説明

撥水性被膜及びその被膜の形成方法

【課題】接触角が120度以上で保持される撥水性被膜は極めて少なく、まして接触角が10度以下で保持される親水性被膜は現実的にはない。
【解決手段】基材の最外表面に形成される含フッ素オリゴマーと貝殻焼成カルシウムを含む被膜であって、その純水接触角が120度以上である撥水性被膜。被膜の第1層目の主体は貝殻焼成カルシウム、第2層目の主体はアルカリシリケート、第3層目の主体は含フッ素オリゴマーである撥水性被膜。また、貝殻焼成カルシウム塗布工程、含フッ素オリゴマー塗布工程及び加熱工程のそれぞれを少なくとも1回以上有する撥水性被膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性被膜及びその被膜の形成方法、特に超撥水性を有する被膜及びその被膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水性材料は、文字とおり水をはじく特性を有するので、撥水性材料の表面では水滴状となり、見かけの透明性を確保する。この性質を利用し、例えば、降雨時の監視用窓ガラスやワイパーレスの自動車用ガラス等をはじめとする多くのものにその利用が期待されている。
【0003】
一般に、撥水性材料は、バルク材としての撥水性材料よりも撥水性材料を被膜化した利用が多くの場合に有用である。このような状況の下、より撥水性の良好な被膜が求められている。一般的に、撥水性は純水接触角の大きさで表され、約90度以上の純水接触角を有する場合を撥水性ありと判断されることが多い。しかし、近年では特に超撥水性と呼ばれる被膜が世の中から求められている。この超撥水性は、例えば純水接触角が110度以上で定義されるが、より大きな純水接触角の超撥水性被膜が望まれている。現時点においては、純水接触角は約150度前後が測定限界に近く、純水接触角が約150度よりも大きくなると、測定しにくくなる。しかし、撥水性も被膜を得ることは難しく、例えば代表的な撥水性材料である四フッ化エチレン樹脂は115度であり、世の中で多用されているシリコーンは95度程度である。
【0004】
大きな撥水性、すなわち純水接触角が120度以上の被膜を形成することができれば、その応用範囲は広い。例えば、降雨時の監視用窓ガラスやワイパーレスの自動車用ガラスは、現状の90〜115度でも使用が増加する傾向にある。これらの商品に関し、120度以上の被膜を形成することができれば、その性能は大幅に増加するので、さらなる需要増が期待される。
【0005】
また、酸性雨、硫化ガス及び二酸化炭素等の増加を始めとする昨今の種々の地球環境の悪化から、例えば窓ガラスの汚染がひどくなる状況にある。窓ガラスの汚染がひどくなると、ガラス自体の強度が損なわれるばかりか、室内が暗くなるので室内照明のための電気代が増加する。また、省エネルギや紫外線劣化防止のため、ガラス表面に施した赤外線・紫外線反射膜の効果も損なわれる。しかし、例えば高層ビルの窓ガラスの場合、その洗浄は容易ではない。この点、撥水性被膜を有する窓ガラスでは、水が固着することなく、窓ガラスから除外されるので、メンテナンスフリーの窓ガラスとしても採用できる。
【0006】
なお、撥水性を向上させる撥水性ガラスとしては、種々の方法が考えられ、開示されている。例えば、光線を選択的に透過する積層多層膜と該積層多層膜の表面に形成された酸化亜鉛の皮膜によるものが開示されている(例えば、特許文献1)。
【0007】
また、撥水層が少なくともSiO2とフッ素樹脂でなり、該フッ素樹脂が該SiO2に対して5〜50重量%であり、さらに該ガラス基板と撥水層の間に中間層としてマイクロピット状表層または凹凸状表層、あるいは凸状表層であるゾルゲル膜を形成してなる撥水性ガラスが開示されている(例えば、特許文献2)。さらには、本発明者も、低分子量ポリテトラフルオロエチレンを気体及び/又は液体とともに噴霧して250〜500℃のガラスに接触させて製造した撥水性ガラスで、低分子量ポリテトラフルオロエチレンがポリテトラフルオロエチレンを分子状フッ素、三フッ化窒素、フッ化ハロゲンまたは希ガスのフッ化物から選ばれた一種以上の存在下高められた温度で分解して得られた低分子量ポリテトラフルオロエチレンである撥水性ガラスが開示されている(例えば、特許文献3)。
【0008】
一方、昨今の環境問題の高まりから、貝殻の利用に関する研究が行われ、その特異的な焼成した貝殻の特性が最近発見され注目を浴びている。その貝殻の多くは産業廃棄物として埋め立てられているが、その廃棄物量が膨大であることから近年、自治体を始めとした研究機関や企業において、その有効利用策が検討されている。その一つに貝殻焼成カルシウムのもつ消毒効果がある。
【0009】
貝殻焼成カルシウムは、カルシウム主体の比較的新しい材料である貝殻焼成カルシウムに関する研究の進展の結果、消毒効果や消臭効果、さらには抗菌性を増大させる効果が知られている(例えば、特許文献4)。
【0010】
貝殻焼成カルシウムは、それ自身カルシウム源として食品への添加の他、病原菌、細菌、カビ等の駆除剤用、野菜や果樹の残存農薬の洗浄用、医薬品用あるいは漆喰等の建築用壁材等に用いられている。なお、貝殻焼成カルシウムは、国連の食料農業機関(FAO)および世界保健機構(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)において、食品への添加の一日摂取許容量が非制限とされていることから明らかなように、その安全性は食品としても問題がない。さらには、一種の廃棄物であることから、その有効利用は産業発展に寄与すると同時にコスト的にも充分対応し得る材料である。
【特許文献1】特開平3−150238号公報
【特許文献2】特開平6−340451号公報
【特許文献3】特開平8−239242号公報
【特許文献4】特開2000−72610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
撥水性が極めて良好な、例えばその接触角が120度以上の撥水性被膜の出現が期待されているが、実用に耐えうる撥水性被膜はほとんどない。撥水性被膜と称していても、そのほとんどは純水接触角が120度未満のものであり、さらにはすぐにその特性が下がり、実用的な使い方で数日程度しか持たない撥水性被膜も多い。
【0012】
すなわち、特開平3−150238号公報で開示された撥水ガラスは純水接触角が100度以下のものである。また、特開平6−340451号公報や特開平8−239242号公報で開示された撥水性ガラスは、広く使用されているものであるが、純水接触角が120度を超えているとは言えないものである。このように、撥水性被膜を有する材料と言っても、その純水接触角は120度を越えるものではなかった。
【0013】
一方、貝殻焼成カルシウムについての研究が進み、消毒効果や消臭効果さらには抗菌性を増大させる効果等があることは知られているが、特開2000−72610号公報によってもその他の応用例は少なく、まだまだ不明の点が多く、その特性が確認されているとは言い難い状況下にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の問題点を鋭意検討し、その課題解決するに鑑みたところ、その発明に至ったものであり、従来にはなかった撥水性、その保持性並びにコストを含めたその産業利用性は極めて大きいものである。
【0015】
すなわち、基材の最外表面に形成される含フッ素オリゴマーと貝殻焼成カルシウムを含む被膜であって、その純水接触角が120度以上である撥水性被膜である。
【0016】
また、その軟化温度が200〜400℃である含フッ素オリゴマーを用いる上述の撥水性被膜である。
【0017】
また、該被膜は第1層目、第2層目及び第3層目とからなり、被膜の第1層目の主体は貝殻焼成カルシウム、第2層目の主体はアルカリシリケート、第3層目の主体は含フッ素オリゴマーである上述の撥水性被膜である。
【0018】
また、該貝殻焼成カルシウムとして用いる貝殻は、ホタテ貝、アワビ、カキ及びウバガイから少なくとも1種類以上が選択されている上述の撥水性被膜である。
【0019】
また、該被膜の厚さが1〜300μmである上述の撥水性被膜である。
【0020】
さらに、上述の該撥水性被膜を、貝殻焼成カルシウム塗布工程、アルカリシリケート塗布工程、含フッ素オリゴマー塗布工程及び加熱工程のそれぞれを少なくとも1回以上有する撥水性被膜の形成方法である。
【0021】
さらにまた、含フッ素オリゴマー塗布工程は、含フッ素オリゴマーの軟化温度+100℃で処理する上述の撥水性被膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明による撥水性被膜は、純水接触角が120度以上の撥水性を有し、苛酷な使用条件においても長期間にわたって性能の変化しない撥水性を発現するという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
基材の最外表面に形成される含フッ素オリゴマーと貝殻焼成カルシウムを含む被膜であって、その純水接触角が120度以上である撥水性被膜である。基材の最外表面に形成されるとしたのは、本発明の撥水性がその効果を最大限に発揮するのが、基材の最外表面であるからである。当然ながら、単に物理的な基材の最外表面という意味に加え、撥水性を要求される表面であるという意味も含んでいる。フッ素オリゴマーを含むとしたのは、フッ素オリゴマーが有する基本的な撥水性に対するという特徴に基づくものである。また、貝殻焼成カルシウムを含むとしたのは、貝殻焼成カルシウムの特異な構造が有する基材とフッ素オリゴマーとの物理的・化学的結合性および付着性・親和性、そのものがもつ撥水性等に代表される特徴に基づくものである。
【0024】
本発明による撥水性被膜の純水接触角が120度以上としたのは、その撥水性が120度を超えると著しく撥水性が増すからである。より好ましくは、純水接触角が130度以上であり、さらに好ましくは135度以上である。なお、現時点の純水接触角の測定においては、150度近傍になると精度ある測定が難しくなるが、これは測定精度上の問題であり、本発明の本質とは異なる。純水接触角の測定は、JISR3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準じて行われる。
【0025】
含フッ素オリゴマーとは代表的なものとしては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン−パーフロオロアルコキシ−エチレン共重合樹脂(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)等が代表的なものとしてあげられるが、これらに限定されるものではない。これらを単独もしくは2種類以上のものを混合しても良いし、界面活性剤、分散剤等の添加物等を加えて用いても良い。アルコキシシラン化合物や含フッ素アルコキシシラン化合物なども添加しても良い。
【0026】
本発明で用いる貝殻焼成カルシウムとは、焼成前の主成分が炭酸カルシウムである貝殻を焼成することで、二酸化炭素を取り除く脱炭酸化が徐々に進むことにより得られる、酸化カルシウム(CaO)もしくは、酸化カルシウムと炭酸カルシウムの混在したものである。その貝殻焼成カルシウムの成分については、特に限定はないが、炭酸カルシウムの一部が酸化カルシウムに変換できれば良く、本発明においては、具体的には、貝殻の主成分である炭酸カルシウムと、それを焼成することにより得られる酸化カルシウム、もしくは、酸化カルシウムと炭酸カルシウムの混在したもの又はそれぞれの混合状態(酸化カルシウムと炭酸カルシウムを混合)で用いることが好ましい。炭酸カルシウムと酸化カルシウム、各成分の割合は焼成温度及び焼成時間により異なり、適宜、調整することができる。
【0027】
なお、本発明で述べる貝殻焼成カルシウムが、例えば従来の薬品から作られた酸化カルシウム、あるいは酸化カルシウムと炭酸カルシウムの混合物等とは全く異なることに注意しなければならない。すなわち、従来の薬品から作られた酸化カルシウム、あるいは酸化カルシウムと炭酸カルシウムの混合物等では所定の効果を得ることはできない。もちろん、貝殻焼成カルシウムに従来の薬品を添加することは構わないが、あくまで貝殻焼成カルシウムを有することが前提となる。
【0028】
なお、基材としては、熱伝導性、化学的安定性、機械的強度、耐久性等を始めとする要求される各種の使用条件を考慮して選択されるが、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、真鍮、ステンレススチールに代表される金属、金属合金、ガラスや陶磁器に代表されるセラミックスはもちろんのことサーメットや炭素材料、各種建築部材や車輌用部材、電子材料部材等、フッ素オリゴマーと貝殻焼成カルシウムを含む被膜が付着できるものであれば、何でも基材としての応用は可能である。また、板状でも、曲面形状でも、中空コイル状でも、さらには不織布を始めとする繊維状のものでも一般的に使用されているものであれば、その形状には限定されない。さらには、各種の材料を積層したものや複合したものでも良い。
【0029】
軟化温度が200〜400℃である含フッ素オリゴマーを用いることが好ましい。含フッ素オリゴマーの軟化温度が200℃未満であると、含フッ素オリゴマーが溶融しないので微粒子状態のまま付着するため、粒子が剥離しやすく、要求する撥水性が得られない。一方、軟化温度が400℃を超えると含フッ素オリゴマーが分解してしまい、実質的に撥水性皮膜としての用途をなしにくくなる。好ましくは、200〜380℃であり、さらに好ましくは280〜350℃である。ここで、いう軟化温度とはガラス転移点(Tg)と考えて良いものであり、その測定方法もガラス転移点(Tg)に準じる方法で良い。
【0030】
該被膜は第1層目、第2層目及び第3層目とからなり、被膜の第1層目の主体は貝殻焼成カルシウム、第2層目の主体はアルカリシリケート、第3層目の主体は含フッ素オリゴマーである撥水性被膜であることが好ましい。ここで、第1層目とは主に基材に接触している層、第2層目とは主に第1層の上にある層、第3層目とは主に第2層の上にある層をいう。第1層目の主体が貝殻焼成カルシウムであると、基材と複雑な表面を形成して、比表面積を増大させ、かつ堅牢な基材層を得ることができる。第2層目の主体はアルカリシリケートがそれ自身堅牢な被膜を形成することができるが、第1層目の貝殻焼成カルシウムは粉体でありカルシウム粒子間に該アルカリシリケートが浸入して粉体同志の結合をより強化させることができる。第3層目の主体は含フッ素オリゴマーであることにより、複雑形状の貝殻焼成カルシウムとアルカリシリケートの被膜の表面に軟化溶融して接着し、均一に表面を含フッ素オリゴマー層で覆うことにより、良好な撥水性を得ることができる。場合によっては、第2層目のアルカリシリケート層を割愛できるが、第2層目にアルカリシリケートを中間物として混在させると、さらに良好な撥水性被膜となるので、前述した3層構造がより好ましい。
【0031】
各層の主体としたのは、必ずしも純粋な上記物質でなくても良く、多少の添加物は容認できるためである。添加物の混在は、市場の要求物性により異なるが、概ね20%以下が望ましい。本構成はマクロ的にみた場合であり、ミクロ的にみた場合は異なる場合がある。すなわち、ミクロ的にみた場合には、基材の上に直接アルカリシリケートが配されているところがあるし、貝殻焼成カルシウムと貝殻焼成カルシウムの間にアルカリシリケートが入り込んでいるところもある。しかし、マクロ的にみた場合には、概ね上述の構成である。なお、第2層目の上に再び貝殻焼成カルシウムを主体的に配した第3層目を有することも可能である。この場合、第4層目としてアルカリシリケート主体の層を配することもでき、またアルカリシリケートと焼成貝殻カルシウムを適宜に混合した被膜でも可能であるが、必ずしも限定されるものではない。但し、いずれの場合においても、最外層は含フッ素オリゴマーである。
【0032】
アルカリシリケートとは一般的なアルカリ金属珪酸塩を言い、アルカリはリチウム、ナトリウム、カリウムを代表とするアルカリ金属から選ばれることが好ましい。より好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウムのアルカリ金属である。リチウム、ナトリウム、カリウム以外のアルカリ金属でも良いが、その要求特性に対してコストが高くなりすぎかつその特性が偏るので、リチウム、ナトリウム、カリウムの単独又はそれを混合したアルカリ金属が用いられる。なお、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリシリケートの中でも、リチアシリケートがさらに好ましい。
【0033】
含フッ素オリゴマー、貝殻焼成カルシウム及びアルカリシリケート以外の物質としては、一般的な添加物として無機粉末や鉱物性粉末を使用することも可能である。例えば、無機粉末としては、例えば鉱物としてタルク、炭酸カルシウム、けいそう土、バーミュキュライト、ヒル石、ゼオライト、弁柄、活性白土、酸化物として酸化チタン、酸酸化アルミ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、ムライト、酸化コバルトや焼成酸化物顔料等があり、、また炭化物として炭化ケイ素、炭化ホウ素があり窒化物として、窒化ケイ素、窒化アルミ、窒化ホウ素があり、炭素として等方性カーボン、グッラシーカーボン、カーボンナノチューブ、フラーレン等がある。
【0034】
また液体として例えば、金属アルコキシドとしてはナトリウム、リチウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、インジウム、シリコン、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、スズや水酸化物や水酸化物ゾルとしてシリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、セリウムゾル、チタン酸ゾル、スズ酸ゾル、アンチモンゾル、インジウムゾル、イットリウムゾル、ハフニウムゾル等があり、これらに限定されるものではない。
【0035】
貝殻焼成カルシウムとして用いる貝殻はホタテ貝、アワビ、カキ、及びウバガイから少なくとも1種類以上が選択されている親水性被膜であることが好ましい。もちろん、本発明で用いられる貝殻としては、焼成前の成分が炭酸カルシウムを主成分として含有する貝殻であれば特に限定はなく、具体的には、赤貝、アサリ、ホタテ貝、アワビ、カキ、ウバガイ(ホッキ貝)、イモガイ、サクラガイ、サザエ、シジミ、タイラギ、タニシ、トリガイ、ハマグリ、バカガイ等が用いられる。しかし、特に好ましくは、ホタテ貝、アワビ、カキ、及びウバガイの貝殻である。
【0036】
焼成カルシウムを製造する場合、通常500〜1200℃の温度範囲にて焼成する。好ましくは600〜1100℃の温度範囲である。焼成時間については、焼成温度により異なるが、前述の焼成カルシウムの好ましい割合にするために、適宜、調整することができる。
【0037】
貝殻焼成カルシウムは、通常、それ自身を粉砕したものを使用する。粉砕の際の粒径は、焼成処理や加工方法により異なり、制限はないが、0.1〜100μmに粉砕されたものが用いられ、好ましくは1〜70μm、さらに好ましくは3〜20μmである。
【0038】
本発明で使用する貝殻焼成カルシウムの具体的な例としては、例えば、貝殻としてホタテ貝を用い、その高温焼成物の粉砕品(商品名CAI、日本天然素材株式会社製)やホタテ貝の低温焼成物の粉砕品(商品名CAV、日本天然素材株式会社製)がある。他にも、例えばシェルパウダー社、ステップ社、チャフローズ社を始めとする貝殻焼成カルシウムの生産メーカーがあるが、上述した生産メーカーに限定はされない。
【0039】
撥水性被膜の厚さは1〜300μmであることが好ましい。撥水性被膜の厚さを1〜300μmとしたのは、該親水性被膜の厚さが1μm未満であると、撥水性の付与効果が充分でないという問題が発生するからである。一方、撥水性被膜の厚さが300μmを越えると、表面平滑性の他、クラックや剥離発生の問題が発生する。より好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは10〜100μmである。ここで、上述の値は平均的な値を示している。貝殻焼成カルシウムは一般的には0.1〜100μmの大きさを有し、かつ複雑な形状をしているため、アルカリシリケートのみでは被膜の厚さを均一とすることができないためである。前述したように、撥水性被膜の厚さは一様ではないことが多いが、本発明の撥水性被膜での最薄部の厚さは上述の値の約1割程度である。なお、撥水性被膜は、1回の塗布で上述した主たる2層又は3層を形成することも可能であるし、複数回に分けた塗布で2層以上からなる多層膜を形成することも可能である。
【0040】
撥水性被膜を、貝殻焼成カルシウム塗布工程、含フッ素オリゴマー塗布工程及び焼成工程のそれぞれを少なくとも1回以上有する撥水性被膜の形成方法であることが好ましい。ここで、貝殻焼成カルシウム塗布工程、含フッ素オリゴマー塗布工程及び焼成工程のそれぞれを少なくとも1回以上有するとしたのは、それぞれの工程が必須であるためであるが、必ずしも1回のみとするものではない。例えば、焼成工程を2回以上に分けることも可能である。また、アルカリシリケート塗布工程や乾燥工程を入れることも可能である。
【0041】
軟化温度が200〜400℃である含フッ素オリゴマーを用いることが好ましいことは前述したが、含フッ素オリゴマー塗布工程後の後処理としては、含フッ素オリゴマーの軟化温度+100℃で処理する撥水性被膜の形成方法であることが好ましい。含フッ素オリゴマーの軟化温度よりも大幅に低い温度、例えば20℃低い温度で処理した場合、含フッ素オリゴマーの付着性が十分ではない。一方、含フッ素オリゴマーの軟化温度+100℃を超える温度で処理すると、含フッ素オリゴマーの分解する等、含フッ素オリゴマーに基づく問題が発生する。好ましくは、含フッ素オリゴマーの軟化温度+50℃、さらに好ましくは含フッ素オリゴマーの軟化温度+30℃である。
【0042】
これらの含フッ素オリゴマーは微粉末からなり、粉体として静電塗装などで焼付け塗装したり、また液体としてフッ素オリゴマーの微粉末を界面活性剤等で懸濁させた水溶性ディスパージョン(懸濁液)や、フッ素系溶剤や有機系溶媒にディスパージョンさせた溶液として塗布することができる。また、これらの溶液に他の添加物を加えたり、濃度を適宜調製して、多様な塗布工程で被膜を形成できる。これらの水溶性ディスパージョンは一般にフッ素塗料として市販されており、これらの濃度を適宜調製して、スプレー法、刷毛塗り、ローラーコート、スクリーン印刷、浸漬法等の多様な塗布工程で成膜できる。含フッ素オリゴマーの特性として、通常は粉体であり、そのままでは付着しないため、高温で軟化させて基材と密着させる方法が一般的である。
【0043】
貝殻焼成カルシウムとその他の添加物、アルカリシリケートとその他の添加物、含フッ素オリゴマーとその他の添加物から生成される撥水性被膜の形成方法であることが好ましい。薬液の基板上への塗布は、浸漬法、スプレー法、ローラーコート法、フローコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗り等の方法により適宜選択して行う。
【0044】
本発明の被膜を形成するのに用いられる固形分以外の成分の原料は、焼成処理により、貝殻焼成カルシウムの粒子同士や基材との接着をより強固にさせる効果があり、実質的に被膜を形成しうる金属化合物であれば良く、Si、Al、Zr、Hf、Zn、Fe、B、Ti、Sn、Ce、Ni、Mg、Ca、Sb等の化合物であり、一般的には当該金属の塩化物、オキシ塩化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物、水酸化物ゾル、アルコキシ化合物またはこれらの水和物もしくは加水分解物が挙げられる。これらおよびこれら以外の金属から選ばれる2種以上を同時に使用することも可能である。以下に主な金属、ガラスについて具体的な化合物を挙げるが他の金属の場合においても同様の対応する化合物が一般的に使用できる。
【0045】
濃度調節用の溶媒には水もしくはアルコール類・一般有機溶媒を用いるのがよく、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコール、酢酸エステル、酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、トリフロロ酢酸、メタンスルフォン酸、低級炭化水素、脂肪族、芳香族等の一般溶剤もしくはフッ素系溶剤が例示できる。また、これらの2種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0046】
本発明の被覆方法においては基材の表面に各種の前処理を施すことも有用である。機械研磨、ブラスト処理、電解研磨、酸洗浄、アルカリ洗浄、水洗浄あるいは有機溶剤による脱脂洗浄などはいずれの金属に対しても有効である。各種方法により形成された塗膜は、50〜200℃で5分〜2時間乾燥および仮焼成し、焼成炉により150〜500℃で0.5〜10時間焼成することにより優れた撥水性表面を有する材料を得ることができる。焼成温度・焼成時間の上限はとくに限定する必要はないが、一般的なアルミニウム、銅、真鍮、ステンレス、鉄、ガラス、炭素材料を用いる場合においては、500℃以下が好ましい。また基材は金属、セラミックス、ガラス、カーボン等が適用でき、微粉末やウィスカー、それらの基材の形状として平板、繊維、不織布、コイル、パイプ等の機能性を有する形状についてもそれ自身の保有する機能を損なわない温度・時間を選択したり、また雰囲気ガスを調整して500℃以上でも焼成可能である。
【0047】
さらには、基材となる材料を選択することにより、他の機能を付加することも可能であり、防音性、防犯性、断熱性、電波吸収性・透過性を始めとしてその応用が可能である。例えば、金属性の不織布に本発明の被膜を構成すると、吸音性が増加する。しかも、不織布のみでは吸音性を高めることが難しいとされている低周波領域例えば1kHz以下での吸音性が高めることができる。これまでは、高周波領域での吸音性を高めることはできていたが、低周波領域での吸音性を高めることができなかったので、この効果は絶大である。
[実施例1]
幅が100mm、長さが100mmで厚さが0.1mmに切り出した市販のアルミニウム平板(合金No#1070)を基材とした。第1層としてホタテ貝を約800℃で焼成した貝殻焼成カルシウム(日本天然素材株式会社製)を用いた。この貝殻焼成カルシウムの粒子径を約3μmに粉砕した後、貝殻焼成カルシウム15wt%にノニオン系界面活性剤5wt%、イソプロピルアルコールを80wt%添加してアルミナボールミルで約4時間分散させて貝殻焼成カルシウムの懸濁液を調製した。この懸濁溶液をエタノールで固形分濃度3wt%に調製したものを塗布液とし、これの入った浸漬用バスに上記のアルミニウム基板を室温で約3分間浸漬した後、引き上げた。この後、120℃で1時間乾燥させた。この操作で貝殻焼成カルシウムの膜厚が14μmの被膜を得た。
【0048】
次に、撥水膜として含フッ素オリゴマー(商品名D−1(ダイキン製)、軟化温度:327℃)のディスパージョン水溶液を濃度5%に調製して、この約23℃の溶液の入った浸漬用バスの中に約5分間浸漬した後、引き上げた。120℃で約1時間乾燥させた後、350℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の合計膜厚が約17μmの被膜を得た。
【0049】
協和界面科学(株)自動接触角計CA−Z型を用い、純水を10μL滴下してこの被膜の純水接触角を測定したところ、その純水接触角は122度であった。
【0050】
被膜の組成分析は、複雑な基材では解析が困難なため、ガラス板に各層を実施例1と同一工程で成膜処理した被膜を同等組成とみなし、その一部を剥がし取り、その被膜中のアルカリシリケートと貝殻焼成カルシウムの含有量をICP発光分析法、蛍光X線分析により、また撥水膜はFT−IR、1000度までのTG−DTAにより調べたところ、貝殻焼成カルシウムは約75wt%、その他25wt%は、含フッ素オリゴマー及びその他の有機成分であった。以上の結果を表1に示す(以下、実施例2乃至8も併せて記載)。
【0051】
【表1】

さらに、被覆処理を施した試料について次の評価試験を行い、被膜の撥水性と化学的安定性・耐久性を確認した。被膜の耐薬品性(耐酸性、耐アルカリ性)は基材の重量変化を測定した。耐久性試験は各試験前と試験後の純水接触角を測定して、撥水性の劣化程度を調べた。
【0052】
(1) 耐酸性試験: ガラス製の1Lビーカーに0.5%塩酸溶液をいれ、その中に試料を浸漬し、室温で24時間放置した。時間の経過後試料を純水により洗浄し、100℃で2時間乾燥させた。試料の重量変化%((試験前−試験後)/試験前×100)が2%未満を○、2%以上〜5%未満を△、5%以上減量するものを×とした。
(2) 耐アルカリ性試験: ガラス製の1Lビーカーに0.5%NaOH溶液をいれその中に試料を浸漬し、室温で24時間放置した。時間の経過後試料を流水により洗浄し、試料の重量変化((試験前−試験後)/試験前×100)が2%未満を○、2%以上〜5%未満を△、5%以上減量するものを×とした。
【0053】
(3)撥水性試験: 室温で、試料の表面にマイクロシリンジで10μLの蒸留水を滴下し、5秒後における水滴の接触角を協和界面科学(株)自動接触角計CA−Z型を用いこの被膜の純水接触角を測定したところ、その純水接触角は128度であった。なお、純水接触角が120度以上を○、90度以上120度未満を△、90度未満を×とした。
(4)耐久性試験 撥水性の加速試験として被膜の煮沸浸漬試験を行った。サンプルを沸騰した蒸留水に24時間浸漬し、槽より取り出し、ついで80℃で2時間乾燥させ、室温に冷却した上で外観変化及び前記の撥水性試験により評価を行った。
【0054】
室温で、試料の表面にマイクロシリンジで10μLの蒸留水を滴下し、5秒後における水滴の接触角を実施例1と同様の操作で測定した。純水の接触角が120度以上を○、90度以上120度未満を△、90度未満を×とした。
それぞれの測定結果を表2に示す(以下、実施例2乃至8も併せて記載)。被膜の耐酸性、耐アルカリ性、撥水性及び耐久性試験において極めて優れた特性を有することは明白である。
【0055】
【表2】

[実施例2]
幅が50mm、長さが100mmで厚さが1mmに切り出した市販のアルミニウム不織布を基材とした。第1層としてホタテ貝を約800℃で焼成した焼成カルシウム(日本天然素材株式会社製)を用いた。この貝殻焼成カルシウムの粒子径を約20μmに粉砕した後、貝殻焼成カルシウム10wt%にノニオン系界面活性剤1wt%、ヒドロキシプロピルセルロース2%、水を87wt%添加してアルミナボールミルで約4時間分散混合させて貝殻焼成カルシウムの懸濁液を調製した。この懸濁溶液を純水で固形分濃度5wt%に調製したものを塗布液とし、これの入った浸漬用バスに上記のアルミニウム不織布を室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。この後、150℃で40分間乾燥させた。この操作で貝殻焼成カルシウムの膜厚が19μmを得た。
【0056】
次に、上記コートをしたアルミニウム不織布の上に、第2層としてSiO2/K2Oのモル比が3/1のカリムシリケートゾルを固形分濃度8%水溶液に調製した約23℃の溶液の入った浸漬用バスの中に約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに350℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約23μmの被膜を得た。
【0057】
さらに第3層の撥水膜として含フッ素オリゴマー:セフラルルーブI(セントラル硝子製、軟化温度:融点340℃)の10wt%のディスパージョン水溶液を調製して、スプレー塗布(ガン圧力3kg/cm2、吐出量60g/min)した後、150℃で60分乾燥後、380度1時間焼成したところ、
約41μmの被膜を得た。
【0058】
協和界面科学(株)自動接触角計CA−Z型を用い、純水を10μL滴下してこの被膜の純水接触角を測定したところ、その純水接触角は146度であった。
【0059】
被膜の一部を剥がし取り、その被膜中の貝殻焼成カルシウム、アルカリシリケート、含フッ素オリゴマーの含有量をICP発光分析法、蛍光X線分析、FT−IR、TG−DTAにより調べたところ、貝殻焼成カルシウムは約85wt%アルカリシリケートは約10wt%、含フッ素オリゴマーで約5wt%であった。
【0060】
さらに、実施例1で行ったのと同様の評価試験を行い、膜の撥水性と化学的安定性を確認した。膜の撥水性性と化学的安定性とも、極めて優れた特性を有することは明白である。また、本発明で得られた不織布でJIS A1405に基づく吸音性試験を実施したところ、約800Hzの近傍で吸音率が0.98を超える効果が認められた。
【0061】
[実施例3]
内径10mm、長さが300mmで肉厚が0.8mmの市販のステンレスパイプ(SUS304)を基材とした。第1層としてホタテ貝を約1100℃で焼成した焼成カルシウム(日本天然素材株式会社製)を用いた。この貝殻焼成カルシウムの粒子径を約10μmに粉砕した後、貝殻焼成カルシウム20wt%にノニオン系界面活性剤5wt%、イソプロピルアルコールを75wt%添加してアルミナボールミルで約4時間分散混合させて貝殻焼成カルシウムの懸濁液を調製した。この懸濁溶液をエタノールで固形分濃度5wt%に調製したものを塗布液とし、これの入った浸漬用バスに上記のステンレスパイプを室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。この後、150℃で40分間乾燥させた。この操作で貝殻焼成カルシウムの膜厚が4μmの被膜を得た。
【0062】
次に、上記コートをした該ステンレスパイプに、第2層としてSiO2/Na2Oのモル比が3/1のナトリウムシリケートゾルを固形分濃度3%水溶液に調製した約25℃の溶液の入った浸漬用バスの中に約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに350℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約8μmの被膜を得た。
【0063】
さらに第3層の撥水膜として含フッ素オリゴマー:ネオフロンN−D4(ダイキン製、軟化温度:275℃)の7.5wt%のディスパージョン水溶液を調製して、約25℃の該ディスパージョン水溶液の入った浸漬用バスの中に室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに320℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約14μmの被膜を得た。
【0064】
協和界面科学(株)自動接触角計CA−Z型を用い、純水を10μL滴下してこの被膜の純水接触角を測定したところ、その純水接触角は133度であった。
【0065】
被膜の一部を剥がし取り、その被膜中の貝殻焼成カルシウム、アルカリシリケート、含フッ素オリゴマーの含有量をICP発光分析法、蛍光X線分析、FT−IR、TG−DTAにより調べたところ、貝殻焼成カルシウムは約10wt%アルカリシリケートは約75wt%、含フッ素オリゴマーで約15wt%であった。
【0066】
さらに、実施例1で行ったのと同様の評価試験を行い、膜の撥水性と化学的安定性を確認した。膜の撥水性と化学的安定性とも、極めて優れた特性を有することは明白であるとも、極めて優れた特性を有することは明白である。
[実施例4]
幅が50mm、長さが100mmで厚さが0.1mmに切り出した市販の銅板を基材とした。第1層としてホタテ貝を約900℃で焼成した焼成カルシウム(日本天然素材株式会社製)を用いた。この貝殻焼成カルシウムの粒子径を約15μmに粉砕した後、貝殻焼成カルシウム20wt%にノニオン系界面活性剤5wt%、イソプロピルアルコールを75wt%添加してアルミナボールミルで約4時間分散混合させて貝殻焼成カルシウムの懸濁液を調製した。この懸濁溶液をイソプロピルアルコールで固形分濃度3wt%に調製したものと、コロイダルシリカ(日産化学IPA―ST)4%溶液を体積比で1:1に混合したものを塗布液とし、この入った浸漬用バスに上記のアルミニウム基板を室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。この後、120℃で60分間乾燥させた。この操作で貝殻焼成カルシウムの膜厚が8μmの被膜を得た。
【0067】
次に、上記コートをした銅板の上に、第2層としてSiO2/Na2Oのモル比が4.0/1のナトリウムシリケートゾルを固形分濃度10%水溶液に調製した約25℃の溶液の入った浸漬用バスの中に約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに350℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約15μmの被膜を得た。
【0068】
さらに第3層の撥水膜として含フッ素オリゴマー:AD−2E2(ダイキン製、軟化温度:320℃)を2.5wt%のディスパージョン水溶液を調製して、約25℃の該ディスパージョン水溶液の入った浸漬用バスの中に室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。120℃で約1時間乾燥後、さらに400℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約17μmの被膜を得た。協和界面科学(株)自動接触角計CA−Z型を用い、純水を10μL滴下してこの被膜の純水接触角を測定したところ、その純水接触角は121度であった。
【0069】
被膜の一部を剥がし取り、その被膜中の貝殻焼成カルシウム、アルカリシリケート、含フッ素オリゴマーの含有量をICP発光分析法、蛍光X線分析、FT−IR、TG−DTAにより調べたところ、貝殻焼成カルシウムは約30wt%、シリカは40wt%、アルカリシリケートは約20wt%、含フッ素オリゴマーで約10wt%であった。
【0070】
さらに、実施例1で行ったのと同様の評価試験を行い、膜の撥水性と化学的安定性を確認した。膜の撥水性と化学的安定性とも、極めて優れた特性を有することは明白である。
[実施例5]
100mm×100mm厚さ2mmのソーダライムガラスを基材とした。第1層としてホタテ貝を約900℃で焼成した焼成カルシウム(日本天然素材株式会社製)を用いた。この貝殻焼成カルシウムの粒子径を約1.0μmに分級した後、貝殻焼成カルシウム10wt%に酸化チタン粉末(石原産業製)4%ノニオン系界面活性剤5wt%、イソプロピルアルコールを75wt%添加してアルミナボールミルで約4時間分散混合させて貝殻焼成カルシウムと酸化チタンの懸濁液を調製した。
【0071】
この懸濁溶液をエタノールで固形分濃度1.5wt%に調製したものを塗布液とし、これの入った室温の塗布液を浸漬用バスに上記のソーダライムガラス基板を室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。この後、150℃で40分間乾燥させた。銅パイプの内面の膜厚は表面の膜厚とほぼ同等であることを確認し、表面の膜厚を測定した、この操作で貝殻焼成カルシウムの膜厚が3.5μmの被膜を得た。
【0072】
次に、上記コートをしたソーダライムガラスの表面と内面に、第2層としてSiO2/Li2Oのモル比が4.5/1のリチウムシリケートゾルを固形分濃度2%水溶液に調製した約25℃の溶液の入った浸漬用バスの中に約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに350℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約4.0μmの被膜を得た。
【0073】
さらに第3層の撥水膜として含フッ素オリゴマー:セフラルルーブI(セントラル硝子製、軟化温度:330℃)の2wt%のジクロロメタンのディスパージョン溶液を調製した。
【0074】
第2層まで成膜したソーダライムガラス基板を385℃に加熱した電気炉に20分間保持して、取り出し2秒後に該ディスパージョン溶液を熱スプレー塗布(ガン圧力3kg/cm2、吐出量60g/min)した。この結果、被膜の膜厚が約4.1μmの被膜を得た。
【0075】
協和界面科学(株)自動接触角計CA−Z型を用い、純水を10μL滴下してこの被膜の純水接触角を測定したところ、その純水接触角は131度であった。
【0076】
被膜の一部を剥がし取り、その被膜中の貝殻焼成カルシウム、アルカリシリケート、含フッ素オリゴマーの含有量をICP発光分析法、蛍光X線分析、FT−IR、TG−DTAにより調べたところ、貝殻焼成カルシウムは約50wt%、酸化チタンは20wt%、アルカリシリケートは約28wt%、含フッ素オリゴマーで約2wt%であった。
【0077】
さらに、実施例1で行ったのと同様の評価試験を行い、膜の撥水性と化学的安定性を確認した。膜の撥水性と化学的安定性とも、極めて優れた特性を有することは明白である。
[実施例6]
外径4mm、長さが200mmで肉厚が0.5mmの市販の銅パイプを基材とした。第1層としてホタテ貝を約900℃で焼成した焼成カルシウム(日本天然素材株式会社製)と針状のγ-酸化鉄を用いた。この貝殻焼成カルシウム8wt%に針状γ-酸化鉄16wt%とノニオン系界面活性剤5wt%、イソプロピルアルコールを71wt%添加してアルミナボールミルで約8時間分散混合させて貝殻焼成カルシウムと酸化鉄の懸濁液を調製した。この懸濁溶液をエタノールで固形分濃度8wt%に調製したものを塗布液とし、これの入った浸漬用バスに上記の銅パイプを室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。この後、150℃で40分間乾燥させた。この操作で貝殻焼成カルシウムの膜厚が24μmを得た。
【0078】
次に、上記コートをした銅パイプの上に、第2層としてSiO2/Li2Oのモル比が7.5/1のリチウムシリケートゾルを固形分濃度7.5%水溶液に調製した室温で該溶液の入った浸漬用バスの中に約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに350℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約30μmの被膜を得た。
【0079】
さらに第3層の撥水膜として含フッ素オリゴマー:Hostaflon(Hoechst製、軟化温度:310℃)を5wt%のディスパージョン水溶液を調製して、約25℃の該ディスパージョン水溶液の入った浸漬用バスの中に室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに350℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約35μmの被膜を得た。
【0080】
協和界面科学(株)自動接触角計CA−Z型を用い、純水を10μL滴下してこの被膜の純水接触角を測定したところ、その純水接触角は146度であった。
【0081】
被膜の一部を剥がし取り、その被膜中の貝殻焼成カルシウム、アルカリシリケート、含フッ素オリゴマーの含有量をICP発光分析法、蛍光X線分析、FT−IR、TG−DTAにより調べたところ、貝殻焼成カルシウムは約30wt%、酸化鉄が約60wt%、アルカリシリケートは約5wt%、含フッ素オリゴマーで約5wt%であった。
【0082】
さらに、実施例1で行ったのと同様の評価試験を行い、膜の撥水性と化学的安定性を確認した。膜の撥水性と化学的安定性とも、極めて優れた特性を有することは明白である。
[実施例7]
幅が50mm、長さが100mmで厚さが0.1mmに切り出した市販の銅板を基材とした。第1層としてホタテ貝を約900℃で焼成したこの貝殻焼成カルシウム(日本天然素材株式会社製)の粒子径を約3μmに粉砕した後、貝殻焼成カルシウム17wt%にカーボンナノチューブ(昭和電工製)3wt%ノニオン系界面活性剤5wt%とイソプロピルアルコールを75wt%添加してアルミナボールミルで約16時間分散混合させて貝殻焼成カルシウムの懸濁液を調製した。この懸濁溶液をエタノールで固形分濃度10wt%に調製したものを塗布液とし、この23℃溶液の入った浸漬用バスに上記の銅基板を室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。この後、150℃で40分間乾燥させた。この操作で貝殻焼成カルシウムとカーボンナノチューブの混合の膜厚が11μmの被膜を得た。
【0083】
次に、上記コートをした銅板の上に、第2層としてSiO2/Na2Oのモル比が3/1のナトリウムシリケートゾルを固形分濃度5%水溶液に調製した約23℃の溶液の入った浸漬用バスの中に約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに350℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約15μmの被膜を得た。
【0084】
さらに第3層の撥水膜として含フッ素オリゴマー:N−D4(ダイキン製、軟化温度:275℃)の15wt%のディスパージョン水溶液を調製して約25℃の該ディスパージョン水溶液の入った浸漬用バスの中に室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに330℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約25μmの被膜を得た。
【0085】
協和界面科学(株)自動接触角計CA−Z型を用い、純水を10μL滴下してこの被膜の純水接触角を測定したところ、その純水接触角は135度であった。
【0086】
被膜の一部を剥がし取り、その被膜中の貝殻焼成カルシウム、アルカリシリケート、含フッ素オリゴマーの含有量をICP発光分析法、蛍光X線分析、FT−IR、TG−DTAにより調べたところ、貝殻焼成カルシウムは約35wt%、カーボンナノチューブが約5wt%、アルカリシリケートは約35wt%、含フッ素オリゴマーで約25wt%であった。
【0087】
さらに、実施例1で行ったのと同様の評価試験を行い、膜の撥水性と化学的安定性を確認した。膜の撥水性と化学的安定性とも、極めて優れた特性を有することは明白である。
[実施例8]
幅が100mm、長さが100mmで厚さが1mmに切り出した市販のアルミニウム不織布を基材とした。第1層としてホタテ貝を約900℃で焼成した焼成カルシウム(日本天然素材株式会社製)を用いた。この貝殻焼成カルシウムの粒子径を約20μmに粉砕した後、この貝殻焼成カルシウム3wt%に2μmの天然ゼオライト18wt%ノニオン系界面活性剤3wt%、イソプロピルアルコールを76wt%添加してアルミナボールミルで約6時間分散混合させて貝殻焼成カルシウムの懸濁液を調製した。この懸濁溶液をエタノールで固形分濃度8wt%に調製したものを塗布液とし、これの入った浸漬用バスに上記のアルミニウム基板を室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。この後、150℃で40分間乾燥させた。この操作で貝殻焼成カルシウムの膜厚が12μmの被膜を得た。
【0088】
次に、上記コートをしたソーダライムガラス基板上に、第2層としてSiO2/K2Oのモル比が3/1のカリウムシリケートゾルを固形分濃度2.5%水溶液に調製した約30℃の溶液の入った浸漬用バスの中に約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに350℃で1時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約13.8μmの被膜を得た。
【0089】
さらに第3層の撥水膜として含フッ素オリゴマー:セフラルルーブI(セントラル硝子製、軟化温度:340℃)の10wt%のディスパージョン水溶液を調製して、約25℃の該ディスパージョン水溶液の入った浸漬用バスの中に室温で約5分間浸漬した後、引き上げた。150℃で約1時間乾燥後、さらに380℃で0.5時間の加熱処理を行った。この結果、被膜の膜厚が約28.8μmの被膜を得た。
【0090】
協和界面科学(株)自動接触角計CA−Z型を用い、純水を10μL滴下してこの被膜の純水接触角を測定したところ、その純水接触角は152度であった。
【0091】
被膜の一部を剥がし取り、その被膜中の貝殻焼成カルシウム、アルカリシリケート、含フッ素オリゴマーの含有量をICP発光分析法、蛍光X線分析、FT−IR、TG−DTAにより調べたところ、貝殻焼成カルシウムは約7wt%、ゼオライトは45wt%、アルカリシリケートは約13wt%、含フッ素オリゴマーで約35wt%であった。
【0092】
さらに、実施例1で行ったのと同様の評価試験を行い、膜の撥水性と化学的安定性を確認した。膜の撥水性と化学的安定性とも、極めて優れた特性を有することは明白である。
[実施例9]
実施例2に準じ、その被膜化のための工程を2度繰り返した。その結果、基材とするアルミニウム不織布の上に6層構造を有する被膜物質ができたが、特に問題は見出されなかった。すなわち、この物質の純水接触角は150度であり、耐酸性、耐アルカリ性、耐久性、外観とも実施例2で得られた結果とほぼ同様であった。なお、合計の膜厚は約40μmであった。
[実施例10]
実施例9に準じ、その被膜化のための工程を何度も度繰り返すことにより、基材とするアルミニウム不織布の上に合計の膜厚が約280μmを有する被膜物質ができたが、特に問題は見出されなかった。すなわち、この物質の純水接触角は148度であり、耐酸性、耐アルカリ性、耐久性、外観とも実施例9で得られた結果とほぼ同様であった。
[比較例1]
幅が50mm、長さが100mmで厚さが0.1mmに切り出したアルミニウム平板(合金No#1070)を基材とした。実施例1に条件に準じて製作したが、貝殻焼成カルシウムのみをコートし、アルカリシリケートも含フッ素オリゴマーを用いなかった。
【0093】
この場合の純水接触角は73度であり、撥水膜ではなく、耐薬品性、耐久性、外観も劣るものであった。
[比較例2]
貝殻焼成カルシウムのみをコートし、含フッ素オリゴマーやアルカリシリケートの代わりに酸化チタン被膜を付与した以外は実施例2に準じて製作した。その結果は、接触角が22度であり、撥水性被膜とは全く言えないものであった。
[比較例3]
含フッ素オリゴマー:セフラルルーブI(セントラル硝子製、軟化温度:340℃)の10wt%のディスパージョン水溶液を調製のみの被膜を付与した以外は、実施例2に準じて製作した。その結果は、純水接触角は119度であったが、耐酸性は×、耐アルカリは×、耐久性△であった。
[比較例4]
実施例1に準じて行ったが、加熱処理工程の処理温度を510℃としたところ、耐薬品性(酸、アルカリ)は○だったが、純水接触角は34度で撥水性は×であった。また、アルミ基板が変形し、耐久性は劣った。
[比較例5]
実施例1に準じて行ったが、フッ素オリゴマーの処理を480℃で行ったところ、フッ素オリゴマーが揮発・分解し、撥水性が発現しない問題(接触角45度)が発生した。
[比較例6]
実施例1に準じて行ったが、フッ素オリゴマーの処理を200℃で行ったところ、耐酸性、耐アルカリ性及び耐久性で問題が発生した。SEM観察を行ったところ、フッ素オリゴマーが定着しておらず、純水接触角も86度で撥水膜にはならなかった。
[比較例7]
貝殻焼成カルシウムを0.5%、天然ゼオライトを20%とすること以外は、実施例8に準じた。その結果、得られた被膜の純水接触角は82度であり、撥水性被膜とは言えなかった。
[比較例8]
実施例9に準じ、その被膜化のための工程を何度も度繰り返すことにより、基材とするアルミニウムの上に多層性被膜を形成した。しかし、合計の膜厚が約320μmを有する厚さの多層膜位から、純水接触角は118度であったが、基材が剛直化して加工性が極端に劣り、この多層性被膜をSEMで観察したところ不織布の目詰まりが著しく、被膜の一部にクラックが発生して部分的に剥離を生じていることが分かった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の最外表面に形成される含フッ素オリゴマーと貝殻焼成カルシウムを含む被膜であって、その純水接触角が120度以上であることを特徴とする撥水性被膜。
【請求項2】
その軟化温度が200〜400℃である含フッ素オリゴマーを用いることを特徴とする請求項1に記載の撥水性被膜。
【請求項3】
該被膜は第1層目、第2層目及び第3層目とからなり、被膜の第1層目の主体は貝殻焼成カルシウム、第2層目の主体はアルカリシリケート、第3層目の主体は含フッ素オリゴマーであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の撥水性被膜。
【請求項4】
該貝殻焼成カルシウムとして用いる貝殻は、ホタテ貝、アワビ、カキ及びウバガイから少なくとも1種類以上が選択されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の撥水性被膜。
【請求項5】
該被膜の厚さが1〜300μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の撥水性被膜。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の該撥水性被膜を、貝殻焼成カルシウム塗布工程、アルカリシリケート塗布工程、含フッ素オリゴマー塗布工程及び加熱工程のそれぞれを少なくとも1回以上有することを特徴とする撥水性被膜の形成方法。
【請求項7】
含フッ素オリゴマー塗布工程は、含フッ素オリゴマーの軟化温度+100℃で処理することを特徴とする請求項6に記載の撥水性被膜の形成方法。


【公開番号】特開2007−308603(P2007−308603A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139363(P2006−139363)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】