説明

接合構造体の製造方法および接合装置

【課題】生産性が高く,ボイドの低減と防錆性能の確保とを両立させた接合構造体の接合方法および接合装置を提供すること。
【解決手段】本ロウ付け手順では,フラックスが溶融する直前(第1の温度)で炉内の減圧を開始し,ワークの接合面の隙間を負圧化しておく。その後,低圧下で加熱し続けることでフラックスが溶融し,フラックス溶液中のボイドが負圧状態で取り残される。その後,ロウ材が溶融していない状態(第2の温度)で大気圧に復圧する。これにより,ボイドが圧縮,除去される。その後,大気圧下で加熱し続けることでロウ材が溶融し,フラックスにより被接合体(アルミ板等)の酸化皮膜が接合面全体で除去され,接合面がロウ付けされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,基板や冷却器等の接合部材をロウ材を介して接合する接合構造体の製造方法および接合装置に関する。さらに詳細には,フラックスを利用する接合構造体の製造方法および接合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車等に車載される高耐圧・大電流用のパワーモジュールは,半導体素子の動作時の自己発熱量が大きい。そのため,車載用パワーモジュールは,高放熱性を有する冷却器と一体になっており,半導体素子から発せられる熱を冷却器によって放熱する冷却構造を備えている。
【0003】
このような冷却構造を有するパワーモジュールは,半導体素子を実装するセラミック基板と冷却器を構成するアルミ板とが,ロウ材によって接合されて一体をなしている。ロウ材によるロウ付け方法には,一般的に,ロウ付け炉内を真空にしてロウ付けを行う真空法と,酸化皮膜除去に効果があるフラックスを利用して大気圧でロウ付けを行うフラックス法とが知られている。
【0004】
また,近年,冷却器を構成するアルミ板の薄肉化が要請されている。アルミ板の薄肉化については,電食による孔の形成が懸念される。そこで,電位をアルミ母材よりも低くする目的で,アルミ板の表面に,Znを含有した合金(例えば,Al−Si−Zn系合金)層を形成し,アルミ母材を保護することが行われている。つまり,Znを犠牲材(防錆材)として機能させ,アルミ母材の電食を抑制している。
【0005】
また,セラミック基板のロウ付けでは,セラミック基板のロウ付け面積が大きいほど,冷却器との界面にボイドが生じ易い。ボイドは,熱伝達経路の障害となり,冷却性を悪化させる。前述したロウ付け方法のうち,真空法では,ボイドを縮小する効果がある。すなわち,真空法では,真空状態でロウ材を溶融させ,ロウ材が溶融中に大気圧に戻すことで,ボイドを加圧して潰すことができる。このように,ロウ付け炉内の減圧と昇圧とを繰り返してボイドを減少される技術としては,例えば特許文献1に,鉛フリーはんだを用いた接合構造体の接合方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−281309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,前記した従来の技術には,次のような問題があった。すなわち,真空法では,加熱前から真空引きを行い,高真空状態を維持した状態で加熱を開始する。さらに,ロウ材に含まれる還元剤(例えば,Mg)による酸化皮膜の除去後も,再酸化を防止するために熱処理を続行する。そのため,ロウ付けに必要な熱処理時間(ロウ付け時間)が長く,生産性が低い。例えば,サイズが20mm×30mmのセラミック基板をAlロウによってロウ付けする場合,図11に示すように,真空法ではフラックス法よりも3倍程度の時間がかかる。
【0007】
また,防錆材であるZnは,蒸気圧が低く,真空状態では極めて蒸発し易い。具体的に,Znは,1.7KPaで沸点がおよそ600℃であり,0.1KPaで沸点がおよそ500℃に下がる。そのため,真空法によってロウ付けを行うと,ロウ付けが完了するまでの時間で殆どのZnが蒸発し,防錆機能を失ってしまう。つまり,真空法によるロウ付けでは,ロウ付け炉内を真空に近づけるほどボイド率の低下には効果がある反面,アルミ板の表面のZn濃度が低下してしまい防錆性が悪化してしまう。つまり,ボイドの低減と防錆性の確保とがトレードオフの関係にある。
【0008】
一方,フラックス法では,大気圧の状態でロウ付けを行うことから,Znの蒸発は少なく,良好な防錆性を維持できる。また,フラックス法は,真空法と比較して,真空状態を形成するための時間がなく,さらにワークを加熱する熱処理時間も短いため,ロウ付け時間が短いという利点がある。しかし,真空法のようにボイド縮小効果が得られないため,ボイドが抜け難い。その結果,特にセラミック基板が大サイズの場合には,ボイドの発生に伴う冷却性能の悪化が許容できなくなる。
【0009】
本発明は,前記した従来のロウ付けによる接合構造体の接合方法が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,生産性が高く,ボイドの低減と防錆性能の確保とを両立させた接合構造体の接合方法および接合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の接合構造体の接合方法は,第1被接合体が,第2被接合体とロウ材を介して接合される接合構造体の製造方法であって,第1被接合体と第2被接合体との間にロウ材とフラックスとを配置したワークを予熱する第1ステップと,ワークがフラックスの溶融温度に達する前に減圧を開始し,低圧下でワークを加熱する第2ステップと,ワークがフラックスの溶融温度に達した後であってロウ材の溶融温度に達する前に大気圧への復圧を開始し,ワークがロウ材の溶融温度以上になるように加熱する第3ステップとを含むことを特徴としている。
【0011】
本発明の接合構造体の接合方法では,フラックスを利用した接合方法であり,ワークである第1被接合体と第2被接合体との間にはロウ材のほか,フラックスが介在している。このワークを,フラックスが溶融温度に達する前まで予熱する。ここでいうフラックスが溶融温度に達する前の温度とは,フラックスの溶融温度に達する直前の温度であって,フラックスの溶融温度を超えない範囲の温度であり,具体的には,フラックスの溶融温度の95%からフラックスの溶融温度を超えない範囲の温度,より好ましくはフラックスの溶融温度の97%からフラックスの溶融温度を超えない範囲の温度である。
【0012】
本発明の接合構造体の接合方法では,フラックスが溶融する直前に炉内の減圧を開始し,第1被接合体と第2被接合体との接合面の隙間を負圧化する。その後,低圧下で加熱し続けることでフラックスが溶融し,フラックス溶液中にボイドが取り残される。その後,ロウ材が溶融していない状態で大気圧に復圧する。これにより,ボイドが圧縮あるいは除去される。その後,大気圧下で加熱し続けることでロウ材が溶融し,フラックスにより第1被接合体ないし第2被接合体表面の酸化皮膜が接合面全体で除去され,接合面がロウ付けによって接合される。
【0013】
すなわち,本発明の接合構造体の接合方法では,ロウ付け炉内の減圧,復圧によってボイドが圧縮される。また,フラックスの溶融直前からロウ材の溶融前までの僅かの間だけで低圧加熱することから防錆材の蒸発は少ない。また,フラックス法の応用であることから,真空法と比較して短時間でのロウ付けが可能である。
【0014】
また,本発明の接合装置は,第1被接合体が,第2被接合体とロウ材を介して接合される接合構造体の接合装置であって,第1被接合体と第2被接合体との間にロウ材とフラックスとを配置したワークを,フラックスの溶融温度に達する前まで加熱する予熱室と,予熱室よりも容積が小さく,予熱後のワークを減圧した状態で加熱し,ワークがフラックスの溶融温度に達した後であってロウ材の溶融温度に達する前に大気圧へ復圧し,ワークがロウ材の溶融温度以上になるように加熱するロウ付け室とを備えることを特徴としている。
【0015】
本発明の接合装置によれば,ワークの加熱処理を行う炉が,予熱室とロウ付け室とに分かれている。そして,減圧および復圧を行うロウ付け室を予熱室より小さくする,すなわち小部屋化することで,短時間で減圧および復圧を完了することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,生産性が高く,ボイドの低減と防錆性能の確保とを両立させた接合構造体の接合方法および接合装置が実現されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお,以下の形態では,冷却器付きパワーモジュール(接合構造体の一例)の製造方法として本発明を適用する。
【0018】
[パワーモジュールの構成]
本形態のパワーモジュール100は,図1に示すように,発熱体である半導体素子10と,半導体素子10を実装するセラミック基板20と,内部に冷媒流路を備えた冷却器30と,セラミック基板20と冷却器30との間に介在し,両者の線膨張率差による応力歪を緩和する応力緩和機能を有する応力緩和層40と,冷却器30を収容するAlケース62と,バスバー61を保持するバスバーハウジング60とを備えている。パワーモジュール100は,半導体素子10からの熱をセラミック基板20および応力緩和層40を介して冷却器30に放熱する。
【0019】
半導体素子10は,インバータ回路を構成するIGBT等の素子であり,バスバーハウジング60のバスバー61にボンディングワイヤ12によって電気的に接続されている。半導体素子10は,セラミック基板20上に複数実装され,はんだ15によって固定される。なお,車載用のパワーモジュールには,多くの半導体素子が搭載されるが,本明細書では説明を簡略化するために概略図示している。
【0020】
セラミック基板20は,半導体素子10を実装する基板である。セラミック基板20の絶縁材は,必要とされる絶縁特性,熱伝導率および機械的強度を満たしていれば,どのようなセラミックから形成されていてもよい。例えば,酸化アルミニウムや窒化アルミニウムが適用可能である。また,セラミック基板20の両面には,金属層21,22が設けられている。金属層21,22には,電気伝導率が高いものであればよい。例えば,純度が高いアルミニウムが適用可能である。
【0021】
応力緩和層40は,アルミ製の冷却器30とセラミック基板20との線膨張率差による応力歪を吸収する軟金属プレートであり,応力吸収空間である貫通穴が設けられている。本形態の応力緩和層40は,純度が90%以上の純アルミ板である。また,応力緩和層40の材料である高純度アルミは,高熱伝導性を有する。そのため,応力緩和層40は,半導体素子10からの熱を応力緩和層40の面方向に散熱するとともに冷却器30に伝熱する機能を有している。つまり,応力緩和層40は,応力緩和機能とともに伝熱機能を兼ねている。
【0022】
冷却器30は,圧延薄板を波状に成形した冷却フィン31と,冷却フィン31を挟んで固定する天板32および底板33とを有している。冷却器30を構成する各部材は,高熱伝導性を有しかつ軽量であるアルミによって形成される。天板32,底板33および冷却フィン31によって区画された中空は,冷媒流路となる。冷媒としては,液体および気体のいずれを用いてもよい。
【0023】
また,冷却器30を構成する天板32,底板33の内側の表面には,Znを含有した合金層(本形態ではAl−Si−Zn系合金,ロウ材50によるロウ付け前の段階での表面Zn濃度が1.3%,厚さが0.04mm)が設けられており,その合金層にてアルミ母材が被覆されている。本形態では,Znが防錆材として利用される。以下,この合金層を「防錆層」とする。
【0024】
セラミック基板20,応力緩和層40および冷却器30は,半導体素子11からの熱を効率よく冷却器30に伝達させるため,ロウ材50によって一体的に接合される。ロウ付け方法の詳細については後述する。ロウ材50としては,Al−Si系合金,Al−Si−Mg系合金等のアルミニウムロウ材が適用可能である。本形態では,Al−Si系合金を用い,600℃弱の温度でロウ付けを行う。また,冷却器30の,冷却フィン31,天板32,底板33の接合も同様に,Al−Si系合金のロウ材によるロウ付けによって行われる。セラミック基板20,応力緩和層40および冷却器30のロウ付けと,冷却器30の各部材のロウ付けとは同時に行われる。
【0025】
[ロウ付け炉]
続いて,本形態のパワーモジュール100のロウ付けを行うロウ付け炉について説明する。本形態のロウ付け炉200は,図2に示すように,ワーク1(本形態ではパワーモジュール100)の予熱を行う予熱室210と,ロウ材を溶融させてロウ付けを行うロウ付け室230と,ワーク1を冷却する冷却室250とを備えている。予熱室210とロウ付け室230とは,側壁220が隔壁となって互いに隣接している。ロウ付け室230と冷却室250とは,側壁240が隔壁となって互いに隣接している。
【0026】
予熱室210は,ワーク1を搬送するコンベヤ211と,加熱源となるヒータ212とを備えている。ワーク1は,ロウ付け室220との側壁220とは反対側の側壁213に設けられた搬入口214から搬入され,側壁220に設けられた搬出口221に搬出される。また,予熱室210には,窒素を供給する窒素供給部216と,ポンプに接続される排気部217とが設けられている。この窒素供給部216および排気部217によって,予熱室210内が窒素置換される。
【0027】
ロウ付け室230は,ワーク1を搬送するコンベヤ231と,加熱源となるヒータ232とを備えている。ワーク1は,予熱室210との側壁220に設けられた搬入口221から搬入され,冷却室250との側壁240に設けられた搬出口241から搬出される。また,ロウ付け室230には,窒素を供給する窒素供給部236と,ポンプに接続される排気部237とが設けられている。この窒素供給部236および排気部237によって,ロウ付け室230内の圧力調節が可能である。
【0028】
また,ロウ付け室230は,ワーク1の搬送方向(図2の左右方向)の幅が予熱室210と比較して狭い。すなわち,ロウ付け室230の収容スペースは,予熱室210の収容スペースと比較して小さい。本形態では,ワーク1の1個分のスペースになっている。そのため,ロウ付け室230内の圧力調節は容易であり,ロウ付け室230内の減圧および復圧を短時間で行うことができる。
【0029】
冷却室250は,ワークを搬送するコンベヤ251を備えている。ワークは,ロウ付け室220との側壁240に設けられた搬入口241から搬入され,側壁240とは反対側の側壁253に設けられた搬出口254から搬出される。また,冷却室250には,冷却風を供給する冷却風供給部256と,排気を行う排気部257とが設けられている。
【0030】
ここで,ロウ付け室230についてもう少し詳しく説明する。図3は,ロウ付け室230の詳細構成を示している。また,図4は,図3に示したロウ付け室230の上面から見た構成(図3のA−A断面)を示している。また,図5は,図4に示したロウ付け室230のワーク1の搬送方向から見た構成(図4のB−B断面)を示している。
【0031】
ロウ付け室230の予熱室210側の側壁220には,搬入口221を開閉可能にする扉222が設けられており,冷却室250側の側壁240には,搬入口241を開閉可能にする扉242が設けられている。これら扉222,242を図3中の上方に移動させて搬入口221ないし搬出口241を開口することでワーク1の搬入搬出が可能になる。一方,扉222,242を図3中の下方に移動させて搬入口221ないし搬出口241を閉口することでロウ付け室230内の圧力調節が可能になる。
【0032】
ロウ付け室230のコンベヤ231は,複数のローラ233と,ローラ233に巻回されたチェーンベルト234と,コンベヤ駆動モータ235によって構成される。チェーンベルト234上には,ワーク1を載置するキャリア2が載置される。ロウ付け室230では,コンベヤ駆動モータ235によってローラ233の1つが回転駆動され,そのローラ233の回転に伴ってチェーンベルト234が回転移動する。このチェーンベルト234の回転移動によって,チェーンベルト234上に載置されたキャリア2が搬送方向(図4中の左右方向)に搬送される。コンベヤ231は,予熱室210のコンベヤ211や冷却室250のコンベヤ251と同期して動作し,ワーク1を搬入口221から搬入するとともに搬出口241へ搬出する。
【0033】
また,コンベヤ231の下方には,輻射加熱式のヒータ232が設けられ,ヒータ232とワーク1とはガラス板238によって隔離されている。ワーク1を載置するキャリア2には,ワーク1よりも開口面積が小さい開口孔201が設けられ,ワーク1の下面がキャリア2の下側から露出している。ロウ付け室230では,図5に示すように,ヒータ232からの輻射線(赤外線等)がワーク1の下面に照射され,ワーク1が輻射加熱される。
【0034】
また,コンベヤ231のローラ233の軸方向の両端部には,冷却配管236が配置されている。冷却配管236には,冷媒流路が設けられ,コンベヤ231のローラ233やチェーンベルト234を冷却する。これにより,ローラ233やチェーンベルト234の昇温による変形が抑制される。
【0035】
[ロウ付け手順]
続いて,本形態のパワーモジュール100のロウ付け手順について,図6のフローチャートおよび図7のワークの温度履歴およびロウ付け炉内の圧力履歴を示すグラフを参照しつつ説明する。
【0036】
まず,ワーク1(パワーモジュール100)を予熱室210内に搬入する(S1)。予熱室210に搬入される段階での,アルミ板の冷却器30と,純アルミの応力緩和層40とのロウ付け接合面は,図8(A)に示すような状態になっている。すなわち,冷却器30のアルミ母材(以下,「アルミ母材30」とする)と,応力緩和層40のアルミ板(以下,「アルミ板40」とする)との間には,アルミ母材30上にコーティングされたAl−Si系合金のロウ材50と,ロウ材50上に塗布されたフラックス51が存在する。フラックス51としては,接合面上の酸化皮膜39,49を除去するとともにロウ付け中での酸化を抑制する機能を有するものであればよく,本形態ではKAlF4を適用する。また,アルミ母材30は,アルミ板40と反対側の面(すなわち冷却器30の内側の面)に,Al−Si−Zn系合金の防錆層38が設けられている。
【0037】
次に,予熱室210内を窒素置換し(S2),予熱室210内で,ワーク1をフラックス51の溶融温度(本形態では565℃)の手前の温度である第1の温度(本形態では560℃)まで加熱する(S3)。第1の温度は,フラックス51の溶融温度の近似値であり,フラックス51の溶融温度を超えない値であればよい。すなわち,フラックス51が溶融を開始する直前の段階であればよい。なお,第1の温度を低く設定するほど,後述する減圧時間が長くなり,防錆材の確保に不利となる。そのため,第1の温度は,フラックス51の溶融温度の95%からフラックス51の溶融温度を超えない範囲の温度,より好ましくはフラックス51の溶融温度の97%からフラックス51の溶融温度を超えない範囲の温度で設定される。
【0038】
窒素置換後は,予熱室210内を大気圧に維持する。すなわち,予熱室210では,大気圧でワーク1の加熱が行われる。大気圧でのZnの沸点は907℃であり,第1の温度と比べて極めて高温である。そのため,予熱段階でのZnの蒸発は殆ど生じない。
【0039】
ワーク1の温度が第1の温度に達すると,搬出口221の扉222を開き,ワーク1を予熱室210からロウ付け室230に搬送する(S4)。そして,搬入口221の扉222を閉め,ロウ付け室230内の減圧を開始する(S5)。ロウ付け室230内の減圧は,ロウ付け室230内の圧力が1KPaとなるまで行う。
【0040】
このような低圧下のロウ付け室230内で,ワーク1をロウ材50の溶融温度(本形態では595℃)の直前の温度である第2の温度(本形態では590℃)まで加熱する(S6)。第2の温度は,ロウ材50の溶融温度の近似値であり,ロウ材50の溶融温度を超えない値であればよい。すなわち,ロウ材50が溶融を開始し,ロウ材50が接合面に濡れ広がる前の段階であればよい。本形態では,第1の温度から第2の温度までの加熱時間はおよそ10分である。
【0041】
減圧加熱段階では,フラックス51が溶融し,図8(B)に示すように,アルミ板40側の酸化皮膜49とアルミ母材30側の酸化皮膜39とがともに還元除去される。また,ロウ材50とアルミ板40との間にはボイド56が生じる。このとき,ボイド56は,低圧状態で閉じ込められる。
【0042】
また,減圧加熱段階では,圧力の低下に伴ってZnの沸点が低下する。Znは,1.7KPaでの沸点が600℃であり,1KPaまで減圧する減圧加熱段階では,Znが蒸発してしまう可能性がある。しかし,減圧加熱段階は,ワーク1が第1の温度から第2の温度となるまでの短期間(本形態では10分程度)であり,また蒸気圧との差が極めて小さいことから,蒸発したとしてもその量は許容範囲となる。
【0043】
なお,減圧加熱時の目標圧力は,1KPaに限るものではない。図9は,減圧時の目標気圧とワーク表面のZn濃度との関係を示している。図9に示すように,1.7KPaまではZnの蒸発は殆どなく,1.7KPaを下回ることでZnの蒸発が加速することがわかる。すなわち,1.7KPaでZnの蒸気圧を超えることがわかる。また,真空法に要求される圧力(1×10-5KPa)では,Znはほぼ全て蒸発してしまうことがわかる。そこで,減圧加熱時の目標圧力を,Znの蒸気圧を超えない1.7KPaまでとすると,Znの蒸発を確実に抑制するのに効果的である。
【0044】
一方,減圧時の目標圧力を低くするほど,後述する復圧時でのボイド減少効果が生じる。図10は,減圧時の目標気圧とボイド率(接合面におけるボイドの割合)との関係を示している。本形態のロウ付け方法での減圧は,真空法のように酸化防止を目的とするものではない。そのため,減圧のレベルは1KPa程度であってもよく,ボイド圧縮の効果は十分に得られる。
【0045】
次に,ワーク1の温度が第2の温度に達すると,ロウ付け室230内の復圧を開始する(S7)。復圧後の常圧加熱段階では,図8(C)に示すように,負圧化されたボイド56が押し潰されて消滅ないし減少する。
【0046】
その後,大気圧下のロウ付け室230内で,ワーク1を第3の温度(本形態では600℃)まで加熱する(S8)。第3の温度は,ロウ材50の溶融温度を超える値であればよい。ワーク1の温度がロウ材50の溶融温度以上になることで,ロウ材50が溶融を開始し,図8(D)に示すように,ロウ材50のSiがアルミ材40に拡散し,ロウ材50が濡れ広がる。
【0047】
復圧後は,ロウ付け室230内を大気圧に維持する。大気圧でのZnの沸点は907℃に戻り,第3の温度と比べて極めて高温である。そのため,復圧後の常圧加熱段階でのZnの蒸発は殆ど生じない。
【0048】
ワーク1の温度が第3の温度に達すると,搬出口241の扉242を開き,ワーク1をロウ付け室230から冷却室250に搬送する(S9)。そして,搬入口241の扉242を閉じ,ワーク1の冷却を開始する(S10)。このワーク1の冷却によってロウ材50が固化し,ロウ材50によるアルミ母材30とアルミ板40との接合が完了する。
【0049】
本形態のロウ付け方法は,フラックスを利用するフラックス法を基本とし,ワーク1の予熱開始から冷却終了までの期間は40分以内である。すなわち,ロウ付け室230での減圧処理やワーク1の移動等にわずかの時間を要するが,フラックス法によるロウ付け時間と殆ど変わらない。そのため,本形態のロウ付け方法は,真空法と比較してロウ付け時間が短く,生産性が高い。
【0050】
以上詳細に説明したように本形態のロウ付け方法では,フラックス51が溶融する直前(第1の温度)にロウ付け室230内の減圧を開始し,ワーク1の接合面の隙間を負圧化しておく。その後,低圧下で加熱し続けることでフラックス51が溶融し,フラックス溶液中のボイド56が負圧状態で取り残される。その後,ロウ材50が溶融していない状態で大気圧に復圧する。これにより,ボイド56が圧縮,除去される。その後,大気圧下で加熱し続けることでロウ材50が溶融し,フラックス51によりアルミ板40表面の酸化皮膜49ないしアルミ母材30表面の酸化皮膜39が接合面全体で除去され,接合面がロウ付けされる。
【0051】
すなわち,本形態のロウ付け方法では,ロウ付け室230内での減圧,復圧によってボイド56が圧縮される。また,フラックス51の溶融直前からロウ材50の溶融前までの僅かの間だけで低圧加熱することから防錆材であるZnの蒸発は少ない。また,フラックス法の応用であることから,真空法と比較して短時間でのロウ付けが可能である。よって,生産性が高く,ボイドの低減と防錆性能の確保とを両立させた接合構造体の接合方法が実現している。
【0052】
また,本形態のロウ付け炉200によれば,ワーク1を加熱する炉が,予熱室210とロウ付け室230とに分けられている。そして,減圧および復圧を行うロウ付け室230を予熱室210よりも小さくする,すなわち小部屋化することで,短時間で減圧および復圧を完了することができる。
【0053】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本実施の形態では,防錆材としてZnを使用しているが,防錆材は母材の材質に応じて適宜選択される。また,減圧および復圧の契機となる温度は,本形態のフラックス,ロウ材に応じて設定されているものであり,フラックス,ロウ材に応じて適宜設定される。また,実施の形態では,ロウ材としてAl−Si系合金を使用しているが,ロウ材は母材の材質に応じて適宜選択される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施の形態にかかるパワーモジュールの概略構成を示す図である。
【図2】実施の形態にかかるロウ付け炉の概略構成を示す図である。
【図3】図2に示したロウ付け炉のロウ付け室の概略構成を示す図である。
【図4】図3に示したロウ付け室の上面から見た概略構成(図3のA−A断面)を示す図である。
【図5】図4に示したロウ付け室のワークの搬送方向から見た概略構成(図4のB−B断面)を示す図である。
【図6】実施の形態にかかるロウ付け手順の概略を示すフローチャートである。
【図7】実施の形態にかかるロウ付け手順のワーク温度履歴および圧力履歴を示すグラフである。
【図8】ワークの接合部分の状態を示す図である。
【図9】減圧時の目標気圧とワーク表面のZn濃度との関係を示す図である。
【図10】減圧時の目標気圧とボイド率との関係を示す図である。
【図11】真空法とフラックス法とのロウ付け時間の比較を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 ワーク
20 セラミック基板
30 冷却器(第1被接合体)
38 防錆層
39 酸化皮膜
40 応力緩和層(第2被接合体)
49 酸化皮膜
50 ロウ材
51 フラックス
56 ボイド
100 パワーモジュール
200 ロウ付け炉
210 予熱室
220 ロウ付け室
230 冷却室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1被接合体が,第2被接合体とロウ材を介して接合される接合構造体の製造方法において,
前記第1被接合体と前記第2被接合体との間にロウ材とフラックスとを配置したワークを予熱する第1ステップと,
前記ワークが前記フラックスの溶融温度に達する前に減圧を開始し,低圧下で前記ワークを加熱する第2ステップと,
前記ワークが前記フラックスの溶融温度に達した後であって前記ロウ材の溶融温度に達する前に大気圧への復圧を開始し,前記ワークが前記ロウ材の溶融温度以上になるように加熱する第3ステップとを含むことを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する接合構造体の製造方法において,
前記第1被接合体と前記第2被接合体との少なくとも一方の表面には,防錆材が含有されていることを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載する接合構造体の製造方法において,
前記防錆材は,Znであることを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載する接合構造体の製造方法において,
前記ロウ材は,Al−Si系合金からなることを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載する接合構造体の製造方法において,
前記第2ステップでは,前記ワークが前記フラックスの溶融温度に達する直前に減圧を開始することを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項6】
第1被接合体が,第2被接合体とロウ材を介して接合される接合構造体の接合装置において,
前記第1被接合体と前記第2被接合体との間にロウ材とフラックスとを配置したワークを,前記フラックスの溶融温度に達する前まで加熱する予熱室と,
前記予熱室よりも容積が小さく,予熱後のワークを減圧した状態で加熱し,前記ワークが前記フラックスの溶融温度に達した後であって前記ロウ材の溶融温度に達する前に大気圧へ復圧し,前記ワークが前記ロウ材の溶融温度以上になるように加熱するロウ付け室とを備えることを特徴とする接合装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−226456(P2009−226456A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76212(P2008−76212)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】