説明

放射線測定装置

【課題】試料3の幅方向位置の測定精度を向上させ、試料測定範囲(厚さの範囲や材質など)の広範囲化を図った放射線測定装置を提供する。
【解決手段】被測定物(試料)を搬送させながら放射線を用いて前記試料の物理量の測定を行う放射線測定装置において、前記試料の搬送方向に略直角に配置されたラインセンサと、前記試料の上方に配置され前記試料を介して前記放射線を前記ラインセンサに照射する複数の放射線源からなり、前記複数の放射線源からの放射線は前記試料の搬送方向に略直角方向に扇状に出射されると共に前記ラインセンサの同一線上を照射するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばラインセンサを用いた放射線測定装置に関し、詳しくは複数の線源を設け、該複数の線源からの放射線を前記ラインセンサの同一箇所に照射して放射線強度の強化を図った放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3(a,b)は本発明が適用される被測定物(例えばシート状の試料・・・以下単に試料という)3の物理量をオンラインで測定する放射線測定装置の模式的な概略構成図である。
図(a)は放射線(X線やβ線・・・以下X線という)源1の下方に試料3を介してラインセンサ4を配置したものである。なお、ラインセンサ4は同等の性能を有する複数の検出素子4aを直線状に連結したものである。
【0003】
図3(a)において、試料3は矢印P方向に搬送されており、試料3とラインセンサ4は接触しない程度に近接して配置されている。また、X線源1からは図では省略するがコリメータや遮蔽板などにより扇状に絞られた放射線束2が出射する。
【0004】
上記の構成において、厚さ、欠陥などの試料の物理量(特徴)を測定する場合、図3(a)に示すようにX線源やβ線から検出器となるラインセンサ4にX線を照射し、その間に試料3を置くことでX線の透過線量より試料の特徴を測定している。
【0005】
その場合、線源1からのX線の照射角度(視野角度)により適切な距離を試料から離す必要があるが、X線の強度はほぼ距離の自乗則により減衰する。
従って、測定に必要なX線強度を得るためには出力を上げなければならない。しかし、出力を上げるにも限界がある。
【0006】
X線出力を上げるためにX線源を点線で示すように下方に移動させることも考えられるが、測定したい試料の一部しか測定できなくなるという問題がある。
図3(b)は複数の線源1を試料3の幅方向に並べることにより線源1を試料3に近づけて放射線強度の減衰を防止した模式的な概略構成図である。図では出力の同等な放射線源を3個用意して幅方向に放射線の照射範囲が重複しないように(若しくはわずかに重複させて)並べ、図3(a)の従来例に比較してX線の照射強化を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−148214
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、複数の線源1を幅方向に並べると、X線の重なりを考慮した分布強度の補正や位置情報の算出が困難になるという問題があった。
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、試料の測定においてX線の照射強度を図ることによりS/Nを向上させると共に、試料3の幅方向位置の測定精度を向上させ、試料測定範囲(厚さの範囲や材質など)の広範囲化を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を達成するために、本発明の請求項1の放射線測定装置は、
被測定物(試料)を搬送させながら放射線を用いて前記試料の物理量の測定を行う放射線測定装置において、前記試料の搬送方向に略直角に配置されたラインセンサと、前記試料の上方に配置され前記試料を介して前記放射線を前記ラインセンサに照射する複数の放射線源からなり、前記複数の放射線源からの放射線は前記試料の搬送方向に略直角方向に扇状に出射されると共に前記ラインセンサの同一線上を照射するように構成したことを特徴とする。
【0010】
請求項2においては、請求項1に記載の放射線測定装置において、
前記複数の放射線源は、前記試料の搬送方向に対して略直列または略並列に千鳥状に配置されたことを特徴とする。
【0011】
請求項3においては、請求項1又は2に記載の放射線測定装置において、
前記複数の放射線源は選択的に稼動可能に構成したことを特徴とする。
【0012】
請求項4においては、請求項1乃至3に記載の放射線測定装置において、
前記複数の放射線源は、該放射線源の少なくとも一つの劣化/故障に対してS/N低下の許容範囲において継続して測定可能に構成したことを特徴とする。
【0013】
請求項5においては、請求項1乃至4に記載の放射線測定装置において、
前記複数の放射線源は、それぞれの放射線強度を測定する個別強度測定モードを有し、順次個別の放射線源の強度を算出し、放射線強度が規定以下である場合は該放射線源の交換を促すメッセージを発するように構成したことを特徴とする。
【0014】
請求項6においては、請求項1乃至5に記載の放射線測定装置において、
前記複数の放射線源がX線源である場合においては、S/N低下の許容範囲において、定格値に対して電圧比または電流値を低く抑制するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1,2によれば、
放射線の照射強度が増すことから測定時のS/Nが改善される。また、複数の放射線による強度分布の器差が生じても、照射による強度分布は流れ方向に積分されるため、幅方向の分解能を減じない。
【0016】
請求項3,4によれば、
複数の線源のうちの少なくとも一つの劣化や故障の際にも、幅方向の特定部分の測定ができなくなるということが無く、幅方向全体のS/N低下の範囲内で放射線の検出を継続することが可能である。
【0017】
また、X線管の照射強度劣化に際して、配置された一部のX線管を交換することでランニングコストの平坦化を図ることができる。X線管の劣化や故障に際して、S/N低下が許容内であれば、正常動作が可能なX線管のみを用いて運転を連続で行うことができ、機会損失を減らすことができる。
【0018】
また、試料の厚さに応じて、照射する線源台数を変えることができる。例えば、ある試料に対して4台の線源を有するシステムにおいて線量が強すぎる場合は、4台のうち2台のみを照射するなど台数制御ができ、また管電流と合わせて制御することが可能であれば、従来より更に広範囲の試料厚さに対応が可能となる。
【0019】
請求項5によれば、
各線源をON/OFF制御できる機能を付加し、メンテナンスに使用することができる。例えば、試料の無い状態で線源1から順次照射し(または順次照射停止)、夫々の出力値をモニタし、規定値より線量が低下した場合や、他の線源との線量差が増えた場合はアラームを発し線量寿命監視を行うことができる。
【0020】
請求項6によれば、
実質的にX線源の交換回数を減らす、もしくは、交換なしで運用することができ、ランニングコストの大幅な削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す放射線測定装置の概略構成図(a)、X線源の配置状態を示す平面図(b),(c)、X線の強度分布と試料を透過したX線の強度分布を示す模式図(d),(e)である。
【図2】X線源配置の他の実施例を示す平面図(a)及びX線の強度分布と試料を透過したX線の強度分布を示す模式図(b)である。
【図3】従来の放射線測定装置の一例を示す模式的な概略構成図(a)および他の従来例を示す模式的な概略構成図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1(a)は本発明の実施形態の一例を示す放射線測定装置の模式的な概略構成図である。
図1(a)において、図3(b)に示す従来例とはX線源1の配列と照射方向のみが異なっている。
【0023】
本発明においては試料3の搬送方向に略直角に配置されたラインセンサ4に対し、複数(図では3個)のX線源1が試料の上方に直線状に配置され、その複数のX線源から放射される扇状のX線がラインセンサの長さ方向の同一線上を照射するように配列されている。
即ち、中央のX線源はラインセンサに対して直角方向にX線を照射し、隣に配置されたX線源は照射方向を傾けることによりラインセンサ4の長さ方向に対してX線が重畳するように照射する
【0024】
上述の構成によれば、試料3を透過してラインセンサ4に達する放射線の照射強度が増加するので測定時のS/Nを改善することができる。また、複数の放射線による強度分布の器差が生じても、照射による強度分布は流れ方向に積分されるため、幅方向の分解能を減じることがない。
【0025】
図1(b)はX線源1を直列に4個並べた他の実施例を示し、図1(c)はX線源を2個づつ並列に千鳥状に4個並べた他の実施例を示している。このように並べた場合もX線がラインセンサ4の長さ方向上で重畳するように各X線源の照射方向を傾けて照射する。
【0026】
図1(d)は複数のX線源を直列に並べた場合に、ラインセンサ4に達するX線の強度分布と試料を透過したX線の強度分布を模式的に示す図、図1(e)は複数のX線源を千鳥状に並べた場合に、ラインセンサ4に達するX線の強度分布と試料を透過したX線の強度分布を模式的に示す図である。
【0027】
なお、図では省略するが、複数のX線源はそれぞれが必要に応じて選択的にオンオフ可能に構成されており、試料の厚さに応じて、照射する線源台数を変えることができる。例えば、ある試料に対して4台の線源を有するシステムにおいて線量が強すぎる場合は、4台のうち2台のみを照射することにより台数を少なくすることができ、また管電流と合わせて制御することにより従来より更に広範囲の試料厚さに対応することができる。
【0028】
また、各線源をON/OFF制御することにより、X線源のメンテナンスに使用することができる。例えば、試料の無い状態で線源1から順次照射し(または順次照射停止)、夫々の出力値をモニタしておく。そして、線量が規定値より低下した場合や、他の線源との線量差が増えた場合はアラームを発し線量寿命監視を行うことができる。
【0029】
更に、X線管の照射強度劣化に際して、配置された一部のX線管を交換することでランニングコストの平坦化を図ることができる。X線管の劣化や故障に際して、S/N低下が許容内であれば、正常動作が可能なX線管のみを用いて運転を連続で行うことができ、機会損失を減らすことができる。
【0030】
図2(a)は千鳥状に配置したX線源を試料の流れ方向の中心部から縁部に向かって間隔(T)を広げた状態を示すものである。この配置は、複数線源の照射範囲を重なるようにしながらX線量が不足がちな縁部への重点的な線量配分をもたらす効果がある。
【0031】
その場合も複数のX線源から放射される扇状のX線がラインセンサの長さ方向の同一線上を照射するように配列されている。
図2(b)はこのように配置した場合のラインセンサ出力と放射線強度の関係を示すもので、試料の流れ方向の中心部と縁部の放射線強度の照射比率が改善されていることが分かる。なお、千鳥状に配置することで流れ方向の配置寸法L1を直線状に並べた場合のLに対して短くできるという効果もある。
【0032】
ここでX線管に限って述べれば、X線管の寿命は、一般的に1〜数年程度と短いため、使用全期間を通じては数回のX線管の交換が発生する。X線管の寿命に関しては、フィラメント寿命がその主要因であり、フィラメント電圧を抑えて、電流を下げることで、寿命は指数関数的(一例として、電圧比の12乗、電流比の10乗といったデータもある)に飛躍的に延びる。
【0033】
このことから、線量が足りない場合においてのみならず、寿命延命のために複数のX線源を設けることで、実質的にX線源の交換回数を減らす、もしくは、交換なしで運用することができ、ランニングコストの大幅な削減が可能となる。
【0034】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えば実施例では放射線をX線として説明したがβ線やγ線にも適用可能である。また、X線源の数は図示の例に限るものではない。
また、本実施例においてはX線源を照射方向に傾けてX線が重畳するように照射したが、試料に重畳して照射できれば必ずしも傾ける必要はない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0035】
1 放射線源(X線)
2 X線束
3 被測定物(試料)
4 ラインセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物(試料)を搬送させながら放射線を用いて前記試料の物理量の測定を行う放射線測定装置において、前記試料の搬送方向に略直角に配置されたラインセンサと、前記試料の上方に配置され前記試料を介して前記放射線を前記ラインセンサに照射する複数の放射線源からなり、前記複数の放射線源からの放射線は前記試料の搬送方向に略直角方向に扇状に出射されると共に前記ラインセンサの同一線上を照射するように構成したことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
前記複数の放射線源は、前記試料の搬送方向に対して略直列または略並列に千鳥状に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の放射線測定装置。
【請求項3】
前記複数の放射線源は選択的に稼動可能に構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線測定装置。
【請求項4】
前記複数の放射線源は、該放射線源の少なくとも一つの劣化/故障に対してS/N低下の許容範囲において継続して測定可能に構成したことを特徴とする請求項1乃至3に記載の放射線測定装置。
【請求項5】
前記複数の放射線源は、それぞれの放射線強度を測定する個別強度測定モードを有し、順次個別の放射線源の強度を算出し、放射線強度が規定以下である場合は該放射線源の交換を促すメッセージを発するように構成したことを特徴とする請求項1乃至4に記載の放射線測定装置。
【請求項6】
前記複数の放射線源において、該放射線源がX線源である場合においては、S/N低下の許容範囲において、定格値に対して電圧比または電流値を低く抑制するように構成したことを特徴とする請求項1乃至5に記載の放射線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−169777(P2011−169777A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34289(P2010−34289)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】