説明

接着剤組成物、カバーレイフィルム、ボンディングシート、プリプレグ、積層板

【課題】屈曲性及び絶縁信頼性を高めることができる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)カルボキシル基を含有するアクリロニトリルブタジエンゴム、(D)硬化促進剤、(E)中心金属がマグネシウム/アルミニウムの複合酸化物である陰イオン捕捉剤を必須成分として含有する。(C)成分に含有されているイオン性不純物の濃度の合計が100ppm以下であることを特徴とする接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板等の製造に用いられる接着剤組成物、カバーレイフィルム、ボンディングシート、プリプレグ、積層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板等の製造に用いられる接着剤組成物には適度な柔軟性が必要であり、屈曲性を発現させる目的で、ゴム成分を配合したエポキシ樹脂が従前より使用されている(例えば、特許文献1、2参照。)。ゴム成分にはその合成の際に混入するイオン性不純物が含まれ、これを製造段階で完全に除去することは困難である。イオン性不純物のうち、特に塩化物イオン、硝酸イオン、硫化物イオンなどの陰イオンは、高温高湿下で銅電極の腐食を促進し、銅マイグレーションにより電気特性(絶縁信頼性)を著しく悪化させることが知られている。これは使用するゴム成分の含有量が多い接着剤組成物ほど顕著である。そして特にカルボキシル基を含有するアクリロニトリルブタジエンゴムは柔軟性付与に優れているが、イオン性不純物もその他のゴム成分と比較して多く含まれるので、屈曲性及び絶縁信頼性を共に高めるのは困難であった。
【特許文献1】特開2005−15553号公報
【特許文献2】特開2005−15548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、屈曲性及び絶縁信頼性を高めることができる接着剤組成物、カバーレイフィルム、ボンディングシート、プリプレグ、積層板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の請求項1に係る接着剤組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)カルボキシル基を含有するアクリロニトリルブタジエンゴム、(D)硬化促進剤、(E)中心金属がマグネシウム/アルミニウムの複合酸化物である陰イオン捕捉剤を必須成分として含有すると共に、(C)成分に含有されているイオン性不純物の濃度の合計が100ppm以下であることを特徴とするものである。
【0005】
請求項2に係る発明は、請求項1において、(C)成分の含有量が(A)(B)成分の合計100質量部に対して10質量部以上であることを特徴とするものである。
【0006】
本発明の請求項3に係るカバーレイフィルムは、請求項1又は2に記載の接着剤組成物がフィルムの少なくとも片面に塗布されていることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項4に係るボンディングシートは、請求項1又は2に記載の接着剤組成物がフィルムの少なくとも片面に塗布されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項5に係るプリプレグは、請求項1又は2に記載の接着剤組成物が織布又は不織布に含浸されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項6に係る積層板は、請求項5に記載のプリプレグの片面又は両面に金属箔が積層されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に係る接着剤組成物によれば、(C)成分によって屈曲性を高めることができると共に、(E)成分によって絶縁信頼性を高めることができるものである。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、(C)成分がより多く含有されていることによって、屈曲性をさらに高めることができるものである。
【0012】
本発明の請求項3に係るカバーレイフィルムによれば、(C)成分によって屈曲性を高めることができると共に、(E)成分によって絶縁信頼性を高めることができるものである。
【0013】
本発明の請求項4に係るボンディングシートによれば、屈曲性及び絶縁信頼性を高めることができるものである。
【0014】
本発明の請求項5に係るプリプレグによれば、屈曲性及び絶縁信頼性を高めることができるものである。
【0015】
本発明の請求項6に係る積層板によれば、屈曲性及び絶縁信頼性を高めることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
本発明において接着剤組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)ゴム成分、(D)硬化促進剤、(E)イオン捕捉剤を必須成分として含有するものである。
【0018】
(A)成分のエポキシ樹脂としては、下記化学式で示すように、ハロゲンを含有せず、フェノール骨格とビフェニル骨格を有するノボラック型エポキシ樹脂等を用いるのが好ましい。
【0019】
【化1】

【0020】
上記化学式中、nは1〜10の整数であることが好ましく、また数平均分子量は700〜1500、重量平均分子量は1000〜3000であることが好ましい。
【0021】
上記化学式で示されるノボラック型エポキシ樹脂以外に他のエポキシ樹脂を併用しても構わない。この併用可能なエポキシ樹脂としては、ハロゲンを含有せず、1分子中にエポキシ基を2つ以上有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリフェノール化合物のグリシジルエーテル化物であるエポキシ樹脂、各種ノボラック樹脂のグリシジルエーテル化物であるエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂等を用いることができる。
【0022】
そしてポリフェノール化合物のグリシジルエーテル化物であるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’−ビフェニルフェノール、テトラメチルビスフェノールA、ジメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、ジメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、ジメチルビスフェノールS、テトラメチル−4,4’−ビフェノール、ジメチル−4,4’−ビフェニルフェノール、1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−[4−(1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニル]プロパン、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリスヒドロキシフェニルメタン、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、ジイソプロピリデン骨格を有するフェノール類、1,1−ジ−4−ヒドロキシフェニルフルオレン等のフルオレン骨格を有するフェノール類、フェノール化ポリブタジエン等のポリフェノール化合物のグリシジルエーテル化物であるエポキシ樹脂等を用いることができる。
【0023】
また各種ノボラック樹脂のグリシジルエーテル化物であるエポキシ樹脂としては、例えば、フェノール、クレゾール類、エチルフェノール類、ブチルフェノール類、オクチルフェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ナフトール類等の各種フェノールを原料とするノボラック樹脂、キシリレン骨格含有フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有フェノールノボラック樹脂、ビフェニル骨格含有フェノールノボラック樹脂、フルオレン骨格含有フェノールノボラック樹脂、フラン骨格含有フェノールノボラック樹脂等の各種ノボラック樹脂のグリシジルエーテル化物等を用いることができる。
【0024】
また脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、シクロヘキサン等の脂肪族骨格を有する脂環式エポキシ樹脂等を用いることができ、脂肪族系エポキシ樹脂としては、例えば、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等の多価アルコールのグリシジルエーテル類等を用いることができる。
【0025】
また複素環式エポキシ樹脂としては、例えば、イソシアヌル環、ヒダントイン環等の複素環を有する複素環式エポキシ樹脂等を用いることができ、グリシジルエステル系エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等のカルボン酸類からなるエポキシ樹脂等を用いることができ、グリシジルアミン系エポキシ樹脂としては、例えば、アニリン、トルイジン等のアミン類をグリシジル化したエポキシ樹脂等を用いることができる。
【0026】
そして(A)成分としてノボラック型エポキシ樹脂及び他のエポキシ樹脂を併用する場合、両者の比率は特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂の全量中、ノボラック型エポキシ樹脂の含有量が50質量%以上であることが好ましい。
【0027】
また(B)成分の硬化剤としては、例えば、3,3′−ジアミノジフェニルスルホンや4,4′−ジアミノジフェニルスルホン等のジアミノジフェニルスルホン等を用いることができるが、密着性や電気絶縁信頼性の観点から、3,3′−ジアミノジフェニルスルホンを用いるのが好ましい。(A)(B)成分の配合比率は特に限定されるものではないが、(B)成分としてジアミノジフェニルスルホンを用いる場合、このN−H基のモル数は、(A)成分のエポキシ樹脂が保有するエポキシ基1モルに対して、0.75〜1.25モルの範囲であることが好ましい。
【0028】
また(C)成分のゴム成分としては、カルボキシル基を含有するアクリロニトリルブタジエンゴムを用いる。この(C)成分を用いると、他のゴム成分を用いる場合に比べて、フレキシブルプリント配線板等の屈曲性を高めることができるものである。またこの(C)成分は、カルボキシル基を含有しているので、(A)成分のエポキシ樹脂への相溶性を高めることができるものである。さらにこの(C)成分のカルボキシル基は、接着剤組成物のpHを酸性とするので、この酸触媒効果により、後述する(E)成分のイオン捕捉能を高めることができるものである。なお、この(C)成分による効果を阻害しない限り、例えば、アクリルゴム、ブタジエンゴム、エポキシ変性ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、スチレンゴム、フェノキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン・メチルアクリレート共重合体等を併用しても構わない。
【0029】
また(C)成分の含有量は(A)(B)成分の合計100質量部に対して10質量部以上であることが好ましい。このように、(C)成分の含有量が10質量部以上であると、フレキシブルプリント配線板等の屈曲性をさらに高めることができるものである。ただし、マイグレーションの原因となるイオン性不純物の濃度は、接着剤組成物に含有されている(C)成分の量に比例するため、(C)成分の含有量は75質量部以下であることが好ましい。これを超えると、後述する(E)成分のイオン捕捉剤では十分にイオンを捕捉することができないおそれがある。
【0030】
このように、(C)成分に含有されているイオン性不純物の濃度は可及的に低いことが好ましく、具体的にはその合計は100ppm以下(下限は0ppm)である。このようにしてマイグレーションの発生原因を大部分除去することによって、絶縁信頼性をさらに高めることができるものである。イオン性不純物の濃度の合計が100ppmを超えるような一般グレードのアクリロニトリルブタジエンゴムを用いると、多量のイオン性不純物が存在するため、後述する(E)成分のイオン捕捉剤を多量に用いても、そのイオン捕捉能が飽和し、十分な効果を得ることができず、絶縁信頼性が低下するおそれがある。
【0031】
また(D)成分の硬化促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、有機ホスフィン類、ホスホニウム塩等をそれぞれ単独で用いたり、両者を併用したりすることができる。
【0032】
そして有機ホスフィン類としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トルイルホスフィン、トリ−m−トルイルホスフィン、トリ−p−トルイルホスフィン、トリ−2,4−キシリルホスフィン、トリ−2,5−キシリルホスフィン、トリ−3,5−キシリルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p−tert−ブトキシフェニル)ホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ−tert−ブチルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィン、ジフェニルホスフィノスチレン等を用いることができる。
【0033】
またホスホニウム塩としては、例えば、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムハイドロジェンジフルオライド、テトラブチルホスホニウムジハイドロジェントリフルオライド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−トリボレート、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフルオロボレート、p−トリルトリフェニルホスホニウムテトラ−p−トリルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン等を用いることができる。
【0034】
また(D)成分の含有量は、(A)(B)成分の合計100質量部に対して0.05〜1質量部であることが好ましい。(D)成分の含有量が0.05質量部未満であると、(A)成分のエポキシ基と(C)成分のカルボキシル基との反応が遅くなり、絶縁信頼性が低下するおそれがある。逆に(D)成分の含有量が1質量部を超えると、ワニスの粘度が著しく上昇するおそれがあり実用上好ましくない。
【0035】
また(E)成分のイオン捕捉剤としては、中心金属がマグネシウム/アルミニウムの複合酸化物である陰イオン捕捉剤を用いる。
【0036】
ここで、イオン捕捉剤には、陽イオン捕捉剤、両イオン捕捉剤、陰イオン捕捉剤があるが、このうちジルコニウム系等の陽イオン捕捉剤は、85℃−85%RH環境下での絶縁信頼性の改善効果は認められるものの、110℃−85%RHのような、より過酷な高温高湿下での電気特性(絶縁信頼性)を改善することはできない。これは、電極からの銅イオンの溶出速度が高温ほど大きく、その捕捉が間に合わないためであると推測される。また、絶縁破壊が起こらない場合でも、評価終了後の電極にはデンドライトが観察されるといった不具合が生じる。このような問題は、両イオン捕捉剤についても同様である。これに対し、陰イオン捕捉剤を用いると、これによって接着剤組成物中の陰イオンが捕捉され、電極から銅イオン等の金属イオンが接着剤組成物中へ溶出しにくい状態とすることができ、電気特性(絶縁信頼性)改善の効果を期待することができるものである。
【0037】
そして特に陰イオン捕捉剤は、その中心金属がマグネシウム/アルミニウムの複合酸化物であるが、これによって接着剤組成物中の陰イオンの全てを非選択的に捕捉する特性を有する。しかもその他の陰イオン捕捉剤と比較して高温高湿下でのイオン捕捉能に優れている。一方、ビスマス系等の陰イオン捕捉剤やジルコニウム/ビスマス系等の両イオン捕捉剤は、塩化物イオンを選択的に捕捉して、その他の陰イオンが残存する傾向があるため、電気特性(絶縁信頼性)改善の効果を期待することはできない。
【0038】
また(E)成分の平均粒径は小さいほど好ましく、具体的にはその平均粒径は5μm以下(下限は1μm)であることが好ましい。これより平均粒径が大きい場合にはイオン捕捉能が低下するだけでなく、回路への埋め込み性も低下するおそれがある。なお、平均粒径の測定は、(株)島津製作所製「SALD−2100」等のレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて行うことができる。
【0039】
また(E)成分の含有量は(A)(B)成分の合計100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましい。(E)成分の含有量が1質量部未満であると、接着剤組成物中のイオン性不純物を十分に捕捉することができず、マイグレーションが起こり、短絡するおそれがある。逆に(E)成分の含有量が10質量部を超えると、さらなる電気特性(絶縁信頼性)の改善効果が認められないだけでなく、密着強度が低下したり、コストが上昇したりするおそれがある。
【0040】
さらに接着剤組成物には、任意成分として、リン酸エステルアミド等の難燃剤や水酸化アルミニウム等の充填材を含有することもできる。
【0041】
そして、(A)(C)(E)成分及び必要に応じて任意成分を有機溶剤に溶解混合し、ビーズミルを用いて分散と粉砕を同時に行った後、(B)(D)成分を添加し、さらに攪拌することによって、接着剤組成物の均一なワニスを調製することができる。ここで、有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチルエチルケトン及びトルエンからなる混合溶媒を用いることができる。
【0042】
次に上記のようにして得られたワニス状の接着剤組成物を用いて、フレキシブルプリント配線板等の材料として用いられるカバーレイフィルム、ボンディングシート、プリプレグ、積層板を製造することができる。
【0043】
すなわち、カバーレイフィルムは、接着剤組成物をフィルムの少なくとも片面に塗布し、これを加熱乾燥して接着剤層を形成することによって製造することができる。ここで、カバーレイフィルム用のフィルムとしては、ポリイミドフィルム等を用いることができる。
【0044】
また、ボンディングシートも、接着剤組成物をフィルムの少なくとも片面に塗布し、これを加熱乾燥して接着剤層を形成することによって製造することができる。ここで、ボンディングシート用のフィルムとしては、ポリイミドフィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアリレートフィルム等の電気絶縁性フィルム等をそれぞれ単独で用いたり、複数枚積層して用いたりすることができる。フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、3〜200μmであることが好ましい。またフィルムにはあらかじめ加水分解、コロナ放電、低温プラズマ、物理的粗面化、易接着コーティング処理等の表面処理を施しておいてもよい。
【0045】
またカバーレイフィルムやボンディングシートを製造する場合、フィルムの片面に接着剤組成物を塗布した後に、この接着剤組成物に離型材を貼り合わせてもよい。この離型材としては、カバーレイフィルムやボンディングシートの形態を損なうことなく剥離することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、TPXフィルム、またこれらのフィルムに離型剤層を設けて形成されたフィルム、さらにはこれらのフィルムを紙基材上にラミネートした紙等を用いることができる。
【0046】
また、プリプレグは、接着剤組成物を織布又は不織布に含浸し、これを加熱乾燥して半硬化状態(Bステージ状態)とすることによって製造することができる。ここで、耐熱性や加工性の観点から、織布としては、ガラス織布等を用いることができ、不織布としては、ガラス不織布等を用いることができる。
【0047】
また、積層板は、上記のようにして得られたプリプレグの片面又は両面に銅箔等の金属箔を積層し、これを加熱加圧成形することによって製造することができる。
【0048】
上記のようにして得られたカバーレイフィルム、ボンディングシート、プリプレグ、積層板はいずれも接着剤組成物を用いて製造されており、この接着剤組成物には、特に(C)成分のゴム成分として、カルボキシル基を含有するアクリロニトリルブタジエンゴムが含有されていることによって、他のゴム成分を用いる場合に比べて、フレキシブルプリント配線板等の屈曲性を高めることができるものである。そしてカルボキシル基を含有するアクリロニトリルブタジエンゴム中にはマイグレーションを誘発するイオン性不純物がその他のゴム成分よりも多く含有されているが、このようなイオン性不純物、特に陰イオンは全て、接着剤組成物に含有されている(E)成分の陰イオン捕捉剤によって非選択的に捕捉されるので、マイグレーションによる絶縁抵抗の劣化を抑制することができ、高温高湿下での電気特性(絶縁信頼性)を高めることができるものであり、その結果、電極の腐食を抑制することができるものである。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0050】
(A)成分のエポキシ樹脂として、ノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「NC3000」)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製「EPICLON 2050」)を用いた。
【0051】
(B)成分の硬化剤として、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン(3,3′−DDS)を用いた。
【0052】
(C)成分のゴム成分として、イオン性不純物の濃度の合計が100ppm以下であるカルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム(JSR(株)製「PNR−1HC」)及びカルボキシル基含有エチレン・メチルアクリレート共重合体(三井デュポン(株)製「ベイマックG」)、イオン性不純物の濃度の合計が100ppmを超えるカルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム(日本ゼオン(株)製「ニポール1072J」)を用いた。
【0053】
(D)成分の硬化促進剤として、トリフェニルホスフィン(TPP)を用いた。
【0054】
(E)成分のイオン捕捉剤として、中心金属がマグネシウム/アルミニウムの複合酸化物である陰イオン捕捉剤(東亞合成(株)製「IXE−700F」、平均粒径1.5μm)、ビスマス系の陰イオン捕捉剤(東亞合成(株)製「IXE−500」、平均粒径1.5μm)、ジルコニウム/ビスマス系の両イオン捕捉剤(東亞合成(株)製「IXE−6107」、平均粒径1.5μm)、ジルコニウム系の陽イオン捕捉剤(東亞合成(株)製「IXE−100」、平均粒径1.0μm)を用いた。
【0055】
その他の成分として、難燃剤であるリン酸エステルアミド(四国化成工業(株)製「SP703H」)、充填材である水酸化アルミニウム(住友化学(株)製「CL303M」)を用いた。
【0056】
そして、下記[表1]に示す含有量で、(A)(C)(E)成分及びその他の成分をメチルエチルケトン及びトルエンからなる有機溶剤(メチルエチルケトンとトルエンの質量比は16:1)に溶解混合し、ビーズミルを用いて分散と粉砕を同時に行った後、(B)(D)成分を添加し、さらに攪拌することによって、接着剤組成物の均一なワニスを調製した。
【0057】
次にコンマコーター及びこれに接続されたインライン乾燥機を用いて、上記接着剤組成物のワニスを厚さ12.5μmのポリイミドフィルムの片面に塗布し、これを加熱乾燥し、乾燥後の厚さが25.0μmの接着剤層を形成することによって、カバーレイフィルムを製造した。
【0058】
【表1】

【0059】
次に上記カバーレイフィルムについて、絶縁信頼性及び屈曲性を評価すると共に、イオン性不純物の濃度を測定した。評価法及び測定法については以下の通りであり、結果については下記[表2][表3]に示す。
【0060】
(1)絶縁信頼性
片面フレキシブルプリント配線板に設けられた櫛型電極にカバーレイフィルムの接着剤層を重ね合わせ、これを180℃で1時間加熱加圧成形することによって、サンプル(初期品)を作製した。
【0061】
次に、85℃/85%RH及び110℃/85%RHの環境下において上記サンプルに30Vの電圧を200時間印加するテストを行った。そして電極間の絶縁抵抗値が10Ω以下となった時間を計測し、これを短絡した時間と評価した。さらに銅マイグレーションの有無の評価は、上記テスト後の櫛型電極を光学顕微鏡で拡大観察し、電極からのデンドライトの発生状況を確認することによって行った。
【0062】
また上記サンプルを5℃で3ヶ月保管した後に、上記と同様のテストを行うと共に、銅マイグレーションの有無を評価した。
【0063】
(2)屈曲性
MIT法を使用し、測定条件をR=0.38mm、荷重500gに設定し、回路の導通が取れなくなるまでの折り曲げ回数を計測することによって、屈曲性を評価した。
【0064】
(3)イオン性不純物の濃度
150mm×150mmのカバーレイフィルムを小さく刻んだものを蒸留水で抽出し、抽出液中のイオン性不純物をイオンクロマト分析装置を用いて定性・定量分析した。なお、比較例5〜7については、屈曲性に問題があったので、イオン性不純物の濃度は測定しなかった。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
上記[表2]にみられるように、実施例1〜4では、十分な屈曲性を確保した上で、高温高湿下での絶縁信頼性にも問題がないことを確認した。
【0068】
比較例1では、中心金属がマグネシウム/アルミニウムの複合酸化物である陰イオン捕捉剤を用いた場合でも、短時間で短絡し、絶縁抵抗が劣化することを確認した。これはゴム成分中に含有されるイオン性不純物が多いためであると考えられる。
【0069】
イオン捕捉剤を変更した比較例2〜4、7では、一部で絶縁抵抗の劣化が確認された。さらに短絡しない場合でも、テスト後の櫛型電極にはデンドライトが観察された。これは、上記[表3]に示すように、接着剤組成物中に含有されるイオン性不純物のうち、特に陰イオンが残存することによる影響であると推測される。
【0070】
比較例5、6では、絶縁信頼性に問題はないが、ゴム成分の含有量が少ないため、屈曲性に劣り、フレキシブルプリント配線板用としての用途に要求される柔軟性を満足することができないものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)カルボキシル基を含有するアクリロニトリルブタジエンゴム、(D)硬化促進剤、(E)中心金属がマグネシウム/アルミニウムの複合酸化物である陰イオン捕捉剤を必須成分として含有すると共に、(C)成分に含有されているイオン性不純物の濃度の合計が100ppm以下であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
(C)成分の含有量が(A)(B)成分の合計100質量部に対して10質量部以上であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の接着剤組成物がフィルムの少なくとも片面に塗布されていることを特徴とするカバーレイフィルム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の接着剤組成物がフィルムの少なくとも片面に塗布されていることを特徴とするボンディングシート。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の接着剤組成物が織布又は不織布に含浸されていることを特徴とするプリプレグ。
【請求項6】
請求項5に記載のプリプレグの片面又は両面に金属箔が積層されていることを特徴とする積層板。

【公開番号】特開2009−203295(P2009−203295A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45295(P2008−45295)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】