説明

接合膜付き基材および接合体

【課題】被着体に対して、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率良く接合することができる接合膜を備えた接合膜付き基材を提供すること、および、前記接合膜付き基材と被着体とが高い寸法精度で強固に接合してなる信頼性の高い接合体を提供すること。
【解決手段】本発明の接合膜付き基材1は、基板2と、シリコーン材料を含有する液状材料を用いて基板2上に成膜される下地膜4と、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含み、気相成膜法を用いて下地膜4上に成膜される接合膜3とを有し、接合膜3は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより発現した接着性によって、他の被着体(対向基板5)との接着性が発現するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合膜付き基材、接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基材)同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、部材の材質によらず、接着性を示すことができる。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
例えば、インクジェットプリンタが備える液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)は、樹脂材料、金属材料、シリコン系材料等の異種材料で構成された部品同士を、接着剤を用いて接着することにより組み立てられている。
このように接着剤を用いて部材同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して部材同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤を硬化させることにより、部材同士を接着する。
【0003】
ところが、このような接着剤では、以下のような問題がある。
・接着強度が低い
・寸法精度が低い
・硬化時間が長いため、接着に長時間を要する
また、多くの場合、接着強度を高めるためにプライマーを用いる必要があり、そのためのコストと手間が接着工程の高コスト化・複雑化を招いている。
【0004】
一方、接着剤を用いない接合方法として、固体接合による方法がある。
固体接合は、接着剤等の中間層が介在することなく、部材同士を直接接合する方法である(例えば、特許文献1参照)。
このような固体接合によれば、接着剤のような中間層を用いないので、寸法精度の高い接合体を得ることができる。
【0005】
しかしながら、固体接合には、以下のような問題がある。
・接合される部材の材質に制約がある
・接合プロセスにおいて高温(例えば、700〜800℃程度)での熱処理を伴う
・接合プロセスにおける雰囲気が減圧雰囲気に限られる
このような問題を受け、接合に供される部材の材質によらず、部材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合する方法が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−82404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、被着体に対して、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率良く接合することができる接合膜を備えた接合膜付き基材を提供すること、および、前記接合膜付き基材と被着体とが高い寸法精度で強固に接合してなる信頼性の高い接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合膜付き基材は、基材と、
シリコーン材料を含有する液状材料を用いて、前記基材上に成膜された下地膜と、
シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含み、気相成膜法を用いて前記下地膜上に成膜された接合膜とを有し、
前記接合膜は、当該接合膜の少なくとも一部の領域にエネルギーを付与し、前記接合膜の少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより、前記接合膜の表面の前記領域に、他の被着体との接着性が発現するものであることを特徴とする。
これにより、被着体に対して、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合することができる接合膜を備えた接合膜付き基材が得られる。
【0009】
本発明の接合膜付き基材では、前記基材は、該基材の前記下地膜が設けられる面側の表面の表面粗さRz(JIS B 0601で規定)が、50〜500nmであることが好ましい。
かかる条件を満足する基材のように、基材の表面(接合面)が十分に平滑でない場合であっても、被着体に対して、十分に高い寸法精度で強固に接合することができる接合膜付き基材を得ることができる。
【0010】
本発明の接合膜付き基材では、前記下地膜は、該下地膜の前記接合膜が設けられる面側の表面の表面粗さRz(JIS B 0601で規定)が、30nm未満であることが好ましい。
これにより、接合膜付き基材と被着体とを、さらに高い寸法精度で接合することができる。
【0011】
本発明の接合膜付き基材では、前記基材の前記下地膜が設けられた面側の表面の表面粗さRz(JIS B 0601で規定)をR[nm]、前記下地膜の平均厚さをT[nm]としたとき、2≦T/Rの関係を満足するものであることが好ましい。
これにより、下地膜の接合膜が設けられる面側の表面がさらに平滑なものとなり、接合膜付き基材と被着体とを、より高い寸法精度で接合することができる。
【0012】
本発明の接合膜付き基材では、前記下地膜の平均厚さは、100nm〜10μmであることが好ましい。
かかる範囲の下地膜を備えた接合膜付き基材は、基材の下地膜が設けられる面側の表面形状によらず、被着体とより高い寸法精度で接合することができるものとなる。
本発明の接合膜付き基材では、前記下地膜は、前記エネルギーの付与によって、接着性を発現するものであることが好ましい。
このような接合膜付き基材では、接合膜にエネルギーが付与される際に、下地膜にも基材と接合膜との接着性が発現する。その結果、下地膜を介して基材と接合膜とがより強固に密着し、さらに剥離し難いものとなり、接合膜付き基材の機械的強度を特に優れたものとすることができる。
【0013】
本発明の接合膜付き基材では、前記下地膜は、前記シリコーン材料を含有する液状材料を前記基材上に供給することにより液状被膜を形成し、前記液状被膜を乾燥することにより形成されたものであることが好ましい。
これにより、下地膜の接合膜が設けられる面側の表面がさらに平滑なものとなり、接合膜付き基材と被着体とを、より高い寸法精度で接合することができる。
【0014】
本発明の接合膜付き基材では、前記シリコーン材料は、その主骨格がポリジメチルシロキサンで構成されることが好ましい。
かかる化合物は、比較的入手が容易で、かつ安価であるとともに、かかる化合物を含有する下地膜と接合膜との密着性を特に優れたものとすることができる。さらに、接合膜にエネルギーを付与することにより、接合膜に他の被着体との接着性が発現するとともに、かかる化合物を構成するメチル基の一部も容易に切断されて、下地膜にも接着性が発現する。これにより、下地膜と基板および接合膜とがより強固に密着し、さらに剥離し難いものとなる。その結果、接合膜付き基材の機械的強度を特に優れたものとすることができる。
【0015】
本発明の接合膜付き基材では、前記シリコーン材料は、シラノール基を有することが好ましい。
これにより、液状被膜を乾燥させて下地膜を得る際に、隣接するシリコーン材料が有する水酸基同士が結合することとなり、得られる下地膜の膜強度が優れたものとなる。結果として、接合膜付き基材の機械的強度が特に優れたものとなる。
【0016】
本発明の接合膜付き基材では、前記気相成膜法は、プラズマ重合法であることが好ましい。
これにより、他の被着体に対して、特に強固に接合し得る接合膜付き基材が得られる。また、プラズマ重合法で形成された接合膜は、エネルギーが付与されて脱離基が脱離した状態(活性化状態)が比較的長時間にわたって維持されるため、得られる接合体の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0017】
本発明の接合膜付き基材では、前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、接着性により優れた接合膜が得られる。また、この接合膜は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような基材の接合に際して、有効に用いられるものとなる。
【0018】
本発明の接合膜付き基材では、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
これにより、接着性に特に優れた接合膜が得られる。
本発明の接合膜付き基材では、前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmであることが好ましい。
これにより、接合膜付き基材と他の被着体とを接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
【0019】
本発明の接合膜付き基材では、前記基材の少なくとも前記下地膜を形成する部分は、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、基材と下地膜との密着性が特に優れたものとなり、接合膜付き基材の機械的強度を特に優れたものとすることができる。
本発明の接合膜付き基材では、前記基材の前記下地膜を備える面には、あらかじめ、前記下地膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、基材の表面を清浄化および活性化し、下地膜と基材との密着性を高めることができる。その結果、接合膜付き基材の機械的強度を特に優れたものとすることができる。
【0020】
本発明の接合膜付き基材では、前記表面処理は、プラズマ処理または紫外線照射処理であることが好ましい。
これにより、下地膜を形成するために、基材の表面を最適化することができる。
本発明の接合体は、本発明の接合膜付き基材と、被着体とを有し、
これらを、前記接合膜を介して接合してなることを特徴とする。
これにより、被着体に対して、接合膜付き基材が高い寸法精度で強固に接合してなる信頼性の高い接合体が得られる。
【0021】
本発明の接合体は、本発明の接合膜付き基材を2枚有し、
これらを、前記接合膜同士を対向させて接合してなることを特徴とする。
これにより、接合に供される部材(基材および被着体)の接合面の平滑性によらず、接合膜付き基材と被着体とが高い寸法精度で強固に接合してなる信頼性の高い接合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の接合膜付き基材および接合体を、添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の接合膜付き基材、この接合膜付き基材と対向基板(他の被着体)とを接合する接合方法、および本発明の接合膜付き基材を備える接合体の各第1実施形態について説明する。
【0023】
図1〜図3は、本発明の接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)、図4は、本発明の接合膜付き基材が備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図、図5は、本発明の接合膜付き基材が備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、図1ないし図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0024】
本実施形態にかかる接合方法は、接合膜付き基材を用意する工程と、接合膜付き基材の接合膜に対してエネルギーを付与して、接合膜中から脱離基を脱離させることにより、接合膜を活性化させる工程と、対向基板(他の被着体)を用意し、接合膜付き基材が備える接合膜と対向基板とが密着するように、これらを貼り合わせ、接合体を得る工程とを有する。
【0025】
以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
[1]まず、接合膜付き基材1(本発明の接合膜付き基材)を用意する。
接合膜付き基材1は、板状をなす基板(基材)2と、基板2上に設けられた下地膜4と、下地膜4上に設けられた接合膜3とを有している。
基板2は、対向基板(他の被着体)5に対して、下地膜4および接合膜3を介して接合されるものである。
また、下地膜4は、基板2と接合膜3との間に形成されたものである。
また、接合膜3は、下地膜4上に設けられ、対向基板5との接合を担うものである。このような接合膜3は、シロキサン(Si−O)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。
【0026】
このような接合膜付き基材1は、基板2上に下地膜4を形成した後に、接合膜3を形成することにより得られるが、本発明では、下地膜4が、シリコーン材料を含有する液状材料を用いて形成されるものである。そのため、基板2の下地膜4が形成される表面に凹凸がある場合でも、下地膜4の表面は確実に平滑化される。その結果、気相成膜法を用いて下地膜4上に形成される接合膜3は、平滑な膜として形成されることになる。また、接合膜3は、少なくともその表面付近に存在する脱離基がSi骨格から脱離する
ことによって、対向基板5に対して、低温下で強固に接合可能なものである。したがって、上記のように、接合膜3を平滑な膜として形成することにより、接合膜付き基材1は、対向基板5に対して、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率良く接合可能なものとなる。
【0027】
このような接合膜付き基材1は、例えば、以下のような接合膜付き基材の形成方法を用いて得ることができる。
具体的には、基板2を用意する工程と、基板2上にシリコーン材料を含有する液状材料を供給することにより液状被膜40を形成する工程と、液状被膜40を乾燥して、基板2上に下地膜4を得る工程と、下地膜4上に気相成膜法を用いて接合膜3を形成する工程とを経ることにより接合膜付き基材1が形成される。
【0028】
以下、これらの各工程を詳述する。
[1A]まず、基板2を用意する(図1(a)参照)。
基板2は、下地膜4および接合膜3を支持する程度の剛性を有するものであれば、いかなる材料で構成されたものであってもよい。
具体的には、基板2の構成材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属、またはこれらの金属を含む合金、炭素鋼、ステンレス鋼、酸化インジウムスズ(ITO)、ガリウムヒ素のような金属系材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンのようなシリコン系材料、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス系材料、アルミナ、ジルコニア、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス系材料、グラファイトのような炭素系材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0029】
また、基板2は、その表面に、Niめっきのようなめっき処理、クロメート処理のような不働態化処理、または窒化処理等を施したものであってもよい。
また、基板(基材)2の形状は、下地膜4を支持する面を有するような形状であればよく、板状のものに限定されない。すなわち、基材の形状は、例えば、塊状(ブロック状)、棒状等であってもよい。
【0030】
なお、本実施形態では、基板2が板状をなしていることから、基板2が撓み易くなり、基板2は、対向基板5の形状に沿って十分に変形可能なものとなるため、これらの密着性がより高くなる。また、接合膜付き基材1において、基板2と下地膜4との密着性が高くなるとともに、基板2が撓むことによって、接合界面に生じる応力を、ある程度緩和することができる。
【0031】
この場合、基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜10mm程度であるのが好ましく、0.1〜3mm程度であるのがより好ましい。なお、後述する対向基板5の平均厚さも、前述した基板2の平均厚さと同様の範囲内であるのが好ましい。
また、用意した基板2の下地膜4が形成される表面25には、必要に応じて、形成される下地膜4との密着性を高める表面処理を施す。これにより、表面25を清浄化および活性化され、表面25に対して下地膜4が化学的に作用し易くなる。その結果、後述する工程において、表面25上に下地膜4を形成したとき、表面25と下地膜4との接合強度を高めることができる。これにより、接合膜付き基材1を対向基板5に強固に固定することができる。
【0032】
この表面処理としては、特に限定されないが、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。
このような表面処理として、特にプラズマ処理または紫外線照射処理を行うことにより、表面25を、より清浄化および活性化することができる。その結果、表面25と下地膜4との接合強度を特に高めることができる。
【0033】
また、基板2の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、下地膜4との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる基板2の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
このような材料で構成された基板2は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された基板2を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜付き基材1と対向基板5とを強固に接合することができる。
なお、この場合、基板2の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも下地膜4を形成すべき領域の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0034】
[1B]次に、シリコーン材料を含有する液状材料を基板2の表面25上に供給することにより、基板2の表面25上に、液状被膜40を形成する(図1(b)参照)。
シリコーン材料を含有する液状材料は、基板2の表面25上に均一に濡れ広がるため、形成される液状被膜40の表面は平滑化されたものとなる。すなわち、かかる液状材料は、基板2の表面25の形状を緩和(レベリング)する効果を有する。そのため、基板2として、たとえ、その表面25が平滑性に乏しいものを用いた場合でも、液状被膜40の表面は確実に平滑化されたものとなる。
【0035】
このような供給方法としては、特に限定されないが、塗布法を用いるのが好ましい。
塗布法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法および液滴吐出法等が挙げられるが、特に、液滴吐出法を用いるのが好ましい。液滴吐出法によれば、図1(b)に示すように、液状材料を液滴41として表面25に供給することができるため、たとえ液状被膜40を表面25の一部の領域に選択的にパターニングして形成する場合であったとしても、液状材料をこの領域の形状に対応して(選択的に)供給することができる。
【0036】
液滴吐出法としては、特に限定されないが、圧電素子による振動を利用して液状材料を吐出する構成のインクジェット法が好適に用いられる。インクジェット法によれば、目的とする領域(位置)に、液状材料を液滴44として、優れた位置精度で供給することができる。また、圧電素子の振動数および液状材料の粘度等を適宜設定することにより、液滴44のサイズ(大きさ)を、比較的容易に調整できることから、液滴44のサイズを小さくすれば、たとえ膜を形成する領域の形状が微細なものであったとしても、この領域の形状に対応した液状被膜40を確実に形成することができる。
【0037】
液状材料の粘度(25℃)は、通常、0.5〜200mPa・s程度であるのが好ましく、3〜20mPa・s程度であるのがより好ましい。液状材料の粘度をかかる範囲とすることにより、液滴の吐出をより安定的に行うことができるとともに、吐出量の微調整が容易となる。これにより、基板2上(表面25上)に均一な膜厚を有する下地膜4を成膜することが可能となる。これにより、接合膜付き基材1と対向基板5とを高い寸法精度で接合することができ、結果として、基板2上に下地膜4を高い寸法精度で成膜することができる。さらに、この液状材料で構成される液状被膜40を次工程[1C]で乾燥させた際に、接合膜3を形成するのに十分な量のシリコーン材料を液状材料中に含有したものとすることができる。
【0038】
また、液状材料の粘度をかかる範囲内とすれば、具体的には、液滴44の量(液状材料の1滴の量)を、平均で、0.1〜40pL程度に、より現実的には1〜30pL程度に設定し得る。これにより、表面25に供給された際の液滴44の着弾径が小さなものとなることから、吐出量の微調整がさらに容易となる。
また、液状材料は、前述のようにシリコーン材料を含有するものであるが、シリコーン材料単独で、液状をなし目的とする粘度範囲である場合、シリコーン材料をそのまま液状材料として用いることができる。また、シリコーン材料単独で、固形状または高粘度の液状をなす場合には、液状材料として、シリコーン材料の溶液または分散液を用いることができる。
【0039】
シリコーン材料を溶解または分散するための溶媒または分散媒としては、例えば、アンモニア、水、過酸化水素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等を用いることができる。
シリコーン材料は、液状材料中に含まれ、次工程[1C]において、この液状材料を乾燥させることにより形成される下地膜4の主材料として構成するものである。
【0040】
ここで、「シリコーン材料」とは、ポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物であり、通常、主骨格(主鎖)部分が主としてオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる化合物のことを言い、主鎖の一部から突出する分枝状の構造を有するものであってもよく、主鎖が環状をなす環状体であってもよく、主鎖の末端同士が連結しない直鎖状のものであってもよい。
例えば、ポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物において、オルガノシロキサン単位は、その末端部では下記一般式(1)で表わされる構造単位を有し、連結部では下記一般式(2)で表わされる構造単位を有し、また、分枝部では下記一般式(3)で表わされる構造単位を有している。
【0041】
【化1】

[式中、各Rは、それぞれ独立して、置換または無置換の炭化水素基を表し、各Zは、それぞれ独立して、水酸基または加水分解基を表し、Xはシロキサン残基を表し、aは0または1〜3の整数を表し、bは0または1〜2の整数を表し、cは0または1を表す。]
【0042】
なお、シロキサン残基とは、酸素原子を介して隣接する構造単位が有するケイ素原子に結合しており、シロキサン結合を形成している置換基のことを表す。具体的には、−O−(Si)構造(Siは隣接する構造単位が有するケイ素原子)となっている。
このようなシリコーン材料において、ポリオルガノシロキサン骨格は、分枝状をなすもの、すなわち上記一般式(1)で表わされる構造単位、上記一般式(2)で表わされる構造単位および上記一般式(3)で表わされる構造単位で構成されているのが好ましい。この分枝状をなすポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物(以下、「分枝状化合物」と略すこともある。)は、主骨格(主鎖)部分が主としてオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる化合物であり、主鎖の途中でオルガノシロキサン単位の繰り返しが分枝するとともに、主鎖の末端同士が連結しないものである。
【0043】
この分枝状化合物を用いることにより、次工程[1C]において、液状材料中に含まれるこの化合物の分枝鎖同士が互いに絡まり合うようにして下地膜4が形成されることから、得られる下地膜4は特に膜強度に優れたものとなる。
なお、上記一般式(1)〜上記一般式(3)中、基R(置換または無置換の炭化水素基)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等が挙げられる。さらに、これらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部が、I)フッ素原子、塩素原子、臭素原子のようなハロゲン原子、II)グリシドキシ基のようなエポキシ基III)メタクリル基のような(メタ)アクリロイル基IV)カルボキシル基、スルフォニル基のようなアニオン性基等で置換された基等が挙げられる。
【0044】
加水分解基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基等のケトオキシム基、アセトキシ基等のアシルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基等のアルケニルオキシ基等が挙げられる。
また、分枝状化合物は、その分子量が、1×10〜1×10程度のものであるのが好ましく、1×10〜1×10程度のものであるのがより好ましい。分子量をかかる範囲内に設定することにより、液状材料の粘度を上述したような範囲内に比較的容易に設定することができる。
【0045】
このような分枝状化合物は、シラノール基を有するものであるのが好ましい。すなわち、上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位において、各基Zは水酸基であるのが好ましい。これにより、次工程[1C]において、液状被膜40を乾燥させて下地膜4を得る際に、隣接する分枝状化合物が有する水酸基同士が結合することとなり、得られる下地膜4の膜強度が優れたものとなる。さらに、基板2として、前述したように、その接合面(表面)25から水酸基が露出しているものを用いた場合には、分枝状化合物が備える水酸基と、基板2が備える水酸基とが結合することから、分枝状化合物を物理的な結合ばかりでなく、化学的な結合によっても基板2に結合させることができる。その結果、下地膜4は、基板2の接合面25に対して、強固に結合したものとなる。
【0046】
また、シラノール基が有するシリコン原子に連結している炭化水素基は、フェニル基であるのが好ましい。すなわち、基Zが水酸基である上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位に存在する基Rは、フェニル基であるのが好ましい。これにより、シラノール基の反応性がより向上するため、隣接する分枝状化合物が有する水酸基同士の結合がより円滑に行われるようになる。
【0047】
さらに、シラノール基が存在しないシリコン原子に連結している炭化水素基は、メチル基であるのが好ましい。すなわち、基Zが存在しない上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位に存在する基Rは、メチル基であるのが好ましい。このように、基Zが存在しない上記一般式(1)〜上記一般式(3)で表わされる構造単位に存在する基Rがメチル基である化合物は、比較的入手が容易で、かつ安価である。
以上のことを考慮すると、分枝状化合物としては、例えば、下記一般式(4)で表わされる化合物が好適に用いられる。
【0048】
【化2】

[式中、nは、それぞれ独立して、0または1以上の整数を表す。]
【0049】
また、上述したような分岐状化合物は、耐薬品性に優れたものである。また、後述するように、接合膜3を構成する材料も耐薬品性に優れた材料である。したがって、このような分岐状化合物を構成成分とする下地膜4を備えた接合膜付き基材1は、薬品類等に長期にわたって晒されるような部材の接合に際して効果的に用いることができる。また、このような分岐状化合物は、耐熱性にも優れおり、高温下に晒される部材の接合に用いた場合でも、効率的に用いることができる。
【0050】
また、このようなシリコーン材料の中でも、次工程[2]において、接合膜3に付与されるエネルギーが付与されると、接着性を発現するものが好ましい。これにより、次工程[2]において、接合膜3とともに下地膜4にもエネルギーが付与されると、下地膜4は接着性を発現し、基板2と接合膜3との接合強度を高めることができる。これにより、接合膜付き基材1を構成する各層間で剥離が起こるのをより確実に防止することができる。これにより、接合膜付き基材1の機械的強度、および接合膜付き基材1と対向基板5とが接合されてなる接合体10の機械的強度のいずれもが特に優れたものとなる。
【0051】
このように、エネルギーが付与されると接着性を発現するシリコーン材料としては、特に、上記一般式(4)で表わされるものが好ましい。かかる化合物は、比較的入手が容易で、かつ安価であるとともに、かかる化合物を含有する下地膜4と接合膜3との密着性を特に優れたものとすることができる。さらに、次工程[2]において、接合膜3にエネルギーを付与することにより、接合膜3に対向基板5との接着性が発現するとともに、かかる化合物を構成するメチル基の一部も容易に切断されて、下地膜4にも接着性が発現する。また、このようにメチル基が切断された部分は、接合膜3を構成するSi骨格部分との親和性が高くなる。これにより、基板2と接合膜3との接合強度は特に優れたものとなり、接合膜付き基材1の各層間で剥離が生じるのをより確実に防止することができる。結果として、接合膜付き基材の機械的強度を特に優れたものとすることができる。
【0052】
また、シリコーン材料は、比較的柔軟性に富む材料である。そのため、次工程[3]において、接合膜付き基材1と対向基板5とを接合して接合体10を得る際に、例えば、基板2と対向基板5とを構成する材料が互いに異なるものである場合であったとしても、基板2と対向基板5との間に生じる熱膨張に伴う応力を確実に緩和することができる。これにより、最終的に得られる接合体10において、剥離が生じるのを確実に防止することができる。
【0053】
[1C]次に、基板2上に設けられた液状被膜40を乾燥することにより、下地膜4を形成する(図1(c)参照)。
このようにして得られた下地膜4は、その表面45が確実に平滑化される。これにより、次工程[1D]において下地膜4上に形成される接合膜3の表面35を確実に平滑なものとすることができる。その結果、接合膜付き基材1が対向基板5に対して、より高い寸法精度で接合される。
【0054】
液状被膜40を乾燥させる際の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
また、乾燥させる時間は、0.5〜48時間程度であるのが好ましく、15〜30時間程度であるのがより好ましい。
かかる条件で液状材料を乾燥させることにより、次工程[2]において、接合用エネルギーを付与することにより接着性が好適に発現する接合膜3を確実に形成することができる。また、シリコーン材料として前記工程[1B]で説明したようなシラノール基を有するものを用いた場合には、シリコーン材料が有するシラノール基同士を、さらには、シリコーン材料が有するシラノール基と基板2が有する水酸基とを、確実に結合させることができるため、形成される下地膜4を膜強度に優れ、かつ基板2に対して強固に結合したものとすることができる。
【0055】
さらに、乾燥させる際の雰囲気の圧力は、大気圧下であってもよいが、減圧下であるのが好ましい。具体的には、減圧の程度は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。これにより、下地膜4の膜密度が緻密化して、下地膜4をより優れた膜強度を有するものとすることができる。
以上のように、下地膜4を形成する際の条件を適宜設定することにより、形成される下地膜4の膜強度等を所望のものとすることができる。
【0056】
このような下地膜4は、下地膜4の接合膜3を形成する面側の表面45の表面粗さRz(JIS B 0601で規定)が、30nm未満に形成されるのが好ましく、1〜10nmに形成されるのがより好ましい。これにより、次工程[1D]で下地膜4上に形成される接合膜3の表面(対向基板5との接合面)を特に平滑なものとすることができる。その結果、接合膜付き基材1を対向基板5に対して、極めて高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0057】
また、下地膜4の平均厚さは、好ましくは100nm〜10μm程度であり、より好ましくは150nm〜1μm程度である。供給する液状材料の量を適宜設定して、形成される下地膜4の平均厚さを前記範囲内とすることにより、基板2の表面25に存在する凹凸が下地膜4により緩和(レベリング)され、下地膜4の表面45をより確実に平滑なものとすることができる。その結果、下地膜4上に形成される接合膜3の表面35がより平滑なものとなり、接合膜付き基材1を、対向基板5に対して、より高い寸法精度で接合することができる。
【0058】
すなわち、下地膜4の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、基板2の表面25の凹凸を緩和するレベリング効果が不十分となり、基板2の表面25の表面粗さによっては、接合膜3の対向基板5と接合する接合面の平滑性を十分なものとすることができず、接合膜付き基材1を対向基板に対して十分に高い寸法精度で接合することができなくなるおそれがある。
【0059】
接合膜付き基材1は、上述したような下地膜4上に接合膜3が設けられたものであるため、たとえ、基板2として、その表面に凹凸を有するようなものを用いた場合であっても、接合膜3の表面35は確実に平滑なものとなる。
このような基板2の表面粗さRz(JIS B 0601に規定)は、特に限定されないが、50〜500nmであれば、下地膜4の表面45および接合膜3の表面35をより確実に平滑なものとすることができ、接合膜付き基材1の構成として、下地膜4を設けることにより得られる効果がより効果的に発揮される。さらに、基板2の表面粗さRz(JIS B 0601に規定)が、100〜300nmであれば、上述した効果が、さらに顕著に発揮される。
【0060】
また、前述した基板2の下地膜4が形成される面側の表面25の表面粗さRzをR[nm]、下地膜4の平均厚さをT[nm]としたとき、2≦T/Rの関係を満足するのが好ましい。これにより、下地膜4上に形成される接合膜3の表面を特に平滑なものとすることができる。その結果、接合膜付き基材1を対向基板5に対して、極めて高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0061】
[1D]次に、下地膜4上に気相成膜法を用いて、シロキサン(Si−O)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含む接合膜3を形成する(図2(d)参照)。これにより、接合膜付き基材1を得ることができる。
このような接合膜3は、下地膜4を介して基板2と、対向基板5との間に位置し、基板2と対向基板5との接合を担うものである。
【0062】
かかる接合膜3は、図4、5に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを有するものである。このような接合膜3は、シロキサン結合302を含みランダムな原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。このため、接合膜3自体が寸法精度の高いものとなる。その結果、上述したような効果を発現する下地膜4上に形成される接合膜3の表面(対向基板5との接合面)35は、確実に平滑なものとなり、接合膜付き基材1を、対向基板5に対して、高い寸法精度で接合することができる。
【0063】
このような接合膜3は、エネルギーが付与されると、脱離基303がSi骨格301から脱離し、図5に示すように、接合膜3の表面35および内部に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、接合膜3表面に接着性が発現する。
かかる接着性が発現すると、接合膜3を備えた接合膜付き基材1は、対向基板5に対して、高い寸法精度で強固に効率よく接合可能なものとなる。
【0064】
また、このような接合膜3は、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、従来、流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(接合膜3)の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、接合膜付き基材1を用いて得られた接合体10の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
【0065】
このような接合膜3としては、特に、接合膜3を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%程度であるのが好ましく、20〜80原子%程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜3は、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜3自体が強固なものとなる。また、かかる接合膜3は、基板2および対向基板5に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0066】
また、接合膜3中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜3の安定性が高くなり、接合膜付き基材1と対向基板5とをより強固に接合することができるようになる。
なお、接合膜3中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は十分にランダムな原子構造を含むものとなる。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜3の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0067】
また、Si骨格301に結合する脱離基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜3に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
【0068】
かかる観点から、脱離基303には、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜付き基材1の接着性をより高度なものとすることができる。
【0069】
なお、上記のような各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0070】
これらの各基の中でも、脱離基303は、特にアルキル基であるのが好ましい。アルキル基は化学的な安定性が高いため、アルキル基を含む接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
このような特徴を有する接合膜3の構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのようなシロキサン結合を含む重合物等が挙げられる。
【0071】
ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、基板2に対して特に強固に被着するとともに、対向基板5に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、基板2と対向基板5とを強固に接合することができる。
【0072】
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれたアルキル基による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、エネルギーを付与されることにより、表面35に接着性が発現するとともに、表面35以外の部分においては、前述したアルキル基による作用・効果が得られるという利点も有する。したがって、接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような基板の接合に際して、有効に用いられるものとなる。これにより、例えば、樹脂材料を浸食し易い有機系インクが用いられる工業用インクジェットプリンタの液滴吐出ヘッドを製造する際に、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3を備えた接合膜付き基材1を用いることにより、耐久性および耐薬品性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0073】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜3は、接着性に特に優れることから、本発明の接合膜付き基材に対して特に好適に適用できるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0074】
また、接合膜3の平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、接合膜付き基材1と対向基板5とを接合した接合体10の寸法精度が特に高いものとすることができるとともに、これらをより強固に接合させることができる。
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体10の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0075】
本発明において、このような接合膜3は、プラズマ重合法、CVD法、PVD法のような各種気相成膜法を用いて作製されるものであるが、これらの中でも、プラズマ重合法により作製されたものが好ましい。プラズマ重合法によれば、緻密で均質な接合膜3を効率よく作製することができる。これにより、プラズマ重合法で作製された接合膜3は、対向基板5に対して特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で作製された接合膜3は、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、接合体10の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0076】
以下、一例として、プラズマ重合法により接合膜3を作製する方法について説明する。
まず、接合膜3の作製方法を説明するのに先立って、基板2上に形成された下地膜4上にプラズマ重合法を用いて接合膜3を作製する際に用いるプラズマ重合装置について説明する。
図6は、下地膜上にプラズマ重合法を用いて接合膜を作製する際に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0077】
図6に示すプラズマ重合装置100は、チャンバー101と、基板2を支持する第1の電極130と、第2の電極140と、各電極130、140間に高周波電圧を印加する電源回路180と、チャンバー101内にガスを供給するガス供給部190と、チャンバー101内のガスを排気する排気ポンプ170とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極130および第2の電極140がチャンバー101内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
【0078】
チャンバー101は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
図6に示すチャンバー101は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
【0079】
チャンバー101の上方には供給口103が、下方には排気口104が、それぞれ設けられている。そして、供給口103にはガス供給部190が接続され、排気口104には排気ポンプ170が接続されている。
なお、本実施形態では、チャンバー101は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線102を介して電気的に接地されている。
【0080】
第1の電極130は、板状をなしており、基板2を支持している。
この第1の電極130は、チャンバー101の側壁の内壁面に、鉛直方向に沿って設けられており、これにより、第1の電極130は、チャンバー101を介して電気的に接地されている。なお、第1の電極130は、図6に示すように、チャンバー本体と同心状に設けられている。
【0081】
第1の電極130の基板2を支持する面には、静電チャック(吸着機構)139が設けられている。
この静電チャック139により、図6に示すように、基板2を鉛直方向に沿って支持することができる。また、基板2に多少の反りがあっても、静電チャック139に吸着させることにより、その反りを矯正した状態で基板2をプラズマ処理に供することができる。
【0082】
第2の電極140は、基板2を介して、第1の電極130と対向して設けられている。なお、第2の電極140は、チャンバー101の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極140には、配線184を介して高周波電源182が接続されている。また、配線184の途中には、マッチングボックス(整合器)183が設けられている。これらの配線184、高周波電源182およびマッチングボックス183により、電源回路180が構成されている。
【0083】
このような電源回路180によれば、第1の電極130は接地されているので、第1の電極130と第2の電極140との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極130と第2の電極140との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。
ガス供給部190は、チャンバー101内に所定のガスを供給するものである。
【0084】
図6に示すガス供給部190は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部191と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置192と、キャリアガスを貯留するガスボンベ193とを有している。また、これらの各部とチャンバー101の供給口103とが、それぞれ配管194で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口103からチャンバー101内に供給するように構成されている。
【0085】
貯液部191に貯留される液状の膜材料は、プラズマ重合装置100により、重合して基板2の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置192により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー101内に供給される。なお、原料ガスについては、後に詳述する。
【0086】
ガスボンベ193に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
また、チャンバー101内の供給口103の近傍には、拡散板195が設けられている。
【0087】
拡散板195は、チャンバー101内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー101内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
排気ポンプ170は、チャンバー101内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー101内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触による基板2および下地膜4の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー101内から効果的に除去することができる。
また、排気口104には、チャンバー101内の圧力を調整する圧力制御機構171が設けられている。これにより、チャンバー101内の圧力が、ガス供給部190の動作状況に応じて、適宜設定される。
【0088】
次に、上記のプラズマ重合装置100を用いて、下地膜4上に接合膜3を作製する方法について説明する。
まず、下地膜4が形成された基板2を用意する。このような基板2ををプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納して封止状態とした後、排気ポンプ170の作動により、チャンバー101内を減圧状態とする。
【0089】
そして、ガス供給部190を作動させ、チャンバー101内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー101内に充填される。
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を20〜70%程度に設定するのが好ましく、30〜60%程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
【0090】
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、1〜100ccm程度に設定するのが好ましく、10〜60ccm程度に設定するのがより好ましい。
次いで、電源回路180を作動させ、一対の電極130、140間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極130、140間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、重合物が下地膜4に付着・堆積する。これにより、下地膜4上にプラズマ重合膜で構成された接合膜3が形成される。
【0091】
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜、すなわち接合膜3は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
【0092】
プラズマ重合の際、一対の電極130、140間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度であるのがより好ましい。
また、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01〜10W/cm程度であるのが好ましく、0.1〜1W/cm程度であるのがより好ましい。
【0093】
また、成膜時のチャンバー101内の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度であるのが好ましく、1〜100sccm程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5〜750sccm程度であるのが好ましく、10〜500sccm程度であるのがより好ましい。
【0094】
処理時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。
また、基板2および下地膜4の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、接合膜3を得るとともに、接合膜付き基材1を得ることができる。
【0095】
[2]次に、接合膜付き基材1の接合膜3の表面35に対してエネルギーを付与する。
エネルギーが付与されると、接合膜3では、脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には、接合膜3の表面35および内部に活性手が生じる。これにより、接合膜3の表面35に、対向基板5との接着性が発現する。
このような状態の接合膜付き基材1は、対向基板5と、化学的結合に基づいて強固に接合可能なものとなる。
【0096】
ここで、接合膜3に付与するエネルギーは、いかなる方法で付与されてもよく、例えば、エネルギー線を照射する方法、接合膜3を加熱する方法、接合膜3に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、プラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、オゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。
また、本実施形態では、接合膜3にエネルギーを付与する方法として、特に、接合膜3にエネルギー線を照射する方法を用いるのが好ましい。これらの方法は、接合膜3に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギー付与方法として好適である。
【0097】
このうち、エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザー光のような光、X線、γ線、電子線、イオンビームのような粒子線等、またはこれらのエネルギー線を組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長150〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい(図2(e)参照)。かかる紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜3中のSi骨格301が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、Si骨格301と脱離基303との間の結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜3の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜3に接着性を発現させることができる。
【0098】
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、脱離基303の脱離を効率よく行わせることができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、160〜200nm程度とされる。
また、UVランプを用いる場合、その出力は、接合膜3の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜3との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
【0099】
また、紫外線を照射する時間は、接合膜3の表面35付近の脱離基303を脱離し得る程度の時間、すなわち、接合膜3の内部の脱離基303を多量に脱離させない程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜3の構成材料等に応じて若干異なるものの、0.5〜30分程度であるのが好ましく、1〜10分程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
【0100】
一方、レーザー光としては、例えば、エキシマレーザー(フェムト秒レーザー)、Nd−YAGレーザー、Arレーザー、COレーザー、He−Neレーザー等が挙げられる。
また、接合膜3に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、特に大気雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギー線の照射をより簡単に行うことができる。
【0101】
このように、エネルギー線を照射する方法によれば、接合膜3に対して選択的にエネルギーを付与することが容易に行えるため、例えば、エネルギーの付与による基板2の変質・劣化を防止することができる。
また、エネルギー線を照射する方法によれば、付与するエネルギーの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜3から脱離する脱離基303の脱離量を調整することが可能となる。このように脱離基303の脱離量を調整することにより、接合膜付き基材1と対向基板5との間の接合強度を容易に制御することができる。
【0102】
すなわち、脱離基303の脱離量を多くすることにより、接合膜3の表面35および内部に、より多くの活性手が生じるため、接合膜3に発現する接着性をより高めることができる。一方、脱離基303の脱離量を少なくすることにより、接合膜3の表面および内部に生じる活性手を少なくし、接合膜3に発現する接着性を抑えることができる。
なお、付与するエネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
【0103】
さらに、エネルギー線を照射する方法によれば、短時間で大きなエネルギーを付与することができるので、エネルギーの付与をより効率よく行うことができる。
ここで、エネルギーが付与される前の接合膜3は、図4に示すように、Si骨格301と脱離基303とを有している。かかる接合膜3にエネルギーが付与されると、脱離基303(本実施形態では、メチル基)がSi骨格301から脱離する。これにより、図5に示すように、接合膜3の表面35に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜3の表面に接着性が発現する。
【0104】
ここで、接合膜3を「活性化させる」とは、接合膜3の表面35および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
【0105】
したがって、活性手304とは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304によれば、対向基板5に対して、特に強固な接合が可能となる。
なお、後者の状態(未結合手が水酸基によって終端化された状態)は、例えば、接合膜3に対して大気雰囲気中でエネルギー線を照射することにより、大気中の水分が未結合手を終端化することによって、容易に生成することができる。
【0106】
また、下地膜4が、上述したようなエネルギーの付与により接着性を発現するシリコーン材料を構成成分とするものである場合には、本工程において、接合膜3とともに、下地膜4にもかかるエネルギーを付与することにより、下地膜4に発現した接着性により、基板2と接合膜3との接合強度がより高くなる。これにより、得られる接合膜付き基材1の機械的強度を特に優れたものとすることができるとともに、接合膜付き基材1と対向基板5とを接合してなる接合体10は特に信頼性の高いものとなる。また、かかるエネルギーとしては、エネルギー線が好ましい。これにより、接合膜3とともに、下地膜4にも容易に接着性を発現させることができる。
【0107】
また、本実施形態では、接合膜付き基材1と対向基板5とを貼り合わせる前に、あらかじめ、接合膜付き基材1の接合膜3に対してエネルギーを付与する場合について説明しているが、かかるエネルギーの付与は、接合膜付き基材1と対向基板5とを貼り合わせる(重ね合わせる)際、または貼り合わせた(重ね合わせた)後に行われるようにしてもよい。このような場合においても、接合膜付き基材1と対向基板5とを強固に接合することができる。
【0108】
[3]対向基板(他の被着体)5を用意する。そして、図2(f)に示すように、活性化させた接合膜3と対向基板5とが密着するように、接合膜付き基材1と対向基板5とを貼り合わせる。これにより、図3(g)に示すような接合体10を得る。
このような接合体10では、基板2と対向基板5とが、下地膜4および接合膜3を介して接合されたものである。上述したように、下地膜4は、基板2の表面25の形状を、接合膜3の対向基板5との接合面25に反映させることなく、その表面45が確実に平滑なものとなる。さらに、接合膜3自身は高い寸法精度を有するものである。したがって、このような接合膜付き基材1は、基板2の表面25の形状にかかわらず、被着体に対して、強固に高い寸法精度で被着させることができるものとなる。
【0109】
また、このようにして得られた接合体10では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて、接合膜付き基材1と対向基板5とが接合されている。このため、接合体10は短時間で形成することができ、かつ、極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0110】
また、このような接合膜付き基材1を用いて得られた接合体10を得る方法によれば、従来の固体接合のように、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された基板2および対向基板5をも、接合に供することができる。
また、接合膜3を介して基板2と対向基板5とを接合しているため、基板2や対向基板5の構成材料に制約がないという利点もある。
【0111】
以上のことから、本発明によれば、基板2および対向基板5の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
また、固体接合では、接合層を介していないため、基板2と対向基板5との間の熱膨張率に大きな差がある場合、その差に基づく応力が接合界面に集中し易く、剥離等が生じるおそれがあったが、接合体(本発明の接合体)10では、下地膜4および接合膜3によって応力の集中が緩和され、剥離を防止することができる。
【0112】
また、本実施形態では、接合に供される基板2および対向基板5のうち、一方のみ(本実施形態では、基板2)に接合膜3が設けられている。基板2上に接合膜3を形成する際に、接合膜3の形成方法によっては、基板2が比較的長時間にわたってプラズマに曝されることになるが、本実施形態では、対向基板5は、プラズマに曝されることはない。したがって、例えば、対向基板5のプラズマに対する耐久性が著しく低い場合であっても、本実施形態にかかる方法によれば、接合膜付き基材1と対向基板5とを強固に接合することができる。したがって、対向基板5を構成する材料は、プラズマに対する耐久性をあまり考慮することなく、幅広い材料から選択することが可能になるという利点もある。
【0113】
ここで、用意する対向基板5は、基板2と同様、いかなる材料で構成されたものであってもよい。
具体的には、対向基板5は、基板2の構成材料と同様の材料で構成される。
また、対向基板5の形状も、基板2と同様、接合膜3が密着する面を有する形状であれば、特に限定されず、例えば、板状(層状)、塊状(ブロック状)、棒状等とされる。
【0114】
ところで、対向基板5の構成材料は、基板2と異なっていても同じでもよい。
また、基板2と対向基板5の各熱膨張率は、ほぼ等しいのが好ましい。基板2と対向基板5の熱膨張率がほぼ等しければ、接合膜付き基材1と対向基板5とを貼り合せた際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られる接合体10において、剥離等の不具合が発生するのを確実に防止することができる。
【0115】
また、後に詳述するが、基板2および対向基板5の各熱膨張率が互いに異なる場合でも、接合膜付き基材1と対向基板5とを貼り合わせる際の条件を以下のように最適化することにより、接合膜付き基材1と対向基板5とを高い寸法精度で強固に接合することができる。
すなわち、基板2と対向基板5の熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
【0116】
具体的には、基板2と対向基板5との熱膨張率差にもよるが、基板2および対向基板5の温度が25〜50℃程度である状態下で、接合膜付き基材1と対向基板5とを貼り合わせるのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で貼り合わせるのがより好ましい。このような温度範囲であれば、基板2と対向基板5の熱膨張率差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、接合体10における反りや剥離等の発生を確実に防止することができる。
【0117】
また、この場合、基板2と対向基板5との間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。
また、基板2と対向基板5は、互いに剛性が異なっているのが好ましい。これにより、接合膜付き基材1と対向基板5とをより強固に接合することができる。
【0118】
このような対向基板5の接合膜付き基材1との接合に供される領域には、対向基板5の構成材料に応じて、接合を行う前に、あらかじめ、対向基板5と接合膜3との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、接合膜付き基材1と対向基板5との接合強度をより高めることができる。
なお、表面処理としては、基板2に対して施す前述したような表面処理と同様の処理を適用することができる。
【0119】
また、対向基板5の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜付き基材1と対向基板5との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる対向基板5の構成材料には、前述した基板2の構成材料と同様のもの、すなわち、各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を用いることができる。
さらに、対向基板5の接合膜付き基材1との接合に供される領域に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜付き基材1と対向基板5との接合強度を十分に高くすることができる。
【0120】
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような官能基、ラジカル、開環分子、2重結合、3重結合のような不飽和結合、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質が挙げられる。このような基または物質を有する表面は、接合膜付き基材1の接合膜3に対する接合強度のさらなる向上を実現し得るものとなる。
【0121】
また、このようなものを有する表面が得られるように、上述したような各種表面処理を適宜選択して行うことにより、接合膜付き基材1と特に強固に接合可能な対向基板5が得られる。
また、表面処理に代えて、対向基板5の接合膜付き基材1との接合に供される領域には、あらかじめ、接合膜3との密着性を高める機能を有する中間層を形成しておくのが好ましい。これにより、かかる中間層を介して接合膜付き基材1と対向基板5とを接合することになり、より接合強度の高い接合体10が得られるようになる。
【0122】
かかる中間層の構成材料には、前述の基板2に形成する中間層の構成材料と同様のものを用いることができる。
ここで、本工程において、接合膜付き基材1と対向基板5とが接合されるメカニズムについて説明する。
例えば、対向基板5の接合膜付き基材1との接合に供される領域に、水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、接合膜付き基材1の接合膜3と対向基板5とが接触するように、これらを貼り合わせたとき、接合膜付き基材1の接合膜3の表面35に存在する水酸基と、対向基板5の前記領域に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、接合膜付き基材1と対向基板5とが接合されると推察される。
【0123】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、接合膜付き基材1と対向基板5との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、接合膜付き基材1と対向基板5とがより強固に接合されると推察される。
なお、前記工程[2]で活性化された接合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[2]の終了後、できるだけ早く本工程[3]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[2]の終了後、60分以内に本工程[3]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で接合膜付き基材1と対向基板5とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
【0124】
換言すれば、活性化させる前の接合膜3は、Si骨格301を有する接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜3は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜3を備えた基板2を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[2]に記載したエネルギーの付与を行うようにすれば、接合体10の製造効率の観点から有効である。
【0125】
以上のようにして、図2(d)に示す接合体(本発明の接合体)5を得ることができる。
なお、図2(d)では、接合膜付き基材1の接合膜3の全面を覆うように対向基板5を重ね合わせているが、これらの相対的な位置は、互いにずれていてもよい。すなわち、接合膜3から対向基板5がはみ出るように、接合膜付き基材1と対向基板5とが重ね合わされていてもよい。
【0126】
このようにして得られた接合体10は、基板2と対向基板5との間の接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度を有する接合体10は、その剥離を十分に防止し得るものとなる。そして、後述のように、接合体10を用いて、例えば液滴吐出ヘッドを構成した場合、耐久性に優れた液滴吐出ヘッドが得られる。また、本発明の接合膜付き基材1によれば、基板2と対向基板5とが上記のような大きな接合強度で接合された接合体10を効率よく作製することができる。
【0127】
なお、従来のシリコン直接接合のような固体接合では、接合に供される表面を活性化させても、その活性状態は、大気中で数秒〜数十秒程度の極めて短時間しか維持することができなかった。このため、表面の活性化を行った後、接合する2つの基板を貼り合わせる等の作業に要する時間を、十分に確保することができないという問題があった。
これに対し、本発明によれば、Si骨格301を有する接合膜3を用いて接合を行っているため、数分以上の比較的長時間にわたって活性状態を維持することができる。このため、貼り合わせ作業に要する時間を十分に確保することができ、接合作業の効率化を高めることができる。
なお、接合体10を得た後、この接合体10に対して、必要に応じ、以下の3つの工程([4A]、[4B]および[4C])のうちの少なくとも1つの工程(接合体10の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、接合体10の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0128】
[4A]図3(h)に示すように、得られた接合体10を、基板2と対向基板5とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、基板2の表面および対向基板5の表面に、それぞれ接合膜3の表面がより近接し、接合体10における接合強度をより高めることができる。
また、接合体10を加圧することにより、接合体10中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、接合体10における接合強度をさらに高めることができる。
【0129】
このとき、接合体10を加圧する際の圧力は、接合体10が損傷を受けない程度の圧力で、できるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に比例して接合体10における接合強度を高めることができる。
なお、この圧力は、基板2および対向基板5の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、基板2および対向基板5の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体10の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、基板2および対向基板5の各構成材料によっては、基板2および対向基板5に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体10を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0130】
[4B]図3(h)に示すように、得られた接合体10を加熱する。
これにより、接合体10における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体10を加熱する際の温度は、室温より高く、接合体10の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体10が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0131】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、前記工程[4A]、[4B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図3(h)に示すように、接合体10を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、接合体10の接合強度を特に高めることができる。
【0132】
[4C]図3(i)に示すように、得られた接合体10に紫外線を照射する。
これにより、接合膜3と基板2および対向基板5との間に形成される化学結合を増加させ、基板2および対向基板5と接合膜3との間の接合強度をそれぞれ高めることができる。その結果、接合体10の接合強度を特に高めることができる。
このとき照射される紫外線の条件は、前記工程[2]に示した紫外線の条件と同等にすればよい。
【0133】
また、本工程[4C]を行う場合、基板2および対向基板5のうち、いずれか一方が透光性を有していることが必要である。そして、透光性を有する基板側から、紫外線を照射することにより、接合膜3に対して確実に紫外線を照射することができる。
以上のような工程を行うことにより、接合体10における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0134】
<第2実施形態>
次に、本発明の接合膜付き基材、この接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法、および本発明の接合膜付き基材を備える接合体の各第2実施形態について説明する。
図7および図8は、本発明の接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図7および図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0135】
以下、第2実施形態にかかる接合方法について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる接合方法は、2枚の接合膜付き基材1同士を接合するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、本発明の接合膜付き基材1を2枚用意する工程と、それぞれの接合膜付き基材1の各接合膜31、32に対してそれぞれエネルギーを付与して、各接合膜31、32を活性化させる工程と、各接合膜31、32同士が密着するように、2枚の接合膜付き基材1同士を貼り合わせ、接合体10aを得る工程とを有する。
【0136】
以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
[1]まず、前記第1実施形態と同様にして、2枚の接合膜付き基材1を用意する(図7(a)参照)。なお、本実施形態では、この2枚の接合膜付き基材1として、図7(a)に示すように、基板21と、この基板21上に設けられた下地膜41と、この下地膜41上に設けられた接合膜31とを有する接合膜付き基材1と、基板22と、この基板22上に設けられた下地膜42と、この下地膜42上に設けられた接合膜42とを有する接合膜付き基材1とを用いるものとする。
【0137】
[2]次に、図7(b)に示すように、2枚の接合膜付き基材1の各接合膜31、32に対して、それぞれエネルギーを付与する。各接合膜31、32にエネルギーが付与されると、各接合膜31、32では、図4に示す脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には、図5に示すように、各接合膜31、32の表面35および内部に活性手304が生じ、各接合膜31、32が活性化される。これにより、各接合膜31、32にそれぞれ接着性が発現する。
【0138】
このような状態の2枚の接合膜付き基材1は、それぞれ互いに接着可能なものとなる。
なお、エネルギー付与方法としては、前記第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
ここで、接合膜3を「活性化させる」とは、前述したように、各接合膜31、32の表面351、352および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301に終端化されていない結合手(未結合手)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
したがって、活性手304とは、未結合手または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。
【0139】
[3]次に、図7(c)に示すように、接着性が発現した各接合膜3同士が密着するように、2枚の接合膜付き基材1同士を貼り合わせ、接合体10aを得る。
このように、本実施形態では、接合される部材(基板21および基板22)がいずれも接合面側に、前述したような下地膜(下地膜41、42)、および接合膜(接合膜31、32)が設けられたものである。このように、本実施形態では、基板21に対してのみではなく、基板21の被着体としての基板22に対しても、その表面の凹凸を緩和する下地膜42が設けられたものである。その結果、得られる接合体10aの寸法精度を極めて高いものとすることができる。また、このような構成の接合体10aでは、被着体(基板22)として、接合面の平滑性が乏しいものを用いた場合でも、基板21と被着体(基板22)とを高い寸法精度で強固に接合することができる。
ここで、本工程において、2枚の接合膜付き基材1同士を接合するが、この接合は、以下のような2つのメカニズム(i)、(ii)の双方または一方に基づくものであると推察される。
【0140】
(i)例えば、各接合膜31、32の表面351、352に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、各接合膜31、32同士が密着するように、2枚の接合膜付き基材1同士を貼り合わせたとき、各接合膜付き基材1の接合膜31、32の表面351、352に存在する水酸基同士が、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、2枚の接合膜付き基材1同士が接合されると推察される。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、2枚の接合膜付き基材1同士の間では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、2枚の接合膜付き基材1同士がより強固に接合されると推察される。
【0141】
(ii)2枚の接合膜付き基材1同士を貼り合わせると、各接合膜31、32の表面351、352や内部に生じた終端化されていない結合手(未結合手)同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成される。これにより、各接合膜31、32を構成するそれぞれの母材(Si骨格301)同士が直接接合して、各接合膜31、32同士が一体化する。
以上のような(i)または(ii)のメカニズムにより、図7(d)に示すような接合体10が得られる。
【0142】
なお、接合体10aを得た後、この接合体10aに対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[4A]、[4B]および[4C]のうちの少なくとも1つの工程を行うようにしてもよい。
例えば、図8(e)に示すように、接合体10aを加圧しつつ、加熱することにより、接合体10aの各基板21、22同士がより近接する。これにより、各接合膜31、32の界面における水酸基の脱水縮合や未結合手同士の再結合が促進される。そして、各接合膜31、32同士の一体化がより進行する。その結果、図8(f)に示すように、ほぼ完全に一体化された接合膜30を有する接合体10a’が得られる。
【0143】
以上のような前記各実施形態にかかる接合方法は、種々の複数の部材同士を接合するのに用いることができる。
このような接合に供される部材としては、例えば、トランジスタ、ダイオード、メモリのような半導体素子、水晶発振子のような圧電素子、反射鏡、光学レンズ、回折格子、光学フィルターのような光学素子、太陽電池のような光電変換素子、半導体基板とそれに搭載される半導体素子、絶縁性基板と配線または電極、インクジェット式記録ヘッド、マイクロリアクタ、マイクロミラーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、圧力センサ、加速度センサのようなセンサ部品、半導体素子や電子部品のパッケージ部品、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、光記録媒体のような記録媒体、液晶表示素子、有機EL素子、電気泳動表示素子のような表示素子用部品、燃料電池用部品等が挙げられる。
【0144】
<液滴吐出ヘッド>
ここでは、本発明の接合体をインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の実施形態について説明する。
図9は、本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図、図10は、図9に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図、図11は、図9に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、図9は、通常使用される状態とは、上下逆に示されている。
【0145】
図9に示すインクジェット式記録ヘッド60は、図11に示すようなインクジェットプリンタ9に搭載されている。
図11に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
【0146】
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
【0147】
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
【0148】
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔111を備えるインクジェット式記録ヘッド60(以下、単に「ヘッド60」と言う。)と、ヘッド60にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド60およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
【0149】
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド60から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0150】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0151】
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、圧電素子(振動源)14を駆動して、インクの吐出タイミングを制御する圧電素子駆動回路、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
【0152】
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により圧電素子14、印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
【0153】
以下、ヘッド60について、図9および図10を参照しつつ詳述する。
ヘッド60は、ノズル板11と、インク室基板12と、振動板13と、振動板13に接合された圧電素子(振動源)14とを備えるヘッド本体17と、このヘッド本体17を収納する基体16とを有している。なお、このヘッド60は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成する。
【0154】
ノズル板11は、例えば、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物系材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料等で構成されている。
このノズル板11には、インク滴を吐出するための多数のノズル孔111が形成されている。これらのノズル孔111間のピッチは、印刷精度に応じて適宜設定される。
【0155】
ノズル板11には、インク室基板12が固着(固定)されている。
このインク室基板12は、ノズル板11、側壁(隔壁)122および後述する振動板13により、複数のインク室(キャビティ、圧力室)121と、インクカートリッジ931から供給されるインクを貯留するリザーバ室123と、リザーバ室123から各インク室121に、それぞれインクを供給する供給口124とが区画形成されている。
【0156】
各インク室121は、それぞれ短冊状(直方体状)に形成され、各ノズル孔111に対応して配設されている。各インク室121は、後述する振動板13の振動により容積可変であり、この容積変化により、インクを吐出するよう構成されている。
インク室基板12を得るための母材としては、例えば、シリコン単結晶基板、各種ガラス基板、各種樹脂基板等を用いることができる。これらの基板は、いずれも汎用的な基板であるので、これらの基板を用いることにより、ヘッド60の製造コストを低減することができる。
【0157】
一方、インク室基板12のノズル板11と反対側には、振動板13が接合され、さらに振動板13のインク室基板12と反対側には、複数の圧電素子14が設けられている。
また、振動板13の所定位置には、振動板13の厚さ方向に貫通して連通孔131が形成されている。この連通孔131を介して、前述したインクカートリッジ931からリザーバ室123に、インクが供給可能となっている。
【0158】
各圧電素子14は、それぞれ、下部電極142と上部電極141との間に圧電体層143を介挿してなり、各インク室121のほぼ中央部に対応して配設されている。各圧電素子14は、圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。
各圧電素子14は、それぞれ、振動源として機能し、振動板13は、圧電素子14の振動により振動し、インク室121の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
【0159】
基体16は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で構成されており、この基体16にノズル板11が固定、支持されている。すなわち、基体16が備える凹部161に、ヘッド本体17を収納した状態で、凹部161の外周部に形成された段差162によりノズル板11の縁部を支持する。
以上のような、ノズル板11とインク室基板12との接合体、インク室基板12と振動板13との接合体、およびノズル板11と基体16との接合体のうち、少なくとも1箇所において本発明の接合体が適用されている。
【0160】
このようなヘッド60は、接合部の接合界面の接合強度および耐薬品性が高くなっており、これにより、各インク室121に貯留されたインクに対する耐久性および液密性が高くなっている。その結果、ヘッド60は、信頼性の高いものとなる。さらに、各接合体に供される部材同士を強固に接合することができるとともに、かかる部材同士を高い寸法精度で接合することができる。その結果、高精度なヘッド60の設計を容易に図ることができる。
【0161】
また、非常に低温で信頼性の高い接合ができるため、線膨張係数の異なる材料でも大面積のヘッドができる点でも有利である。
このようなヘッド60は、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体層143に変形が生じない。このため、振動板13にも変形が生じず、インク室121には容積変化が生じない。したがって、ノズル孔111からインク滴は吐出されない。
【0162】
一方、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に一定電圧が印加された状態では、圧電体層143に変形が生じる。これにより、振動板13が大きくたわみ、インク室121の容積変化が生じる。このとき、インク室121内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔111からインク滴が吐出される。
【0163】
1回のインクの吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極142と上部電極141との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子14は、ほぼ元の形状に戻り、インク室121の容積が増大する。なお、このとき、インクには、インクカートリッジ931からノズル孔111へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気がノズル孔111からインク室121へ入り込むことが防止され、インクの吐出量に見合った量のインクがインクカートリッジ931(リザーバ室123)からインク室121へ供給される。
【0164】
このようにして、ヘッド60において、印刷させたい位置の圧電素子14に、圧電素子駆動回路を介して吐出信号を順次入力することにより、任意の(所望の)文字や図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド60は、圧電素子14の代わりに電気熱変換素子を有していてもよい。つまり、ヘッド60は、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出する構成(いわゆる、「バブルジェット方式」(「バブルジェット」は登録商標))のものであってもよい。
【0165】
かかる構成のヘッド60において、ノズル板11には、撥液性を付与することを目的に形成された被膜114が設けられている。これにより、ノズル孔111からインク滴が吐出される際に、このノズル孔111の周辺にインク滴が残存するのを確実に防止することができる。その結果、ノズル孔111から吐出されたインク滴を目的とする領域に確実に着弾させることができる。
【0166】
以上、本発明の接合膜付き基材および接合体を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の接合体は、前記各実施形態のうち、任意の1つまたは2つ以上を組み合わせたものであってもよい。
また、前記第2実施形態では、2つの接合膜付き基材同士を接合して接合体を得るものとして説明したが、2つの接合膜付き基材のうちのどちらかは、接合膜付き基材として、下地膜を備えていないものであってもよい。すなわち、本発明の接合膜付き基材と、基板と、基板上に下地膜を設けることなく直接接合膜を設けた接合膜付き基材とを、お互いの接合膜が重なるようにして接合してなる接合体であってもよい。
また、前記各実施形態では、基板と対向基板の2枚の基材を接合する方法について説明しているが、3枚以上の基材を接合する場合に、本発明の接合膜付き基材および本発明の接合方法を用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】本発明の接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図4】本発明の接合膜付き基材が備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図5】本発明の接合膜付き基材が備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図6】下地膜上にプラズマ重合法を用いて接合膜を作製する際に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。
【図7】本発明の接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】本発明の接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図9】本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図である。
【図10】図9に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図である。
【図11】図9に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0168】
1……接合膜付き基材 2、21、22……基板 25……表面 3、30、31、32……接合膜 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 35、351、352……表面 4、41、42……下地膜 40……液状被膜 44…液滴 45……表面 5……対向基板 10、10a、10a’……接合体 100……プラズマ重合装置 101……チャンバー 102……接地線 103……供給口 104……排気口 130……第1の電極 139……静電チャック 170……ポンプ 171……圧力制御機構 180……電源回路 182……高周波電源 183……マッチングボックス 184……配線 190……ガス供給部 191……貯液部 192……気化装置 193……ガスボンベ 194……配管 195……拡散板 60……インクジェット式記録ヘッド 11……ノズル板 111……ノズル孔 114……被膜 12……インク室基板 121……インク室 122……側壁 123……リザーバ室 124……供給口 13……振動板 131……連通孔 14……圧電素子 140……第2の電極 141……上部電極 142……下部電極 143……圧電体層 16……基体 161……凹部 162……段差 17……ヘッド本体 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
シリコーン材料を含有する液状材料を用いて、前記基材上に成膜された下地膜と、
シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含み、気相成膜法を用いて前記下地膜上に成膜された接合膜とを有し、
前記接合膜は、当該接合膜の少なくとも一部の領域にエネルギーを付与し、前記接合膜の少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより、前記接合膜の表面の前記領域に、他の被着体との接着性が発現するものであることを特徴とする接合膜付き基材。
【請求項2】
前記基材は、該基材の前記下地膜が設けられる面側の表面の表面粗さRz(JIS B 0601で規定)が、50〜500nmである請求項1に記載の接合膜付き基材。
【請求項3】
前記下地膜は、該下地膜の前記接合膜が設けられる面側の表面の表面粗さRz(JIS B 0601で規定)が、30nm未満である請求項1または2に記載の接合膜付き基材。
【請求項4】
前記基材の前記下地膜が設けられた面側の表面の表面粗さRz(JIS B 0601で規定)をR[nm]、前記下地膜の平均厚さをT[nm]としたとき、2≦T/Rの関係を満足するものである請求項1ないし3のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項5】
前記下地膜の平均厚さは、100nm〜10μmである請求項1ないし4のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項6】
前記下地膜は、前記エネルギーの付与によって、接着性を発現するものである請求項1ないし5のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項7】
前記下地膜は、前記シリコーン材料を含有する液状材料を前記基材上に供給することにより液状被膜を形成し、前記液状被膜を乾燥することにより形成されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項8】
前記シリコーン材料は、その主骨格がポリジメチルシロキサンで構成される請求項1ないし7のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項9】
前記シリコーン材料は、シラノール基を有する請求項1ないし8のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項10】
前記気相成膜法は、プラズマ重合法である請求項1ないし9のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項11】
前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されている請求項10に記載の接合膜付き基材。
【請求項12】
前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものである請求項11に記載の接合膜付き基材。
【請求項13】
前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmである請求項1ないし12のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項14】
前記基材の少なくとも前記下地膜を形成する部分は、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されている請求項1ないし13のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項15】
前記基材の前記下地膜を備える面には、あらかじめ、前記下地膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項1ないし14のいずれかに記載の接合膜付き基材。
【請求項16】
前記表面処理は、プラズマ処理または紫外線照射処理である請求項15に記載の接合膜付き基材。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかに記載の接合膜付き基材と、被着体とを有し、
これらを、前記接合膜を介して接合してなることを特徴とする接合体。
【請求項18】
請求項1ないし16のいずれかに記載の接合膜付き基材を2枚有し、
これらを、前記接合膜同士を対向させて接合してなることを特徴とする接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−285886(P2009−285886A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138469(P2008−138469)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】