説明

排水機場の運転制御装置

【課題】台風、大雨、集中豪雨等、水門と排水ポンプを適切に運転制御すことにより、支流河川から本流河川への排水を最適に制御できる排水機場の運転制御装置を提供する。
【解決手段】支流河川12から本流河川11への合流点に設けられた水門13、及び前記支流河川12から前記水門13をバイパスする放水路14に設けられた排水ポンプ15を有する排水機場の運転制御装置で、本流河川11の、支流河川12との合流点近くに水位計17を設置し、かつ、支流河川には、この支流河川の流れ方向を検出する流向計19を設置する。制御回路21は、水位計17の測定水位が設定水位より低い場合は、水門13を開状態に、かつ排水ポンプ15を停止状態に制御し、水位計17の測定水位が設定値より高く、流向計19による測定方向が逆流状態か或いは停止状態の場合は、水門13を閉状態に、かつ排水ポンプ15を運転状態に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支流河川から本流河川への合流点に設けられた水門、及び前記支流河川から前記水門をバイパスして本流河川に到る放水路に設けられた排水ポンプを有する排水機場の運転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、支流河川が本流河川に流れ込む合流地点には排水機場が設置されている。この排水機場には、支流河川から本流河川への合流点に水門が設けられると共に、支流河川から前記水門をバイパスして本流河川に到る放水路に排水ポンプを設けている。通常、支流河川の水は開状態の水門を介して自然流下で本流河川に流れ込んでいる。しかし、本流河川の上流域で集中豪雨があると本流河川の水位が上昇し、本流河川側の水が前記合流点から支流河川側に逆流する恐れがある。
【0003】
この逆流を防ぐために、本流河川の水位が上昇した場合は前述のように合流点に設けた水門を閉じ、支流河川の水を排水ポンプによって放水路から本流河川へ吐き出すようにしている。すなわち、支流河川と本流河川に水位計をそれぞれ設置し、これら水位計の計測値により、排水機場付近での支流河川および本流河川の今後の水位変化を予測し、その予測結果に基づいて排水機場のポンプの駆動タイミングのガイダンス表示を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このほか、支流河川の水位と支流河川流域の降雨量および前記本流河川の水位と本流河川流域の降雨量をそれぞれ計測するとともに、各計測値に基づいて支流河川および本流河川の今後の水位を予測し、その予測結果に基づいて前記排水ポンプ場のポンプ駆動タイミングと前記水門の開閉タイミングを制御するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−100771号公報
【特許文献2】特開平8−286729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記前者の、本流河川と支流河川の水位値により水門の開閉と排水ポンプの運転制御を行う従来例では、本流河川と支流河川の水位値のみの判断で水門と排水ポンプの制御を行うため、次のような問題が生じる。すなわち、支流河川から本流河川へ自然流下が可能な場合であっても、判断の状況によっては、水門を閉じて排水ポンプによる排水に切換えることがある。また、排水ポンプによる排水の継続が必要な場合でも、判断の状況によっては、排水ポンプを停止させ水門による自然流下方式に切換える可能性がある。
【0006】
また、前記後者の、本流河川と支流河川の水位と流域の降雨量から今後の水位を予測し、その結果により水門の開閉と排水ポンプの運転制御を行う従来例では、予測制御の感度、及び通常制御への復帰感度の設定が難しく、また、長期使用時の環境条件変化への未対応による無駄な判断、または誤った判断を行う危険性がある。
【0007】
本発明の目的は、台風、大雨、集中豪雨等、水門の開閉と排水ポンプの運転とを適切に制御することにより、支流河川から本流河川への排水を最適に制御できる排水機場の運転制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による排水機場の運転制御装置は、支流河川から本流河川への合流点に設けられた水門、及び前記支流河川から前記水門をバイパスして本流河川に到る放水路に設けられた排水ポンプを有する排水機場の運転制御装置であって、前記本流河川の、前記支流河川との合流点近くに設置された水位計と、前記支流河川に設けられ、この支流河川の流れ方向を検出する流向計と、前記水位計の測定水位が設定水位より低い場合は、前記水門を開状態に、かつ前記排水ポンプを停止状態に制御し、前記水位計の測定水位が設定値より高く、前記流向計による測定方向が本流河川から支流河川に向かう方向か或いは停止状態の場合は、前記水門を閉状態に、かつ前記排水ポンプを運転状態に制御する制御回路とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明では、前記本流河川の、前記支流河川との合流点近くに設置された水位計と、
前記支流河川に設けられ、この支流河川から本流河川の流れ込む水の流速を検出する流速計と、前記水位計の測定水位が設定水位より低い場合は、前記水門を開状態に、かつ前記排水ポンプを停止状態に制御し、前記水位計の測定水位が設定値より高く、前記流速計により測定された流速が設定値以下の場合は、前記水門を閉状態に、かつ前記排水ポンプを運転状態に制御する制御回路とを備えた構成でもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水位計と共に流向計或いは流速計を用い、それらの検出結果に基づいて判断を行うので、水門の開閉と排水ポンプの運転とを最適に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による排水機場の運転制御装置の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1は、この実施の形態の全体構成を表している。図1において、11は大流量の本流河川、12は比較的小流量の支流河川で、この支流河川12は本流河川11に合流し、本流河川11に流れ込んでいる。この支流河川12から本流河川11への合流点には水門13が設けられている。14は放水路で、支流河川12から分岐され水門13をバイパスして本流水路11に合流している。この放水路14には排水ポンプ15が設けられ、放水路14を流れる水を本流河川11に排水する。
【0013】
前記本流河川11の、支流河川12との合流点近くには水位計17が設置されている。また、支流河川12内にも水位計18が設置されている。さらに、この支流河川12内には、この支流河川の流れ方向を検出する流向計19が設けられている。
【0014】
21は制御回路で、水位計17,18の検出値を対応する水位検出器22,23を介して入力する。また、流向計19の測定値も流向検出器24を介して入力する。この制御回路21は、前記水門13に対して水門操作器25を介して開閉操作信号を出力すると共に、排水ポンプ15に対して、排水ポンプ操作器26を介して運転信号を出力する。
【0015】
次に、図2を用いて動作説明を行う。制御回路21の動作がスタートすると、平常時、すなわち水位計17,18の水位レベルが設定値以下であれば、水門13は開き(ステップ201)、放水路14に設けられた排水ポンプ15は停止している(ステップ202)。このとき、支流河川12の水は水門13から自然流下で本流河川11に排水される。
【0016】
これに対し、台風や大雨、集中豪雨などの発生時は、本流河川11及び支流河川12では共に水位が上昇し、流量が増加する。この場合、支流河川12は本流河川11に比べ容量が小さいため、支流河川12から本流河川11に対する自然流下による排水ができずに、本流河川11から支流河川への逆流が生じることとなる。すなわち、支流河川12から自然流下で本流河川11に排水されていた水の流速は、本流河川11の水位が高まるに連れて遅くなり、流速が一旦ゼロとなったのち、逆流状態となる。このような場合、上述した逆流を防止し、支流河川12に流れる水を本流河川11に確実に排水する必要がある。
【0017】
このような現象は、本流河川11に設けた水位計17、支流河川12に設けた水位計18、及び流向計19により検出され、対応する水位検出器22,23及び流向検出器24を介して制御回路21に入力されている。
【0018】
制御回路21は、水位計17により検出された本流河川11の水位、及び水位計18で検出された支流河川12の水位がいずれも設定値より高く(ステップ203:Y、ステップ204:Y)、支流河川12に設けた流向計19が逆流状態(本流河川11から支流河川12に向う方向)を検出するか、または流れが停止した状態を検出した場合(ステップ205)、水門操作器25を介して水門13に閉指令を出力する(ステップ206)と共に、排水ポンプ操作器24を介して排水ポンプ15に運転指令を出力する(ステップ207)。
【0019】
これらの操作により、水門13が閉じられ、本流河川11から支流河川12への逆流が阻止される。また、排水ポンプ15が運転されることにより、支流河川12の水は放水路15から本流河川11へ強制排水される。
【0020】
台風や大雨、集中豪雨などが収まると、本流河川11及び支流河川12の水位は共に低下し、平常状態に復帰する。このような状態変化も、本流河川11に設けた水位計17、及び支流河川12に設けた水位計18により検出され、対応する水位検出器22,23を介して制御回路21に入力されている。
【0021】
制御回路21は、水位計17により検出された本流河川11の水位、及び水位計18で検出された支流河川12の水位がいずれも設定値より低くなると(ステップ208:Y、ステップ209:Y)、平常状態に復帰したと判断する。そして、水門操作器25を介して水門13に開指令を出力し、排水ポンプ操作器26を介して排水ポンプ15に停止指令を出力する。この結果、水門13は開状態となり(ステップ201)、排水ポンプ15は停止状態となる(ステップ202)。この後は、再び支流河川12の水は水門13から自然流下で本流河川11に排水される。
【0022】
すなわち、制御回路21は、水位計17,18の測定水位が設定水位より低い場合は、水門13を開状態に、かつ排水ポンプ15を停止状態に制御する。また、水位計17,18の測定水位が設定値より高く、流向計19による測定方向が、本流河川11から支流河川12に向かう逆流方向か或いは停止状態の場合は、水門13を閉状態に、かつ排水ポンプ15を運転状態に制御する。これらの結果、本流河川11の水位上昇に伴う支流河川12への逆流を水門13の閉鎖により防止しつつ、支流河川12の水をポンプ15により放流路14から本流河川11に強制排水することができる。
【0023】
次に、図3及び図4で示す実施の形態を説明する。図3は、この実施の形態の全体構成を表している。図3において、この実施の形態においても、支流河川12は本流河川11に合流し、本流河川11に流れ込んでいる。この支流河川12から本流河川11への合流点には水門13が設けられている。また、放水路14には排水ポンプ15が設けられており、放水路14を流れる水を本流河川11に排水することができる。
【0024】
前記本流河川11には水位計17が、支流河川12内にも水位計18が設置されている。これらの検出値は、水位検出器22,23を介して制御回路31に入力される。また、支流河川12内には流向計19が設けられている。この流向計19の測定値も流向検出器24を介して制御回路31に入力される。制御回路31は、前記水門13に対して水門操作器25を介して開閉操作信号を出力すると共に、排水ポンプ15に対して、排水ポンプ操作器26を介して運転信号を出力する。
【0025】
ここまでの構成は、前述した実施の形態と同じであるが、この実施の形態では支流河川12に、さらに流速計32を設け、その検出値を、流速検出器33を介して制御回路31に入力させている。
【0026】
次に、図4を用いて動作説明を行う。制御回路31の動作がスタートすると、平常時、すなわち、水位計17,18の水位レベルが設定値以下であれば、水門13は開き(ステップ201)、放水路14に設けられた排水ポンプ15は停止している(ステップ202)。このとき、支流河川12の水は水門13から自然流下で本流河川11に排水される。
【0027】
これに対し、台風や大雨、集中豪雨などの発生時は、本流河川11及び支流河川12では共に水位が上昇し、流量が増加し、本流河川11から支流河川への逆流が生じることとなる。すなわち、支流河川12から自然流下で本流河川11に排水されていた水の流速は、本流河川11の水位が高まるに連れて遅くなり、流速が一旦ゼロとなったのち、逆流状態となる。このような場合、上述した逆流を防止し、支流河川12に流れる水を本流河川11に確実に排水する必要がある。
【0028】
制御回路31は、水位計17により検出された本流河川11の水位、及び水位計18で検出された支流河川12の水位がいずれも設定値より高く(ステップ203:Y、ステップ204:Y)、支流河川12に設けた流向計19が逆流状態(本流河川11から支流河川12に向う方向)を検出するか、または流れが停止した状態を検出した場合(ステップ205)、水門操作器25を介して水門13に閉指令を出力する(ステップ206)と共に、排水ポンプ操作器24を介して排水ポンプ15に運転指令を出力する(ステップ207)。
【0029】
つまり、水門13を閉じ、排水ポンプ15を運転することにより、本流河川11から支流河川12への逆流を阻止すると共に、支流河川12の水を放水路15から本流河川11へ強制排水しようとする。
【0030】
この場合、水門13の閉動作時間が長いと、水門13の閉鎖が間に合わず、大きな逆流が生じてしまう危険性が増加する。このような危険性をなくすため、この実施の形態では、流速計32により、支流河川12から本流河川11に排水される水の流速を検出し、その検出値を、流速検出器33を介して制御回路31に入力している。
【0031】
制御回路31は、この流速計32の値が設定値以下になった場合は、水門13を閉じ、排水ポンプ15を運転状態に制御する(ステップ401,206,207)。すなわち、本流河川11の水位が上昇すると、支流河川12から本流河川11に排水される水の流速が低下し始める。この実施の形態では、この時点を捉え、流速が低下した段階で、水門13の閉制御を開始する。このため、水門13の閉動作時間が長くても、支流河川12における逆流や水流停止状態が生じる時点では既に水門が閉鎖されていることになるので、大きな逆流が生じることはない。そして、排水ポンプ15の運転により、支流河川12の水を、放水路14から本流河川11へ強制排水する。
【0032】
この場合、ステップ205の機能、すなわち、逆流状態検出、または流れの停止検出により水門13に閉指令を出力したり、排水ポンプ15に運転指令を出力する機能はバックアップとして用いられることになるので、省略してもよい。
【0033】
台風や大雨、集中豪雨などが収まると、本流河川11及び支流河川12の水位は共に低下し、平常状態に復帰する。制御回路31は、水位計17により検出された本流河川11の水位、及び水位計18で検出された支流河川12の水位がいずれも設定値より低くなると(ステップ208:Y、ステップ209:Y)、平常状態に復帰したと判断し、水門操作器25を介して水門13に開指令を出力し、排水ポンプ15に停止指令を出力する。この結果、水門13は開状態となり(ステップ201)、排水ポンプ15は停止状態となる(ステップ202)。この後は、再び支流河川12の水は水門13から自然流下で本流河川11に排水される。
【0034】
すなわち、制御回路31は、水位計17,18の測定水位が設定水位より低い場合は、水門13を開状態に、かつ排水ポンプ15を停止状態に制御する。また、水位計17,18の測定水位が設定値より高く、流速計32により測定された流速が設定値以下の場合は、水門13を閉状態に、かつ排水ポンプ15を運転状態に制御する。これらの結果、本流河川11の水位上昇に伴う支流河川12への逆流を、水門13の早期閉鎖により確実に防止しつつ、支流河川12の水をポンプ15により放流路14から本流河川11に強制排水することができる。
【0035】
このように、雨量の増加により、本流河川の水位が上昇し、支流河川から本流河川への自然流下による排水が困難になる状態を、支流河川に設けた流向計や流速計により精度よく検出でき、それらの検出結果に基づいて水門の開閉タイミングと排水ポンプの運転停止タイミングを最適に制御するので、排水機場における排水ポンプの稼働率を最小限に抑え、信頼性が高く確実で効率的な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による排水機場の運転制御装置の一実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図2】同上一実施の形態の動作を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の他の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図4】同上他の実施の形態の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
11 本流河川
12 支流河川
13 水門
14 放水路
15 排水ポンプ
17,18 水位計
19 流向計
21,31 制御回路
32 流速計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支流河川から本流河川への合流点に設けられた水門、及び前記支流河川から前記水門をバイパスして本流河川に到る放水路に設けられた排水ポンプを有する排水機場の運転制御装置であって、
前記本流河川の、前記支流河川との合流点近くに設置された水位計と、
前記支流河川に設けられ、この支流河川の流れ方向を検出する流向計と、
前記水位計の測定水位が設定水位より低い場合は、前記水門を開状態に、かつ前記排水ポンプを停止状態に制御し、前記水位計の測定水位が設定値より高く、前記流向計による測定方向が本流河川から支流河川に向かう方向か或いは停止状態の場合は、前記水門を閉状態に、かつ前記排水ポンプを運転状態に制御する制御回路と
を備えたことを特徴とする排水機場の運転制御装置。
【請求項2】
支流河川から本流河川への合流点に設けられた水門、及び前記支流河川から前記水門をバイパスして本流河川に到る放水路に設けられた排水ポンプを有する排水機場の運転制御装置であって、
前記本流河川の、前記支流河川との合流点近くに設置された水位計と、
前記支流河川に設けられ、この支流河川から本流河川の流れ込む水の流速を検出する流速計と、
前記水位計の測定水位が設定水位より低い場合は、前記水門を開状態に、かつ前記排水ポンプを停止状態に制御し、前記水位計の測定水位が設定値より高く、前記流速計により測定された流速が設定値以下の場合は、前記水門を閉状態に、かつ前記排水ポンプを運転状態に制御する制御回路と
を備えたことを特徴とする排水機場の運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−186266(P2008−186266A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19690(P2007−19690)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】