説明

放射線硬化性エポキシアクリレートの水性分散物

本発明は、(a)1分子当り少なくとも2個のアクリレート基を有し、摂氏25度において水に自己分散性ではないエポキシアクリレート樹脂(P)と、(b)1分子当り少なくとも1個のアクリレート基を有する分散剤(D)とを含有する放射線硬化性エポキシアクリレートの水性分散物であって、第1のステップ(i)において、必要な場合、触媒の存在下において、12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を含有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(A)を、12〜20の範囲にあるHLB値を有し、1分子当り少なくとも1個のH−酸性基(ZH)を含有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(B)により変換するステップによって生成させることができる上記エポキシアクリレート分散物に関する。化合物(A)及び(B)は、1.3:1〜400:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(B)で使用され、そして、第2のステップ(ii)において、こうして得られた反応性混合物は、必要な場合、触媒の存在下において、12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を含有する1種若しくは複数の非イオン性化合物(化合物A)及び12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のH−酸性基を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(C)により変換される。化合物(A)及び(C)は、1.1:1〜20:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(C)で使用される。第3のステップ(iii)において、こうして得られた反応性混合物は、必要な場合、触媒の存在下において、アクリル酸により、全てのエポキシ基が開環されることによって変換される。第4のステップ(iv)において、こうして得られた反応性混合物を、水に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特別なエポキシアクリレート樹脂及び特別な分散剤を含有する、放射線硬化性貯蔵安定性エポキシアクリレート分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代後期以来、放射線硬化性水性分散物は、特に溶媒としての水が環境的理由でとりわけ魅力的となっているため、特別な関心を示されている。それにも拘らず、この市場分野では、改良された特性を有する分散物への一定の必要性が存在する。ここで問題になっている領域でのこれまでの技術は、ポリウレタンアクリレートによって特徴付けられる。これに対して、エポキシアクリレートは、現在までこの分野ではほとんど登場していない。特に、これまでほとんど専ら、ビスフェノール−Aジグリシジルエーテル及びその誘導体の、アクリル酸との反応生成物であるエポキシアクリレートは、特別な困難を伴ってしか、水に分散させることができなかったからである。
【0003】
K.−D.Suhらは、Polymer Bulletin 36、141〜148(1996)において、エポキシアクリレートの生成について記述しており、エポキシアクリレートは、エポキシ樹脂ビスフェノール−Aジグリシジルエーテルをアクリル酸と反応させることによって得られた。著者らは、単に物理的乳化方法によって、この型の安定なエポキシアクリレート水性分散物を生成することは困難であると報告している。エポキシアクリレートの水性分散物を調製するため、彼らは、非イオン界面活性剤と共界面活性剤との混合物を使用した。ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレエートが界面活性剤として使用され、またセチルアルコール又はステアリルアルコールが共界面活性剤として使用された。しかし、エポキシアクリレートを分散させるためのこのような界面活性剤のより大量の使用は、大量のこれらの界面活性剤が、このようなエポキシアクリレート分散物を使用して得ることができる塗料の材料特性に悪影響を及ぼすので、技術的用途としてあまり魅力的ではない
【0004】
国際公開第2006/056331号は、ある量のエポキシアクリレートを含有する、放射線硬化性水性塗料組成物であって、水性系中において20℃で、自己分散性エポキシ樹脂をアクリル酸及び/若しくはメタクリル酸と反応させ、且つその後、こうして得られたエポキシアクリレートを水性系中に分散させることによって得ることができる組成物を開示している。国際公開第2006/056331号により得ることができるエポキシアクリレート分散物の貯蔵安定性は、数日に過ぎず、したがって実用的観点から不満足なものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
良好な実用指向の貯蔵安定性を有するエポキシアクリレート水性分散物を提供することが、本発明の目的であった。このことは、当分散物が、室温(25℃)で少なくとも3か月安定である、すなわち、この期間の間は沈降若しくは相分離の兆候を示さないことを意味する。好ましくは、貯蔵安定性は室温(25℃)で少なくとも6か月とすべきである。開発されるエポキシアクリレート分散物はまた、物理的乾燥後、しかし放射線硬化前に非粘着(tack−free)の塗装をも提供して、こうして十分に高レベルな硬さによって、塗装系(coating systems)の円滑な処理を確保すべきである。この硬さは、当業者に知られている種々の方法によって、例えばペンデュラム硬度を使用して測定することができる。
【0006】
本発明の文脈において使用するためのエポキシアクリレート樹脂は、特性として疎水性であり、このことは、それらの樹脂が25℃で水に自己分散性ではないということをそれ自体明示するものである。
【0007】
本発明の文脈において用語「分散物(dispersion)」が使用される点に注目されたい。本発明の範囲内でこの用語には、用語エマルションも含まれる。このことは、本発明の文脈において、用語、分散物及びエマルションの間にアカデミックな区別が存在しないことを示している。本発明はむしろ、水性環境中に化合物を「備えている(accomodating)」ことを包含しており、このことは、分散物又はエマルション(乳化物)によって行うことができる。したがって、均一な命名法を用いるために、用語、分散物、分散される、分散剤などが全体として使用されるが、全ての場合に、分散物及び/又はエマルション、分散する及び/又は乳化する、分散剤及び/又は乳化剤などを意味している。明らかに、この命名法の使用は、より良好な読解性に役立つ。用語、O/W分散物(水中油型分散物)及びW/O分散物(油中水型分散物)には、論理的に、それぞれO/Wエマルション(水中油型エマルション)及びW/Oエマルション(油中水型エマルション)も含まれる。
【0008】
本発明の文脈において、用語「アクリル酸」には、アクリル酸及びメタクリル酸の両方又はアクリル酸とメタクリル酸との混合物が含まれる点を、さらに明らかにするものである。再び、ここに使用される命名法は、言語学的単純化に役立つ。
【0009】
本発明の範囲内におけるHLB値は、Griffinによる古典的な定義であると理解される。この値のため、この式:
HLB−20(1−Ml/M)
(式中、Mlは、分子の疎水性部分の分子質量であり、Mは分子全体の分子質量である。)が当てはまる。
【0010】
本発明の文脈において使用される用語オキシラン基は、当業者によって有機化学において理解されるものに正確に対応し、オキシラン基はオキサシクロプロパン基である。エポキシドはオキシラン基を含有する化合物であるので、オキシラン基は文献において「エポキシ基」と呼ばれる。化合物(A)はオキシラン基を含有する。化合物(B)はオキシラン基を含有しない。化合物(C)もオキシラン基を含有しない。
【0011】
有機分子中の官能基は、「末端に(terminally)」又は「内部に(internally)」位置をとることができる。「末端の」とは、ある基が、炭素鎖の末端の位置にあることを意味する。「内部の」とは、ある基が、末端ではない分子内の場所に位置することを意味する。当業者に親しまれている、官能基の位置を記述するこの用語法が、本発明においても使用される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
相互に調和のとれたアクリレート分散剤とエポキシアクリレート樹脂との系であって、この水性系の転相温度(phase inversion temperature)が50℃を超える系が、得られた分散物の貯蔵安定性と、物理的に乾燥しているがまだ放射線硬化されていない塗装の非粘着性(non−tackiness)とに関して、あらゆる意味で上記の要求条件を満たすことができることが、驚くべきことに見出されている。
【0013】
本発明による分散物は、さらに、その良好な扱い易さ及び適用性(=適用の見地からの有用な系への組込み)によって特徴付けられ、吹付け塗り、流し塗り(pouring)、ロール塗布、スミアリング(smearing)、ナイフコーティング及び浸し塗りによって、種々の基材、特に木材、プラスチック、金属、紙、ボール紙、ガラス、セラミック、皮革及び織物を塗装するのに適している。
【0014】
本発明の一つの目的は、
(a)1分子当り少なくとも2個のアクリレート基を有し、25℃において水に自己分散性ではないエポキシアクリレート樹脂(P)と、
(b)1分子当り少なくとも1個のアクリレート基を有する分散剤(D)と
を含有する放射線硬化性エポキシアクリレートの水性分散物であって、
最初に、第1のステップ(i)において、
・ 12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(A)を、
・ 12〜20の範囲にあるHLB値を有し、1分子当り少なくとも1個のH−酸性基(ZH)を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(B)と、
場合によって、触媒の存在下において、反応させ、この工程において、化合物(A)及び(B)は、1.3:1〜400:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(B)で適用され、
この得られた反応混合物を、第2のステップ(ii)において、
・ 12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を有する1種若しくは複数の非イオン性化合物(化合物A)、及び
・ 12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のH−酸性基を有する非イオン性化合物の群から選択される、1種若しくは複数の化合物(C)と、
場合によって、触媒の存在下において、反応させ、この工程において、化合物(A)及び(C)は、1.1:1〜20:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(C)で適用され、
この得られた反応混合物を、第3のステップ(iii)において、
アクリル酸と、全てのエポキシ基を開環させながら、場合によって、触媒の存在下において、反応させ、
第4のステップ(iv)において、
この得られた反応混合物を水に分散させる
ことによって得ることができる上記分散物に関する。
【0015】
数回使用されている、上記の配合物である「得られた反応混合物(the obtained reaction mixture)」とは、常に、関連の反応工程ステップで行われる反応の終わりに存在する混合物を指す点が、特に指摘される。本発明において、表現「得られた反応混合物」は、常にこの意味を有する。
【0016】
一実施形態において、分散剤(D)の量は、エポキシアクリレート樹脂(P)の量に基づいて、最大10重量%である。
【発明の効果】
【0017】
本発明による分散物は、下記の利点を有する:
・ 放射線硬化によって本分散物から作られる塗装は、極めて良好な耐熱性及び耐薬品性を有する;
・ 放射線硬化によって本分散物から作られる塗装は、優れた光沢を有する;
・ 放射線硬化によって本分散物から作られる塗装は、極めて優れた硬さをもたらし、ウレタンアクリレートに基づく系の硬さよりも良好である。放射線硬化の前でも、塗装は、純粋に物理的な乾燥により極めて良好な硬さを示す、すなわち、放射線硬化の前に早くも非粘着の塗装をもたらす;
・ 放射線硬化によって本分散物から作られる塗装は、高い架橋密度を示す。言い換えると、硬化により一体化した網目構造が形成される;
・ 本分散物は、非常に高い固形分含量を有することができる。全分散物に基づいて、10〜70重量%、特に25〜60重量%の範囲にある水性分散物の固形分含量の値が好ましい。高い固形分含量は、硬化工程中に蒸発させる必要がある水分が少なく、それにより、硬化速度を向上させ、水分を蒸発させるためのエネルギー消費を低減させる利点を有する;
・ ポリウレタンアクリレートは、アミンを使用して、一般に7〜8の範囲にある弱塩基性pH値におかれ、そのためイオン性で分散されており、したがってpH変動に非常に敏感であり、それが分散物の不安定性に反映され、その上放出されたアミンによる望ましくない臭気に反映されているが、これと異なって、新規な非イオン性エポキシアクリレート分散物は、pH変動に比較的鈍感である;
・ 最低の薄膜(film:フィルム、塗膜)形成温度は20℃未満であり、従って、均質な薄膜形成が、凝集剤を添加する明確な必要性がなく、穏和な温度で可能である;
・ コロイド安定性が非常に高い。このことが、既述の、標準条件下における良好な貯蔵安定性(25℃で少なくとも3か月及び好ましくは少なくとも6か月)に反映されており、それに加えて、非常に厳しい貯蔵条件でも、その条件が本分散物に悪影響を及ぼさないことも明らかである。研究により、例えば、60℃における貯蔵30日、又は4℃〜60℃の範囲における複数サイクルの温度変化によって、本分散物は事実上変化しないままである(その指標は、これらの試験条件のもとで粒度のD−50値及び粘度に有意な変化がなかった点である。)ことが、本出願人に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のより良好な理解のため、下記の説明を行う。
【0019】
本発明は、エポキシアクリレートの水性分散物の調製に関するものであり、従って、これらの分散物は、課題の説明において言及したプラスの特性を有している。こうして、本発明によるエポキシアクリレート水性分散物は、汎用的用語で、水、エポキシアクリレート(P)及び分散剤(D)を含有する。エポキシアクリレートについての略記(P)は、エポキシアクリレートがポリマーであるため選択される。本発明による水性エポキシアクリレート分散物を調製する間、3つの合成の構成単位(building blocks)が重要である。化合物(A)は、一方では分散剤(D)の構成単位であり、他方ではポリマー(P)の構成単位である。親水性構造要素(structural element)を含有する化合物(B)は、分散剤(D)の構成単位である。化合物(C)は、ポリマー(P)の構成単位である。
【0020】
AとBの間の反応から、分散剤(D)の前駆体が形成され、これは式A+B→Dによって図式的に表すことができる。本発明の範囲内において、この反応が別個の反応ステップで行われることが非常に重要である。この反応は、ステップ(i)において行われる。ステップ(i)においてAが過剰に使用されるので、(i)から得られる反応混合物は、AとDの混合物を含有する。(D)は、アクリレート官能基によって特徴付けられる最終分散物中の分散剤であると理解される。これに反して、(D)は、段階(i)の終わりに存在する、対応する非アクリル化型であると理解される。
【0021】
AとCの間の反応から、分散するポリマーの前駆体が形成され、これは式A+C→Pによって図式的に表すことができる。この反応は、ステップ(ii)において行われる。ステップ(i)で得られた混合物(すなわちA+D)がステップ(ii)で使用されるので、段階(ii)について、より正確には、A+C+D→P+D+D’と書くことができるであろう。したがって、Dは式の両側に現れ、これは、ステップ(i)において早くも生成しているDが、ステップ(ii)において大部分変化しないで残っており、しかしある程度までオリゴマー化し、それによってD’を形成していることを表現している。ステップ(ii)においてAは過剰に使用されるので、(ii)から得られた反応混合物は、A、P、D及びD’の混合物を含有する。(P)は、最終分散物中に存在するポリマーであると理解され、アクリレート官能基によって特徴付けられる。これに反して、(P)は、対応する非アクリル化型であると理解され、ステップ(iii)における(P)は、(P)のアクリル化によって形成されると考えられる。同様に、ステップ(iii)における(D)は、(D)及び(D’)のアクリル化によって形成される。
【0022】
一実施形態において、ステップ(iv)は、2つのステップで行われ、すなわち、次の通りである。ステップ(iii)において得られた反応混合物は、
・ ステップ(iv−a)において、W/O分散物を形成しながら、水に分散させ、そして
・ ステップ(iv−b)において、得られたW/O分散物は、場合によってさらなる水の添加を添加しながら、転相温度に達するまでさらに冷却し、それによりO/W分散物が形成される。この場合、転相温度は50℃を超えることが好ましい。
【0023】
ステップ(i)及び(ii)は、不活性ガス、特に窒素の雰囲気下で行われることが好ましい。
【0024】
ステップ(i)の終わりに得られる中間体、すなわち、ステップ(i)の終わりに得られる反応混合物は、好ましくは窒素などの不活性ガスの存在下で、ビンに詰め、ステップ(ii)におけるさらなる処理まで貯蔵することができる。しかし、中間体はさらに、即座に処理することもでき、すなわち、ステップ(ii)に直接供給することができる。ステップ(ii)から(iv)までは、同一の反応器内で行われることが好ましく、ステップ(i)の反応器と同一であってはならない。
【0025】
ステップ(i)は、好ましくは触媒の存在下において、90〜150℃、特に120〜150℃の範囲にある温度で行われることが好ましい。次いで、ステップ(i)の反応は、化合物(B)のH−酸性基が消費されると、すなわち、系内に存在するオキシラン基を開環させながら、それらが反応すると、完結する。このことは、混合物のエポキシド含量がもはや減少しないという事実から容易に明らかとなる。したがって、反応の過程を、エポキシドに基づく単純な方法で制御することができる。所望のエポキシド含量に達すると直ぐに、有用には混合物がまだ液体である温度まで、反応混合物は冷却される。この液体の形態で、混合物は、長期間貯蔵することができ、ステップ(ii)においてさらに処理されるまで、それは約12か月までの期間であると理解される。(i)から得られた反応混合物を、さらなる量の化合物(A)の添加によって、及び、このようにさらに冷却することによって、希釈することが有用であろう。それは、希釈せずに単に冷却するだけでは、混合物の固化を招くからである。このようにして、こうして希釈した混合物は、一方では貯蔵の間液体のままであることが確保され、他方では化学的に安定であること、すなわち混合物内で、さらなる望ましくない反応が起こり得ないことが確保される。希釈の目的でステップ(i)の最終反応混合物に添加される(A)の量は、上記において示したステップ(i)に関する当量比についてではなく、ステップ(ii)に関する当量比について確実に考慮すべきである点が強調される。
【0026】
ステップ(i)において、既に示したように、化合物(A)及び(B)は、1.3:1〜400:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(B)で適用される。用語「EpO(A)」は、化合物(A)のオキシラン基を示す。したがって、用語「ZH(B)」は、化合物(B)のH−酸性基を示す。一実施形態において、ステップ(i)における化合物(A)及び(B)は、1.5:1〜50:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(B)で使用される。化合物(A)及び(B)は、10:1〜40:1、特に15:1〜30:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(B)で使用されることがより好ましく、この場合約20:1の比率が最も好ましい。
【0027】
ここに参照するポリマー化学の分野において、当業者は用語「当量」をよく知っているが、明確にする目的で、これが何を意味するか以下に説明する。用語当量は、通常の意味で、分子の使用できる反応性基と理解され、これに焦点をおいている。例えば、1モルの一価アルコールは1モルのOH基を含有し、1モルのジオールは2モルのOH基を含有し、1モルのトリオールは3モルのOH基を含有するなどである。全く同様に、1モルのジグリシジルエーテル(EpO官能性=2)は、2モルのグリシジル基、したがってオキシラン基を含有する。
【0028】
例えば、オキシラン環及びOH基に関して使用される化合物が、ある比率で利用できるように、ジグリシジルエーテル(A)及び化合物(B)を互いに反応させようとする場合、重量若しくはモル比の代わりに、反応性基の比率を調和させると好結果が得られる。このEpO(A):ZH(B)比率は、当量比と呼ばれる。一般に言うと、当量比は、使用される反応物中の特定の反応性基の数比として表される。
【0029】
明確化の目的で、どのように容易に当量比を決めるかを、実際的な例によって例示している。例えば、本発明の文脈において、
・ 1分子当り2個のオキシラン基を有するビスフェノール−Aジグリシジルエーテル(エポキシ官能性=2)3モルと、
・ 1分子当り2個のOH基を有するポリエチレングリコール(OH官能性=2)1モルと
を互いに反応させる場合、
・ 使用されるビスフェノール−Aジグリシジルエーテルは、オキシラン基6モルを含有し、
・ 使用されるPEGは、OH基2モルを含有し、
したがって、ビスフェノール−Aジグリシジルエーテルのオキシラン基の、ポリエチレングリコールのOH基に対する数比は、6:2又は3:1となる。
【0030】
ステップ(ii)において、化合物(A)及び(C)は、1.1:1〜20:1、好ましくは1.1:1〜10:1、及び特に1.5:1〜5:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(C)で使用される。
【0031】
化合物(A)及び(C)は、1.5:1〜3:1及び特に1.8:1〜2.2:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(C)で使用することが好ましく、約2:1の比率が最も好ましい。ステップ(ii)における当量比についてのこれらの指定は、化合物(A)に関して、化合物(A)の合計量が、ステップ(ii)において使用されるという意味である;反応ステップ(i)の終わりに得られた反応混合物に由来する化合物(A)が、必要な場合、反応(i)が完結した後、希釈の目的でさらに添加される化合物(A)、並びにステップ(ii)においてさらに添加される化合物(A)と十分に同様に、この合計量に寄与する点にはっきりと注目されたい。言い換えると、ステップ(ii)において使用され、前記当量比(A):(C)について考慮に入れるべきである化合物(A)の合計量は、段階(i)の終わりに存在する(A)の残留含量に、必要な場合、反応(i)が完結した後、希釈の目的でさらに添加される化合物(A)の量を加え、ステップ(ii)においてさらに添加される化合物(A)の量を加えたものから構成される。
【0032】
ステップ(ii)は、好ましくは触媒の存在下において、120〜190℃、特に140〜170℃の範囲にある温度で行われることが好ましい。
【0033】
ステップ(ii)の反応は、化合物(C)のH−酸性基が消費されると、すなわち、系内に存在するオキシラン基を開環させながら、それらが反応すると、完結する。このことは、混合物のエポキシド含量がもはや減少しないという事実から容易に明らかとなる。
【0034】
一実施形態において、ステップ(iii)すなわちアクリル化は、酸素含有雰囲気−特に空気中で、阻害剤の存在において行われる。残ったその他の点については、アクリル化に関して当業者に知られている任意の他の技術を使用することができる。
【0035】
ステップ(iv)において、雰囲気は重要ではない。アクリル化が、酸素含有雰囲気−特に空気中で、阻害剤の存在において行われる限り、そのままステップ(iii)で導入した酸素含有雰囲気、特に空気とするのが好ましい。ステップ(iii)におけるアクリル化は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸によって行われる。特に好ましい実施形態において、アクリル酸だけが使用される。
【0036】
転相は通常著しい粘性上昇を伴うので、ステップ(iv)において、粘度低下剤を添加することができる。
【0037】
適正な粘度低下剤は、特に、低分子量を有する、とりわけ分子量350未満の有機溶媒である。このような溶媒は、それらの粘度低下機能のほかに、有機相への親水化効果を有し、エポキシアクリレート樹脂(P)の分散物をサポートするものである。適切な溶媒の例は、例えば、エトキシプロパノール、プロポキシプロパノール又はイソプロパノールである。場合によって、これらの揮発性有機溶媒は、例えば真空中の蒸発によって、最終分散物から一部若しくは完全に再び除去することができる。
【0038】
場合によって、粘度低下剤としての有機溶媒の代わりに、低粘性の単官能性若しくは多官能性アクリレートを使用することもできる。
【0039】
ステップ(iv)において場合によって添加される粘度低下添加剤の量は、せいぜい10重量%、好ましくはせいぜい6.5重量%である(それぞれの場合全分散物に基づいて)。
【0040】
(a)エポキシアクリレート樹脂(P)及び(b)分散剤(D)を含有する本発明による水性分散物の調製は、この分散物が、全分散物に基づいて10〜70重量%、特に25〜60重量%の固形分含量を有するように行われる。
【0041】
本発明を成功させるために、多段階の工程管理及び関連の境界条件が非常に重要であることが再び強調されるべきである。引用した国際公開第2006/056331号中に直接且つ一義的に開示も示唆もされていない、この特有の特徴の組合せによってのみ、上記の課題提起に対する解決が達成されるであろう。
【0042】
特に、国際公開第2006/056331号によるエポキシアクリレート分散物は、不十分な貯蔵安定性を呈する。例えば、国際公開第2006/056331A1号の例2による分散物は、25℃において短期間(10日未満)の貯蔵安定性しか有しておらず、したがって、本発明の目標がこれまで未達成であり、このためエポキシアクリレート分散物の、25℃における貯蔵安定性少なくとも3か月が要求される。その上、貯蔵安定性は、本出願人による研究によれば、転相温度と相互に関連し、ステップ(iv)についてこの温度が重要である。したがって、この温度は、本発明による、及び国際公開第2006/056331号による分散物の組成が異なっていることの指標とみなすことができる。こうして、例えば、実施例の節から、本発明による分散物(例1)が転相温度60℃を有し、一方比較例(例2)において転相温度は30℃に過ぎない点を帰納することができる。これは、例1の分散物の例外的に良好な貯蔵安定性(6か月を超える)及び、例2の分散物の非常に劣った貯蔵安定性(10日未満)と相互に関連している。
【0043】
本発明のエポキシアクリレート組成物と、国際公開第2006/056331号の教示による組成物(その場合、実施例によりワンポットで反応が行われている)とが異なっている点は、転相温度に関する既述の差異のほかに、明らかに分散物の非常に異なった特性の点でも、それ自体を明示している。
【0044】
この点に関して、本出願の実施例の節を参照すると、国際公開第2006/056331号の教示と比較して、本発明による教示は、下記の利点をもたらしていることが実証される。
・ 本分散物の貯蔵安定性の急激な且つ極めて著しい増加、
・ エポキシアクリレート分散物に基づく塗装の、物理的乾燥後及び紫外線硬化前における硬さの急激且つ極めて著しい増加。
【0045】
化合物(A)について
化合物(A)は、HLB値12未満を有し、且つ1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を有する非イオン性化合物の群から選択される。
【0046】
化合物(A)中のオキシラン基は、それらの位置に関して、末端(分子鎖の終端)とすることができ、又は内部に配置することができる。オキシラン基は末端であることが好ましい。
【0047】
一実施形態において、これらの化合物(A)は、少なくとも2つのC=C二重結合を有する対応する化合物の,エポキシ化によって得ることができる化合物(A)から選択される。
【0048】
一実施形態において、化合物(A)は、少なくとも2の官能性を有するグリシジル化合物からなる群から選択される。これらの化合物は、1分子当り2個以上のグリシジル基、すなわち、下記の式:
【化1】


によって特徴付けられる基を有する化合物である。
【0049】
グリシジル基内の反応性基は、オキシラン環(EpO)である。本発明の範囲内にある2つの特に魅力的なグリシジル化合物は、
・ 典型的には、多価アルコールのエピクロロヒドリンとの反応により調製されるグリシジルエーテル、
・ 例えば、ポリカルボン酸のエピクロロヒドリンとの反応により得ることができるグリシジルエステル
である。
【0050】
化合物(A)中のグリシジル基は、それらの位置に関して末端若しくは内部に配置することができる。グリシジル基は、末端であることが好ましい。
【0051】
グリシジルエーテルは、グリシジル化合物(A)、特に脂肪族、脂環式若しくは芳香族エポキシ化合物又はこれらの混合物として使用されることが好ましい。
【0052】
官能性≧2を有する適切な多官能性グリシジルエーテルの例は:ビスフェノール−Aジグリシジルエーテル、完全水素化ビスフェノール−Aジグリシジルエーテル、ビスフェノール−Fジグリシジルエーテル、ビスフェノール−A/Fジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、Cardanol(登録商標)NC514(Cardoliteのカルダノール(cardanol)系ジグリシジルエーテル)、ヒマシ油トリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、プロポキシル化グリセロールトリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル及びペンタエリトリトールテトラグリシジルエーテルである。
【0053】
官能性≧2を有する適切な多官能性グリシジルエステルの例は:二量体脂肪酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルである。
【0054】
官能性≧2を有する適切な多官能性エポキシドの例は:エポキシ化ダイズ油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化アマニ油脂肪酸メチルエステル、リモネンジオキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペートである。
【0055】
一実施形態において、二官能性グリシジルエーテル、すなわち1分子当り2個のグリシジルエーテル基を有する化合物が使用される。
【0056】
好ましい実施形態において、ビスフェノール−Aジグリシジルエーテルが化合物(A)として使用される。
【化2】

【0057】
化合物(A)は、化合物(B)と異なり、化合物(C)とも異なる。
【0058】
一実施形態において、化合物(A)は、必須のオキシラン基のほかに、1分子当り1個若しくは複数のアクリレート基を含む。
【0059】
化合物(B)について
化合物(B)は、12〜20の範囲にあるHLB値を有し、且つ1分子当り少なくとも1個のH−酸性基(ZH)を有する非イオン性化合物の群から選択される。化合物(B)のHLB値は、15〜20の範囲にあることが好ましい。
【0060】
化合物(B)は、オキシラン基を含まない。
【0061】
本発明の文脈におけるH−酸性基−例えば、化合物(B)のもの並びに化合物(C)のもの−は、ツェレウィチノフ(Zerewitinoff)活性水素原子を含有する基であると理解される。一般に知られているように、ツェレウィチノフによって発見された方法により、水素がヨウ化メチルマグネシウムと反応すると、その水素がメタンを与える場合に、N、O若しくはSに結合した水素を、ツェレウィチノフ活性水素(「活性水素」と略記されることがある)と呼ぶ。ツェレウィチノフ活性水素を有する化合物の典型的な例は、官能基としてカルボキシル、ヒドロキシル、アミノ、イミノ又はチオール基を含有する化合物である。本発明の文脈において、H−酸性基(ZH)が、開環されたオキシラン環(EpO)と反応できることは決定的に重要である。本発明の文脈において、OH基、SH基、COOH基並びに第一級若しくは第二級アミン基は、化合物(B)のH−酸性基として特に好ましい。
【0062】
特性として疎水性である化合物(C)と異なり、化合物(B)は親水性物質である。
【0063】
化合物(B)中のH−酸性基は、それらの位置に関して末端に若しくは内部に配置することができる。
【0064】
H−酸性基は、末端であることが好ましい。H−酸性基2個を有する化合物(B)が好ましい。
【0065】
化合物(B)は、化合物(C)と構造的に異なることが、明らかにされるべきである。この差異は、化合物(C)は親水性構造要素を含有せず、この構造要素が化合物(B)の相対的に高いHLB値を決定することである。化合物(B)について、親水性構造要素(例えば、ポリアルキレンオキシド構成単位又は糖構成単位、ポリアルキレンオキシドブロックが好ましいものである。)は必須なものであり、それは、本発明による分散剤の水混和性、又はむしろ水溶解性、の原因になるものであるからである。したがって、化合物(B)中の親水性構造要素は、化合物(A)との反応によってそれから得られる化合物が、その後のアクリル化と共にエポキシアクリレートの分散剤となるような範囲で、存在していなければならない。
【0066】
一実施形態において、化合物(B)の曇点は、50℃を超えている。非イオン性化合物の曇点は、この化合物の水溶液が、2相に、すなわち水相と非イオン性化合物を含有する相とに分離し始め、したがって濁ってくる温度である。本発明の文脈における曇点は、DIN EN1890による方法によって、測定される。
【0067】
H−酸性基を有し、12を超えるHLB値を有する適切な非イオン性化合物(B)の例は、例えば:
・ ポリエチレングリコール、
・ EO/PO−ブロックコポリマー、例えば、HuntsmanからのJeffamine(登録商標)M−1000及びJeffamine(登録商標)M−2070;BASFからのTetronic(登録商標)304、Tetronic(登録商標)904、Tetronic(登録商標)908、Tetronic(登録商標)1107及びTetronic(登録商標)1307、並びにCrodaからのSynperonic(登録商標)T/707及びSynperonic(登録商標)T/908など、
・ PO/EO/PO−ブロックコポリマー、例えば、HuntsmanからのJeffamine(登録商標)ED−2003、並びにBASFからのPluronic(登録商標)10R5及びPluronic(登録商標)10R5など、
・ EO/PO/EO−ブロックコポリマー、例えば、BASFからのPluronic(登録商標)F38、Pluronic(登録商標)F68、Pluronic(登録商標)F77、Pluronic(登録商標)F87、Pluronic(登録商標)F88、Pluronic(登録商標)F98、Pluronic(登録商標)F108、Pluronic(登録商標)F127、Pluronic(登録商標)P65、Pluronic(登録商標)P84、Pluronic(登録商標)P85、Pluronic(登録商標)P104、Pluronic(登録商標)P105、Pluronic(登録商標)L35、Pluronic(登録商標)L44及びPluronic(登録商標)L64、並びにCrodaからのSynperonic(登録商標)PE範囲の同等製品など、
・ ポリオキシエチレンソルビタンエステル、例えばCrodaからのTween(登録商標)20、Tween(登録商標)21、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60及びTween(登録商標)80など、
・ ポリオキシエチレンアルコール、例えばCrodaからのBrij(登録商標)L23、Brij(登録商標)S10、Brij(登録商標)S20、Brij(登録商標)S721、Brij(登録商標)S100、Brij(登録商標)O20、Brij(登録商標)C10、Brij(登録商標)C20、Synperonic(登録商標)13/9、Synperonic(登録商標)13/10、Synperonic(登録商標)13/12及びSynperonic(登録商標)A20など、
・ ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、例えばCrodaからのポリオキシエチレンMyrj(登録商標)S40、Myrj(登録商標)S50及びMyrj(登録商標)S100など、
・ ポリオキシエチレンアルキルアミン、CrodaからのAtlas(登録商標)3789、Atlas(登録商標)G−3780A、Crodamet(登録商標)C−15及びCrodamet(登録商標)T−15など、
・ ヒドロキシル含有化合物のアルキレンオキシドとの反応生成物、並びにアルキレンオキシドを有するヒドロキシル含有化合物の反応生成物の末端ヒドロキシル基をアミノ基で交換することにより得ることができる化合物
である。
【0068】
ヒドロキシル含有化合物のアルキレンオキシドとの反応に関して、エトキシル化及びプロポキシル化が特に重要である。これは、通常次のように行われる:第1のステップにおいて、所望のヒドロキシル含有化合物が、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドに曝露され、この混合物が、アルカリ性触媒の存在下において、20〜200℃の範囲における温度で変換される。こうして、エチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)の付加生成物が得られる。この付加生成物は、関連するヒドロキシル含有化合物へのEO付加物若しくはPO付加物又はEO/PO付加物であることが好ましい;EO/PO付加物内におけるEO及びPOの付加は、ランダムに若しくはブロックとして起こり得る。
【0069】
一実施形態において、化合物(B)は、一方で1分子当り平均して5〜300個のアルキレンオキシド構成単位と、他方で少なくとも2個のH−酸性基を有する非イオン性化合物の群から選択され、ここで、化合物(B)は、平均して1分子当り、全ての他のアルキレンオキシド単位の合計を超えるエチレンオキシド単位を含有し、そして、化合物(B)は、1分子当り平均して少なくとも5個のエチレンオキシド単位を含有する。アルキレンオキシド構成単位として論議される化合物は、エチレンオキシド(EO),プロピレンオキシド(PO)及びブチレンオキシド(BuO)であることが好ましい。
【0070】
ここで、上述の境界条件が当てはまり、それにより、化合物(B)は、
・ 平均して1分子当り、全ての他のアルキレンオキシド単位の合計を超えるエチレンオキシド単位を含有し、そして、
・ 1分子当り平均して少なくとも5個のエチレンオキシド単位を含有する。
【0071】
化合物(B)は、平均して1分子当り20〜300個の、特に50〜250個のEO単位を含有することが好ましい。
【0072】
一実施形態において、化合物(B)は、末端ヒドロキシル基を有するEO/POブロックコポリマー、及び末端の第一級若しくは第二級アミン基を有するEO/POブロックコポリマーの群から選択される;この点に関して、それらのHLB値が15〜20の範囲にある型が、特に好ましい。
【0073】
2個以上の末端ヒドロキシル基を有する適切なEO/POブロックコポリマー並びに少なくとも1個の末端の第一級若しくは第二級アミン基を有するEO/POブロックコポリマーの例は、BASFからのPluronic(登録商標)F−、Pluronic(登録商標)P−及びPluronic(登録商標)L−型;CrodaからのSynperonic(登録商標)PE型、並びにHuntsmanからのJeffamine(登録商標)M−及びJeffamine(登録商標)ED型である。
【0074】
さらなる実施形態において、化合物(B)は、親水基として糖構成単位を含有する非イオン性化合物の群から選択される。この点に関して、Tweenの群、すなわち、その糖構成単位がソルビトールの脱水生成物、糖アルコールであるポリオキシエチレンソルビタンエステルの群が好ましい。
【0075】
一実施形態において、化合物(B)は、一般構造R−O−R−CHCH(R)−Xの物質の群から選択される。この式において、
・ Rは、脂肪族、脂環式又は芳香族とすることができる炭素原子1〜12個を有する一価有機基であり、
・ Rは、5〜200個のポリオキシアルキレン単位、特にEO及び/若しくはPO単位で構成されるポリオキシアルキレン基であり、
・ Rは、水素、又は炭素原子4個までを有する脂肪族基であり、
・ XはOH又はNH基である。
【0076】
この点に関して、上述の境界条件が当てはまり、それにより、化合物(B)は、平均して1分子当り、全ての他のアルキレンオキシド単位の合計を超えるエチレンオキシド単位を含有し、そして、1分子当り平均して少なくとも5個のエチレンオキシド単位を含有する。
【0077】
一実施形態において、化合物(B)は、炭素原子1〜18個を有する脂肪族アルコールとのEO及び/又はPOの付加物の群から選択される。
【0078】
化合物(C)について
化合物(C)は、12未満のHLB値を有し、且つ1分子当り少なくとも2個のH−酸性基を有する(=官能性≧2を有する)非イオン性化合物の群から選択される。化合物(C)は、オキシラン基を含まない。化合物(C)中のH−酸性基は、それらの位置に関して、末端とし、又は分子内に配置することができる。H−酸性基は末端であることが好ましい。2個のH−酸性基を有する化合物(C)が好ましい。
【0079】
特性として親水性である化合物(B)と異なり、化合物(C)は、疎水性物質である。
【0080】
化合物(C)のHLB値は、10未満であることが好ましい。
【0081】
化合物(C)は、ポリアルキレンオキシド構成単位も、糖構成単位も含有しないことが好ましい。
【0082】
化合物(C)は、合成の観点から、連鎖延長剤として特徴付けられる。
【0083】
H−酸性基は、−化合物(B)について既に論議したように−開環されたオキシラン環と反応することができる官能基であると理解される。本発明の文脈において、OH基、SiOH基、SH基並びにCOOH基が、化合物(C)のH−酸性基として特に好ましい。
【0084】
官能性≧2を有する適切な多価アルコールは:ビスフェノール−A、水素化ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、二量体ジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、イソソルビド、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのブロックコポリマー、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び1,6−シクロヘキサンジオールである。
【0085】
官能性≧2を有する適切なチオールは:エチレングリコールジ−3−メルカプトプロプリオネート、エチレングリコールジ−2−メルカプトアセテート、ヘキサンジチオール、トリメチロールプロパントリ−(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリ−(3−メルカプトプロプリオネート)、ペンタエリトリトールテトラ−(2−メルカプトアセテート)及びペンタエリトリトールテトラ−(3−メルカプトプロプリオネート)である。
【0086】
官能性≧2を有する適切なヒドロキシ官能性ポリシロキサンは:Dow CorningからのDow Corning(登録商標)3−0133、Dow Corning(登録商標)3−0213、Dow Corning(登録商標)3−0113、Dow Corning(登録商標)3−0084、Dow Corning(登録商標)2−1273及びDow Corning(登録商標)4−2737である。
【0087】
一実施形態において、多価アルコールが、化合物(C)として使用される。ジオール、特に末端のOH基を有するジオールが好ましい。
【0088】
好ましい一実施形態において、ビスフェノール−Aが、化合物(C)として使用される。
【化3】

【0089】
触媒
ステップ(i)〜(iii)において、それぞれのステップで、触媒を使用することができる。ステップ(i)において、触媒は必須であることが好ましい。
【0090】
ステップ(i)における適切な触媒の例は、三フッ化ホウ素−アミン錯体及びアルカリ金属アルコレートである。
【0091】
ステップ(ii)における適切な触媒の例は、トリフェニルホスフィン及びヨウ化エチルトリフェニルホスホニウムである。
【0092】
ステップ(iii)における適切な触媒の例は、トリフェニルホスフィン、チオジグリコール、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン及びN,N−ジベンジルメチルアミンである。
【0093】
阻害剤
ステップ(iii)において、アクリル化が行われる。これは、原則として、当業者に知られている全ての関連のアクリル化技術を使用して行うことができる。一実施形態において、アクリル化は、場合によって触媒の存在下、阻害剤の存在において、及び酸素含有雰囲気例えば空気中で行われる。適切な阻害剤の例は、4−メトキシフェノール、フェノチアジン、ヒドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、亜リン酸トリフェニル及びジニトロベンゼンである。
【0094】
使用
本発明による分散物は、良好な作業性(workability)及び適用性(=技術的適用の見地からの有用な系への組込み)によって特徴付けられ、吹付け塗り、流し塗り、ロール塗布、スミアリング、ナイフコーティング及び浸し塗りによって、種々の基材、特に木材、プラスチック、金属、紙、ボール紙、ガラス、セラミック、皮革、織物を塗装するのに適している。
【0095】
場合によって、本発明による分散物に、さらなる通常の塗料添加剤、例えば光開始剤、消泡剤、脱気剤、レベリング剤、紫外線吸収剤及び光安定剤、顔料、染料、フィラー、レオロジ添加剤、ワックス、つや消し剤、分散剤、殺生物剤並びに凝集剤などを添加することができる。
【0096】
したがって、本発明のさらなる目的は、放射線硬化性組成物として上述のように得ることができるエポキシアクリレートの水性分散物の、着色及び非着色ラッカー及び塗料組成物並びにペイントなどの塗装系への使用である。
【0097】
より具体的には、本エポキシアクリレートの水性分散物は、プライマーとして及び上塗り塗料として木材を塗装するのに適している。一般に、木材上への優れた接着性が見出されている。上塗り塗料として、本分散物はまた、極めて高光沢及び優れた耐薬品性(例えば、酢酸、アンモニア及びエタノールに対する)よって、さらには良好な引っかき抵抗性及び耐摩耗性によって特徴付けられる。
【0098】
方法
本発明のさらなる目的は、(a)1分子当り少なくとも2個のアクリレート基を有し、25℃において水に自己分散性ではないエポキシアクリレート樹脂(P)と、(b)1分子当り少なくとも1個のアクリレート基を有する分散剤(D)とを含有する放射線硬化性エポキシアクリレートの水性分散物の調製方法であって、
最初に、第1のステップ(i)において
・ 12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(A)を、
・ 12〜20の範囲にあるHLB値を有し、1分子当り少なくとも1個のH−酸性基(ZH)を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(B)と、
場合によって、触媒の存在下において、反応させ、この工程において、化合物(A)及び(B)が、1.3:1〜400:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(B)で適用され、
得られた反応混合物を、第2のステップ(ii)において、
・ 12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を有する1種若しくは複数の非イオン性化合物(化合物A)、及び
・ 12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のH−酸性基を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(C)と、
場合によって、触媒の存在下において、反応させ、この工程において、化合物(A)及び(C)が、1.1:1〜20:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(C)で適用され、
得られた反応混合物を、第3のステップ(iii)において
アクリル酸と、全てのエポキシ基を開環させながら、場合によって、触媒の存在下において、反応させ、
得られた反応混合物を、第4のステップ(iv)において、
水に分散させる上記方法である。
【実施例】
【0099】
1.使用した物質
・ Pluronic(登録商標)F88 −BASFからの分子量約11000の、末端ヒドロキシル基を有する二官能性EO/PO/EO−ブロックコポリマー;
・ D.E.R.(商標)331(商標) −Dow Chemicalからのビスフェノール−Aジグリシジルエーテル;
・ Anchor(登録商標)1040硬化剤−Air Productsからの、三フッ化ホウ素の改質アミンとの錯体;
・ ビスフェノール−A −Bayer MaterialScienceから;
・ トリフェニルホスフィン −Arkemaから;
・ 4−メトキシフェノール −Acros Organicsから;
・ アクリル酸 −BASFから、4−メトキシフェノール200ppmで安定化した;
・ エトキシプロパノール −Brenntagから;
・ Chem(登録商標)E Res20 −Cognisからのビスフェノール−Aジグリシジルエーテル;
・ WUQ −Cognisからの、エピクロロヒドリンによるプロポキシル化ペンタエリトリトールの縮合生成物(平均してPO単位5個);
・ Jeffamine(登録商標)M−2070 −Huntsmannからの分子量約2000の、末端アミン基を有する単官能性EO/PO−ブロックコポリマー;
・ PU−アクリレート分散物 −Bayhydrol(登録商標)UV2282、固形分39%及びpH−値7.4を有する、Bayer MaterialScienceからの放射線硬化性イオン性ポリウレタンアクリレート分散物。本発明による実施例の材料特性を特徴付ける対照用製品として使用した(以下のデータ部分、第3節を参照されたい)。
【0100】
2.測定及び試験方法
酸価:NF EN ISO660による。
【0101】
粘度:ISO3219により、25℃で測定
全ての粘度は、Malvern InstrumentsからのBohlin C−VORレオメータで、せん断速度40秒−1で測定した。
【0102】
エポキシド含量
オキシラン基(「エポキシ基」)を有する化合物の含量を特徴付けるため、エポキシド滴定を行った。これにより得られたエポキシ価(EpO%)は、試料100g中に何グラムのオキシラン酸素が含有されるかを示す。
【0103】
この滴定は、次の原理に基づく:過剰の臭化テトラエチルアンモニウムを有する溶液を、オキシラン環を含有する試料に添加する。この混合物を、氷酢酸中の過塩素酸の溶液で滴定し、これにより等モル量の臭化水素が放出される。この臭化水素は、オキシラン環と開環反応して、対応するブロモヒドリンを生成する。
【化4】


使用した指示薬は、クリスタルバイオレットである。この測定は、水、塩基及びアミンが存在しないことを前提とする。
【0104】
次の試薬を使用した:(1)氷酢酸中の0.1N過塩素酸(Merck);(2)氷酢酸400ml中の臭化テトラエチルアンモニウム100gの溶液の形態における臭化テトラエチルアンモニウム(Fluka);(3)クリスタルバイオレット(Merck);指示薬溶液を調製するため、クリスタルバイオレット0.2gを氷酢酸100ml中に溶解した。
【0105】
実行:0.2〜0.5gの、オキシラン環を含有する試料をエルレンマイヤーフラスコ中に入れる。この試料を、50mlの無水アセトンに溶解する。次いで、10mlの臭化テトラエチルアンモニウム溶液(上記参照)及び3滴のクリスタルバイオレット溶液(上記参照)を加える。この混合物を、氷酢酸中の0.1N過塩素酸溶液で滴定する。青から緑に色が変化するとき終点に達している。実際の滴定を行う前に、測定誤差を排除するため、ブランク試験(オキシラン化合物を含まないもの)を行う。
【0106】
評価:エポキシ含量EpO%は、下記のように計算される:
%EpO=[(a−b)0.160]/E
a:滴定に要した0.1nHClO溶液のミリリットル数、
b:ブランク試験に要した0.1nHClO溶液のミリリットル数、
E:グラムでの試料の重量。
【0107】
エポキシド重量当量
エポキシド重量当量(epoxide eqivalent weight)(EEW)は、エポキシド価(上記参照)から、下記のように計算することができる:
EEW=16100/%EpO
EEWの次元は、g/当量である。
【0108】
転相温度
それぞれの分散物の試料を、所与の温度で反応器から採取し、1滴を、ガラス棒で、約300〜400mlの水を有するビーカー中に、こすり落した。分散物の小滴が水中に急速並びに完全に分散することは、O/W分散物の存在を、したがって関連する転相温度を示している。この小滴が全く分散しなければ、W/O分散物が存在しており、転相温度にまだ達していない。
【0109】
pH−値:25.0℃においてISO976による。
【0110】
固形分含量:ISO3251による
試験しようとする2gの分散物を、対流オーブン内において125℃で60分間乾燥した。
【0111】
粒度分布
Malvern InstrumentsからのMastersizer Hydro 2000Mにより25.0℃で動的光分散を使用して粒度分布曲線を測定した。
【0112】
貯蔵安定性
試験用分散物を、所与の温度で密封ガラス容器内に貯蔵し、貯蔵時間が終わった後で、粒度及び分布、粘度、相分離並びに沈降における変化を調べた。
【0113】
試料調製
紫外線硬化についての全ての実験室試験は、200ワット/cm中間圧水銀灯を有する、IST Metz社からのM−40−2xl−R−TR−SLC−SO−不活性型の紫外線ベルトドライヤーを使用して、空気下で行った。その結果のエネルギー密度は、EITからのUV Power Puckを使用して、UV−A(320〜390nm)、UV−B(280〜320nm)、UV−C(250〜260nm)及びUV−V(395〜445nm)のエネルギー密度を合計することにより測定した。全ての材料関連及び適用関連特性は、関係する分散物99重量%と、Cibaからの光開始剤Irgacure(登録商標)184 1重量%との混合物に基づいて測定した。対応する薄膜は、それぞれの基材上に所望の層厚でナイフコーティングにより調製し、次いで対流オーブン内において50℃で10分間物理的に乾燥して水分を除去し、その後エネルギー密度1500mJ/cmで完全に紫外線硬化させた。全ての薄膜は、それぞれの測定の前に25℃で24時間、平衡に達させた。
【0114】
ペンデュラム硬度:ペルゾー(Persoz)による(ISO1522)
ペンデュラム硬度を測定するため、Q−Lab社からのQD−36冷延鋼シート上に湿潤膜厚150μmを有する薄膜を形成させ、紫外線硬化を含む上述の試料調製の後で、測定した。
【0115】
光沢:ISO2813による
光沢を測定するため、Leneta社からのフォーム2A Opacity Chart上に、湿潤膜厚12μm及び150μmを有する塗膜を作り、紫外線硬化を含む上述の試料調製の後で、BYK−Gardner社からのミクロ光沢60°光沢計により測定した。
【0116】
耐薬品性:DIN68861−1による
耐薬品性(耐化学品性)はブナ基材上で測定し、この基材は、P180アルミナ砥粒を有する研磨紙で最初前処理し、次いで関連の分散物と光開始剤との混合物を使用して厚さ150μmを有する湿潤薄膜を塗装し、物理的に乾燥し、且つその後紫外線硬化させた。この第1の層を、P320酸化アルミニウム砥粒を有する研磨紙で研磨し、同一の分散物と光開始剤との混合物の湿潤膜厚150μmを有する第2の層を塗装し、物理的に乾燥し、且つ最後に紫外線硬化させた。次いで、塗装した試料をコンディショニングのため25℃で1週間貯蔵した後、DIN68861−1により耐薬品性を測定した。
【0117】
金属への付着性:ISO2409による
金属への付着性を測定するため、Q−Lab社からのQD−36冷延鋼シート、S−36−Iリン酸鉄処理鋼シート、A−36アルミニウムシート及びALQ−36クロメート処理アルミニウムシート上に湿潤膜厚150μmを有する最初の薄膜を形成させた。紫外線硬化を含む上述の試料調製の後に、3M社からのScotch(登録商標)Crystal Clearテープによるクロスカット試験を使用して、付着性を測定した。
【0118】
3.実施例
例1(本発明による)
ステップ(i):
14.852kgのPluronic(登録商標)F88及び10.043kgのD.E.R.(商標)331(商標)を、窒素雰囲気下で、加熱可能な反応器に装入し、透明な融解物が得られるまでゆっくり撹拌のもとに100℃まで加熱した。次いで、0.11kgの触媒Anchor(登録商標)1040硬化剤を添加し、140℃まで加熱した。反応は、低発熱で直ちに開始された。反応温度140℃に達すると、並びにその後反応が進行する間1時間毎に、エポキシド含量を測定するために試料を採取した。EpO2.86〜2.96%の範囲にある所望のエポキシド含量に達した後(約5時間後)、直ちに冷却を開始し、90℃で、純粋に希釈の目的で24.995kgのD.E.R.(商標)331(商標)を添加した。黄色を帯びた粘稠な、幾分濁った最終生成物は、この生成物が40℃で結晶化し始め、室温で固体であるので、60℃で粗フィルターバッグを通し濾過した。最終生成物は、40℃で粘度3500mPa・sを有し、エポキシド重量当量(EEW)は286g/当量であった。
【0119】
ステップ(ii):
37.51kgのD.E.R.(商標)331(商標)、13.75kgのステップ(i)からの生成物、14.02kgのビスフェノール−A及び0.078kgの触媒トリフェニルホスフィンを、窒素雰囲気下で、加熱可能な反応器に装入し、撹拌のもとに均質化した。次いで、反応器の内容物を140℃まで加熱し、それによって、反応の発熱により反応器の内容物は約160℃まで加熱された。発熱を過ぎた後、160℃で0.5時間反応器の内容物を保持した。
【0120】
その後、エポキシド含量を測定するために試料を採取した;この含量が、EpO2.80〜3.20%の範囲になると直ぐに、反応器の内容物を90〜95℃まで冷却した。100℃に達すると、0.19kgの阻害剤4−メトキシフェノールを添加し、反応混合物中への空気導入を開始した。
【0121】
ステップ(iii):
0.37kgの触媒トリフェニルホスフィンを9.06kgのアクリル酸中に溶解し、この溶液の半分を、反応器の内容物の目標温度90〜95℃に達した後、投与系を使用してゆっくり10分以内に添加した。90〜95℃での反応時間2時間後、同じ方法で他の半分を添加した。反応器の内容物の撹拌を、エポキシド含量がEpO0.2%未満に低下するまで(それによって、酸価が1mgKOH/g未満に低下してはならない。)、90〜95℃で継続し、これは約10〜15時間続いた。
【0122】
ステップ(iv):
その後、9.3kgのエトキシプロパノールを、撹拌のもとに85℃でゆっくり添加し、この混合物をさらに0.5時間撹拌し、11.36kgの脱イオン水を速やかに添加した。これにより、均質なW/O分散物が形成され、反応器の内容物の温度は75℃まで低下した。次いで、反応器の内容物を55℃までさらに冷却した。温度が低下すると、転相によりO/W分散物が現れ、これは粘度の急激な上昇を伴った。転相温度は60℃であった。55℃に達した後、0.5時間撹拌を継続した。次いで、17.95kgの脱イオン水を、1時間にわたってゆっくり添加し、それによって粘度は著しく低下した。その後、さらに1時間の内に、35.91kgの脱イオン水を添加し、これをさらに1時間撹拌した。その後、得られたエポキシアクリレート分散物を、SeitzSchenckからのDS900フィルターで濾過した。
【0123】
最終生成物は、25℃における粘度148mPa・s及びpH−値6.51を有していた。その上、固形分含量49.0重量%及び平均粒径D50425nmを示した。
【0124】
例2(比較例)
比較の目的で、国際公開第2006/056331号によるエポキシアクリレート分散物を調製した、すなわち、下記の通りであった:
【0125】
30.00kgのChem(登録商標)Res E20及び0.046kgのWUQを、窒素雰囲気下で、加熱可能な反応器に装入し、撹拌のもとに均質化した。その後、7.35kgのJeffamine(登録商標)M−2070、7.70kgのビスフェノール−A及び0.033kgの触媒トリフェニルホスフィンを添加し、反応器の内容物を150℃まで加熱し、それによって、反応の発熱により反応器の内容物は約165〜170℃まで加熱された。発熱を過ぎた後、165〜170℃で0.5時間反応器の内容物を保持した。その後、エポキシド含量を測定するために試料を採取した。この値が、EpO2.80〜3.20%に達すると直ぐに、反応器の内容物を85〜90℃まで冷却した。85〜90℃で、阻害剤4−メトキシフェノール0.13kgを添加し、空気導入を開始した。0.5時間以内に、85〜90℃で、0.37kgの触媒トリフェニルホスフィン及び9.55kgのアクリル酸の混合物を、投与系を使用してゆっくり添加した。反応器の内容物を、90〜95℃で、エポキシド含量がEpO0.2%未満に低下するまで撹拌し(それによって、酸価が1mgKOH/g未満に低下してはならない。)、これは約10〜16時間継続し、次いで6.47kgのエトキシプロパノールを添加した。
【0126】
80℃まで冷却した後、8.87kgの脱イオン水を添加し、それにより混合物の粘度が低下した。温度が低下すると、転相によりO/W分散物が現れ、これは粘度の急激な上昇を伴った。転相温度は30℃であった。次いで30℃で、0.5時間撹拌を継続した。その後、36.76kgの脱イオン水を添加した。得られたエポキシアクリレート分散物を、SeitzSchenckからのDS900フィルターで濾過した。
【0127】
最終生成物は、25℃における粘度450mPa・s、pH−値5.7、固形分含量50.5重量%及び平均粒径D50550nmを有していた。
【0128】
特性及び適用
【表1】


本発明による実施例は、比較例(本発明によらない)よりも著しく高い転相温度を示し、これが直接、貯蔵安定性と相互に関連している。本発明による実施例は、少なくとも6か月の、優れた且つ実用指向の貯蔵安定性を有するが、比較例の値は10日未満であり、これは全体として工業的適用性のためには不十分である。比較例の乏しい貯蔵安定性は、目視で明らかな相分離として示された。
【表2】



【0129】
本発明による実施例について、物理的乾燥後及び紫外線硬化前のペンデュラム硬度の測定により既に、非粘着薄膜(tack−free film)という結果になった。この薄膜は、紫外線硬化した薄膜の機械的抵抗性及び耐薬品性をまだ有していないが、機械的安定性を有し、塗装系への容易な且つ即時のさらなる処理を可能にしている。これと異なって、比較例(本発明によらない)では、物理的乾燥後及び紫外線硬化前に、ペンデュラム硬度の測定が不可能であるような粘着性の塗膜をもたらし、これが塗装系への迅速なさらなる処理の余地を無くしていた。物理的乾燥及び紫外線硬化後に到達できるペンデュラム硬度は同様なレベルにあり、ここでは本発明による実施例の有する利点は少ない。
【表3】


物理的乾燥後及び紫外線硬化前のペンデュラム硬度に関する本発明による分散物の優位性は、比較の分散物と比べて、桁レベルでより良好である。
【0130】
下記のデータは、このことを例示する。ペンデュラム硬度及び光沢の適用関連特性について、本発明による非イオン性分散物は、全ての評価基準に関して商業的適用性基準などに頼っているイオン性ポリウレタンアクリレート分散物を凌駕している。
【表4】


【表5】

【0131】
【表6】


高品質家具表面向けの木材塗装では、耐薬品性がDIN68861−1規格で定義され、この規格では要求の厳しい用途について1Bのレベルに達しているべきであると指定されており、このレベルは、上表においていくつかの薬品(化学品)について挙げている特定の曝露時間に対応する。この評価は、5=塗装表面又は損傷についての強い光学的に見ることのできる変化、からレベル0=塗装表面の外観において見ることができる変化がない、までの範囲にわたる。PUアクリレート分散物は、木材塗装物の市場において1Bの高レベルに達していることが知られている。本発明による分散物でも同様に、同一の優れた耐薬品性を達成することができ、これは木材塗装業界では極めて重要なことである。
【0132】
【表7】


一般的に言うと、放射線硬化性バインダー系の金属表面への実用指向の付着は、特殊な添加剤の使用なしではほとんど実現することができない。付着性を測定する適切な基準はクロスカット方法であり、その評価レベルは、5=クロスカット端部での65%を超える薄膜のはがれ、からレベル0=クロスカット端部での薄膜のはがれがないこと、までにわたる。ポリウレタンアクリレート分散物及び本発明による分散物は、紫外線硬化直後、付着させるため最適化した種々のアルミニウム及び鋼基材上で非常に良好な付着性を示す一方、前処理していない種々のアルミニウム及び鋼基材への優れた且つ即時付着性は、本発明による分散物についてだけ観察することができる。ポリウレタンアクリレート分散物の付着性は、数日の期間にわたってだけ現れ、したがってこの場合には、即時のさらなる処理は不可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1分子当り少なくとも2個のアクリレート基を有し、25℃において水に自己分散性ではないエポキシアクリレート樹脂(P)と、(b)1分子当り少なくとも1個のアクリレート基を有する分散剤(D)とを含有する放射線硬化性エポキシアクリレートの水性分散物であって、
最初に、第1のステップ(i)において、12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(A)を、12〜20の範囲にあるHLB値を有し、1分子当り少なくとも1個のH−酸性基(ZH)を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(B)と、場合によって触媒の存在下において、反応させ、この工程において、前記化合物(A)及び(B)は、1.3:1〜400:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(B)で適用され、
得られた前記反応混合物を、第2のステップ(ii)において、12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を有する1種若しくは複数の非イオン性化合物(化合物A)、及び、12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のH−酸性基を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(C)と、場合によって触媒の存在下において、反応させ、この工程において、化合物(A)及び(C)は、1.1:1〜20:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(C)で適用され、
得られた前記反応混合物を、第3のステップ(iii)において、アクリル酸と、全てのエポキシ基を開環させながら、場合によって触媒の存在下において、反応させ、
得られた前記反応混合物を、第4のステップ(iv)において、水に分散させること
によって得られる上記分散物。
【請求項2】
前記化合物(A)が、1分子当り2個以上のグリシジル基を含有するグリシジルエーテルからなる群から選択される、請求項1に記載のエポキシアクリレート分散物。
【請求項3】
ビスフェノール−Aジグリシジルエーテルが、化合物(A)として使用される、請求項2に記載のエポキシアクリレート分散物。
【請求項4】
前記化合物(B)が、ポリエチレングリコール、EO/PO−ブロックコポリマー、PO/EO/PO−ブロックコポリマー、及びEO/PO/EO−ブロックコポリマーの群から選択される、請求項1から3までのいずれか一項に記載のエポキシアクリレート分散物。
【請求項5】
前記化合物(C)が、1分子当り2個以上のOH基を有する多価アルコールの群から選択される、請求項1から4までのいずれか一項に記載のエポキシアクリレート分散物。
【請求項6】
ビスフェノール−Aが、化合物(C)として使用される、請求項5に記載のエポキシアクリレート分散物。
【請求項7】
ステップ(i)において、触媒が使用される、請求項1から6までのいずれか一項に記載のエポキシアクリレート分散物。
【請求項8】
ステップ(i)において、前記化合物(A)及び(B)が、1.5:1〜50:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(B)で適用される、請求項1から7までのいずれか一項に記載のエポキシアクリレート分散物。
【請求項9】
ステップ(ii)において、前記化合物(A)及び(C)が、1.8:1〜2.2:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(C)で適用される、請求項1から8までのいずれか一項に記載のエポキシアクリレート分散物。
【請求項10】
塗装系のための放射線硬化性組成物としての、請求項1から9までのいずれか一項に記載のエポキシアクリレート分散物の使用。
【請求項11】
前記エポキシアクリレート分散物が、木材、金属、紙又はボール紙を塗装するために使用される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
(a)1分子当り少なくとも2個のアクリレート基を有し、25℃において水に自己分散性ではないエポキシアクリレート樹脂(P)と、(b)1分子当り少なくとも1個のアクリレート基を有する分散剤(D)とを含有する放射線硬化性エポキシアクリレートの水性分散物の調製方法であって、
最初に、第1のステップ(i)において、12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(A)を、12〜20の範囲にあるHLB値を有し、1分子当り少なくとも1個のH−酸性基(ZH)を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(B)と、場合によって、触媒の存在下において、反応させ、この工程において、前記化合物(A)及び(B)は、1.3:1〜400:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(B)で適用され、
得られた前記反応混合物を、第2のステップ(ii)において、12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のオキシラン基を有する1種若しくは複数の非イオン性化合物(化合物A)、及び、12未満のHLB値を有し、1分子当り少なくとも2個のH−酸性基を有する非イオン性化合物の群から選択される1種若しくは複数の化合物(C)と、場合によって、触媒の存在下において、反応させ、この工程において、化合物(A)及び(C)は、1.1:1〜20:1の範囲にある当量比EpO(A):ZH(C)で適用され、
得られた前記反応混合物を、第3のステップ(iii)において、アクリル酸と、全てのエポキシ基を開環させながら、場合によって、触媒の存在下において、反応させ、
得られた前記反応混合物を、第4のステップ(iv)において、水に分散させる上記方法。

【公表番号】特表2013−505340(P2013−505340A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530151(P2012−530151)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005601
【国際公開番号】WO2011/032673
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(511105296)アイジーエム・グループ・ベスローテン・フェンノートシャップ (2)
【氏名又は名称原語表記】IGM Group B.V.
【Fターム(参考)】