説明

排熱回生装置の運転停止方法

【課題】エンジンの運転停止後に電力供給をすることなく、ランキンサイクルの作動流体で排ガス用の熱交換器15の予熱を除去することで、作動流体が高温になって熱分解したり、含有オイルが炭化するといった不都合を防止する。
【解決手段】この発明に係る排熱回生装置の運転停止方法は、膨張機12が第2熱交換器15で生成された作動流体の過熱蒸気を等エントロピ的に膨張させて、エンジン1の動力として取り出すようになっている排熱回生装置の運転停止方法であって、エンジン1の運転停止の際、ランキンサイクル回路10内で作動流体が循環されている間に電磁クラッチ19を遮断し、ポンプ一体型膨張機13を自立運転させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用エンジン等の内燃機関の冷却水や排気ガスの排熱を、ランキンサイクルにより動力等として回生する排熱回生装置の運転停止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関であるエンジンの冷却水やエンジン排気ガス(以下、排ガスと記す)などの排熱をランキンサイクルにより動力等として回生する排熱回生装置は、エンジンの排熱とランキンサイクルの作動流体(冷媒とも言う)を熱交換することで、ランキンサイクルで動力や電力を発生させる。
エンジンは、冷却水が冷却水回路を循環することで冷却される。
ランキンサイクルは、エンジンの排熱で作動流体を加熱する熱交換器、作動流体を膨張させて駆動力を発生する膨張機、作動流体を凝縮させる凝縮器、作動流体を圧送して循環させる冷媒ポンプから構成される。
【0003】
エンジンの排熱で作動流体を加熱する場合に、冷却水及び排ガスの両排熱をランキンサイクルの冷媒である作動流体へ熱交換する構成がある。ランキンサイクルの作動流体は、第1熱交換器で冷却水と熱交換し、引き続き第2熱交換器で排ガスと熱交換して、過熱蒸気高温の冷媒ガスとなる。
【0004】
このように、排熱回生装置が、ランキンサイクルの作動流体が排ガスと熱交換する第2熱交換器を有する場合、排ガス温度が300〜400℃に達するため、作動流体が過度に高温になり、含有されるオイルが炭化したり、冷媒が熱分解したりする。
そして、このランキンサイクルで作動流体が過度に高温になるのは、特にエンジンの停止時である。エンジンの停止の際に、ランキンサイクルを停止させた場合、作動流体の流動は停止し、第2熱交換器に残った作動流体が第2熱交換器の余熱で特に高温になる。
この対策として、エンジンの運転が停止した後も冷媒ポンプを作動させて、ランキンサイクルの動作を継続して作動流体の異常昇温を回避していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−250075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エンジンの運転停止後は、エンジンはランキンサイクルからの動力が不要であり、冷媒ポンプ及び膨張機が同軸上に連結され、冷媒ポンプ及び膨張機が同調するポンプ一体型膨張機を備えた排熱回生装置では、エンジンの運転を停止させる際、膨張機と切り離して冷媒ポンプのみを作動させることができず、クランクシャフトの端部に取付けられたフライホイールの回転が停止した後に電磁クラッチを作動させて、ポンプ一体型膨張機とエンジンとの間の動力の伝達を遮断していた。
【0007】
従って、エンジンの停止の際、冷媒ポンプが停止し、作動流体の流動が停止しているので、第2熱交換器に残った作動流体が第2熱交換器の余熱で特に高温にさらされ、冷媒である作動流体が高温により熱分解したり、含有オイルが炭化したりするという問題点があった。
【0008】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、内燃機関の運転停止後に電力供給をすることなく、ランキンサイクルの作動流体で排ガス用の熱交換器の予熱を除去することで、作動流体が高温になって熱分解したり、含有オイルが炭化するといった不都合を防止することができる排熱回生装置の運転停止方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る排熱回生装置の運転停止方法は、内燃機関からの排気ガスが流れる排ガス流路と、
作動流体が循環するランキンサイクル回路とを備え、
前記排ガス流路には、第2熱交換器が設けられ、
前記ランキンサイクル回路には、前記作動流体と前記排気ガスとの間で熱交換する前記第2熱交換器、この熱交換器の下流であって冷媒ポンプ及び膨張機が同軸上に連結されたポンプ一体型膨張機、及びこのポンプ一体型膨張機の下流であって前記作動流体を凝縮させる凝縮器が設けられ、
前記膨張機と前記内燃機関との間には、動力の伝達を行う動力伝達機構が設けられ、
前記動力伝達機構には、前記動力の伝達を遮断する動力遮断手段が設けられ、
前記膨張機が前記第2熱交換器で生成された前記作動流体の過熱蒸気を等エントロピ的に膨張させて、前記内燃機関の動力として取り出すようになっている排熱回生装置の運転停止方法であって、
前記内燃機関の運転停止の際、前記ランキンサイクル回路内で前記作動流体が循環されている間に前記動力遮断手段を遮断し、前記ポンプ一体型膨張機を自立運転させるものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明による排熱回生装置の運転停止方法によれば、内燃機関の運転停止の際には、ランキンサイクル回路内で作動流体が循環されている間に動力遮断手段を遮断し、ポンプ一体型膨張機を自立運転させることで、冷媒ポンプへの電力供給をすることなく熱交換器へ作動流体を流し、作動流体で熱交換器を冷却することが可能となり、作動流体が高温になって熱分解したり、含有オイルが炭化するといった不都合を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1による排熱回生装置の運転停止方法がなされる排熱回生装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2による排熱回生装置の運転停止方法がなされる排熱回生装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明に係る排熱回生装置の運転停止方法の各実施の形態について、図面を参照して説明するが、各図において、同一符号は、同一または相当の構成を示す。
実施の形態1.
図1は実施の形態1による排熱回生装置の運転停止方法がなされる排熱回生装置を示す構成図である。
排熱回生装置は、例えば、自動車走行用駆動力を発生させる内燃機関であるエンジン1を冷却するために冷却水が循環する冷却水回路2と、作動流体(例えば、冷媒R134a)が充填されているランキンサイクル回路10と、エンジン1からの排ガスが流れる排ガス流路17とを備えている。
【0013】
冷却水回路2には、冷却水を循環させる冷却水ポンプ3及び第1熱交換器14が取付けられている。
ランキンサイクル回路10には、作動流体と冷却水回路2内の冷却水との間で熱交換する第1熱交換器14と、この第1熱交換器14の下流であって作動流体と排ガス流路17内の排ガスとの間で熱交換する第2熱交換器15と、この第2熱交換器15の下流であって冷媒ポンプ11及び膨張機12が同軸上に連結されたポンプ一体型膨張機13と、このポンプ一体型膨張機13の下流であってファン18からの空気または走行風で作動流体を凝縮して液体とする凝縮器16とが取付けられている。
膨張機12は、第1熱交換器14及び第2熱交換器15で生成された作動流体の過熱蒸気を等エントロピ的に膨張させてエンジン1の動力として取り出すようになっている。
【0014】
膨張機12の出力軸は、動力遮断手段である電磁クラッチ19に連結されている。この電磁クラッチ19は、エンジン1の出力軸と繋がる動力伝達機構であるプーリー機構20に連結されており、膨張機12の出力は、出力軸が電磁クラッチ19の作動によりプーリー機構20に連結されることでエンジン1の出力軸に戻される。
【0015】
次に、上記排熱回生装置の動作について述べる。
冷却水ポンプ3により冷却水回路2を循環する冷却水は、エンジン1を冷却しながら加熱されて温度が上昇する。
冷却水回路2の水温センサ4で検出された冷却水温度が低いときには、ランキンサイクルの熱源とならないので、電磁クラッチ19の作動により膨張機12の出力軸とプーリー機構20とは連結されてなく、ポンプ一体型膨張機13の冷媒ポンプ11は駆動せず、作動流体は、ランキンサイクル回路10内を循環しない。
【0016】
エンジン1の駆動が継続し、冷却水温度が設定温度(例えば90℃)以上になると、水温センサ4からの検出信号で電磁クラッチ19が作動し、エンジン1の出力軸と繋がるプーリー機構20が電磁クラッチ19を介してポンプ一体型膨張機13と連結される。この結果、エンジン1からの動力で冷媒ポンプ11が駆動し、ランキンサイクルの運転が開始し、作動流体は、ランキンサイクル回路10を循環する。
【0017】
冷媒ポンプ11から送り出された液体状態の作動流体は、第1熱交換器14で通常90℃〜100℃程度にまで加熱された冷却水回路2の冷却水と熱交換し、作動流体は、約90℃の高温高圧の蒸気となる。
約90℃の高温の蒸気となった作動流体は、引き続き第2熱交換器15で通常300〜400℃の排ガスと熱交換し、120〜130℃程度の過熱蒸気となる。
高温高圧の過熱蒸気は膨張機12に流入して、膨張機12で等エントロピ的に膨張し、そのエンタルピが動力に変換される。
膨張機12の動力は、膨張機12と連結された冷媒ポンプ11の駆動源となり、また電磁クラッチ19、プーリー機構20を介してエンジン1の出力軸に戻される。
【0018】
膨張後に膨張機12から吐き出された低圧ガス状態の作動流体(例えば約70℃の蒸気)は、引き続き凝縮器16へと流れる。作動流体は、ファン18や走行風により空冷される凝縮器16で冷却され、外気に放熱をしながら凝縮し液体(例えば約30℃)となる。液体となった作動流体は、冷媒ポンプ11に戻る。
作動流体は、このサイクルを繰り返す。
【0019】
次に、この実施の形態1の排熱回生装置の運転停止方法について説明する。
この実施の形態では、使用者がイグニッションキーをOFFすると同時に電磁クラッチ19を遮断する。
この場合、イグニッションキーをOFFすると同時にエンジン1の運転が完全に停止するのではなく、クランクシャフトの端部に取付けられたフライホイールは惰性で回転し、フライホイールが完全に停止までに時間がある。
従って、イグニッションキーをOFFすると同時に電磁クラッチ19を遮断したときには、エンジン1からの動力がエンジン1の出力軸、プーリー機構20を介してポンプ一体型膨張機13に伝達されており、電磁クラッチ19の遮断時点では、ランキンサイクル回路10内で作動流体が循環している。
【0020】
この状態で電磁クラッチ19が遮断されるので、膨張機12の負荷が開放され、膨張機12の回転数が急上昇する。膨張機12の回転数が上昇すると同軸上に連結された冷媒ポンプ11の回転数も同様に上昇し、作動流体の流量が急激に増加し、ランキンサイクルは自立運転を始める。
この自立運転中では、エンジン1の運転が停止しているために排ガス流路17にはエンジン1からの排ガスは流れないことと、第2熱交換器15は、高温(300〜400℃)の排ガスと作動流体(120〜130℃)の大きな温度差を利用して熱交換させるため、熱伝達特性が良好であり、元来小型で熱容量の小さい第2熱交換器15が利用されていることと相俟って、第2熱交換器15の温度は急激に低下することになる。
即ち、熱容量の小さい第2熱交換器15に残った熱量は、負荷が開放されて冷媒ポンプ11の回転数が増加し、増大した流量の作動流体に奪われ、第2熱交換器15の温度は急激に低下する。
【0021】
こうして、ランキンサイクルの熱源である第2熱交換器15の温度が急激に低下すると、膨張機12は、動力が低下し、回転数が低下する。膨張機12の回転数低下に伴い、膨張機12と同軸上で連結された冷媒ポンプ11の回転数も低下し、作動流体の循環流量も低下する。
このように、ランキンサイクルの運転は、第2熱交換器15の温度を低下させることで、自然と自立運転が終了する。
【0022】
以上説明したように、この実施の形態1による、排熱回生装置の運転停止方法によれば、エンジン1のイグニションスイッチをOFFすると同時に、電磁クラッチ19を遮断することで、ポンプ一体型膨張機13を自立運転させることができる。
この結果、冷媒ポンプ11へ電力供給をすることなく第2熱交換器15へ作動流体が流れ、作動流体により第2熱交換器15が冷却されるので、作動流体が高温になって熱分解したり、含有オイルが炭化するといった不都合を防止することができる。
【0023】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2による排熱回生装置の運転停止方法がなされる排熱回生装置を示す構成図である。
この実施の形態では、バイパス流路30は、一端部が冷媒ポンプ11と第1熱交換器12との間のランキンサイクル回路10の部位に接続され、他端部が膨張機12と凝縮器16との間のランキンサイクル回路10の部位に接続されている。このバイパス通路30には制御弁である逃がし弁31が取付けられている。
他の構成は、実施の形態1の排熱回生装置と同じである。
【0024】
この排熱回生装置では、実施の形態1と同様に、使用者がエンジン1のイグニションスイッチをOFFすると同時に、電磁クラッチ19を遮断することで、ポンプ一体型膨張機13を自立運転させることができ、実施の形態1の排熱回生装置の運転停止方法と同じ効果を得ることができる。
【0025】
また、電磁クラッチ19が遮断されてランキンサイクルが自立運転の開始時は、ランキンサイクル回路10を流れる作動流体の流量が最大であり、このときに膨張機12の回転数が許容回転数を超えるおそれがある。
そして、回転数が許容値を超えたときには、逃がし弁31が作動し、作動流体の一部は、ポンプ一体型膨張機13を迂回することで、膨張機12は、許容回転数内が確保されるので、破損が防止される。
なお、バイパス流路は、冷媒ポンプ11の入口部と出口部とに接続し、作動流体の一部が逃がし弁31の作動により冷媒ポンプ11を迂回するようにしてもよいし、また膨張機12の入口部と出口部とに接続し、作動流体の一部が逃がし弁31の作動により膨張機12を迂回するようにすることで、膨張機12の回転数を許容範囲内に確保するようにしてもよい。
【0026】
なお、上記各実施の形態では、エンジン1のイグニションスイッチをOFFすると同時に、電磁クラッチ19を遮断することで、ポンプ一体型膨張機13を自立運転させるようにしたが、要は、エンジン1の運転停止の際に、ランキンサイクル回路10内で作動流体が循環している間、即ちエンジン1のフライホイールが惰性で回転している間に電磁クラッチ19を遮断すればよく、電磁クラッチ19を遮断するタイミングは、エンジン1のイグニションスイッチをOFFすると同時でなくてもよい。
【0027】
また、内燃機関として自動車用エンジン1、動力遮断手段として電磁クラッチ19、動力伝達機構としてプーリー機構20、及び制御弁として逃がし弁31を用いてそれぞれ説明したが、勿論これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0028】
1 エンジン、2 冷却水回路、3 冷却水ポンプ、4 水温センサ、10 ランキンサイクル回路、11 冷媒ポンプ、12 膨張機、13 ポンプ一体型膨張機、14 第1熱交換器、15 第2熱交換器、16 凝縮器、17 排ガス流路、18 ファン、19 電磁クラッチ(動力遮断手段)、20 プーリー機構(動力伝達機構)、30 バイパス回路、31 逃がし弁(制御弁)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの排気ガスが流れる排ガス流路と、
作動流体が循環するランキンサイクル回路とを備え、
前記排ガス流路には、第2熱交換器が設けられ、
前記ランキンサイクル回路には、前記作動流体と前記排気ガスとの間で熱交換する前記第2熱交換器、この熱交換器の下流であって冷媒ポンプ及び膨張機が同軸上に連結されたポンプ一体型膨張機、及びこのポンプ一体型膨張機の下流であって前記作動流体を凝縮させる凝縮器が設けられ、
前記膨張機と前記内燃機関との間には、動力の伝達を行う動力伝達機構が設けられ、
前記動力伝達機構には、前記動力の伝達を遮断する動力遮断手段が設けられ、
前記膨張機が前記第2熱交換器で生成された前記作動流体の過熱蒸気を等エントロピ的に膨張させて、前記内燃機関の動力として取り出すようになっている排熱回生装置の運転停止方法であって、
前記内燃機関の運転停止の際、前記ランキンサイクル回路内で前記作動流体が循環されている間に前記動力遮断手段を遮断し、前記ポンプ一体型膨張機を自立運転させることを特徴とする排熱回生装置の運転停止方法。
【請求項2】
前記ランキンサイクル回路に前記ポンプ一体型膨張機を迂回して設けられたバイパス回路と、このバイパス回路に設けられバイパス回路を開閉する制御弁とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の排熱回生装置の運転停止方法。
【請求項3】
両端部がそれぞれ前記内燃機関に接続され冷却水が循環して内燃機関を冷却する冷却水回路と、
この冷却水回路に設けられ前記作動流体と前記冷却水との間で熱交換する第1熱交換器とを備え、
前記作動流体は、前記第1熱交換器及び前記第2熱交換器で受熱されることを特徴とする請求項1または2に記載の排熱回生装置の運転停止方法。
【請求項4】
前記内燃機関は、自動車用エンジンであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の排熱回生装置の運転停止方法。
【請求項5】
前記動力遮断手段は、前記自動車用エンジンのイグニッションスイッチをOFFすると同時に遮断されることを特徴とする請求項4に記載の排熱回生装置の運転停止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−117410(P2012−117410A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266250(P2010−266250)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】