説明

携帯電話機、制御方法およびプログラム

【課題】ユーザの移動手段に対応してマナーモード等の特定モードへの移行および特定モードの解除を可能にした携帯電話機を提供する。
【解決手段】基地局との交信電波の強度を測定する無線制御部1と、振動、傾きおよび加速度のうち少なくともいずれかの変化を検出する状態センサ4と、ユーザの移動手段が徒歩であることを前記状態センサの検出値の変化のパターンから判定するための基準パターンが予め登録され、前記無線制御部より受け取る前記強度の情報からユーザの移動を認識すると、前記状態センサの検出値の変化のパターンが前記基準パターンに一致するか否かを判定し、該基準パターンに一致しない場合、着信をユーザに振動で通知するマナーモードに設定し、前記基準パターンに一致する場合、前記マナーモードを解除する主制御部(CPU部2)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機、携帯電話機の制御方法、および携帯電話機のCPU(Central Processing Unit)に実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機は、いつでも、どこでも通話できるという点で便利であるが、公共性の高い場所での利用は周囲の人にとって騒音になる。騒音になるのは、電話の着信を知らせる音と通話の話し声との両方である。着信に関しては、着信を音ではなく振動でユーザに通知するマナーモードが一般的に知られている。通話に関しては、着信があると、他人に迷惑のかからない場所に移動してから通話することで対処している。
【0003】
電車やバスなどの交通機関を利用するとき、通常、携帯電話機をマナーモードに設定する。車内で着信があると、携帯電話機は、振動によりユーザに着信を通知するとともに、発信先の電話番号を履歴保存する。ユーザはその振動で電話がかかってきたことを知り、電車やバスを降りた後、履歴を参照して電話をかけなおす。
【0004】
マナーモードに設定するのを忘れて電車に乗り、電車に乗っている間に着信があると、着信音が車内に鳴り響いて周囲の人に迷惑をかけてしまうことになる。一方、電車を降りた後にマナーモードを解除しないで携帯電話機を鞄に入れてしまうと、着信があったときに携帯電話機が振動しても、ユーザは気が付かないおそれがある。
【0005】
これらの問題対策として、携帯電話機を、その電波受信状態と周囲の状況によって、自動的に着信音量などの設定を予め規定したモードに移行させる特定モード移行装置が考えられている。従来のマナーモード等の特定モード移行装置としては、特許文献1に記載されているように、ドップラー効果を用いて移動判定を行う方法が提案されている。
【0006】
また、電車やコンサート会場内に発信機を取り付け、その発信機の電波を受信することで、マナーモード等の特定モードへの切り替えを行う方法が特許文献2に開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、携帯電話の基地局を用いた移動判定をもとに携帯電話機の状態を変化させる手法が開示されている。
【0008】
これらの方法により、交通機関を含む公共性の高い場所でのマナーの向上が図れる。
【特許文献1】特開平11−187091号公報
【特許文献2】特開平11−275649号公報
【特許文献3】特開2001−238267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された方法では、ある時間での速度を基準として装置のモード移行を決定しているが、そのためには複数回の計測処理に連続して同じ判定が必要となるため、特に受信周波数の切り替えが起こるセル(無線交信範囲)変界ではうまく判定ができないという課題がある。
【0010】
特許文献2に開示された方法では、別途、携帯電話機側はもちろん電車やコンサート会場などへの設備追加が必要となるという問題がある。また、確実に抑制させる目的以外の移動局にその発着信抑制要求電波を受信させないための方法も検討しなくてはならない。
【0011】
特許文献3に開示された方法では、交信の受け持ち範囲が極端に狭い携帯電話基地局間を歩行移動する場合などで、マナーモードに設定してしまう誤作動を起こす可能性がある。その理由を説明する。現在、ビル内や地下街では、狭範囲しか受け持たない携帯電話基地局が存在している。このような場所で、携帯電話機のユーザが徒歩で複数のセルを短時間で通過すると、エリアの広い領域のセルを高速で移動しているものと誤って認識し、電車やバスの交通機関を利用して移動しているものと誤判定してしまうためである。
【0012】
本発明は上述したような従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、ユーザの移動手段に対応してマナーモード等の特定モードへの移行および特定モードの解除を可能にした携帯電話機、携帯電話機の制御方法、および携帯電話機に実行させるためのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の携帯電話機は、
基地局との交信電波の強度を測定する無線制御部と、
振動、傾きおよび加速度のうち少なくともいずれかの変化を検出する状態センサと、
ユーザの移動手段が徒歩であることを前記状態センサの検出値の変化のパターンから判定するための基準パターンが予め登録され、前記無線制御部より受け取る前記強度の情報からユーザの移動を認識すると、前記状態センサの検出値の変化のパターンが前記基準パターンに一致するか否かを判定し、該基準パターンに一致しない場合、着信をユーザに振動で通知するマナーモードに設定し、前記基準パターンに一致する場合、前記マナーモードを解除する主制御部と、
を有する構成である。
【0014】
本発明では、測定される電波強度の情報からユーザの移動を認識すると、徒歩で移動しているか否かを状態センサの情報から判定し、徒歩でないと判定すれば交通機関を利用した移動と判断しマナーモードに設定する。徒歩であると判定すればマナーモードを解除する。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、携帯電話機の利用者が操作することなく、電車やバス等の交通機関による移動中に携帯電話機がマナーモードに移行するため、着信音で他人に迷惑をかけることを防げる。また、交通機関による移動から歩行での移動に変わると、マナーモードの設定が解除されるため、携帯電話機を鞄に入れてしまっても、ユーザは着信音で電話がかかってきたことに気がつく。さらに、モードの自動切り替えの機能のために、交通機関側に新規に設備投資をする必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の携帯電話機は、振動や傾きを感知するセンサを携帯電話機に備え、基地局からの電波強度の変化とセンサの情報とで、ユーザが乗物を利用して移動しているか否かを判定することを特徴とする。
【実施例1】
【0017】
本実施例の携帯電話機の構成を説明する。図1は本実施例の携帯電話機の一構成例を示すブロック図である。
【0018】
図1に示すように、本実施例の携帯電話機10は、無線制御部1と、操作および表示を制御する電話機能部3と、無線制御部1および電話機能部3を制御する主制御部となるCPU部2と、状態センサ4とを有する。この図では、携帯電話機10が基地局11および基地局12の両方と通信可能な位置にあることを示す。
【0019】
無線制御部1は従来と同様にセッションの確立や通話のための無線通信の動作を行うとともに、基地局11や基地局12からの信号を受信し、その無線電波強度として電界強度(感度)を測定する。通常、無線制御部1は、周辺の複数の基地局から電波を間欠受信し、それぞれの基地局からの電界強度を計測している。そして、その計測結果をCPU部2に通知する。選択すべき基地局を示す選択結果の情報をCPU部2から受け取ると、無線制御部1は選択結果にしたがって交信先の基地局を変更する。
【0020】
状態センサ4は、振動を感知する振動センサであり、その振動間隔をCPU部2へ通知する。なお、振動センサの代わりに傾きを感知する傾きセンサであってもよく、その場合、傾きの変化をCPU部2に通知する。振動と傾きの両方を感知する機能を備えていてもよい。さらに、状態センサ4は加速度センサで、加速度の値をCPU部2へ通知してもよい。
【0021】
CPU部2にはプログラムが格納され、CPU部2はプログラムにしたがって所定の処理を実行する。無線制御部1で測定された電界強度の情報を無線制御部1から受け取ると、その状況によって交信先となる基地局を所定の演算により決定し、交信の切り替え先となる基地局を選択する。そして、選択結果を無線制御部1に通知することで、無線制御部1を制御する。CPU部2は、基地局切り替え状況により携帯電話機10が移動しているか否かを判定可能となる。また、状態センサ4から受け取る情報により携帯電話機10のユーザが歩いているか否かを判定する。
【0022】
CPU部2は、ハンドオーバ(携帯電話機の交信相手である基地局の切り替え)が発生したとき、携帯電話機10の移動が電車やバスなどの交通機関による高速移動であるか、交通機関よりも移動速度の遅い徒歩などの低速移動であるかを、3つの閾値を用いて判断する。次に説明する3つの閾値は、予めプログラムに書き込まれている。
【0023】
セル通過中の電波強度の絶対値の差に関する基準値として第1の閾値がある。複数のセル間を高速で移動して基地局が切り替わる場合には、切り替えの前後で電波強度の絶対値の差が大きくなる。電波強度の絶対値の差が、第1の閾値以上の場合には高速移動と判定され、第1の閾値よりも小さい場合には低速移動と判定される。
【0024】
一方、携帯電話機10が高速で移動していなくても、街のビル間の電波の反射などにより強度が変化する(ゆらぐ)ことがある。この場合、電波強度のゆらぎがセル間の移動のものと判断されないように、電波強度の変化がセル間移動であるか否かを判断するための基準として第2の閾値がある。電波強度が第2の閾値以上であると、セル間の移動と判断される。
【0025】
また、第1セル、第2セルおよび第3セルの3つのセル間を移動する場合、交信先を第1セルの基地局から第2セルの基地局に切り替わる時刻と第2セルから第3セルに切り替わる時刻との差の時間を、携帯電話機10が第2セルを端から端まで移動した時間と見積るものとする。セルの平均的な大きさの情報を予めプログラムに登録しておき、第2セルをセルの平均的な大きさとすれば、第2セルの移動距離が予めわかり、見積もった時間でその移動距離を割れば、平均移動速度が求まる。この平均移動速度が高速移動であるか否かを判断するための基準として第3の閾値がある。
【0026】
上記3つの閾値による3段階の判定を行うことで、CPU部2は携帯電話機10が高速移動であるか低速移動であるかを正確に判断することが可能となる。
【0027】
さらに、本実施例のCPU部2は、状態センサ4の情報を用いることで、状態センサ4による検出値の変化の連続性を示す変化パターンから携帯電話機10のユーザの移動手段をより正確に判断する。プログラムには、状態センサ4の検出値による変化パターンから携帯電話機10のユーザが歩行中であることを判定するための基準パターンが予め記述されている。以下に、各移動方法の場合におけるセンサの検出値の違いを説明する。
【0028】
人が歩行する際、右足と左足を交互に前に出し、その動作の周期は0.5〜2秒ぐらいである。右足と左足のいずれかを前に出し、次にその足を出すまでの1周期の間は必ずしも一定の速度ではなく、加速と減速を繰り返している。加速および減速のそれぞれのときに、加速度センサが検出し、傾きセンサの値が変化する。また、足を交互に前に出す際に身体がわずかに上下動するため、振動センサは身体の上下動の振幅と上記周期の値を検出する。なお、傾きセンサにおいて、移動方向の加速時に生じる傾きを正の角とし、減速時に生じる傾きを負の角とする。
【0029】
電車の走行の場合では、駅から発車するときに人の歩行の場合よりも大きな加速があり、駅に到着するときには人の歩行の場合よりも大きな減速がある。そのため、加速度センサは、人の歩行の場合よりも大きな値を検出する。傾きセンサの値も人の歩行の場合よりも大きくなる。走行中に大きく揺れることがあるが、走行中のほとんどは新聞や本の文字を読むことが可能であることから、歩行中よりも振動センサが検出する振幅値は小さく、その周期は長くなると考えられる。
【0030】
バスの走行の場合では、バス停や信号など停車する機会が多く、電車に比べて加速および減速の回数が多いだけでなく、急加速、急減速になる傾向がある。そのため、電車の場合に比べて、加速度センサおよび傾きセンサの検出値が大きくなる。車内で文字を読むのは電車よりも困難であるため、振動センサの振幅値は電車の場合よりも大きいと考えられるが、その周期は電車よりも短いと考えられる。また、ほぼ水平な路面をタイヤが回転駆動して進むため上下動は歩行の場合よりも小さく、振動センサの振幅値は歩行の場合よりも小さく、その周期は歩行の場合よりも長いと考えられる。
【0031】
上述したことを、それぞれのセンサについてまとめると、次のようになる。
【0032】
加速度センサは、歩行の場合、所定の大きさの加速および減速を繰り返す変化パターンを検出する。電車の場合、歩行の場合よりも値の大きい加速および減速を繰り返す変化パターンを検出する。バスの場合、電車の場合よりも値の大きい加速および減速を繰り返す変化パターンを検出する。
【0033】
傾きセンサは、加速度センサの検出値と同様であるため、歩行の場合、所定の大きさの正の角および負の角が生じる変化パターンを検出する。電車の場合、歩行の場合よりも値の大きい正の角および負の角を生じる変化パターンを検出する。バスの場合、電車の場合よりも値の大きい正の角および負の角を生じる変化パターンを検出する。
【0034】
振動センサは、歩行の場合、所定の周期、所定の振幅の変化パターンを検出する。電車の場合、歩行の場合よりも周期が長く、歩行の場合よりも振幅値が小さい変化パターンを検出する。バスの場合、電車の場合よりも短く歩行の場合よりも長い周期で、電車の場合よりも大きく歩行の場合よりも小さい振幅の変化パターンを検出する。
【0035】
各移動手段の違いにより変化パターンが異なることから、電車またはバスの交通機関の場合と歩行の場合とを基準パターンとして予めプログラムに登録しておくことで、状態センサ4の検出値による変化パターンから移動手段が歩行であるか交通機関であるかを判定することが可能となる。なお、プログラムに登録する基準パターンは、交通機関の場合と歩行の場合のうちいずれか一方であってもよい。
【0036】
なお、センサの検出原理および検出感度等がセンサ毎に異なるため、判定方法はここで説明した例に限られない。また、変化パターンの判定の場合に限らず、状態センサ4の検出値に対して、移動手段が交通機関であるか歩行であるかを判定するための閾値を予めプログラムに登録し、閾値で判定するようにしてもよい。
【0037】
CPU部2は、上記3段階のいずれの判定も携帯電話機10が高速移動中であると判定し、かつ、状態センサ4の情報によりユーザが歩行中でないと判定した場合、電車やバスによる高速移動中と判断する。そして、予め規定されたマナーモードに携帯電話機10を移行させるため、電話機能部3にマナーモードに移行する旨の指令を出す。
【0038】
反対に、上記3段階のいずれかの判定により携帯電話機10が高速移動中ではないと判定した場合、または、上記3段階のいずれの判定も高速移動中と判定し、かつ、状態センサ4の情報によりユーザが歩行中であると判定した場合、電話機能部3にマナーモードの設定解除の指令を出す。
【0039】
電話機能部3は、CPU部2からの指令にしたがって、携帯電話機10をマナーモードに設定したり、マナーモードの設定を解除したりする。なお、通話機能については従来と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0040】
次に、電波強度測定により携帯電話機の移動方法の求め方を説明する。ここでは、1つの基地局が受け持つ無線交信範囲(以下、セルと称する)を六角形のエリアとする。
【0041】
図2(a)はセル間移動の一例を示し、図2(b)は図2(a)の場合の電波強度の測定例を示すグラフである。
【0042】
図2(a)に示すように、ポイントA→B→Cの順に携帯電話機10が移動すると、セルC1→C2→C3の順でセルを移動する。移動に伴って、無線制御部1で測定される電波強度が図2(b)に示すように変化する。CPU部2は、通信感度が最適となる基地局を選択するために、無線制御部1で計測された電波強度を元に判断を行う。CPU部2は、移動する先々で通信感度が最適となる基地局に通信相手を順次変更する。図2(b)に示すグラフでは、CPU部2は、ポイントAではセルC1の基地局と通信し、ポイントBではセルC2の基地局と通信し、ポイントCではセルC3の基地局と通信する。
【0043】
1セルの大きさは都市部では数Kmである。セルの大きさとは、例えば、セルの六角形の頂点が全て接する円の直径である。通信相手を2つ前のセルから1つ前のセルに切り替えた時刻から現在の通信相手のセルに切り替えた時刻までの時間を計測することで、1セルの大きさ(数Km)における移動時間が求まる。その移動時間と1セルの大きさを用いて、携帯電話機を携帯したユーザのおおよその平均移動速度を算出することが可能である。
【0044】
CPU部2は、算出した平均移動速度が第3の閾値以上である場合、電車やバスなどの交通機関を利用して移動していると判断し、電話機能部3へ指令を出し、予め決められたマナーモードへと移行させる。逆に、算出した平均移動速度が第3の閾値より小さい場合は、携帯電話機10のユーザが徒歩で移動していると判断し、電話機能部3に指令を出し、マナーモードを解除させる。
【0045】
しかしながら、上述の方法で平均移動速度を求めるとすると、以下のような問題が起こり得る。
【0046】
図3(a)はセル間移動の別の例を示し、図3(b)は図3(a)の場合の電波強度の測定例を示すグラフである。
【0047】
図3(a)に示すように、ポイントA’→B’→C’の順に携帯電話機10が移動すると、セルC4→C5→C6の順でセルを移動する。移動に伴って、無線制御部1で測定される電波強度が図3(b)に示すように変化する。CPU部2は、通信感度が最適となる基地局を選択するために、ポイントA’ではセルC4の基地局と通信し、ポイントB’ではセルC5の基地局と通信し、ポイントC’ではセルC6の基地局と通信する。
【0048】
ここで、図2(b)と図3(b)とで、電波強度の大きさを比較する。各セル内で電波強度が最大になるピーク位置では、電波強度は図3(b)に比べて図2(b)の方が大きい。これは、図2(a)に示したように、携帯電話機10がセル内の基地局の近くを通過するためである。また、2つのグラフにおいて、セル境界付近では電波強度にそれほど差はないが、ピーク位置では上述したように大きな差がある。そのため、セル境界からピーク位置にかけてのグラフの傾きが異なっており、図2(b)の電波強度変化の傾きが図3(b)よりも大きい。このような違いがある。
【0049】
図3(a)に示す例では、携帯電話機10は、セルC4、C5およびC6のそれぞれの頂点が一致する点の周辺を移動しているに過ぎない。そのため、徒歩のように乗物に比べて低い速度でもセルC4→C5→C6の移動を短時間で行うことが可能である。携帯電話機10が交信相手の基地局の切り替え地点近傍でゆっくりと移動した場合、短距離を低速度で移動したにもかかわらず、CPU部2で算出される平均移動速度が第3の閾値を越えてしまうことが予想される。このように誤った判断がされるのを回避するために、本実施例の携帯電話機では、以下に説明するようなフローの処理を行っている。
【0050】
本実施例の携帯電話機による動作手順を説明する。図4は本実施例の携帯電話機の動作手順を示すフローチャートである。
【0051】
ハンドオーバが発生すると(ステップ101)、CPU部2は、セル通過中の電波強度の絶対値の差が第1の閾値以上か否かを判定する(ステップ102)。セルを大きく横切るセル間の移動(図2(a))と、セルの境界周辺におけるセル間の移動(図3(a))とで、無線制御部1はどちらの場合もセルの切り替えを行うが、セル切り替え前の電波強度の絶対値が違ってくる。図2(b)と図3(b)を比較すると、切り替え時の電波強度の絶対値はそれほど変わらないが、切り替え前の電波強度はピーク位置で見てわかるようにその絶対値が大きく異なる。したがって、図2(a)に示した移動の場合には電波強度の絶対値の差が第1の閾値以上となり、図3(a)に示した移動の場合には電波強度の絶対値の差が第1の閾値よりも小さくなる。
【0052】
CPU部2は、ステップ102で電波強度の絶対値の差が第1の閾値以上であると判定すると、ハンドオーバ発生近辺での電波強度のゆらぎが第2の閾値以上か否かを判定する(ステップ103)。図2(b)と図3(b)を比較すると、セル切り替えが発生する前後のグラフの傾きが大きく異なる。図3(b)に示すグラフの電波強度(電界強度)の減衰率変動は、街中のビルの反射などによる場合と同様に、第2の閾値よりも小さくなる。したがって、図3(a)に示した移動の場合には電波強度のゆらぎが第2の閾値よりも小さくなり、図2(a)に示した移動の場合には電波強度のゆらぎが第2の閾値以上となる。このようにして、セル切り替え発生直前直後の電界強度情報(電界強度の減衰率変動)を調べることで、移動の仕方の種類を判別することが可能となる。
【0053】
CPU部2は、ステップ103で電波強度のゆらぎが第2の閾値以上であると判定すると、平均移動速度を算出する。そして、算出した平均移動速度が第3の閾値以上か否かを判定する(ステップ104)。平均移動速度が第3の閾値以上であれば、図2(a)に示した移動と判定し、第3の閾値より小さければ図3(a)に示した移動と判定する。
【0054】
CPU部2は、ステップ104で平均移動速度が第3の閾値以上であると、携帯電話機10のユーザが歩行中であるか否かを、状態センサ4の変化パターンが基準パターンに一致するか否かで判定する(ステップ105)。それらのパターンが一致し、ユーザが歩行中であると判定すると、マナーモードに設定されているか否かを判定する(ステップ106)。マナーモードに設定されていれば、電話機能部3にマナーモードを解除させる(ステップ107)。これにより、ビルや地下街など、1つのセルが受け持つ領域が狭いところを携帯電話機10のユーザが徒歩で移動している場合にも、マナーモードを解除した状態に設定される。なお、ステップ102、103、104のいずれかにおいて、ユーザが低速移動中であると判定された場合も、ステップ106に進む。
【0055】
一方、CPU部2は、ステップ105で状態センサ4の変化パターンが基準パターンに一致せず、状態センサ4からの情報が歩行中を示していないと判定すると、マナーモードに設定されているか否かを判定する(ステップ108)。マナーモードに設定されていなければ、電話機能部3にマナーモードに移行させる(ステップ109)。これにより、ステップ102から104の3段階で判定された通り、ユーザは電車やバスによる移動中と判断され、マナーモードに設定される。
【0056】
本実施例の携帯電話機は、基地局との交信電波の強度からユーザが移動しているか否かを判定でき、状態センサからの情報によりユーザが歩行中であるか否かを判定できる。ユーザが歩行中ではないにも関わらず移動している場合は何らかの交通機関を用いている可能性が高いと判別でき、交通機関を利用するのに適したモードへ携帯電話機を移行させる。
【0057】
携帯電話機の交信先基地局切り替え状況からだけでなく、状態センサの情報を用いることで、移動手段をより正確に判断することができる。そのため、本来使用が制限されるべき電車やバス内などで、ユーザがマナーモードに設定しなくても携帯電話機単体で自動的にマナーモードに移行することができる。
【0058】
携帯電話機の利用者が操作することなく、電車やバス等の交通機関による移動中に自動的に携帯電話機がマナーモードに移行するため、着信音で他人に迷惑をかけることを防げる。また、交通機関による移動から歩行での移動に変わると、自動的にマナーモードの設定が解除されるため、携帯電話機を鞄に入れてしまっても、ユーザは着信音で電話がかかってきたことに気がつく。
【0059】
ビルや地下街など、1つのセルが受け持つ領域が狭いところを携帯電話機10のユーザが徒歩で移動すると、複数のセルを高速で移動しているように判定される従来の場合に対して、ユーザが徒歩で移動していることを検知することで、マナーモードを解除した状態に設定される。これにより特許文献3の方法で起こり得る誤判定を回避することが可能となる。
【0060】
また、電車やバスなどの交通機関側に新規に設備投資をする必要がなく、携帯電話機側のみの機能追加ですむ。その機能追加はソフトウェアと一般的な万歩計相当のセンサで十分である。万歩計相当のセンサは安価かつ広く普及しているものであり、技術的/価格的な負荷は交通機関側への設備投資をする場合に比べて非常に小さい。より安価にモード切り替え機能の実現が可能である。
【0061】
さらに、第1から第3の閾値および基準パターンならびにマナーモードへの自動設定機能のON/OFFをユーザによって自由に設定可能にしておくことで、ユーザの利用環境に合わせた、より現実的な自動切り替えを提供できる。
【0062】
なお、本実施例では、位置情報としてセル切り替え点(交信基地局切り替え点)を基準としたが、上記以外の方式を採用した携帯電話システムやPHSなど、基地局から位置情報が得られる場合は、それを位置情報として採用することにより、同様に平均移動速度を算出することができ、モードの切り替えをより正確に行うことが期待できる。
【実施例2】
【0063】
本実施例は、携帯電話機のユーザが自家用車を運転する際に携帯電話機が自動的に特定モードに移行する場合についてである。運転用の特定モードには、例えば、ドライブモードや、ハンズフリー方式での利用を前提として着信音を通常よりも小さくするモードがある。ドライブモードとは、着信があると携帯電話機が自動的にオフフックした後、運転中のため電話に出ることができない旨の音声メッセージを発信元の電話に送信するものである。
【0064】
実施例1では、交通機関の移動手段として電車とバスの場合を説明した。バスは車の一種であり、実施例1の携帯電話機10は、高速移動か否かを判定する3段階判定だけでは、移動手段がバスであるか自家用車であるかを区別するのは難しい。バスと自家用車を区別する方法の一例として、自家用車は停留所には停車しないことから、状態センサ4が検出する変化パターンの違いを利用する方法がある。この方法は、実施例1において、バスと自家用車のそれぞれの場合の基準パターンを予めプログラムに登録することで実行することが可能である。しかし、この場合でも自家用車とタクシーを区別できない。本実施例では、次のような、別の方法を用いる。
【0065】
なお、本実施例は、図1に示した実施例1と同様な構成であるため、実施例1と異なる動作についてのみ詳細に説明する。
【0066】
自家用車内で携帯電話機を利用するためのハンズフリーキットに代表される車載キットが一般的に知られている。携帯電話機をハンズフリーキットに接続すると、携帯電話機は外部電源として車両のバッテリーから電源を得る。また、ハンズフリーキットの場合に限らず、携帯電話機にバッテリーから電源を単に供給するための車載キットもある。携帯電話機を車載キットに接続すると、携帯電話機は外部より電源供給を受けていることを認識し、自家用車両内であると判定することが可能となる。
【0067】
本実施例では、外部から電源の供給を受けているか否かという判定条件を追加することで、移動手段が自家用車であることを確実に判定可能にしている。
【0068】
図5は本実施例の携帯電話機の動作手順を示すフローチャートである。ステップ201からステップ204までは図4に示したステップ101からステップ104までと同様であるため、その説明を省略する。
【0069】
ステップ205で、CPU部2は、外部から電源の供給を受けているか否かを判定する。電源の供給を受けていると、特定モードに設定されているか否かを判定する(ステップ206)。特定モードに設定されていなければ、電話機能部3に特定モードに設定させる(ステップ207)。
【0070】
一方、CPU部2は、ステップ205で外部から電源の供給を受けていないと判定すると、図4で説明したステップ105と同様にして、携帯電話機10のユーザが歩行中であるか否かを判定する(ステップ208)。それ以降のステップ209からステップ212は図4に示したステップ106からステップ109までと同様であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0071】
本実施例の携帯電話機では、CPU部2が特定モードへの移行と解除指令の発行条件について、ユーザが車両内で確実に使用していることを確認できる手段を利用する。実施例1と同様の効果が得られるだけでなく、自家用車による移動であることをより正確に検出でき、自家用車利用時の特定モードへの移行をより確実に行うことが可能となる。
【0072】
特定モードが着信音のボリュームを小さくするモードであれば、車を運転する際に携帯電話機をハンズフリーキットに装着すると、着信音が通常より小さくなり、着信があったときに運転者を驚かさないようにすることで、安全の向上が図れる。
【0073】
また、特定モードがドライブモードであれば、携帯電話機を車載キットに装着すると、着信があっても運転者には通知しない状態に設定され、運転中の通話を防ぎ、安全性がより向上する。
【0074】
なお、実施例1および実施例2において、状態センサ4が加速度センサの場合には、通常の歩行でない状態を検知することも可能である。歩行の種類毎に基準パターンを予めプログラムに格納しておくことで、ユーザの移動手段が徒歩の場合に歩行の種類まで特定することが可能となる。
【0075】
また、GPS機能のような位置情報を直接取得する機能を備えた携帯電話機であれば、現在位置/移動速度を容易に求めることが可能である。この場合、効果的に移動判定が可能となり、より一層精度の高い、モードの自動切り替えを提供できる。
【0076】
また、マナーモードの設定/解除や、運転用の特定モードの設定/解除の場合で説明したが、モードの切り替えは電源OFF/ONでもよく、他の状態の移行/解除であってもよい。
【0077】
さらに、マナーモードへの設定および解除を電話機能部3の代わりにCPU部2が実行してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1の携帯電話機の一構成例を示すブロック図である。
【図2】セル間移動の一例とその移動に伴う電波強度の測定例を示す図である。
【図3】セル間移動の別の例とその移動に伴う電波強度の測定例を示す図である。
【図4】実施例1の携帯電話機の動作手順を示すフローチャートである。
【図5】実施例2の携帯電話機の動作手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
1 無線制御部
2 CPU部
4 状態センサ
10 携帯電話機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局との交信電波の強度を測定する無線制御部と、
振動、傾きおよび加速度のうち少なくともいずれかの変化を検出する状態センサと、
ユーザの移動手段が徒歩であることを前記状態センサの検出値の変化のパターンから判定するための基準パターンが予め登録され、前記無線制御部より受け取る前記強度の情報からユーザの移動を認識すると、前記状態センサの検出値の変化のパターンが前記基準パターンに一致するか否かを判定し、該基準パターンに一致しない場合、着信をユーザに振動で通知するマナーモードに設定し、前記基準パターンに一致する場合、前記マナーモードを解除する主制御部と、
を有する携帯電話機。
【請求項2】
前記主制御部は、
ユーザの移動を認識した後、電源が外部から供給されているか否かを判定し、電源が外部から供給されていると、運転用の特定モードに設定し、電源が外部から供給されていないと、前記変化のパターンが前記基準パターンに一致するか否かの判定を行う請求項1記載の携帯電話機。
【請求項3】
着信をユーザに振動で通知するマナーモードへの設定および解除が可能な携帯電話機の制御方法であって、
前記携帯電話機に生じる振動、傾きおよび加速度のうち少なくともいずれかの変化を検出する状態センサを設け、
ユーザの移動手段が徒歩であることを前記状態センサの検出値の変化のパターンから判定するための基準パターンを登録し、
基地局との交信電波の強度の情報からユーザの移動を認識すると、前記状態センサの検出値の変化のパターンが前記基準パターンに一致するか否かを判定し、該基準パターンに一致しない場合、前記マナーモードに設定し、前記基準パターンに一致する場合、前記マナーモードを解除する、制御方法。
【請求項4】
ユーザの移動を認識した後、電源が外部から供給されているか否かを判定し、電源が外部から供給されていると、運転用の特定モードに設定し、電源が外部から供給されていないと、前記変化のパターンが前記基準パターンに一致するか否かの判定を行う請求項3記載の制御方法。
【請求項5】
携帯電話機のCPUに実行させるためのプログラムであって、
前記携帯電話機に生じる振動、傾きおよび加速度のうち少なくともいずれかの変化のパターンからユーザの移動手段が徒歩であることを判定するための基準パターンを登録し、
基地局との交信電波の強度の情報からユーザの移動を認識すると、前記変化のパターンが前記基準パターンに一致するか否かを判定し、該基準パターンに一致しない場合、着信をユーザに振動で通知するマナーモードに設定し、前記基準パターンに一致する場合、前記マナーモードを解除する処理を前記CPUに実行させるためのプログラム。
【請求項6】
ユーザの移動を認識した後、電源が外部から供給されているか否かを判定し、電源が外部から供給されていると、運転用の特定モードに設定し、電源が外部から供給されていないと、前記変化のパターンが前記基準パターンに一致するか否かの判定を行う請求項5記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−131248(P2008−131248A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312968(P2006−312968)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.万歩計
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】