説明

携帯型電動工具

【課題】モータの回転速度を作動中に自動的に決定して制御するための手段を有する携帯型電動工具を提供することが本発明の目的である。
【解決手段】ドリルの出力部6を駆動するための電動モータ4を収容する本体2を具備するハンマードリルが開示される。振動変換器12がモータ4によって生み出された振動を検知するとともに検知した振動に応じた振動信号を生成する。電子モジュール10が、モータの回転速度を制御するコントローラ10aと、振動変換器12から振動信号を受信して、振動信号に基づいてモータ4の回転速度を決定して、コントローラ10aにモータの回転速度を制御させるために、出力信号をコントローラ10aに供給する信号処理装置10bとを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型電動工具に関するものであり、特に携帯型電動工具のモータの回転速度を検出して制御するための手段を有する携帯型電動工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハンマードリルのような電動工具は、本技術分野ではよく知られていて、工具のシャンク又はドリルビット若しくはチョッピングビットのようなビットのシャンクを受容するスピンドルを駆動する電動モータを通常は備えている。そのようなハンマードリルはモータからの回転駆動を往復駆動に変換する衝撃機構を具備しており、前記往復駆動によりピストンはスピンドル内で往復運動をさせられる。ピストンは、ピストンとラムとの間に位置する密閉空気クッションによってラムを往復駆動させ、ラムからの衝撃が工具又はハンマーのビットに伝達される。モータの回転運動及び往復運動しているピストンは、電動工具を介して及び電動工具から伝達される様々な重畳周波数を有する振動を引き起こす。
【0003】
さらに、工具ビットの切削速度が、特に工具ビットの直径、モータの適切な回転速度、及び特定の被加工物材料のための生成ハンマー周波数に依存することもよく知られている。従って、従来技術による電動工具は、モータ速度及び/又はハンマー周波数を所与の工具ビットの直径及び/又は被加工物材料のための推奨される速度に設定するために、操作者によって手動で調整され得るモータ速度制御ノブを含んでいることが知られている。電動工具が使用されているとき、工具ビットの切削作用に対する被加工物材料の抵抗は変動し、このことは、モータの回転速度の予測不可能な振動を引き起こすことがあり、従って電動工具の効率に影響を及ぼす。また、工具が過大な抵抗に遭遇すると、作動中のモータの過熱が発生することもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、モータの回転速度を作動中に自動的に決定して制御するための手段を有する携帯型電動工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、ハウジングと、工具の出力部を駆動するためにハウジング内に収容された電動モータと、電動モータによって生み出された振動を検知して、検知した振動に応じた振動信号を生成する振動変換器と、モータの回転速度を制御するコントローラと、振動変換器から振動信号を受信して、この振動信号に基づいてモータの回転速度を決定して、コントローラにモータの回転速度を制御させるために出力信号をコントローラに供給する信号処理装置とを具備する電動工具が提供される。
【0006】
振動変換器から振動信号を受信して、この振動信号に基づいてモータの回転速度を決定して、コントローラにモータの回転速度を制御させるために出力信号をコントローラに供給する信号処理装置を備えることにより、被加工材料によって加工中に生み出される抵抗に関係なくモータの回転速度が比較的一定に維持されることを可能にするという利点が提供される。これは、例えば電動工具の切削効率を最大化して過熱からモータを保護することを可能にする。
【0007】
コントローラ及び信号処理装置は、単一の電子モジュール内に一体化され得る。
【0008】
これは、電動工具のハウジング内のスペースを節約すると共に製造の複雑さ及び費用を低減するという利点を提供する。
【0009】
信号処理装置は、モータの回転によって引き起こされる振動信号の成分を高めるように及び/又は絶縁するように構成され得る。
【0010】
これは、課題の振動信号、例えばモータの半径方向振動により引き起こされた信号の選択性と質とを向上させることにより誤読取りを最少化するという利点を提供する。
【0011】
信号処理装置は、検知した振動信号の周波数スペクトルを生成し、振幅及び/又は周波数に基づいて少なくとも一つの周波数成分を選択するように構成され得る。
【0012】
これは、例えば、単純に(i)最大振幅を有する周波数成分を選択することにより及び/又は(ii)電動工具の手動で選択された速度設定値から既知の特定の周波数範囲内の周波数成分を選択することにより、モータの回転速度を決定するために使用され得る周波数成分を見つけ出すための選択プロセスを容易にするという利点を提供する。
【0013】
信号処理装置は、モータの決定された回転速度と事前に選択された目標回転速度との間の差により決定された出力信号を提供するように構成され得る。
【0014】
振動変換器は、モータに隣接してハウジングに搭載され得る。
【0015】
振動変換器は、モータによって引き起こされた半径方向振動を検出するように構成され得る。
【0016】
振動変換器は少なくとも一つの圧電センサを含み得る。
【0017】
本発明の実施形態は、添付図面を参照して、制限的な意味ではなく単なる例示を目的としてここで説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態によるハンマードリルの側面断面図である。
【図2】図1の振動変換器から受信された典型的な振動信号のグラフを示す図である。
【図3】図2に示される振動信号のフーリエ変換(振幅対周波数)のグラフを示す図である。
【図4A】コントローラによって実行される主ルーチン、及び主ルーチン内で実行されるサブルーチンのモータ制御の流れ図である。
【図4B】主ルーチン内で実行されるサブルーチンのソフトスタートの流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照すると、ハンマードリルは本体2を具備しており、前記本体2内にはモータ4が搭載されている。モータ4は、ドリルビット(不図示)を受容するためのチャック6を歯車箱8を介して回転駆動する。モータ4の回転速度は電子モジュール10によって制御され、前記電子モジュール10はコントローラ10aと信号処理装置10bとを具備しており、その機能は以下に詳細に説明される。
【0020】
信号変換器12は、モータ4の近くの本体2に取り付けられているが、モータ4のスピンドル16の回転軸線14上には取り付けられない。信号変換器12は任意のタイプのセンサ、例えば圧電センサであってよいが、周波数範囲をとおして振動を検出できなければならない。信号変換器12は、モータ4によって引き起こされた振動の、スピンドル16の回転軸線14から半径方向の振幅を測定する。
【0021】
図2は、ハンマードリルが作動しているときに振動変換器12によって生成された典型的な振動信号20のグラフを示す図であり、グラフは時間に対する振幅を示している。振動信号20はハンマードリル内の多くの源からの振動を概ね表している。例えば、振動は、モータ4のロータとモータ回転軸線14との不完全な回転対称性の心合わせによって生み出される。他の振動は、歯車8及びスピンドル16の回転によって、又は衝撃機構の往復駆動によって引き起こされることがある。振動信号20は次に電子モジュール10の信号処理装置10bに供給される。
【0022】
図3は、振動信号20の様々な周波数を分離するためにフーリエ変換アルゴリズムを図2の振動信号20に適用することにより信号処理装置10bによって提供された周波数スペクトラム(振幅対周波数)のグラフを示す図である。例えば、モータ4のアーマチュアの不完全な対称性の回転により引き起こされた振動は、図3のグラフで示されるようなスパイク22(周波数成分)を発生させる。即ちそれは比較的大きな振幅の振動を特定の周波数で発生させる。スパイク22の特定の周波数において結果として生じた信号は次に、振動信号20の成分を高め及び/又は分離するために、又は少なくともモータ4によって引き起こされた振動信号20の主成分を高めるために濾波される。
【0023】
モータ4によって引き起こされた振動の周波数は、モータ4の回転速度に直接的に比例している。従って、周波数を決定することは、モータ4の回転速度が計算されることを可能にする。例えば、もしモータ4の回転速度が増大したなら振動の周波数は増大する。同様に、もしモータ4の回転速度が低下したなら振動の周波数は低下する。従って、モータ4の回転運動の周波数成分を測定することにより、信号処理装置10bは、モータ4の回転速度を決定することができるとともに、決定された回転速度と予め選択された目標速度との間の差に基づく出力信号を、モータ4の回転速度を自動的に調節するために、コントローラ10aに供給することができる。
【0024】
図4Aは電動工具の作動中に電子モジュール10によって実行される主ルーチン及び主ルーチン内で実行されるサブルーチンのモータ制御の流れ図であり、図4Bは主ルーチン内で実行されるサブルーチンのソフトスタートの流れ図である。主ルーチン及びそのサブルーチンである(i)ソフトスタート及び(ii)モータ制御が以下に示される。
【0025】
主ルーチン内のステップS10において、操作者は、電動工具にプラグを差し込むことにより電源が供給されることを確実にし、次いでステップS20において、スイッチ投入ボタンを押すことによって電動工具を手動で作動させる。次いでステップS30において、コントローラ10aが、速度ダイヤルの設定値に従ってモータ4の最大回転速度を設定して、モータ4の目標回転速度に達するまで次第に増大するモータ速度による損傷からモータを保護するためにステップS40においてソフトスタートサブルーチンを開始させる。次にモータ4の回転速度は、操作者がステップS60において電動工具のスイッチを手動で切るまで、モータ4の回転速度を絶えず監視して調整するステップS50におけるモータ制御サブルーチンによって維持される。
【0026】
ステップS40のソフトスタートサブルーチン内で、コントローラ10a内に設けられるか又はコントローラ10aによって制御されるトライアック(登録商標)(図示せず)の点火角度は、ステップS110において増大せしめられ、及び信号処理装置10b内の帯域幅フィルタがステップS120において自動的に調節される。ステップS130において、振動変換器12が、モータ4の振動を測定して、振動信号20を信号処理装置10bに供給し、ステップS140における信号処理装置10bで、振動信号20は調節可能な帯域幅フィルタを使って例えば濾波される。ステップS150において、振動信号20の周波数スペクトラムが高速フーリエ変換により生み出されて、ステップS160において、モータ4の瞬時回転速度を決定するために、モータ4の回転運動によって引き起こされた最新の周波数スパイクが例えば振幅に基づいて選択され、前記モータ4の瞬時回転速度は次にステップS170においてモータ4の目標回転速度と比較される。現在の回転速度がモータ4の目標回転速度より小さい限りは、ソフトスタートサブルーチンは、ステップS110に戻り、各相互作用と共に、増大したトライアック(登録商標)点火角度を使って繰り返される。モータ4の目標回転速度が達せられたときは、ソフトスタートサブルーチンはステップS180において終了し、ステップS50のモータ制御サブルーチンがステップS210において開始される。
【0027】
モータ制御サブルーチン内のステップS210において、モータ4の回転速度は速度ダイヤル設定値に従って調節され、帯域幅フィルタ係数が、ステップS220において必要に応じて自動的に調節される。ステップS230において、振動変換器12は、モータ4の振動を測定して、振動信号20を信号処理装置10bに供給し、ステップS240における信号処理装置10bにおいて、振動信号20は調節可能な帯域幅フィルタを使って例えば濾波される。ステップS250において、振動信号20の周波数スペクトラムが高速フーリエ変換によって生み出され、ステップS260において、モータ4の回転運動によって引き起こされた最新の周波数スパイクが、モータ4の瞬時回転速度を決定するために例えば振幅に基づいて選択され、前記モータ4の瞬時回転速度は次にモータ4の目標回転速度と比較される。次いでステップS270において、モータ4の回転速度は必要に応じて調節され、モータ制御サブルーチンは、操作者が電動工具のスイッチを手動で切るまで繰り返される。
【0028】
本技術分野に知識を有するものは、上述の実施形態が制限的な意味においてではなく単に例示を目的として説明されたこと、及び様々な変更形態及び変形形態が特許請求の範囲によって規定された本発明の範囲から外れることなく可能であることを理解するであろう。
【符号の説明】
【0029】
2 本体
4 モータ
6 チャック
8 歯車箱8
10 電子モジュール
10a コントローラ
10b 信号処理装置
12 信号変換器
14 回転軸線
16 スピンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯型電動工具であって、
ハウジングと、
工具の出力部を駆動するために前記ハウジング内に収められた電動モータと、
前記モータによって生み出された振動を検知するとともに検知した振動に応じた振動信号を生成する振動変換器と、
前記モータの回転速度を制御するコントローラと、
前記振動変換器から前記振動信号を受信して、前記振動信号に基づいて前記モータの回転速度を決定して、前記コントローラに前記モータの回転速度を制御させるために、出力信号を前記コントローラに供給する信号処理装置と、を具備する携帯型電動工具。
【請求項2】
前記コントローラと前記信号処理装置とが単一の電子モジュール内に一体化されている、請求項1に記載の携帯型電動工具。
【請求項3】
前記信号処理装置は、前記モータの回転により引き起こされた振動信号の成分を高めるように及び/又は分離するように構成されている、請求項1又は2に記載の携帯型電動工具。
【請求項4】
前記信号処理装置は、前記振動信号から周波数スペクトラムを生成するとともに、少なくとも一つの周波数成分を振幅に基づいて選択するように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の携帯型電動工具。
【請求項5】
前記信号処理装置は、前記振動信号から周波数スペクトラムを生成するとともに、少なくとも一つの周波数成分を周波数に基づいて選択するように構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の携帯型電動工具。
【請求項6】
前記信号処理装置は、前記選択された周波数成分の周波数から前記モータの前記回転速度を決定するように構成されている、請求項4又は5に記載の携帯型電動工具。
【請求項7】
前記信号処理装置は、前記回転速度と前記モータの予め定められた目標回転速度との間の差により決定された出力信号を供給するように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の携帯型電動工具。
【請求項8】
該携帯型電動工具がハンマードリルである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の携帯型電動工具。
【請求項9】
前記振動変換器は、前記モータに近接して前記ハウジングに搭載されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の携帯型電動工具。
【請求項10】
前記振動変換器は、少なくとも一つの圧電センサを含んでいる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の携帯型電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2009−184105(P2009−184105A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20476(P2009−20476)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(391010769)ブラック アンド デッカー インク (87)
【氏名又は名称原語表記】BLACK & DECKER INC.
【Fターム(参考)】