説明

操舵支援装置

【課題】ドライバの運転意思に応じて制御方法を適切に変更する操舵支援装置を提供する。
【解決手段】自車両が走行車線に沿って走行するように操舵機構に操舵力を付与する操舵支援装置を、環境認識手段と、環境認識手段を用いて目標走行位置を設定する目標走行位置設定手段と、自車両の横位置を認識する自車横位置認識手段と、目標走行位置と横位置との偏差に基づいて目標操舵力を設定する目標操舵力設定手段と、目標操舵力に基づいて操舵機構に操舵力を付与する操舵制御手段と、ドライバの運転意思を判定する運転意思判定手段とを備え、目標操舵力設定手段は、偏差の増加に応じて増加するよう設定される第1の目標操舵力と、偏差が所定値以上の時のみ所定の値に設定される第2の目標操舵力とを有し、操舵制御手段は、ドライバの運転意思が高い状態と判定されたときは前記第1の目標操舵力に基づいて操舵力を付与するとともに、運転意思が低下状態と判定されたときは第2の目標操舵力に基づいて操舵力を付与する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の走行車線内に設定された目標走行位置に対する自車両の横位置に応じて操舵機構に操舵力を付与する操舵支援装置に関し、特にドライバの運転意思に応じて適切な制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
操舵支援装置は、例えばステレオカメラ等を用いて自車両前方の環境を認識し、操舵機構に操舵力を付与するものである。このような操舵支援制御として、例えば、車線内に設定した目標走行位置に沿って車両を操向する車線維持支援制御、車線からの自車両の逸脱傾向に応じて逸脱防止方向への操舵力を付与する車線逸脱防止制御等がある。
このような操舵支援装置は、主体的に運転行動を行うドライバの操舵を補助するものと位置づけられ、ドライバに代わって運転を行う自動運転装置として機能することは好ましくない。このため、ドライバの運転意思が低く、ドライバが操舵支援装置に依存している場合には、装置側からドライバに運転操作を促す必要がある。
【0003】
従来、ドライバによる操舵操作入力トルクを監視し、これが所定期間以上検出されなかった場合にドライバの運転意思がないものと判断して操舵支援制御を停止することが知られている。
例えば、特許文献1には、車速及びカーブ曲率に基づいて設定される判定時間を用いて運転意思の低下を判定し、操舵アシスト処理の禁止を行う操舵制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−168720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の従来技術のようにドライバの運転意思の低下状態には、ドライバの意識はあるが操舵支援制御に依存している制御依存状態と、ドライバの意識が低下している居眠り状態とに大別できると考えられる。しかし、操舵入力トルクの履歴に基づいて操舵支援制御を即座に全面的に停止すると、居眠り状態のときには、車両の挙動、進路が乱れ、車線逸脱等が生じる懸念がある。
本発明の課題は、ドライバの運転意思に応じて制御方法を適切に変更する操舵支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、自車両が走行車線に沿って走行するように操舵機構に操舵力を付与する操舵支援装置であって、自車両の走行車線を含む自車両前方の環境を認識する環境認識手段と、前記環境認識手段を用いて自車両の走行車線内に自車両の目標走行位置を設定する目標走行位置設定手段と、自車両の横位置を認識する自車横位置認識手段と、前記目標走行位置と自車両の横位置との偏差に基づいて前記操舵機構に付与される目標操舵力を設定する目標操舵力設定手段と、前記目標操舵力に基づいて前記操舵機構に操舵力を付与する操舵制御手段と、ドライバの運転操舵状態に基づいてドライバの運転意思を判定する運転意思判定手段とを備え、前記目標操舵力設定手段は、前記偏差の増加に応じて増加するよう設定される第1の目標操舵力と、前記偏差が所定値以上の時のみ所定の値に設定される第2の目標操舵力とを有し、前記操舵制御手段は、前記ドライバの運転意思が高い状態と判定されたときは前記第1の目標操舵力に基づいて前記操舵機構に操舵力を付与するとともに、前記ドライバの運転意思が低下状態と判定されたときは前記第2の目標操舵力に基づいて前記操舵機構に操舵力を付与することを特徴とする操舵支援装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
操舵制御手段は、ドライバの運転意思が高い状態と判定されたときは偏差の増加に応じて増加するよう設定される第1の目標操舵力に基づいて操舵機構に操舵力を付与するとともに、ドライバの運転意思が低下状態と判定されたときは偏差が所定値以上の時のみ所定の値に設定される第2の目標操舵力に基づいて操舵機構に操舵力を付与することによって、運転意思が低下状態においては走行車線からの逸脱傾向を有する場合の警報のみを行い、ドライバの自主的な運転操作を促すとともに走行車線からの逸脱を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を適用した操舵支援装置の実施例を備えた車両のシステム構成を示す図である。
【図2】実施例の操舵支援装置における自車両と車線との平面的配置の一例を示す図である。
【図3】実施例の操舵支援装置における1次制御操舵力設定手段、3次制御操舵力設定手段、及び、警報パルス操舵力設定手段がそれぞれ行う支援制御1乃至3における偏差と操舵トルクとの相関を示すグラフである。
【図4】実施例の操舵支援装置における支援レベル変更時の動作を示すフローチャートである。
【図5】実施例の操舵支援装置における支援レベルの推移の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ドライバの運転意思に応じて制御方法を適切に変更する操舵支援装置を提供する課題を、ドライバの意思状態低下に応じて目標走行位置に対する自車両横位置の偏差に応じて増加する操舵トルクを設定する制御から、偏差が所定値以上の場合に所定値の操舵トルクを設定する制御に切り換えることによって解決した。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を適用した操舵支援装置の実施例について説明する。
実施例の操舵支援装置は、例えば、前2輪を操舵する乗用車等の4輪自動車に備えられる。
図1は、実施例の操舵支援装置を含む車両のシステム構成を示す図である。この操舵支援装置は、操舵機構10に操舵トルク(操舵力)を付与するものである。
操舵機構10は、前輪FWを支持するハウジングHを所定の操向軸線(キングピン)回りに回転させて操舵を行うものである。
【0011】
操舵機構10は、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト12、ステアリングギアボックス13、タイロッド14等を備えて構成されている。
ステアリングホイール11は、ドライバが操舵操作を入力する環状の操作部材である。ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール11の回転をステアリングギアボックス13に伝達する回転軸である。
ステアリングギアボックス13は、ステアリングシャフト12の回転運動を車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構を備えている。
タイロッド14は、一方の端部をステアリングギアボックス13のラックに連結され、他方の端部をハウジングHのナックルアームに連結された軸状の部材である。タイロッド14は、ハウジングHのナックルアームを押し引きすることによってハウジングHを回転させ、操舵を行う。
【0012】
また、車両は、電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション制御ユニット50、車両統合ユニット60等を備えている。
【0013】
EPS制御ユニット20は、ドライバの操舵操作に応じて操舵アシスト力を発生する電動パワーステアリング装置を統括的に制御するものである。EPS制御ユニット20には、電動アクチュエータ21、舵角センサ22、トルクセンサ23等が接続されている。
電動アクチュエータ21は、例えば、ステアリングシャフト12の途中に設けられ、減速機構を介して操舵機構10に対して操舵トルク(操舵力)を付与する電動モータである。
舵角センサ22は、ステアリングシャフト12の角度位置(ステアリングホイール11の角度位置と実質的に等しい)を検出するエンコーダを備えている。
トルクセンサ23は、電動アクチュエータ21とステアリングホイール11との間でステアリングシャフト12に挿入され、ステアリングシャフト12に作用するトルクを検出するものである。通常、トルクセンサ23が検出するトルクは、ドライバがステアリングホイール11に入力する操舵トルクと実質的に等しくなる。このトルクセンサ23は、本発明にいう操舵操作力検出手段として機能する。
【0014】
操安制御ユニット30は、各車輪のブレーキの制動力を個別に制御する車両操安性制御及びABS制御を行うものである。車両操安性制御は、アンダーステア又はオーバーステアの発生時に、旋回内輪側と外輪側の制動力を異ならせて復元方向のヨーモーメントを発生させるものである。ABS制御(アンチロックブレーキ制御)は、車輪のロック傾向を検出した際に、当該車輪の制動力を低減して回復させるものである。
操安制御ユニット30には、ハイドロリックコントロールユニット(HCU)31、車速センサ32、ヨーレートセンサ33、横加速度(横G)センサ34等が接続されている。
【0015】
HCU31は、各車輪の液圧式サービスブレーキに付与されるブレーキフルード液圧を個別に制御する装置である。HCU31は、ブレーキフルードを加圧するモータポンプ、及び、各車輪のキャリパシリンダへ付与される圧力を調整するソレノイドバルブ等を備えている。
車速センサ32は、各車輪のハブベアリングを保持するハウジングに設けられ、車輪速に応じた車速パルス信号を出力する。この車速パルス信号は、所定の処理を施すことによって、車両の走行速度を求めることができる。
ヨーレートセンサ33及び横Gセンサ34は、車体の鉛直軸回りの回転速度及び横方向の加速度をそれぞれ検出するMEMSセンサを備えている。
【0016】
エンジン制御ユニット40は、車両の走行用動力源であるエンジン及びその補器類を統括的に制御するものである。
トランスミッション制御ユニット50は、エンジンの出力を変速して駆動軸のディファレンシャルギアへ伝達するオートマティックトランスミッションを統括的に制御するものである。
車両統合ユニット60は、上記各ユニットに関連する以外の車両の電装品を統括的に制御するものである。
【0017】
また、実施例の操舵支援装置は、以下説明する操舵支援制御ユニット100を備えている。
操舵支援制御ユニット100は、上述したEPS制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション制御ユニット50、車両統合ユニット60と、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して接続され、各種情報や信号を取得可能となっている。
【0018】
また、操舵支援制御ユニット100は、環境認識手段110、目標走行位置設定手段120、自車進行路推定手段130、運転意思判定手段140、目標操舵力設定手段150、操舵力制御手段160等を備えている。なお、これらの各手段は、それぞれ独立したハードウェアとして構成されてもよく、また、一部又は全部を共通したハードウェアとした構成としてもよい。
【0019】
環境認識手段110は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両の走行車線の形状等を認識するものである。
図2は、実施例における自車両と車線との平面的配置の一例を示す図である。
環境認識手段110は、ステレオカメラ111、画像処理部112等が接続されている。
ステレオカメラ111は、例えば車両のフロントウインドウ上端部のルームミラー基部付近に設けられた一対のメインカメラ及びサブカメラを備えている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれCCDカメラを有して構成されている。メインカメラ及びサブカメラは、車幅方向に離間して設置されている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれ基準画像及び比較画像を撮像し、これらに係る画像データを画像処理部112に出力する。
画像処理部112は、ステレオカメラ111が出力した基準画像及び比較画像の画像データをA/D変換した後、所定の画像処理を施して環境認識手段110に出力するものである。この画像処理には、例えば、各カメラの取付位置誤差の補正や、ノイズ除去、階調の適切化などが含まれる。デジタル化された画像は、例えば、垂直方向及び水平方向にマトリクス状に配列された複数の画素を有する。これらの各画素は、それぞれ被写体の明るさに応じた輝度値を有する。
【0020】
環境認識手段110は、基準画像及び比較画像のデータに基づいて、基準画像上の任意の画素又は複数の画素からなるブロックである画素群の視差を検出する。この視差は、ある画素又は画素群の基準画像上の位置と比較画像上の位置とのずれ量である。この視差を用いると、三角測量の原理により、自車両から当該画素に対応する被写体までの距離を算出することができる。
【0021】
また、環境認識手段110は、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状等を認識する。なお、本明細書、特許請求の範囲等において、白線とは、車線の幅方向における端部に引かれた連続線又は破線を示すものとし、実際の色彩が白色以外(例えば燈色など)の線も含むものとする。
環境認識手段110は、基準画像のデータから画素の輝度データに基づいて白線WL部分の画素群を検出する。自車両に対する白線WL部分の画素群の方位は、画像データ上の画素位置に基づいて検出される。具体的には、垂直方向における画素位置が路面上に相当する領域を水平方向に走査し、輝度値が急変する箇所を白線WLの輪郭として認識する。そして、当該白線WL部分の画素群の距離を算出することによって、白線WLの位置を検出する。
そして、環境認識手段110は、白線位置の検出を連続的に行なって車両の進行方向に複数の車線候補点を設定し、整合のとれない車線候補点を無視するとともに、車線候補点を設定できなかった領域は所定の補完処理を行うことによって、自車両前方の車線形状を認識する。
【0022】
目標走行位置設定手段120は、環境認識手段110が設定した自車両OVの走行車線の幅方向における中央に目標走行位置Xcを設定する。
【0023】
自車進行路推定手段130は、環境認識手段110からの情報、舵角センサ22、車速センサ32、ヨーレートセンサ33等によって検出される車両の走行状態、及び、既知の車両諸元等に基づいて、自車進行路を推定するものである。この自車進行路推定手段130は、本発明にいう自車横位置認識手段として機能する。
自車進行路の推定は、例えば、車両前方の注視距離Zにおける自車両OVの横位置Xeを算出することによって行う。
自車両OVの重心位置を原点とし、車幅方向へ延びるX軸、及び、車体前方側へ延びるZ軸を有する座標系を用いて以下説明する。
注視距離Zにおける自車両重心の推定横位置Xeは、ハンドル角度αを用いて、以下の式1によって求められる。
【数1】

【0024】
また、自車進行路推定手段130は、上述したハンドル角度を用いた横位置の推定に代えて、以下の式2の通り、ヨーレートセンサ33が検出したヨーレートを用いて横位置を推定することができる。
Xe=Zγ/2V・・・(式2)
Z:注視距離[m]
γ:車両のヨーレート[rad/sec]
【0025】
運転意思判定手段140は、トルクセンサ23を用いて検出されるドライバの操舵操作トルクの履歴に基づいて、ドライバの運転意思低下状態を判定するものである。
運転意思判定手段140は、トルクセンサ23の出力に基づいてドライバからの入力トルクであるドライバ操舵トルクTdを検出し、ドライバ操舵トルクTdが所定の閾値であるTth未満である状態の経過時間に基づいて意思低下を判定する。運転意思判定手段140は、この経過時間を計測するドライバ入力判定タイマを備えている。このドライバ入力判定タイマの動作については、後に詳しく説明する。
【0026】
また、運転意思判定手段140は、ドライバの運転意思状態を、意思低下が認められない通常状態、第1の運転意思低下状態、及び、第1の運転意思低下状態よりさらに運転意思が低下した第2の運転意思低下状態に判別する。
第1の運転意思低下状態は、例えば、ドライバの意識はあるが操舵支援制御に依存した状態に相当する。
第2の運転意思低下状態は、例えば、居眠り等によってドライバの意識が低下した状態に相当する。
【0027】
目標操舵力設定手段150は、操舵支援制御における目標操舵トルクを設定し、操舵力制御手段160に提供するものである。
目標操舵力設定手段150は、1次制御操舵力設定手段151、3次制御操舵力設定手段152、警報パルス操舵力設定手段153等を備えている。目標操舵力設定手段150は、運転意思判定手段140が判定したドライバの運転意思状態に基づいて、これらの各操舵力設定手段が設定する操舵力のうち1つを選択し、操舵支援装置としての目標操舵トルクとして設定する。この操舵力(制御)の切換については、後に詳しく説明する。
【0028】
図3は、1次制御操舵力設定手段151、3次制御操舵力設定手段152、及び、警報パルス操舵力設定手段153がそれぞれ行う支援制御1乃至3における偏差Δeと操舵トルクTc1,Tc3,Tpとの相関を示すグラフである。
1次制御操舵力設定手段151は、目標走行位置設定手段120が設定した注視距離Zにおける目標走行位置Xcと、自車進行路推定手段130が推定した注視距離Zにおける自車両の横位置Xeとの偏差Δe(=Xc−Xe)に対して、所定の1次制御ゲインを乗じることによって、支援制御1(1次制御)による第1の操舵トルクTc1を設定するものである。1次制御操舵力設定手段151は、本発明にいう第1の目標操舵力を演算する。
図3に示すように、操舵トルクTc1は、偏差Δeが0であるときは0に設定されている。操舵トルクTc1は、偏差Δeの絶対値が車線幅Xwの半分以下の領域においては、偏差Δeの絶対値に比例して線形に増加する。また、操舵トルクTc1は、偏差Δeの絶対値が車線幅Xwの半分超の領域においては、一定値であるT_limに設定される。
【0029】
3次制御操舵力設定手段152は、上述した偏差Δeを三乗した値に大して、所定の3次制御ゲインを乗じることによって、支援制御2(3次制御)による第2の操舵トルクTc3を設定するものである。3次制御操舵力設定手段152は、本発明にいう第2の目標操舵力を演算する。
図3に示すように、操舵トルクTc3は、偏差Δeが0であるときは0に設定されている。操舵トルクTc3は、偏差Δeの絶対値が車線幅Xwの半分以下の領域においては、偏差Δeの三乗値の絶対値に比例して線形に増加する。また、操舵トルクTc3は、偏差Δeの絶対値が車線幅Xwの半分超の領域においては、一定値であるT_limに設定される。
【0030】
警報パルス操舵力設定手段153は、偏差Δeの絶対値が車線幅Xwの半分超の領域(車線逸脱時)においてのみ、矩形パルス状の操舵トルクTp(支援制御3・警報パルス制御による第3の操舵トルク)を周期的に設定し、偏差Δeの絶対値が車線幅Xwの半分以下の領域においては、操舵トルクを0とする。このパルス状の操舵トルクTpは、主にステアリングホイール11を振動させてドライバに運転意思の回復及び主体的な運転動作を促すことを目的としている。警報パルス操舵力設定手段153は、本発明にいう第3の目標操舵力を演算する。
なお、上述した各制御において、自車両OVを目標走行位置Xcに沿って走らせる支援レベル(拘束の強さ等)は、支援制御1(1次制御)、支援制御2(3次制御)、支援制御3(警報パルス制御)の順に高くなっている。すなわち、支援制御2は、支援制御1に対して本発明にいう低支援レベル制御として機能する。
【0031】
操舵力制御手段160は、目標操舵力設定手段150が設定した目標操舵トルクに基づいて、以下の式3を用いて目標指示電流iindを算出する。操舵力制御手段160は、EPS制御ユニット20を介して電動アクチュエータ21を制御して操舵機構10への操舵トルクの付与を行わせる。
【数2】

【0032】
次に、本実施例の操舵支援装置における支援レベルの変更について説明する。
図4は、支援レベル変更時の動作を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:環境状態検出・車両状態検出・偏差Δe、車線幅Xwを取得>
目標操舵力設定手段150は、環境認識手段110、目標走行位置設定手段120、自車進行路推定手段130等を用いて、自車両前方の車線形状、車線幅Xw、車線内の目標走行位置Xc、自車両の推定横位置Xe等に関する情報を取得する。
その後、ステップS02に進む。
【0033】
<ステップS02:ドライバ操舵トルクTd検出>
運転意思判定手段140は、EPS制御ユニット20を介して、トルクセンサ23の出力値に基づくドライバ操舵トルクTdを検出する。
その後、ステップS03に進む。
【0034】
<ステップS03:ドライバ入力判定>
運転意思判定手段140は、ステップS02で検出したドライバ操舵トルクTdが所定の判別閾値Tth以上であるか判定し、Td≧Tthの場合はドライバの運転意思が低下していないものとしてステップS04に進み、Td<Tthの場合はステップS05に進む。
【0035】
<ステップS04:ドライバ入力判定タイマをクリア>
運転意思判定手段140は、ドライバ入力判定タイマをクリアし、そのタイマ値tを0とする。
その後、ステップS06に進む。
【0036】
<ステップS05:ドライバ入力判定タイマをインクリメント>
運転意思判定手段140は、ドライバ入力判定タイマのタイマ値tをインクリメントする。
その後、ステップS07に進む。
【0037】
<ステップS06:支援制御1を選択>
目標操舵力設定手段150は、1次制御操舵力設定手段151が設定する支援制御1(1次制御)による操舵トルクTc1を目標操舵トルクとして設定する。
その後、リターンし、ステップS01に戻りそれ以降の処理を繰り返す。
【0038】
<ステップS07:ドライバ入力判定タイマ判断1>
運転意思判定手段140は、ドライバ入力判定タイマのタイマ値tを、所定の閾値であるt_th1と比較し、t≧t_th1であるときは第1又は第2いずれかの意思低下状態であるとしてステップS08に進み、t<t_th1であるときは意思低下が生じていないものとしてステップS06に進む。
【0039】
<ステップS08:ドライバ入力判定タイマ判断2>
運転意思判定手段140は、ドライバ入力判定タイマのタイマ値tを、所定の閾値でありかつ上述したt_th1より大きいt_th2と比較し、t≧t_th2であるときは第2の運転意思低下状態であるとしてステップS10に進み、t<t_th2であるときは第1の運転意思低下状態であるとしてステップS09に進む。
【0040】
<ステップS09:支援制御2を選択>
目標操舵力設定手段150は、3次制御操舵力設定手段152が設定する支援制御2(3次制御)による操舵トルクTc3を目標操舵トルクとして設定する。
その後、リターンし、ステップS01に戻りそれ以降の処理を繰り返す。
【0041】
<ステップS10:制御停止>
目標操舵力設定手段150は、目標操舵トルクを0に設定し、操舵支援制御を停止する。
その後、ステップS11に進む。
【0042】
<ステップS11:車線逸脱判定>
目標操舵力設定手段150は、目標走行位置Xcに対する自車両横位置Xeの偏差Δeの絶対値が車線幅の半分(Xw/2)よりも小さいか判定し、Xw/2≧|Δe|である場合は自車両OVが車線から逸脱傾向にあるものとしてステップS12に進み、Xw/2<|Δe|である場合はステップS13に進む。
【0043】
<ステップS12:支援制御3を選択>
目標操舵力設定手段150は、警報パルス操舵力設定手段153が設定する支援制御3(警報パルス制御)による操舵トルクTpを目標操舵トルクとして設定する。
その後、リターンし、ステップS01に戻りそれ以降の処理を繰り返す。
【0044】
<ステップS13:制御停止継続>
目標操舵力設定手段150は、操舵支援制御の停止を継続する。
その後、リターンし、ステップS01に戻りそれ以降の処理を繰り返す。
【0045】
図5は、本実施例における支援レベルの推移の一例を示すタイミングチャートである。
操舵支援装置は、運転意思の低下が判定されない通常の状態においては、支援制御1(1次制御)を実行する。そして、ドライバ入力トルクTdがTth未満の状態がT_th1以上継続した場合は、第1の運転意思低下状態を判定し、支援制御2(3次制御)に切り換える。さらに、ドライバ入力トルクTdがTth未満の状態がT_th2以上継続した場合は、第2の運転意思低下状態を判定し、操舵支援制御を停止する。その後は、自車両が車線からの逸脱傾向を有する場合にのみ支援制御3(警報パルス制御)を実行する。また、閾値Tth以上のドライバ入力トルクTdが検出された場合には、直ちに支援制御1を再開する。
【0046】
以上説明した本実施例によれば、ドライバの運転意思が低下状態であると判定されたときに、自車両を目標走行位置に追従させる支援レベルを通常時の1次制御よりも低下させた3次制御に基づいて目標操舵トルクを設定することによって、ドライバの操舵支援制御への依存を解消させて主体的な運転操作を促すことができる。また、意思低下状態であっても、意思低下の度合が比較的軽微な第1の運転意思低下状態においては、支援を完全に中止するのではなく支援レベルが比較的低い3次制御に基づいて目標操舵トルクを設定することによって、運転意思が低下状態で制御を中止することによる車線逸脱等のリスクを軽減することができる。
また、第1の運転意思低下状態及び第2の運転意思低下状態を判定し、第1の運転意思低下状態では3次制御による目標操舵トルクの設定を実行し、第2の運転意思低下状態では警報パルス制御を実行することによって、3次制御を停止した状態であっても車線逸脱時にはドライバに警報を発してドライバの意思向上を促すことができ、運転意思低下の程度に応じた適切な制御を実行できる。
【0047】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)上述した実施例では、通常時は1次制御による第1の目標操舵力を用い、意思低下時には3次制御による第2の目標操舵力を用いる構成としているが、第1の目標操舵力と第2の目標操舵力との少なくとも一方を、1次制御による目標操舵力と3次制御等の高次制御による目標操舵力とを合成したもの(1次制御+高次制御)とし、第2の目標操舵力は第1の目標操舵力に対して高次制御による目標操舵力の比率(重み)が大きくなるようにしてもよい。例えば、第1の目標操舵力及び第2の目標操舵力をともに1次制御+3次制御によって設定するとともに、第2の目標操舵力では第1の目標操舵力よりも3次制御の重みを増すようにしてもよい。また、第1の目標操舵力を1次制御とし、第2の目標操舵力を1次制御+3次制御(但し、1次制御のゲインは第1の目標操舵力に対して低下)としてもよい。また、第1の目標操舵力を1次制御+3次制御とし、第2の目標操舵力を3次制御としてもよい。
(2)実施例では、環境認識手段はステレオカメラを用いて車線形状を検出しているが、本発明はこれに限らず、例えばナビゲーション装置等のために準備された地図データ及び自車位置の測位情報に基づいて車線形状を検出するようにしてもよい。また、自車の対車線横位置、ヨー角を検出する手法も特に限定されない。
(3)操舵機構に操舵トルクを付与するアクチュエータの構成は、実施例のようなコラムアシストタイプのものに限らず、例えば、ステアリングシャフトに接続されたピニオン軸を駆動するピニオンアシストタイプ、ステアリングシャフトに接続されたピニオンと独立したピニオンを駆動するダブルピニオンタイプ、ステアリングラック自体を直進方向に駆動するラック直動タイプ等であってもよい。
(4)実施例では運転意思判定手段は操舵入力トルクの履歴に基づいてドライバの運転意思を判定しているが、本発明はこれに限らず、他の手法によってドライバの運転意思を判定してもよい。例えば、ハンドル舵角の履歴に基づいてドライバの運転意思を判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 操舵機構 11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト 13 ステアリングギアボックス
14 タイロッド FW 前輪
H ハウジング
20 電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット
21 電動アクチュエータ 22 舵角センサ
23 トルクセンサ 30 操安制御ユニット
31 ハイドロリックコントロールユニット(HCU)
32 車速センサ 33 ヨーレートセンサ
34 横加速度(横G)センサ 40 エンジン制御ユニット
50 トランスミッション制御ユニット
60 車両統合ユニット
100 操舵支援制御ユニット 110 環境認識手段
111 ステレオカメラ 112 画像処理部
120 目標走行位置設定手段 130 自車進行路推定手段
140 運転意思判定手段 150 目標操舵力設定手段
151 1次制御操舵力設定手段 152 3次制御操舵力設定手段
153 警報パルス操舵力設定手段 160 操舵力制御手段
OV 自車両 WL 白線
Xc 目標走行位置 Xe 自車両横位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行車線に沿って走行するように操舵機構に操舵力を付与する操舵支援装置であって、
自車両の走行車線を含む自車両前方の環境を認識する環境認識手段と、
前記環境認識手段を用いて自車両の走行車線内に自車両の目標走行位置を設定する目標走行位置設定手段と、
自車両の横位置を認識する自車横位置認識手段と、
前記目標走行位置と自車両の横位置との偏差に基づいて前記操舵機構に付与される目標操舵力を設定する目標操舵力設定手段と、
前記目標操舵力に基づいて前記操舵機構に操舵力を付与する操舵制御手段と、
ドライバの運転操舵状態に基づいてドライバの運転意思を判定する運転意思判定手段と
を備え、
前記目標操舵力設定手段は、前記偏差の増加に応じて増加するよう設定される第1の目標操舵力と、前記偏差が所定値以上の時のみ所定の値に設定される第2の目標操舵力とを有し、
前記操舵制御手段は、前記ドライバの運転意思が高い状態と判定されたときは前記第1の目標操舵力に基づいて前記操舵機構に操舵力を付与するとともに、前記ドライバの運転意思が低下状態と判定されたときは前記第2の目標操舵力に基づいて前記操舵機構に操舵力を付与すること
を特徴とする操舵支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−63778(P2013−63778A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−3268(P2013−3268)
【出願日】平成25年1月11日(2013.1.11)
【分割の表示】特願2008−236273(P2008−236273)の分割
【原出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】