説明

摺動部材

【課題】 従来以上に摺動特性に優れた摺動部材を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の摺動部材は、少なくとも摺動面側が、複数本の炭素繊維のフィラメントからなる繊維束を製織した炭素繊維織物と該炭素繊維織物に含浸された樹脂との複合材料から構成される摺動部材であって、該炭素繊維織物は、織物面方向と摺動面とが平行に配置され、該繊維束を構成する該フィラメントの本数が6000本以下(396tex以下)、かつ該炭素繊維織物を構成する該フィラメントの密度が2400本/cm以下であることを特徴とする。
さらに、本発明の摺動部材は、各種装置の摺動部、特に、圧縮機の摺動部品であるのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種装置の摺動部に用いられる摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料は、構成素材の種類や体積比率を変化させることにより、従来の材料では達成できないような様々な特性を有する材料となるため、工業材料の多くの分野で極めて有用である。中でも、炭素繊維複合材料は、軽量で強度の高い材料として、各種構造物や航空宇宙分野で用いられている。
【0003】
そして、炭素繊維複合材料のうち、樹脂と炭素繊維とからなる炭素繊維複合材料を運動部に有する各種装置が、たとえば、特許文献1〜4に開示されている。特許文献1〜4では、炭素繊維を織物の形態で使用しており、炭素繊維織物に樹脂を含浸させ炭素繊維複合材料を得る。
【0004】
ところが、炭素と樹脂とでは、熱収縮率(熱膨張率)に大きな差がある。さらに、炭素繊維織物の織物面における位置によって含浸される樹脂の分布量が異なる。そのため、図7に、炭素繊維織物に対してZ−Z’方向の複合材料1’の断面を一例として示すように、樹脂11の加熱の際に、平らな面Pを有する金型Dにより炭素繊維織物を形成する繊維束10の長手方向に対して垂直(A方向)にプレスを施しても、隣接する繊維束10の間のような樹脂が多く存在する部分では、樹脂が激しく熱収縮する。その結果、成形後の樹脂12のプレスされた面には、炭素繊維織物の織り目に沿って凸凹が発生する(点線)。
【特許文献1】特開平6−228329号公報
【特許文献2】特開平6−228330号公報
【特許文献3】特開平6−228331号公報
【特許文献4】特開2000−154824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者等は、摺動面の表面形状に着目した。たとえば、上記の複合材料1’を摺動部材とし、凸凹のある表面を摺動面とすると、表面の粗さに起因して摩擦係数が増大する傾向にあり、また、潤滑油の使用時には凹部に潤滑油がたまり被摺動面との間に潤滑油被膜が形成されないことがあるため、高い摺動特性が得られ難い。これらの問題点に鑑み、摺動面の凸凹を低減することにより摺動特性を向上させることに想到した。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑み、従来以上に摺動特性に優れた摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の摺動部材は、少なくとも摺動面側が、複数本の炭素繊維のフィラメントからなる繊維束を製織した炭素繊維織物と該炭素繊維織物に含浸された樹脂との複合材料から構成される摺動部材であって、該炭素繊維織物は、織物面方向と摺動面とが平行に配置され、該繊維束を構成する該フィラメントの本数が6000本以下(396tex以下;texとは、長さ1000m当たりの質量で繊維の太さを表す単位[g/1000m])、かつ該炭素繊維織物を構成する該フィラメントの密度が2400本/cm以下であることを特徴とする。この際、樹脂は、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂であるのがよい。
【0008】
ここで、「フィラメント」とは、長繊維であって、ステープルファイバー(短繊維)やチョップドファイバー(短繊維をさらに切断し繊維長を数mm以下としたもの)に対する語である。そして、フィラメントの集合体を「繊維束」と呼び、たとえば、撚りがけしていない繊維の束を指す「トウ(tow)」も繊維束に含まれる。そして、「フィラメントの密度」は、(繊維束を構成するフィラメントの数[本/束])×(炭素繊維織物の単位長さ当たりに存在する繊維束の数[束/cm])で求められる。
【0009】
また、織物面方向と摺動面とが「平行」とは、完全に平行な状態を指すのではなく、摺動面と炭素繊維織物とが交差する位置関係の部分が無ければよいのであって、ある程度の幅をもった配置を意図している。たとえば、摺動面から炭素繊維織物の一部が突出したり、摺動面側に繊維束(フィラメント)の切断面や織物の耳に相当する部分が出現するような状態でなければよい。また、1枚の炭素繊維織物を折り返して積層させるようにしてもよい。
【0010】
さらに、本発明の摺動部材は、各種装置の摺動部、特に、圧縮機の摺動部品であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の摺動部材は、シート状の炭素繊維織物を織物面方向と摺動面とが平行になるように配置されているため、炭素繊維の端部が摺動面側に出現することが無く、相手材への攻撃性が少ないし、潤滑性がよい。
【0012】
また、繊維束を構成するフィラメントの本数が6000本以下の細い繊維束を用いたことにより、摺動面の凸凹が低減され、摺動特性が向上する。そして、炭素繊維織物を構成するフィラメントの密度を2400本/cm以下にすることにより、繊維束の太さに適した織り密度となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の摺動部材を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
本発明の摺動部材は、少なくとも摺動面側が、複数本の炭素繊維のフィラメントからなる繊維束を製織した炭素繊維織物と、その炭素繊維織物に含浸された樹脂と、の複合材料から構成される。
【0015】
炭素繊維織物は、複数本の炭素繊維のフィラメントからなる繊維束を織り合わせたシート状の形態を有する。炭素繊維は、繊維状有機物を炭化させてつくられる。繊維状有機物としては、石油ピッチ系、ポリアクリロニトリル系(PAN系)が好ましく、その他、レーヨン系などを用いることもできる。そのため、炭素繊維のフィラメントは、通常、直径が7μm程度の長繊維からなり、繊維状有機物を複数本束ねた状態で炭化される。炭化されたものを繊維束として織り合わせることにより、シート状の炭素繊維織物が得られる。
【0016】
炭素繊維織物は潤滑性や耐熱性に優れ、また、連続繊維からなる炭素繊維が織り合わされているため、高強度であり、耐摩耗性にも優れる。すなわち、炭素繊維織物に樹脂を含浸させた複合材料も、潤滑性や耐熱性に優れ、高強度で高い耐摩耗性を有する。そして、炭素繊維は軽量な材料であるため、少なくとも摺動面側が上記複合材料から構成された摺動部材は軽量化が可能となり、さらには、摺動部材を有する装置自体の軽量化につながる。
【0017】
また、炭素繊維織物は、シートの延びる方向と摺動面とが平行に配置されるため、繊維束の切断面、すなわち、炭素繊維の端部が摺動面に出現することが無く、摺動相手材を傷つけることがないので相手材への攻撃性が少なく、また、潤滑性に優れるため、摺動特性に優れる。なお、炭素繊維織物は、単層の他、互いに平行に積層されていてもよい。
【0018】
そして、繊維束を構成するフィラメントの本数が6000本以下であれば、細い繊維束により密に炭素繊維織物を織り合わせることができるため、含浸される樹脂の分布が比較的均一となり、摺動面に発生する凸凹(樹脂の熱収縮に起因)を低減できる。その結果、摺動性に優れた摺動部材となる。また、繊維束を構成するフィラメントの本数は、好ましくは3000本以下、さらに好ましくは1000本以下である。フィラメントの本数が少なくなるほど、さらに繊維束は細くなるため、さらに密な炭素繊維織物を形成することが可能となり、その結果、さらに表面の凸凹を低減することができ、高荷重に対する耐久性や耐摩耗性に優れる。
【0019】
なお、さらに織り目が密な炭素繊維とするために、繊維束に収束剤などを付与するサイジングや、フィラメントを均一にほぐして繊維束を薄く平たく広げてテープ状にする開繊や、伸線、などを施したり、繊維束を撚ったりしてもよい。
【0020】
また、炭素繊維織物は、その織り方に限定はなく、図1に示される平織の他、綾織、朱子織などであっても構わない。
【0021】
樹脂は、炭素繊維織物を保持することができれば、その種類に特に限定はないが、耐熱性樹脂であるのが好ましい。樹脂が耐熱性樹脂であれば、摺動部材の使用環境が高温下であったり、使用中に温度が上昇したりする摺動部材であっても、熱により樹脂成分が変性することなく使用できる。また、樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であっても、どちらでもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂等、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等、が好適である。
【0022】
複合材料は、従来行われているように、樹脂の種類に応じて適切な温度、時間で処理することにより形成すればよい。たとえば、樹脂が熱可塑性樹脂であれば、フィルム状または粉末状の樹脂と炭素繊維織物とを積層し、ホットプレスすることにより溶融含浸、冷却させて成形すればよい。また、樹脂が熱硬化性樹脂であれば、炭素繊維織物に熱硬化性樹脂を含浸させた半硬化状態のシート状成型用中間材料として知られている織物プリプレグから熱硬化性樹脂を硬化させて成形可能である。
【0023】
本発明の摺動部材は、少なくとも摺動面側が複合材料から構成されていれば十分である。つまり、全体が複合材料からなる必要はなく、たとえば、その摺動面側以外の部分が樹脂を主成分とする部材や、金属製、セラミックス製の部材であってもよい。また、摺動部材の形態や機能等も問わないものであり、摺動部材を摺動部品として用いる各種装置の形態に応じたものであればよい。なお、摺動面以外の部分が金属等である場合には、各種接着剤により両者を接着したり、他の部分と一体的に複合材料を形成してもよい。
【0024】
また、摺動部材の形状も、摺動に適する形状であれば限定はない。たとえば、摺動面が、平面からなる摺動面の他、球面などの曲面からなる摺動面であってもよい。
【0025】
本発明の摺動部材は、圧縮機の摺動部品とすることができる。高強度かつ高耐熱性の炭素繊維を用いた複合材料から構成される摺動部材は、高荷重、高摺動速度が要求される圧縮機のような装置の高摺動部位に好適である。また、炭素繊維は熱伝導率が高いため、摺動面における摩擦熱の上昇を抑制することができる。
【0026】
たとえば、摺動部品は、斜板式圧縮機のシューであるのが望ましい。シューのうち、少なくとも斜板と摺接する面側に複合材料を形成するとよい。シューの摺動面は、相手材と摺接する部分の面積が小さいため、表面の凸凹を低減することによる摺動性の向上がより顕著となる。また、摺動部品は、斜板式圧縮機の斜板であってもよい。摺動特性をより向上した本発明の摺動部材を斜板式圧縮機の斜板やシュー等に用いることで、斜板やシューに要求される条件を十分に満たすことができる。また、摺動部品は、ピストン式圧縮機のピストンであってもよい。
【0027】
なお、本発明の摺動部材は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、摺動面の凸凹を激しくしない程度であれば、表面処理による表面の酸化など、他の構成を付加してもよい。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の摺動部材の実施例を、図1〜6を用いて説明する。
【0029】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ナイロン6(PA6)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、のうちいずれかからなる樹脂フィルム(厚さ100μm程度)を準備した。
【0030】
また、フィラメントの本数が1000本(1K)、3000本(3K)、6000本(6K)の繊維束からなる平織物である炭素繊維織物(東レ製CO6142、CO6343、CO6644B)を準備した。フィラメントは、直径7μm、PAN系炭素繊維を使用したものであった。各炭素繊維織物の密度および寸法を表1に示す。表1において、織り密度は、25cmあたりの繊維束の本数を示す。また、表1において、フィラメント密度は、たとえばフィラメント数が6Kの場合、6000[本/束]×10[束]/25[cm]=2400[本/cm]と算出される。
【0031】
なお、図1に、フィラメント数が1K、3K、6Kの繊維束からなる炭素繊維織物の平面図を示す。
【0032】
【表1】

【0033】
[実施例1]
樹脂フィルムと炭素繊維織物とを、炭素繊維織物が樹脂フィルムの間に位置するようにして交互に積層させた。得られた積層体に、樹脂フィルムの種類に応じた加圧・加熱の条件で熱プレスを行い、樹脂を炭素繊維織物に溶融含浸させて、試料a〜cおよび試料e〜jを作製した。各試料の寸法は、30mm×30mm×0.9mmとした。
【0034】
なお、各試料の作製に用いた樹脂ならびに炭素繊維織物のフィラメント数および積層数は表2に示すものとした。
【0035】
[比較例]
試料dには、30%炭素繊維チョップドファイバー強化PEEK成形体(ビクトレックス・エムシー:450CA30)を使用した。試料dの寸法は、30mm×30mm×0.9mmとした。
【0036】
[実施例2]
直径12mmで軸受け鋼(SUJ2)からなる半球を準備した。この半球の円形平面上に、樹脂フィルムと炭素繊維織物とを、炭素繊維織物が樹脂フィルムの間に位置するようにして交互に積層させた。得られた積層体に、樹脂フィルムの種類に応じた加圧・加熱の条件で熱プレスを行い、樹脂を炭素繊維織物に溶融含浸させて、試料k〜nを作製した。得られた試料k〜nは、斜板式圧縮機のシューである。各試料の厚さは0.5mmとした。
【0037】
なお、各試料の作製に用いた樹脂ならびに炭素繊維織物のフィラメント数および積層数は表2に示すものとした。
【0038】
ここで、本発明の摺動部材を斜板式圧縮機のシューに適用した場合には、以下のような構成となる。
【0039】
(斜板式圧縮機の構成)
図2に、斜板式圧縮機の構成を示す。図2に示すように、駆動軸20は、シリンダブロック22とフロントハウジング23により形成される斜板室24に収容されており、ラジアル軸受により回転自在に支持されている。そして、シリンダブロック22内には、駆動軸20を囲む位置に複数個のボア25が配設されている。各ボア25には、片頭形のピストン26がそれぞれ往復動可能に嵌挿されている。斜板室24内においては、駆動軸20にはロータ27が結合され、そのロータ27の後方に斜板28が嵌合されている。特に、可変容量型の片頭型斜板式圧縮機では、斜板28は支点回りに傾動可能となっており、斜板室24の圧力変化に基づくピストン26の両端面に作用するガス圧の釣り合いによって、斜板28の傾角変位を制御するようになっている。また、斜板28には、両端面外周側に平滑な摺接面28pが形成され、この摺接面28pにはシュー29の摺動面29pが当接されている。これらのシュー29は、ピストン26の半球面座26pと係合されている。このシューを介してピストン26が斜板28と連係することにより、斜板28の回転運動がピストン26の直線運動に変換されて媒体の圧縮が行われる。
【0040】
【表2】

【0041】
[評価1]
試料a〜jについて、リングオンディスク試験を行った。リングオンディスク試験に用いた装置の断面図を図3に示す。油槽2の底部に試料台3を載置し、摺動部材1(試料a〜j)を試料台3の凹面上に固定した。また、摺動部材1の摺動相手材として、直径23mmで鉄製(S45C)のリング4を用いた。摺動部材1とリング4との摺動面積は、100mm2 であった。そして、油槽2には、摺動部材1とリング4との界面(摺動部材1の摺動面)が液面下に位置するように、潤滑油O(冷凍機油)を入れた。
【0042】
そして、軸Xを中心としてリング4を回転させて、摺動部材1の摺動面とリング4とを摺動させた。この際、滑り速度を1.2m/sとし、荷重をかけない状態から荷重5000Nまでを250N毎にステップアップさせて試験を行った。各荷重での保持時間は2分間とした。そして、焼付きが発生したときの荷重または試験終了後の摩耗深さを測定した。試験結果を表2に示す。表2において、摩滅荷重の欄の「>5000」は、試験中に焼付きが発生しなかったものである。
【0043】
[評価2]
試料k〜nについて、斜板・シュー試験を行った。斜板・シュー試験に用いた装置の断面図を図4に示す。台座部7には、2つの摺動部材1(試料k〜nすなわちシュー9)を固定した。また、斜板8として、アルミ合金製で周縁部(シュー9と摺接する部分)の厚みが12mmの円板(直径80mm)を用いた。斜板8は、シュー9の摺動面と斜板8の周縁部とが摺接するように、載置された。
【0044】
そして、冷凍機油潤滑下で軸Yを中心として斜板8を回転させて、摺動部材1と斜板8とを摺動させた。この際、滑り速度を6m/sとし、荷重をかけない状態から荷重6000Nまでを1000N毎にステップアップさせて試験を行った。各荷重での保持時間は5分間としたが、荷重6000N到達後は焼付きが発生するまで試験を行った。そして、荷重3000Nでの摩擦係数と、焼付きが発生したときの荷重(荷重6000Nに到達した場合は6000Nに到達してから焼付きが発生するまで時間)を測定した。試験結果を表2に示す。
【0045】
リングオンディスク試験(評価1)によれば、炭素繊維織物を用いた摺動部材(試料a〜c、e〜j)は、チョップドファイバーを用いた摺動部材(試料d)よりも耐摩耗性に優れた摺動部材であった。また、フィラメント数が1K(1000本)、3K(3000本)である摺動部材は、樹脂の種類にかかわらず荷重が5000Nとなっても焼付きが発生せず、高荷重に対する耐久性に優れる。また、チョップドファイバーを用いた摺動部材(試料d)では、摺動相手材であるリング4の摺動面に損傷が生じたが、他の試料に関しては、リング4の摺動面に変化はなかった。
【0046】
リングオンディスク試験(評価1)および斜板・シュー試験(評価2)によれば、フィラメント数が1K(1000本)である摺動部材は、摺動性に特に優れた摺動部材であった。
【0047】
[評価3]
試料kおよび試料lについて、摺動面の表面形状を測定した。表面形状は、東京精密製サーフコム1400Aを用い、摺動面に対して測定を行った。結果を図5に示す。なお、図5において、横方向とは摺動面と平行な方向、縦方向とは摺動面に垂直な方向(摺動部材の厚さ方向)、である。
【0048】
フィラメント数が1K(1000本)である摺動部材(試料k)は、フィラメント数が3K(3000本)である摺動部材(試料l)よりも摺動面の凸凹が低減された。
【0049】
[評価4]
試料kについて、走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)観察を行った。SEM観察は、試料kを厚さ方向に切断した断面であって、摺動面側を観察した。得られたSEM像を図6に示す。なお、図6において円形に見えるのが、フィラメントの断面である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の被覆部材に用いることができる炭素繊維織物の一例を示す図であって、炭素繊維織物が延びる方向に対して垂直方向から見た図を模式的に示した平面図である。
【図2】本発明の被覆部材を用いた斜板式圧縮機の断面を模式的に示す図である。
【図3】リングオンディスク試験に用いた装置の断面を模式的に示す図である。
【図4】斜板・シュー試験に用いた装置の断面を模式的に示す図である。
【図5】実施例の摺動部材の摺動面の表面形状の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例の摺動部材の断面のSEM像である。
【図7】従来の炭素繊維複合材料の表面状態を説明する断面図(上図)であって、炭素繊維織物に対してZ−Z’方向(下図)の断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1,1’:摺動部材(複合材料)
8,28:斜板
9,29:シュー(摺動部材)
29p:シューの摺動面
10:(炭素繊維織物の)繊維束
11,12:樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも摺動面側が、複数本の炭素繊維のフィラメントからなる繊維束を製織した炭素繊維織物と該炭素繊維織物に含浸された樹脂との複合材料から構成される摺動部材であって、
該炭素繊維織物は、織物面方向と摺動面とが平行に配置され、該繊維束を構成する該フィラメントの本数が6000本以下、かつ該炭素繊維織物を構成する該フィラメントの密度が2400本/cm以下であることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記繊維束を構成するフィラメントの本数が3000本以下である請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記炭素繊維織物は、互いに平行に積層されている請求項1記載の摺動部材。
【請求項4】
前記炭素繊維織物は、平織組織である請求項1記載の摺動部材。
【請求項5】
前記樹脂は耐熱性樹脂である請求項1記載の摺動部材。
【請求項6】
前記耐熱性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂およびポリイミド樹脂のうち少なくとも1種を含む請求項5記載の摺動部材。
【請求項7】
前記摺動部材は、圧縮機の摺動部品である請求項1〜6のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項8】
前記摺動部品は、斜板式圧縮機のシューである請求項7記載の摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−22892(P2006−22892A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201446(P2004−201446)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】