説明

推進管のトンネル曲線部における接合構造およびトンネル施工方法

【課題】 トンネルの構築にあたり、トンネル曲線部における推進管列の設置を推進工法によって容易に、かつ確実に行うことができると共に、トンネル曲線部における推進管どうしの接合面間の止水を適切に行う。
【解決手段】 推進管のトンネル曲線部における接合構造Kは、一端側の接合面s1に嵌合凸部s1aを設け他端側の接合面s1に嵌合凹部s1bを設けた一対の矩形断面の推進管S,Sどうしが、トンネルの軸方向に隣接して、一方の推進管Sの嵌合凸部s1aを他方の推進管Sの嵌合凹部s1bに嵌合され、推進管Sにおけるトンネル曲線部の半径方向の内側R1と外側R2に対応する二辺の縦型矩形セグメント3,4に、嵌合凸部s1aと嵌合凹部s1bに対向して設けたフランジ板(フランジ)6a,6bの相互間に位置させて、弾性変形可能な合成樹脂からなる推力伝達材12が装着された構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や鉄道等の下を横断するトンネルを構築するのに使用する推進管のトンネル曲線部における接合構造およびトンネル施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の大断面トンネルの構築方法として、推進工法により複数の矩形小断面の推進管をトンネルの軸方向に順に地山に推進させて推進管列を設置すると共に、この推進管列の複数を上下左右に相互に隣接して設置して連結した後に、大断面トンネルの構造に関わらない推進管の構成部材(矩形セグメント)を撤去して大断面のトンネル覆工体を完成させる方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−214699号公報
【特許文献2】特開2004−218333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記大断面トンネルの構築方法においては、シールド用外郭やシールドジャッキを備えていない掘進機の後方に掘進管を取り付け、最後尾の推進管をその後方から推進ジャッキによって押し進めることによって、前記掘進機を地山内に掘進させるものであるから、トンネルの直線部では、各推進管の端部どうしをそれらの接合面の全周で当接させて推進ジャッキの推力を掘進機に伝達させることによって、該掘進機を直進させて各推進管を直線状に設置することができる。ところが、トンネルの曲線部では、掘進機がトンネル曲線部に従って方向付けされた方向に対して、後続の各推進管の推進方向が一致しなくなるので、各推進管の端部どうしは、トンネル曲線部の半径方向における内側の接合面と外側の接合面が均等に当接しないか、隙間が生じて掘進機に推進ジャッキの推力が適切に伝達されず、このため、トンネル曲線部での掘進を適切に行うことができず、推進管列のトンネル曲線部における設置が困難である。
また、各推進管の端部どうしは、それらの接合面間に通常止水用のシール材が装着されるが、前記のように接合面が均等に当接しなかったり、隙間が生じた場合には、シール材が有効に機能せず、止水が適切に行えないか、全くできなくなるおそれがある。
なお、シールド掘進機を用いてトンネル曲線部の掘進を行うこともできるが、その場合には、トンネル直線部とトンネル曲線部とに区分して複数の工法を行わねばならず、施工が複雑になる問題がある。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、トンネルの構築にあたり、トンネル曲線部における推進管列の設置を推進工法によって容易に、かつ確実に行うことができると共に、トンネル曲線部における推進管どうしの接合面間の止水を適切に行うことができる推進管のトンネル曲線部における接合構造およびトンネル施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の点を特徴としている。
すなわち、請求項1に係る推進管のトンネル曲線部における接合構造は、一端側の接合面に嵌合凸部を設け他端側の接合面に嵌合凹部を設けた一対の矩形断面の推進管どうしが、トンネルの軸方向に隣接して、一方の推進管の嵌合凸部を他方の推進管の嵌合凹部に嵌合させて接合される推進管のトンネル曲線部における接合構造であって、
前記推進管におけるトンネル曲線部の半径方向の内側と外側に対応する二辺には、前記嵌合凸部と嵌合凹部に対向して設けたフランジの相互間に位置させて、トンネルの軸方向へ弾性的に圧縮、復元可能であり、かつ推進力伝達が可能な合成樹脂からなる推力伝達材が装着されていることを特徴としている。
【0006】
請求項2に係る推進管のトンネル曲線部における接合構造は、請求項1に記載の接合構造において、前記嵌合凸部の外周面と嵌合凹部の内周面との間に、シール材が設けられていることを特徴としている。
【0007】
請求項3に係るトンネル施工方法は、推進工法により複数の矩形断面の推進管をトンネルの軸方向に順に地山に推進させて推進管列を設置すると共に、この推進管列の複数を上下左右に相互に隣接して設置して連結した後に、大断面トンネルの構造に関わらない推進管の矩形セグメンを撤去して大断面トンネルの覆工体を施工するに際して、トンネル曲線部における推進管列の設置を、請求項1または2に記載した推進管のトンネル曲線部における接合構造を用いて行うことを特徴としている。
【0008】
請求項4に係るトンネル施工方法は、一端側の接合面に嵌合凸部を他端側の接合面に嵌合凹部を設けた複数の矩形断面の推進管を、隣接する推進管どうしの嵌合凸部と嵌合凹部を嵌合させて、推進工法によりトンネル直線部とトンネル曲線部とが混在するトンネルの軸方向に順に地山に推進させて推進管列を設置してトンネルの覆工体を施工するトンネル施工方法において、
トンネルの軸方向に隣接する推進管の、トンネル曲線部の半径方向の内側と外側に対応する二辺における前記嵌合凸部と嵌合凹部の対向面間に、トンネルの軸方向へ弾性的に圧縮、復元可能であり、かつ推進力伝達が可能な合成樹脂からなる推力伝達材を装着して、推進管を推進させることを特徴とするトンネル施工方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下の優れた効果を奏する。
すなわち、請求項1に係る推進管のトンネル曲線部における接合構造および請求項3に係るトンネル施工方法によれば、トンネル曲線部において、各推進管におけるトンネル曲線部の半径方向の内側と外側に対応する二辺の推力伝達材が、それぞれ掘進機による方向付けに応じて適宜に弾性的に圧縮変形することにより、推進ジャッキからの推進力が前記推力伝達材を介して各推進管の断面領域の全体に略等分布荷重として作用されて掘進機に伝達されるので、先行する推進管の進行方向に対して後続する推進管を精度良く追従させることができる。これにより、トンネル曲線部における推進管列の推進工法による設置を容易に、かつ確実に行うことができる。
【0010】
また、請求項2に係る推進管のトンネル曲線部における接合構造によれば、トンネル曲線部に設置された推進管の隣接するものどうしの接合面間に隙間が生じても、嵌合凸部と嵌合凹部との間に設けられたシール材によって、地山側から推進管内への水漏れを確実に防止することができ、大断面トンネルの止水性を良好に確保することができる。
また、請求項4に係るトンネル施工方法によれば、トンネルにトンネル直線部とトンネル曲線部が複数どのような配置で混在していても、そのトンネルの軸方向に推進管を的確に、かつ円滑に追従させて地山内に推進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態に係る推進管の曲線部における接合構造について添付図面を参照して説明する。
先ず、本発明の一実施の形態に係る推進管の曲線部における接合構造に適用される推進管Sについて図1〜図6にもとづいて説明する。この推進管Sは、第1、第2の横型矩形セグメント(矩形セグメント)1,2を上下方向に平行に間隔をあけて配置すると共に、該第1、第2の横型矩形セグメント1,2の両端部に位置して左右方向に平行に間隔をあけて第1、第2の縦型矩形セグメント3,4を配置し、これら横型セグメント1,2と縦型セグメント3,4の端部どうしをボルト・ナットBによって連結して、正面視(図1)またはトンネルの横断面視で縦方向が横方向より僅かに大きい矩形とされ、軸方向(トンネルの軸方向に同じ、図1で紙面に垂直な方向、図2で左右方向)の長さ(各矩形セグメント1〜4の幅に同じ)が前記縦、横方向の寸法に比べてかなり小さく設定されて矩形枠状体(函体)に形成されている。
【0012】
前記推進管Sの縦、横の寸法は、大断面トンネルの断面内において縦、横方向に割付けされる推進管Sの個数に応じて設定される。
そして、前記推進管Sの軸方向の一端側(図2で左端側、図3で下端側)の接合面s1には、推進管Sの外周より小口径であり正面視で矩形枠状の嵌合凸部s1aが設けられ、他端側(図2で右端側、図3で上端側)の接合面s1には、推進管Sの外周より小口径であり正面視で矩形輪郭を有する嵌合凹部s1bが設けられている。前記嵌合凸部s1aと嵌合凹部s1bとは、隣接して接合される推進管Sの嵌合凹部s1bと嵌合凸部s1aにそれぞれ嵌合し得る寸法関係に設定されている。
【0013】
前記各横型矩形セグメント1,2と各縦型矩形セグメント3,4は、それぞれ、矩形平板状のスキンプレート1a,2a,3a,4aに、それらの長手方向(図1で左右、上下方向、図4で左右方向、図5で上下方向)に向けた複数の主桁板1b,2b,3b,4bを、スキンプレート1a〜4aの短手方向(図2、図5で左右方向、図3、図4で上下方向)に間隔をあけて平行に配置して接合すると共に、前記短手方向に向けた複数のリブ1c,2c,3c,4cを長手方向に間隔をあけて前記スキンプレート1a〜4aと主桁板1b〜4bに接合して構成されている。図4と図5には、第1の横型矩形セグメント1と第1の縦型矩形セグメント3の前記スキンプレート1a,3aに対する主桁板1b,3bとリブ1c,3cの具体的な配置の状態が示されている。第2の横型矩形セグメント2と第2の縦型矩形セグメント4の主桁板2b,4bの配置の状態は、詳細に図示してないが、第1の横型矩形セグメント1と第2の縦型矩形セグメント3のものと略同様である。
なお、横型、縦型矩形セグメント1〜4の長手方向の両端部には、それらの隣接するものどうしを前記ボルト・ナットBで連結する継手板1d〜4dが設けられていると共に、トンネルの断面方向に隣接する推進管S,Sどうしを連結する継手板1e〜4e(図1に示す推進管の場合は第2の縦型矩形セグメント4の継手板4eは不要のため省かれている)が設けられている。
【0014】
また、前記各横型矩形セグメント1,2、各縦型矩形セグメント3,4の一端側(図2、図5で左端側、図3、図4で下端側)には、前記推進管Sの嵌合凸部s1aを構成するために、それぞれ推進管Sの接合面1sを形成する外端位置の主桁板1b〜4bに外側へ突き出して突出部材5aが固着され、該突出部材5aの先端に主桁板1aに平行なフランジ板(フランジ)6aが固着されている。また、前記各横型矩形セグメント1,2、各縦型矩形セグメント3,4の他端側には、前記推進管Sの嵌合凹部s1bを構成するために、それぞれ推進管Sの接合面1sを形成する外端位置の主桁板1b〜4bに内側向けた受け部材5bが固着され、該受け部材5bの先端に主桁板1b〜4bに平行なフランジ板(フランジ)6bが固着されている。各フランジ板6a,6bには、軸方向に隣接して接合される推進管S,Sを相互に連結する際に連結ボルトを挿通する複数のボルト孔7が、フランジ板6a,6bにその長手方向(各矩形セグメント1〜4の長手方向)に所定間隔をあけて設けられている。また、前記嵌合凹部s1bの内周面、具体的には前記外端位置の主桁板1b〜4bの内側面1d〜4dには、シール材8が接着されている(図6参照)。
【0015】
そして、前記第2の横型セグメント2のスキンプレート2bには、図1で左右の両端側の位置に推進管Sの軸方向(トンネルの軸方向)に沿ってスリット9,9が形成され、該スリット9,9に対応するスキンプレート2bの内面側にスリット9に連通する凹溝10aを有する雌型ガイド部材10,10が固着して設けられている。また、前記第2の縦型矩形セグメント4のスキンプレート4aには、その上下の両端側の位置に、外側に突き出し推進管Sの軸方向に沿って延長された雄型ガイド部材11が固着されている。前記雌型ガイド部材10の凹溝10aには、他の推進管Sの雄型ガイド部材11が嵌合され、また、前記雄型ガイド部材11は、他の推進管Sに設けた雌型ガイド部材10の凹溝10aに嵌合されるようになっている。前記雌型ガイド部材10と雄型ガイド部材11は、大断面トンネルの断面領域における推進管Sの割り付け位置によって、断面方向に隣接する推進管S,Sどうしの雌型ガイド部材10と雄型ガイド部材11が互いに嵌合し得るように、推進管Sの横型、縦型矩形セグメント1,2、3,4のいずれかに所要のものが選択されて設けられる。
【0016】
前記構成の推進管Sがトンネル曲線部において隣接するものどうしで接合される構造は、図6に示すようにようになっている。すなわち、例えば、推進管Sにおけるトンネル曲線部R(図9参照)の半径方向(曲率半径方向)における内側(曲率中心に近い側)R1と外側(曲率中心から遠い側)R2となる第1、第2の縦型セグメント3,4のフランジ板6b,6bに沿って、ボルト孔7を設けた矩形板状の推力伝達材12,12を予め接着しておいて、一対の推進管S,Sの接合面s1,s1を対面させて、一方(図6で左方)の推進管Sの嵌合凸部s1aが他方(図6で右方)の推進管Sの嵌合凹部s1bに嵌合され、前記嵌合凹部s1bの内周部に接着されたシール材が8が嵌合凸部s1aの外周に水密に嵌合された状態となる。
前記推力伝達材12は、低発泡性のポリスチレン、ポリウレタン等の合成樹脂からなり、トンネルの軸方向に推進される推進管Sの全断面域に推進力が均等に作用するときのように、推力伝達材12に作用する圧縮力が比較的小さい領域では、トンネルの軸方向へ弾性的に圧縮、復元可能な状態で前記推進力を伝達するが、それを超えた圧縮力の領域では、圧縮力に対する圧縮量の変化の割合が大きくなって塑性変形をし、その塑性領域が広い特性を有するものである。
【0017】
次に、前記推進管Sを使用して大断面トンネルの施工方法について図7〜図9を参照して説明する。
先ず、従来の推進工法によるトンネルの施工方法と同様にして、地山側に掘進機13を位置させ、その後部に前記推進管Sを接続して掘進機13のカッター13aを作動させながら、推進ジャッキ14により押圧板15を介して推進管Sの後部を押すことにより、掘進機13と推進管Sを地山内に押し進め、1つの推進管Sを押し進める毎に、先行する推進管Sに後続の推進管Sを継ぎ足しながら、大断面トンネルの断面に割り付けられた1つの小断面の推進管Sの接続列(推進管列)Saを地山内に設置する(第1設置工程)。
【0018】
この場合、推進管列Saにおける推進管Sの隣接するものどうしは、例えば、先行側の推進管Sの嵌合凹部s1bに後続側の推進管Sの嵌合凸部s1aが嵌合させられる。
続いて、第2の横型矩形セグメント2と第1、第2の縦型矩形セグメント3,4に雌型ガイド部材10を設けた推進管Sを、その第1の縦型矩形セグメント3の雌型ガイド部材11を前記推進管列Saの推進管Sの第2の縦型矩形セグメント4の雄型ガイド部材11に嵌合させ、前記第1設置工程と同様にして、前記推進管列Saの横に沿って推進させて第2の推進管列Sbを設置する(第2設置工程)(図7,図8(a)参照)。
【0019】
以下、同様にして、図8(b)に示すように、第2の横型セグメント2に雌型ガイド部材10を設け、第1の縦型矩形セグメント3に雄型ガイド部材11を設けた推進管Sを、前記推進管列Sbの横に沿って推進させて第3の推進管列Scを設置する(第3設置工程)。また、第1の横型矩形セグメント1と第2の縦型矩形セグメント4に雄型ガイド部材11を設けた推進管Sを、前記推進管列Saの上に沿って推進させて第4の推進管列Sdを設置する(第4設置工程)。また、第1の横型矩形セグメント1に雄型ガイド部材11を設け、第1、第2の縦型矩形セグメント3,4に雌型ガイド部材10を設けた推進管Sを、前記推進管列Sdの横と推進管列Sbの上に沿って推進させて第5の推進管列Seを設置する(第5設置工程)。さらに、第1の横型矩形セグメント1と第1の縦型矩形セグメント3に雄型ガイド部材11を設けた推進管Sを、前記推進管列Seの横と推進管列Scの上に沿って推進させて第6の推進管列Sfを設置する(第6設置工程)。
【0020】
前記各推進管列Sa〜Sfを設置する第1〜第6設置工程において、大断面トンネルに直線部(トンネル直線部)のほかに曲線部(トンネル曲線部)Rが設けられる場合(図9参照)には、該トンネル曲線部Rに設置される推進管Sは、図6に示すように、トンネル曲線部Rの半径方向の内側R1と外側R2に対応する二辺である第1、第2の縦型矩形セグメント3,4において、隣接する推進管S,Sどうしの前記嵌合凸部s1aと嵌合凹部s1bとの嵌合部Sxで対面する各フランジ板6a,6aと各フランジ板6b,6bとの間に、予め前記推力伝達材12を装着しておく。
【0021】
このようにすると、トンネル直線部において、各推進管Sは、トンネルの軸方向に隣接するものどうしが互いの接合面s1,s1を全面で直接均等に当接され、推進ジャッキ14による推進力が直線状に伝達されて直進されるのに対して、トンネル曲線部Rにおいて、推進管Sのトンネル曲線部Rの半径方向の内側R1では、前記フランジ板6a,6b間に装着された推力伝達材12が、推進ジャッキ14の推進力によって圧縮されて大きく弾性変形される一方、推進管Sのトンネル曲線部Rの半径方向の外側R2では、前記フランジ板6a,6b間に装着された推力伝達材12が、推進ジャッキ14の推進力によって圧縮される弾性変形を小さく抑えられるので、トンネル曲線部Rの半径方向の内、外側R1,R2において推進管Sをトンネルの軸方向へ作用する推進力が均等になり、トンネル曲線部Rに従って方向付けされて推進される掘進機13に各推進管Sが正確に追従してトンネル曲線部Rに倣って設置されることとなる。
【0022】
前記のようにして、大断面トンネルの断面領域に全ての推進管列Sa〜Sfを設置した後には、図8に示すように、大断面トンネルの構造に関わらない各推進管列Sa〜Sfにおける推進管Sの構成部材を撤去して大断面トンネルの覆工体を構築する(本設構築工程)。
すなわち、先ず、大断面トンネルの覆工用として残す横型、縦型矩形セグメント1〜4のうち、大断面トンネルの断面方向に隣接するものの継手板1e〜4eどうしをボルトで連結する。この後に、第1の推進管列Saの推進管Sにおいては第2の横型矩形セグメント2と第2の縦型矩形セグメント4を、第2の推進管列Sbの推進管Sにおいては第2の横型矩形セグメント2と第1、第2の縦型矩形セグメント3,4を、第3の推進管列Scにおいては第2の横型矩形セグメント2と第1の縦型矩形セグメント3を、第4の推進管列Sdの推進管Sにおいては第1の横型矩形セグメント1と第2の縦型矩形セグメント4を、第5の推進管列Seにおいては第1の横型矩形セグメント1と第1、第2の縦型矩形セグメント3,4を、また、第6の推進管列Sfにおいては第1の横型矩形セグメント1と第1の縦型矩形セグメント3を、それぞれ、大断面トンネルの覆工用に残す横型、縦型矩形セグメント1〜4と連結している前記ボルト・ナットBを取り外して撤去する。
【0023】
そして、大断面トンネルの覆工用に残した横型、縦型矩形セグメント1〜4において、トンネルの軸方向に隣接するものどうしを、嵌合部Sxにおける嵌合凸部s1aと嵌合凹部1bのフランジ板6a,6bどうしを、ボルト孔7に挿通したボルト16とナット17で締め付けて連結し、しかる後に、例えば、大断面トンネルの断面領域の周囲に残された推進管Sの横型、縦型矩形セグメント1〜4の内側にコンクリートを充填して硬化させることにより、大断面トンネルの覆工体Tを完成させる。
なお、完成された大断面トンネルの覆工体Tは、前記嵌合部Sxにおいて嵌合凸部s1aの外周面と嵌合凹部s1bの内周面との間に設けたシール材8によって地山から大断面トンネル内への漏水に対する止水が行われる。トンネル曲線部Rではその半径方向における内側R1と外側R2で、トンネルの軸方向における隣接する推進管S,Sどうしの間に隙間eが生じるが、前記嵌合凸部s1aと嵌合凹部s1bがトンネル軸方向に適当量重合されているので、前記止水が常時良好に維持される。
【0024】
以上説明したように、実施の形態に係る推進管のトンネル曲線部における接合構造Kは、一端側の接合面s1に嵌合凸部s1aを設け他端側の接合面s1に嵌合凹部s1bを設けた一対の矩形断面の推進管S,Sどうしが、トンネルの軸方向に隣接して、一方の推進管Sの嵌合凸部s1aを他方の推進管Sの嵌合凹部s1bに嵌合させて接合され、前記推進管Sにおけるトンネル曲線部Rの半径方向の内側R1と外側R2に対応する二辺の縦型セグメント3,4には、前記嵌合凸部s1aと嵌合凹部s1bに対向して設けたフランジ板6a,6bの相互間に位置させて、トンネルの軸方向へ弾性的に圧縮、復元可能であり、かつ推進力伝達が可能な合成樹脂からなる推力伝達材12が装着されると共に、前記嵌合凸部s1aの外周面と嵌合凹部s1bの内周面との間に、シール材8が設けられた構成とされている。
【0025】
また、実施の形態に係るトンネル施工方法は、推進工法により複数の矩形断面の推進管Sをトンネルの軸方向に順に地山に推進させて推進管列Saを設置すると共に、この推進管列Saの上と横に順次推進管列Sb〜Sfを隣接して設置して連結した後に、大断面トンネルの構造に関わらない推進管Sの矩形セグメント1〜4のいずれかを撤去して大断面トンネルの覆工体Tを施工する際して、トンネル曲線部Rにおける推進管列Sa〜Sfの設置を、前記推進管のトンネル曲線部における接合構造Kを用いて行う構成とされている。
【0026】
したがって、実施の形態に係る推進管のトンネル曲線部における接合構造Kおよびトンネル施工方法によれば、トンネル曲線部Rにおいて、各推進管Sにおけるトンネル曲線部Rの半径方向の内側R1と外側R2に対応する二辺の縦型矩形セグメント3,4の推力伝達材12が、それぞれ掘進機による方向付けに応じて適宜に弾性変形することにより、推進ジャッキ14からの推進力が前記推力伝達材12を介して各推進管Sの断面領域の全体に略等分布荷重として作用されて掘進機13に伝達されるので、先行する推進管Sの進行方向に対して後続する推進管Sを精度良く追従させることができる。これにより、トンネル曲線部Rにおける推進管列Sa〜Sfの推進工法による設置を容易に、かつ確実に行うことができる。
また、トンネル曲線部Rに設置された推進管Sの隣接するものどうしの接合面s1,s1間に隙間eが生じても、嵌合凸部s1aと嵌合凹部s1bとの間に設けられたシール材8によって、地山側から推進管S内への水漏れを確実に防止することができ、大断面トンネルの止水性を良好に確保することができる。
【0027】
なお、前記実施の形態に係る推進管のトンネル曲線部における接合構造Kおよびトンネル施工方法においては、水平方向に湾曲するトンネルに適用して、前記推力伝達材12が、推進管S,Sどうしの嵌合部Sxにおける第1、第2の縦型矩形セグメント3,4のフランジ板6a,6b間に推力伝達材12が装着される場合の例を示したが、これに限らず、垂直方向に湾曲するトンネルに適用する場合には、推進管S,Sどうしの嵌合部Sxにおける第1、第2の横型セグメント1,2のフランジ板6a,6b間に装着される。要するに、トンネル曲線部Rの半径方向(曲率半径方向)の内側R1と外側R2の二辺となる縦型矩形セグメント3,4または横型セグメント1,2のいずれかにおけるフランジ板6a,6b間に前記推力伝達材12を装着すればよい。
【0028】
また、前記推進管Sをスキンプレート1a〜4aに主桁板1b〜4bとリブ1c〜4cを接合して形成した鋼殻製矩形セグメント1〜4を矩形枠状に連結して構成したが、推進管Sはこれに限らず、前記鋼殻製矩形セグメントにコンクリートを詰めてなる中詰め型の鋼製矩形セグメントや鉄筋コンクリート製矩形セグメントを矩形枠状に連結して構成したものであってもよい。中詰め型の鋼製矩形セグメントや鉄筋コンクリート製矩形セグメントで構成した推進管Sを使用する場合には、鋼殻製矩形セグメントを使用する場合のように、大断面トンネルの覆工体Tの完成にあたり、矩形セグメントの内側にコンクリートを充填する必要がなく、覆工体Tを容易に完成させることができる。
【0029】
また、前記実施の形態に係るトンネル施工方法おいては、トンネル曲線部Rに設置される推進管S,Sどうしの嵌合凸部s1aと嵌合凹部s1bとの間にのみ推力伝達材12を装着するようにしたが、本発明はこれに限らず、トンネル直線部とトンネル曲線部とが混在するトンネルに推進管列を設置してトンネルの覆工体を施工する場合には、トンネル直線部に設置される推進管S,Sのどうしの接合面s1,s1における嵌合凸部s1aと嵌合凹部s1bのフランジ板(対向面)6a,6b間にも、推進管Sにおけるトンネル曲線部Rの半径方向の内側と外側に対応する二辺に対して、予め前記推力伝達材12を装着しておいてもよい。このようにすると、推進管Sは、トンネル直線部では前記二辺の推力伝達材12が均等に圧縮されて推進管Sに推進力が直線状に伝達されるため直進され、トンネル曲線部Rに差し掛かると前記のように掘進機13に追従してトンネル曲線部Rに倣って推進される。したがって、トンネルにトンネル直線部とトンネル曲線部Rが複数どのような配置で混在していても、そのトンネルの軸方向に推進管を的確に、かつ円滑に追従させて地山内に推進させることができる。
【0030】
また、前記実施の形態に係るトンネル施工方法おいては、第1の推進管列Saを設置してその横に順に第2、第3の推進管列Sb,Scを設置し、しかる後に、それらの推進管列Sa〜Scの上に第1の推進管列Sa側から順に第4、第5、第6の推進管列Sd,Se,Sfを設置するようにしたが、本願発明は、これに限らず、推進管列Sa〜Sfの設置順序は任意であり、それらの設置列数もトンネルの断面領域の大きさに応じて適宜に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態に係る推進管のトンネル曲線部における接合構造に適用する推進管を示す正面図である。
【図2】同じく側面図である。
【図3】同じく平面図である。
【図4】図1のイ矢視図である。
【図5】図1のロ矢視図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る推進管のトンネル曲線部における接合構造を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係るトンネル施工方法に適用する推進工法を示す説明図である。
【図8】同じく推進工法による推進管列の設置工程の説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係るトンネル施工方法による推進管列のトンネル曲線部における設置状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1,2 第1、第2の横型矩形セグメント(矩形セグメント)
3,4 第1、第2の縦型矩形セグメント(矩形セグメント)
5a 突出部材
5b 受け部材
6a,6b フランジ板(フランジ)
7 ボルト孔
8 シール材
9 スリット
10 雌型ガイド部材(ガイド部材)
11 雄型ガイド部材(ガイド部材)
12 推力伝達材
13 掘進機
14 推進ジャッキ
16 ボルト
17 ナット
K 推進管のトンネル曲線部における接合構造
R トンネル曲線部
R1,R2 トンネル曲線部の半径方向(曲率半径方向)における内側、外側
S 推進管
Sa〜Sf 第1〜第6の推進管列
Sx 嵌合部
s1 接合面
s1a 嵌合凸部
s1b 嵌合凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側の接合面に嵌合凸部を設け他端側の接合面に嵌合凹部を設けた一対の矩形断面の推進管どうしが、トンネルの軸方向に隣接して、一方の推進管の嵌合凸部を他方の推進管の嵌合凹部に嵌合させて接合される推進管のトンネル曲線部における接合構造であって、
前記推進管におけるトンネル曲線部の半径方向の内側と外側に対応する二辺には、前記嵌合凸部と嵌合凹部に対向して設けたフランジの相互間に位置させて、トンネルの軸方向へ弾性的に圧縮、復元可能であり、かつ推進力伝達が可能な合成樹脂からなる推力伝達材が装着されていることを特徴とする推進管のトンネル曲線部における接合構造。
【請求項2】
前記嵌合凸部の外周面と嵌合凹部の内周面との間に、シール材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の推進管のトンネル曲線部における接合構造。
【請求項3】
推進工法により複数の矩形断面の推進管をトンネルの軸方向に順に地山に推進させて推進管列を設置すると共に、この推進管列の複数を上下左右に相互に隣接して設置して連結した後に、大断面トンネルの構造に関わらない推進管の矩形セグメントを撤去して大断面トンネルの覆工体を施工するに際して、トンネル曲線部における推進管列の設置を、請求項1または2に記載した推進管のトンネル曲線部における接合構造を用いて行うことを特徴とするトンネル施工方法。
【請求項4】
一端側の接合面に嵌合凸部を他端側の接合面に嵌合凹部を設けた複数の矩形断面の推進管を、隣接する推進管どうしの嵌合凸部と嵌合凹部を嵌合させて、推進工法によりトンネル直線部とトンネル曲線部とが混在するトンネルの軸方向に順に地山に推進させて推進管列を設置してトンネルの覆工体を施工するトンネル施工方法において、
トンネルの軸方向に隣接する推進管の、トンネル曲線部の半径方向の内側と外側に対応する二辺における前記嵌合凸部と嵌合凹部の対向面間に、トンネルの軸方向へ弾性的に圧縮、復元可能であり、かつ推進力伝達が可能な合成樹脂からなる推力伝達材を装着して、推進管を推進させることを特徴とするトンネル施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−63947(P2007−63947A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254931(P2005−254931)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000198307)石川島建材工業株式会社 (139)
【Fターム(参考)】