説明

支承用損傷判定装置

【課題】簡易な構成で支承の損傷の有無を判断することの可能な支承用損傷判定装置を得る。
【解決手段】損傷判定装置20は、導線部22及び検査部24を備えている。導線部22は、コイル状の導線で構成されており、一端が下板11に取り付けられ、他端が上板12に取り付けられて、ゴム壁18の内側に沿って配置されている。導線部22の上板12側に固定された一端部は、接続線21を介して検査部24と接続されている。導線部22の下板11側に固定された他端部は、導線部22以上の長さとされた接続線23と接続されている。接続線23は、ゴム壁18の内側に沿って配線され、検査部24と接続されている。導線部22の長さは、橋桁108と橋脚106との間の相対移動が支承10の限界変位量DLを超えた場合に、切断される長さとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持部材と被支持部材との間に配置された支承の損傷判定を行うための支承用損傷判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
支持部材に対し、ビルや橋梁などの構造物(被支持部材)を免震して支持する支承が知られている。このような支承は、支持部材と被支持部材との間に配置され、被支持部材である上部構造物を支持すると共に、支持部材と被支持部材とを水平方向に相対移動可能としている。そして、この支承は、支承自体が弾性変形することにより被支持部材と支持部材との間の相対移動を許容している。
【0003】
ところで、支承は構成部材に応じた所定の限界変位量までの弾性変形であれば損傷を受けずに変形されて復元されるが、限界変位量を超えた場合には、損傷を受ける可能性が高く、交換、補修などの処置が必要となる。
【0004】
そのため、特許文献1に記載の技術では、支承の移動量を測定する複数のセンサ及びデータ記憶装置を設置して、損傷しているかどうかの判定、損傷カ所の判定等を行っている。しかしながら、複数のセンサやデータ記憶装置を配置すると、構成が複雑になると共にコストも高くなる。
【特許文献1】特許第2893018号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、簡易な構成で支承の損傷の有無を判断することの可能な支承用損傷判定装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明の支承用損傷判定装置は、支持部材と被支持部材との間に配置され、被支持部材を支持部材と相対移動可能に支持する支承の損傷判定を行うための支承用損傷判定装置であって、一端が前記支持部材側に取付けられると共に他端が前記被支持部材側に取付けられ、前記支持部材と前記被支持部材との間の相対変位量が前記支承の限界変位量を超えた場合に検知可能に破損される損傷判断部材、を備えている。
【0007】
この支承用損傷判定装置では、支持部材と被支持部材との間に配置された支承の損傷が判定される。この支承は、被支持部材を支持部材と相対移動可能に支持するものである。
【0008】
損傷判断部材は、一端が支持部材側に取付けられると共に他端が被支持部材側に取付けられている。ここで、損傷判断部材の一端及び他端は、支持部材及び被支持部材の移動に追従される位置であれば、支承自体に取付けられてもよいし、支持部材、被支持部材に取付けられていてもよい。
【0009】
支持部材と被支持部材との間の相対変位量が支承の限界変位量を超えた場合には、この損傷判断部材が検知可能に破損される。検知可能な破損とは、切断、破断、色の変化、導電性の部材であれば抵抗値の変化など、目視や導通試験などの各種検査により検知することが可能な破損をいう。
【0010】
本発明の支承用損傷判定装置によれば、支承の限界変位量を超えた相対移動が支持部材と被支持部材との間で生じた場合には、損傷判断部材が破損されるので、この破損を検知することにより、支承の損傷の有無を判定することができる。また、損傷判断部材の状態から判断することができるので、センサやメモリなどを必要とせず、簡易な構成とすることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明の支承用損傷判定装置は、前記損傷判断部材が、前記限界変位量に応じた長さの長尺部材とされ、前記相対変位量が前記限界変位量を超えた場合に切断されること、を特徴とする。
【0012】
上記支承用損傷判定装置では、損傷判断部材として限界変位量に応じた長さの長尺部材を使用する。ここでの長さは、前記相対変位量が限界変位量の範囲内である場合には、たるみ等により変位分の長さがカバーされ、限界変位量を超えた場合に切断される長さである。
【0013】
上記構成によれば、損傷判定部材が切断されているかどうかにより、支承の損傷の有無を容易に判定することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明の支承用損傷判定装置は、前記損傷判断部材が、導電性部材とされ、前記支持部材側に取付けられた一端側と前記被支持部材側に取付けられた他端側との間の導通の有無を検査する検査部、をさらに備えたことを特徴とする。
【0015】
上記支承用損傷判定装置では、損傷判断部材として導電性部材が用いられている。したがって、支持部材側と被支持部材側との間の導通がなければ、切断されていると判断することができる。そこで、この導通を検査する検査部をさらに設けることにより、損傷判断部材が切断されているかどうかを、容易に検知することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明の支承用損傷判定装置は、前記支承が、この支承の最外部に配置された外側弾性部材、及び、前記外側弾性部材よりも内側に配置された内側弾性部材を含んで構成され、前記損傷判断部材が、前記内側弾性部材よりも弾性率の低い材料で構成されていることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、前記相対変位量が限界変位量を超えた場合には、最外部に配置された外側弾性部材が内側弾性部材よりも先に破損される。したがって、内側弾性部材に生じている損傷を外側弾性部材の破損により検知することができる。
【0018】
なお、上記の「被支持部材」としては、支承を介して支持される構造物であればよく、例えば、オフィスビル、病院、集合住宅、美術館、公会堂、学校、庁舎、神社仏閣、橋梁、競技場、照明灯等を挙げることができる。また、「支持部材」としては、支承を介して上記の被支持部材を支持するものであればよく、例えば、これら被支持部材の基礎、土台、地盤等を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上記構成としたので、簡易な構成で支承の損傷の有無を判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1実施形態]
【0021】
本発明の第1実施形態の損傷判定装置20は、図1に示すように、支持部材の一例である橋脚106と、被支持部材の一例である橋梁の橋桁108との間に配置された支承10の損傷の有無を判断するものである。
【0022】
支承10は、下板11、上板12、及び、ゴム体14を備えている。下板11は、橋脚106の台部106B上にボルトBで固定され、上板12は橋桁108の下面にボルトBで固定されている。
【0023】
ゴム体14は、四角柱状とされ、厚み方向に所定の間隙をあけて積層された複数の金属板15と、これらの間隙に配置されたゴム層16を備えている。ゴム体14の側面は、ゴム壁18によって覆われている。ゴム壁18により、ゴム層16は紫外線等から保護され、その耐久性が向上されている。ゴム層16及びゴム壁18の具体的材料としては、たとえば、EPDMなどの合成ゴムを挙げることができる。
【0024】
支承10には、損傷判定装置20が取り付けられている。損傷判定装置20は、導線部22及び検査部24を備えている。導線部22は、コイル状の導線で構成されており、一端が下板11に取り付けられ、他端が上板12に取り付けられて、ゴム壁18の内側に沿って配置されている。導線部22の上板12側に固定された一端部は、接続線21を介して検査部24と接続されている。導線部22の下板11側に固定された他端部は、導線部22以上の長さとされた接続線23と接続されている。接続線23は、ゴム壁18の内側に沿って配線され、検査部24と接続されている。
【0025】
導線部22は、橋桁108と橋脚106との間の相対移動量Dが支承10の限界変位量DLの範囲内であれば、切断されない長さとされている。ここで、限界変位量DLとは、ゴム体14の水平方向の許容変形量をいい、ゴム体14が変形された後に損傷されることなく元の状態に復元される変位量の最大値よりも小さい値とされている。限界変位量DLは、ゴム体14の特性に応じて、ユーザーにより予め設定されている。
【0026】
また、導線部22の長さは、橋桁108と橋脚106との間の相対移動が支承10の限界変位量DLを超えた場合に、切断される長さとされている。すなわち、導線部22は、コイル状とされていることから、橋桁108と橋脚106との間の相対移動が限界変位量DLとなった場合に、伸びが限界となるように引っ張られた状態となる長さとされている。
【0027】
検査部24は、接続線21と接続線23との間の導通の有無を確認する、不図示のスイッチを備えている。スイッチは、通常状態ではオフとされており、損傷の有無を確認するときにスイッチをオンすることにより、導通状態を確認することができる。
【0028】
次に、本実施形態の支承10及び損傷判定装置20の作用について説明する。
【0029】
橋脚106と橋桁108とが、図2(A)に示す位置から水平方向に相対移動すると、ゴム体14がせん断変形し、その弾性力が、橋脚106及び橋桁108に対し復元力として作用する。これにより、橋脚106と橋桁108との相対移動が制限されると共に長周期化されるので、これらが相対移動前の位置に戻ろうとすると共に、相対移動のエネルギーが吸収される。
【0030】
このときの相対移動量Dが限界変位量DL以下の場合には、図2(B)に示すように、導線部22は相対移動量Dを吸収するように伸び、切断されることはない。
【0031】
一方、相対移動量Dが限界変位量DLを超えた場合には、図2(C)に示すように、導線部22が切断される。導線部22は、ゴム体14のゴム壁18の内側に配置されているため、外側からでは切断されているかどうかは判別できない。本実施形態では、検査部24で導通検査を行うことにより導通の有無を確認し、導通していない場合に、導線部22が切断していると判断することができる。
【0032】
導線部22が切断されている場合には、ゴム体14は、限界変位量DLを超えて変形されていることから、損傷されていると判断することができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、導線部22の導通状態を検査することにより、容易に支承10の損傷を判定することができる。
【0034】
[第2実施形態]
【0035】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態と同様の部分については同一の符号を付して示し、その部分の詳細な説明は省略する。
【0036】
本実施形態の損傷判定装置30は、図3に示すように、糸32、及び、止部材34A、34Bを備えている。糸32は、一端が止部材34Aにより上板12に固定され、他端が止部材34Bにより下板11に固定されている。糸32は、ゴム体14の外側に配置され、橋桁108と橋脚106との間の相対移動量Dが支承10の限界変位量DLの範囲内であれば、切断されない長さとされている。すなわち、橋桁108と橋脚106とが相対移動されていない時には、限界変位量DLに対応する長さ分が、たるみとなっている。
【0037】
地震等の振動により、橋脚106と橋桁108とが、図3(A)に示す位置から水平方向に相対移動すると、ゴム体14がせん断変形する。このときの相対移動量Dが限界変位量DL以下の場合には、図3(B)に示すように、糸32のたるみで相対移動量Dが吸収され、糸32が切断されることはない。
【0038】
一方、相対移動量Dが限界変位量DLを超えた場合には、図3(C)に示すように、糸32が切断される。糸32は、ゴム体14のゴム壁18の外側に配置されているため、切断されているかどうかを外側から確認することができる。切断されていれば、ゴム体14は、限界変位量DLを超えて変形されていることから、損傷されていると判断することができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によっても、糸32が切断されているかどうかを確認することにより、容易に支承10の損傷を判定することができる。
【0040】
[第3実施形態]
【0041】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、第1、2実施形態と同様の部分については同一の符号を付して示し、その部分の詳細な説明は省略する。
【0042】
本実施形態の損傷判定装置40は、図4に示すように、スティック42、及び、筒44を備えている。スティック42及び筒44は、ゴム体14の外側に配置されている。スティック42は、棒状とされ、一端が上板12に取付けられ、この取付部分を支点として自由に回転可能とされている。筒44は、スティック42を筒中に挿入可能な円筒状とされており、下部が下板11にこの取付部分を中心に回転可能に取付けられている。筒44は、スティック42により支持されて下板11に対して立った状態とされている。スティック42及び筒44は、橋桁108と橋脚106との間の相対移動量Dが支承10の限界変位量DLの範囲内であれば、筒44がスティック42から抜け出さない長さとされ、限界変位量DLを超えた場合に、スティック42が筒44から抜け出す長さとされている。
【0043】
地震等の振動により、橋脚106と橋桁108とが、図4(A)に示す位置から水平方向に相対移動すると、ゴム体14がせん断変形する。このときの相対移動量Dが限界変位量DL以下の場合には、図4(B)に示すように、スティック42の先端部分が筒44内に挿入されたままとなり、橋桁108と橋脚106とが図4(A)に示す位置に戻った際には、スティック42と筒44も元の状態に戻る。
【0044】
一方、相対移動量Dが限界変位量DLを超えた場合には、図4(C)に示すように、スティック42が筒44から抜け出る。これにより、筒44は倒れ、図4(D)に示すように、橋桁108と橋脚106とが位置に戻っても、筒44は倒れたままの状態となる。筒44は、ゴム体14のゴム壁18の外側に配置されているため、倒れているかどうかを外側から確認することができる。倒れていれば、ゴム体14は、限界変位量DLを超えて変形されていることから、損傷されていると判断することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によっても、筒44が倒れているかどうかを確認することにより、容易に支承10の損傷を判定することができる。
【0046】
[第4実施形態]
【0047】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態では、第1、2、3実施形態と同様の部分については同一の符号を付して示し、その部分の詳細な説明は省略する。
【0048】
図5に示すように、本実施形態の損傷判定装置50は、ゴム体14の一部であるゴム壁18により構成されている。ゴム壁18の上端は上板12に固定され、下端は下板11に固定されている。
【0049】
ゴム壁18は、ゴム体14の内部に配置されるゴム層16よりも弾性率が低く、ゴム層16よりも先に損傷する材質とされている。また、ゴム壁18は、橋桁108と橋脚106との間の相対移動量Dが支承10の限界変位量DLを超えた場合には、破断や亀裂などが生じる伸び性能とされている。ゴム壁18は、繊維入りゴムとすることにより、伸び性能を容易に規定することができる。
【0050】
地震等の振動により、橋脚106と橋桁108とが、図5(A)に示す位置から水平方向に相対移動すると、ゴム体14がせん断変形する。このときの相対移動量Dが限界変位量DL以下の場合には、図5(B)に示すように、ゴム壁18も弾性変形し、橋桁108と橋脚106とが図5(A)に示す位置に戻った際には、復元される。
【0051】
一方、相対移動量Dが限界変位量DLを超えた場合には、図5(C)に示すように、ゴム壁18に破断や亀裂などの損傷DMが生じる。この損傷DMは、支承10が図5(A)に示す位置に戻っても残る。ゴム壁18は、ゴム体14の外側に配置されているため、この損傷DMを外側から確認することができる。破断や亀裂が生じていれば、ゴム体14は、限界変位量DLを超えて変形されていることから、損傷されていると判断することができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によっても、ゴム壁18の損傷の有無を確認することにより、容易に支承10の損傷を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施形態の損傷判定装置を示す一部破断図である。
【図2】本発明の第1実施形態の損傷判定装置の状態(A)〜(C)を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の損傷判定装置の状態(A)〜(C)を示す断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態の損傷判定装置の状態(A)〜(D)を示す断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態の損傷判定装置の状態(A)〜(C)を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 支承
11 下板
12 上板
14 ゴム体
15 金属板
16 ゴム層
18 ゴム壁
20 損傷判定装置
22 導線部
24 検査部
30 損傷判定装置
32 糸
34A 止部材
34B 止部材
40 損傷判定装置
42 スティック
44 筒
50 損傷判定装置
106 橋脚
108 橋桁
DL 限界変位量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材と被支持部材との間に配置され、被支持部材を支持部材と相対移動可能に支持する支承の損傷判定を行うための支承用損傷判定装置であって、
一端が前記支持部材側に取付けられると共に他端が前記被支持部材側に取付けられ、前記支持部材と前記被支持部材との間の相対変位量が前記支承の限界変位量を超えた場合に検知可能に破損される損傷判断部材、を備えた支承用損傷判定装置。
【請求項2】
前記損傷判断部材は、前記限界変位量に応じた長さの長尺部材とされ、前記相対変位量が前記限界変位量を超えた場合に切断されること、を特徴とする請求項1に記載の支承用損傷判定装置。
【請求項3】
前記損傷判断部材は、導電性部材とされ、前記支持部材側に取付けられた一端側と前記被支持部材側に取付けられた他端側との間の導通の有無を検査する検査部、をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の支承用損傷判定装置。
【請求項4】
前記支承は、この支承の最外部に配置された外側弾性部材、及び、前記外側弾性部材よりも内側に配置された内側弾性部材を含んで構成され、
前記損傷判断部材は、前記内側弾性部材よりも弾性率の低い材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の支承用損傷判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−7797(P2009−7797A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168870(P2007−168870)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】