説明

摺動部材、クラッチプレートおよびそれらの製造方法

【課題】冷却による素材の変形を抑制するとともに、表面に錆が発生しない摺動部材、クラッチプレートおよびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】摺動部材は、鋼材からなる母材部110と、母材部110の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層120と、窒素拡散層120の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層130とを備える。この摺動部材における窒素化合物層130および窒素拡散層120は、鋼材からなる素材を660〜690℃のアンモニア雰囲気にて加熱処理を行う加熱工程と、加熱工程の後に60〜80℃の油温にて油冷を行う油冷工程と、油冷工程の後に表面側を加圧しながら250〜350℃の温度にて焼き戻し処理を行う焼き戻し工程とにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材、クラッチプレートおよびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁クラッチ装置のクラッチプレートの製造を、ナイトロテック(登録商標)法を適用することが特開平11−287258号公報(特許文献1)および特開2006−138485号公報(特許文献2)に記載されている。ナイトロテック法とは、鉄製の機材を窒素雰囲気中の500〜600℃で1〜2時間加熱するガス軟窒化処理を行い、次いで、酸素雰囲気中の高温で短時間酸化処理を行い、最後に、水−油のエマルジョン液中で急冷することにより行う。これにより、窒素化合物層と窒素拡散層がそれぞれ20〜40μm程度の厚さに形成され、酸化被膜が0.5〜1.5μm程度の厚みに形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−287258号公報
【特許文献2】特開2006−138485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、クラッチプレートなどの摺動部材の表面は、高い平坦度を確保する必要がある。しかし、上記製造方法によれば、水−油のエマルジョン液中で急冷するため、冷却スピードが速くなり、素材が変形するおそれがある。さらに、冷却液が水を含むため、表面の錆の問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、冷却による素材の変形を抑制するとともに、表面に錆が発生しない摺動部材、クラッチプレートおよびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ね、冷却液に水を用いずに、冷却液温度を高くすることを思いつき、本発明を想到するに至った。本発明は、摺動部材として把握することができ、また摺動部材の一例としての電磁クラッチのクラッチプレートとして把握することもでき、これらの製造方法としても把握することができる。
【0007】
(摺動部材)
(請求項1)本発明に係る摺動部材は、鋼材からなる母材部と、前記母材部の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層と、前記窒素拡散層の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層と、を備え、鋼材からなる素材を660〜690℃のアンモニア雰囲気にて加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に60〜80℃の油温にて油冷を行う油冷工程と、前記油冷工程の後に前記表面側を加圧しながら250〜350℃の温度にて焼き戻し処理を行う焼き戻し工程とにより、前記窒素化合物層および前記窒素拡散層を形成する。
(請求項2)また、好ましくは、前記油冷工程は、窒素雰囲気の状態で油冷を行う。
【0008】
(クラッチプレート)
(請求項3)本発明に係るクラッチプレートは、電磁クラッチを構成するクラッチプレートであって、鋼材からなる母材部と、前記母材部の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層と、前記窒素拡散層の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層と、を備え、鋼材からなる素材を660〜690℃のアンモニア雰囲気にて加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に60〜80℃の油温にて油冷を行う油冷工程と、前記油冷工程の後に前記表面側を加圧しながら250〜350℃の温度にて焼き戻し処理を行う焼き戻し工程とにより、前記窒素化合物層および前記窒素拡散層を形成する。
【0009】
(摺動部材の製造方法)
(請求項4)本発明に係る摺動部材は、鋼材からなる母材部と、前記母材部の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層と、前記窒素拡散層の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層と、を備える摺動部材の製造方法であって、鋼材からなる素材を660〜690℃のアンモニア雰囲気にて加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に60〜80℃の油温にて油冷を行う油冷工程と、前記油冷工程の後に前記表面側を加圧しながら250〜350℃の温度にて焼き戻し処理を行う焼き戻し工程とにより、前記窒素化合物層および前記窒素拡散層を形成する。
【0010】
(クラッチプレートの製造方法)
(請求項5)本発明に係るクラッチプレートの製造方法は、電磁クラッチを構成するクラッチプレートの製造方法であって、前記クラッチプレートは、鋼材からなる母材部と、前記母材部の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層と、前記窒素拡散層の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層と、を備え、鋼材からなる素材を660〜690℃のアンモニア雰囲気にて加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に60〜80℃の油温にて油冷を行う油冷工程と、前記油冷工程の後に前記表面側を加圧しながら250〜350℃の温度にて焼き戻し処理を行う焼き戻し工程とにより、前記窒素化合物層および前記窒素拡散層を形成する。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1,4)本発明によれば、油冷にすることで、水を用いない冷却液としている。これにより、摺動部材の表面に錆が発生することを抑制できる。油冷に用いる油は、水冷に用いる水よりも、その材料自体の性質として冷却スピードが小さい。また、油冷にすることで、水が含まれる冷却液に比べると、温度を高くすることができる。そのため、油冷による冷却スピードは、水を含む冷却液による冷却スピードに比べて遅くすることができる。その結果、摺動部材の表面の平坦度を良好にすることができる。また、油冷工程の後に摺動部材の表面側を加圧しながら焼き戻し処理を行うことで、内部歪を除去しながら、平坦度をより高めることができる。
【0012】
また、油冷工程における油温を60℃以上とすることで、従来問題であった素材の変形を十分に抑制することができる。また、油冷工程における油温を60℃以上としたとしても、加熱工程におけるアンモニア雰囲気の温度を、Fe−NのA1変態点である590℃より十分に高い温度の660℃以上にすることで、確実に、窒素化合物および窒素拡散層の厚みをそれぞれ20〜50μm確保することができる。ここで、加熱工程におけるアンモニア雰囲気の温度を660℃にした場合に、油温を80℃以下にすることで、確実に、窒素化合物および窒素拡散層の厚みをそれぞれ20〜50μm確保することができる。従って、表面の硬度を高い硬度とすることができる。その結果、耐摩耗性を良好とできる。ところで、窒素化合物層および窒素拡散層の厚みをそれぞれ20μm以上とすることで、摺動部材の表面の硬度を十分に確保できると共に、表面が摩耗したとしても表面の硬度の変動を小さくすることができる。
【0013】
また、加熱工程におけるアンモニア雰囲気の温度を690℃以下にすることで、窒素化合物の拡散(消失)を抑制でき、硬度を確保することができる。
【0014】
(請求項2)油冷工程において、窒素雰囲気で油冷を行っている。つまり、ナイトロテック法のように、加熱工程の後に積極的に酸化処理を行わない。つまり、摺動部材の表面に酸化被膜が形成されにくい。これにより、表面の平坦度を高くすることができる。
【0015】
(請求項3,5)本発明のクラッチプレートによれば、上述した摺動部材による効果を奏する。ここで、窒素化合物層および窒素拡散層の厚みをそれぞれ50μm以下としている。仮に、50μmより厚くすると、透磁率が低下するため、クラッチプレートの磁束密度が低下して、クラッチプレート間の摩擦係合力が低下することになる。そのため、50μm以下としている。
【0016】
また、焼き戻し工程を行うことで、窒素化合物層および窒素拡散層に含まれている非磁性である残留オーステナイトを磁性であるマルテンサイトに変態させることができる。これにより、透磁率および硬度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】摺動部材またはクラッチプレートの表面構造を示す。
【図2】図1に示す摺動部材またはクラッチプレートの製造方法(熱処理)の工程図である。
【図3】比較例1としてのナイトロテック法を適用した場合における部材の製造方法(熱処理)の工程図である。
【図4】比較例2としてのガス軟窒化処理を適用した場合における部材の製造方法(熱処理)の工程図である。
【図5】本実施形態の試験例における断面組織の顕微鏡写真である。
【図6】比較例1における断面組織の顕微鏡写真である。
【図7】比較例2における断面組織の顕微鏡写真である。
【図8】対象部材の表面からの深さに対する硬さを示すグラフである。(a)は本実施形態の試験例を示し、(b)は比較例1を示し、(c)は比較例2を示す。
【図9】本実施形態の試験例、比較例1,2についての冷却工程後の歪量(平坦度)を示すグラフである。(a)は本実施形態の試験例を示し、(b)は比較例1を示し、(c)は比較例2を示す。
【図10】実機耐久摩擦試験の摩耗データを示す。(a)は本実施形態の試験例を示し、(b)は比較例1を示し、(c)は比較例2を示す。
【図11】本試験例について、焼き戻し温度を変化させた場合において、焼き戻し温度に対する表面硬度を示すグラフである。
【図12】本試験例について、加熱温度を変化させた場合において、加熱温度に対する表面硬度を実線にて示し、窒素化合物生成速度を破線にて示すグラフである。
【図13】本試験例について、対象部材の表面からの深さに対する硬さを示すグラフである。(a1)は試験例の処理後を示し、(a2)は試験例の焼き戻し工程前を示す。
【図14】Fe−N系状態図を示し、本試験例における対象部材の温度遷移を矢印にて示す。
【図15】上記クラッチプレートを適用した駆動力伝達装置の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(摺動部材またはクラッチプレートの説明)
本発明の摺動部材またはクラッチプレートについて図面を参照して説明する。摺動部材またはクラッチプレートの表面構造について、図1を参照して説明する。摺動部材またはクラッチプレートは、炭素鋼などの鋼材からなる素材の表面に、窒化処理を施してなる。なお、当該摺動部材の例としては、電磁クラッチ装置を構成するクラッチプレートの他、LSDクラッチの鉄系クラッチプレート、ブレーキパッドなどが挙げられる。
【0019】
図1に示すように、当該摺動部材は、鋼材からなる母材部110と、母材部110の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層120と、窒素拡散層120の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層130とを備える。素材は、炭素含有量が0.10〜0.20%の鋼材を用いる。一般的に、低炭素鋼であるほど、安価であるが、表面の高硬度化が容易ではない。しかし、本発明によれば、例えば、S15Cなどの低炭素鋼であっても、後述するように、表面の高硬度化を図ることができる。そして、母材部110は、素材と同一である。
【0020】
窒素拡散層120は、窒素が固溶されている。窒素化合物層130は、母材部110側に位置する緻密層131と、最表面側に位置する白層132とを備える。緻密層131は、白層132に比べて、Fe2Nの濃度が高い部分である。
【0021】
次に、摺動部材またはクラッチプレートの表面の熱処理方法(製造方法)について図2を参照して説明する。加熱温度Te1である660〜690℃のアンモニア雰囲気中に素材を保持し、加熱処理を行う(加熱工程)。具体的には、次のように行う。容積1〜3m3の処理室を660〜690℃まで昇温する。この加熱温度Te1は、Fe-NのA1変態点である590℃より高温である。そして、昇温している途中において、窒素(N2)ガスを1〜8m3/Hrで供給する。昇温完了後に時間Ti1の間維持する。この時間Ti1は、0〜1時間である。その後、アンモニア雰囲気とする。アンモニア雰囲気では、アンモニア(NH3)ガスを3〜7m3/Hrで供給すると共に、二酸化炭素(CO2)ガスを0.1〜0.6m3/Hrで供給して、時間Ti2の間維持する。この時間Ti2は、0.5〜1.5時間である。なお、アンモニア雰囲気には、酸素を含むガスは供給しない。また、アンモニア雰囲気では、窒素(N2)ガスを0を超えて5m3/Hr以下供給してもよい。また、アンモニア雰囲気では、二酸化炭素(CO2)ガスを供給しないでもよい。
【0022】
加熱工程の後に、60〜80℃の油温Te2にて油冷を行う(油冷工程)。具体的には、窒素雰囲気で60〜80℃の油温Te2の焼入油に素材を入れる。このとき、素材が酸化されないようにする。
【0023】
油冷工程にて素材の温度が油冷工程の油温Te2に達した後に、素材の表面側を加圧しながら、窒素雰囲気で250〜350℃の炉温Te3の加熱炉に素材を入れて、時間Ti3の間、焼き戻し処理を行う(焼き戻し工程)。この焼き戻し処理をプレステンパーとも称される。時間Ti3は、1〜5時間である。以上の処理により、素材の表面に窒素化合物層130および窒素拡散層120を形成する。
【0024】
(比較実験)
次に、本発明の製造方法により得られた部材の表面硬度、冷却後の歪量(平坦度)および実機耐久摩擦試験による耐久性能について評価する。本実施形態の1つの試験例を挙げると共に、比較例1としてナイトロテック法を適用した場合とし、比較例2としてガス軟窒化処理を施した場合とする。
【0025】
(試験例)試験例として、素材としてS15Cを用い、加熱工程において、処理室の容積を2m、時間Ti1を30分、時間Ti2を50分、処理室の昇温完了時の温度Te1を680℃、窒素ガスを5mm3/Hrで供給した。その後、窒素ガスの供給を止めると共に、アンモニアガスと二酸化炭素ガスとを供給開始した。アンモニアガスを5mm3/Hrと二酸化炭素ガスを0.3m3/Hrとを、時間Ti2の50分、供給する。油冷工程における油温Te2は、70℃とする。油冷工程に用いる冷却油(焼入油)は、パラフィン系基油としたJIS1種2号に相当する真空熱処理用の高性能ハイスピードクエンチ油(動粘度:16±2.5mm2/s(40℃),引火点(COC):178℃,冷却性能特性温度:620℃,商品名:特殊焼入油V-1700S(日本グリース株式会社製))を用いた。焼き戻し工程において、窒素ガス雰囲気中、炉温Te3を310℃とし、時間Ti3を3.0時間とする。その後、窒素ガス雰囲気中、徐冷した。
【0026】
(比較例1)比較例1として、ナイトロテック法を用いた場合である。この場合の素材は、試験例と同一のS15Cを用いる。具体的には、容積2m3の処理室を640℃まで昇温する。この温度は、Fe-NのA1変態点である590℃より高温である。そして、昇温完了後に、窒素(N2)ガスを5.5m3/Hrで供給し、アンモニア(NH3)ガスを5.5m3/Hrで供給すると共に、二酸化炭素(CO2)ガスを0.48m3/Hrで供給して、1時間30分維持する(加熱工程)。
【0027】
加熱工程の後に、大気開放して、素材を酸化させる。その後に、50〜60℃の水−油エマルジョン液にて冷却を行う(冷却工程)。冷却工程の後には、素材の表面側を加圧しながら、310℃の炉温の加熱炉に素材を入れて、3.0時間焼き戻し処理を行う(焼き戻し工程)。そして、処理を終了する。
【0028】
(比較例2)比較例2として、ガス軟窒化処理を施した場合である。この場合の素材は、試験例と同一のS15Cを用いる。具体的には、容積2m3の処理室を580℃まで昇温する。この温度は、Fe-NのA1変態点である590℃より低温である。そして、昇温完了後に、窒素(N2)ガスを3m3/Hrで供給し、アンモニア(NH3)ガスを8m3/Hrで供給すると共に、二酸化炭素(CO2)ガスを0.3m3/Hrで供給して、1時間20分維持する(加熱工程)。加熱工程の後に、25℃の窒素(N2)ガス雰囲気中にて素材の冷却を行う(冷却工程)。そして、処理を終了する。
【0029】
(断面組織の顕微鏡写真)
それぞれの表面側における断面組織の顕微鏡写真を図5〜図7に示す。本実施形態の試験例では、図5に示すように、最表面に窒素化合物層のうちの白層が僅かに形成され、それより深い側に窒素化合物層のうちの緻密層が形成されている。窒素化合物層の厚みは、約25μmであった。また、窒素化合物層の深い側には窒素拡散層が形成されている。窒素拡散層の厚みは、約25μmであった。
【0030】
比較例1では、図6に示すように、最表面に酸化被膜層が僅かに形成され、それより深い側に窒素化合物層が形成されている。窒素化合物層の厚みは、約25μmであった。また、窒素化合物層の深い側には窒素拡散層が形成されている。窒素拡散層の厚みは、約17μmであった。
比較例2では、図7に示すように、表面に窒素化合物層が約15μm形成されている。この場合には、窒素拡散層はほとんど形成されていない。つまり、窒素化合物層より深い側には母材となる。
【0031】
(硬さ)
それぞれの試験結果に対して、表面からの深さに対する硬さMHV(25g)について、図8を参照して説明する。本実施形態の試験例では、図8の(a)に示すように、最大硬さが、1000MHVを超えている。そして、表面から深さ30μm付近まで、800MHV以上の高い硬さを有している。さらに、表面からの深さ50μm付近まで硬さが母材の硬さよりも高くなっている。つまり、表面からの深さ25μm付近までに形成されている窒素化合物層によって、高い硬さを得ている。また、窒素拡散層を深く形成させることによって、硬さが高い部分を厚くすることができている。
【0032】
一方、図8の(b)に示すように、ナイトロテック法では、最大硬さが、1000MHVを超えている。そして、表面から深さ30μm付近まで、800MHV以上の高い硬さを有している。さらに、表面からの深さ40μm付近まで硬さが母材の硬さよりも高くなっている。つまり、表面からの深さ30μm付近までに形成されている窒素化合物層によって、高い硬さを得ている。これは、本実施形態の試験例とほぼ同程度である。また、窒素拡散層を深く形成させることによって、硬さが高い部分を厚くすることができている。ただし、本実施形態の試験例に比べると、母材より硬さが高い部分浅くなっている。
【0033】
また、図8の(c)に示すように、ガス軟窒化処理では、最大硬さが、700MHVを超えている。そして、700MHV以上の高い硬さの部分は、表面から深さ6μm付近までとなっている。さらに、表面からの深さ10μm付近では、300MHV程度に低下しており、表面からの深さ15μm付近では、ほぼ母材の硬さと同程度となっている。図7に示すように、窒化化合物が形成されている深さに対応している。
【0034】
(冷却工程後の歪量(平坦度))
次に、それぞれの試験結果に対して、プレステンパー前の油冷工程または冷却工程後の歪量(平坦度)について、図9を参照して説明する。本実施形態の試験例では、図9(a)に示すように、油冷工程後の歪変化量は、10μmとなっている。比較例1,2では、図9(b)に示すように、冷却工程後の歪変化量は、それぞれ270μm、10μmとなっている。比較例1の歪変化量が大きいのは、冷却液の温度が50〜60℃と低いことにより、冷却スピードが速いためであると考えられる。
【0035】
(実機耐久摩擦試験)
それぞれの部材に対する実機耐久摩擦試験を行った。当該試験には、駆動力伝達装置を構成する電磁クラッチを適用した。具体的には、上記試験例、比較例1および比較例2の各表面処理を、当該電磁クラッチを構成するアウタプレート44b(図15に示す)に施し、相手材であるインナプレート44a(図15に示す)は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜をコーティングした。試験条件は、電磁クラッチ部の面圧0.2MPa、すべり速度0.02m/s、カップリングフルード(動粘度40℃、23mm2/s)潤滑下、カップリング表面温度90〜100℃、耐久時間480h連続スリップ、380Wのエネルギーのもと、耐久試験を行った。
【0036】
試験結果について、図10を参照して説明する。図10には、比較例2であるガス軟窒化処理を施した場合における摩耗量を1として、本試験例、比較例1および比較例2について、(a)(b)(c)として示している。上記耐久試験後のアウタプレート44bの摩耗量は、本試験例(a)0.3、比較例1(b)0.3、比較例2(c)1の比となる。
【0037】
(本試験例の条件変更態様)
次に、本試験例において、焼き戻し工程における焼き戻し温度Te3を変更した場合、および、加熱工程における加熱温度Te1を変更した場合について試験を行った。焼き戻し温度Te3を変更した場合における表面硬度を図11に示し、加熱温度Te1を変更した場合における表面硬度および窒素化合物層生成速度を図12に示す。
図11に示すように、焼き戻し温度Te3を250〜350℃の範囲において、表面硬度が1000HV以上となる。特に、焼き戻し温度Te3を300℃とした場合に、表面硬度が最も高くなる。これに対して、焼き戻し温度Te3を350℃より高くするほど、表面硬度が低下している。
【0038】
また、図12の実線にて示すように、加熱工程における加熱温度Te1を660〜690℃の範囲において、表面硬度が1000HV以上となる。特に、加熱温度Te1を680℃とした場合に、表面硬度が最も高くなる。これに対して、加熱温度Te1を660℃より低い温度の場合、および、690℃より高い温度の場合には、表面硬度が低下している。
【0039】
ここで、図12の破線において、窒素化合物生成速度は、加熱温度680℃の場合が最も早く、660℃、640℃と680℃から低温になるほど、また、690℃、700℃と680℃から高温になるほど、窒素化合物生成速度が低下している。このことから、表面硬度は、窒素化合物生成速度に相関があると考えられる。つまり、窒素化合物生成速度が速いほど、表面硬度が高くなっている。
【0040】
上記および図8に示したように、本試験例における表面からの深さに対する硬さについて説明した。ここで、本試験例について、焼き戻し工程による硬さの変化を確認するために、本試験例の焼き戻し工程前における表面からの深さに対する硬さについて計測した。図13において、実線(a1)にて焼き戻し工程後、破線(a2)にて焼き戻し工程前における表面からの深さに対する硬さを示す。図13の(a1)(a2)に示すように、表面側において、焼き戻し工程を施すことにより、硬さが高くなっている。これは、焼き戻し工程によって、窒素マルテンサイトが析出することによって、硬さが高くなったものと考えられる。つまり、表面側に窒素化合物が生成されていることによって、表面側の硬さを高くすることができたものと思われる。
【0041】
(まとめ)
本実施形態によれば、冷却工程を油冷にすることで、水を用いない冷却液としている。これにより、摺動部材の表面に錆が発生することを抑制できる。油冷に用いる油は、水冷に用いる水よりも、その材料自体の性質として冷却スピードが小さい。また、油冷にすることで、水が含まれる冷却液に比べると、温度を高くすることができる。そのため、油冷による冷却スピードは、水を含む冷却液による冷却スピードに比べて遅くすることができる。その結果、摺動部材の表面の平坦度を良好にすることができる。また、油冷工程の後に摺動部材の表面側を加圧しながら焼き戻し処理を行うことで、内部歪を除去しながら、平坦度をより高めることができる。
【0042】
また、油冷工程における油温を60℃以上とすることで、従来問題であった素材の変形を十分に抑制することができる。また、油冷工程における油温を60℃以上としたとしても、加熱工程におけるアンモニア雰囲気の温度を、Fe−NのA1変態点である590℃より十分に高い温度の660℃以上にすることで、確実に、窒素化合物および窒素拡散層の厚みをそれぞれ20〜50μm確保することができる。これは、図14のFe-N系状態図に示すように、590℃以上でフェライトがオーステナイト化することを利用して、ガス軟窒化後急冷(焼入れ)して炭窒化物と窒素マルテンサイトの混相で複合硬化させている。なお、図14において、ハッチングを付した範囲は、ガス軟窒化の温度域を示す。
【0043】
ここで、加熱工程におけるアンモニア雰囲気の温度を660℃にした場合に、油温を80℃以下にすることで、確実に、窒素化合物および窒素拡散層の厚みをそれぞれ20〜50μm確保することができる。従って、表面の硬度を高い硬度とすることができる。その結果、耐摩耗性を良好とできる。ところで、窒素化合物層および窒素拡散層の厚みをそれぞれ20μm以上とすることで、摺動部材の表面の硬度を十分に確保できると共に、表面が摩耗したとしても表面の硬度の変動を小さくすることができる。
【0044】
また、油冷工程において、窒素雰囲気の状態で油冷を行っている。つまり、ナイトロテック法のように、加熱工程の後に積極的に酸化処理を行わない。つまり、摺動部材の表面に酸化被膜が形成されにくい。これにより、表面の平坦度を高くすることができる。また、加熱工程における窒素雰囲気の温度を690℃以下にすることで、窒素化合物層の拡散(消失)を抑制でき、硬度を確保することができる。
【0045】
ここで、窒素化合物層および窒素拡散層の厚みをそれぞれ50μm以下としている。仮に、電磁クラッチ装置のクラッチプレートに上記熱処理を適用する場合に、50μmより厚くすると、透磁率が低下する。そうすると、クラッチプレートの磁束密度が低下して、クラッチプレート間の摩擦係合力が低下することになる。そこで、窒素化合物層および窒素拡散層の厚みをそれぞれ50μm以下とすることで、摩擦係合力の低下を抑制できる。また、焼き戻し工程を行うことで、窒素化合物層および窒素拡散層に含まれている非磁性である残留オーステナイトを磁性であるマルテンサイトに変態させることができる。これにより、透磁率および硬度を上げることができる。
【0046】
(電磁クラッチ装置を適用した駆動力伝達装置)
次に、上述した電磁クラッチ装置のクラッチプレートを適用する駆動力伝達装置1について、図15を参照して説明する。駆動力伝達装置1は、例えば、4輪駆動車において車両の走行状態に応じて駆動力が伝達される補助駆動輪側への駆動力伝達系に適用される。より詳細には、4輪駆動車において、駆動力伝達装置1は、例えば、エンジンの駆動力が伝達されるプロペラシャフトと、リアディファレンシャルとの間に連結されている。駆動力伝達装置1は、プロペラシャフトから伝達される駆動力を、伝達割合を可変にしながら、リアディファレンシャルに伝達している。この駆動力伝達装置1は、例えば、前輪と後輪との回転差が生じた場合に、回転差を低減するように作用する。
【0047】
駆動力伝達装置1は、いわゆる電子制御カップリングからなる。この駆動力伝達装置1は、図15に示すように、外側回転部材としてのアウタケース10と、内側回転部材としてのインナシャフト20と、メインクラッチ30と、パイロットクラッチ機構を構成する電磁クラッチ装置40と、カム機構50とを備えている。
【0048】
アウタケース10は、円筒形状のホールカバー(図示せず)の内周側に、当該ホールカバーに対して回転可能に支持されている。このアウタケース10は、全体として円筒形状に形成されており、車両前側に配置されるフロントハウジング11と車両後側に配置されるリヤハウジング12とにより形成されている。
【0049】
フロントハウジング11は、例えばアルミニウムを主成分とする非磁性材料のアルミニウム合金により形成され、有底筒状に形成されている。フロントハウジング11の円筒部の外周面が、ホールカバーの内周面に軸受を介して回転可能に支持されている。さらに、フロントハウジング11の底部が、プロペラシャフト(図示せず)の車両後端側に連結されている。つまり、フロントハウジング11の有底筒状の開口側が車両後側を向くように配置されている。そして、フロントハウジング11の内周面のうち軸方向中央部には、雌スプライン11aが形成されており、当該内周面の開口付近には、雌ねじが形成されている。
【0050】
リヤハウジング12は、円環状に形成されており、フロントハウジング11の開口側の径方向内側に、フロントハウジング11と一体的に配置されている。リヤハウジング12の車両後方側には、全周に亘って環状溝が形成されている。このリヤハウジング12の環状溝底の一部分には、非磁性材料としての例えばステンレス鋼により形成された環状部材12aを備えている。リヤハウジング12のうち環状部材12a以外の部位は、磁気回路を形成するために磁性材料である鉄を主成分とする材料(以下、「鉄系材料」と称する)により形成されている。リヤハウジング12の外周面には、雄ねじが形成されており、当該雄ねじはフロントハウジング11の雌ねじにねじ締めされる。なお、フロントハウジング11の雌ねじをリヤハウジングの雄ねじに締め付け、フロントハウジング11の開口側端面をリヤハウジングの段部の端面に当接することにより、フロントハウジング11とリヤハウジング12とを固定する。
【0051】
インナシャフト20は、外周面の軸方向中央部に雄スプライン20aを備える軸状に形成されている。このインナシャフト20は、リヤハウジング12の中央の貫通孔を液密的に貫通して、アウタケース10内に相対回転可能に同軸上に配置されている。そして、インナシャフト20は、フロントハウジング11およびリヤハウジング12に対して軸方向位置を規制された状態で、フロントハウジング11及びリヤハウジング12に軸受を介して回転可能に支持されている。さらに、インナシャフト20の車両後端側(図15の右側)は、ディファレンシャルギヤ(図示せず)に連結されている。なお、アウタケース10とインナシャフト20とにより液密的に区画される空間内には、所定の充填率で潤滑油が充填されている。
【0052】
メインクラッチ30は、アウタケース10とインナシャフト20との間でトルクを伝達する。このメインクラッチ30は、鉄系材料により形成された湿式多板式の摩擦クラッチである。メインクラッチ30は、フロントハウジング11の円筒部内周面とインナシャフト20の外周面との間に配置されている。メインクラッチ30は、フロントハウジング11の底部とリヤハウジング12の車両前方端面との間に配置されている。このメインクラッチ30は、インナメインクラッチ板31とアウタメインクラッチ板32とにより構成され、軸方向に交互に配置されている。インナメインクラッチ板31は、内周側に雌スプライン31aが形成されており、インナシャフト20の雄スプライン20aに嵌合されている。アウタメインクラッチ板32は、外周側に雄スプライン32aが形成されており、フロントハウジング11の雌スプライン11aに嵌合されている。
【0053】
電磁クラッチ装置40は、磁力によりアーマチュア43をヨーク41側に引き寄せることでパイロットクラッチ44同士を係合させる。つまり、電磁クラッチ装置40は、アウタケース10のトルクを、カム機構50を構成する支持カム部材51に伝達する。この電磁クラッチ装置40は、ヨーク41と、電磁コイル42と、アーマチュア43と、パイロットクラッチ44とにより構成されている。
【0054】
ヨーク41は、環状に形成されており、リヤハウジング12に対して相対回転可能となるように隙間を介してリヤハウジング12の環状溝に収容されている。ヨーク41は、ホールカバーに固定されている。また、ヨーク41の内周側が、リヤハウジング12に軸受を介して回転可能に支持されている。電磁コイル42は、巻線を巻回することにより円環状に形成され、ヨーク41に固定されている。
【0055】
アーマチュア43は、鉄系材料により形成されている。外周側に雄スプラインを備える円環状に形成されている。アーマチュア43は、メインクラッチ30とリヤハウジング12との軸方向間に配置されている。そして、アーマチュア43の外周側が、フロントハウジング11の雌スプライン11aに嵌合されている。アーマチュア43は、電磁コイル42に電流が供給されると、ヨーク41側に引き寄せられるように作用する。
【0056】
パイロットクラッチ44は、アウタケース10と支持カム部材51との間でトルクを伝達する。このパイロットクラッチ44は、鉄系材料により形成されている。パイロットクラッチ44は、フロントハウジング11の円筒部内周面と支持カム部材51の外周面との間に配置されている。さらに、パイロットクラッチ44は、アーマチュア43とリヤハウジング12の車両前方端面との間に配置されている。このパイロットクラッチ44は、インナパイロットクラッチ板44aとアウタパイロットクラッチ板44bとにより構成され、軸方向に交互に配置されている。インナパイロットクラッチ板44aは、内周側に雌スプラインが形成されており、支持カム部材51の雄スプラインに嵌合されている。アウタパイロットクラッチ板44bは、外周側に雄スプラインが形成されており、フロントハウジング11の雌スプライン11aに嵌合されている。
【0057】
そして、電磁コイル42に電流が供給されると、図15の矢印にて示すように、ヨーク41、リヤハウジング12の外周側、パイロットクラッチ44、アーマチュア43、パイロットクラッチ44、リヤハウジング12の内周側、ヨーク41を通過する磁気回路が形成される。そうすると、アーマチュア43がヨーク41側に引き寄せられて、インナパイロットクラッチ板44aとアウタパイロットクラッチ板44bとが摩擦係合する。そして、アウタケース10のトルクを支持カム部材51に伝達する。一方、電磁コイル42への電流供給を遮断すると、アーマチュア43に対する吸引力がなくなり、インナパイロットクラッチ板44aとアウタパイロットクラッチ板44bとの摩擦係合力が解除される。
【0058】
カム機構50は、メインクラッチ30とパイロットクラッチ44との間に設けられ、パイロットクラッチ44を介して伝達されるアウタケース10とインナシャフト20との回転差に基づくトルクを軸方向の押圧力に変換してメインクラッチ30を押圧する。このカム機構50は、支持カム部材51と、移動カム部材52と、カムフォロア53とから構成されている。
【0059】
支持カム部材51は、外周側に雄スプラインを備えた円環状に形成されている。この支持カム部材51の車両前方端面には、カム溝が形成されている。支持カム部材51は、インナシャフト20の外周面に対して隙間を介して設けられ、リヤハウジング12の車両前方端面にスラスト軸受60を介して支持されている。従って、支持カム部材51の車両後方端面は、スラスト軸受60の軌道板にシム61を介して当接している。つまり、支持カム部材51は、インナシャフト20およびリヤハウジング12に対して相対回転可能であり、軸方向に対して規制されて設けられている。さらに、支持カム部材51の雄スプラインは、インナパイロットクラッチ板44aの雌スプラインに嵌合している。
【0060】
移動カム部材52は、大部分を鉄系材料により形成され、内周側に雌スプラインを備える円環状に形成されている。移動カム部材52は、支持カム部材51の車両前方に配置されている。移動カム部材52の車両後方端面には、支持カム部材51のカム溝に対して軸方向に対向するように、カム溝が形成されている。移動カム部材52の雌スプラインが、インナシャフト20の雄スプライン20aに嵌合している。従って、移動カム部材52は、インナシャフト20と共に回転する。さらに、移動カム部材52の車両前方端面は、メインクラッチ30のうち最も車両後方に配置されるインナメインクラッチ板31に当接し得る状態となっている。移動カム部材52は、車両前方に移動すると、当該インナメインクラッチ板31に対して車両前方へ押し付ける。
【0061】
カムフォロア53は、ボール状からなり、支持カム部材51と移動カム部材52の互いに対向するカム溝に介在している。つまり、カムフォロア53およびそれぞれのカム溝の作用により、支持カム部材51と移動カム部材52に回転差が生じた際には、移動カム部材52が支持カム部材51に対して軸方向に離間する方向(車両前方)へ移動する。支持カム部材51に対する移動カム部材52の軸方向離間量は、支持カム部材51と移動カム部材52とのねじれ角度が大きいほど大きくなる。
【0062】
(駆動力伝達装置の基本的な動作)
次に、上述した構成からなる駆動力伝達装置1の基本的な動作について説明する。アウタケース10とインナシャフト20とが回転差を生じている場合について説明する。電磁クラッチ装置40の電磁コイル42に電流が供給されると、電磁コイル42を基点としてヨーク41、リヤハウジング12、アーマチュア43を循環するループ状の磁気回路が形成される。
【0063】
このように、磁気回路が形成されることで、アーマチュア43がヨーク41側、すなわち軸方向後方に向かって引き寄せられる。その結果、アーマチュア43は、パイロットクラッチ44を押圧して、インナパイロットクラッチ板44aとアウタパイロットクラッチ板44bとが摩擦係合する。そうすると、アウタケース10の回転トルクが、パイロットクラッチ44を介して支持カム部材51へ伝達されて、支持カム部材51が回転する。
【0064】
ここで、移動カム部材52はインナシャフト20とスプライン嵌合しているため、インナシャフト20と共に回転する。従って、支持カム部材51と移動カム部材52とに回転差が生じる。そうすると、カムフォロア53およびそれぞれのカム溝の作用により、支持カム部材51に対して移動カム部材52が軸方向(車両前側)に移動する。移動カム部材52がメインクラッチ30を車両前側へ押圧することになる。
【0065】
その結果、インナメインクラッチ板31とアウタメインクラッチ板32とが相互に当接して摩擦係合状態となる。そうすると、アウタケース10との回転トルクが、メインクラッチ30を介してインナシャフト20に伝達される。そうすると、アウタケース10とインナシャフト20との回転差を低減することができる。なお、電磁コイル42へ供給する電流量を制御することで、メインクラッチ30の摩擦係合力を制御できる。つまり、電磁コイル42へ供給する電流量を制御することで、アウタケース10とインナシャフト20との間で伝達されるトルクを制御できる。
【符号の説明】
【0066】
110:母材部、 120:窒素拡散層、 130:窒素化合物層、 131:緻密層、 132:白層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材からなる母材部と、前記母材部の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層と、前記窒素拡散層の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層と、を備え、
鋼材からなる素材を660〜690℃のアンモニア雰囲気にて加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に60〜80℃の油温にて油冷を行う油冷工程と、前記油冷工程の後に前記表面側を加圧しながら250〜350℃の温度にて焼き戻し処理を行う焼き戻し工程とにより、前記窒素化合物層および前記窒素拡散層を形成する摺動部材。
【請求項2】
請求項1において、
前記油冷工程は、窒素雰囲気の状態で油冷を行う摺動部材。
【請求項3】
電磁クラッチを構成するクラッチプレートであって、
鋼材からなる母材部と、前記母材部の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層と、前記窒素拡散層の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層と、を備え、
鋼材からなる素材を660〜690℃のアンモニア雰囲気にて加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に60〜80℃の油温にて油冷を行う油冷工程と、前記油冷工程の後に前記表面側を加圧しながら250〜350℃の温度にて焼き戻し処理を行う焼き戻し工程とにより、前記窒素化合物層および前記窒素拡散層を形成するクラッチプレート。
【請求項4】
鋼材からなる母材部と、前記母材部の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層と、前記窒素拡散層の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層と、を備える摺動部材の製造方法であって、
鋼材からなる素材を660〜690℃のアンモニア雰囲気にて加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に60〜80℃の油温にて油冷を行う油冷工程と、前記油冷工程の後に前記表面側を加圧しながら250〜350℃の温度にて焼き戻し処理を行う焼き戻し工程とにより、前記窒素化合物層および前記窒素拡散層を形成する摺動部材の製造方法。
【請求項5】
電磁クラッチを構成するクラッチプレートの製造方法であって、
前記クラッチプレートは、鋼材からなる母材部と、前記母材部の表面側に20〜50μmの厚さに形成される窒素拡散層と、前記窒素拡散層の表面側に20〜50μmの厚さに形成され最表面をなす窒素化合物層と、を備え、
鋼材からなる素材を660〜690℃のアンモニア雰囲気にて加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に60〜80℃の油温にて油冷を行う油冷工程と、前記油冷工程の後に前記表面側を加圧しながら250〜350℃の温度にて焼き戻し処理を行う焼き戻し工程とにより、前記窒素化合物層および前記窒素拡散層を形成するクラッチプレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108145(P2013−108145A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255398(P2011−255398)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(591139574)株式会社CNK (25)
【Fターム(参考)】