説明

改善された温度特性を有するSAW素子

圧電基板(S)上に形成されるSAW素子に関して損失を低減するために、速いすべり波の伝播速度よりも表面波の伝播速度が低くなるまで、金属化部(M)により質量応力が高められる。その際、温度変動の上昇が限界を超えないようにする目的で、Alよりも著しく大きい固有層厚ないしは比層厚をもつ金属化部が用いられる。これと並行して、実質的に面全体にわたり被着された補償層(K)によって素子の温度変動が小さくされる。この補償層は、基板と金属化部の組み合わせによる弾性率に対し逆に作用する弾性係数の温度依存性をもつ材料から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSAW素子(Surface Acoustic Wave Bauelement = 表面音響波素子)に関する。この表面音響波素子は圧電基板上に形成されており、この基板上に伝播速度VSAWをもつSAWを生成する少なくとも1つの交差指型変換器を含む素子構造体が形成されている。その際、圧電基板にはこれに加えて、伝播速度VSSWをもつ緩慢なすべり波が発生する可能性がある。
【0002】
SAW素子は圧電基板上に形成され、この場合、良好な圧電特性をもつことから単結晶ウェハが有利である。圧電特性ならびにたとえばウェハにおける音響波の伝播速度など他の一連の特性は、圧電単結晶の結晶軸に対するウェハ表面の配向に依存する。したがって結晶カットの適切な選択により、SAW素子の望ましいパフォーマンスを支援するカット依存の特性をもつウェハを準備処理することができる。
【0003】
SAW素子のためには一般に、表面近くの音響波の効果的な生成および損失の少ない伝播を支援するカット角をもつウェハが選択される。これはたとえばSTカットをもつ水晶ウェハ、約40゜〜65゜の回転XYカット角度をもつニオブ酸リチウムウェハ、36゜〜46゜の回転XYカット角をもつタンタル酸リチウムなどである。ここに挙げたカット角度をもつ基板上のたいていの素子の場合、標準的なケースではSAWのほか基板中に潜り込む波も生成される。この種の波の音響エネルギーは素子においては利用できないので、これによって伝達損失が引き起こされる。したがってこの損失を最低限に抑えるための措置が必要である。しかしながら漏れ波損失の完全な抑圧は、これまで実現されていない。
【0004】
SAW素子に適した基板において発生する別の問題点は、温度変動がかなり大きい点にある。たとえば表面波の伝播速度のように、これによって基板特性に対する温度依存性が生じる。ひいてはこのことにより、素子の中心周波数の温度依存性も引き起こされる。漏れ波基板は水晶と比較して、約40ppm/Kというかなり大きい温度変動TCF(temperature coefficient of frequency)を有している。このような温度特性ないし温度変動を受け止めるためには、その上に形成されるSAW素子の帯域幅をそれ相応に大きく広げる必要があり、その目的は素子および殊にSAWフィルタが要求される仕様を満たせるようにすることである。
【0005】
素子に対し高い要求を課す仕様を備えたフィルタの用途は、US−PCS移動無線システムのために必要とされるデュプレクサである。このようなデュプレクサの仕様は、上述の大きい温度変動をもつSAW素子もしくは基板材料では遵守できない。そのためには温度変動を小さくすることが必要になってしまう。
【0006】
温度変動を小さくするためにすでに様々なやり方が提案されているけれども、それらの1つ1つにはやはりさらに別の深刻な欠点が付随している。
【0007】
K. NakamuraおよびA. Tourlogによる論文 " Effect of a ferroelectric inversion layer on the temperature characteristics of SH-type surface acoustic waves on 36°Y-X LiTaO3 substrates', IEEE Trans. Ferroel. Freq, Ctrl. Vol.41, No.6, 1994年11月、第872〜875頁によりたとえば知られているのは、圧電基板の焦電軸をウェハ表面で折り畳み、それによって温度変動を小さくすることである。ただしこの場合に生じる問題点とは、これに付随して結合が低減すること、製造が難しいこと、さらには約15ppm/KまでしかTCFを低減できないことである。
【0008】
K. Eda等による論文 'Direct Bonding of piezoelectric materials and its applications', IEEE Ultrason. Symp. Proc. 200 299頁〜309頁によれば、温度膨張の小さいウェハ上にタンタル酸リチウムの薄膜を生成することが知られている。この上に被着された素子は、ウェハによる熱の歪みゆえに低減された温度変動を有している。しかしながらこの場合の欠点として挙げられるのは、このような基板材料を製造するには複雑な技術が必要とされることであり、これによってプロセスの手間がかかり、ひいてはコストが高くなってしまう。
【0009】
K. Asai, M. Hikita 等による論文 "Experimental and theoretical investigation for temperature characteristics and propagation losses of SAWs on Si0/Al/LiTaO" IEEE Ultrason. Symp. 2002 (刊行予定)によれば、基板および金属化部の上に面全体にわたり被着されたSiO膜によってSAW素子の温度変動を小さくすることが知られている。ただしこの場合、金属化部の高さを慣用のSAW素子に比べて著しく低減しなければならないことが判明した。その結果、減衰が高められてしまう。その理由は、層厚が小さくなることで変換器におけるフィンガ抵抗が増大してしまうからである。
しかも温度変動を低減するこの方法のためには、SiO膜の層厚を約20% h/1(すなわちそこを伝播可能なSAWの波長に対し約20%)ほど著しく高める必要がある。このためSiO層の品質は、達成される温度変動の程度および甘受しなければならない挿入損に関して重要である。
【0010】
しかしながらこれまで述べてきた方法のいずれによっても、US−PCSデュプレクサをSAW素子として問題なく実現するのは不可能である。
【0011】
したがって本発明の課題は、漏れ波基板上に形成され低損失かつ小さい温度変動をもつSAW素子を有するSAW素子を提供することにある。
【0012】
本発明によればこの課題は、請求項1の特徴を備えたSAW素子によって解決される。 従属請求項には本発明の有利な実施形態が示されている。
【0013】
本発明者が見出した可能性とは、漏れ波損失の発生を首尾よく抑圧し、さらに共働する措置を講じることで温度変動を抑圧することである。ここで見出されたのは、表面波もしくはSAWの速度を、緩慢なすべり波の伝播速度よりも小さくなるよう低減できれば、漏れ波損失の発生を抑圧できることである。そしてこのことは、金属化部により質量応力を十分に高めることで達成される。このことだけではたしかに温度変動が大きくなってしまう。しかしながら本発明によればこれに加えて、ウェハおよびその上に被着された金属化部の上に面全体にわたり補償層が設けられており、この補償層は弾性係数の温度依存性が小さい金属から選び出されている。つまりここで見出されたのは、質量応力をいっそう高めることにより同時に基板表面近くのSAWも保持できることである。本発明によればこのことによって、補償層内の十分な部分でSAWが伝播し、その際に補償層の材料特性ゆえにその伝播特性に関してごく僅かな温度依存性しか生じないようになる。
【0014】
本発明において殊に有利であるのは、標準的な金属化部よりも十分に高められた質量応力のためにも補償層のためにも、かなり僅かな層厚しか必要とされないことである。層厚が僅かであることの利点は、そのような層厚を技術的にいっそう簡単に扱えること、安価なコストで製造できること、さらには両方の層(質量応力の高い金属化部と補償層)を組み合わせたところで素子特性に対し悪影響を及ぼさないことである。その結果として、挿入損が小さいにもかかわらず、たとえば15ppm/Kよりも十分に小さい温度変動をもつSAW素子が得られる。この場合、フィルタとして構成されたこの種のSAW素子は、たとえばUS−PCS移動無線システム用のデュプレクサとしても適している。
【0015】
質量応力を高める目的で素子構造のために、さらにたとえば(交差指型トランスジューサなどのような)変換器電極のために、一般に利用されるアルミニウムよりも大きい比重量をもつ金属化部が適用される。有利であるのは、(金属化部のサンドウィッチ構造においてすべての層厚について平均値を求めると)アルミニウムの厚さよりも少なくとも50%は上に位置する平均的厚さをもつ金属化部を適用することである。
この場合、有利な電極材料として判明したのは銅、モリブデンおよびタングステンである。したがって本発明による有利な金属化部は殊に、これらの金属のうちの1つ、主としてこれらの金属のうちの1つまたは複数から成る合金、あるいは主として上述の金属のうちの1つまたは複数から成る層を含む材料層の組み合わせによって構成されている。ほぼもっぱら銅から成る金属化部をベースとして上述の目的は、(構造体を伝播可能な音響波長に対し相対的に)約10%h/λだけに相当する層厚ですでに達成される。この波長は1つの材料に依存するのみならず、構造体のすべての材料およびその寸法にも依存し、つまりたとえば圧電材料、金属化部、ならびにこの金属化部の上に被着される補償層にも依存する。10%h/λのCuから成る金属化部が一般的に使用されている10%h/λのアルミニウムに対してもつさらに別の利点は、導電性が高いことから素子におけるオーム損失を低減できることである。しかもCuにより音響マイグレーションに対する高い耐性が提供され、したがって高いパワー両立性ないしはパワーコンパチビリティをもつようになる。適切なプロセスを用いることでCuをほぼ単結晶の層として生成することができ、これによって導電率ならびにパワーコンパチビリティをさらに向上させることができる。
このようにして達成される質量応力をいっそう重い金属であるMoおよびWに換算すれば、上述の目的はそれらの金属によってさらに小さい層厚ですでに達成される。
【0016】
驚くべきことに、SiOは補償層のために殊に良好に適している材料であり、その弾性率の相応に逆の温度依存性によって約6%h/λのSiOですでにほぼ0ppm/Kの温度特性TCFを実現可能であることが判明した。この場合、SiOから成る補償層の有する利点とは、この層を簡単に被着することができ、かつこの層は素子ともその製造ステップとも互換性があることである。さらに判明したのは、SiO補償層が約4〜8%h/λの層厚ですでに適切な温度特性補償のために十分なことである。この層厚は、すでに挙げたAsai等による論文で提案されている20%h/λの層厚よりも明確に下に位置しており、その場合にはこの20%h/λという層厚によってのみ温度特性を補償しようとしている。したがって補償層の厚さは金属化部の厚さよりもやはり小さい。本発明による素子における著しく薄い層厚が可能となるのは、いっそう高い質量応力によりSAWを基板表面に張り渡すことができるからであり、したがって著しく薄い補償層ですでに温度変動の十分な低減が得られるようになる。
【0017】
有利であるのは、本発明による素子を回転カットによるタンタル酸リチウム基板上に形成することであり、有利な回転角度は30゜〜46゜の回転YXに位置する。このように選定されたカットをもつ基板上の素子は、きわめて良好な特性を有している。しかも本発明はこの種の基板上に形成された素子自体に対し、きわめて有利な作用を及ぼす。
【0018】
有利には大部分が銅から成る金属化部は、それに付随して相対的な層厚が高いときに温度変動が大きい一方で、SAW素子においては侵食の影響をかなり受けやすいことから、これまで使われてこなかった。本発明による補償層によれば、侵食の影響を受けやすいという上述の問題点も首尾よく解消され、早期の侵食に対し銅の表面が保護される。
【0019】
大部分が銅から成る金属化部の固着特性は、基板と金属化部との間に設けられている付加的な固着層によって改善される。これに適しているのは薄い金属層であり、たとえばアルミニウム、モリブデン、ニッケル、チタン、タングステンあるいはクロムなどである。また、多層の固着層あるいは上述の金属のうちの1つまたは複数から成る合金も適しており、その際、固着層の層厚全体は約1〜7nmであれば十分である。通常、5nmの厚さの固着層で十分である。
【0020】
金属化部として銅を用いることに付随して製造のばらつきが高まる可能性があるが、本発明によればこれをトリミング手法によって低減させることができる。これによって共振周波数の調整も同時に首尾よく調整することができる。この目的で補償層の層厚を被着時に直接、面全体にわたりまたは部分的な面に関して変化させることもできるし、あるいは被着後に適切にエッチングしてもよい。補償層としてSiO層を用いることにより、有利にはこのためにドライエッチング法が適用される。
【0021】
本発明によるSAW素子の特性にさらに影響を及ぼすのは、SiO層の品質である。この品質は主として、被着法およびそれにより達成される化学量論たとえばSiO層の酸素含有量に関する化学量論によって決定される。殊に適しているのはたとえば、1.9≦x≦2.1とした場合のSiOの組成の層である。屈折率が1.43〜1.49という特性のSiO層も非常に適している。このような層はたとえばスパッタリング、CVD法またはPDV法により、エッジをカバーしながらボイドないしは空洞なく生成することができる。これはプロセスコントロールならびにパラメータ計算の視点からも有利である。さらに有利であるのは、補償層および殊にSiO層を低温でデポジットすることである。このようにすることで、室温においてごく僅かな内在的電圧しか発生しない補償層を生成することができる。
【0022】
本発明による素子にたとえば10%h/λの厚さの銅による金属化部を設け、さらにその上にたとえば6%h/λの層厚で上述のように変形されて被着されたSiO層を設けることで、15ppm/Kよりも小さい温度変動が実現される。
【0023】
金属化部の耐侵食性をさらに高める目的で、金属化部の上に別の薄い不活性化層たとえば薄い酸化アルミニウム層を設けることができる。この層はたとえばスパッタリングによりじかに被着させることができるし、あるいは択一的に薄いアルミニウム層を被着し、ついで酸化によりそれ相応の酸化アルミニウムに変化させることによって生成することができる。
【0024】
銅の上に金から成る薄層を設けることによっても耐侵食性に対する要求が同様に満たされ、さらにこのような層によって外部に対する電気接続の出発点が形成される。その際に知られているのは、後続のバンピングのための基本材料としてAuがきわめて適していることである。
【0025】
素子(チップ)をフリップチッププロセスによってケーシングに組み込む場合またはモジュール上に取り付ける場合には殊に本発明によって、温度変動を低減するための措置が構造上の相違に至る結果とはならず、それゆえ標準プロセスを適用できるという利点が得られる。この場合、新たなレジストプロセスないしはリソグラフィプロセスは不要であり、新たなデポジットプロセス、ウェハ製造プロセスあるいはパッケージ技術も同様にほとんど必要とされない。本発明は素子のデザインないしはそのために利用される技術に左右されるものではない。
【0026】
本発明による素子をたとえばDMSフィルタとして構成することができ、これはすでにそれ自体がそもそも、挿入損が僅かである点で傑出している。さらに有利なことに、本発明をSPUDTフィルタ(Single Phase Uni Directional Transducer 単相単方向トランスジューサ )の製造、ならびにリアクタンスフィルタおよびMPRフィルタ(Multi-Port-Resonator マルチポート共振器)に適用することができる。同様に本発明はディプレクサないしはダイプレクサおよびデュプレクサにも適しており、それらのサブフィルタは上述のフィルタ形式に相応する。また、本発明はいわゆる2−in−1型フィルタにもきわめて適している。本発明によるフィルタによって構成されたデュプレクサによって初めてUS−PCS移動無線システムのための高い要求を満たすことができ、このことはこれまでSAWフィルタを用いてはまだ不可能であった。
【0027】
次に、図面を参照しながら実施例に基づき本発明について詳しく説明する。それらの図面は理解を深めるために用いるものであり、したがって概略的に示されているにすぎず、縮尺どおりには描かれていない。
【0028】
図1は、金属化構造体のための例として挙げた交差指型変換器の平面図である。
【0029】
図2は、金属化された概略断面図に基づき本発明を示す図である。
【0030】
図3は、付加的な固着層とともに金属化部を示す図である。
【0031】
図4は、付加的な不活性化層とともに金属化部を示す図である。
【0032】
図5は、多層の金属化部を示す図である。
【0033】
図6は、金属化部の相対的な層厚に依存してAlとCuから成る金属化部の温度特性の経過を示す図である。
【0034】
図7は、補償層として用いられるSiO層の層厚に依存して10%のCu金属化部の温度特性の経過を示す図である。
【0035】
図1には、本発明によるSAW素子の変換器電極を金属化するための例として、それ自体公知の交差指型変換器IDTの平面図が示されている。これはSAW素子の基本構成部分であり、たとえば端子T1,T2に供給される高周波電気信号を表面波に変換するための、または表面波を電気信号に相応に逆変換するための電気音響変換の役割を果たす。交差指変換器IDTは少なくとも2つの電極を有しており、これには近くを互いに平行に延在する電極フィンガEFが設けられていて、これらの電極は自身のフィンガ部分で交差指状に相互に組み合わせられている。両方の電極にはそれぞれ1つの電気端子T1,T2を設けることができ、それらの電気端子へ電気信号を入力結合または出力結合することができるし、あるいはアースと接続することができる。
【0036】
図2には、本発明による素子を図1に示したカットライン2に沿った断面から見た様子が示されている。圧電基板上たとえば回転YX39゜カットのタンタル酸リチウムウェハ上に、金属化部Mたとえば上述の交差指型変換器IDTが被着されている。この場合、金属化部は純粋な銅から成り、あるいは銅の割合の多い合金から成る。金属化部の高さhはSAW素子の中心周波数に依存して、この構造体を伝播可能な音響波の波長の約10%に相当する値に設定される。
【0037】
金属化部はたとえば面全体にわたり蒸着、スパッタリングまたはCVDあるいは他の手法によりデポジットされ、除去技術を用いてパターニングされる。ただし、最初に金属化部Mを面全体にわたり被着させ、ついでエッチマスクを用いてパターニングすることもできる。
【0038】
金属化部Mが基板S上にたとえば図1に示したパターンで被着された後、ついで面全体にわたり補償層Kが有利にはエッジをカバーしながら均等な層厚で被着される。層厚hとしてたとえば、この構造体を伝播可能な音響波の波長に対し6%の値が設定される。既述のように、あとからエッチバックによりさらにトリミングすることができる。
【0039】
図1に示されている交差指型変換器のほか本発明によるSAW素子には、有利にはすべてが同じ材料から成る金属化構造体を設けることができる。コンタクト用に設けられた電気端子面T1,T2を除いて、基板の表面全体を補償層Kによって覆うのも有利である。また、上述の電気端子および接続導体ならびに電極フィンガEFを接続する電流レールのところを、金属化部で付加的に被覆することができる。このような被覆をたとえば電気化学的プロセスによって行うことができ、その際、被着すべきではない金属化構造体を覆うのが有利である。このように覆う目的で既述の補償層を用いることができ、この補償層は電気化学的ステップの前に相応にパターニングされる。ついで素子と外部コンタクトとの電気接続を、バンプ接続または他のはんだ接続たとえばワイヤボンディングなどによって行うことができる。
【0040】
図3には本発明の別の実施形態が示されており、この実施形態によれば金属化部Mの下にたとえば5nm厚の薄い固着層Hが被着される。固着層Hも金属化部Mと同様に面全体にわたり被着して、金属化部といっしょにパターニングすることができる。導電性の固着層Hを金属化部Mの一部分としてもよい。
【0041】
図4には本発明のさらに別の実施形態が示されており、この実施形態によれば金属化部Mの製造後に最初に薄い不活性化層が、金属化部Mとそれらの間に露出している基板Sの上に面全体にわたり被着される。この種の不活性化層Pを電気的に絶縁性の任意の材料によって構成することができ、たとえば厚い酸化物、窒化物または炭化物によって構成することができる。DLC(Diamond Like Carbon)も非常に適している。この種の不活性化層Pを用いることによって、腐食たとえば空気中の酸素によるコントロールされない酸化などから、金属化部Mが非常に効果的に保護される。この種の不活性層Pによって補償層Kの厚さを僅かにして形成することができる。なぜならば電極の不活性化を補償層Kによって行う必要がないからである。
【0042】
不活性層Pのための層厚として数ナノメータの厚さであれば十分であり、たとえば5〜10nmの厚さであれば十分である。
【0043】
図5には本発明の別の実施形態が示されており、この実施形態によれば多層構造の金属化部Mが用いられる。この図にはたとえば4層の金属化部構造が描かれており、これには部分層M1,M2,M3,M4が設けられている。本発明によれば金属化部の質量応力を高める目的で、これらの層のうち少なくとも1つの層が高い比層厚ないしは固有層厚をもつ材料によって構成されており、その際、他の層のうち少なくとも1つの層を慣用の電極材料つまりアルミニウムまたはアルミニウム含有合金によって構成することができる。この場合、少なくとも2つの層を交互に用いた層構造を選択するのが有利であり、それらの層のうち少なくとも1つの層はMo,CuまたはWといった金属から成る。金属化部層の層厚を等しくまたはそれぞれ異なるように選定することができ、その際、種々の層厚の適切な組み合わせによって導電性ひいては抵抗も設定できるし層応力も設定できる。この場合、層応力が相応に小さいのであればそれに応じていっそう大きい金属化部層厚hを維持しなければならないことだけは留意しなければならない。金属化部Mの上の補償層Kとしてここでも他のすべての実施例と同様、約4〜10%h/λの層厚をもつSiO層が用いられる。
【0044】
図6には、(補償層の設けられていない)種々の金属化部により基準周波数の温度特性(TCF)に及ぼされる作用がシミュレーション計算に基づき示されている。このダイアグラムには、シミュレートされた温度特性TCFの経過が質量応力に依存して示されており、その際、質量応力はアルミニウムに関する金属化部の高さhM/Alとしてx軸に描かれている。この場合、種々の金属AlおよびCuに関するそれぞれ異なる特性曲線は、補償層なしで計算した。金属化部の高さはアルミニウムに関するものであり、これは金属が重たくなって質量応力が大きくなると比重量にほぼ比例して小さくなる。さらにこの図には垂直方向の分割区分によって質量応力の限界も表されており、この限界を超えるとVSAW<VSSWが成り立つ。図から明らかなように、アルミニウムから成る公知の金属化部によってもこのことは達成できない。
【0045】
図7には温度変動の低減に関するシミュレーション計算が示されており、これは10%h/λのパターニングされたCu構造体の上にSiO層を被着させることにより達成することができる。ここで最初の値(x軸上のゼロ点における値)は、図6において最後に示されている質量応力が最も高い値(Cu金属化部の値)に対応する構造について計算されている。この図に示されているように、大きい質量応力によりかなり大きい温度変動を、補償層を用いることでゼロまで低減することができ、このことは計算の基礎を成す10%h/λのCu構造体のためには、6%h/λのSiO層によって首尾よく行われる。TCFを0とするのは、慣用のAl金属化部であると質量応力を最小にしても達成されない。
【0046】
本発明をごく僅かの実施例に基づき説明してきたけれども、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。本発明の範囲には、個々の図面に示した特徴を互いに組み合わせることも含まれる。本発明を適用可能な材料の選択、層厚、金属化部構造ならびに素子の形式に関して、さらに別の変形実施例も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】金属化構造体のための例として挙げた交差指型変換器の平面図
【図2】金属化された概略断面図に基づき本発明を示す図
【図3】付加的な固着層とともに金属化部を示す図
【図4】付加的な不活性化層とともに金属化部を示す図
【図5】多層の金属化部を示す図
【図6】金属化部の相対的な層厚に依存してAlとCuから成る金属化部の温度特性の経過を示す図
【図7】補償層として用いられるSiO層の層厚に依存して10%のCu金属化部の温度特性の経過を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SAW素子において、
圧電基板(S)と、少なくとも1つの変換器電極が設けられており、該変換器電極は圧電基板上に取り付けられていて金属化部(M)を有しており、該金属化部は1つまたは複数の材料から構成されており、該材料の平均比層厚はAlの比層厚よりも少なくとも50%上に位置しており、
温度変動を低減するため金属化部の上に面全体にわたりまたは一部の面に、弾性係数の温度依存性をもつ材料から成る薄い補償層(K)が被着されており、
該補償層(K)は基板の温度変動に抗する作用をもち、構造体中を伝播可能な波長の15%よりも薄いことを特徴とする、
SAW素子。
【請求項2】
請求項1記載の素子において、前記金属化部の弾性係数はアルミニウムよりも小さい温度依存性をもつことを特徴とする素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の素子において、前記金属化部(M)は大部分が金属から成り、銅、モリブデン、タングステン、金、銀、白金のうちから選択されていることを特徴とする素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の素子において、前記補償層(K)はSiOを含むことを特徴とする素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の素子において、前記金属化部(M)は銅または銅の合金から選択されており、6〜14% h/λの相対的な金属化部高さを有することを特徴とする素子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項記載の素子において、前記補償層(K)はSiOによって構成されており、4〜10% h/λの高さを有することを特徴とする素子。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載の素子において、前記基板(S)は回転カットによるタンタル酸リチウムであることを特徴とする素子。
【請求項8】
請求項7記載の素子において、前記基板(S)は、回転カットであり30〜48゜の回転角を伴うタンタル酸リチウムであることを特徴とする素子。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項記載の素子において、前記基板はニオブ酸リチウムから成ることを特徴とする素子。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか1項記載の素子において、前記基板は水晶から成ることを特徴とする素子。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項記載の素子において、金属化部(M)の下に固着層が配置されていることを特徴とする素子。
【請求項12】
請求項11記載の素子において、前記固着層(H)はAl,Mo,Ti,W,Cr,Niまたはこれらの金属の合金から成ることを特徴とする素子。
【請求項13】
請求項11または12記載の素子において、前記固着層(H)は1〜7nmの厚さを有することを特徴とする素子。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項記載の素子において、前記補償層(K)は、1.43〜1.49の屈折率をもつSiOによって構成されていることを特徴とする素子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項記載の素子において、温度変動TK<20 ppm/Kであることを特徴とする素子。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項記載の素子において、前記補償層(K)の下に、該補償層(K)よりも薄い不活性化層(P)が設けられていることを特徴とする素子。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項記載の素子において、MPRフィルタとして構成されていることを特徴とする素子。
【請求項18】
請求項1から16のいずれか1項記載の素子において、リアクタンスフィルタとして構成されていることを特徴とする素子。
【請求項19】
請求項1から16のいずれか1項記載の素子において、DMSフィルタとして構成されていることを特徴とする素子。
【請求項20】
請求項1から16のいずれか1項記載の素子において、SPUDTフィルタとして構成されていることを特徴とする素子。
【請求項21】
請求項1から19のいずれか1項記載の素子において、デュプレクサとして構成されていることを特徴とする素子。
【請求項22】
請求項1から19のいずれか1項記載の素子において、ダイプレクサとして構成されていることを特徴とする素子。
【請求項23】
請求項1から19のいずれか1項記載の素子において、2−in−1フィルタとして構成されていることを特徴とする素子。
【請求項24】
US−PCS移動無線システム用のフィルタまたはデュプレクサであることを特徴とする、請求項1から20のいずれか1項記載の素子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−513649(P2006−513649A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566781(P2004−566781)
【出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014350
【国際公開番号】WO2004/066493
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】