1の上流側のみに未燃燃料を供給することにより、吸蔵還元触媒2へ流入する排気中の酸素を大幅に減少させることができ、二酸化窒素の還元に有利な環境を提供することができる。
【0099】
なお、酸化触媒1を通過した排気中に含まれる炭化水素は低級炭化水素(反応性の低い炭化水素)が多く、二酸化窒素の還元性に乏しい場合がある。これに対し、開示の排気浄化装置10では、酸素濃度Cを低下させた後に吸蔵還元触媒2の上流側に未燃燃料を供給することにより、反応性の高い炭化水素を吸蔵還元触媒2の近傍に存在させることができ、二酸化窒素の還元性を向上させることができる。
【0100】
また、酸素濃度Cが十分に低下していない状態では吸蔵還元触媒2の上流側に未燃燃料が供給されないため、燃費を向上させることができる。
また、第一インジェクタ4からの供給量Mex1が、空燃比をストイキとする量に設定されているため、吸蔵還元触媒2の上流側の酸素濃度を迅速に低下させることができ、二酸化窒素の再生効率をさらに向上させることができる。
【0101】
[5−2.第二パージ制御時]
また、開示の排気浄化装置10では、第二パージ制御時にも酸化触媒1の上流側のみに未燃燃料が供給される。これにより、吸蔵還元触媒2の近傍における還元雰囲気を確実に形成することができ、硫黄化合物の還元に有利な環境を提供することができる。このとき、第一インジェクタ4からの供給量Mex3が、空燃比をオーバーリッチ(目標第二パージ空燃比)とする量に設定されているため、硫黄化合物の還元反応を促進することができ、吸蔵還元触媒2の再生効率を向上させることができる。
【0102】
また、吸蔵還元触媒2に流入する排気温度T1が第一所定温度TT1以上になるまでは第二パージ制御の継続時間のカウントが開始されずに排気昇温操作が繰り返されるため、吸蔵還元触媒2の雰囲気温度を硫黄化合物を効率的に還元可能な温度まで確実に昇温させることができ、硫黄化合物の還元性を向上させることができる。
また、燃料固着が懸念される状態である場合には、第二インジェクタ5から最小量の未燃燃料を噴射するため、排気の空燃比や燃費にほとんど影響を与えることなく第二インジェクタ5の性能を確保することができる。
【0103】
また、たとえ酸素濃度Cが第二所定濃度CT2未満となったときに排気温度T1が第一所定温度TT1以上まで昇温していなかったとしても、燃料噴射が保留状態に制御されている第二インジェクタ5から供給量Mex5の燃料を追加噴射することにより、確実に排気温度T1を第一所定温度TT1以上にすることができる。
また、第二パージ制御では、吸蔵還元触媒2の雰囲気温度が第一所定温度TT1以上である状態が所定の継続時間XT2持続されるため、硫黄化合物を確実に吸蔵還元触媒2の表面から除去することができる。
【0104】
[5−3.フィルタ燃焼制御時]
また、開示の排気浄化装置10によれば、フィルタ燃焼制御時には第一インジェクタ4からの燃料噴射を保留するとともに、第二インジェクタ5のみから燃料が供給される。これにより、フィルタ3の近傍での発熱量(すなわち、吸蔵還元触媒2での発熱量)を増大させることができ、フィルタ3に対する熱損失を減少させて燃費を改善することができる。また、酸化触媒1には未燃燃料が供給されず、すなわち酸化触媒1に排気管路上での熱損失を考慮した温度上昇を期待する必要がなくなるため、酸化触媒1の熱劣化を抑制することができ、ひいては触媒貴金属コストを抑制することができる。
【0105】
また、フィルタ燃焼制御では、フィルタ3の雰囲気温度が第二所定温度TT2以上である状態が所定の継続時間XT3持続されるため、フィルタ3に捕集された粒子状物質を確実に燃焼させて取り除くことができる。
【0106】
[5−4.相乗作用,相乗効果]
さらに、開示の排気浄化装置10によれば、排気中の酸素濃度Cに基づいて第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5から噴射される未燃燃料の供給量Mex1,Mex2,Mex3,Mex4をそれぞれ制御することにより、図6(c),(e)に示すように、還元場を自在に制御することができ、吸蔵還元触媒2の近傍における還元反応性及び再生効率を向上させることができる。
【0107】
特に、第一パージ制御及び第二パージ制御に着目すれば、パージの種類(すなわち、吸蔵還元触媒2からのパージ対象が二酸化窒素であるか、それとも硫黄化合物であるか)に応じて未燃燃料の供給態様及び供給量が変更されるため、吸蔵還元触媒2の上流における排気温度T1をそれぞれの制御に適した温度にすることができ、それぞれの制御における再生効率を高めることができる。
【0108】
また、パージ制御及びフィルタ燃焼制御に着目すれば、再生対象(すなわち、吸蔵還元触媒2であるか、それともフィルタ3であるか)に応じて未燃燃料の供給態様及び供給量が変更されるため、フィルタ3の再生効率を確保しつつその上流側に配置される酸化触媒1及び吸蔵還元触媒2の熱劣化を抑制することができ、それぞれの制御に対して最適な状態を実現することができる。
【0109】
また、排気浄化装置10は第一インジェクタ4及び第二インジェクタ5の双方が未燃燃料を還元剤として噴射するため、構成が簡素であり、例えば同一の燃料配管材をそれぞれのインジェクタに接続してコストを削減することができる。
【0110】
[6.変形例等]
上述の実施形態の変形例としての排気浄化装置30を図7に例示する。この排気浄化装置30は、上述の排気浄化装置10と比較して、排気通路11上に介装された各構成の配設位置が異なる。なお、同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0111】
排気通路11上には、排気の流れの上流側から順に、ターボチャージャ13,酸化触媒1,フィルタ3及び吸蔵還元触媒2が介装される。すなわち、排気浄化装置10における吸蔵還元触媒2及びフィルタ3の配設位置が交換されたものである。また、第二インジェクタ5,酸素濃度センサ6及び触媒入口温度センサ7が吸蔵還元触媒2の直上流となる酸化触媒1の下流側に配置され、フィルタ入口温度センサ8がフィルタ3の直上流となる酸化触媒1の下流側に配置される。
【0112】
第一インジェクタ4は酸化触媒1に未燃燃料を供給する機能を有し、第二インジェクタ5は吸蔵還元触媒2に未燃燃料を供給する機能を有する。したがって、この排気浄化装置30における第一パージ制御及び第二パージ制御は、上述の排気浄化装置10における第一パージ制御及び第二パージ制御と同様に実施される。一方、図7に示すように、フィルタ3の上流側に配置される最も近接したインジェクタが第二インジェクタ5ではなく第一インジェクタ4であるから、フィルタ燃焼制御では第一インジェクタ4から未燃燃料が供給される。
【0113】
[6−1.変形例の構成]
例えば、供給量演算部9dが、条件〔C−1〕の成立時に第一インジェクタ4からの供給量Mex7を演算する。供給量Mex7は、上述の供給量Mex6と同様に、フィルタ3に流入する排気温度T2を第二所定温度TT2以上にするのに必要な燃料量であり、すなわち条件〔C−3〕を成立させるために要するものである。供給量Mex7の具体的な演算方法は任意であり、フィルタ入口温度センサ8で検出された排気温度T2(あるいは、排気温度T2と第二所定温度TT2との偏差)及び排気流量に対応する吸入空気質量流量Mairに基づいて演算することが考えられる。
【0114】
この場合、供給量演算部9dは、条件〔C−2〕及び〔C−3〕が成立し、かつ第二インジェクタ5の噴射口に燃料固着が懸念される状態である場合には、第二インジェクタ5からの供給量Mex8を演算する。供給量Mex8は、供給量Mex4と同様に、吸蔵還元触媒2へ流入する排気の空燃比及び排気温度に影響を与えない程度の極微量であり、好ましくは第二インジェクタ5が噴射可能な最小量とする。
【0115】
一方、還元剤制御部9eは、条件〔C−1〕の成立時に、供給量演算部9dで演算された供給量Mex7の未燃燃料が第一インジェクタ4から排気中に噴射されるように、第一インジェクタ4を制御する。このとき、第二インジェクタ5は停止状態(第二インジェクタ5からの燃料噴射量が0)に保持され、吸蔵還元触媒2への未燃燃料の供給が保留される。
【0116】
また、還元剤制御部9eは、条件〔C−2〕及び〔C−3〕が成立し、かつ第二インジェクタ5の噴射口に燃料固着が懸念される状態である場合には、第二インジェクタ5の停止状態を解除する。すなわち、第一インジェクタ4の制御を継続しつつ、第二インジェクタ5から供給量Mex8の未燃燃料が排気中に噴射されるように、第二インジェクタ5を制御する。
【0117】
[6−2.変形例の作用,効果]
排気浄化装置30における制御の一例として、フィルタ燃焼制御のフローを図8に示す。
ステップE1では、フィルタ入口温度センサ8で検出された排気温度T2とエンジンECU15で算出された吸入空気質量流量Mairとが再生制御装置9の供給量演算部9dへ入力される。続くステップE2では、第一インジェクタ4からの未燃燃料の供給量Mex7が演算される。そして続くステップE3において、還元算制御部9eにより第一インジェクタ4が制御され、供給量Mex7の未燃燃料が酸化触媒1の上流側に噴射される。
【0118】
これにより、フィルタ3に流入する排気温度T2が上昇し、フィルタ3に流入する排気が迅速に酸化雰囲気となる。一方、続くステップE4では、還元算制御部9eにより第二インジェクタ5からの燃料噴射が保留される。
続くステップE5では、ステップE1で検出された排気温度T2に基づき、フィルタ燃焼制御判定部24において条件〔C−3〕が判定される。ここで、排気温度T2が第二所定温度TT2以上である場合にはステップE6へ進む。一方、排気温度がT2が第二所定温度TT2未満である場合には、排気温度T2をさらに上昇させるべくステップE1へ戻り、第二インジェクタ5からの燃料噴射が繰り返される。
【0119】
ステップE6では、還元剤制御部9eにおいて、第二インジェクタ5の噴射口に燃料固着が懸念される状態であるか否かが判定される。ここで、燃料固着が懸念されると判定された場合にはステップE7へ進み、そうでない場合にはステップE7をスキップしてステップE9へ進む。
ステップE7では、還元剤制御部9eにより第二インジェクタ5から供給量Mex8の燃料が噴射される。これにより、第二インジェクタ5が第二所定温度TT2以上の高温の排気に曝された状態で放置されることがなくなり燃料固着が防止される。
【0120】
続くステップE8では、フィルタ燃焼制御判定部24において、フィルタ燃焼制御の終了条件の一つである条件〔C−4〕に係る継続時間のカウントが開始される。なお、すでにフィルタ燃焼制御の継続時間のカウントが開始されている場合には、このステップE8がスキップされる。そして続くステップE9では、フィルタ燃焼制御の継続時間が所定の継続時間XT3以上であるか否かが判定される。なお、条件〔C−2〕はステップE3で成立しており、条件〔C−3〕はステップE5で成立しているものとみなすことができる。
【0121】
ここで、条件〔C−4〕が成立した場合にはステップE10へ進み、フィルタ燃焼制御が終了する。すなわち、第一インジェクタ4からの未燃燃料の供給が停止され、制御がメインフローへと復帰する。また、第二インジェクタ5からも固着防止用の未燃燃料が供給されていた場合には、これも停止される。一方、条件〔C−4〕が不成立の場合にはステップE1へ進み、フィルタ燃焼制御が継続される。
【0122】
フィルタ燃焼制御のおよその合計継続時間は、フィルタ3に流入する排気温度T2が第二所定温度TT2以上となるのに要した時間と、条件〔C−4〕に規定される所定の継続時間XT3(例えば、600 [s])とを加算した時間となる。また、フィルタ燃焼制御は、車両が条件〔C−1〕に規定される所定距離(例えば、500 [km])を走行する度に繰り返し実施される。
【0123】
このように、図7に示された排気浄化装置30は、上述の実施形態と同様の効果を奏するものである。
さらに、開示の排気浄化装置30では、フィルタ燃焼制御時に上流側の第一インジェクタ4のみを作動させることによって生じうる下流側の第二インジェクタ5の燃料固着を防止することができ、排気の空燃比や燃費にほとんど影響を与えることなく第二インジェクタ5の性能を確保することができる。
【0124】
[6−3.その他]
上述の実施形態及び変形例では、酸化触媒1及び吸蔵還元触媒2での触媒反応の還元剤として未燃燃料を用いたものを例示したが、還元剤の種類はこれに限定されない。例えば、未燃燃料の代わりに反応性の高い不飽和炭化水素(オレフィン)のみを抽出した還元剤液を使用してもよいし、あるいは、種々のオレフィン炭化水素(アルケン)やアルカンを含有する溶液を使用してもよい。あるいは、酸化触媒1及び吸蔵還元触媒2の種類に応じた成分の還元剤を使用することが考えられる。
【0125】
また、上述の実施形態で例示されたもの以外の演算式を用いることも可能である。例えば、上記の式1では、第一パージ制御時に第一インジェクタ4から供給される供給量Mex1の算定に際し、吸入空気質量流量Mairと燃料質量流量Mfuelとを用いているが、別のパラメータを用いて供給量Mex1を算出することも考えられる。また、排気通路11上に排気流量を算出又は検出する手段を介装し、これを吸入空気質量流量Mairの代用としてもよい。
【0126】
また、上述の実施形態に記載された第一パージ制御,第二パージ制御及びフィルタ燃焼制御のそれぞれの開始条件及び終了条件もこれに限定されない。例えば、第一パージ制御の開始条件として、吸蔵還元触媒2に吸蔵された二酸化窒素量や、排気通路11を流通した排気流量の累積値を考慮してもよい。また、第二パージ制御の開始条件としては、排気流量や吸蔵還元触媒2を通過した燃料成分の累計を考慮することが考えられる。また、フィルタ燃焼制御の開始条件としては、フィルタ3の上流側及び下流側の差圧や流路抵抗値を考慮することが考えられる。各制御の終了条件に関しても同様に種々の条件を設定可能である。
【0127】
また、酸素濃度センサ6の具体例としては、酸素濃度を直接検出する酸素ガスセンサやレーザー式分析センサ等を用いてもよいし、あるいは窒素酸化物濃度センサやアンモニアセンサを用いてその検出結果から酸素濃度を推定するものとしてもよい。
また、上述の実施形態及び変形例では、第一供給手段として酸化触媒1よりも上流側の排気通路に設けられた第一インジェクタ4を用いたものを例示したが、還元剤の供給手法はこれに限定されない。例えば、排気通路に設けた第一インジェクタ4の代わりに筒内インジェクタ16を用い、主燃焼後の排気行程において追加の燃料噴射(いわゆるレイトポスト噴射)等を行うようにしてもよい。
【0128】
また、上述の実施形態ではディーゼルエンジン12の排気系に本発明を適用したものが例示されているが、ガソリンエンジンを備えた車両への適用も可能である。
【符号の説明】
【0129】
1 酸化触媒
2 吸蔵還元触媒
3 フィルタ
4 第一インジェクタ(第一供給手段)
5 第二インジェクタ(第二供給手段)
6 酸素濃度センサ(酸素濃度検出手段)
7 触媒入口温度センサ(触媒入口排気温度検出手段)
8 フィルタ入口温度センサ(フィルタ入口温度検出手段)
9 再生制御装置(還元剤制御手段)
9a 判定部
9b,9d 供給量演算部
9c,9e 還元剤制御部
10 排気浄化装置
11 排気通路
12 エンジン(内燃機関)
13 ターボチャージャ
14 吸気通路
15 エンジンECU
16 筒内インジェクタ
21 パージ制御判定部
22 第一パージ制御判定部
23 第二パージ制御判定部
24 フィルタ燃焼制御判定部
C 酸素濃度
1 触媒入口排気温度
2 フィルタ入口排気温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気中の成分に対する酸化能を有する酸化触媒と、
該酸化触媒よりも下流側の該排気通路に設けられ、酸化雰囲気下で該排気中の窒素酸化物を吸蔵するとともに還元雰囲気下で該窒素酸化物を還元する吸蔵還元触媒と、
該酸化触媒へ流れ込む排気に、該酸化触媒によって酸化される第一の還元剤を供給する第一供給手段と、
該酸化触媒及び該吸蔵還元触媒の間の該排気通路に設けられ、該吸蔵還元触媒で該窒素酸化物を還元する第二の還元剤を該排気中に供給する第二供給手段と、
所定の第一パージ開始条件の成立時に該吸蔵還元触媒に吸蔵された該窒素酸化物を放出させる第一パージ制御を実施するとともに、該第一パージ開始条件の非成立時かつ所定の第二パージ開始条件の成立時に該吸蔵還元触媒に付着した該成分の一つである硫黄化合物を取り除く第二パージ制御を実施する還元剤制御手段とを備え、
該還元剤制御手段が、該第一供給手段から供給される該第一の還元剤及び該第二供給手段から供給される該第二の還元剤のそれぞれの供給量を、該第一パージ制御と該第二パージ制御とで個別に制御する
ことを特徴とする、排気浄化装置。
【請求項2】
該還元剤制御手段が、
該第一パージ制御の実施時に、該第一供給手段から該第一の還元剤を噴射させるとともに該第二供給手段からも該第二の還元剤を噴射させ、
該第二パージ制御の実施時に、該第一供給手段から該第一の還元剤を噴射させるとともに該第二供給手段からの該第二の還元剤の噴射を保留させる
ことを特徴とする、請求項1記載の排気浄化装置。
【請求項3】
該第一供給手段及び該第二供給手段のそれぞれが、該第一の還元剤及び該第二の還元剤として未燃燃料を噴射する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の排気浄化装置。
【請求項4】
該還元剤制御手段が、該第一パージ制御の実施時に、該酸化触媒における排気空燃比をストイキとする量の該未燃燃料を該第一供給手段から噴射させる
ことを特徴とする、請求項3記載の排気浄化装置。
【請求項5】
該還元剤制御手段が、該第二パージ制御の実施時に、該酸化触媒における排気空燃比をストイキよりリッチとする量の該未燃燃料を該第一供給手段から噴射させる
ことを特徴とする、請求項3又は4記載の排気浄化装置。
【請求項6】
該吸蔵還元触媒の入口における触媒入口排気温度を検出する触媒入口排気温度検出手段をさらに備え、
該還元剤制御手段が、該第二パージ制御の実施時、かつ、該触媒入口排気温度検出手段で検出された該触媒入口排気温度が所定温度以上となってから所定時間が経過したときに、該第二パージ制御を終了する
ことを特徴とする、請求項5記載の排気浄化装置。
【請求項7】
該還元剤制御手段が、該第二パージ制御の実施時、かつ、該触媒入口排気温度検出手段で検出された該触媒入口排気温度が該所定温度未満であるときに、該第一供給手段から該第一の還元剤を噴射させるとともに該第二供給手段からも該第二の還元剤を噴射させ、
該第二の還元剤の供給量が、該触媒入口排気温度を該所定温度まで昇温させるのに要する量である
ことを特徴とする、請求項6記載の排気浄化装置。
【請求項8】
該還元剤制御手段が、該第二パージ制御の実施時、かつ、該触媒入口排気温度検出手段で検出された該触媒入口排気温度が該所定温度以上であるときに、該第一供給手段から該第一の還元剤を噴射させるとともに該第二供給手段からも該第二の還元剤を噴射させ、
該第二の還元剤の供給量が、該触媒入口排気温度を該所定温度に維持するのに要する量である
ことを特徴とする、請求項6又は7記載の排気浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−106326(P2011−106326A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261563(P2009−261563)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】