説明

接合方法および接合体

【課題】2つの基材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合し得る接合方法、および、かかる接合方法により接合された接合体を提供すること。
【解決手段】本発明の接合方法は、第1の基材21と第2の基材22とを用意し、第1の基材21および第2の基材22の少なくとも一方に、エポキシ変性シリコーン材料を含有する液状材料35を供給することにより液状被膜30を形成する工程と、液状被膜30を乾燥および/または硬化して、第1の基材21および第2の基材22の少なくとも一方に、接合膜3を得る工程と、接合膜3にエネルギーを付与することにより、接合膜3の表面32付近に接着性を発現させる工程と、当該接着性が発現した接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接触させ、第1の基材21と第2の基材22とが接合膜3を介して接合された接合体1を得る工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法および接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基材)同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、一般的に、接合する部材の材質によらず、優れた接着性を示すものである。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
【0003】
例えば、インクジェットプリンタが備える液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)は、樹脂材料、金属材料およびシリコン系材料等の異種材料で構成された部品同士を、接着剤を用いて接着することにより組み立てられている。
このように接着剤を用いて部材同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して部材同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤を硬化(固化)させることにより、部材同士を接着する。
【0004】
ところが、このような接着剤を用いた接合では、以下のような問題がある。
・接着強度が低い
・寸法精度が低い
・硬化時間が長いため、接着に長時間を要する
また、多くの場合、接着強度を高めるためにプライマーを用いる必要があり、そのためのコストと手間が接着工程の高コスト化・複雑化を招いている。
【0005】
一方、接着剤を用いない接合方法として、固体接合による方法がある。
固体接合は、接着剤等の中間層が介在することなく、部材同士を直接接合する方法である(例えば、特許文献1参照)。
このような固体接合によれば、接着剤のような中間層を用いないので、寸法精度の高い接合体を得ることができる。
【0006】
しかしながら、固体接合には、以下のような問題がある。
・接合される部材の材質に制約がある
・接合プロセスにおいて高温(例えば、700〜800℃程度)での熱処理を伴う
・接合プロセスにおける雰囲気が減圧雰囲気に限られる
このような問題を受け、接合に供される部材の材質によらず、部材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−82404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、2つの基材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合し得る接合方法、および、かかる接合方法により接合された接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合方法は、接合膜を介して互いに接合すべき第1の基材と第2の基材とを用意し、前記第1の基材および前記第2の基材の少なくとも一方に、エポキシ変性シリコーン材料を含有する液状材料を供給することにより液状被膜を形成する工程と、
前記液状被膜を乾燥および/または硬化して、前記第1の基材および前記第2の基材の少なくとも一方に、接合膜を得る工程と、
前記接合膜にエネルギーを付与することにより、前記接合膜の表面付近に接着性を発現させる工程と、
当該接着性が発現した接合膜を介して前記第1の基材と前記第2の基材とを接触させ、前記第1の基材と前記第2の基材とが前記接合膜を介して接合された接合体を得る工程とを有することを特徴とする。
これにより、2つの基材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合することができる。
【0010】
本発明の接合方法では、前記エポキシ変性シリコーン材料は、シリコーン材料とエポキシ樹脂との付加反応により得られるものであることが好ましい。
本発明の接合方法では、前記シリコーン材料は、その主骨格がポリジメチルシロキサンで構成され、この主骨格が分枝状をなしていることが好ましい。
これにより、シリコーン材料の分枝鎖同士が互いに絡まり合うようにして接合膜が形成されることから、得られる接合膜は特に膜強度に優れたものとなる。
【0011】
本発明の接合方法では、前記シリコーン材料は、前記ポリジメチルシロキサンが有するメチル基の少なくとも1つがフェニル基で置換されていることが好ましい。
これにより、接合膜をより膜強度に優れたものとすることができる。
本発明の接合方法では、前記シリコーン材料は、シラノール基を複数個有することが好ましい。
これにより、シリコーン材料が有する水酸基とエポキシ樹脂が有するエポキシ基とを確実に結合させることができ、シリコーン材料とエポキシ樹脂とが付加反応することにより得られるエポキシ変性シリコーン材料を確実に合成することができる。
さらに、液状被膜を乾燥および/または硬化させて接合膜を得る際に、エポキシ変性シリコーン材料に残存しているシラノール基に含まれる水酸基同士が結合することとなり、得られる接合膜の膜強度が優れたものとなる。
【0012】
本発明の接合方法では、エポキシ樹脂は、その分子中にフェニレン基を有することが好ましい。
かかる構成のエポキシ樹脂を含有するエポキシ変性シリコーン材料を用いて接合膜を形成すると、形成される接合膜は、エポキシ樹脂中にフェニレン基が含まれることに起因して、特に優れた膜強度を発揮するものとなる。
【0013】
本発明の接合方法では、エポキシ樹脂は、その分子構造が直鎖型の構造をなすものであることが好ましい。
これにより、シリコーン材料に連結するエポキシ樹脂は、シリコーン材料から露出するような状態で存在することになる。そのため、エポキシ樹脂の分子構造が直鎖型のものであると、液状被膜から接合膜を得る際に、隣接するエポキシ変性シリコーン材料が備えるエポキシ樹脂同士が互いに接触する機会を増大させることができる。その結果、エポキシ変性シリコーン材料中において、エポキシ樹脂同士が絡まり合ったり、これらが備えるエポキシ基同士が開環重合して化学的に結合したりするため、得られる接合膜の膜強度を確実に向上させることができる。
【0014】
本発明の接合方法では、前記エネルギーの前記接合膜に対する付与は、前記接合膜にプラズマを接触させることにより行われることが好ましい。
これにより、接合膜を、極めて短時間(例えば、数秒程度)で活性化させることが可能であり、結果として、接合体を短時間で製造することができる。
本発明の接合方法では、前記プラズマの接触を、大気圧下で行うことが好ましい。
大気圧下で行われるプラズマの接触、すなわち、大気圧プラズマ処理によれば、接合膜の周囲が減圧状態とならないので、プラズマの作用により、例えば、接合膜を構成するエポキシ変性シリコーン材料が含んでいるポリジメチルシロキサン骨格が備えるメチル基を切断、除去して、接合膜の表面付近に接着性を発現させる際に、この切断が不要に進行するのを防止することができる。
【0015】
本発明の接合方法では、前記プラズマの接触は、互いに対向する電極間に電圧を印加した状態で、これらの間にガスを導入することにより、プラズマ化された前記ガスを前記接合膜に供給することによりなされることが好ましい。
これにより、容易かつ確実に、接合膜にプラズマを接触させ、接合膜の表面付近に接着性を確実に発現させることができる。
【0016】
本発明の接合方法では、前記電極間の距離は、0.5〜10mmであることが好ましい。
これにより、電極間に電界をより確実に発生させることができ、接合膜の表面付近に接着性を確実に発現させることができる。
本発明の接合方法では、前記電極間に印加する電圧は、1.0〜3.0kVp−pであることが好ましい。
これにより、電極間に電界をより確実に発生させることができ、接合膜の表面付近に接着性を確実に発現させることができる。
【0017】
本発明の接合方法では、前記プラズマは、ヘリウムガスを主成分とするガスをプラズマ化したものであることが好ましい。
これにより、接合膜の活性化の程度を制御し易くなる。
本発明の接合方法では、前記プラズマは、ヘリウムガスを主成分とするガスをプラズマ化したものであり、当該ガスの前記電極間への供給速度は、1〜20SLMであることが好ましい。
これにより、プラズマにより接合膜を活性化させる効果をさらに顕著に発揮させることができる。
【0018】
本発明の接合方法では、前記ガス中の前記ヘリウムガスの含有量は、85vol%以上であることが好ましい。
このような速度でプラズマを接合膜に接触させることにより、短時間であるにもかかわらず、接合膜を十分かつ確実に活性化させることができる。
本発明の接合体は、本発明の接合方法により、前記第1の基材と前記第2の基材とを、前記接合膜を介して接合してなることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い接合体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】大気圧プラズマ装置の構成を示す概略図である。
【図4】本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図である。
【図6】図5に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図である。
【図7】図5に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の接合方法および接合体を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<接合方法>
本発明の接合方法は、[1]接合膜を介して互いに接合すべき第1の基材21と第2の基材22とを用意する工程と、[2]第1の基材21および第2の基材22の少なくとも一方に、エポキシ変性シリコーン材料を含有する液状材料を供給することにより液状被膜30を形成する工程と、[3]液状被膜を乾燥および/または硬化して、第1の基材21および第2の基材22の少なくとも一方に、接合膜3を得る工程と、[4]接合膜3にエネルギーを付与することにより、接合膜3の表面付近に接着性を発現させる工程と、[5]接着性が発現した接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接触させ、第1の基材21と第2の基材22とが接合膜3を介して接合された接合体1を得る工程とを有する。
【0021】
以下、この本発明の接合方法の第1実施形態を、工程ごとに詳述する。
<<第1実施形態>>
図1および図2は、本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図1および図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0022】
[1]まず、図1(a)に示すように、第1の基材21と第2の基材22とを用意する。なお、図1(a)では、第2の基材22を省略している。
このような第1の基材21および第2の基材22の各構成材料は、それぞれ特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリブテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属、またはこれらの金属を含む合金、炭素鋼、ステンレス鋼、インジウム錫酸化物(ITO)、ガリウムヒ素のような金属系材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンのようなシリコン系材料、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス系材料、アルミナ、ジルコニア、MgAl、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス系材料、グラファイトのような炭素系材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0023】
また、第1の基材21および第2の基材22は、それぞれ、その表面に、Niめっきのようなめっき処理、クロメート処理のような不働態化処理、または窒化処理等を施したものであってもよい。
なお、第1の基材21の構成材料と第2の基材22の構成材料とは、それぞれ同じでも、異なっていてもよい。
【0024】
また、第1の基材21の熱膨張率と第2の基材22の熱膨張率は、ほぼ等しいのが好ましい。これらの熱膨張率がほぼ等しければ、第1の基材21と第2の基材22とを接合した際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られる接合体1において、剥離を確実に防止することができる。
なお、後に詳述するが、第1の基材21の熱膨張率と第2の基材22の熱膨張率が互いに異なる場合でも、後述する工程において、第1の基材21と第2の基材22とを接合する際の条件を最適化することにより、これらを高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0025】
また、2つの基材21、22は、互いに剛性が異なるのが好ましい。これにより、2つの基材21、22をより強固に接合することができる。
また、2つの基材21、22のうち、少なくとも一方の構成材料は、樹脂材料であるのが好ましい。樹脂材料は、その柔軟性により、2つの基材21、22を接合した際に、その接合界面に発生する応力(例えば、熱膨張に伴う応力等)を緩和することができる。このため、接合界面が破壊し難くなり、結果的に、2つの基材21、22が高い接合強度で接合された接合体1を得ることができる。
【0026】
なお、上記のような観点から、2つの基材21、22のうちの少なくとも一方は、可撓性を有しているのが好ましい。これにより、接合膜3を介した2つの基材21、22の接合強度のさらなる向上を図ることができる。さらに、2つの基材21、22の双方が可撓性を有している場合には、全体として可撓性を有し、機能性の高い接合体1が得られる。
また、各基材21、22の形状は、それぞれ、接合膜3を支持する面を有するような形状であればよく、例えば、板状(層状)、塊状(ブロック状)、棒状等とされる。
【0027】
なお、本実施形態では、図1、2に示すように、各基材21、22がそれぞれ板状をなしている。これにより、各基材21、22は撓み易くなり、2つの基材21、22を重ね合わせたときに、互いの形状に沿って十分に変形し得るものとなる。このため、2つの基材21、22を重ね合わせたときの密着性が高くなり、最終的に得られる接合体1における2つの基材21、22同士の接合強度が高くなる。
また、各基材21、22が撓むことによって、接合界面に生じる応力を、ある程度緩和する作用が期待できる。
この場合、各基材21、22の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜10mm程度であるのが好ましく、0.1〜3mm程度であるのがより好ましい。
【0028】
次に、必要に応じて、第1の基材21の接合面23に形成される接合膜3との密着性を高める表面処理を施す。これにより、接合面23を清浄化および活性化され、接合面23に対して接合膜3が化学的に作用し易くなる。その結果、後述する工程において、接合面23上に接合膜3を形成したとき、接合面23と接合膜3との接合強度を高めることができる。
【0029】
この表面処理としては、特に限定されないが、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。
なお、表面処理を施す第1の基材21が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
【0030】
また、表面処理として、特にプラズマ処理または紫外線照射処理を行うことにより、接合面23を、より清浄化および活性化することができる。その結果、接合面23と接合膜3との接合強度を特に高めることができる。
また、第1の基材21の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第1の基材21の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属材料、各種シリコン材料、各種ガラス材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0031】
このような材料で構成された第1の基材21は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、より多くの水酸基が結合(露出)している。したがって、このような酸化膜で覆われた第1の基材21を用いることにより、上記のような表面処理を施さなくても、第1の基材21の接合面23と接合膜3との接合強度を高めることができる。
なお、この場合、第1の基材21の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜3を形成する接合面23付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0032】
また、表面処理に代えて、第1の基材21の接合面23に、あらかじめ、中間層を形成しておいてもよい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層上に接合膜3を成膜することにより、最終的に、信頼性の高い接合体1を得ることができる。
【0033】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタンのような金属系材料、金属酸化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料、樹脂系接着剤、樹脂フィルム、樹脂コーティング材、各種ゴム材料、各種エラストマーのような樹脂系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの各材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、第1の基材21と接合膜3との間の接合強度を特に高めることができる。
【0034】
一方、第1の基材21と同様、第2の基材22の接合面24(後述する工程において、接合膜3と密着する面)にも、必要に応じて、あらかじめ接合膜3との密着性を高める表面処理を施してもよい。これにより、接合面24を清浄化および活性化する。その結果、後述する工程において、接合面24と接合膜3とを密着させ、これらを接合したとき、接合面24と接合膜3との接合強度を高めることができる。
【0035】
この表面処理としては、特に限定されないが、前述の第1の基材21の接合面23に対する表面処理と同様の処理を用いることができる。
また、第1の基材21の場合と同様に、第2の基材22の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3との密着性が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第2の基材22の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
すなわち、このような材料で構成された第2の基材22は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、水酸基が結合(露出)している。したがって、このような酸化膜で覆われた第2の基材22を用いることにより、上記のような表面処理を施さなくても、第2の基材22の接合面24と接合膜3との接合強度を高めることができる。
【0036】
なお、この場合、第2の基材22の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合面24付近が上記のような材料で構成されていればよい。
また、第2の基材22の接合面24に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、第2の基材22の接合面24と接合膜3との接合強度を十分に高くすることができる。
【0037】
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような各種官能基、各種ラジカル、開環分子または、2重結合、3重結合のような不飽和結合を有する脱離性中間体分子、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基や物質、または、これらの基が脱離することにより、終端化されていない原子が有する未結合手(ダングリングボンド)が挙げられる。
【0038】
このうち、脱離性中間体分子は、開環分子または不飽和結合を有する炭化水素分子であるのが好ましい。このような炭化水素分子は、開環分子および不飽和結合の顕著な反応性に基づき、接合膜3に対して強固に作用する。したがって、このような炭化水素分子を有する接合面24は、接合膜3に対して特に強固に接合可能なものとなる。
また、接合面24が有する官能基は、特に水酸基が好ましい。これにより、接合面24は、接合膜3に対して特に容易かつ強固に接合可能なものとなる。特に接合膜3の表面に水酸基が露出している場合には、水酸基同士間に生じる水素結合に基づいて、接合面24と接合膜3との間を短時間で強固に接合することができる。
【0039】
また、このような基や物質を有するように、接合面24に対して上述したような各種表面処理を適宜選択して行うことにより、接合膜3に対して強固に接合可能な第2の基材22が得られる。
このうち、第2の基材22の接合面24には、水酸基が存在しているのが好ましい。このような接合面24には、水酸基が露出した接合膜3との間に、水素結合に基づく大きな引力が生じる。これにより、最終的に、第1の基材21と第2の基材22とを特に強固に接合することができる。
【0040】
また、表面処理に代えて、第2の基材22の接合面24に、あらかじめ、表面層を形成しておいてもよい。
この表面層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、前記第1の基材21の場合と同様に、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような表面層を介して、第2の基材22と接合膜3とを接合することにより、最終的に、信頼性の高い接合体1を得ることができる。
かかる表面層の構成材料には、例えば、前記第1の基材21の接合面23に形成する中間層の構成材料と同様の材料を用いることができる。
なお、上記のような表面処理および表面層の形成は、必要に応じて行えばよく、特に高い接合強度を必要としない場合には、省略することができる。
【0041】
[2]次に、エポキシ変性シリコーン材料を含有する液状材料35を、第1の基材21の接合面23上に供給する。これにより、図1(b)に示すように、第1の基材21上に、液状被膜30が形成される。
ここで、接合面23に液状材料35を付与する方法としては、例えば、浸漬法、液滴吐出法(例えば、インクジェット法)、スピンコート法、ドクターブレード法、バーコート法、刷毛塗り等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
液状材料35の粘度(25℃)は、これを接合面23に付与する方法によっても若干異なるが、通常、0.5〜200mPa・s程度であるのが好ましく、3〜20mPa・s程度であるのがより好ましい。液状材料35の粘度をかかる範囲とすることにより、均一な膜厚の液状被膜30を形成することが容易となる。さらに、液状材料35の粘度がかかる範囲であれば、液状材料35は、接合膜3を形成するのに必要かつ十分な量のエポキシ変性シリコーン材料を含むものとなる。
【0043】
また、接合面23への液状材料35の付与に液滴吐出法を用いる場合には、液状材料35の粘度をかかる範囲内とすれば、具体的には、液滴の量(液状材料35の1滴の量)を、平均で、0.1〜40pL程度に、より現実的には1〜30pL程度に設定し得る。これにより、接合面23に供給された際の液滴の着弾径が小さなものとなることから、微細な形状を有する接合膜3であっても確実に形成することができるようになる。
【0044】
この液状材料35は、前述のようにエポキシ変性シリコーン材料を含有するものであるが、エポキシ変性シリコーン材料単独で、液状をなし目的とする粘度範囲である場合、エポキシ変性シリコーン材料をそのまま液状材料35として用いることができる。また、エポキシ変性シリコーン材料単独で、固形状または高粘度の液状をなす場合には、液状材料35として、エポキシ変性シリコーン材料の溶液または分散液を用いることができる。
【0045】
エポキシ変性シリコーン材料を溶解または分散するための溶媒または分散媒としては、例えば、アンモニア、水、過酸化水素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等を用いることができる。
【0046】
エポキシ変性シリコーン材料は、液状材料35中に含まれ、次工程[3]において、この液状材料35を乾燥および/または硬化させることにより形成される接合膜3の主材料となるものである。
なお、以下では、第1の基材21上に設けられた液状被膜30(液状材料35)を乾燥および/または硬化させること、すなわち、液状被膜30(液状材料35)中に含まれるエポキシ変性シリコーン材料を硬化させるとともに、液状被膜30(液状材料35)中に溶媒または分散媒が含まれる場合には、脱溶媒または脱分散媒により液状被膜30(液状材料35)を乾燥させることを、単に「液状被膜30(液状材料35)の乾燥・硬化」と言うこともある。
【0047】
ここで、「エポキシ変性シリコーン材料」とは、液状材料35中に含まれ、次工程[3]において、この液状材料35を乾燥・硬化させることにより形成される接合膜3の主材料となるものであり、シリコーン材料とエポキシ樹脂との付加反応により得られるものである。
また、「シリコーン材料」とは、ポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物であり、通常、主骨格(主鎖)部分が主としてオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、その主骨格が少なくとも1つのシラノール基を備える化合物のことを言い、主鎖の途中から枝分かれする分枝状の構造を有するものであってもよく、主鎖が環状をなす環状体であってもよく、主鎖の末端同士が連結しない直鎖状のものであってもよい。
例えば、ポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物において、オルガノシロキサン単位は、その末端部では下記一般式(1)で表わされる構造単位を有し、連結部では下記一般式(2)で表わされる構造単位を有し、また、分枝部では下記一般式(3)で表わされる構造単位を有している。
【0048】
【化1】

[式中、各Rは、それぞれ独立して、置換または無置換の炭化水素基を表し、各Zは、それぞれ独立して、水酸基または加水分解基を表し、Xはシロキサン残基を表し、aは1〜3の整数を表し、bは0または1〜2の整数を表し、cは0または1を表す。]
【0049】
なお、シロキサン残基とは、酸素原子を介して隣接する構造単位が有するケイ素原子に結合しており、シロキサン結合を形成している置換基のことを表す。具体的には、−O−(Si)構造(Siは隣接する構造単位が有するケイ素原子)となっている。
このようなシリコーン材料において、ポリオルガノシロキサン骨格は、分枝状をなすもの、すなわち上記一般式(1)で表わされる構造単位、上記一般式(2)で表わされる構造単位および上記一般式(3)で表わされる構造単位で構成されているのが好ましい。この分枝状をなすポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物(以下、「分枝状化合物」と略すこともある。)は、主骨格(主鎖)部分が主としてオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる化合物であり、主鎖の途中でオルガノシロキサン単位の繰り返しが分枝するとともに、主鎖の末端同士が連結しないものである。
【0050】
この分枝状化合物を用いることにより、次工程[3]において、液状材料35中に含まれるこの化合物の分枝鎖同士が互いに絡まり合うようにして接合膜3が形成されることから、得られる接合膜3は特に膜強度に優れたものとなる。
なお、上記一般式(1)〜上記一般式(3)中、基R(置換または無置換の炭化水素基)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等が挙げられる。さらに、これらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部が、I)フッ素原子、塩素原子、臭素原子のようなハロゲン原子、II)グリシドキシ基のようなエポキシ基III)メタクリル基のような(メタ)アクリロイル基、IV)カルボキシル基、スルフォニル基のようなアニオン性基等で置換された基等が挙げられる。
【0051】
基Zが加水分解基である場合、この加水分解基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基等のケトオキシム基、アセトキシ基等のアシルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基等のアルケニルオキシ基等が挙げられる。
また、分枝状化合物は、その分子量が、1×10〜1×10程度のものであるのが好ましく、1×10〜1×10程度のものであるのがより好ましい。分子量をかかる範囲内に設定することにより、液状材料35の粘度を上述したような範囲内に比較的容易に設定することができる。
【0052】
このような分枝状化合物は、その化合物中において、シラノール基(水酸基)を複数有するものであるのが好ましい。すなわち、上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位において、基Zを複数有しており、これらの基Zが水酸基であるのが好ましい。これにより、分枝状化合物が有する水酸基とエポキシ樹脂が有するエポキシ基とを確実に結合させることができ、分枝状化合物とエポキシ樹脂とが付加反応することにより得られるエポキシ変性シリコーン材料を確実に合成することができる。さらに、次工程[3]において、液状被膜30を乾燥・硬化させて接合膜3を得る際に、エポキシ変性シリコーン材料において、分枝状化合物中に残存しているシラノール基に含まれる水酸基同士が結合することとなり、得られる接合膜3の膜強度が優れたものとなる。また、第1の基材21として、前述したように、その接合面(表面)23から水酸基が露出しているものを用いた場合には、分枝状化合物に残存している水酸基と、第1の基材21が備える水酸基とが結合することから、エポキシ変性シリコーン材料を物理的な結合ばかりでなく、化学的な結合によっても第1の基材21に結合させることができる。その結果、接合膜3は、第1の基材21の接合面23に対して、強固に結合したものとなる。
【0053】
また、分枝状化合物は、その化合物中において、炭化水素基として、フェニル基を有しているものであるのが好ましい。すなわち、上記一般式(1)〜上記一般式(3)中における基Rは、フェニル基を有しているのが好ましい。これにより、分枝状化合物(シリコーン材料)が有するシラノール基の反応性がより向上するため、隣接する分枝状化合物が有する水酸基同士の結合がより円滑に行われるようになる。また、分枝状化合物中のメチル基の少なくとも1つをフェニル基に置換して、得られる接合膜3中に、フェニル基が含まれる構成とすることにより、接合膜3をより膜強度に優れたものとし得るという利点も得られる。
【0054】
さらに、フェニル基とは異なる炭化水素基は、メチル基であるのが好ましい。すなわち、上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位中のフェニル基以外の基Rは、メチル基であるのが好ましい。かかる構成の化合物は、比較的入手が容易で、かつ安価であるとともに、後工程[4]において、接合膜3にエネルギーを付与することにより、メチル基が容易に切断されて、その結果として、接合膜3に確実に接着性を発現させることができるため、エポキシ変性シリコーン材料が備える分枝状化合物(シリコーン材料)として好適に用いられる。
【0055】
以上のことを考慮すると、シリコーン材料としては、例えば、分枝部において下記化学式(4)で表わされる単位構造を有し、連結部において下記化学式(5)および下記化学式(6)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有し、末端部において下記化学式(7)および下記化学式(8)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有する分枝状をなすもの(分枝状化合物)が好適に用いられる。
【0056】
【化2】

[式中、各Rは、それぞれ独立して、メチル基またはフェニル基を表し、各Rの少なくとも1つはフェニル基を表し、Xはシロキサン残基を表す。]
【0057】
また、上述した分枝状化合物は、比較的柔軟性に富む材料である。そのため、後工程
[5]において、接合膜3を介して第1の基材21に第2の基材22を接合して接合体1を得る際に、例えば、第1の基材21と第2の基材22との各構成材料が互いに異なるものを用いる場合であったとしても、各基材21、22間に生じる熱膨張に伴う応力を確実に緩和することができる。これにより、最終的に得られる接合体1において、剥離が生じるのを確実に防止することができる。
【0058】
また、分枝状化合物は、耐薬品性に優れているため、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に際して効果的に用いることができる。具体的には、例えば、樹脂材料を浸食し易い有機系インクが用いられる工業用インクジェットプリンタの液滴吐出ヘッドを製造する際に、接合膜3を用いて接合すれば、その耐久性を確実に向上させることができる。また、分枝状化合物は、耐熱性にも優れていることから、高温下に曝されるような部材の接合に際しても効果的に用いることができる。
【0059】
また、本明細書中において、「エポキシ樹脂」とは、その末端にエポキシ基を備える化合物をいい、エポキシ基を備えるモノマー、オリゴマーまたはポリマーの何れであっても良く、1分子中に少なくとも2つのエポキシ基を備えるものが好適に用いられる。
このようなエポキシ樹脂を、シリコーン材料に付加反応させると、エポキシ樹脂が有するエポキシ基とシリコーン材料が有するシラノール基(水酸基)とが付加反応し、これにより、シリコーン材料にエポキシ樹脂が連結されたエポキシ変性シリコーン材料が得られる。
【0060】
このようなエポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、脂環式系エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ケイ素含有エポキシ樹脂、多官能性フェノール系エポキシ樹脂およびグリシジルアミン系エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
また、エポキシ樹脂は、その分子中に、フェニレン基を有しているのが好ましい。かかる構成のエポキシ樹脂を含有するエポキシ変性シリコーン材料を用いて接合膜3を形成すると、形成される接合膜3は、エポキシ樹脂中にフェニレン基が含まれることに起因して、特に優れた膜強度を発揮するものとなる。
さらに、エポキシ樹脂は、その分子構造が直鎖型の構造をなすものであるのが好ましい。ここで、エポキシ樹脂が連結するシリコーン材料は、通常、その主骨格であるポリオルガノシロキサン骨格が螺旋構造をなしている。そのため、このシリコーン材料に連結するエポキシ樹脂は、螺旋状をなすシリコーン材料から露出(突出)するような状態で存在することになる。そのため、エポキシ樹脂の分子構造が直鎖型のものであると、次工程[3]において、液状被膜30を乾燥・硬化させて接合膜3を得る際に、隣接するエポキシ変性シリコーン材料が備えるエポキシ樹脂同士が互いに接触する機会を増大させることができる。その結果、エポキシ変性シリコーン材料中において、エポキシ樹脂同士が絡まり合ったり、これらが備えるエポキシ基同士が開環重合して化学的に結合したりするため、得られる接合膜3の膜強度を確実に向上させることができる。
【0062】
また、第1の基材21として、前述したように、その接合面(表面)23から水酸基が露出しているものを用いた場合には、エポキシ変性シリコーン材料が備えるエポキシ樹脂が直鎖型のものであると、エポキシ樹脂に残存しているエポキシ基と、第1の基材21が備える水酸基との間での付加反応の反応率が向上することから、エポキシ変性シリコーン材料を物理的な結合ばかりでなく、化学的な結合によっても第1の基材21により確実に結合させることができる。その結果、接合膜3は、第1の基材21の接合面23に対して、より強固に結合されたものとなる。
以上のことを考慮すると、エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく用いられ、具体的には、下記一般式(9)で表わされるビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0063】
【化3】

[式中、nは、0または1以上の整数を表す。]
【0064】
なお、ビスフェノール型エポキシ樹脂は、耐薬品性に優れているため、エポキシ樹脂としてビスフェノール型エポキシ樹脂を備える接合膜3は、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に効果的に用いられ、前述した工業用インクジェットプリンタの液滴吐出ヘッドの各部材の接合に好適に適用される。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂は、耐熱性にも優れていることから、高温下に曝されるような部材の接合に際しても効果的に用いられる。
【0065】
なお、液状材料35中には、エポキシ変性シリコーン材料の他に、添加剤が含まれていても良い。このような添加剤としては、例えば、各種アミン化合物や、各種酸化合物が挙げられる。かかる添加剤が含まれていると、エポキシ樹脂が備えるエポキシ基に対して、この添加剤が結合することとなり、この添加剤中に2以上のアミノ基やカルボキシル基が含まれていると、添加剤を介してエポキシ基同士を結合できるようになる。そのため、上述したエポキシ基同士の結合がより生じ易くなるため、得られる接合膜3の膜強度をより確実に向上させることができる。
【0066】
これらの中でも、添加剤としては、カルボキシル基を含む酸化合物であるのが好ましい。これにより、次工程[3]において、液状被膜30を乾燥・硬化させて得られる接合膜3中に、ケトン基が含まれることとなる。そのため、第1の基材21として、前述したように、その接合面(表面)23から水酸基が露出しているものを用いた場合、接合膜3が備えるケトン基と、第1の基材21が備える水酸基との間で水素結合が生じることから、かかる結合によって、接合膜3は、第1の基材21の接合面23に対して、より強固に接合されたものとなる。
【0067】
[3]次に、第1の基材21上に供給された液状材料35、すなわち、液状被膜30を乾燥および/または硬化させる。すなわち、液状材料35中に溶媒または分散媒が含まれる場合には、液状被膜30を乾燥させるとともに、液状被膜30中に含まれるポリエステル変性シリコーン材料を硬化させる。これにより、図1(c)に示すように、第1の基材21上に接合膜3が得られる。
【0068】
液状被膜30を乾燥・硬化させる方法としては、特に限定されないが、液状被膜30を加熱する方法が好ましく用いられる。かかる方法によれば、液状被膜30を加熱するという単純な方法で、液状被膜30の乾燥・硬化を容易かつ確実に行うことができる。
すなわち、液状被膜30を加熱するという単純な方法で、液状被膜30中に溶媒が含まれる場合には、この液状被膜30中から脱溶媒することにより液状被膜30を乾燥させることができるとともに、エポキシ変性シリコーン材料中に含まれるシリコーン材料に由来する水酸基や、エポキシ樹脂に由来するエポキシ基の間で、脱水縮合反応および付加反応が生じ、これにより乾燥した液状被膜30を硬化させることができる。また、液状被膜30に溶媒が含まれない場合には、エポキシ変性シリコーン材料中に含まれるシリコーン材料に由来する水酸基や、エポキシ樹脂に由来するエポキシ基の間で、脱水縮合反応および付加反応が生じ、これにより液状被膜30を乾燥・硬化させることができる。
【0069】
以上のようにして、液状被膜30を乾燥させるとともに硬化させて接合膜3を形成すると、その膜中において、シリコーン材料に由来するシラノール基(水酸基)同士が脱水縮合反応することにより得られる化学結合、前記シラノール基とエポキシ樹脂に由来するエポキシ基とが付加反応することにより得られる化学結合、および、前記エポキシ基同士が開環重合することにより得られる化学結合が形成されるため、接合膜3は、優れた膜強度を有するものとなる。
【0070】
さらに、接合膜3と第1の基材21との界面において、エポキシ変性シリコーン材料中に含まれるシリコーン材料に由来するシラノール基と第1の基材21の表面から露出する水酸基との間で脱水縮合反応による化学的な結合が生じるとともに、エポキシ樹脂に由来するエポキシ基と第1の基材21の表面から露出する水酸基との間で付加反応による化学的な結合が生じることから、形成される接合膜3は、第1の基材21に対して優れた密着性を有するものとなる。
【0071】
液状被膜30を加熱する際の温度は、25℃以上であるのが好ましく、150〜250℃程度であるのがより好ましい。
また、加熱する時間は、0.5〜48時間程度であるのが好ましく、15〜30時間程度であるのがより好ましい。
なお、液状被膜30(液状材料35)中に触媒が含まれている場合には、液状被膜30を加熱する温度の低温度化および加熱する時間の短縮化を図ることができる。
【0072】
かかる条件で液状被膜30を乾燥・硬化させることにより、次工程[4]において、エネルギーを付与することにより接着性が好適に発現する接合膜3を確実に形成することができる。また、接合膜3中および接合膜3と第1の基材21との間において、上述したような化学的な結合が形成されるため、形成される接合膜3を膜強度に優れ、かつ第1の基材21に対して強固に結合したものとすることができる。
【0073】
さらに、加熱する際の雰囲気の圧力は、大気圧下であってもよいが、減圧下であるのが好ましい。具体的には、減圧の程度は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。これにより、接合膜3の膜密度が高まり、すなわち、接合膜3が緻密化して、接合膜3をより優れた膜強度を有するものとすることができる。
【0074】
以上のように、接合膜3を形成する際の条件を適宜設定することにより、形成される接合膜3の膜強度等を所望のものとすることができる。
接合膜3の平均厚さは、10〜10000nm程度であるのが好ましく、3000〜6000nm程度であるのがより好ましい。供給する液状材料35の量を適宜設定して、形成される接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、第1の基材21と第2の基材22とを接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、より強固に接合することができる。
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、接合膜3を介した第1の基材21と第2の基材22との接合に十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0075】
さらに、接合膜3の平均厚さをかかる範囲とすることにより、接合膜3がある程度弾性に富むものとなることから、後工程[5]において、第1の基材21と第2の基材22とを接合する際に、接合膜3と接触させる第2の基材22の接合面24にパーティクル等が付着していても、このパーティクルを接合膜3で取り囲むようにして接合膜3と接合面24とが接合することとなる。そのため、このパーティクルが存在することによって、接合膜3と接合面24との界面における接合強度が低下したり、この界面において剥離が生じたりするのを的確に抑制または防止することができる。
また、本発明では、液状材料35を供給して接合膜3を形成する構成となっていることから、たとえ第1の基材21の接合面23に凹凸が存在している場合であっても、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状を吸収するようにして接合膜3を形成ことができる。その結果、接合膜3の表面32がほぼ平坦面を構成することとなる。
【0076】
[4]次に、接合面23に形成された接合膜3の表面32に対してエネルギーを付与する。
接合膜3にエネルギーを付与すると、この接合膜3では、表面32付近の分子結合(例えば、Si−CH結合や、Si−Phe)の一部が切断し、表面32が活性化されることに起因して、表面32付近に第2の基材22に対する接着性が発現する。
【0077】
このような状態の第1の基材21は、第2の基材22と、化学的結合に基づいて強固に接合可能なものとなる。
ここで、本明細書中において、表面32が「活性化された」状態とは、上述のように接合膜3の表面32の分子結合の一部、具体的には、例えば、ポリジメチルシロキサン骨格が備えるメチル基が切断されて、接合膜3中に終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態の他、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、さらに、これらの状態が混在した状態を含めて、接合膜3が「活性化された」状態と言うこととする。
【0078】
接合膜3に付与するエネルギーは、いかなる方法を用いて付与するものであってもよいが、例えば、接合膜3にエネルギー線を照射する方法、接合膜3を加熱する方法、接合膜3に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、接合膜3にプラズマを接触させる(プラズマエネルギーを付与する)方法、接合膜3にオゾンガスを接触させる(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。これにより、接合膜3の表面を効率よく活性化させることができる。
【0079】
これらの中でも、接合膜3に対するエネルギーの付与は、図1(d)に示すように、特に、接合膜3にプラズマを接触させる方法を用いるのが好ましい。
ここで、接合膜3にエネルギーを付与する方法として、接合膜3にプラズマを接触させる方法が好ましく用いられる理由を説明するのに先立って、エネルギー線として紫外線を選択し、接合膜3に紫外線を照射する場合における問題点について説明する。
【0080】
A:接合膜3の表面32の活性化に長時間(例えば、1分〜数十分)を要する。また、紫外線照射を短時間にした場合、第1の基材21と第2の基材22とを接合する工程において、その接合に長時間(数十分以上)を要する。すなわち、接合体1を得るのに長時間を要する。
B:また、紫外線を用いた場合、この紫外線は、接合膜3を厚さ方向に透過し易い。このため、基材(本実施形態では、第1の基材21)の構成材料(例えば、樹脂材料)等によっては、基材の接合膜3との界面(接触面)において劣化が生じ、接合膜3が基材から剥離し易くなる。
【0081】
さらに、紫外線は、接合膜3の厚さ方向に透過する際に、接合膜3全体に作用し、その全体において、例えば、ポリジメチルシロキサン骨格が備えるメチル基が切断、除去される。すなわち、接合膜3中における有機成分の量が極端に低下し、その無機化が進行する。このため、有機成分の存在に起因する接合膜3の柔軟性が全体として低下し、得られる接合体1では、接合膜3の層内剥離が生じ易くなる。
【0082】
C:さらに、接合された接合体1を、第1の基材21を第2の基材22から剥離して、各基材21、22をそれぞれ分別してリサイクルや再利用に用いる場合、この操作は、接合体1に対して、剥離用エネルギーを付与することにより各基材21、22同士を剥離し得る。このとき、例えば、接合膜3中に残存するメチル基(有機成分)がポリジメチルシロキサン骨格から切断、除去され、切断された有機成分がガスとなる。このガス(ガス状の有機成分)は、接合膜3にへき乖を生じさせ、接合膜3が分割される。
【0083】
しかしながら、紫外線を照射した場合、前述のように、接合膜3全体の無機化が進行するため、剥離用エネルギーを付与した場合でも、ガスになる有機成分が極めて少なく、接合膜3にへき乖が生じ難いという問題がある。
これに対して、接合膜3の表面32をプラズマに曝した場合では、接合膜3の表面32付近において、選択的に、この接合膜3を構成する材料の分子結合の一部、例えば、ポリジメチルシロキサン骨格が備えるメチル基が切断される。
【0084】
なお、このプラズマによる分子結合の切断は、プラズマの荷電に基づく化学的な作用のみならず、プラズマのペニング効果に基づく物理的な作用によって引き起こされるため、極めて短時間で生じる。したがって、接合膜3を、極めて短時間(例えば、数秒程度)で活性化させることが可能であり、結果として、接合体1を短時間で製造することができる。
【0085】
また、プラズマは、接合膜3の表面32に選択的に作用し、その内部にまで影響を及ぼし難い。このため、分子結合の切断は、接合膜3の表面32付近で選択的に生じる。すなわち、接合膜3は、その表面32付近で選択的に活性化される。しかがって、紫外線を用いて接合膜3を活性化させる場合の不都合(前述したようなBおよびCの不都合)が生じ難い。
【0086】
このように、接合膜3の活性化にプラズマを用いることにより、接合体1において、接合膜3の層内剥離が生じ難く、第1の基材21を第2の基材22から剥離する場合には、この剥離操作を確実に行うことができる。
また、紫外線照射により接合膜3を活性化させる場合、照射する紫外線の強度に依存する接合膜3の活性化の程度の変化が極めて大きい。このため、第1の基材21と第2の基材22との接合に適した程度に接合膜3を活性化させるのには、紫外線照射の厳密な条件管理が必要である。また、厳密な管理をしない場合、得られる接合体1間における、第1の基材21と第2の基材22との接合強度のバラつきが生じる。
【0087】
これに対して、プラズマにより接合膜3を活性化させる場合、接触させるプラズマの濃度に依存する接合膜3の活性化の程度の変化は穏やかである。したがって、第1の基材21と第2の基材22との接合に適した程度に接合膜3を活性化させるのに、プラズマを発生させる条件を厳密に管理する必要がない。換言すれば、接合膜3の活性化にプラズマを用いる場合、接合体1の製造条件の許容範囲が広い。また、厳密な管理をしなくとも、得られる接合体1間において、第1の基材21と第2の基材22との接合強度のバラつきが生じ難い。
【0088】
さらに、紫外線照射により接合膜3を活性化させる場合、接合膜3の活性化すなわち接合膜3中の有機物の脱離に伴って、接合膜3自体が収縮(特に、膜厚の低下)するという問題がある。接合膜3が収縮した場合、第1の基材21と第2の基材22とを高い接合強度で接合することが困難となる。
これに対して、プラズマにより接合膜3を活性化させる場合、前述したように、接合膜3の表面付近が選択的に活性化されるため、接合膜3の収縮はないか極めて少ない。したがって、接合膜3を比較的薄く形成した場合であっても、第1の基材21と第2の基材22とを高い接合強度で接合することができる。また、この場合、高い寸法精度の接合体1を得ることができるとともに、接合体1の薄型化を図ることも可能である。
【0089】
以上のように、プラズマにより接合膜3を活性化させる場合には、紫外線により接合膜3を活性化させる場合に比べて、多くのメリットがある。
接合膜3に対するプラズマの接触は、減圧下で行うようにしてもよいが、大気圧下において行うのが好ましい。すなわち、接合膜3を大気圧プラズマで処理するのが好ましい。大気圧プラズマ処理によれば、接合膜3の周囲が減圧状態とならないので、プラズマの作用により、例えば、エポキシ変性シリコーン材料のポリジメチルシロキサン骨格が備えるメチル基を切断、除去する際(接合膜3の活性化の際)に、この切断が不要に進行するのを防止することができる。
【0090】
かかる大気圧下におけるプラズマ処理は、例えば、図3に示す大気圧プラズマ処理装置を用いて行うことができる。
図3は、大気圧プラズマ装置の構成を示す概略図である。
図3に示す大気圧プラズマ装置1000は、接合膜3が形成された第1の基材21(以下、単に「被処理基板W」と言う。)を搬送する搬送装置1002と、搬送装置1002の上方に設置されたヘッド1010とを備えている。
この大気圧プラズマ装置1000では、ヘッド1010が備える印加電極1015と対向電極1019との間に、プラズマが発生するプラズマ発生領域pが形成される。
【0091】
以下、各部の構成について説明する。
搬送装置1002は、被処理基板Wを積載可能な移動ステージ1020を有している。この移動ステージ1020は、搬送装置1002が有する移動手段(図示せず)の作動により、x軸方向に移動することができる。
なお、移動ステージ1020は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属材料で構成されている。
【0092】
ヘッド1010は、ヘッド本体1101と、印加電極1015と、対向電極1019とを有している。
ヘッド1010には、移動ステージ1020(搬送装置1002)の上面とヘッド1010の下面1103との間隙1102に、プラズマ化された処理ガスGを供給するガス供給流路1018が設けられている。
【0093】
ガス供給流路1018は、ヘッド1010の下面1103に形成された開口部1181で開口している。また、図3に示すように、下面1103の左側には、段差が形成されている。これにより、ヘッド本体1101の左側部分と移動ステージ1020との間隙1104が、間隙1102よりも小さく(狭く)なっている。このため、プラズマ化された処理ガスGが間隙1104に入り込むのを抑制または防止されて、x軸正方向に優先的に流れるようになっている。
【0094】
なお、ヘッド本体1101は、例えば、アルミナ、石英等の誘電体材料で構成されている。
ヘッド本体1101には、ガス供給流路1018を挟むように、印加電極1015と対向電極1019とが対抗して設置され、これにより一対の平行平板型電極が構成されている。これらのうち、印加電極1015は高周波電源1017に電気的に接続され、対向電極1019は接地されている。
【0095】
これら印加電極1015および対向電極1019は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属材料で構成されている。
このような大気圧プラズマ装置1000を用いて、被処理基板Wをプラズマ処理する場合、まず、印加電極1015と対向電極1019との間に電圧を印加して、電界Eを発生させる。この状態で、ガス供給流路1018に、処理ガスGを流入させる。このとき、ガス供給流路1018に流入した処理ガスGは、電界Eの作用により放電してプラズマ化される。このプラズマ化された処理ガスGは、下面1103側の開口部1181から、間隙1102内に供給される。これにより、プラズマ化された処理ガスGが被処理基板Wに設けられた接合膜3の表面32に接触して、プラズマ処理が施される。
【0096】
かかる大気圧プラズマ装置1000を用いることにより、容易かつ確実に、接合膜3にプラズマを接触させ、接合膜3を活性化させることができる。
ここで、印加電極1015と移動ステージ1020(被処理基板W)と間の距離、すなわち、間隙1102の高さ(図3中、h1で示す長さ)は、高周波電源1017の出力や、被処理基板Wに施すプラズマ処理の種類等を考慮して適宜決定されるが、0.5〜10mm程度であるのが好ましく、0.5〜2mm程度であるのがより好ましい。これにより、接合膜3にプラズマを接触させて、接合膜3をより確実に活性化させることができる。
【0097】
また、印加電極1015と対向電極1019との間に印加する電圧は、1.0〜3.0kVp−p程度であるのが好ましく、1.0〜1.5kVp−p程度であるのがより好ましい。これにより、印加電極1015と移動ステージ1020と間に電界Eをより確実に発生させることができ、ガス供給流路1018に供給された処理ガスGを確実にプラズマ化させることができる。
【0098】
高周波電源1017の周波数(印加する電圧の周波数)は、特に限定されないが、10〜50MHz程度であるのが好ましく、10〜40MHz程度であるのがより好ましい。
処理ガスGの種類としては、特に限定されないが、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガスのような希ガス、酸素ガス等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、処理ガスGには、希ガスを主成分とするガスを用いるのが好ましく、特にヘリウムガスを主成分とするガスを用いるのが好ましい。
【0099】
すなわち、処理に用いるプラズマは、ヘリウムガスを主成分とするガスをプラズマ化したものであるのが好ましい。ヘリウムガスを主成分とするガス(処理ガスG)は、プラズマ化の際にオゾンを発生させ難く、このため、接合膜3の表面32のオゾンによる変質(酸化)を防止することができる。その結果、接合膜3の活性化の程度が低下するのを抑制すること、すなわち、接合膜3を確実に活性化させることができる。さらに、ヘリウムガスのプラズマは、前述したペニング効果が極めて高く、接合膜3の活性化を短時間でかつ確実に行うことができる観点からも好ましい。
【0100】
この場合、ヘリウムガスを主成分とするガスのガス供給流路1018への供給速度は、1〜20SLM程度であるのが好ましく、5〜15SLM程度であるのがより好ましい。これにより、接合膜3の活性化の程度を制御し易くなる。
また、このガス(処理ガスG)中のヘリウムガスの含有量は、85vol%以上が好ましく、90vol%以上(100%も含む)がより好ましい。これにより、前述した効果をさらに顕著に発揮させることができる。
また、移動ステージ1020の移動速度は、特に限定されないが、1〜20mm/秒程度であるのが好ましく、3〜6mm/秒程度であるのがより好ましい。このような速度でプラズマを接合膜3に接触させることにより、短時間であるにもかかわらず、接合膜3を十分かつ確実に活性化させることができる。
【0101】
[5]次に、接合膜3と第2の基材22とが密着するように、第1の基材21と第2の基材22とを重ね合わせる(図2(e)参照)。これにより、前記工程[4]において、接合膜3の表面32に第2の基材22に対する接着性が発現していることから、接合膜3と第2の基材22の接合面24とが化学的に結合する。その結果、第1の基材21と第2の基材22とが接合膜3を介して接合され、図2(f)に示すような接合体1が得られる。
【0102】
このような接合方法によれば、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された第1の基材21および第2の基材22をも、接合に供することができる。
また、接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接合しているため、各基材21、22の構成材料に制約がないという利点もある。
【0103】
以上のことから、本発明によれば、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
また、第1の基材21の熱膨張率と第2の基材22の熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
【0104】
具体的には、第1の基材21と第2の基材22との熱膨張率の差にもよるが、第1の基材21および第2の基材22の温度が25〜50℃程度である状態下で、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせるのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で貼り合わせるのがより好ましい。このような温度範囲であれば、第1の基材21と第2の基材22との熱膨張率の差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、接合体1における反りや剥離等の発生を確実に抑制または防止することができる。
【0105】
また、この場合、具体的な第1の基材21と第2の基材22との間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。
ここで、本工程において、第1の基材21と第2の基材22とを接合するメカニズム、すなわち、接合膜3の表面32と第2の基材22接合面24とが接合するメカニズムについて説明する。
【0106】
例えば、第2の基材22の接合面24に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程[5]において、第1の基材21に形成された接合膜3と、第2の基材22の接合面24とが接触するように、これらを重ね合わせたとき、接合膜3の表面32に存在する水酸基と、第2の基材22の接合面24に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、第1の基材21と第2の基材22とが接合されると推察される。
【0107】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、第1の基材21と第2の基材22との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、第1の基材21と第2の基材22とがより強固に接合されると推察される。
また、第1の基材21の接合膜3の表面や内部、および、第2の基材22の接合面24や内部に、それぞれ終端化されていない結合手すなわち未結合手(ダングリングボンド)が存在している場合、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせた時、これらの未結合手同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成されることとなる。これにより、接合膜3と第2の基材22とが特に強固に接合される。
【0108】
なお、前記工程[4]で活性化された接合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[4]の終了後、できるだけ早く本工程[5]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[4]の終了後、60分以内に本工程[5]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
【0109】
換言すれば、活性化させる前の接合膜3は、エポキシ変性シリコーン材料を乾燥・硬化させて得られた接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜3は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜3を備えた第1の基材21を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[4]に記載したエネルギーの付与を行うようにすれば、接合体1の製造効率の観点から有効である。
以上のようにして、図2(f)に示す接合体(本発明の接合体)1を得ることができる。
【0110】
このようにして得られた接合体1は、第1の基材21と第2の基材22との間の厚さ方向および面方向の双方に対する接合強度を発揮するものとなる。
なお、第1の基材21と第2の基材22との間の厚さ方向の接合強度は、5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような厚さ方向に対する接合強度を有する接合体1は、その引っ張りに対する接合膜3の剥離を十分に防止し得るものとなる。また、本発明の接合方法によれば、第1の基材21と第2の基材22とが上記のような大きな接合強度で接合された接合体1を効率よく作製することができる。
なお、接合体1を得る際、または、接合体1を得た後に、この接合体1に対して、必要に応じ、以下の2つの工程([6A]および[6B])のうちの少なくとも1つの工程(接合体1の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、接合体1の接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0111】
[6A] 図2(g)に示すように、得られた接合体1を、第1の基材21と第2の基材22とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、第1の基材21の表面および第2の基材22の表面に、それぞれ接合膜3の表面がより近接し、接合体1における接合強度をより高めることができる。
また、接合体1を加圧することにより、接合体1中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、接合体1における接合強度をさらに高めることができる。
【0112】
なお、この圧力は、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、5〜60MPa程度であるのが好ましく、20〜50MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体1の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料によっては、各基材21、22に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体1を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0113】
[6B] 図2(g)に示すように、得られた接合体1を加熱する。
これにより、接合体1における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体1を加熱する際の温度は、室温より高く、接合体1の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体1が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0114】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、前記工程[6A]および[6B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図2(g)に示すように、接合体1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、接合体1の接合強度を特に高めることができる。
以上のような工程を行うことにより、接合体1における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0115】
<<第2実施形態>>
次に、本発明の接合方法の第2実施形態について説明する。
図4は、本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図4中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、接合方法の第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかる接合方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0116】
本実施形態にかかる接合方法は、第1の基材21の接合面(表面)23に接合膜3が形成されている他に、さらに第2の基材22の接合面(表面)24にも接合膜3が形成されている。そして、それぞれの基材21、22が備える接合膜3の表面32付近に接着性を発現させ、これら接合膜3同士を接触させることにより、第1の基材21と第2の基材22とを接合させて、接合体1を得た以外は前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態の接合方法は、第1の基材21上および第2の基材22上の双方に接合膜3を形成して、これら接合膜3同士を一体化させることにより、第1の基材21と第2の基材22とを接合する接合方法である。
【0117】
[1’]まず、前記工程[1]と同様の第1の基材21と第2の基材22とを用意する。
[2’]次に、前記工程[2]および前記工程[3]で説明したのと同様にして、第1の基材21の接合面23に接合膜3を形成するとともに、第2の基材22の接合面24にも接合膜3を形成する。
【0118】
[3’]次に、前記工程[4]で説明したのと同様にして、第1の基材21に形成された接合膜3と、第2の基材22に形成された接合膜3の双方にエネルギーを付与することにより、各接合膜3の表面32付近に接着性を発現させる。
[4’]次に、図4(a)に示すように、各基材21、22が備える接着性が発現した接合膜3同士を、それぞれが密着するように、各基材21、22同士を貼り合わせる。これにより、双方の基材21、22に形成された接合膜3により、基材21、22同士が接合され、図4(b)に示すような接合体1が得られる。
【0119】
以上のようにして接合体1を得ることができる。
なお、接合体1を得た後、この接合体1に対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[6A]および[6B]のうちの少なくとも1つの工程を行うようにしてもよい。
例えば、図4(c)に示すように、接合体1を加圧しつつ、加熱することにより、接合体1の各基材21、22同士がより近接する。これにより、各接合膜3の界面における水酸基の脱水縮合や未結合手同士の再結合が促進される。その結果、接合膜3の一体化がより進行し、最終的には、ほぼ完全に一体化される。
【0120】
なお、前記第1および第2実施形態では、接合膜3を第1の基材21および第2の基材22の一方または双方の全面に形成する場合について説明したが、本発明では、接合膜3は、第1の基材21および第2の基材22の一方または双方の表面の一部の領域に選択的に形成するようにしてもよい。
この場合、接合膜3を形成する領域の大きさを適宜設定することのみで、第1の基材21と第2の基材22とが接合される領域を簡単に選択することができる。これにより、例えば、第1の基材21と第2の基材22とが接合する接合膜3の面積や形状を制御して、接合体1の接合強度を容易に調整することができる。その結果、例えば、接合膜3を容易に剥離可能な接合体1が得られる。
【0121】
すなわち、接合体1の接合強度を調整可能であると同時に、接合体1を分離する際の強度(割裂強度)を調整可能である。
かかる観点から、容易に分離可能な接合体1を作製する場合には、接合体1の接合強度は、人の手で容易に分離可能な程度の大きさであるのが好ましい。これにより、接合体1を分離する際、装置等を用いることなく、簡単に行うことができる。
【0122】
また、第1の基材21と第2の基材22とが接合する接合膜3の面積や形状を適宜設定することにより、接合膜3に生じる応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、第1の基材21と第2の基材22との間で熱膨張率差が大きい場合でも、各基材21、22を確実に接合することができる。
さらに、この場合、接合膜3を形成しない領域(非膜形成領域)42では、第1の基材21と第2の基材22との間に、接合膜3の厚さに相当する距離(高さ)の空間が形成される。この空間を活かすため、接合膜3を形成する領域(膜形成領域)の形状を適宜調整することにより、第1の基材21と第2の基材22との間に、閉空間や流路を形成したりすることができる。
【0123】
また、接合膜3にプラズマを接触させるのに先立って、接合膜3を構成するエポキシ変性シリコーン材料同士を架橋する架橋処理を、接合膜3に対して行うようにしてもよい。この場合、接合膜3の耐薬品性(耐溶剤性)を向上させることができる。
かかる接合膜3は、有機溶剤を含む組成物を収納する製品を構成する部材同士を接合する場合に好適に使用することができる。このような製品としては、以下に説明するようなインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)等が挙げられる。
また、架橋処理には、例えば、加熱処理、触媒導入処理等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0124】
<液滴吐出ヘッド>
次に、本発明の接合体をインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の実施形態について説明する。
図5は、本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図、図6は、図5に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図、図7は、図5に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、図5は、通常使用される状態とは、上下逆に示されている。
【0125】
図5に示すインクジェット式記録ヘッド10は、図7に示すようなインクジェットプリンタ9に搭載されている。
図7に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
【0126】
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
【0127】
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
【0128】
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔111を備えるインクジェット式記録ヘッド10(以下、単に「ヘッド10」と言う。)と、ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド10およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
【0129】
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸944と、キャリッジガイド軸944と平行に延在するタイミングベルト943とを有している。
【0130】
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸944に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト943の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト943を正逆走行させると、キャリッジガイド軸944に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド10から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0131】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0132】
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、圧電素子(振動源)14を駆動して、インクの吐出タイミングを制御する圧電素子駆動回路、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
【0133】
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により圧電素子14、印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
【0134】
以下、ヘッド10について、図5および図6を参照しつつ詳述する。
ヘッド10は、ノズル板11と、インク室基板12と、振動板13と、振動板13に接合された圧電素子(振動源)14とを備えるヘッド本体17と、このヘッド本体17を収納する基体16とを有している。なお、このヘッド10は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成する。
【0135】
ノズル板11は、例えば、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物系材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料等で構成されている。
このノズル板11には、インク滴を吐出するための多数のノズル孔111が形成されている。これらのノズル孔111間のピッチは、印刷精度に応じて適宜設定される。
【0136】
ノズル板11には、インク室基板12が固着(固定)されている。
このインク室基板12は、ノズル板11、側壁(隔壁)122および後述する振動板13により、複数のインク室(キャビティ、圧力室)121と、インクカートリッジ931から供給されるインクを貯留するリザーバ室123と、リザーバ室123から各インク室121に、それぞれインクを供給する供給口124とが区画形成されている。
【0137】
各インク室121は、それぞれ短冊状(直方体状)に形成され、各ノズル孔111に対応して配設されている。各インク室121は、後述する振動板13の振動により容積可変であり、この容積変化により、インクを吐出するよう構成されている。
インク室基板12を得るための母材としては、例えば、シリコン単結晶基板、各種ガラス基板、各種樹脂基板等を用いることができる。これらの基板は、いずれも汎用的な基板であるので、これらの基板を用いることにより、ヘッド10の製造コストを低減することができる。
【0138】
一方、インク室基板12のノズル板11と反対側には、振動板13が接合され、さらに振動板13のインク室基板12と反対側には、複数の圧電素子14が設けられている。
また、振動板13の所定位置には、振動板13の厚さ方向に貫通して連通孔131が形成されている。この連通孔131を介して、前述したインクカートリッジ931からリザーバ室123に、インクが供給可能となっている。
【0139】
各圧電素子14は、それぞれ、下部電極142と上部電極141との間に圧電体層143を介挿してなり、各インク室121のほぼ中央部に対応して配設されている。各圧電素子14は、圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。
各圧電素子14は、それぞれ、振動源として機能し、振動板13は、圧電素子14の振動により振動し、インク室121の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
【0140】
基体16は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で構成されており、この基体16にノズル板11が固定、支持されている。すなわち、基体16が備える凹部161に、ヘッド本体17を収納した状態で、凹部161の外周部に形成された段差162によりノズル板11の縁部を支持する。
以上のような、ノズル板(ノズルプレート)11とインク室基板12との接合、インク室基板12と振動板13との接合、およびノズル板11と基体16との接合のうち、少なくとも1箇所を接合する際に本発明の接合方法が用いられる。
【0141】
換言すれば、ノズル板11とインク室基板12との接合体、インク室基板12と振動板13との接合体、およびノズル板11と基体16との接合体のうち、少なくとも1箇所に本発明の接合体が適用されている。
このようなヘッド10は、上記の接合界面に前述したような接合膜3が介挿されて接合されている。このため、接合界面の接合強度および耐薬品性が高くなっており、これにより、各インク室121に貯留されたインクに対する耐久性および液密性が高くなっている。その結果、ヘッド10は、信頼性の高いものとなる。
【0142】
また、非常に低温で信頼性の高い接合ができるため、線膨張係数の異なる材料でも大面積のヘッドができる点でも有利である。
また、ヘッド10の一部に本発明の接合体が適用されていると、寸法精度の高いヘッド10を構築することができる。このため、ヘッド10から吐出されたインク滴の吐出方向や、ヘッド10と記録用紙Pとの離間距離を高度に制御することができ、インクジェットプリンタ9による印字結果の品位を高めることができる。
【0143】
また、液滴吐出法を用いて液状材料を供給する位置を任意に設定し得ることから、各接合体における接合部の面積や、その配置を適宜制御して、各接合体の接合界面に生じる応力の局所集中を緩和できる。これにより、例えば、ノズル板11とインク室基板12との間、インク室基板12と振動板13との間、および、ノズル板11と基体16との間で、それぞれ両者の熱膨張率差が大きい場合でも、両者の部材を確実に接合することができる。
【0144】
さらに、接合界面に生じる応力の局所集中を緩和することにより、接合体の剥離や変形(反り)等を確実に防止することができる。これにより、信頼性の高いヘッド10およびインクジェットプリンタ9が得られる。
このようなヘッド10は、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体層143に変形が生じない。このため、振動板13にも変形が生じず、インク室121には容積変化が生じない。したがって、ノズル孔111からインク滴は吐出されない。
【0145】
一方、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に一定電圧が印加された状態では、圧電体層143に変形が生じる。これにより、振動板13が大きくたわみ、インク室121の容積変化が生じる。このとき、インク室121内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔111からインク滴が吐出される。
【0146】
1回のインクの吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極142と上部電極141との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子14は、ほぼ元の形状に戻り、インク室121の容積が増大する。なお、このとき、インクには、インクカートリッジ931からノズル孔111へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気がノズル孔111からインク室121へ入り込むことが防止され、インクの吐出量に見合った量のインクがインクカートリッジ931(リザーバ室123)からインク室121へ供給される。
【0147】
このようにして、ヘッド10において、印刷させたい位置の圧電素子14に、圧電素子駆動回路を介して吐出信号を順次入力することにより、任意の(所望の)文字や図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド10は、圧電素子14の代わりに電気熱変換素子を有していてもよい。つまり、ヘッド10は、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出するバブルジェット方式(「バブルジェット」は登録商標))のものであってもよい。
【0148】
なお、かかる構成のヘッド10において、ノズル板11には、撥液性を付与することを目的に形成された被膜114が設けられている。これにより、ノズル孔111からインク滴が吐出される際に、このノズル孔111の周辺にインク滴が残存するのを確実に防止することができる。その結果、ノズル孔111から吐出されたインク滴を目的とする領域に確実に着弾させることができる。
【0149】
以上、本発明の接合方法および接合体を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の接合方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
また、本発明の接合体は、液滴吐出ヘッド以外のものに適用可能であることは言うまでもない。具体的には、本発明の接合体は、例えば、光学装置が備えるレンズ、半導体装置、マイクロリアクタ等に適用することができる。
【実施例】
【0150】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
<<接合体の評価>>
1.接合体の形成
(実施例1)
まず、第1の基材(基板)として、縦100mm×横100mm×平均厚さ40μmのステンレス鋼(SUS430)基板を用意し、第2の基材(対抗基板)として、縦100mm×横100mm×平均厚さ4μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)基板を用意した。
【0151】
次に、エポキシ変性シリコーン材料(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製、「TSR−194」)を用意し、スピンコート法によりSUS基板上およびPPS基板上の双方に、それぞれ、この液状材料を供給して液状被膜を形成した。
なお、このエポキシ変性シリコーン材料は、分枝部において下記化学式(4)で表わされる単位構造を有し、連結部において前記化学式(5)および前記化学式(6)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有し、末端部において前記化学式(7)および前記化学式(8)のうちの少なくとも一方で表わされる単位構造を有する分枝状をなすシリコーン材料に、下記一般式(9)で表わされるビスフェノールA型エポキシ樹脂が連結しているものに、添加剤として無水フタル酸とリノール酸とが添加されているものである。
【0152】
次に、これら液状被膜を、200℃、2時間の条件で加熱して、乾燥・硬化させることにより、SUS基板上およびPPS基板上の双方に、それぞれ、接合膜(平均厚さ:約1μm)を形成した。
次に、SUS基板上およびPPS基板上に形成された接合膜に、それぞれ、図3に示す大気圧プラズマ装置を用いて、以下に示す条件でプラズマを接触させた。これにより、接合膜を活性化させて、その表面に接着性を発現させた。
【0153】
<プラズマ処理条件>
・処理ガス :ヘリウムガスと酸素ガスとの混合ガス
・ガス供給速度:10SLM
・電極間距離 :1mm
・印加電圧 :1kVp−p
・電圧周波数 :40MHz
・移動速度 :1mm/秒
【0154】
次に、各基板に設けられた接合膜のプラズマを接触させた面同士が接触するように、SUS基板とPPS基板とを重ね合わせた。
そして、SUS基板とPPS基板とを50MPaで加圧しつつ、常温(25℃前後)で、1分間維持することにより接合膜の接合強度の向上を図った。
以上の工程を経ることにより、SUS基板とPPS基板とが接合膜を介して接合された接合体を得た。
【0155】
(実施例2)
得られた接合体をさらに、200℃、2時間の条件で加熱したこと以外は、前記実施例1と同様にして、接合体を得た。
(実施例3)
液状被膜を乾燥・硬化させる条件を、200℃、2時間に代えて、常温(25℃前後)、約20時間とした以外は、前記実施例1と同様にして、接合体を得た。
【0156】
(実施例4)
液状被膜を乾燥・硬化させる条件を、200℃、2時間に代えて、常温(25℃前後)、約20時間とし、また、得られた接合体をさらに、200℃、2時間の条件で加熱したこと以外は、前記実施例1と同様にして、接合体を得た。
(実施例5)
PPS基板上への接合膜の形成を省略したこと以外は、前記実施例1と同様にして、接合体を得た。
【0157】
(実施例6)
第2の基材として、PPS基板に代えてポリイミド(PI)基板を用意した以外は、前記実施例5と同様にして、接合体を得た。
(実施例7)
第2の基材として、PPS基板に代えてポリエチレンテレフタレート(PET)基板を用意した以外は、前記実施例5と同様にして、接合体を得た。
【0158】
(比較例1〜3)
第1の基材の構成材料および第2の基材の構成材料を、それぞれ表1に示す材料とし、各基材間をエポキシ系接着剤で接着した以外は、前記実施例1と同様にして、接合体を得た。
(比較例4)
まず、前記実施例1と同様に、第1の基材としてSUS基板を、第2の基材としてPPS基板を用意した。
次に、エポキシ樹脂が連結されていないシリコーン材料(信越化学工業社製、「KR−251」)を用意し、スピンコート法によりSUS基板上およびPPS基板上の双方に、それぞれ、この液状材料を供給して液状被膜を形成した。
【0159】
次に、これら液状被膜を、150℃、2時間の条件で加熱して、乾燥・硬化させることにより、SUS基板上およびPPS基板上の双方に、それぞれ、接合膜(平均厚さ:約4μm)を形成した。
次に、得られた接合膜に、以下に示す条件で紫外線を照射した。これにより、接合膜を活性化させて、その表面に接着性を発現させた。
【0160】
<紫外線照射条件>
・雰囲気ガスの組成 :窒素ガス
・雰囲気ガスの温度 :20℃
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :5分
【0161】
次に、接着性が発現した接合膜同士が接触するように、SUS基板とPPS基板とを重ね合わせた。
そして、シリコン基板とガラス基板とを50MPaで加圧しつつ、常温(25度前後)で、1分間維持した。その後、このものを常温で3日間放置することにより接合膜の接合強度の向上を図った。
以上の工程を経ることにより、SUS基板とPPS基板とが接合膜を介して接合された接合体を得た。
(比較例5)
PPS基板上への接合膜の形成を省略したこと以外は、前記比較例4と同様にして、接合体を得た。
【0162】
2.接合体の評価
2.1 厚さ方向に対する接合強度の評価
各実施例1〜7および各比較例1〜5で得られた接合体について、各基材間の厚さ方向に対する強度を、QUAD GROUP社製「ロミュラス」)を用いて測定した。そして、接合強度を以下の基準にしたがって評価した。
【0163】
<厚さ方向に対する接合強度の評価基準>
◎:10MPa(100kgf/cm)以上
○: 5MPa( 50kgf/cm)以上、10MPa(100kgf/cm)未満
△: 1MPa( 10kgf/cm)以上、 5MPa( 50kgf/cm)未満
×: 1MPa( 10kgf/cm)未満
【0164】
2.2 面方向に対する接合強度の評価
各実施例1〜7および各比較例1〜5で得られた接合体について、ピール強度試験(JIS−G3469に規定)に準拠して、以下のようにして、面方向に対する接合強度を評価した。
すなわち、まず、各実施例1〜7および各比較例1〜5で得られた接合体について、それぞれ、第2の基材を幅10mm長さ60mmの大きさで接合膜に達するまで切れ目を入れた。
次に、幅10mm長さ60mmの大きさに切断された第2の基材の一端を剥ぎ起こし、常温で90°の方向に10mm/分の速度で引き剥がした時の荷重を、90°ピール剥離試験装置(イマダ社製、「NX−500NE」)を用いて測定し、測定された荷重をもとに、以下の基準により評価した。
【0165】
<面方向に対する接合強度の評価基準>
◎: 0.2N/mm以上
○: 0.1N/mm以上、0.2N/mm未満
△: 0.05N/mm以上、 0.1N/mm未満
×: 0.05N/mm未満
【0166】
2.3 寸法精度の評価
各実施例および各比較例で得られた接合体について、それぞれ厚さ方向の寸法精度を測定した。
寸法精度の測定は、正方形の接合体の各角部の厚さを測定し、4箇所の厚さの最大値と最小値の差を算出することにより行った。そして、この差を以下の基準にしたがって評価した。
<寸法精度の評価基準>
○:10μm未満
×:10μm以上
以上、2.1〜2.3の各評価結果を表1に示す。
【0167】
【表1】

【0168】
表1から明らかなように、エポキシ変性シリコーン材料で構成される接合膜を備える各実施例で得られた接合体は、厚さ方向に対する接合強度、面方向に対する接合強度および寸法精度のいずれの項目においても優れた特性を示した。
これに対して、エポキシ系接着剤で構成される接合膜を備える比較例1〜3で得られた接合体は、厚さ方向および面方向に対する接合強度が十分ではなかった。また、寸法精度は、特に低いことが認められた。
【0169】
さらに、エポキシ樹脂が連結されていないシリコーン材料で構成される接合膜を備える比較例4、5で得られた接合体は、厚さ方向に対する接合強度および寸法精度の項目においては優れた特性を示したものの、面方向に対する接合強度に劣る特性を示した。なお、比較例4、5の接合体では、厚さ方向および面方向に対する接合強度の評価において、接合膜同士の界面または第2の基材と接合膜との界面において接合膜が剥がれてしまう結果が得られた。これにより、エポキシ樹脂が連結されていないシリコーン材料で構成される接合膜は、エポキシ樹脂が連結されたエポキシ変性シリコーン材料で構成される接合膜と比較して、接合膜同士の界面または第2の基材と接合膜との界面との界面における接合強度に劣ることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0170】
1……接合体 21……第1の基材 22……第2の基材 23、24……接合面 3……接合膜 30……液状被膜 32……表面 35……液状材料 10……インクジェット式記録ヘッド 11……ノズル板 111……ノズル孔 114……被膜 12……インク室基板 121……インク室 122……側壁 123……リザーバ室 124……供給口 13……振動板 131……連通孔 14……圧電素子 141……上部電極 142……下部電極 143……圧電体層 16……基体 161……凹部 162……段差 17……ヘッド本体 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……タイミングベルト 944……キャリッジガイド軸 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙 1000……大気圧プラズマ装置 1002……搬送装置 1010……ヘッド 1101……ヘッド本体 1102、1104……間隙 1103……下面 1015……印加電極 1017……高周波電源 1018……ガス供給流路 1019……対向電極 1181……開口部 1020……移動ステージ E……電界 G……処理ガス p……プラズマ発生領域 W……被処理基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合膜を介して互いに接合すべき第1の基材と第2の基材とを用意し、前記第1の基材および前記第2の基材の少なくとも一方に、エポキシ変性シリコーン材料を含有する液状材料を供給することにより液状被膜を形成する工程と、
前記液状被膜を乾燥および/または硬化して、前記第1の基材および前記第2の基材の少なくとも一方に、接合膜を得る工程と、
前記接合膜にエネルギーを付与することにより、前記接合膜の表面付近に接着性を発現させる工程と、
当該接着性が発現した接合膜を介して前記第1の基材と前記第2の基材とを接触させ、前記第1の基材と前記第2の基材とが前記接合膜を介して接合された接合体を得る工程とを有することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記エポキシ変性シリコーン材料は、シリコーン材料とエポキシ樹脂との付加反応により得られるものである請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記シリコーン材料は、その主骨格がポリジメチルシロキサンで構成され、この主骨格が分枝状をなしている請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記シリコーン材料は、前記ポリジメチルシロキサンが有するメチル基の少なくとも1つがフェニル基で置換されている請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
前記シリコーン材料は、シラノール基を複数個有する請求項2ないし4のいずれかに記載の接合方法。
【請求項6】
エポキシ樹脂は、その分子中にフェニレン基を有する請求項2ないし5のいずれかに記載の接合方法。
【請求項7】
エポキシ樹脂は、その分子構造が直鎖型の構造をなすものである請求項2ないし6のいずれかに記載の接合方法。
【請求項8】
前記エネルギーの前記接合膜に対する付与は、前記接合膜にプラズマを接触させることにより行われる請求項1ないし7のいずれかに記載の接合方法。
【請求項9】
前記プラズマの接触を、大気圧下で行う請求項8に記載の接合方法。
【請求項10】
前記プラズマの接触は、互いに対向する電極間に電圧を印加した状態で、これらの間にガスを導入することにより、プラズマ化された前記ガスを前記接合膜に供給することによりなされる請求項8または9に記載の接合方法。
【請求項11】
前記電極間の距離は、0.5〜10mmである請求項10に記載の接合方法。
【請求項12】
前記電極間に印加する電圧は、1.0〜3.0kVp−pである請求項10または11に記載の接合方法。
【請求項13】
前記プラズマは、ヘリウムガスを主成分とするガスをプラズマ化したものである請求項8ないし12のいずれかに記載の接合方法。
【請求項14】
前記プラズマは、ヘリウムガスを主成分とするガスをプラズマ化したものであり、当該ガスの前記電極間への供給速度は、1〜20SLMである請求項10ないし12のいずれかに記載の接合方法。
【請求項15】
前記ガス中の前記ヘリウムガスの含有量は、85vol%以上である請求項13または14に記載の接合方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかに記載の接合方法により、前記第1の基材と前記第2の基材とを、前記接合膜を介して接合してなることを特徴とする接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−275423(P2010−275423A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129183(P2009−129183)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】