説明

操作子装置の取り付け構造

【課題】螺着固定可能な取り付け角度の範囲を広くし、楽器本体の取付部に応じた取り付け角度にて操作子装置を取り付けられるようにする。
【解決手段】操作子装置はホイールとステイとを有して一体的に構成され、パネルに被取付部Sが螺着固定されることで楽器本体に取り付けられる。被取付部Sにおいて、板状部24の取付部当接面25の反対側に凸部26が一体に設けられ、板状部24から凸部26にかけて締結用貫通穴27が形成される。ボス11の先端面12に取付部当接面25を当接させ、締結用貫通穴27を通じてボス11のネジ穴13にネジ30を下方から螺合する。締結用貫通穴27は、ネジ30の軸部33が挿通可能で且つ頭部31が挿通不能な大きさである。凸部26は下方の凸の凸曲面(例えば柱面)である。座面32は凸部26に対して接触線L1にて線接触状態で当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器本体に取り付けられる操作子装置の取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1〜3に示されるように、楽器本体に取り付けられるホイール操作子やジョイスティック等の操作子装置が知られている。従来におけるこの種の操作子装置の楽器本体への取り付け構造を説明する。
【0003】
図5は、従来の操作子装置の取り付け構造を示す模式図である。操作子装置90は、操作子95及びステイ91を有して一体的に構成される。楽器本体のパネル94からボス93が垂下形成され、ボス93の下面に操作子装置90が取り付けられる。その際、ボス93の下面である先端面93aにステイ91を当接させ、ステイ91の不図示の貫通穴を通じて、ボス93に形成された不図示の取付穴(ネジ穴)にネジ92を下方から螺合する。ネジ92の頭部の座面92aがステイ91の下面に当接する。
【0004】
ここで、パネル94に対する操作子装置90の適切な取り付け角度(この例では操作子95の突出方向でもある)は、様々な要件によって定まる。例えば、操作子装置90の周辺形状、操作子装置90の配置位置、演奏者と楽器本体との相対的な位置、演奏スタイル等の要件である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3381852号公報
【特許文献2】実公平7−31276号公報
【特許文献3】特許第2921483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の操作子装置の取り付け構造においては、取り付け状態においてネジ92の頭部の座面92aがステイ91の下面に面接触するように構成され、ネジ92の螺合方向は一意に決まっているものである。すなわち、操作子装置として完成された状態で、その組み付け方向(角度)は一意に決まっており、取り付け角度を変更したり選択したりすることはできない。一方、ボス93の締結穴の軸線のパネルに対する角度は、楽器の機種によって相違し得る。
【0007】
そのため、仮に、機能の観点では同一構成の操作子装置を異なる機種に適用可能であっても、パネルに対する操作子装置の適切な取り付け角度が機種間で異なる場合は、同じ操作子装置をそのまま適用できない。例えば、適切な取り付け角度に応じてステイの形状(ボス93や座面92aとの当接部分の角度等)を機種に応じて変更する必要がある。従って、結果として、各操作子装置はその機種専用となってしまうことが多い。
【0008】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、螺着固定可能な取り付け角度の範囲を広くし、楽器本体の取付部に応じた取り付け角度にて操作子装置を取り付けることができる操作子装置の取り付け構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の操作子装置の取り付け構造は、操作子装置本体(21)とネジ(30)と被取付部(S)とを有し、楽器本体(10)の取付部(11)に前記被取付部が前記ネジで螺着固定されることで前記楽器本体に取り付けられる操作子装置の取り付け構造であって、前記被取付部は、前記楽器本体の前記取付部に対向当接する取付部当接面(25)と、前記取付部当接面の反対側に形成され、前記ネジの頭部(31)の座面(32)に対して直接または別部材を介して当接する座面当接部(26)と、前記取付部当接面から前記座面当接部にかけて貫通して形成され、前記ネジの軸部(33)が挿通可能で前記ネジの前記頭部が挿通不能な貫通穴(27)とを有し、前記座面当接部は、凸曲面に形成されたことを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記凸曲面は、線織面、乃至、柱面である。好ましくは、前記柱面を構成する仮想円柱(28)の中心軸(C1)が前記楽器本体の前記取付部のネジ穴(13)の中心線(C0)と垂直に交わる。好ましくは、前記ネジの前記頭部の前記座面または前記別部材は、前記座面当接部に対して線接触で当接する。好ましくは、前記座面または前記別部材と前記座面当接部との接触線(L1)は、前記楽器本体の前記取付部のネジ穴(13)の中心線(C0)の延長線上を通り且つ前記中心線に対して垂直である。好ましくは、前記取付部当接面には、前記楽器本体の前記取付部に対する前記貫通穴の位置を合わせるための位置決め部(29)が設けられる。
【0011】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1によれば、螺着固定可能な取り付け角度の範囲を広くし、楽器本体の取付部に応じた取り付け角度にて操作子装置を取り付けることができる。
【0013】
請求項3、5によれば、座面と座面当接部との当接による力がネジの軸部に曲げ応力として働かないようにすることができる。
【0014】
請求項4によれば、接触面積の確保によりネジのゆるみが防止される。
【0015】
請求項6によれば、螺着作業時の位置決めが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る操作子装置の取り付け構造が適用される電子楽器の要部を示す模式図である。
【図2】1箇所の被取付部及びボスを示す模式的な側面図である。
【図3】被取付部を図2の下方から見た図、図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】ボスの角度が異なる異機種の楽器本体に操作子装置を取り付ける場合の、被取付部及びボスを示す模式的な側面図、位置決め機構を設けた変形例を示す模式的な側面図である。
【図5】従来の操作子装置の取り付け構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る操作子装置の取り付け構造が適用される電子楽器の要部を示す模式図である。
【0019】
この操作子装置20は、例えばホイール操作子やジョイスティックとして構成され、用途としては電子楽器の楽音制御用の入力装置等が適している。制御対象としては、例えば音高、音色、音量のほか、ビブラート、リバーブ等の各種効果に関する楽音パラメータが考えられる。
【0020】
操作子装置20は、操作子本体であるホイール21と、ホイール21を支持するステイ23とを有して一体的に構成される。ホイール21には操作子22が設けられる。操作子22の形状は問わず、ホイール21から大きく突出したものであってもよい。ホイール21は、操作子22の操作により回動する。ただし、操作子22という形態の要素を有しなくてもよく、ホイール21自身が直接されて回動する構成であってもよい。
【0021】
ホイール21とステイ23との固定の態様は問わないが、操作子装置20は、楽器本体に取り付ける前の段階でユニットとして製造される。操作子装置20が適用される楽器の種類は問わないが、例えば鍵盤楽器のパネルに露出して取り付けられる。パネル10の裏面には、ボス11が垂下して設けられる。操作子装置20は、ステイ23の板状部24がボス11の下端にネジ30で螺着固定されることでパネル10に取り付けられ、ホイール21の上部乃至操作子22がパネル10の上方に露出する。
【0022】
また図示はしないが、本楽器には、ホイール21の回動量を検出する検出手段、例えばロータリボリュームが配設され、検出された回動量に基づいて楽音パラメータの制御がなされる。検出手段の構成は特に限定されない。
【0023】
本実施の形態では、取付部であるボス11にステイ23の板状部24を締結する機構に特徴があり、特に、板状部24の裏面に座面当接部である凸部26が設けられている。凸部26を介してネジ30が螺合される。板状部24のうちボス11と当接する部分及び凸部26を「被取付部S」と呼称する。ボス11は2箇所以上設けられることもあり、被取付部Sはそれぞれのボス11に対応して構成される。
【0024】
図2は、1箇所の被取付部S及びボス11を示す模式的な側面図である。図3(a)は、被取付部Sを図2の下方から見た図である。図3(b)は、図2のA−A線に沿う断面図である。
【0025】
凸部26に採択される形状は下方の凸の凸曲面である。本実施の形態では、凸曲面として柱面を例にとって説明する。
【0026】
図2、図3(a)、(b)に示すように、ボス11には、雌ネジが形成されたネジ穴13が設けられる。ネジ穴13の中心線C0に対するボス11の先端面12の傾斜角度は、各機種の楽器本体内の部品配設スペースや、ホイール21の所望される取り付け角度の制約等を受け、必ずしも中心線C0に対して垂直とはならない。操作子装置20は、同一構成のまま、異なる複数の機種の楽器に取り付けられることを想定しており、図示されたボス11の突設方向乃至中心線C0の方向は一例である。ボス11の先端面12に、板状部24の上面の対応箇所である取付部当接面25が対向当接する。
【0027】
被取付部Sにおいて、板状部24の取付部当接面25の反対側(下側)に凸部26が一体に設けられる。凸部26は、板状部24と一体に形成してもよいし、あるいは別体として構成し、接着等によって一体化してもよい。板状部24から凸部26にかけて、締結用貫通穴27が形成される。
【0028】
締結用貫通穴27は、ネジ30の軸部33が余裕を持って挿通可能で且つ頭部31が挿通不能な大きさとなっている。締結用貫通穴27は、その中心線が板状部24に対して垂直となるよう形成されるが、それに限定されない。例えば、取り付け相手となる楽器の機種が判明していれば、ネジ30がとり得る角度の範囲で軸部33と干渉しないように締結用貫通穴27の大きさや角度を設定すればよい。
【0029】
ネジ30の軸部33には、少なくともネジ穴13に螺合する範囲において雄ねじが形成されている。ボス11の先端面12に板状部24の取付部当接面25を当接させ、締結用貫通穴27を通じて、ボス11のネジ穴13にネジ30を下方から螺合する。ネジ30の頭部31の座面32が凸部26の下面に当接する。これにより、操作子装置20がボス11に取り付けられる。
【0030】
ここで、凸部26の下側の外側面形状は、仮想円柱28(図2)の一部を構成する柱面となっている。仮想円柱28の中心軸C1は、ネジ穴13の中心線C0と垂直に交わる(図2、図3(b))。従って、凸部26は、実質的には板状部24から突出した蒲鉾型である。凸部26がこのような形状であることにより、ネジ30による被取付部Sの螺着状態において、ネジ30の頭部31の平坦な座面32は、凸部26に対して接触線L1にて線接触状態で当接することになる。座面32が凸部26に線接触するので、点接触に比べれば接触面積が大きく確保され、ネジ30の緩みが防止される。
【0031】
また、接触線L1は、仮想円柱28の中心軸C1に平行であり(図3(b))、しかも、ネジ穴13の中心線C0の延長線上を通り且つ中心線C0に対して垂直である。これにより、座面32と座面当接部である凸部26との当接による力がネジ30の軸部33に曲げ応力として働かない。
【0032】
従来のように、座面32が面接触で当接するならば螺着状態としては好ましいが、操作子装置20として完成された状態でその組み付け方向(角度)が一意に決まってしまい、選択や変更ができない。これに対し本実施の形態では、凸部26が柱面であるので、仮想円柱28の円周方向における座面32との当接位置を変えても螺着固定が可能である。
【0033】
図4(a)は、ボス11の角度が異なる異機種の楽器本体に操作子装置20を取り付ける場合の、被取付部S及びボス11を示す模式的な側面図である。
【0034】
図4(a)の例では、図2の例に対し、パネル10に対するボス11の先端面12の傾斜角度及びネジ穴13の中心線C0の角度が相違する。しかし操作子装置20は同一である。
【0035】
先端面12に取付部当接面25を突き当て、締結用貫通穴27を通じてネジ30を螺合する。軸部33は締結用貫通穴27に干渉しない。ネジ30の螺合方向はネジ穴13の中心線C0に沿うので、ネジ30の頭部31の座面32は、凸部26に対して図2の例とは異なる位置において接触線L1にて線接触状態で当接する。この図4(a)の例においても、図2の例に対して締結力が特に劣るわけではなく、全く同等の締結状態が確保される。
【0036】
本実施の形態によれば、座面当接部である凸部26が凸曲面に形成されたので、ネジ30による螺着固定可能な取り付け角度の範囲を広くすることができる。それにより、楽器本体のボス11に応じた取り付け角度にて操作子装置20を取り付けることができる。すなわち、操作子装置20として完成された状態で、その組み付け方向(取り付け角度)を変更したり選択したりすることができる。従って、同一構成の操作子装置20を、そのままの構成にて、異なる複数の機種に適用することも可能である。
【0037】
特に、仮想円柱28の中心軸C1はネジ穴13の中心線C0と垂直に交わるので、座面32は、凸部26に対して接触線L1にて線接触で当接する。これにより、接触面積を確保してネジ30の緩みを防止することができる。
【0038】
さらに、接触線L1は、ネジ穴13の中心線C0の延長線上を通り且つ中心線C0に対して垂直であるので、座面32と凸部26との当接による力がネジ30の軸部33に曲げ応力として働かない。それにより、ネジ30の折れや曲がりが回避され、安定した締結状態を維持することができる。
【0039】
ところで、被取付部Sをボス11に締結する際、締結用貫通穴27とボス11との位置をある程度の範囲内に合わせる必要がある。これは作業者によりなされるが、図4(b)に示すような位置決め機構を設けるのが望ましい。
【0040】
すなわち、被取付部Sにおいて、ステイ23の板状部24の上側に突起状の位置決め部29を設ける。位置決め部29は、ボス11の先端を囲む環状となっている。位置決め部29を利用することで、ネジ30の螺着作業時の位置決めが容易となる。
【0041】
位置決め部29は、被取付部Sとボス11との、ネジ穴13の中心線C0に平行でない方向の位置を規制する構成であればよい。位置決め部29は、ボス11の先端を囲むような形状が好ましいが、環状でなくてもよく、例えば複数の突起が円周上に配列された構成でもよい。あるいは直線でもよい。
【0042】
ところで、上記した実施の形態では、操作子装置20の螺着固定可能な取り付け角度の範囲を広くするために、凸部26の形状として柱面を採用したが、凸曲面であればそのような効果を奏することができる。凸曲面としては、ネジ30の座面32が線接触するような曲面が好ましいが、複数箇所で点接触するような曲面であってもよい。従って、凸曲面の例としては、錐面や柱状面等の線織面でもよいし、球面等の複曲面であってもよい。
【0043】
なお、以上の説明では、凸部26にはネジ30の座面32が直接当接するとしたが、座金(ワッシャ)等の別部材を介して当接してもよい。その場合、別部材の、凸部26に当接する面が、上記説明した座面32に相当することとなる。
【符号の説明】
【0044】
10 パネル(楽器本体)、 11 ボス(取付部)、 13 ネジ穴、 20 操作子装置、 21 ホイール(操作子装置本体)、 25 取付部当接面、 26 凸部(座面当接部)、 27 締結用貫通穴、 28 仮想円柱、 29 位置決め部、 30 ネジ、 31 頭部、 32 座面、 33 軸部、 L1 接触線、 S 被取付部、 C1 中心軸、 C0 中心線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作子装置本体とネジと被取付部とを有し、楽器本体の取付部に前記被取付部が前記ネジで螺着固定されることで前記楽器本体に取り付けられる操作子装置の取り付け構造であって、
前記被取付部は、
前記楽器本体の前記取付部に対向当接する取付部当接面と、
前記取付部当接面の反対側に形成され、前記ネジの頭部の座面に対して直接または別部材を介して当接する座面当接部と、
前記取付部当接面から前記座面当接部にかけて貫通して形成され、前記ネジの軸部が挿通可能で前記ネジの前記頭部が挿通不能な貫通穴とを有し、
前記座面当接部は、凸曲面に形成されたことを特徴とする操作子装置の取り付け構造。
【請求項2】
前記凸曲面は、線織面であることを特徴とする請求項1記載の操作子装置の取り付け構造。
【請求項3】
前記凸曲面は柱面であり、前記柱面を構成する仮想円柱の中心軸が前記楽器本体の前記取付部のネジ穴の中心線と垂直に交わることを特徴とする請求項2記載の操作子装置の取り付け構造。
【請求項4】
前記ネジの前記頭部の前記座面または前記別部材は、前記座面当接部に対して線接触で当接することを特徴とする請求項1記載の操作子装置の取り付け構造。
【請求項5】
前記座面または前記別部材と前記座面当接部との接触線は、前記楽器本体の前記取付部のネジ穴の中心線の延長線上を通り且つ前記中心線に対して垂直であることを特徴とする請求項4記載の操作子装置の取り付け構造。
【請求項6】
前記取付部当接面には、前記楽器本体の前記取付部に対する前記貫通穴の位置を合わせるための位置決め部が設けられたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の操作子装置の取り付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−37186(P2013−37186A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173043(P2011−173043)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】