説明

接着剤層の形成方法、及び接着剤組成物

【課題】薄膜の接着剤層を安定して形成することができる接着剤層の形成方法を提供する。また、接着剤付き半導体チップを熱圧着する際に、空隙(ボイド)を発生しない、あるいは空隙(ボイド)が発生してもパッケージ化されるまでにボイドが消失又は微小化する熱硬化性組成物を提供する。
【解決手段】被接着面上に、熱硬化性組成物及び有機溶媒を含む接着剤組成物を非接触型の塗付装置を用いて選択的に塗布する塗布工程と、前記被接着面上に塗布された前記接着剤組成物の溶媒を除去する溶媒除去工程とを有する接着剤層形成方法であって、前記熱硬化性組成物が反応温度の異なる2種類の硬化性を有することを特徴とする接着剤層の形成方法であって、前記接着剤組成物は、エポシキ樹脂と、エポキシ硬化剤との反応からなり、100〜160℃にDSCピークを有する第1の硬化反応と、エポシキ樹脂の自己重合反応からなり、140〜200℃にDSCピークを有する第2の硬化反応とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子に接着剤層を形成するのに適した接着剤層の形成方法であり、それに使用される接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被接着面上への接着剤層の形成は、接着剤組成物を被接着面上に形成することにより行われるが、接着剤組成物の塗付方法は、被接着面として用いられるものの材質や形状、あるいは接着剤の種類等により適宜選択されるものである。
【0003】
近年、半導体素子を使用したデジタル機器やモバイル機器は、その多機能化のみならず小型化や軽量化が急速に進んでいる。使用される半導体製品の小型化、軽量化は半導体パッケージの薄型化だけではなく、内装される半導体素子そのものの薄型化が求められるようになった。現在、半導体素子の薄型化はダイシングにより小片化される前段階でシリコンウェハーを研削しているが、その素子厚は100マイクロメートル以下、数十マイクロメートルまで極薄となっている。このため、半導体素子を従来の金属フレームや有機基板に接着させる接着剤層の厚みが半導体製品の薄型化に大きな影響を与えるようになっている。
【0004】
従来、この接着剤層の形成には、例えば液状接着剤の場合にはディスペンス方式やスタンピング方式によって接着剤組成物を塗布する方法が取られてきた。
【0005】
しかしながら、近年のデジタル機器における高機能化に伴い、複数の機能をもつ半導体素子を積層構造で実装する工法や、メモリーの大容量化に実現するための、メモリー素子の多段積層工法においては、上記の接着剤組成物の塗布方法では技術的に解決できない問題があった。
【0006】
すなわち、極薄の半導体素子の積層構造や多段積層化においては、薄型化により半導体素子の反りが生じ、半導体素子を接着させる際に、あるいは接着剤付き半導体素子を熱圧着により接着させる際に空気の巻込みが起きて接着剤層界面又は接着剤層中に空隙(ボイド)が発生し、製品歩留まりが悪化するという問題があった(例えば、特許文献1及び2等参照)。
【0007】
さらに、根本的な問題として、ディスペンス、スタンピング等の方法においては、接着剤層の厚さを数um程度の薄膜として形成することが困難であり、また、塗付量にもバラツキが生じ易く、安定して均一な接着剤層を形成することが技術的に困難であった。
【0008】
これらの問題を解決するためにフィルム状の接着シートも開発されており、多段積層によって大容量化が進むフラッシュメモリーの製品において大きな功績を挙げている。フィルム状接着シートはフィルム作製の段階で接着剤層の厚みを均一に制御できるばかりでなく、比較的薄い接着剤層が形成可能である。しかし、前述の極薄素子に対応できる数マイクロメートルのフィルムを均一な厚みでシート化することは困難で、また、数マイクロメートルのフィルム状接着シートはシリコンウェハーや半導体素子に直接貼り付けるにはハンドリング性が悪く現実的ではない。更には、そのような非常に薄いフィルム状接着シートの製造には従来以上のコストが必要である等、諸々の課題が残っている。
【0009】
一方で半導体製品の多機能化における、複数の半導体素子の積層構造による機能複合化、複数素子の多段積層化による高容量化は、双方共に半導体素子同士の接着技術が重要となるわけであるが、この半導体素子同士の接着工程において、その後のワイヤーボンディング工程あるいはフリップチップ実装工程において、その接着位置精度は大変重要である。
【0010】
接着位置の精度は、塗布する接着剤の塗布位置精度が最も影響すると考えられる。本来は設計通りの接着位置に対して、高精度に接着剤の塗布をすることが必要である。被接着機材となるリードフレームや有機基板、あるいは半導体素子上の任意の位置に接着剤を塗布する方法としてはスクリーン印刷方法が考えられるが、この場合、接着剤層の厚さが数マイクロメートル程度の薄膜塗付は困難で、また、接着剤層形成の操作において、スクリーンメッシュやスキージなどの装置部品が接着剤層の形成面に触れることから、基板が極薄のシリコンウェハーや小片化された半導体素子等の場合は、基板自体を破損してしまう危険性が生じる等の問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−270282号
【特許文献2】特開2008−288571号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、このような各種の接着剤層の形成方法、すなわち、ディスペンス、スタンピング、フィルム状シート、スクリーン印刷方法等の持つ欠点を克服し、薄膜の接着剤層を安定して形成することができる接着剤層の形成方法を提供しようとするものである。
【0013】
また、形成された接着剤付き半導体チップを熱圧着する際に、空隙(ボイド)を発生しない、あるいは空隙(ボイド)が発生してもパッケージ化されるまでにボイドが消失又は微小化する熱硬化性組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、接着剤層の熱硬化過程において、低温側での反応を主とする硬化性と高温側での反応を主とする硬化性の2つの硬化反応性を有する組成物及び有機溶媒を含む接着剤組成物を用いて、塗布精度の高い非接触型の塗付装置により塗布を行ったことで、これら問題点を解消することができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明の接着剤層の形成方法は、被接着面上に、反応温度の異なる2つの硬化反応性を有する組成物及び有機溶媒を含む接着剤組成物を、塗布精度の高い非接触型の塗付装置を用いて選択的に塗布する塗布工程と、被接着面上に塗付された接着性剤組成物の有機溶媒を除去する溶媒除去工程を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の接着剤層の形成方法によれば、ディスペンス、スタンピング、フィルム状シート、スクリーン印刷方法等の持つ欠点を克服し、薄膜の接着剤層を安定して形成することができる。また、これを電子工業分野、半導体産業分野などの精密な塗布位置精度が求められる分野に適用すれば、高度のパターンニング性、優れた接着力と耐熱性、塗布膜の平坦性、有機溶剤乾燥工程あるいはBステージ化でのタックフリー性、耐湿信頼性、硬化時のボイド防止など、産業用途に必要とされる優れた性質を付加しながら、接着剤層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、半導体装置の製造工程に関して簡単に説明する。ここで、半導体装置の製造工程には、いわゆる前工程における成膜・レジスト塗布・露光・現像・エッチング・レジスト除去などによりウェハーの表面に回路パターンを形成する工程、検査工程、洗浄工程、熱処理工程、不純物導入工程、拡散工程、平坦化工程などがある。また、いわゆる後工程においては、塗布工程、ダイシング工程、ダイボンディング工程、ワイヤーボンディング工程、封止工程などの組立工程、機能や信頼性の検査を行う検査工程などがある。
【0018】
本発明に係る接着剤層は、半導体装置の組立工程のダイボンディング工程で半導体素子を積層する際に用いられる接着剤の接着組成物に用いられるものである。
【0019】
まず、本発明の接着剤層を用いた半導体装置の組立工程に関して説明する。まず、塗布工程において、非接触型の塗布装置を用いて半導体素子(ウェハー)の裏面(回路パターンが形成された面と相対向する面)に接着剤組成物を付着させる。
【0020】
ここで、非接触型の塗付装置には、例えば、塗布方式、インクジェット法、スプレー法、霧状の塗布方式、ロールコーター法、スクリーン印刷法、ジェットディスペンス方式、スキージ方式などが挙げられる。なお、半導体素子と非接触な状態で接合剤を膜状に付着させることができるインクジェット法、スプレー法とすることが好ましく、均一な厚みの薄い膜を形成することができるインクジェット法とすることがより好ましい。インクジェット法では、接着剤組成物が非接触型の塗布装置に取り付けられた吐出ノズルで半導体素子の裏面に吐出され、膜状の接着剤層を形成する。
【0021】
次に、Bステージ化工程において、オーブンなどで熱を加え、半導体素子の裏面に形成した接着剤層を半硬化状態(Bステージ状態)にする。この工程を加える事により、常温では接着剤層は他の部材と接触したとしても接合せず、かつ、接着剤層をそのまま保持できる。
【0022】
次に、ダイシング工程において、上述した複数の半導体素子の接着剤層が形成されたウェハーをダイシングして裏面に接着剤層が形成された半導体素子を含むチップを得ることができる。なお、この場合に限定されることなく、例えば、いわゆる先ダイシングを行い、ダイシングされたウェハーの裏面に接着剤層を形成することで半導体素子の裏面に接着剤層が形成された半導体素子を含むチップを得るようにしてもよい。
【0023】
次にダイボンディング工程において、形成された接着剤層を用いて半導体素子と基材、または、半導体素子と半導体素子との接合を行う。ダイボンディング工程は、例えば、基材の上に接着剤層を介して半導体素子を接合させる場合には、加熱されたステージの上に基材をバキュームなどで保持し、又はコレットにより半導体素子を基材上に保持し両者を加熱、圧着させることにより行われる。
【0024】
次に、ワイヤーボンディング工程において、半導体素子の表面に配置された電極と基材の表面に配置された電極をワイヤーで接続する。ワイヤーボンディング工程は、例えば、ボンディングアームの先端部に取り付けられたキャピラリに挿入されたワイヤーを電極に押し当て、超音波振動による熱で電極とワイヤーを接続することにより行われる。
【0025】
次に、封止工程において、基材及び半導体素子を絶縁樹脂で覆う。封止工程は、例えば、固定型と可動型とで形成されたキャビティ内に半導体素子が接合された基材、あるいは接合された一対の半導体素子などが配置され、さらに溶融化された樹脂がキャビティ内に注入充填され、上記固定型及び可動型で加圧されるとともに加熱が行われる。このような工程を経ることにより本発明の接着剤層を用いた半導体装置が製造される。
【0026】
なお、それぞれの工程の間に、接着剤層の硬化をおこなうための加熱処理を行うこともできる。例えば、硬度調整のため、前述したマウンティング工程とワイヤーボンディング工程との間において、加熱炉などを用いて行うようにすることができる。加熱炉としては、例えば、プリキュア(Precure)を行うキュア炉などとすることができる。
【0027】
次に、本発明の接着剤組成物を用いる塗布工程等について詳述する。
【0028】
(塗布工程)
本発明では、有機溶媒に熱硬化性組成物を溶解させた接着剤組成物は、非接触型の塗付装置から吐出させる際に、微細な吐出ノズルにより所望の位置に接着剤組成物を形成するようにするものであり、吐出ノズルにおいてノズルの目詰まりを生じさせないように、25℃における粘度を100mPa・s以下とすること、特に5〜50mPa・sの範囲にすることが好ましい。この粘度は、接着剤組成物の有機溶媒と熱硬化剤組成物の量により調整することができる
【0029】
また、接着剤組成物中の熱硬化性組成物の含有量が5〜50質量%であることが好ましい。5質量%未満であると所望する厚さの接着剤層形成に必要な塗布量が多くなり、また乾燥時間も長くにかかるようになり生産効率が悪化する、また50質量%を超えると溶液粘度が十分に下げられず、吐出ノズルの目詰まりの原因となる。
【0030】
次に、有機溶媒の除去工程により、塗付工程により被接着面上に形成された接着剤組成物から、含まれる有機溶媒を除去して接着剤層を形成する。ここで、接着剤組成物から有機溶媒を除去するが、本発明で用いている有機溶媒は揮発性のある溶媒であるため、加熱することにより容易に乾燥し、除去することができる。
【0031】
有機溶剤を乾燥、除去させるための加熱の方法は、含まれる溶媒が揮発して、接着剤組成物から効率よく除去されればよく、例えば、周囲から熱を加えたり、被接着面自体から熱を加えたりして溶媒を揮発させることができる装置であげればよい。接着面自体、例えば、ウェハー自体を加熱しておくことにより塗布を行なった直後から溶媒除去が始まり、効率よく接着剤層を形成することもできる。
【0032】
(Bステージ化工程)
このように接着剤組成物から溶媒が除去され接着剤層が形成されるが、このとき、接着剤層は、さらにこの被接着面を他の接着面と合わせて接合するものであるから、その機能を発揮できる状態でなければならない。即ち、有機溶媒の乾燥、除去時工程では有機溶媒の揮発は完結するが、熱硬化成分における硬化反応が十分に起こらない範囲、いわゆる、熱硬化成分のBステージ状態で止めることが必要である。
【0033】
溶媒除去工程においては、用いる接着剤組成物の性質によっても異なるが、一般的には、40〜120℃の温度で1〜180分間加熱することにより、上記Bステージ状態を形成することができ、接着剤層付きの半導体素子(チップ)を作ることが可能となる。
【0034】
(ダイボンディング工程)
このように形成された接着剤層付き半導体素子は、有機基板若しくは無機基板、又は積層あるいは多段積層工程において別の半導体素子上に熱圧着される。この時の熱圧着温度は60〜200℃であることが好ましく、70〜180℃であることが更に好ましい。70℃以下であると非接着体に対する濡れ性が不十分のため空隙(ボイド)発生の原因となり耐湿信頼性に問題が生じ、200℃以上であると樹脂粘度が低下するため熱圧着時に半導体素子の積層位置がずれや接着剤のはみだしの原因となる。
【0035】
本発明は、2つの硬化温度において反応する組成物からなり、低温側ではエポキシ樹脂とエポキシ硬化剤との反応からなり、高温側でエポキシ樹脂の自己重合反応が進行するが、2つの硬化温度における反応は示差走査熱量計で測定することができ、反応ピーク温度が低温側と高温側とで20℃以上離れていることが必須である。
【0036】
Bステージ化された接着剤層の硬化反応は、100℃〜160℃に示差走査熱量測定(DSC)ピーク(低温側ピーク)を有するエポキシ樹脂、エポキシ硬化剤、及び硬化促進剤を含む熱硬化性組成物であり、接着剤付き半導体素子の積層後に更に加熱することで熱硬化性樹脂の反応が進行し、積層したリードフレームあるいは有機基板または半導体素子同士を強固に接着させることが出来る。
【0037】
(ワイヤーボンディング工程)
基板、例えば、有機基板に配置された電極と半導体素子の表面に配置された電極とがワイヤーによって電気的に接続されるワイヤーボンディング工程においては、ワイヤー流れを防止するため、樹脂の硬化性を進めておくことが必要である。樹脂の硬化が足りないとワイヤーボンディング時の超音波振動が減衰してしまいボンディングワイヤーの接合不良、接合強度不足などの不具合が発生するおそれがある。
【0038】
ここで、エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を使用することができる。
【0039】
また、エポキシ硬化剤としては、通常、エポキシ樹脂の硬化に使用されている化合物であれば特に制限なく使用でき、例えば、アミン硬化系としては、ジシアンジアミド、芳香族ジアミン等が挙げられ、フェノール硬化系としてはフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、トリアジン変性フェノールノボラック樹脂等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができるが、耐熱性、耐湿信頼性等の観点からフェノール系硬化剤が好ましい。
【0040】
エポキシ樹脂とフェノール系硬化剤の配合比は、エポキシ樹脂のエポキシ当量とフェノール系硬化剤の水酸基当量比が0.1〜1.2であることが好ましく、0.3〜1.0であることが更に好ましい。0.1未満では硬化性が不十分であり、1.2を超えると高温側での反応性が失われ、封止剤モールド時の空隙(ボイド)の消失または微小化に適さない。
【0041】
また、硬化促進剤としては、通常、エポキシ樹脂の硬化促進剤に使用されているものが使用でき、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、三フッ化ホウ素アミン錯体、トリフェニルホスフィン(TPP)、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の3級アミン化合物等が挙げられる。これらの硬化促進剤は単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0042】
また、本発明の接着剤組成物は、エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤、硬化促進剤の他に有機溶媒、シランカップリング剤、界面活性剤等を構成成分として含むことができる。
【0043】
有機溶媒としては、熱硬化性組成物を溶解できるものであれば、特に限定されずに用いることができるが、非接触型の塗付装置を用いる際の、接着性樹脂溶液を吐出する吐出ノズルが詰まらないように、沸点120℃以上の溶剤であることが望ましい。
【0044】
具体的な溶剤としては、ジグライム、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−エトキシプロピオン酸エチル、ガンマーブチロラクトン等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0045】
そして、シランカップリング剤としては、エポキシシラン、アクリルシラン等のシランカップリング剤が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0046】
また、被接着体へ接着剤組成物を塗布する際に、濡れ性を向上させるために界面活性剤を使用することができる。界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0047】
一方、熱硬化性組成物は、140〜200℃にDSCピークを有し(高温側ピーク)、半導体素子を有機基板または半導体素子へ積層後の硬化工程から封止剤のモールド工程で反応が進行する。なお、低温側ピークの温度範囲と高温側ピークの温度範囲は一部重複するが、具体的な熱硬化性組成物では、高温側ピークは低温側ピークよりも高い温度に現れる。
【0048】
このような高温側での反応は、エポキシ樹脂の自己重合反応であり、硬化が徐々に進行し、最終的に硬化が必要とされるまで、例えば封止剤のモールド工程が終了するまで硬化が完全に進行しないまま残される必要がある。
【0049】
このモールド工程時に硬化性が残っていることにより、モールド時の保持圧力によって接着剤層が再接着し、空隙(ボイド)があった場合でもボイドの消失または微小化に寄与することになる。
【0050】
(封止工程(モールド工程))
電気的に接続された基板と半導体素子はモールド工程で絶縁樹脂により封止され、高温で硬化が行なわれる。この時の温度は概ね180℃であり、半導体パッケージ内に配置あるいは積層された接着剤付き半導体素子の接着剤の硬化がさらに進行する。モールド工程では圧力がかかり、圧力がかかった状態で熱履歴が加わるため、接着剤の反応が進行し、接着剤層界面又は接着剤層内に空隙(ボイド)がある場合、空隙(ボイド)が消失、または微小化する。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0052】
(実施例1)
接着剤組成物は、エポキシ樹脂としてjER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製)100質量部、エポキシ用硬化剤としてフェノール樹脂のBRG―556(昭和高分子株式会社製)10質量部、シランカップリング剤としてKBM403(信越化学工業株式会社製)2質量部、硬化促進剤として2E4MZ(四国化成工業株式会社製)0.2質量部およびU−CAT SA 102(サンアプロ株式会社製)1.5部、界面活性剤としてBYK−302(ビックケミー・ジャパン社製)0.2質量部、有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(GBL、三菱化学株式会社製)400質量部を混合し、60℃で加熱溶解して作製した。こうして得られた接着剤組成物は、25℃における粘度が12mPa・sであり、樹脂分が22質量%であった。
【0053】
この接着剤組成物中の熱硬化性組成物を示差走査熱量計(セイコーインスツルメント製、型式:EXATAR6000、昇温スピード:10℃/分)で測定したところ、反応ピークが135℃と161℃であり、高温側と低温側の反応ピークの温度差が26℃であった。
【0054】
また、半導体素子及び有機基板間の薄層の接着剤層を選択的に形成するために、インクジェット装置(ピエゾ式、ノズル径70μmφ、ノズル間隔0.4mm)を用い、200mm径で厚み100μmのシリコンウェハーを、裏面を上にして温度を70℃にした塗付ステージにセットした。
【0055】
次いで、上記接着剤組成物をインクジェット装置で、塗付した。その塗布したウェハーを90℃で60分間乾燥させた後で、膜厚測定を行なったところ、膜厚は9.8μmであった。上記接着剤組成物を塗布したウェハーを10mm角にダイシング後、0.3mm厚みの有機パッケージ基板上に、得られたチップを150℃に加熱し、2.0Nの圧力で2段圧着積層し、150℃で1時間硬化した。この時層間に空隙(ボイド)が巻き込まれる。
【0056】
硬化後、封止材料のKE−G1250(京セラケミカル株式会社製)で0.8mm厚に封止し、175℃で8時間硬化後、吸湿リフロー試験を行った。結果を表1に示す。JEDECレベル3の吸湿処理後の260℃でのリフロー試験後の状態を超音波映像装置(株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス)で観察を行った結果、空隙(ボイド)および剥離の発生は確認できず問題なかった。
【0057】
(実施例2)
接着剤組成物は、エポキシ樹脂としてjER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製)80質量部、EOCN103S(日本化薬株式会社製)20質量部、エポキシ用硬化剤としてフェノール樹脂のBRG―556(昭和高分子株式会社製)10質量部、シランカップリング剤としてKBM403(信越化学工業株式会社製)2質量部、硬化促進剤として1B2PZ(四国化成工業株式会社製)0.2質量部およびU−CAT SA 102(サンアプロ株式会社製)1.5質量部、界面活性剤としてBYK−302(ビックケミー・ジャパン社製)0.2質量部、有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(三菱化学株式会社製)400質量部を混合し、60℃で加熱溶解して作製した。こうして得られた接着剤組成物は、25℃における粘度が14mPa・sであり、樹脂分が22質量%であった。
【0058】
実施例1の接着剤組成物の変わりに上記接着剤組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様に接着剤の塗布及び評価を行った。
【0059】
(実施例3)
接着剤組成物は、エポキシ樹脂としてjER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)100質量部、エポキシ用硬化剤としてMEH−7800SS(明和化成株式会社製)20質量部、シランカップリング剤としてKBM403(信越化学工業社製、商品名)2質量部、硬化促進剤として2E4MZ(四国化成社製、商品名)0.1質量部およびU−CAT SA1(サンアプロ株式会社製)1.0質量部、界面活性剤としてBYK−302(ビックケミー・ジャパン社製)0.2質量部、有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(三菱化学株式会社製)400質量部を混合し、60℃で加熱溶解して作製した。こうして得られた接着剤組成物は、25℃における粘度が18mPa・sであり、樹脂分が24質量%であった。
【0060】
実施例1の接着剤組成物の変わりに上記接着剤組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様に接着剤の塗布及び評価を行った。
【0061】
(実施例4)
接着剤組成物は、エポキシ樹脂としてjER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)80質量部、EOCN103S(日本化薬株式会社製)20質量部、エポキシ用硬化剤としてMEH−7800SS(明和化成株式会社製)15質量部、シランカップリング剤としてKBM403(信越化学工業社製、商品名)2質量部、硬化促進剤として1B2PZ(四国化成社製、商品名)0.1質量部およびU−CAT SA1(サンアプロ株式会社製)1.0質量部、界面活性剤としてBYK−302(ビックケミー・ジャパン社製)0.2質量部、有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(三菱化学株式会社製)400質量部を混合し、60℃で加熱溶解して作製した。こうして得られた接着剤組成物は、25℃における粘度が18mPa・sであり、樹脂分が24質量%であった。
【0062】
実施例1の接着剤組成物の変わりに上記接着剤組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様に接着剤の塗布及び評価を行った。
【0063】
(実施例5)
接着剤組成物は、エポキシ樹脂としてjER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製)100質量部、エポキシ用硬化剤としてフェノール樹脂のBRG―556(昭和高分子株式会社製)10質量部、シランカップリング剤としてKBM403(信越化学工業株式会社製)2質量部、硬化促進剤として1B2PZ(四国化成工業株式会社製)0.2質量部およびトリフェニルホスフィン(ケイ・アイ化成製)1.0質量部、界面活性剤としてBYK−302(ビックケミー・ジャパン社製)0.2質量部、有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(三菱化学株式会社製)400質量部を混合し、60℃で加熱溶解して作製した。こうして得られた接着剤組成物は、25℃における粘度が13mPa・sであり、樹脂分が22質量%であった。
【0064】
実施例1の接着剤組成物の変わりに上記接着剤組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様に接着剤の塗布及び評価を行った。
【0065】
(実施例6)
接着剤組成物は、エポキシ樹脂としてjER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製)100質量部、エポキシ用硬化剤として芳香族アミン系のCUA−4(イハラケミカル株式会社製)20質量部、シランカップリング剤としてKBM403(信越化学工業株式会社製)2質量部、硬化促進剤として2E4MZ(四国化成工業株式会社製)0.2質量部およびトリフェニルホスフィン(ケイ・アイ化成製)1.0質量部、界面活性剤としてBYK−302(ビックケミー・ジャパン社製)0.2質量部、有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(三菱化学株式会社製)400質量部を混合し、60℃で加熱溶解して作製した。こうして得られた接着剤組成物は、25℃における粘度が12mPa・sであり、樹脂分が22質量%であった。
【0066】
実施例1の接着剤組成物の変わりに上記接着剤組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様に接着剤の塗布及び評価を行った。
【0067】
(実施例7)
接着剤組成物は、エポキシ樹脂としてjER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製)100質量部、エポキシ用硬化剤としてフェノール樹脂のBRG―556(昭和高分子株式会社製)10質量部、シランカップリング剤としてKBM403(信越化学工業株式会社製)2質量部、硬化促進剤として1B2PZ(四国化成工業株式会社製)0.2質量部およびAC4B50(ステラケミファ製)3.0質量部、界面活性剤としてBYK−302(ビックケミー・ジャパン社製)0.2質量部、有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(三菱化学株式会社製)400質量部を混合し、60℃で加熱溶解して作製した。こうして得られた接着剤組成物は、25℃における粘度が13mPa・sであり、樹脂分が22質量%であった。
【0068】
実施例1の接着剤組成物の変わりに上記接着剤組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様に接着剤の塗布及び評価を行った。
【0069】
(比較例1)
接着剤組成物として、エポキシ樹脂としてjER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製)100質量部、フェノール樹脂としてBRG―556(昭和高分子株式会社製、商品名)20質量部、シランカップリング剤としてKBM403(信越化学工業株式会社製、商品名)2質量部、硬化促進剤として2E4MZ(四国化成工業株式会社製)1.0質量部、界面活性剤としてBYK−302(ビックケミー・ジャパン社製)0.2質量部、有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(三菱化学株式会社製)400質量部を混合し、60℃で加熱溶解し作製した。こうして得られた接着剤組成物は、25℃における粘度が16mPa・sであり、樹脂分が26質量%であった。
【0070】
実施例1の接着剤組成物の変わりに上記接着剤組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様に接着剤の塗布及び評価を行った。
【0071】
(比較例2)
接着剤組成物として、エポキシ樹脂としてjER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製)80質量部、EOCN103S(日本化薬株式会社製)20質量部、エポキシ用硬化剤としてフェノール樹脂のBRG―556(昭和高分子株式会社製)40質量部、シランカップリング剤としてKBM403(信越化学工業株式会社製)2質量部、硬化促進剤として1B2PZ(四国化成工業株式会社製)1.0質量部、界面活性剤としてBYK−302(ビックケミー・ジャパン社製)0.2質量部、有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(三菱化学株式会社製)400質量部を混合し、60℃で加熱溶解して作製した。こうして得られた接着剤組成物は、25℃における粘度が17mPa・sであり、樹脂分が26質量%であった。
【0072】
実施例1の接着剤組成物の代わりに上記接着剤組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様に接着剤の塗布及び評価を行った。
【0073】
【表1】

【0074】
*1 DSC反応ピーク差:示差走査熱量計(DSC)で熱硬化性組成物の反応ピークを昇温速度10℃/分で測定し、低温側と高温側のピークの温度差を測定した。低温側と高温側の2つのピークが明確でない場合は0℃とする。
*2 塗布膜厚:アルファステップ500(KLA−Tencor社製)で塗布膜厚の段差を測定した。
*3 積層後のボイドの有無:超音波映像装置(株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス)でパッケージの状態を観察し、空隙(ボイド)発生の有無を観察した。
*4 モールド後のボイドの有無:超音波映像装置(株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス)でパッケージの状態を観察し、空隙(ボイド)発生の有無を観察した。
*5 リフロー信頼性:JEDECレベル3の吸湿処理後の260℃でのリフロー試験後の、剥離の有無を超音波映像装置(株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス)で観察した。
【0075】
本発明によれば、精密なパターニングが要求される電子工業分野、半導体産業分野等で必要とされるところの、高度のパターニング性、平坦性の確保、樹脂の耐湿信頼性、膜厚制御と塗布制御、硬化時のボイド発生の防止、低価格性、固形接着剤層化によるタックフリー性等を満たしながら接着剤層を形成することができる。また、接着剤付き半導体素子を熱圧着する際に、巻込んだ空隙(ボイド)を消失もしくは微小化に寄与することを可能にする接着剤組成物を提供することができる。したがって、本発明は産業上、非常なる有用性を有するものである。
【0076】
また、この接着剤層の形成方法及び接着剤組成物を用いれば、従来フィルム状の接着剤を使用していた半導体チップの積層等の分野に、より薄くかつ低コストで適用することができ、また、半導体の裏面だけでなく、基板面や表面層等にも塗付が可能であり、半導体の組立工程の自由度を増すことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接着面上に、熱硬化性組成物及び有機溶媒を含む接着剤組成物を非接触型の塗付装置を用いて選択的に塗布する塗布工程と、前記被接着面上に塗布された前記接着剤組成物の溶媒を除去する溶媒除去工程とを有する接着剤層形成方法であって、
前記熱硬化性組成物が反応温度の異なる2種類の硬化性を有することを特徴とする接着剤層の形成方法。
【請求項2】
前記熱硬化性組成物において、前記反応温度は示差走査熱量分析測定(DSC)において、低温側と高温側との反応ピークが20℃以上離れていることを特徴とする請求項1項記載の接着剤層の形成方法。
【請求項3】
前記熱硬化性組成物は、エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤、及び硬化促進剤を含むことを特徴とする請求項1または2項記載の接着剤層の形成方法。
【請求項4】
被接着面上に、熱硬化性組成物及び有機溶媒を含む接着剤組成物を非接触型の塗付装置を用いて選択的に塗布する塗布工程と、前記被接着面上に塗布された前記接着剤組成物の溶媒を除去する溶媒除去工程とを有する接着剤層形成方法に用いる樹脂組成物であって、
エポシキ樹脂と、エポキシ硬化剤との反応からなり、100〜160℃にDSCピークを有する第1の硬化反応と、エポシキ樹脂の自己重合反応からなり、140〜200℃にDSCピークを有する第2の硬化反応とを有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項5】
前記溶剤除去工程において、40〜120℃でBステージ化することを特徴とする請求項4項記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記熱硬化性組成物の含有量が5重量%から50重量%であり、かつ粘度が25℃において100mPa・s以下である、請求項4または5に記載の接着剤剤組成物。

【公開番号】特開2011−231139(P2011−231139A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99732(P2010−99732)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】