説明

接着剤

【課題】PCM鋼板からなる一方の部材を他方の部材に接着する場合に、一方の部材が有する切断端部の防錆を図ることができる接着剤を提供する。
【解決手段】一方の部材10の接着面であって切断端部11aを有する端部接着面11を、他の部材20の接着面21に接着するものであって、加熱により収縮する熱可塑性エポキシ樹脂からなる第1接着層部31と、加熱硬化時に発泡して膨張する発泡型熱硬化性エポキシ樹脂からなる第2接着層部32とを積層して構成され、第1接着層部31が端部接着面11に面して配置され、第2接着層部32が他方の部材20の接着面21に面して配置される構成を有している接着剤30。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の部材を他方の部材に接着する接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体組み立てラインなどでは、構造部材同士を接着剤で接合することが行われている(例えば、特許文献1を参照)。自動車の車体を構成する構造部材には、予め鋼板の表面にプレコート(塗装)を施すことで防錆性が確保されたPCM鋼板が一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−350547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、PCM鋼板は、プレコートされた後に切断加工されて構造部材とされるので、構造部材の切断端部には鋼板素地が露出し、防錆能力を確保することができないという課題がある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、PCM鋼板からなる一方の部材を他方の部材に接着する場合に、一方の部材が有する切断端部の防錆を図ることができる接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の接着剤は、一方の部材の接着面であって切断端部を有する端部接着面を、他の部材の接着面に接着する接着剤であって、加熱により収縮する熱可塑性エポキシ樹脂からなる第1接着層部と、加熱硬化時に発泡して膨張する発泡型熱硬化性エポキシ樹脂からなる第2接着層部とを積層して構成され、第1接着層部が端部接着面に面して配置され、第2接着層部が他方の部材の接着面に面して配置されることを特徴としている。
【0007】
本発明の接着剤によれば、加熱により収縮する熱可塑性エポキシ樹脂からなる第1接着層部と、加熱硬化時に発泡して膨張する発泡型熱硬化性エポキシ樹脂からなる第2接着層部とを積層して構成され、第1接着層部が端部接着面に面して配置され、第2接着層部が他方の部材の接着面に面して配置されるので、加熱することにより、一方の部材の端部接着面と他方の部材の接着面を接着すると共に、第1接着層部を収縮させかつ第2接着層部を発泡膨張させて、その発泡膨張した第2接着層部によって、端部接着面の切断端面を覆うことができる。したがって、端部接着面の切断端面を被覆して外部から隔絶することができ、切断端面の防錆を図ることができる。
【0008】
本発明の接着剤では、第1接着層部は、収縮率が10%〜50%、接着力が5MPa〜40MPa、厚さが0.2mm〜2.0mmであり、第2接着層部は、発泡倍率が2倍〜7倍、接着力が5MPa〜40MPa、厚さが0.5mm〜2.0mmであり、第1接着層部と第2接着層部の合計厚さが2.0mm以下である構成を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の接着剤によれば、加熱により収縮する熱可塑性エポキシ樹脂からなる第1接着層部と、加熱硬化時に発泡して膨張する発泡型熱硬化性エポキシ樹脂からなる第2接着層部とを積層して構成され、第1接着層部が端部接着面に面して配置され、第2接着層部が他方の部材の接着面に面して配置されるので、加熱することにより、一方の部材の端部接着面と他方の部材の接着面を接着すると共に、第1接着層部を収縮させかつ第2接着層部を発泡膨張させて、その発泡膨張した第2接着層部によって、端部接着面の切断端面を覆うことができる。したがって、端部接着面の切断端面を被覆して外部から隔絶することができ、切断端面の防錆を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一方の部材と他方の部材の接着部分の断面を拡大して示した図。
【図2】試験片の構成を断面で模式的に示す図。
【図3】接着剤の剪断強度試験と防錆性試験の試験方法を説明する図。
【図4】各試験片の構成と試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について図面を用いて以下に説明する。
【0012】
図1は、一方の部材と他方の部材の接着部分の断面を拡大して示した図であり、図1(a)は、接着前の状態を示し、図1(b)は、接着後の状態を示している。
【0013】
一方の部材10と他方の部材20は、PCM鋼板を所望の形状に切断して立体的にプレス成形されたものであり、互いに接着されることによって、自動車の車体に用いられる構造体を構成する。PCM鋼板は、鋼板素地Qの両面が防錆性の塗装Pでプレコートされた構造を有している。
【0014】
一方の部材10は、図1(a)のX部に示されるように、鋼板素地Qが露出した切断端部11aを有する端部接着面11を有している。端部接着面11は、例えばフランジ面等によって構成される。一方の部材10の端部接着面11は、本発明の接着剤30によって他方の部材20の接着面21に接着される。
【0015】
接着剤30は、図1(a)に示すように、加熱により収縮する熱可塑性エポキシ樹脂からなるシート状の第1接着層部31と、加熱硬化時に発泡して膨張する発泡型熱硬化性エポキシ樹脂からなるシート状の第2接着層部32とを積層して構成されている。そして、第1接着層部31が端部接着面11に面して配置され、第2接着層部32が他方の部材20の接着面21に面して配置される。
【0016】
そして、一方の部材10の端部接着面11と他方の部材20の接着面21とを接着させるべく、所定温度まで加熱される。接着剤30は、図1(b)に示すように、加熱により第1接着層部31が収縮しかつ第2接着層部32が発泡膨張する。すなわち、第2接着層部32が発泡膨張して第2接着層部32の一部が切断端部11aと対向する。そして、第2接着層部32の切断端部11に対向する膨張部分が第1接着層部31の収縮により、切断端面11aに接近する方向に引っ張られる。そして、図1(b)のY部に示されるように、発泡膨張後の第2接着層部32によって、端部接着面11の切断端面11aが覆われる。したがって、端部接着面11の切断端面11aを接着剤30の一部で被覆して外部から隔絶することができ、切断端面11aの防錆を行うことができる。
【0017】
第1接着層部31は、収縮率が10%〜50%、接着力が5MPa〜40MPa、厚さが0.2mm〜2.0mmが望ましい。そして、第2接着層部32は、発泡倍率が2倍〜7倍、接着力が5MPa〜40MPa、厚さが0.5mm〜2.0mmが望ましい。但し、第1接着層部31と第2接着層部32の合計厚さが2.0mm以下であることを条件とする。
【実施例】
【0018】
一方の部材10と他方の部材20の間に接着剤30を介在させた試験片(サンプル)を用いて接着剤30の剪断強度試験と防錆性試験を行った。図2は、試験片の構成を断面で模式的に示す図、図3は、試験方法を説明する図であり、図3(a)は、接着前の状態を示し、図3(b)は、接着後の状態を示している。
【0019】
部材10、20には、自動車の車体用のPCM鋼板を使用した。接着剤30は、第1接着層部31が熱可塑性エポキシ樹脂(熱硬化エポキシ樹脂をブレンドしたもの)で構成され、第2接着層部32が熱硬化性エポキシ樹脂で構成されたものを使用した。
【0020】
一方の部材10と他方の部材20を、図2に示すように、一部が互いに重なり合うように配置し、その一方の部材10と他方の部材20との間に接着剤30を介在させた。接着剤30は、図3に示すように、第1接着層部31を一方の部材10の端部接着面11に面して配置し、第2接着層部32を他方の部材20の接着面21に面して配置した。接着剤30は、一方の部材10の切断端部11aよりも突出するように配置した。
【0021】
上記構成を有する試験片を加熱して170℃で20分間保持し、接着剤30を熱硬化させた。その他、従来の材料とも比較評価を実施した。図4は、各試験片の構成と試験結果を示す表である。
【0022】
サンプルJが本発明の実施例(発明品)であり、サンプルAからサンプルHは比較例である。本発明の実施例であるサンプルJは、第1接着層部(上層)31のシート厚さが0.5mm、体積変化率が0.7であり、第2接着層部(下層)32のシート厚さが1.0mm、体積変化率が2.5である。サンプルJは、剪断接着力が23MPaであり、十分な接着力を有している。そして、第2接着層部32で端部接着面11の切断端部11aを完全に覆うことができており、錆の発生もなかった。
【0023】
なお、サンプルIは、剪断接着力が3MPaであり、若干低いが、第2接着層部32で端部接着面11の切断端部11aを覆うことができており、錆に対しては効果がある。したがって、本発明の参考例となる。
【0024】
一方、サンプルAからサンプルHの比較例では、サンプルAは、第1接着層部(上層)が0.03mmと薄く、第2接着層部32で端部接着面11の切断端部11aを覆うことができなかった。サンプルBは、第2接着層部(下層)32が0.1mmと薄く、発泡しても体積が不十分であり、切断端部11aを覆うことができなかった。
【0025】
サンプルCは、第1接着層部(上層)が2.5mmと厚く、第2接着層部32が切断端部11aを覆うのを阻害してしまった。サンプルDは、第2接着層部(下層)32が3.0mmと厚く、接着剤30の全体が厚すぎて構造体として成立しなかった。
【0026】
サンプルEは、第1接着層部(上層)31の体積変化率が0.95であり、収縮率が低すぎて第2接着層部32で端部接着面11の切断端部11aを覆うことができなかった。サンプルFは、第1接着層部(上層)31の体積変化率が0.3であり、収縮率が高すぎて第2接着層部32が割れてしまった。
【0027】
サンプルGは、第2接着層部(下層)32の発泡倍率が1.6と小さすぎて、第2接着層部32で端部接着面11の切断端部11aを覆うことができなかった。サンプルHは、第2接着層部(下層)32の発泡倍率が9.0と大きすぎて、剪断接着力が確保できなかった。
【符号の説明】
【0028】
10 一方の部材
11 端部接着面
11a 切断端部
20 他方の部材
21 接着面
30 接着剤
31 第1接着層部
32 第2接着層部
Q 鋼板素地
P 防錆性塗装

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材の接着面であって切断端部を有する端部接着面を、他の部材の接着面に接着する接着剤であって、
加熱により収縮する熱可塑性エポキシ樹脂からなる第1接着層部と、加熱硬化時に発泡して膨張する発泡型熱硬化性エポキシ樹脂からなる第2接着層部とを積層して構成され、
前記第1接着層部が前記端部接着面に面して配置され、前記第2接着層部が前記他方の部材の接着面に面して配置されることを特徴とする接着剤。
【請求項2】
前記第1接着層部は、収縮率が10%〜50%、接着力が5MPa〜40MPa、厚さが0.2mm〜2.0mmであり、前記第2接着層部は、発泡倍率が2倍〜7倍、接着力が5MPa〜40MPa、厚さが0.5mm〜2.0mmであり、第1接着層部と第2接着層部の合計厚さが2.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144256(P2011−144256A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6123(P2010−6123)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】