説明

携帯端末及びその送信電力制御方法

【課題】無線通信を行う携帯端末に関し、人体への近接を検出するための外部センサを用いることなく、人体への近接を検出し、近接した場合においてSARが定められた基準を満たすようにしつつ、通信品質の低下をできるだけ防ぐようにした携帯端末を提供すること。
【解決手段】無線通信を行う携帯端末であって、送信時にアンテナからの反射電力を測定するための方向性結合器と、反射電力のレベルを測定する電力レベル測定部と、測定した前記反射電力のレベルが予め定められた基準値を超えないように送信電力の抑制制御を行う送信電力制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を行う携帯端末に関し、特に、人体に許容される電磁波の基準を考慮した送信電力の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人体側頭部の近くでの使用が想定される携帯電話等の無線通信機器端末(以下、「携帯端末」という。)に関しては、人体に対する電波の影響を考慮して、人体に許容される電波の基準が定められている。
この基準にはSAR(Specific Absorption Rate)と呼ばれる指標が用いられ、単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量であらわす。SARの単位はW(ワット)/kg(キログラム)で、値が大きいほど人体に対する影響が大きいことを意味する。
【0003】
日本での基準は、任意の10g(グラム)当りの組織に6分間に吸収されるエネルギー量が2.0W/kg以下と定められている(総務省令・無線設備規則)。従って日本で使用する電波を発する携帯端末はこの基準を満たすように設計する必要がある。なお、この基準は、国によって異なっており、例えば、米国では、任意の1g当たりの組織に6分間に吸収されるエネルギー量が1.6W/kg以下と定められている。なお、携帯端末のSARを低減する一般的な技術としては、例えば特許文献1の技術が知られている。
【0004】
ところで、送信電力が同じであれば、携帯端末からの距離が近くなる程、SARの値は大きくなり、携帯端末からの距離が同じであれば、送信電力が大きい程、SARの値は大きくなる。このため、SARが、定められた基準を満たすようにするためには、携帯端末を人体の頭部や胴体(以下、「人体頭部等」という。)に近接した位置で使用した場合を想定して、近接した位置でのSARが定められた基準を満足させるように、携帯端末に許容される送信電力の上限値を予め低く設計することが考えられる。
【0005】
ところが、送信電力の上限値を予め低く設計すると、通信状況によっては、通信が途中で途切れたり、全くできなくなったりする状況が発生し通信品質が低下し得る。
そこで、携帯端末を人体頭部等に近接した位置で使用する場合に限って、送信電力を低くすることが望まれる。
この一方法として、光センサを用いて携帯端末が人体頭部等に接近しているか否かを判断する技術が知られている。このような携帯端末では、携帯端末を人体側頭部に近づけて使用する場合に人体側頭部によって覆われると想定される位置に光センサの受光部が設置されており、受光部へ入る光量が一定値以下に減少したら人体側頭部近くで使用されていると判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−67512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、光センサを用いる場合、例えば、周辺が暗い状況では、人体頭部等が接近しているか否かの判断が困難であり、人体頭部等に近接して携帯端末が使用されていても送信電力を抑制する制御がなされないおそれがある。
また、人体頭部等が近接しているかを検出するための専用のセンサを携帯端末に搭載するのはコストがかかるという問題もある。
【0008】
そこで、本発明は係る問題に鑑みてなされたものであり、SARが、定められた基準を満たすように送信電力の抑制制御を行う携帯端末を提供すること、及びこのような携帯端末の送信制御方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る携帯端末は、送信時にアンテナからの反射電力を取り出す方向性結合器と、前記反射電力のレベルを測定する電力レベル測定部と、測定した前記反射電力のレベルが予め定められた基準値を超えないように送信電力の抑制制御を行う送信電力制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記構成を備える本発明に係る携帯端末によれば、SARが、定められた基準を満たすように送信電力の抑制を行い、近接していない場合には通信品質の低下をできるだけ防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態に係るファントムヘッドを利用した反射電力のレベルを調べるための測定方法を説明する図。
【図2】図1の方法で測定した反射電力のレベルの測定結果のグラフ。
【図3】実施の形態1に係る携帯端末の主要部の機能構成を示すブロック図。
【図4】(a)実施の形態1に係る携帯端末が記憶する送信周波数別の反射電力の閾値テーブルのデータ構造及び内容例を示す図。(b)実施の形態2に係る携帯端末が記憶する送信周波数別の反射電力の送信電力に対する比の閾値テーブルのデータ構造及び内容例を示す図。
【図5】実施の形態1の携帯端末に係る送信電力制御処理を示すフローチャート。
【図6】実施の形態2の携帯端末に係る送信電力制御処理を示すフローチャート。
【図7】本発明の変形例の携帯端末の主要部の機能構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
携帯端末に誘電体としての性質を有する人体頭部等が近づくと携帯端末のアンテナの特性が変化し、空間インピーダンスとの不整合が生じ、携帯端末のアンテナから送信される送信電力の一部は、空中に放射されずに反射電力としてアンテナと接続した電子回路に帰還する。そして、携帯端末と人体頭部等の距離が接近するほど反射電力は大きくなる。
【0013】
この特性を利用して実施の形態1に係る携帯端末1は、人体頭部等に近接した状態で使用されているか否かを判断し送信電力の制御を行う。すなわち、送信時の反射電力を監視し、反射電力が増大したら自端末が人体頭部等に近接していると判断し、その反射電力が予め定めた閾値に達した場合に送信電力の抑制を行う。
反射波の反射電力の一部は、アンテナまでの送信経路に接続した方向性結合器を用いることで取り出すことができる。よって、方向性結合器で取り出された反射波の反射電力のレベルを測定し、その測定結果に基いて、携帯端末が人体頭部等に近接した状態で使用されているか否かを判断することができる。
【0014】
図1は、携帯端末1から電波を送信した場合に人体頭部等の影響によって反射電力がどのように変化するのかを調べるための測定手法を説明する図である。
ファントムヘッド100は、SARの測定に用いられる人体の頭部形状の内部を人体等価液剤で満たした人頭部模型である。ファントムヘッド100の耳部から、同図に示す0〜15mm離れた各位置に携帯端末1を設置して、携帯端末1から電波を送信してその時の反射電力を測定する。以下、携帯端末1のファントムヘッド100への対向面とファントムヘッド100の耳部との間隔を、携帯端末1と人体頭部等との距離とよぶ。このようにして測定した反射電力のレベルをグラフ化したものが図2である。
【0015】
図2のグラフに示される「Free」は、ファントムヘッド100を設置しない状態で携帯端末1から電波を送信した場合を示す。同図に見られるように、携帯端末1と人体頭部等との距離が近くなるほど反射電力のレベルが大きくなることがわかる。
ところで、SARの基準としては、例えば、米国では、一般的な携帯電話機の筐体(略直方体状)の前面及び背面それぞれについて、その表面からの距離が15〜25mmとなる位置で測定したSARを、一定基準値(1.6W/kg)以下にすることが求められる。また、ワイヤレスルータ機能を有するタブレット形の携帯端末については、その筐体(略直方体状)を構成する6面のうちのアンテナから25mm以上離れる面を除く各面それぞれについて、その表面からの距離が10mmとなる位置で測定したSARを、上記一定基準値(1.6W/kg)以下にすることが求められる。以下、このタブレット形の携帯端末に適用されるルールを、「10mmルール」という。
【0016】
本実施の形態の携帯端末1は、「10mmルール」に基いて、図1で示すように携帯端末1と人体頭部等との距離が10mmの位置において、携帯端末1の送信最大出力で送信した場合に測定したSARの値が、定められた基準値より高く、このため、送信電力を抑制する必要があることを前提として説明する。また、携帯端末1は、送信最大出力が23dBmであり、送信最大出力より1dB以上減衰した送信出力であれば、「10mmルール」を満たすように設計されていることを前提とする。このため、本実施の形態では、送信電力を抑制しなければいけないと判断した場合には、送信電力を、送信最大出力より1.1dB減衰した出力となるように抑制するものとする。
【0017】
以下、本発明に係る携帯端末1について図面を参照しながら詳しく説明する。
<構成>
図3は、本実施の形態の携帯端末1の送信電力制御を行うための主要部の機能構成を示す。
同図に示すように、携帯端末1は、制御部10、記憶部11、ベースバンド部12、無線部13、フィルタ14、増幅器15、方向性結合器16、方向性結合器17、切替部18、セレクタ19、アンテナ20、及び受信部21を備える。
【0018】
記憶部11は、不揮発性メモリやハードディスク等の記憶媒体により実現され、携帯端末1で使用する周波数ごとに反射電力のレベルの閾値を対応づけた閾値テーブル400を記憶する。
図4(a)に、記憶部11に記憶する閾値テーブル400のデータ構造を示す。
閾値テーブル400は、項目として、使用する送信周波数401と送信周波数ごとに対応づけた反射電力のレベルの閾値402とを有する。具体的には、閾値402は、図1の携帯端末1と人体頭部等との距離が10mmの位置に携帯端末1を設置して使用する送信周波数ごとに反射電力を予め測定した値である。
【0019】
制御部10は、基地局との間でのCDMA方式での無線通信を制御する機能と無線通信に必要なベースバンド信号を出力する機能と、送信電力制御処理を行う機能と、送信電力と反射電力の測定のために電力レベル測定部131(後述)に接続する方向性結合器の結合端子を切替える切替部18(後述)の制御を行う機能とを有する。送信電力制御処理は、通信している基地局からの制御信号の指示に従って送信電力を増減する制御と、記憶部11に予め記憶した反射電力のレベルの閾値と、電力レベル測定部131で測定した電波送信時の反射電力のレベルとを比較し、その結果に基いて、送信電力の抑制を行う制御とに分けられる。送信電力の増減は、制御部10の指示に従って後述の増幅器15が行う。また、制御部10は、基地局からの制御信号の受信間隔(例えば0.625ミリ秒)より短い時間間隔(例えば、基地局からの制御信号の受信間隔の半分の時間間隔)で切替器18に方向性結合器の結合端子を切替える指示をする。制御部10は、反射電力のレベルが周波数ごとに予め設定した反射電力の閾値以上の場合には、SARが、定められた基準を満たすように予め設定した送信電力になるように送信電力を抑制する。なお、携帯端末1は、プロセッサ及びメモリを含み、制御部10の機能は、このメモリに記憶されているプログラムをこのプロセッサが実行することにより実現される。
【0020】
ベースバンド部12は、制御部10からベースバンド信号を受領してデジタル変調する回路であり、無線部13にデジタル変調後の信号を送出する機能を有する。
無線部13は、CDMA方式による無線通信を行うための無線回路であり、IC(Integrated Circuit)等で実現される。無線部13は、ベースバンド部12から受領したデジタル変調後の信号を無線信号に変換し、フィルタ14を介して増幅器15に送出する機能を有する。また、無線部13は、電力レベル測定部131を有し、電力レベル測定部131は、切替部18が接続する方向性接合器を切替えるごとに送信電力のレベル又は反射電力のレベルを測定し、制御部10に測定結果を送る。
【0021】
フィルタ14は、無線部13と増幅器15との間に挿入され、無線部13から受領した無線信号のうち、増幅器15に対応するPCS(Personal Communications Service)帯の信号を通過させるバンドパスフィルタである。
増幅器15は、PCS帯の送信信号の電力増幅用の増幅器であり、フィルタ14を介して受領した信号を、制御部10からの指示に従って増幅する機能を有する。
【0022】
方向性結合器16は、送信電力の一部を取り出す機能を有する回路素子である。送信電力の一部は結合端子16cを通して出力され、切替部18を介して無線部13の電力レベル測定部131で測定される。
方向性結合器17は、反射電力の一部を取り出す機能を有し、端子17bからの反射電力のレベルは、結合端子17dを通して出力され、切替部18を介して無線部13の電力レベル測定部131で測定される。
【0023】
切替部18は、電力レベル測定部131に接続する方向性結合器の結合端子を切替えるスイッチであり、制御部10の指示に従って、無線部に接続する方向性結合器の結合端子を反射電力の一部を取り出すための方向性結合器の結合端子と、送信電力の一部を取り出すための方向性結合器の結合端子とを交互に切替える機能を有する。
セレクタ19は、アンテナ20と接続し、送信経路と受信経路とを切替えるスイッチである。
【0024】
受信部21は、図示しない受信用増幅器等を含み、セレクタ19で受信経路を選択されている間、基地局からの受信電波を無線部13へ送出する。
<動作>
次に上記構成を備える携帯端末1の動作について図を用いて説明する。
図5は、携帯端末1の制御部10による送信電力制御処理を示すフローチャートである。
【0025】
携帯端末1の電源(不図示)がONにされると、制御部10は、基地局との間でCDMA方式による無線通信の確立を行い、送信電力の制御処理を開始する。
制御部10は、切替部18を制御して方向性結合器17の結合端子17dを無線部13と接続する。無線部13の電力レベル測定部131は、反射波の反射電力のレベルPrを測定し、その測定結果を制御部10に送る(ステップS10)。
【0026】
次に、制御部10は、送信している周波数(例えば1908MHz)に対応する反射電力の閾値Pth(例えば−14.5dBm)を記憶部11の閾値テーブル400から取得し、(ステップS11)反射電力の測定値Prと閾値Pthを比較する(ステップS12)。
ステップS12でPr≧Pthの場合(ステップS12:YES)、すなわち制御部10が送信中の送信電力は、SARが基準を超える送信電力での送信であると判断した場合、制御部10は、送信電力を送信最大出力から1.1dB減衰させる(ステップS13)。具体的には、制御部10は、増幅器15への入力電流値を、送信電力の出力が送信最大出力から1.1bB減衰した出力となる出力電流が得られる入力電流値に減少させる。なお、増幅器の設計時に、入力電流の大きさに応じた出力電流の増幅量が予めわかっており、制御部10の送信電力抑制処理を行うプログラムに予めプログラムされているものとする。また、本実施の形態1では、SARが基準を超える送信電力であるのは、携帯端末1の最大送信電力と最大送信電力から1dB減衰した送信電力の範囲の送信電力である前提なので、SARが基準を満たす送信電力にするための減衰量を1.1dBと設定している。
制御部10は、ステップS12でPr≧Pthの条件を満たさない場合(ステップS12:NO)には、携帯端末1が通信中の基地局からの制御信号に、送信電力を上げる指示が含まれているか否かを判断する(ステップS14)。
【0027】
送信電力を上げる指示の制御信号を受信した場合(ステップS14:YES)には、基地局が、携帯端末1の送信電力は基地局との通信において通信品質を保つために十分な出力でないと判断していることを意味する。
このため、制御部10は、増幅器15に電力増幅を行うよう指示する(ステップS15)。具体的には、制御部10は、増幅器15への入力電流値を、送信電力の出力が現在送信している送信電力から1bB増幅した出力となる出力電流が得られる入力電流値に増加させる。ただし、切替部18で電力レベル測定部131に接続する方向性結合器を方向性結合器16に切替え、方向性結合器16の結合端子16cを通して電力レベル測定部131で送信電力のレベルを測定し、送信電力が携帯端末1の送信最大出力を超えないように増幅器15に入力する電流値を制御する。
【0028】
ステップS13の処理が完了した場合、ステップS15の処理が完了した場合、又はステップS14で基地局から送信電力を上げる指示の制御信号がない場合(ステップS14:NO)はステップS10からの処理を繰り返す。
以上により、本実施の形態1では、反射電力のレベルを用いて送信電力抑制の判断を行い、反射電力のレベルは携帯端末と人体頭部等の距離によって変化するので反射電力のレベルを利用することによって、人体頭部等への近接検出専用のセンサを携帯端末の外面に搭載することなく、携帯端末の人体頭部等への近接を検出し、人体頭部等に近接した場合に、SARが、定められた基準を満たすように送信電力の抑制制御を行う携帯端末を提供することができる。
<実施の形態2>
実施の形態1の携帯端末1では、送信電力の抑制を行うか否かの判断を反射電力の値を、予め定められた反射電力の閾値と比較することにより送信電力の抑制を行うか否かを判断したが、これに限らない。
【0029】
例えば、反射電力の送信電力に対する比に基いて送信電力の抑制の判断を行ってもよい。
以下、実施の形態2として、反射電力の送信電力の比に基く抑制制御について、実施の形態1で示したものと変更ない点についての説明は省略し、変更ある点を重点的に説明する。
【0030】
実施の形態の携帯端末1との違いは、記憶部に予め記憶する送信周波数ごとの閾値テーブルは、閾値として反射電力の値を用いるのではなく、反射電力の送信電力に対する比を用いる点と、制御部がこの比を用いた閾値に基づいて、送信電力の抑制制御の判断を行う点である。
<構成>
以下、本実施の形態2の携帯端末を携帯端末2、反射電力の送信電力に対する比を用いた閾値テーブル500を記憶する携帯端末2の記憶部を記憶部11b、同じく制御部を制御部10bとする。
【0031】
図4(b)は、本実施の形態2で用いられる送信周波数ごとの反射電力の送信電力に対する比の閾値テーブル500を示す。
閾値テーブル500は、項目として、使用する送信周波数501と反射電力の送信電力に対する比の閾値502を有する。具体的には、閾値502は、図1の携帯端末2と人体頭部等との距離が10mmの位置に携帯端末2を設置して、使用する送信周波数ごとに携帯端末2の最大送信出力で送信した場合に予め測定した反射電力の値と、最大送信出力に基いて計算した比を用いる。
【0032】
<動作>
図6は、携帯端末2の制御部10bによる送信電力制御処理を示すフローチャートである。
電力レベル測定部131は、図5のステップS10と同様に、反射波の反射電力Prを測定し、制御部10bに測定結果を送る(ステップS20)。
【0033】
制御部10bは反射電力に対する送信電力の比Ro=反射電力Pr/送信電力Psを計算する(ステップS21)。次に、制御部10bは、送信している周波数に対応する閾値Rthを記憶部11bの閾値テーブル500から取得し(ステップS22)、RoとRthを比較する(ステップS23)。
制御部10bは、ステップS23でRo≧Rthの場合(ステップS23:YES)で、さらに現在送信中の送信電力Ps≧(送信最大出力−1dB)である場合(ステップS24:YES)に、ステップS13と同様の処理で携帯端末2の送信最大出力から1.1dB減衰した送信出力にする(ステップS25)。
【0034】
ステップS23で、Ro≧Rthの条件を満たさない場合(ステップS23:NO)には、実施の形態のステップS14、S15と同様の処理を行う(ステップS26、S27)。
ステップS25の処理が完了した場合、ステップS27の処理が完了した場合、又はステップS26で基地局から送信電力を上げる指示の制御信号がない場合(ステップS26:NO)はステップS20からの処理を繰り返す。
【0035】
このように、反射電力の送信電力に対する比に基いて抑制制御の判断を行うことによって、送信電力が増減した影響で反射電力のレベルの値が増減したのか否かを考慮する必要がない。
<変形例>
以上、本発明に係る携帯端末を、実施の形態に基いて説明したが、以下のように変形することも可能であり、本発明は上述した実施の形態で示した通りの携帯端末に限られないことは勿論である。
【0036】
(1)実施の形態1、2の携帯端末1、2では、反射電力の閾値を、携帯端末と人体頭部等の距離が10mmである場合の反射電力のレベルに基いて設定したが、これに限られない。
実施の形態1、2では、この距離は、「10mmルール」に基いて定めたものであるが、SARの基準は国によって異なっているので、これら定められた基準を満たす送信電力となるよう制御しなければならない距離に基いて設定すればよい。
【0037】
(2)実施の形態1、2の携帯端末1、2では、送信出力を送信最大出力より1dB以上減衰した送信出力であればSARが、定められた基準を満たす送信出力となるように設計されているという前提であったので、送信出力を送信最大出力より1.1dB減衰した送信出力に抑制するとして説明した。しかし、送信最大出力より1.1dB減衰した送信出力に抑制することに限られない。SARが、基準を満たす出力になるような送信出力に抑制すればよい。ただし、通信品質を考慮すると、SARが基準を満たす範囲内において送信出力はできるだけ大きい方が望ましい。
【0038】
(3)実施の形態1、2の携帯端末1、2では、送信電力と反射電力のレベルを測定するために無線部13と接続する方向性結合器の結合端子を、切替部18を介して接続するものとして説明したが、これに限らない。
無線部に方向性結合器からの入力を受け付ける入力部を2つ設けて、切替部なしにそれぞれの方向性結合器の結合端子と接続するようにしてもよい。
【0039】
また、送信電力と反射電力のレベルを測定するための方向性結合器をそれぞれ別の単方向性結合器で行う構成として説明したが、双方向性結合器である方向性結合器31を用いて図7で示す構成にしてもよい。方向性結合器31では、送信電力は端子31aから端子31bに伝送され、その一部は端子31cで取り出される。同様に、端子31b側からの反射電力の一部は端子31dで取り出される。この場合、切替部で選択されていない結合端子が開放端とならないようにインピーダンス補償用のアッテネータ32a、32bを、それぞれの結合端子と切替部18の間に追加する。
【0040】
このように双方向性結合器を用いることにより、回路構成を簡素化できる。
(4)実施の形態において説明した各構成要素のうち、ベースバンド部、無線部、受信部を1チップ又は複数チップの集積回路で実現してもよいし、コンピュータのプログラムで実現してもよいし、その他どのような形態で実現してもよい。また、これらの各構成要素は、携帯端末が有するプロセッサと協働することにより、その機能を実現する。
【0041】
(5)実施の形態1、2において説明した携帯端末の送信電力制御処理(図5及び図6参照)をプロセッサに実行させるためのプログラムを、記録媒体に記録し又は各種通信路等を介して、流通させ頒布することもできる。このような記録媒体には、ICカード、ハードディスク、光ディスク、フレキシブルディスク、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等がある。流通、頒布されたプログラムは、機器におけるプロセッサで読み取り可能なメモリ等に格納されることにより利用に供され、そのプロセッサがそのプログラムを実行することにより実施の形態で示した携帯端末の各機能が実現される。
【0042】
(6)実施の形態に係る携帯端末に、上記(1)〜(5)の一部又は全部の変形を組み合わせて適用してもよい。
<補足>
以下、更に本発明の一実施形態に係る携帯端末の構成及びその変形例と各効果について説明する。
【0043】
(a)本発明の一実施形態に係る携帯端末は、送信時にアンテナからの反射電力を取り出す方向性結合器と、反射電力のレベルを測定する電力レベル測定部と、測定した反射電力のレベルが予め定められた基準値を超えないように送信電力の抑制制御を行う送信電力制御部とを備える。
この構成の携帯端末は、電波の送信時に、方向性結合器によって取り出した反射電力のレベルを電力レベル測定部で測定することができる。そして、測定結果に基いて、反射電力のレベルが予め定められた基準値を超えないように送信電力を抑制制御する。
【0044】
従って、この携帯端末によれば、携帯端末が人体に近接して使用されている場合のように反射電力が大きい場合に、SARが、定められた基準を満たすように送信電力を制御することができる。
(b)また、予め定められた基準値は、携帯端末本体と人体との間隔が規定の間隔となる位置で予め測定した反射電力のレベルの値であり、送信電力制御部は、送信時の反射電力のレベルが、基準値以下に設定した閾値以上の場合に送信電力の抑制を行い、そうでない場合には抑制を行わないこととしてもよい。
【0045】
この構成の携帯端末は、反射電力のレベルの閾値として、携帯端末と人体との間隔が規定の間隔となる位置で測定した反射電力のレベルの値を使用する。そして、送信時の反射電力のレベルの測定値がこの閾値に達した場合に、SARが定められた基準を超える送信電力で送信していると判断し、送信電力の抑制を行う。そうでない場合には基準が満たされているとして送信電力の抑制を行わない。
【0046】
従って、携帯端末が人体に近接した状態で使用されている場合において、SARが定められた基準を満たすように送信電力の抑制しつつ、そうでない場合には、送信電力の抑制を行わないので通信品質の低下を防ぐことができる。
(c)また、送信電力の抑制を行うか否かの判断の閾値は、携帯端末本体と人体との間隔が規定の間隔となる位置におけるSARが一定基準を満たす送信電力のうち最大の送信電力で送信した場合に予め測定した反射電力の値としてもよい。
【0047】
この構成の携帯端末は、携帯端末が人体に接近して使用されていると判断された場合に、携帯端末と人体との間隔が規定の間隔となる位置で測定したSARが、定められた基準値以下になるように予め定められた送信電力の上限値を超えている場合に送信電力の抑制制御を行う。
従って、携帯端末が人体に近接して使用されている場合におけるSARが、定められた基準を満たすように送信電力を抑制することができる。
【0048】
(d)また、携帯端末は、使用する異なる送信周波数ごとに携帯端末本体と人体との間隔が規定位置で予め測定を行った反射電力のレベルの値を、送信周波数ごとの反射電力のレベルの閾値として対応づけて記憶する記憶部を有し、送信電力制御部は、送信時の反射電力のレベルが、送信時の送信周波数に対応した閾値に達した場合に送信電力の抑制を行うようにしてもよい。
【0049】
この携帯端末によると、携帯端末で使用する送信周波数ごとに携帯端末と人体と間隔が規定の間隔となる位置で予め測定を行った反射電力のレベルの値を、反射電力のレベルの閾値として記憶部に記憶している。これにより、反射電力のレベルの閾値と送信時の反射電力のレベルとの比較を送信周波数ごとに行うことができる。
従って、送信周波数ごとに送信電力の抑制制御が可能となる。
【0050】
(e)また、送信電力制御部は、送信時の前記反射電力の送信電力に対する比が、携帯端末本体と人体との間隔が規定位置において予め測定した反射電力の送信電力に対する比以上であり、かつ、アンテナから送信する送信電力のレベルが予め定められたレベル以上の場合にアンテナから送信する送信電力の抑制を行い、そうでない場合には抑制を行わないようにしてもよい。
【0051】
この構成の携帯端末は、携帯端末で使用する送信周波数ごとに携帯端末と人体との間隔が規定の間隔となる位置で予め測定を行った反射電力のレベルの送信電力に対する比を、閾値として記憶部に記憶している。これにより、送信時の反射電力のレベルの送信電力に対する比を用いて送信電力の抑制を行うか否かを判断することができる。反射電力の送信電力に対する比は、送信電力のレベルが増減してもほぼ一定であるので、携帯端末と人体との距離に変動があるか否かを判断することができる。さらに、送信電力に対する反射電力の比が大きく、携帯端末が人体に近接して使用されていると判断しても、送信時の送信電力のレベルの値が予め定めた送信電力のレベル以上でなければ、送信電力の抑制をしない。
【0052】
従って、できるだけ通信品質を低下させずに、携帯端末が人体に近接して使用されている場合において、SARが定められた基準を満たすように送信電力を抑制することができる。
(f)また、携帯端末は、CDMA方式により無線通信を行うこととしてもよい。
この構成の携帯端末は、CDMA方式により無線通信を行う。
【0053】
従って、反射電力のレベルに基いて、携帯端末で送信電力の抑制を行わないと判断した場合には、基地局からの制御信号に基いて送信電力の制御を行うことができる。
(g)本発明の一実施形態に係る携帯端末の送信電力制御方法は、無線通信を行う機能と、送信時にアンテナからの反射電力を取り出す方向性結合器とを有する携帯端末における送信電力制御方法であって、反射電力のレベルを測定する電力レベル測定ステップと、反射電力のレベルが予め定められた基準値を超えないように送信電力の抑制制御を行う送信電力制御ステップを備えることを特徴とする。
【0054】
この携帯端末の送信電力制御方法によると、電波の送信時に、方向性結合器によって取り出した反射電力のレベルを測定することができる。そして、その測定結果に基いて、反射電力のレベルが、予め定められた基準値を超えないように送信電力の抑制制御を行う。
従って、携帯端末が人体に近接して使用されている場合のように反射電力が大きい場合に、SARが、定められた基準を満たすように送信電力を制御することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る携帯端末は、無線通信を行う携帯端末に関し、特に、人体に許容される電磁波の基準を考慮した送信電力の制御に利用される。
【符号の説明】
【0056】
1 携帯端末
10 制御部
11 記憶部
13 無線部
15 増幅器
16、17 方向性結合器
18 切替部
20 アンテナ
131 電力レベル測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信を行う携帯端末であって、
送信時にアンテナからの反射電力を取り出す方向性結合器と、
前記反射電力のレベルを測定する電力レベル測定部と、
測定した前記反射電力のレベルが予め定められた基準値を超えないように送信電力の抑制制御を行う送信電力制御部とを備える
ことを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
前記基準値は、前記携帯端末本体と人体との間隔が規定の間隔となる位置で予め測定した反射電力のレベルの値であり、
前記送信電力制御部は、送信時の反射電力のレベルが、前記基準値以下に設定した閾値以上の場合に前記送信電力の抑制を行い、そうでない場合には前記抑制を行わない
ことを特徴とする請求項1記載の携帯端末。
【請求項3】
前記閾値は、前記携帯端末本体と人体との間隔が規定の間隔となる位置におけるSAR(Specific Absorption Rate)が一定基準を満たす送信電力のうち最大の送信電力で送信した場合に予め測定した反射電力の値とする
ことを特徴とする請求項2記載の携帯端末。
【請求項4】
前記携帯端末は、使用する異なる送信周波数ごとに前記携帯端末本体と人体との間隔が規定位置で予め測定を行った反射電力のレベルの値を、前記送信周波数ごとの反射電力のレベルの閾値として対応づけて記憶する記憶部を有し、
前記送信電力制御部は、送信時の反射電力のレベルが、送信時の送信周波数に対応した前記閾値に達した場合に前記送信電力の抑制を行う
ことを特徴とする請求項1記載の携帯端末。
【請求項5】
前記送信電力制御部は、送信時の前記反射電力の送信電力に対する比が、前記携帯端末本体と人体との間隔が規定位置において予め測定した反射電力の送信電力に対する比以上であり、かつ、前記アンテナから送信する送信電力のレベルが予め定められたレベル以上の場合に前記アンテナから送信する送信電力の抑制を行い、そうでない場合には前記抑制を行わない
ことを特徴とする請求項1記載の携帯端末。
【請求項6】
前記携帯端末は、CDMA(Code Division Multiple Access)方式により無線通信を行うものである
ことを特徴とする請求項1記載の携帯端末。
【請求項7】
無線通信を行う機能と、送信時にアンテナからの反射電力を取り出す方向性結合器とを有する携帯端末における送信電力制御方法であって、
前記反射電力のレベルを測定する電力レベル測定ステップと、
前記反射電力のレベルが予め定められた基準値を超えないように送信電力の抑制制御を行う送信電力制御ステップを備える
ことを特徴とする送信電力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−93728(P2013−93728A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234273(P2011−234273)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】