説明

放射性ラベル基を有する3−[3−(ベンゾイルアミド)ベンジルオキシ]アスパラギン酸誘導体とその製造方法

【課題】グルタミン酸トランスポーターの特異的検出に使用できる、グルタミン酸トランスポーターに選択的かつ高親和性の、放射性ラベルされたリガンドを提供する。
【解決手段】下記式(1)


(式中、Xは放射性原子を含む直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、水酸基、直鎖又は分岐低級脂肪族アルコキシ基、アミノ基、直鎖又は分岐低級脂肪族アシルアミド基、ハロゲン原子、ハロゲン化された直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基を示し、そしてR1, R2は各々水素、直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、アセトキシメチル基を示す。)で表される、ベンゾイル基上に放射性ラベル置換基を有する3-[3-(ベンゾイルアミド)ベンジルオキシ]アスパラギン酸、又はそのエステル誘導体若しくは塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性ラベル基を有するL-グルタミン酸取り込み阻害剤に関する。さらに詳細にはL-グルタミン酸トランスポーターのグルタミン酸取り込みに対する抑制作用を示し、かつ放射性原子を有する下記式(1) [式(1)において、Xは放射性原子を含む直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、水酸基、直鎖又は分岐低級脂肪族アルコキシ基、アミノ基、直鎖又は分岐低級脂肪族アシルアミド基、ハロゲン原子、ハロゲン化された直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基を示し、R1, R2は各々水素、直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、アセトキシメチル基を示す。]で表される3-[3-(ベンゾイルアミド)ベンジルオキシ]アスパラギン酸の誘導体;式(2)[式(2)において、R1, R2は各々水素、直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、アセトキシメチル基を、Yは置換反応に供するための脱離基で、有機金属、ハロゲン原子、ジアゾ基、ジアゾニウム基、トリアルキルアンモニウム基、又はニトロ基を示し、Bocはt-ブトキシカルボニル基を示す。]で表される式(1)の化合物の前駆体;式(3) [式(3)において、R3は直鎖又は分岐の低級不飽和脂肪族アルケニル基、例えばビニル基、プロペニル基、アリル基、又はブテニル基を示す。]で表される、式(1)においてXがトリチウムを含む脂肪族アルキル基であり、R1及びR2がそれぞれ水素原子である化合物の前駆体;式(2)の化合物から式(1)の化合物を得る製造方法;式(3)の化合物から式(1)においてXがトリチウムを含む脂肪族アルキル基であり、R1及びR2がそれぞれ水素である化合物を得る製造方法;並びに式(1)の化合物を用いた生物試料の検定方法に関する。
【0002】
【化1】

【0003】
【化2】

【0004】
【化3】

【0005】
本化合物の開発は、L-グルタミン酸トランスポーター機能の特異的な検出方法を提供するものであり、てんかん、ハンチントン氏病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病などの神経障害、神経変異症等の治療への展開が期待できる。
【背景技術】
【0006】
L-グルタミン酸はほ乳動物の中枢神経系における興奮性神経刺激の伝達物質であり、シナプス間での素早い神経伝達を引き起こすだけではなく、高次で複雑な生理的過程である記憶や学習にも関与していることが知られている。シナプス間での興奮性の神経伝達は、プレシナプスからのグルタミン酸の放出に始まり、神経末端やグリア細胞に存在する高親和性のグルタミン酸トランスポーターによるシナプス間隙からの素早いグルタミン酸の取り込みにより終焉する。(Attwell, D. and Nicholls, D., TIPS 68-74, 1991)
いくつかの遺伝的な神経変性疾患においては、患者の脳の一部にナトリウム依存性グルタミン酸取り込み活性の低下が報告されている(Rothstein, J. D. et al., N. Eng. J. Med 326, 1464-1468, 1992)。また、本発明者らは薬物依存ラットにおいてグルタミン酸トランスポーター遺伝子の発現量が変化し、トランスポーター阻害により症状が増悪されることを見出している(Ozawa, T. et al., Eur.J. Neurosci., 19, 221-226, 2004; Sekiya, Y., et al., Eur. J. Pharmacol., 485, 201-210, 2004)。このため、グルタミン酸トランスポーターの機能の発現と阻害がこれらの疾患や薬物依存との関連で注目されている。例えば、グルタミン酸トランスポーターの機能不全はてんかん・ハンチントン氏病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)・アルツハイマー病・薬物依存などの神経障害の一因と考えられている。
【0007】
したがって、グルタミン酸トランスポーターの生理的役割や病態との関わりを調べる上で選択的な阻害剤は不可欠である(Bridges, R. J. et al., Curr Pharm Des 5: 363-379, 1999; Balcar, V. J., Biol Pharm Bull 25: 291-301, 2002; Campiani, G. et al., J Med Chem 44:2507-2510, 2003; Shigeri, Y. et al., Brain Res. Rev. in press)。グルタミン酸トランスポーターの機能の特異的検出法の開発は、これらの病態とトランスポーター機能の関連の解明に大きく貢献できる。
【0008】
上記の考えに基づき、本発明者らはβ位に置換基をもつβ-ヒドロキシアスパラギン酸誘導体が、興奮性アミノ酸輸送因子の全てのサブタイプEAAT1-5に対して、グルタミン酸の取り込み阻害作用を示すことを報告している(Lebrun, B. et al., J. Biol. Chem. 272, 20336-20339, 1997; Shimamoto, K. et al., Mol. Pharmacol. 53, 195-201, 1998; Shigeri, Y. et al., J. Neurochem. 79, 297-302, 2001)。中でもスレオ-β-ベンジルオキシアスパラギン酸(TBOA)は、全てのサブタイプにおいてブロッカーとして働き、グルタミン酸の取り込みのみならず、ヘテロエクスチェンジによるグルタミン酸の漏出やナトリウムイオンの流入も阻害することを見いだしている(Chatton, J-Y. et al., Brain Res. 893, 46-52, 2001; Anderson, C. M. et al., J. Neurochem., 79, 1207-1216, 2001)。さらに本発明者らはTBOAのベンゼン環上に置換基を導入することにより、親和性が飛躍的に向上することを見出している(Shimamoto et al., Mol. Pharmacol., in press)。
【0009】
上記のトランスポーター選択的かつ高親和性のリガンドは、これらを更に放射性ラベルすることができれば、微量でも特異的結合の検出が可能となり、結合実験を利用した新規リガンドのスクリーニングや蛋白の単離などにより、薬物創成にさらに貢献すると期待できる。また、オートラジオグラフィーやPET (Positron Emission Tomography: 陽電子放射断層撮影法)の技術を用いて、トランスポーターの分布・発現や取り込み能の高さを可視化することができると期待される。しかしながら、これまで親和性や選択性の観点から、特異結合検出や可視化技術に供することができる化合物は存在しなかった。
【先行技術文献】
【0010】
【非特許文献1】Attwell, D. and Nicholls, D., TIPS 68-74, 1991
【非特許文献2】Rothstein, J. D. et al., N. Eng. J. Med 326, 1464-1468, 1992
【非特許文献3】Ozawa, T. et al., Eur.J. Neurosci., 19, 221-226, 2004
【非特許文献4】Sekiya, Y., et al., Eur. J. Pharmacol., 485, 201-210, 2004
【非特許文献5】Bridges, R. J. et al., Curr Pharm Des 5: 363-379, 1999
【非特許文献6】Balcar, V. J., Biol Pharm Bull 25: 291-301, 2002
【非特許文献7】Campiani, G. et al., J Med Chem 44:2507-2510, 2003
【非特許文献8】Shigeri, Y. et al., Brain Res. Rev. in press
【非特許文献9】Lebrun, B. et al., J. Biol. Chem. 272, 20336-20339, 1997
【非特許文献10】Shimamoto, K. et al., Mol. Pharmacol. 53, 195-201, 1998
【非特許文献11】Shigeri, Y. et al., J. Neurochem. 79, 297-302, 2001
【非特許文献12】Chatton, J-Y. et al., Brain Res. 893, 46-52, 2001
【非特許文献13】Anderson, C. M. et al., J. Neurochem., 79, 1207-1216, 2001
【非特許文献14】Shimamoto et al., Mol. Pharmacol., 65, 1008-1015, 2004
【発明の開示】
【0011】
本発明は、グルタミン酸トランスポーターの特異的検出に、リガンド及び/又は阻害剤として使用できる、グルタミン酸トランスポーターに選択的かつ高親和性の、放射性ラベルされた化合物、及びその製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、該放射性ラベルされた化合物を製造するための前駆体化合物も提供する。
【0013】
本発明者らはTBOA(スレオ-β-ベンジルオキシアスパラギン酸)誘導体の強い親和性に着目し、TBOAのベンゼン環上に放射性ラベル化された置換基を有する誘導体を合成し、トランスポーター機能の特異的検出に用いることを考えた。鋭意研究したところ、高親和性ブロッカーであるベンゾイルアミド置換TBOA類 (X-BzA-TBOA)のベンゾイル上に放射性原子を含む置換基を導入することで、放射活性を利用してグルタミン酸トランスポーターに対する結合を選択的に検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は化学式(1)
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、Xは放射性原子を含む直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、水酸基、直鎖又は分岐低級脂肪族アルコキシ基、アミノ基、直鎖又は分岐低級脂肪族アシルアミド基、ハロゲン原子、ハロゲン化された直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基を示し、そしてR1, R2は各々水素、直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、アセトキシメチル基を示す。)で示される、3-[3-(ベンゾイルアミド)ベンジルオキシ]アスパラギン酸のベンゾイル基の置換基として、放射性ラベル化された基を含む誘導体又はそのエステル誘導体若しくは塩を、グルタミン酸トランスポーター機能を特異的に検出するためのリガンドとして提供する。
【0017】
式(1)の化合物の基Xが含み得る放射原子としては、125I, 14C, 3H, 123I, 18F, 11C, 13N, 15Oが例示でき、これらの原子を含むXの具体例には、メチル基、エチル基、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、アミノ基、アセトアミド基、ハロゲン原子、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基等が挙げられる。
【0018】
本発明の化合物は、その阻害活性発現時にはカルボン酸部分は遊離(R1=R2=水素)の状態で作用すると考えられるが、生体内での動態や脳血液関門透過性の観点から、式(1)中のR1, R2の両方若しくは片方をエステルに変換して使用する場合もある。エステルとしてはメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、アセトキシメチルが例示できる。これらのエステルはいずれも本発明に含まれる。
【0019】
本発明の化合物は通常の方法によって塩とすることができる。このような塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等があるが、これらはいずれも本発明に含まれる。一方、通常の酸によっても塩とすることができる。このような塩としては、塩酸塩、硫酸塩等の無機酸の塩、酢酸塩、クエン酸、トリフルオロ酢酸塩等の有機酸の塩等があるが、これらも本発明に含まれる。
【0020】
TBOAには4つの立体異性体が存在し、(2S,3S)体が最も強い活性を示す。また、ベンゾイルの環上の置換基の位置はオルト、メタ、パラの3種が存在するが、化合物の構造活性相関の検討から、パラ配置のものが強い活性を示すことが判明している。従って次に示す合成スキームでは、アスパラギン酸上の立体配置が(2S,3S)配置でベンゾイル上の置換基がパラ配置の化合物についての導入例を示すが、置換様式の異なる異性体も全て本発明に含む。
【0021】
本発明の式(1)の化合物を製造するためには、式(2)
【0022】
【化5】

【0023】
(式中R1, R2は各々水素、直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、アセトキシメチル基を示し、Yは置換反応に供するための脱離基で、有機金属、ハロゲン原子、ジアゾ基、ジアゾニウム基、トリアルキルアンモニウム基、又はニトロ基を示し、Bocはt-ブトキシカルボニル基を示す)
で表される化合物の脱離基Yと放射性原子との親電子置換反応で得ることができる。
【0024】
Yが有機金属である場合の例としては、スズ、タリウム、水銀、ケイ素、アルミニウム、ホウ素が例示され、金属上の有機置換基としては低級直鎖アルキル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基が例示される(Baldwin R. M., Appl. Radiat. Isot. 37, 817-821, 1986)。
【0025】
例えば、Xが125I、R1, R2が水素の式(1)の化合物 (125I-BzA-TBOA)は、例えば次のスキームに従い、式(2)でYが有機スズである前駆体(化合物3)と[125I]NaIから以下のようにして合成することができる。
【0026】
【化6】

【0027】
すなわち、既知化合物(2)からTFB-TBOAを合成するのと同様の方法(特願2003-507101 (PCT/JP02/06286, WO03/00698), Shimamoto, K. et al., Mol. Pharmacol., in press)で得られる(2S,3S)-3-[3-(4-ブロモベンゾイル)ベンジルオキシ]アスパラギン酸の保護体(4)にパラジウム触媒存在下、トリブチルチンダイマーを作用させて置換反応を行い、スズ化合物(5)を得る。これに酸化剤、酢酸存在下で放射性ヨウ化ナトリウムを反応させて、酸化的スズヨウ素交換反応により放射性ヨウ素を導入し化合物(6)とする。トリフルオロ酢酸を加えてBoc基とt-ブチルエステル基を除去し、目的の化合物(7)を得る。
【0028】
同様の酸化的スズヨウ素交換反応で、125 Iに代えて 123Iを有する化合物を得ることができる。また、Yがトリブチルシリル基、トリス(トリフルオロアセトキシ)タリウム、トリス(トリフルオロアセトキシ)水銀の場合にも同様にヨウ素との置換反応がおきることが知られている。
【0029】
また、化合物(4)においてあらかじめR1, R2に所望のエステルを導入しておくことで、エステル誘導体を得ることができる。
【0030】
また、スズ化合物にパラジウム触媒と塩化銅存在下で放射性ヨウ化メチルを作用させることでメチル基を導入する方法が公知であり(Suzuki, M. et al.,Chem. Eur. J. 3, 2039, 1997; Suzuki, M. et al., Tetrahedron, 56, 8263, 2000)、同様にして化合物(5)から化合物(9)を合成することができる(Scheme 2)。
【0031】
【化7】

【0032】
18F置換体(11)については、[18F]4-フルオロ安息香酸が公知(Murakami, Y. et al., J. Labelled Compd. Radiopharm., 45, 2002, 1219-1228, 2002)であるので、化合物(3)に本試薬を作用させる(Scheme 3)か、ニトロ体(12)(Shimamoto et al., Mol. Pharmacol., in press)を前駆体として使用し、先の文献と同様に[18F]KFによる置換反応を行うことで得られる(Scheme 4)。
【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
式(1)においてXがトリチウムを含むアルキル基である化合物は、パラジウム触媒の存在下でトリチウムガスと、R3を上述の定義とする式(3)で表される化合物を反応させることにより、製造することができる。
【0036】
【化10】

【0037】
例えば、XがC2H3T2基であり、R1及びR2がそれぞれ水素である式(1)で表されるエチル化合物(15: [3H]Et-BzA-TBOA)は、R3がビニル基である式(3)の前駆体化合物から、Scheme 5に示すように合成することができる。
【0038】
【化11】

【0039】
本発明の化合物はグルタミン酸トランスポーターに対して高い親和性で阻害作用を示すことがわかった。本発明化合物がグルタミン酸トランスポーターに対して高い親和性で結合し及び/又は阻害することは、相当する非放射性同位体化合物を用いて確認した。
【0040】
すなわち、125I-BzA-TBOA若しくは123I-BzA-TBOAについての阻害活性は、127I-BzA-TBOAを用い、恒常的にMDCK (Madin-Darby Canine Kidney) 細胞に発現させたヒト興奮性アミノ酸輸送因子EAAT2及びEAAT3による、14Cでラベルしたグルタミン酸の細胞への取り込みを阻害する能力として測定した。また、放射性化合物(125I-BzA-TBOA)を用いてラット静脈注射による体内動態の追跡や脳シナプス膜標本での結合実験を行ったところ、放射能を追跡することでトランスポーター特異的な結合を検出することが可能であった。
【0041】
F-BzA-TBOAのグルタミン酸トランスポーターに対する親和性は、I-BzA-TBOAよりやや低いものの、グリア型トランスポーター(EAAT2)に対しては数十nMオーダーのIC50値があり、同様の特異的結合が予測される。
【0042】
従って、本発明は、生物試料のグルタミン酸トランスポーターの分布及び/又は発現及び/又はグルタミン酸の取り込みを調べる方法も提供する。本発明の方法は、a) 請求項1の化合物、請求項7の阻害剤、又は請求項8のリガンドを生物試料と接触させ、b) 該生物試料と特異的に結合した請求項1の化合物、請求項7の阻害剤、又は請求項8のリガンドの有無を放射活性を指標に調べ、そしてc) 工程b) で特異的な結合が観察された生物試料に、グルタミン酸トランスポーターが分布又は発現していると推定し、又は当該部分がグルタミン酸の取り込みに関与すると推定する、ことからなる。本発明のリガンドを入手した当業者は、慣用の技術に基づいて本発明の方法を実施することが可能である。
〔発明の効果〕
【0043】
本発明の化合物は、結合実験、オートラジオグラフィー、PETなどの研究を通して、トランスポーターの分布・発現や取り込み能の高さを可視化することができると期待される。それにより、グルタミン酸トランスポーターの機能不全がその一因と考えられる、てんかん・ハンチントン氏病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)・アルツハイマー病・薬物依存などの神経変性疾患の病態解析に貢献すると期待される。
【0044】
さらに、本発明のグルタミン酸トランスポーターに選択的かつ高親和性の、放射性ラベルされたリガンドは、微量でも特異的結合の検出が可能となり、結合実験を利用した新規リガンドのスクリーニングや蛋白の単離などにより、薬物創成に貢献すると期待できる
【実施例】
【0045】
(A) [125I]I-BzA-TBOAとその非放射性類縁体の合成
(1) (2S,3S)-3-[3-(4-[125I]ヨードベンゾイルアミノ)ベンジルオキシ]アスパラギン酸 (7:[125I]I-BzA-TBOA)の合成
(2S,3S)-N-t-ブトキシカルボニル-3-[3-(4-ブロモベンゾイルアミノ)ベンジルオキシ]-アスパラギン酸 ジ-t-ブチルエステル(4):
既知化合物アミノ体(3)200 mg (0.42 mmol)をクロロホルム4mLに溶解し、4-ブロモベンゾイル クロリド (110 mg, 0.50 mmol)、トリエチルアミン(120μL, 0.84 mmol)を加えて30分撹拌した。飽和重曹水を加えて反応を終了し、エーテルで抽出し、有機層を水、5 % クエン酸水溶液、水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後溶媒を留去した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(エーテル / ヘキサン = 1 /1)、標題化合物283 mg (100%)を得た。
【0046】
油状; [α]D -6.3° (c 0.65, CHCl3); 1H NMR (CDCl3, 400 MHz); TM1.41 (s, 9 H), 1.43 (s, 9 H), 1.49 (s, 9 H), 4.42 (d, 1 H, J = 11.5 Hz), 4.44 (d, 1 H, J = 2.5 Hz), 4.75 (dd, 1 H, J = 2.5, 10.5 Hz), 4.82 (d, 1 H, J = 11.5 Hz), 5.26 (d, 1 H, J = 10.5 Hz), 7.10 (d, 1 H, J = 7.5 Hz), 7.34 (t, 1 H, J = 7.5 Hz), 7.45 (s, 1 H), 7.64 (d, 2 H, J = 8.5 Hz), 7.74 (m, 1 H), 7.74 (d, 2 H, J = 8.5 Hz), 7.81 (s, 1 H)。
【0047】
(2S,3S)-N-t-ブトキシカルボニル-3-{3-[4-(トリ-n-ブチルスタニル)ベンゾイルアミノ]-ベンジルオキシ}アスパラギン酸 ジ-t-ブチルエステル(5):
ブロモ体(4)(25 mg, 0.038 mmol)とヘキサ-n-ブチルジチン (48μl, 0.095 mmol), トリエチルアミン(10μl, 0.076 mmol)を無水トルエンに溶かし、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム (2.2 mg, 0.0019 mmol)を加えてアルゴン雰囲気下で2時間加熱環流した。放冷後反応液をシリカゲルカラム(ヘキサン 〜 エーテル/ヘキサン = 1/3)に付し、標記化合物17 mg (52 %)を得た。
【0048】
油状; [α]D-5.4° (c 0.58, CHCl3); 1H NMR (CDCl3, 400 MHz); δ 0.90 (t, 9 H, J = 7.5 Hz), 1.10 (t, 6 H, J = 7.5 Hz), 1.34 (m, 6 H), 1.41 (s, 9 H), 1.43 (s, 9 H), 1.49 (s, 9 H), 1.55 (m, 6 H), 4.42 (d, 1 H, J = 11.5 Hz), 4.45 (d, 1 H, J = 2.0 Hz), 4.65 (dd, 1 H, J = 2.5, 10.5 Hz), 4.81 (d, 1 H, J = 11.5 Hz), 5.25 (d, 1 H, J = 10.5 Hz), 7.19 (d, 1 H, J = 7.5 Hz), 7.34 (t, 1 H, J = 7.5 Hz), 7.46 (s, 1 H), 7.60 (d, 2 H, J = 7.5 Hz), 7.74 (d, 1 H, J = 8.0 Hz), 7.78 (d, 2 H, J = 7.5 Hz), 7.81 (s, 1 H)。
【0049】
(2S,3S)-3-[3-(4-[125I]ヨードベンゾイルアミノ)ベンジルオキシ]アスパラギン酸 (7):
1.5μlの[125I]NaI水溶液にスズ化合物(5)のエタノール溶液(10 mg/mL)を10μL、1.25%酢酸を100μL、クロラミンT水溶液(2 mg/mL)を50μL加え、室温で10分間反応させた後、酢酸エチル2 mL で抽出した。有機層を減圧留去し、TFAとクロロホルムをそれぞれ 200μLずつ加えて室温で1晩反応後、TFA/クロロホルムを減圧留去した。残渣にメタノールを加えてとかし、逆相HPLCにて標記化合物を精製した。HPLC条件; カラム:Cosmosil 5C18-AR-300 4.6 x 150 mm(ナカライテスク製)移動相:0.1%TFA水溶液 / メタノール = 65/35: 流速 :1.0 mL/min: 化合物(7)の保持時間 45分。図1に示す HPLCより放射化学収率(Radiochemical Yield)は56%、放射化学純度(Radiochemical Purity)は95%以上と推定される。
【0050】
(2) オクタノール-水分配係数 (Log P) の測定
等量のオクタノール、リン酸緩衝液を混合し、これに[125I]I-BzA-TBOAを加えて1分間振盪、1分静置を3回繰り返した後、20分静置した。これを3回繰り返した後、遠心分離(1,000×g、10 min、4℃)を行い、各層の放射能を測定、分配係数を算出した(表1)。
【0051】
【表1】

【0052】
(3) 非放射性(2S,3S)-3-[3-(4-ヨードベンゾイルアミノ)ベンジルオキシ]アスパラギン酸 (I-BzA-TBOA)の合成
(2S,3S)-N-第三-ブトキシカルボニル-3-[3-(4-ヨードベンゾイルアミノ)ベンジルオキシ]-アスパラギン酸 ジ-t-ブチルエステル:
アミノ体(3)100 mg (0.21 mmol)をクロロホルム2mLに溶解し、4-ヨードベンゾイル クロリド (67 mg, 0.25 mmol)、トリエチルアミン(60μL, 0.42mmol)を加えて30分撹拌した。飽和重曹水を加えて反応を終了し、エーテルで抽出し、有機層を水、5 % クエン酸水溶液、水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後溶媒を留去した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(エーテル / ヘキサン = 1 /1)、標記化合物147mg (100%)を得た。
【0053】
油状; [α]D-5.2° (c 0.52, CHCl3); 1H NMR (CDCl3, 400 MHz); δ1.41 (s, 9 H), 1.42 (s, 9 H), 1.49 (s, 9 H), 4.42 (d, 1 H, J = 11.5 Hz), 4.44 (d, 1 H, J = 2.5 Hz), 4.75 (dd, 1 H, J = 2.5, 10.5 Hz), 4.80 (d, 1 H, J = 11.5 Hz), 5.26 (d, 1 H, J = 10.5 Hz), 7.09 (d, 1 H, J = 7.5 Hz), 7.33 (t, 1 H, J = 7.5 Hz), 7.45 (s, 1 H), 7.60 (d, 2 H, J = 8.5 Hz), 7.72 (m, 1 H), 7.84 (d, 2 H, J = 8.5 Hz), 7.90 (s, 1 H)。
【0054】
(2S,3S)-3-[3-(4-ヨードベンゾイルアミノ)ベンジルオキシ]アスパラギン酸 (I-BzA-TBOA):
保護I-BzA-TBOA (120 mg, 0.17 mmol)をクロロホルム1 mLに溶かし、TFA 1 mLを加えて24時間撹拌した。溶媒を留去し、水を加えて凍結乾燥を繰り返して標記化合物78 mg (76%)を得た。
【0055】
アモルファス; [α]D-37.7° (c 0.34, CHCl3); 1H NMR (CDCl3, 400 MHz); TM4.30 (d, 1 H, J = 5.0 Hz), 4.45 (d, 1 H, J = 11.0 Hz), 4.68 (d, 1 H, J = 11.0 Hz), 7.14 (d, 1 H, J = 7.5 Hz), 7.30 (t, 1 H, J = 8.0 Hz), 7.59 (s, 1 H), 7.64 (d, 1 H, J = 8.5 Hz), 7.67 (d, 2 H, J = 7.5 Hz), 7.86 (d, 2 H, J = 7.5 Hz)。
【0056】
(4) [3H]Et-BzA-TBOAの合成
(2S,3S)-N-t-ブトキシカルボニル-3-[3-(4-ビニルベンゾイルアミノ)ベンジルオキシ]アスパラギン酸 ジ-t-ブチル エステル (13):
既知化合物 (3) 100 mg (0.21 mmol)をDMF (5 mL)に溶解し、4-ビニル安息香酸64 mg (0.42 mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド 塩酸塩 (WSCD) 99 mg (0.51 mmol)、トリエチルアミン 60μL (0.43 mmol)、4-N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP) 7.9 mg (0.06 mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt) 29 mg (0.21 mmol)を加えて室温で30分間攪拌した。飽和重曹水を加えて反応を終了し、エーテルで抽出し、有機層を水、5% クエン酸水溶液、水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(エーテル/ヘキサン = 1/1)、標題化合物115 mg (90%)を得た。
【0057】
油状:400 MHz 1H-NMR (CDCl3): 1.41 (s, 9 H), 1.42 (s, 9 H), 1.49 (s, 9 H), 4.41 (d, 1 H, J = 11.5 Hz), 4.44 (d, 2 H, J = 2.5 Hz), 4.75 (dd, 1 H, J = 2.5, 10.5 Hz), 4.80 (d, 1 H, J = 11.5 Hz), 5.27 (d, 1 H, J = 10.5 Hz), 5.38 (d, 1 H, J = 11.0 Hz), 5.87 (d, 1 H, J = 17.5 Hz), 6.76 (dd, 1 H, J = 11.0, 17.5 Hz), 7.09 (d, 1 H, J = 7.5 Hz), 7.13 (t, 1 H, J = 7.8 Hz), 7.46 (s, 1 H), 7.50 (d, 2 H, J = 8.0 Hz), 7.75 (d, 1 H, J = 7.8 Hz), 7.82 (d, 2 H, J = 8.0 Hz), 7.90 (s, 1 H)。
【0058】
(2S,3S)-3-[3-(4-ビニルベンゾイルアミノ)ベンジルオキシ]アスパルテート(14):
化合物(13) 36 mg (0.06 mmol)をクロロホルム1 mLに溶解し、TFA 1 mLを加えて18時間攪拌した。溶媒を留去し、水を加えて凍結乾燥を繰り返して標記化合物25 mg (83%)を得た。
【0059】
アモルファス:400 MHz 1H-NMR (AcOD-d4): 4.60 (1 H, d, J = 11.5 Hz), 4.63 (1 H, d, J = 2.5 Hz), 4.80 (1 H, d, J = 2.5 Hz), 4.83 (1 H, d, J = 11.5 Hz), 5.40 (1 H, d, J = 11.0 Hz), 5.94 (1 H, d, J = 17.5 Hz), 6.82 (1 H. dd, J = 11.0, 17.5 Hz), 7.16 (1 H, d, J = 8.0 Hz), 7.36 (1 H, t, J = 8.0 Hz), 7.57 (2 H, d, J = 8.0 Hz), 7.67 (1 H, s), 7.77 (1 H, d, J = 8.0 Hz), 7.97 (2 H, d, J = 8.0 Hz)。
【0060】
(2S,3S)-3-[3-(4-エチルベンゾイルアミノ)ベンジルオキシ]アスパルテート (15) (Et-BzA-TBOA):
ビニル化合物(14)のTFA 塩 10 mg (0.02 mmol) を酢酸2mL, 水1mLの混合溶媒に溶解し、触媒(10% Pd-C) 5mgを加えて、常圧水素雰囲気下室温で3時間攪拌した。触媒を濾去し、濾液を濃縮し、水からの凍結乾燥を3回繰り返し、目的物(2) 7.5 mgを得た。収率(84 %)。
【0061】
アモルファス:400 MHz 1H-NMR (AcOD-d4): 1.27 (3 H, t, J = 7.5 Hz), 2.74 (2 H, q, J = 7.5 Hz), 4.58 (2 H, m), 4.82 (2 H, m), 7.17 (1 H, d, J = 7.0 Hz), 7.28 (1 H) 7.28 (2 H, d, J = 7.5 Hz), 7.62 (1 H, s), 7.79 (1 H, d, J = 8.0 Hz), 7.86 (2 H, d, J = 7.5 Hz)。
【0062】
上記反応において水素ガスに換えてトリチウムガスを使用することでトリチウムラベル体が合成できる。
【0063】
図5にトリチウムラベル体の純度を検定するためのシリカゲル薄層クロマトグラフィーを示す。
【0064】
シリカゲル薄層クロマトグラフィーの展開条件は下記の通りである:
Medium : Merck社Silica gel 60 F254 (thickmess 0.25 mm);
溶媒: 1-ブタノール / 酢酸 / 水(4/1/2);
Detection: UV 254 nm;
Imaging plate: BAS-MS2040 (Fuji Photo Film);
Instrument: BIO-IMAGING ANALYZER BAS2000 (Fuji Photo Film)
本検定により放射化学純度は97.1 %と推定された。
【0065】
図6にトリチウムラベル化合物の純度を検定するための高速液体クロマトグラフィーを示す。
【0066】
高速液体クロマトグラフィーの溶出条件は下記の通りである:
カラム: Cosmosil 5C18-MS-II, 4.6 mm I.D. x 150 cm (NACALAI TESQUE);
移動相: acetonitrile / water (3/7) containing 0.1 % TFA;
流速: 1 mL / min;
Detection: UV 254 nm;
Radiodetection : 525TR (PerkinElmer);
Scintillation cocktail: FLO-SCINT II (PerkinElmer)
本検定により放射化学純度は97.7 %と推定された。
【0067】
(B) 生物活性の検定と特異的結合の測定
(1) X-BzA-TBOAのグルタミン酸トランスポーター阻害活性の測定
公知の方法(Shimamoto, K. et al., Mol. Pharmacol. 53, 195-201, 1998; Bioorg. Med. Chem. Lett. 10, 2407-2410, 2000)に従い、恒常的にMDCK (Madin-Darby Canine Kidney) 細胞に発現させた、又は一過性にCOS-1細胞に発現させた、ヒトEAAT2及びEAAT3において[14C]グルタミン酸の取り込み阻害作用を測定した。グルタミン酸取り込み活性は、1μMのL-[14C]グルタミン酸と所定の濃度の試料を加えて12分間インキュベートした後細胞を溶解して、取り込まれた放射活性を液体シンチレーターにより測定した。取り込み量は化合物が無い(緩衝液のみ)場合を100%とし、ナトリウムフリー溶液での取り込みの場合を0%とした%で表示し、IC50値を求め表2に示した。
【0068】
【表2】

【0069】
(2) [125I]I-BzA-TBOAを用いた in vivo 動態の測定
6週齢雄性ddyマウス(29-31g)に[125I]I-BzA-TBOA(約1μCi)を尾静脈より投与し、2,5,15,30,60,120分後に屠殺して肝、腎、腸、脾、膵、肺、心、胃、脳、血液を採取し、重量及び放射能を測定した。その結果を表3及び図2に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
(3) [125I]I-BzA-TBOAによる結合実験
ラット脳粗膜標品の調製
雄性Sprague-Dawley系ラット(体重200-250 g)を断頭し、全脳を摘出した。全脳は、液体窒素中で急速冷凍し、使用時まで-80℃で保存した。全脳を、氷冷下、Tris緩衝液(50 mM Tris-HCl (pH 7.4)、120 mM NaCl、5 mM KCl、2.5 mM CaCl2、1 mM MgCl2)中でホモジナイズし、30,000 gで4℃、20分間遠心した。得られたペレットをTris緩衝液に再懸濁し、プロテインアッセイキット(BioRad)を用いてタンパク濃度を測定し、0.1 mg/100μlになるよう再調整し、これを粗膜標品として結合実験に使用した。
【0072】
競合的結合実験
[125I]-I-BzA-TBOA(200 Ci/mmol)50μlを50 nMの濃度(最終濃度10 nM)に、非標識のTFB-TBOA 100μl(10-11M、10-10M、10-9M、10-8M、10-7M、10-6M、10-5M)あるいはDL-TBOA 100μl(10-10M、10-9M、10-8M、10-7M、10-6M、10-5M、10-4M)を上述のTris緩衝液で調整した。50 nM [125I]-I-BzA-TBOA 50μl、0.1 mg/100μlの粗膜標品100μlと、非標識のTFB-TBOAあるいはDL-TBOAを含有する、あるいは含有しないTris緩衝液100μlを混合し、25℃、60分間インキュベートした。反応は氷冷したTris緩衝液4 mlにより停止し、これを0.1%ポリ-L-リシン臭化水素酸塩溶液中、4℃、一晩浸しておいたGF/Cフィルター(Whatman)で濾過し、さらにTris緩衝液4 mlで3回洗浄した。得られたGF/Cフィルターをγ-カウンターにて、その放射活性を測定した。
【0073】
データ解析
非標識のTFB-TBOAを含有しないTris緩衝液中でインキュベートしたサンプルの放射活性を全結合量、10-5Mの非標識TFB-TBOAを含有するTris緩衝液中でインキュベートしたサンプルの放射活性を非特異的結合量とし、その差を特異的結合量として算出した。
【0074】
結果を図3に示す。
【0075】
(4) 脳切片を用いた[125I]I-BzA-TBOAの結合実験
方法
雄性Sprague-Dawley系ラット(体重200-250 g)を断頭し、全脳を摘出した。全脳は、粉末ドライアイスで急速に凍結させ、使用時まで-80℃で保存した。クリオスタットにて20μm厚の新鮮凍結切片を作製し、ゼラチンコートを施したスライドグラスに貼り付け、使用時まで-80℃で保存した。
【0076】
[125I]-I-BzA-TBOA(200 Ci/mmol)を1 nMの濃度に、Tris緩衝液(50 mM Tris-HCl (pH 7.4)、120 mM NaCl、5 mM KCl、2.5 mM CaCl2、1 mM MgCl2)で希釈し、作製した脳切片を、25℃で60分間インキュベートした。非特異的結合を測定する場合は、4μM TFB-TBOAを加えた。インキュベーション終了後、脳切片を、氷冷したTris緩衝液中で5分間×3回、氷冷した純水中で5分間×1回浸すことにより洗浄し、乾燥させた。その後、イメージングプレートに一晩暴露し、得られた放射活性をBAS2500で解析した。
【0077】
結果を図4に示す。
【0078】
(5) [3H]Et-BzA-TBOAによる結合実験
細胞膜標本の調製
150 cm2のT-フラスコに細胞を播種し(培地約20 ml)、コンフルエントになるまで培養した。培地を吸引除去し、Phosphate buffered saline (PBS)(約10 ml)で細胞を洗浄した。0.25% トリプシン/1 mM EDTA(4 ml)を加え、5分放置後培地(6 mL)を加えて50 mLチューブに回収した。1200 rpmで2分間遠心し、上清を吸引除去した。バインディングバッファー(50 mM Tris-HCl (pH 7.4)、120 mM NaCl、5 mM KCl、2.5 mM CaCl2、1 mM MgCl2)中、ポリトロンホモジナイザーを用いて、on iceで十分にホモジナイズした。ホモジネートを4℃、30,000 gで20分間遠心した。上清を捨て、適当量のバインディングバッファーで100-500μg/mLになるように再懸濁し、再度ホモジナイズした。
【0079】
結合実験
1) 飽和結合実験
測定濃度の10倍濃度の[3H]EtB-TBOA (50, 100, 250, 500, 1000 nM) 25μL、100μM TFB-TBOA若しくはバインディングバッファー 25μLに上記の膜標本200 mLを加えて室温で60分培養した。0.1% ポリL-リシン臭化水素酸塩溶液に1時間浸しておいたGF/Cフィルター(Watman)で濾過して反応を終結させ、さらに20 mM Tris緩衝液で洗浄した。得られたフィルターを乾燥後、固形シンチレーターMeltiLexA (PerkinElmer) を融着させてβ-カウンターにてその放射活性を測定した。TFB-TBOA非含有サンプルの放射活性を全結合量、TFB-TBOA含有サンプルの放射活性を非特異的結合量とし、その差を特異的結合量として算出した。
【0080】
図7は、COS-1細胞上に発現したEAAT2, EAAT4又はEAAT5に対するEt-BzA-TBOAの飽和結合を示す。図8はScatcherd解析の結果を示す。各サブタイプについてのKd値は26 nM (EAAT2), 13 nM (EAAT4), 30 nM (EAAT5)だった。
【0081】
2) 競合的置換実験
所定濃度の10倍濃度の阻害剤溶液25μL、100 nM [3H]EtB-TBOA 25μL、膜標本200μLを加えて室温で30分培養した。0.1% ポリL-リシン臭化水素酸塩溶液に1時間浸しておいたGF/Cフィルター(Watman)で濾過して反応を終結させ、さらに20 mM Tris緩衝液で洗浄した。得られたフィルターを乾燥後、MeltiLexA (PerkinElmer) を融着させてβ-カウンターにてその放射活性を測定した。阻害剤なしの緩衝液での放射活性を全結合量、TFB-TBOA 10μM含有サンプルの放射活性を非特異的結合とし、その差を特異的結合量として全結合量に対するパーセンテージで結合量を表した(図9)。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1(A)は、I-BzA-TBOA のHPLC クロマトグラムであり、図1(B)は、[125I]I-BzA-TBOA のラジオクロマトグラムである。
【図2】図2は、マウスへの[125I]I-BzA-TBOA 投与後の放射活性の生体内分布を示すグラフである。図中、Livは肝臓、Kidは腎臓、Intは腸、Panは膵臓、Splは脾臓、Lngは肺、Hrtは心臓、Stoは胃、Brainは脳、そしてBldは血液を意味する。
【図3】図3は、ラット脳ホモジネートにおける、10 nM [125I]I-BzA-TBOAの特異結合に対するグルタミン酸トランスポーター阻害剤の置換曲線である。
【図4】図4は、ラット脳切片中の1 nM [125I]I-BzA-TBOA結合部位の分布を示す。
【図5】図5は、トリチウムラベル化合物([3H]Et-BzA-TBOA)の純度を検定するためのシリカゲル薄層クロマトグラフィーを示す。
【図6】図6は、トリチウムラベル化合物([3H]Et-BzA-TBOA)の純度を検定するための高速液体クロマトグラフィーを示す。
【図7】図7は、COS-1細胞上に発現したEAAT2, EAAT4又はEAAT5に対する[3H]Et-BzA-TBOAの飽和結合を示す。
【図8】図8は、COS-1細胞上に発現したEAAT2, EAAT4又はEAAT5に対する[3H]Et-BzA-TBOAのScatcherd解析の結果を示す。
【図9】図9は、細胞膜ホモジネートに対する[3H]Et-BzA-TBOAの特異的結合系におけるグルタミントランスポーター阻害剤の置換カーブを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Xは放射性原子を含む直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、水酸基、直鎖又は分岐低級脂肪族アルコキシ基、アミノ基、直鎖又は分岐低級脂肪族アシルアミド基、ハロゲン原子、ハロゲン化された直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基を示し、そしてR1, R2は各々水素、直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、又はアセトキシメチル基を示す。)で表される、ベンゾイル基上に放射性ラベル置換基を有する3-[3-(ベンゾイルアミド)ベンジルオキシ]アスパラギン酸、又はそのエステル誘導体若しくは塩。
【請求項2】
Xが125Iである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
下記式(2)
【化2】

(式中R1, R2は各々水素、直鎖又は分岐低級脂肪族アルキル基、又はアセトキシメチル基を示し、Yは置換反応に供するための脱離基で、有機金属、ハロゲン原子、ジアゾ基、ジアゾニウム基、トリアルキルアンモニウム基、又はニトロ基を示し、Bocはt-ブトキシカルボニル基を示す)で表される、請求項1の化合物の前駆体化合物。
【請求項4】
Yが-Sn(n-Bu)3基である、請求項3記載の前駆体化合物。
【請求項5】
請求項3の式(2)の化合物を放射性原子との交換反応に供し、そしてその後保護基を除去して式(1)の化合物を得る工程を含む、請求項1の化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項4の化合物をNa125Iを酸化剤及び酢酸の存在下で酸化的スズヨウ素交換反応に供して請求項2の化合物を得る工程を含む、請求項5の方法。
【請求項7】
請求項1の化合物を含む、放射ラベル基を有するグルタミン酸トランスポーター活性阻害剤。
【請求項8】
請求項1の化合物を含む、グルタミン酸トランスポーターに対する、放射性リガンド。
【請求項9】
a) 請求項1の化合物、請求項7の阻害剤、又は請求項8のリガンドを生物試料と接触させ、
b) 該生物試料と特異的に結合した請求項1の化合物、請求項7の阻害剤、又は請求項8のリガンドの有無を放射活性を指標として用いて検出し、そして
c) 工程b) で特異的な結合が観察された生物試料に、グルタミン酸トランスポーターが分布若しくは発現していると推定し、又は該生物試料が得られた身体の部分がグルタミン酸の取り込みに関与すると推定する、
ことにより、生物試料のグルタミン酸トランスポーターの分布及び/若しくは発現、並びに/又はグルタミン酸の取り込みを調べる方法。
【請求項10】
式(1)において、Xが、トリチウムを含むエチル基(X = C2H3T2)のようなトリチウムを含む脂肪族アルキル基であり、R1及びR2がそれぞれ水素原子である、請求項1の化合物。
【請求項11】
下記式(3)
【化3】

(式中、R3は直鎖又は分岐の低級不飽和脂肪族アルケニル基を表す)で表される、請求項10の式(1)の化合物の前駆体化合物。
【請求項12】
R3がビニル基、プロペニル基、アリル基、又はブテニル基である、請求項11の前駆体化合物。
【請求項13】
式(3)の前駆体化合物をパラジウム触媒存在下でトリチウムガスと反応させる工程を含む、請求項10の式(1)の化合物の製造方法。
【請求項14】
式(3)の前駆体化合物中、R3がビニル基、プロペニル基、アリル基、又はブテニル基である、請求項13の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−529412(P2007−529412A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529410(P2006−529410)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【国際出願番号】PCT/JP2005/005600
【国際公開番号】WO2005/090268
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】