説明

放射線硬化性成分を有する複合繊維セメント物品

複合建築用物品は、物品の耐久性を改良するための1箇所または複数の表面下の界面領域が提供されるように構成されている。それぞれの表面下の界面領域は、繊維セメントと放射線硬化性材料とのマトリックスで作られる。放射線硬化性材料は、繊維セメントと共に絡み合った網目構造を形成して、物品を劣化させる可能性のある環境因子の進入に抵抗する界面領域を提供する。表面下の界面領域の数、形状および分布は、最終製品の所望の特性に応じて変動させることができる。表面下の界面領域はまた、基材ならびに外部塗装層と一体となって形成することができるので、外部塗装と基材間の密着性をも向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に複合建築用物品に関し、特に1種以上の放射線硬化性成分および配合物が配合された複合繊維セメント建築用物品および複合物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維補強セメント(FRC)製品は、様々な建築用途においてまた気候的に異なった地域で益々多く使用されている。FRC製品は、それらの固有の耐火、耐水、病虫害およびカビへの抵抗性、ならびにそれらの製品の広範な適応性により好評を得ている。しかし、湿潤−乾燥サイクル、凍結−融解サイクルへの継続した周期的曝露、UV曝露および大気の二酸化炭素が、時間経過によるFRC製品の物理的および化学的変化の原因となる可能性がある。FRC建築材料はまた、取扱い、出荷および取付け中に物理的損傷を受ける可能性もある。
【0003】
FRC製品を保護して曝露および取扱いの有害な影響を軽減し、同時にFRC製品のために装飾的外観を与える塗装およびラミネートが開発されている。表面塗装の施工によって繊維セメント物品を処理する場合、最終製品はしばしば、依然として物理的および化学的両方の形で劣化を受けやすいままの状態である。塗装およびラミネートは本質的に表面処理であり、繰返し曝露によって密着性が低下しやすく、または基材から層間剥離する。密着性を改善するために密着性増進剤、あるいは基材と化学反応性がある塗料または接着剤の使用がよく知られているが、この方策では、多数回の凍結/融解サイクルを経験する湿潤環境などの極限的気候または過酷な条件で何年にもわたって屋外曝露する場合、密着性を維持する上で必ずしも好結果が得られない。必要とされるのは、極限的条件においてFRC材料上に装飾的表面を維持する手段である。
【0004】
環境的損傷と同様に、取付けの際の誤った取扱いも、FRC製品の耐用寿命に悪影響を及ぼす可能性がある。誤った取扱いが、塗布された表面塗装またはラミネートにひび割れ、引裂き、あるいは摩耗損傷または層間剥離を生じる原因となる恐れがある。表面塗装またはラミネートの完全性が傷つけられる場合、極限環境への繰返し曝露により密着性の低下、および下側にあるFRC基材への損傷を招く恐れがある。必要とされるのは、塗装またはラミネートへの表面損傷があってもFRC製品の完全性を維持する手段である。
【0005】
上述のことを考慮して、装飾的または機能的表面を有するFRC複合材料であって、極限環境においてもその表面の外観および完全性が維持されるような、同時に、その表面が損傷されまたは危険に曝されるようなことがあっても、複合材料の完全性を維持する手段を提供するFRC複合材料への必要性が存在する。定められた用途において、複合体が所要のレベルの性能を達成することを可能にするのに必要とされる処理の回数を、実質的に減少させる必要もある。この目的のために、同時に高度に耐摩耗性であり、耐水性であり、凍結/融解条件への長期曝露にわたって耐損傷性であり、実質的に低減されたコストおよび材料によってこれらの性能特性を達成することが可能である、FRC製品への特別なニーズが存在する。
【0006】
したがって、従来技術の1以上の欠点を克服しまたは改善する複合物品と、その物品を製造する方法とを提供することが、本発明の目的である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一観点において、本発明の好ましい実施形態は、繊維セメントを主として含む第1の領域と、放射線硬化性材料を主として含む第2の領域と、それらの間に位置する表面下の界面領域とを有する複合建築用物品を提供する。表面下の界面領域は、放射線硬化性材料と繊維セメントとで構成される絡み合ったマトリックスを含むことが好ましく、この場合、界面領域は建築用物品の耐久性を増加させるように構成されている。界面領域は、複合物品の断面において所定の範囲まで存在するのが好ましい。この放射線硬化性材料はエポキシ、ウレタン、ポリエステル、アクリレート、メタクリレート、チオール−アクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルエポキシ、ウレタンアクリル、スチレン、および官能基化スチレン、またはこれらの混合物からなる群から選択することができる。一実施形態において、この表面下の界面領域の厚さは、第1の領域の空隙率、放射線硬化性材料のための担体溶液の粘度、放射線硬化性材料それ自体の粘度、放射線硬化性材料の濡れ挙動、ならびに第1の領域の材料との放射線硬化性材料の反応性からなる群から選択される特性を調整することにより制御することができる。一実施形態において、第1の領域は、約2体積%〜80体積%、より好ましくは約20体積%〜40体積%の空隙率を有する繊維セメント基材を含む。他の実施形態において、この複合建築用物品の全断面がこの表面下の界面領域を含む。他の実施形態において、この表面下の界面領域は第1および第2の領域と一体となって形成され、約1μm〜1,000μmの厚さを有する。この表面下の界面領域における放射線硬化性材料は実質的に触媒を含有せず、主として放射線により硬化可能であることが好ましい。この複合建築用材料は、外装用パネル、シート、ボード、厚板、トリム、柱、および管からなる群から選択するのが好ましい。
【0008】
他の観点において、本発明の好ましい実施形態は、その建築用物品のマトリックスの少なくとも一部が、繊維セメントと放射線硬化性材料とで構成される網目構造を含む建築用物品を提供する。網目構造は、建築用物品の耐久性を増加させるように構成されるのが好ましい。一実施形態において、繊維セメントと放射線硬化性材料は、この建築用材料のマトリックス全体にわたって散在している。放射線硬化性材料は、0.01ミクロンを超える平均孔径を有する繊維セメント材料の細孔内に存在するのが好ましい。他の実施形態において、この建築用物品は、繊維の少なくとも一部が放射線硬化性材料で処理された補強繊維をさらに含む。さらに他の実施形態において、建築用物品は、主として放射線硬化性材料で構成される外部塗装をさらに有する。外部塗装は、建築用物品の外部塗装とマトリックスの間の密着性を増加させるように、網目構造と一体になって形成されることが好ましい。代替的実施形態において、この建築用物品は、少なくとも1つの表面に塗布している外部塗装を有する。
【0009】
さらに他の観点において、本発明の好ましい実施形態は建築用製品を形成する方法を提供する。本方法は、繊維セメント基材に放射線硬化性材料を塗布するステップを含み、ここで放射線硬化性材料は、制御された形で基材中に広がり、放射線硬化性材料と繊維セメントとの混合物を含む領域を形成している。本方法には、放射線を照射して、放射線硬化性材料と繊維セメントとの3次元網目構造を形成するように基材内の放射線硬化性材料を硬化させるステップがさらに含まれる。電子ビーム放射線を照射して放射線硬化性材料を硬化させるのが好ましい。放射線硬化性材料は、繊維セメント基材と直接接触しているのが好ましい。他の実施形態において、放射線硬化性材料は多段階方法で硬化させる。
【0010】
さらに他の観点において、本発明の好ましい実施形態は建築用製品を形成する方法を提供する。本方法には、放射線硬化性材料を、繊維セメント複合材料を形成するための成分と配合するステップと、グリーンシート(未硬化のシート)の少なくとも一部ではこの放射線硬化性材料が全体にわたって分布しているグリーンシートを成形するステップと、グリーンシートを硬化させて、繊維セメントと放射線硬化性材料との網目構造を含有する建築用製品を形成するステップとが含まれる。一実施形態において、本方法は、グリーンシートを硬化させる前に未養生の繊維セメント基材にグリーンシートを結合させるステップをさらに含む。他の実施形態において、本方法は、この建築用製品の少なくとも1つの表面に塗装を施工するステップをさらに含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好ましい実施形態は、繊維セメントと放射線硬化性材料との絡み合った網目構造で形成される、1箇所または複数の表面下の界面領域を有する複合建築用物品を提供する。下記においてより詳細に記述するように、この界面領域がこの建築用物品の基材および外部表面と一体となって形成されて、環境作用剤の進入に対する有効な境界面となるものを与えることが好ましく、この建築用物品の耐久性、耐候性、強度、靭性を改良している。
【0012】
ここで図面を参照する。図面では全体を通して同じ数字が、同じ部分を指している。図1は、本発明の好ましい一実施形態の、複合建築用物品100の横断面図を模式的に例示している。図1に示すように、建築用物品100は一般に、主として繊維セメントで構成される基材102、主として放射線硬化性材料で構成される外部層104、ならびに繊維セメントと放射線硬化性材料との網目構造で構成される表面下の界面領域106を含む。本明細書において使用している用語「主として」は、50重量%を超えて含むことを意味するものとする。
【0013】
図1における複合建築用物品100の基材102は、多孔性および/または親水性であることが好ましい。この基材は、石膏複合材料、セメント複合材料、ジオポリマー複合材料、または無機結合剤を含む他の複合材料などの様々な異なった材料で製造することができる。この基材は約40体積%〜80体積%の空隙率を有する低密度繊維セメントボード、約20〜40体積%の空隙率を有する中密度繊維セメントボード、または約2体積%〜20体積%の空隙率を有する高密度/圧縮繊維セメントボードとするのが好ましい。下記においてより詳細に記述するように、機械的または化学的処理により基材の空隙率を調整して、界面領域の生成を制御することもできる。基材の空隙率は、下記のように5つの主要な群に分類することができる。
【0014】
i)空気細孔(約100〜10ミクロン)。これらは充填不足、繊維塊、脱水などに起因するマクロ細孔に関連する。それらを単に亀裂、または層間細孔と呼ぶ場合もある。
【0015】
ii)繊維細孔(10〜1ミクロン)。これらはリグノセルロース繊維に固有の、具体的にはそれらの管状構造および斜行様形状による細孔に関連する。
【0016】
iii)メソ細孔(1〜0.1ミクロン)。
【0017】
iv)毛管細孔(0.1〜0.01ミクロン)。これらはマトリックス内の自由水の減少に由来する細孔に関連する。
【0018】
v)ゲル細孔(0.01〜0.001ミクロン)。これらの細孔はセメントまたは結合剤のミクロ細孔に関連し、大きさが極めて小さく、変性するのが困難である。
【0019】
何ら特定の理論に捉われるものではないが、本出願人らは、基材102の性質、特に極限気候条件における耐久性が、得られた建築用品の細孔、特に0.01ミクロンと100ミクロンの間の平均孔径を有する細孔、また最も特定的には1ミクロンと100ミクロンの間の平均孔径を有する細孔の変性または処理に結びつけ得ると仮定している。
【0020】
基材102は、任意の所望の形状にサンダー仕上げし、機械加工し、押出加工し、成形し、または他の方法で形成することができる。基材102は、完全硬化させ、部分硬化させ、または未硬化の「グリーン」状態としてよい。それらの全体が参照により本明細書に組み込まれているオーストラリア特許第AU515151号、PCT出願国際公開第0168547号、およびPCT出願国際公開第9845222号に記載されているものなどの、様々な異なった繊維セメント組成物、および繊維セメント基材製造方法をこれらの用途に使用することができる。
【0021】
図1に例示した表面下の界面領域106は、基材102と一体となって形成すること、また繊維セメントと1種以上の放射線硬化性成分との緊密なブレンドを含むことが好ましい。この放射線硬化性成分は、繊維セメント内の空隙および間隙に貫入し、繊維セメントと機械的に絡み合って、表面下の3次元網目構造を形成し、このものは水などの環境作用剤の進入に実質的に抵抗する。この放射線硬化性成分が0.01ミクロンを超える平均孔径を有する細孔内に存在することが好ましく、この放射線硬化性成分が0.1〜100ミクロンの平均孔径を有する細孔内に存在することがより好ましい。この放射線硬化性成分が、1〜100ミクロンの平均孔径を有する細孔内に存在することが最も好ましい。いくつかの実施形態において、この放射線硬化性成分はまた、基材102の細孔壁および/または補強繊維に化学的にも結合している。界面領域106が基材102と一体となって形成されているので、建築用品の外部表面上に形成される従来の保護塗装またはラミネートに比べて劣化および損傷を遙かに受け難い。この複合物品の意図する最終用途に基づいて界面領域の数、形状、分布、および厚さを選択することができる。一実施形態においては、界面領域106はこの複合物品の厚さ全体を実質的に有する。他の実施形態において界面領域106は、厚さ約1〜1,000μm、好ましくは厚さ約5〜500μm、より好ましくは厚さ約10〜200μmである。
【0022】
界面領域106内の放射線硬化性成分は触媒を実質的に含有せず、またUV、IR、NIRマイクロ波、またはガンマ放射線、より好ましくは電子ビーム(EB)放射線、などの放射線によって、主として硬化することが好ましい。この放射線硬化性成分としては、エポキシ、ウレタン、ポリエステル、アクリレート、メタクリレート、ならびにポリエステルエポキシおよびウレタンアクリルなどの多官能性型を有する化合物などの、しかしそれらに限定されないポリマー材料が挙げられる。一実施形態において、この放射線硬化性成分はモノマー、オリゴマー、またはポリマーである。オリゴマーは、イソシアネート、ヒドロキシル、ポリエーテル、エポキシ、カルボン酸;チオレン系(多官能性チオールと、ビニルエーテル、ビニルスルフィド、アリルエーテル、および2環状エンなどの不飽和ポリエンとの反応に基づく)、アミン−エン系(多官能性アミンと、不飽和ポリエンとの反応に基づく)、アセチレン系、成分の反応部分が末端よりも内部部分である系、他のビニル(例えばスチレン)系、アクリルアミド系、アリル系、イタコン酸エステル系、およびクロトン酸エステル系などの遊離基系;ならびに、オニウム塩誘発ビニルエーテル系および開環により反応するエポキシ末端系などのカチオン硬化系;ならびに反応性末端を有する化合物に基づく任意の他のものを含めた、しかしそれらに限定されない官能基を有するある範囲のモノマーから調製することができる。実際に事実上、放射線、熱的、または他の手段により硬化するが、硬化した組成物の望ましい性質(すなわち、酸化安定性、熱的安定性、および加水分解安定性、ならびに耐湿性)に悪影響を及ぼさないどんな官能基も、放射線硬化性成分106に適していると思われる。チオレンを含む放射線硬化性成分が特に好ましく、その場合放射線硬化性成分は空気中で硬化させるべきである。
【0023】
放射線硬化性成分106はまた、アクリレートまたはメタクリレート官能基化アルコール、ジオールおよびポリオール、アクリレートまたはメタクリレート官能性エトキシル化および/またはプロポキシル化アルコール、ジオールおよびポリオール、ならびにアクリレートまたはメタクリレート官能性エチレンおよびプロピレングリコール、ならびにエチレンおよびプロピレンポリグリコールを含めた、しかしそれらに限定されないモノマー、ならびにスチレンおよび官能基化スチレンなどの他のエチレン性不飽和モノマーを含んでもよい。このような複合材料を調製するのに有効な他のモノマーには、マレイン酸エステル、およびフマル酸エステルなどの不飽和カルボン酸および二酸の誘導体、ならびにビニルエーテル、およびビニルピロリドンなどのビニル官能性材料が含まれるが、それらに限定されない。ここに記述した放射線硬化性成分のブレンド、または混合物も使用できる。仕上げ製品の物理化学的性状を改良するためにこの放射線硬化性成分に顔料、鉱物性増量剤、界面活性剤、濡れ防止剤、染料、可塑剤、安定剤、耐衝撃剤、断熱剤、難燃剤を添加することもできる。
【0024】
この放射線硬化性成分は、固形分100%であり、低いVOC含量を有することが好ましい。別法としてこの放射線硬化性成分は、有機溶剤、水、CO2などの超臨界流体を含めた、しかしそれらに限定されない流体中に溶解し、懸濁させ、または乳化できる。この放射線硬化性成分は約50%を超える固形分含量を有することが好ましく、より好ましくは約70%を超える、またより一層好ましくは約80%〜100%の固形分を有する。いくつかの実施態様において、この放射線硬化性成分は、粘度調整剤、界面活性剤、または鉱物性充填剤をも含有できる。固形分100%の組成物が、この界面領域を形成するのに有利であることが見出されている。高固形分組成物の粘度は、繊維セメントマトリックス内における所定の分布、および空隙を達成するように設計するのが好ましい。一実施形態において、モノマーを使用して、高固形分放射線硬化性成分の粘度を調整できる。高固形分放射線硬化性成分は、1〜60重量%、より好ましくは2〜40重量%、またより好ましくは40重量%未満であり、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、または30重量%を超える、モノマー含量を有することが好ましい。エマルションに基づく系を使用する場合は、空隙充填を促進するようにエマルション粒子径を設計するならば、それは好ましい。
【0025】
図1における建築用物品100の外部層104は、放射線硬化性塗装、または熱硬化性塗装、プライマー、封止材、などの保護塗装の層を含む。いくつかの実施形態において、外部層104は、界面領域106に用いたものと同一の放射線硬化性材料を含む。下記においてより詳細に記述するように、この外部層104は、界面領域106と一体として形成して、外部層104と基材102の間の密着性を向上させることができる。放射線硬化性材料および繊維セメントの表面下の3次元網目構造106を組み合わせた連続外部層104によって、製品の美観を向上させ、極限条件における製品の長期耐久性を向上させるのが有利である。さらに、この連続外部層はまた、そうでない場合一次放射線源が到達し難いであろうより下方の表面下の硬化性材料に、エネルギーまたは開始種を伝達する手段としての役割をも果し得る。
【0026】
この建築用物品内における表面下の界面領域の数、位置、および構成は、設計および意図する目的に基づいて変動させることができる点は理解されるであろう。この建築用物品内に単一または複数の界面領域を組み込むことができ、それと共にそれぞれの界面領域は1種以上の放射線硬化性成分を含有している。図2〜7は、種々の形でこの物品内に1箇所または複数の表面下の界面領域を分布させている建築用物品の種々の実施形態を概略的に例示している。
【0027】
図2は、このような一実施形態の複合建築用物品200の横断面図を模式的に例示している。建築用物品200は、繊維セメント基材202と、2つの向かい合った外部層204a、204bと、繊維セメント基材202と、外部層204a、204bの間にそれぞれ位置する2つの一体となって形成した表面下の界面領域206a、206bとを有する。外部層204a、bは、放射線硬化性封止材などの保護塗装で被覆するのが好ましい。
【0028】
図3は、他の実施形態の複合建築用物品300の横断面図を示している。建築用物品300は、繊維セメント基材302と、物品300の各面に近接して形成した表面下の界面領域306a〜dとを有する。物品300のそれぞれの面上に、放射線硬化性材料を主として含む外部保護層304a〜dも形成されている。表面下の界面領域306a〜dは、外部層304a〜dおよび基材302と一体として形成するのが好ましい。
【0029】
図4は、さらに他の実施形態の複合建築用物品400の横断面図を示している。建築用物品400は、繊維セメント基材402と、基材402全体にわたって分布しているいくつかの表面下の界面領域406とを有する。それぞれの表面下の界面領域406は円形断面を有し、この物品の長さに沿って伸びている。
【0030】
図5は、繊維セメント基材502と、基材502全体にわたって分布している第1の複数の別々の表面下の界面領域506とを有する建築用物品500を示している。建築用物品500はまた、外部層504に近接して基材502内に形成している第2の複数の表面下の界面領域508をも有する。外部層504は、放射線硬化性材料を主として含むのが好ましい。一実施形態において、第1の表面下の界面領域中に用いた放射線硬化材料は、第2の界面領域におけるものと異なっている。
【0031】
図1〜5において模式的に例示した建築用物品は、建物の内側および外側表面への施工に適した建築用ボード、シート、厚板、トリム、シェイク、外装用パネルなどの様々な異なった建築用製品を表している。本発明の好ましい一実施形態は、放射線硬化性塗装および表面下の界面領域を有する、具体的には建物外部または内部の外装用パネルおよび内張りパネルとしての使用向けの形状とした、高性能圧縮繊維セメントシートの製造において使用するために主として開発されている。
【0032】
図6〜7は、このコンセプトが、管または柱などの環形の胴体を有する建築用物品に適用することもできる点を例示している。図6は、管600の繊維セメント芯部602と、外側表面604a、604bに近接した位置に一体形成した表面下の界面領域606a、606bとを有する中空管600の横断面図である。放射線硬化性塗装は、管600の外側表面604a、604bに塗布するのが好ましい。図7は、第2の一連の表面下の界面領域706を、図6の中空管600の繊維セメント芯部602内に分布させることができる点を例示している。
表面下の界面領域を形成する方法
下記においてより詳細に記述するように、繊維セメント物品における表面下の界面領域は、(a)養生した繊維セメントマトリックス上に制御された形で放射線硬化性成分を塗布すること、(b)未養生の繊維セメントマトリックス内に制御された形で放射線硬化性成分を施工すること、(c)未硬化成形体を成形する前に繊維セメント混合物中に放射線硬化性成分を混合すること、(d)建築用物品の繊維、充填剤、および/または無機結合剤などの成分に、放射線硬化性材料を適用すること、ならびに(e)繊維セメントと放射線硬化性材料との混合物を予備調製し、次いで放射線硬化性成分を含有しない未養生の繊維セメント材料と一緒に建築用物品へ共成形することを含む、しかしそれらに限定されないいくつかの異なった方法で、形成することができる。
【0033】
それぞれの好ましい実施形態において、放射線硬化性成分は繊維セメントマトリックスに直接接触させ、繊維セメントと接触させながら繊維セメントの細孔および間隙と共に機械的に絡み合った網目構造を形成するように、重合させる。放射線硬化性材料の使用割合および濃度は、所定の程度まで繊維セメントマトリックス内の空隙および間隙を充填するのに適正な界面領域内の重合可能化合物の濃度をもたらすように選択するのが好ましい。
【0034】
単一層の塗布
ある好ましい実施形態において、重合した放射線硬化性材料を繊維セメントに確実に接触させるためには、放射線硬化性材料と繊維セメントの間に他の塗装材料の追加の層はまったく挟まない。一実施形態において、繊維セメント基材の1以上の表面に放射線硬化性材料の層を塗布するが、それぞれの表面上において密着した、実質的に欠陥のない塗膜を保持することが好ましい。この放射線硬化性材料の層を、その後制御された形で基材中に移行させて、硬化により一体化した界面領域を形成する。したがって、繊維セメントマトリックスと一体となって形成する連続的保護塗装をもたらすのに、放射線硬化性材料の単一層で十分である。
【0035】
表面下の界面領域の厚さの制御
ある好ましい実施形態において、特定の製品性能規準に合せるために、表面下の界面領域の厚さを制御することもできる。一実施形態において、繊維セメントマトリックス中への放射線硬化性成分の移行を制御することにより予め選択した厚さを達成する。例えば、繊維セメントマトリックス中に移行する放射線硬化性成分の速度および量を制御するように、繊維セメントマトリックスの空隙率を目標体積まで調整し、それにより界面領域の厚さを制御することができる。別法として、所定量の反応性モノマーを配合することにより、放射線硬化性成分の粘度を調整できる。いくつかの実施形態において、放射線硬化性成分を溶解して繊維セメントに浸透させることが可能な溶媒または担体を使用することにより、界面領域の厚さをさらに増加させる。
【0036】
表面下の界面領域における放射線硬化性成分の硬化
界面領域の硬化を確実にするために、界面領域の深い所で成分を硬化させることが可能な硬化方法を用いることが好ましい。界面領域内における放射線硬化性成分の硬化は、主として放射線、より好ましくはEB放射線を使用して実施するのが好ましい。ある好ましい実施形態の放射線硬化性成分は感知できる程の量の触媒を含有しないので、EB放射線硬化が好ましい。EB放射線はより高いエネルギーを有し、界面領域内の放射線硬化性成分へよりよく届き、それにより厚さの増加した界面領域をもたらすためである。その上、EB硬化性化合物は熱およびUVが存在する状態で安定なまま残存しやすく、したがって必要により容易に活性化させることができる。このようなビームにおける電子の高エネルギーにより、電子が著しく深い所まで届き、より深い所で反応を開始させることが可能になる。
【0037】
何ら特定の実施に捉われるものではないが、本出願人らは、密度が約1.33の繊維セメント基材では、全ての30ミクロン厚の毎の界面領域について10mAにおける50KeVと200KeVの間のEB源を使用して十分な硬化が達成できることを見出している。例えば、厚さ180ミクロンの界面領域は、10mAにおける150mAのEB源を使用して硬化でき、またより厚い界面領域が、対応するより高エネルギーのEB源を使用して硬化できる。別法として、上述のEB放射線の線量で、またその後熱的手段によって、界面領域を硬化できる。いくつかの実施形態では、硬化方法は、UVと組み合わせたEB、熱的手段と組み合わせたEBなどの2つ以上の機構を含んでよい。
【0038】
図8は、本発明の好ましい実施形態の複合建築用物品を製造する方法800を例示している。この図では、複合建築用物品は圧縮建築用外装用パネルである。図8に示すように、方法800は、公知の繊維セメント組成物および製造技術に従ってFRCグリーンシートを製造するステップ802から始まる。一実施形態において、一般に使用される繊維セメント組成物は、下記の表1に示されている範囲以内に収まる。
【0039】
【表1】

【0040】
結合剤は、1型一般ポートランドセメントを含んでよいが、石膏、ジオポリマー、または他の無機セメントなどの他の無機結合剤も含んでもよい。骨材はミルド石英、非晶質シリカ、真珠岩、蛭石、合成ケイ酸石灰水和物、珪藻土、もみ殻灰、フライアッシュ、ボトムアッシュ、高炉スラグ、水滓スラグ、鋼スラグ、鉱物酸化物、鉱物水酸化物、粘土、マグネサイトまたはドロマイト、ポリマービーズ、金属酸化物および水酸化物、またはこれらの混合物を含んでよい。
【0041】
好ましい繊維には、漂白または未漂白クラフトパルプなどの、種々の形態のセルロース繊維が含まれる。しかし他の形態の繊維も使用してよい。特に好ましい実施形態では、この繊維はセルロース木材パルプである。他の適切な繊維の例は、セラミック繊維、ガラス繊維、鉱物ウール、鋼繊維、ならびに、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ビスコース、ナイロン、PVC、PVA、レーヨンなどの合成ポリマー繊維、ガラスセラミック、炭素、または任意のこれらの混合物である。これらの繊維には、疎水性処理、殺生剤処理を行ったセルロース繊維、またはそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれているPCT特許出願国際公開第0228796号、および国際公開第0228795号中に開示されているものなども含まれてよい。
【0042】
この繊維セメント組成物中に、密度調整剤、分散用薬剤、シリカフューム、地熱シリカ、難燃剤、粘度調整剤、増粘剤、顔料、着色剤、分散剤、起泡剤、凝集剤、防水剤、有機質密度調整剤、アルミニウム粉末、カオリン、アルミナ三水和物、マイカ、メタカオリン、炭酸カルシウム、珪灰石、ポリマー樹脂エマルション、またはこれらの混合物を含めた、しかしこれらに限定されない追加の添加剤を場合によって組み込むことができることにも注目されたい。
【0043】
好ましい一方法において、ハチェック法を使用してこれらのシートを生産する。当技術分野で一般に知られているように、ハチェック法では一連の回転ドラム篩を使用して、吸収材コンベア上に脱水スラリの層を逐次堆積させ、所望のシート厚さが達成されるまでサイズロール上にそれらを蓄積させる。しかし、グリーンシートは、押出、注型、成形、マッツア法、マニャーニ法、フォードリニア法、およびロールプレス法などの他の知られている方法を使用して生産することもできる。
【0044】
好ましい製造方法では、特定の寸法の複数のグリーンシートを生成し、次いでそれらを1枚ずつ積み重ね、次いで場合によってプレスで高密度としまたは模様を型押しする。ステップ804においてグリーンシートはオートクレーブ内で、または空気中養生、湿分養生、または乾燥を含めた、任意の数の他の従来の技術を使用して養生する。
【0045】
養生が終わると、ステップ806において、任意の様々な切断、鋸引き、またはスコーリング(刻み目を付ける)技術を使用して、場合によってシートを寸法に合せて切断する。
【0046】
ステップ808では、FRCシートの少なくとも1つの面に放射線硬化性材料を塗布する。少なくとも1つの面から放射線硬化成分のかなりの部分が繊維セメントマトリックス中に広がり、その中の空隙および間隙を充填し、繊維セメントに直接接触する。本発明のいくつかの好ましい形態において、仕上げFRCシートのすべての6つの面(前面および取付け面の2つの主要面と、4つの端面)に放射線硬化性封止材などの放射線硬化性材料を塗布する。このことは、最初に積み重ねたFRCシートの端部にこの封止材を手動でロールコーティングまたは噴霧し、次いで従来のロールコータを使用してFRCシートの表面および背面にこの封止材を個別にロールコーティングすることによって実施できる。別法として、この封止材は、噴霧、カーテンコーティング、または粉体コーティングなどの他の従来の方法によって塗布できる。外部層と表面下の界面領域とを合せた厚さは、約15〜1000ミクロン、より好ましくは15〜100ミクロンであるのが好ましい。
【0047】
ステップ810においてこの放射線硬化性材料は、繊維セメント表面に直接塗布し、FRCシートまたは基材中に制御された形で移行させて、界面領域を形成することが好ましい。ある実施形態において、1回塗りで連続的な、欠陥のない塗膜を繊維セメントに塗布する。他の実施形態において、FRCシートの表面をさらに処理して放射線硬化性材料の制御された移行を促進させる。機械的および化学的処理を施して基材の空隙率に影響を及ぼし、それが次に基材中への放射線硬化性成分の移行性に影響を及ぼすこともできる。放射線硬化性成分を塗布する前に、繊維セメントの表面をサンダー仕上げし、機械加工し、化学的にエッチングすることができ、それにより界面領域の厚さを増加させ、均質性を向上させる効果を有することができる。
【0048】
好ましい一実施形態において、放射線硬化性成分は、分散液の少なくとも一部がFRC基材の細孔に浸透して表面下の界面領域を形成することを確実にするのに十分な量の分散液として、FRCの表面に塗布する放射線重合可能化合物である。代替的な実施形態において、FRCグリーンシートに放射線硬化性成分を塗布し、その場合放射線硬化性成分はFRCグリーンシートの表面に浸透して表面下の界面領域を形成し、それがFRCシートを養生する前に厚さ約15〜1000ミクロンの範囲にあり、またより好ましくは厚さ15と100ミクロンの間にある。
【0049】
他の実施形態において、上記の未養生のFRCと放射線硬化性成分とのブレンドは、放射線硬化性材料を含有しない未養生の繊維セメントのバルクマトリックス内の1箇所以上の所定の領域内に分布させ、または配置することができる。またさらなる代替的実施形態において、表面に重合可能な化合物の一部を溶液で塗布し、続いて同一のまたは異なった重合可能なもしくは共重合可能な化合物を塗布できる。さらに他の代替的実施形態では、2つ以上の異なった放射線硬化性材料と繊維セメントとのブレンドを、放射線硬化性材料を含有しない未養生のFRCのバルクマトリックス内の1箇所以上の所定の領域内に配置しまたは分布させる。他の代替的実施形態では、繊維を放射線硬化性材料で処理し、放射線硬化性材料を含有しない未養生の繊維セメントのバルクマトリックス内の1箇所以上の所定の領域内に、分布させまたは計画的に配置する。
【0050】
ステップ812では、次いで特定の封止材の配合によって決まる適切な所定の強度および持続時間における従来のEB放射線によりFRCシートを硬化させる。約50〜1000KeVの、より好ましくは約75と500KeVの間の、またより一層好ましくは150と300keVの間の、電力を有するEB源を使用するのが好ましい。硬化期間の間はEB硬化強度を表面にわたって一定レベルに維持して、製品の欠陥を実質的に低減させ、当技術分野において知られている任意のいくつかの適切な試験(例えば溶剤摩擦、塗膜硬さ、水分またはモノマー含量など)によって測定される、所定の硬化レベルを達成することが好ましい。硬化した放射線硬化性成分には、約1重量%未満の反応性モノマーまたは反応性揮発成分が硬化後に残存するのが好ましい。硬化した放射線硬化性成分には、約0.1重量%未満の反応性モノマーまたは反応性揮発成分が硬化後に残存するのがより好ましい。
【0051】
図9は、まったく界面領域のない同等の圧縮FRCパネルと比較して、すべての6つの面に近接して界面領域を有して形成した圧縮FRCパネルの改良された凍結融解抵抗性を例証している。図9に示すように、界面領域を有して形成したFRCパネルは、凍結融解サイクル回数を増加させる場合約2.0MPaの比較的一定なILBを維持することができるが、一方従来型の圧縮FRCパネルのILBは凍結融解サイクルが多くなると実質的に低下する。凍結融解サイクルは、ASTM C666−92に記載されている方法に従い、試料寸法415×57×9mmに適応させ修正して実施した。
【0052】
図10Aおよび10Bは、表面下の界面領域を有するFRC複合建築用物品の層間剥離抵抗性を例証する写真である。この物品に深く、すなわち界面領域を超える深さまで刻み目を付け1000回の凍結融解サイクルにかけた。図10Aおよび10Bに示すように、広範な凍結融解サイクル後も層間剥離の範囲は比較的小さい区域に限定された。このことは、繊維セメント領域に緊密に結合した放射線硬化領域が層間剥離に抵抗するだけでなく、それらの領域により過酷な凍結融解条件下におけるFRC物品の完全性も向上されることを例証している。
【実施例】
【0053】
本発明の好ましい実施形態を、下記の例示的実施例を参照してさらに説明する。
【0054】
実施例1−外装用途向け中密度ハチェックシート
ハチェック法により7/16”の中密度繊維セメントシートを成形した。この厚板は外装用に通常使用される型のものであった。そのすべての面に固形分含量が約80%のEB硬化性ウレタンアクリレート樹脂を噴霧した。EB放射線に曝露することによりこの樹脂を硬化させた。樹脂厚さは約50ミクロンであった。樹脂領域はシートに強く付着し、実質的にむらのない外観を有していた。この材料の断面を調べると3つのはっきり識別される領域(下に横たわる繊維セメント領域、樹脂塗装、および表面下の界面領域)の存在が見られ、この表面下の界面領域では、樹脂内に埋め込まれたかなりの量の繊維材料と、表面下の界面領域の空隙に連続的に相互浸透する硬化ポリマーの網目構造を形成している硬化樹脂とが見られた。表面下の界面領域は、樹脂領域および繊維セメント領域の両方と一体化していた。
【0055】
実施例2−外装用途向け低密度押出し物品
外装用途に適した配合の低密度繊維セメントの公称2”×4”長方形断面の繊維セメント物品を押出成形した。未養生状態にあるこの材料に放射線硬化性樹脂を噴霧し、次いでEB放射線を使用して各表面を硬化させた。上記のものと同様な結果が認められた。非常に高固形分の配合を使用したにも拘わらず、良好な表面下の界面領域が形成された。次いで未養生の物品を空気中で養生して、このような塗装のない物品に比して高い耐久性を有する物品を得た。
【0056】
実施例3−EB硬化性樹脂塗装を有するセルロース繊維を含む繊維セメント物品
未漂白クラフト繊維のシートを濾水度約350CSFまで叩解し、また繊維約11重量%の溶液を調製するように水に添加した。この繊維に、繊維の重量当り樹脂約0.5%の適用量割合でEB硬化性アクリルウレタンの水性分散液を添加した。次いでこの繊維を溶液状態でセメントおよび粉砕シリカと配合して、厚さ約1mmの繊維セメントシートを成形した。シートの繊維セメント成分を未養生状態に保持しつつ、EB放射線を使用してシート内の放射線硬化性成分を硬化させた。次いでこれらの繊維セメントシートを、放射線硬化成分を含有しない未養生の繊維セメントシートのスタック(積み重ね)の頂部および底部に積層して、複合材料を形成した。この複合スタックを約180Cにおいてオートクレーブ内で養生して、繊維セメントシートをさらに硬化させる。得られたシートは、放射線硬化性樹脂で繊維を処理していない繊維セメントシートよりもそれらの外側表面を通す透水性が小さかった。
【0057】
実施例4−エポキシ系放射線硬化性成分を有する中密度繊維セメント物品
2官能性ビスフェノールA系エポキシアクリレート樹脂約60重量%と、ジアクリル酸トリプロピレングリコールモノマー約15重量%と、増量剤(タルクおよび炭酸カルシウムの組合せ)約20重量%と、添加剤約5重量%とを含むエポキシ系放射線硬化性成分(RCC)を、中密度繊維セメントボード上にロールコーティングして、その表面上の連続塗膜と、厚さ約5〜15ミクロンの表面下の界面領域とを形成した。全RCC塗布レベルは約39g/m2であった。コムゲージにより平均湿潤塗膜厚さが30μmであることを測定した。電子ビーム硬化ユニット(アドバンストエレクトロンビーム社の150kV、10mA実験室ユニット)を使用して、RCCを硬化させた。このユニットを150kV、10mA、および50フィート/分に設定した。このユニットを窒素でパージして、槽内の酸素濃度約200ppmを達成した。クロスハッチテープ試験を使用して、連続表面塗膜の密着性を試験した。ボードへの密着性は10点満点の10点を得点した。
【0058】
実施例5−ウレタン系放射線硬化性成分を有する中密度繊維セメント物品
脂肪族2官能性ウレタンアクリレート樹脂80重量%と、ジアクリル酸トリプロピレングリコールモノマー20重量%とからなるウレタンRCCを、中密度繊維セメントボード上にロールコーティングして、その表面上の連続塗膜と、厚さ約5〜30ミクロンの表面下の界面領域とを形成した。全RCC塗布レベルは約78g/m2であった。電子ビーム硬化ユニット(アドバンストエレクトロンビーム社の150kV、10mA実験室ユニット)を使用して、RCCを硬化させた。このユニットを150kV、10mA、および50フィート/分に設定した。このユニットを窒素でパージして、槽内の酸素濃度を200ppmとした。クロスハッチテープ試験を使用して、連続表面塗膜の密着性を試験した。ボードへの密着性は完全(評価:10/10)であった。
【0059】
実施例6−ポリエステル系放射線硬化性成分を有する中密度繊維セメント物品
2官能性ポリエステルアクリレート樹脂60重量%と、ジアクリル酸トリプロピレングリコールモノマー15%と、顔料および増量剤(二酸化チタン、タルクおよび硫酸バリウムの組合せ)20重量%と、添加剤(フロー付加剤、分散剤、チキソトロープ、および起泡剤)約5重量%からなるポリエステルRCCを、中密度繊維セメントボード上にロールコーティングして、その表面上の連続塗膜と、厚さ約5〜30ミクロンの表面下の界面領域とを形成した。全RCC塗布レベルは約78g/m2であった。コムゲージにより平均湿潤塗膜厚さが60μmであることを測定した。電子ビーム硬化ユニット(アドバンストエレクトロンビーム社の150kV、10mA実験室ユニット)を使用して、RCCを硬化させた。このユニットを150kV、10mA、および50フィート/分に設定した。このユニットを窒素でパージして、槽内の酸素濃度200ppmを達成した。クロスハッチテープ試験を使用して、連続表面塗膜の密着性を試験した。ボードへの密着性は完全(評価:10/10)であった。
【0060】
実施例7−ポリエステル系放射線硬化性成分を有する中密度繊維セメント物品
2官能性ポリエステルアクリレート45重量%と、メタルアクリレート15重量%、ジアクリル酸1,6ヘキサンジオール重量%と、顔料および増量剤(二酸化チタン、タルクおよび硫酸バリウムの組合せ)20重量%と、添加剤(フロー付加剤、分散剤、チキソトロープ、および起泡剤)5重量%からなるポリエステルRCCを、中密度繊維セメントボード上にロールコーティングして、その表面上の連続塗膜と、厚さ約5〜20ミクロンの表面下の界面領域とを形成した。全RCC塗布レベルは約52g/m2であった。コムゲージにより平均湿潤塗膜厚さが40μmであることを測定した。電子ビーム硬化ユニット(アドバンストエレクトロンビーム社の150kV、10mA実験室ユニット)を使用して、RCCを硬化させた。このユニットを150kV、10mA、および50フィート/分に設定した。このユニットを窒素でパージして、槽内の酸素濃度を200ppmとした。クロスハッチテープ試験を使用して、連続表面塗膜の密着性を試験した。ボードへの密着性は完全(評価:10/10)であった。
【0061】
実施例8−チオレン系放射線硬化性成分を有する中密度繊維セメント物品
6官能性ウレタンアクリレート30重量%と、3官能性ポリエステルアクリレート20重量%と、50重量%のペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)とからなるRCCを、印刷スクリーンを使用して中密度繊維セメントボード上に塗布して、その表面上の連続塗膜と、厚さ約5〜30ミクロンの表面下の界面領域とを形成した。電子ビーム硬化ユニット(アドバンストエレクトロンビーム社の150kV、10mA実験室ユニット)を使用して、RCCを硬化させた。空気のもとでこのユニットを150kV、10mA、および50フィート/分に設定した。連続表面塗膜は指触乾燥していた。クロスハッチテープ試験を使用して、密着性を試験した(乾燥し、次いで1時間後水中に浸漬した)。両方の場合、ボードへの密着性は完全であった(評価:10/10)。
【0062】
実施例9 着色したチオレン系放射線硬化性成分を有する中密度繊維セメント物品
6官能性ウレタンアクリレート20重量%と、3官能性ポリエステルアクリレート14重量%と、35重量%のペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)と、顔料および増量剤(二酸化チタン、タルクおよび硫酸バリウムの組合せ)30重量%と、添加剤(フロー付加剤、分散剤、チキソトロープ、および起泡剤)1重量%からなるRCCトップコートを、中密度繊維セメントボード上にロールコーティングして、その表面上の連続塗膜と、厚さ約5〜20ミクロンの表面下の界面領域とを形成した。全RCC塗布レベルは約52g/m2であった。コムゲージにより平均湿潤塗膜厚さが40μmであることを測定した。電子ビーム硬化ユニット(アドバンストエレクトロンビーム社の150kV、10mA実験室ユニット)を使用して、RCCを硬化させた。大気条件のもとでこのユニットを150kV、10mA、および50フィート/分に設定した。連続表面塗膜は指触乾燥していた。クロスハッチテープ試験を使用して、密着性を試験した(乾燥し、次いで1時間後水中に浸漬した)。両方の場合、ボードへの密着性は完全であった(評価:10/10)。
【0063】
実施例10:改良された湿潤密着性を有し、RCC処理した界面領域を有する中密度繊維セメント物品
脂肪族2官能性ウレタンアクリレート80重量%と、ジアクリル酸トリプロピレングリコール20%とからなるウレタンRCCを、中密度繊維セメントボード上にロールコーティングして、その表面上の連続塗膜と、厚さ約5〜30ミクロンの表面下の界面領域とを形成した。全RCC塗布レベルは約78g/m2であった。コムゲージにより平均湿潤塗膜厚さが60μmであることを測定した。電子ビーム硬化ユニット(アドバンストエレクトロンビーム社の150kV、10mA実験室ユニット)を使用して、RCCを硬化させた。このユニットを150kV、10mA、および50フィート/分に設定した。このユニットを窒素でパージして、槽内の酸素濃度を200ppmとした。次いでこの連続表面塗膜の湿潤密着性を試験した。これは、試験用パネルを室温で2時間水中に完全に浸漬することにより実施した。次いでパネルを取り出し、布で軽く叩いて乾燥させて、テープの密着性を妨げる残留水分が存在しないことを確実にした。次いでクロスハッチテープ試験を使用して、直ちに塗膜の密着性を試験した。ボードへの密着性は完全(評価:10/10)であった。
【0064】
実施例11:低減された表面浸透性を示す、RCC処理した界面領域を有する中密度繊維セメント物品
脂肪族2官能性ウレタンアクリレート80重量%と、ジアクリル酸トリプロピレングリコール20%とからなるウレタンRCC。この塗料を、中密度繊維セメントのすべての4つの端部、表面および背面にロールコーティングして、各表面上の連続塗膜と、厚さ約5〜30ミクロンの表面下の界面領域とを形成した。全RCC塗布レベルは約78g/m2であった。コムゲージを使用して平均湿潤塗膜厚さが60μmであることを測定した。電子ビーム硬化ユニット(アドバンストエレクトロンビーム社の150kV、10mA実験室ユニット)を使用して、RCCを硬化させた。このユニットを150kV、10mA、および50フィート/分に設定した。このユニットを窒素でパージして、槽内の酸素濃度を200ppmとした。圧力2バールで7分間加える水柱を使用して塗膜の透水性を試験した。加圧した水柱に曝す前、および曝した後に試験用パネルを秤量した。試験用水柱から取り外して試料を乾燥し、再秤量した。加圧した水柱に曝した後、パネルは重量変化を示さなかった。
【0065】
放射線硬化性成分を含む表面下の界面領域を有するFRC建築用物品の上述の実施例は、凍結融解などの極限環境におけるFRC材料の長期間耐久性に向けて本発明が行っている実質的な改良を実証し、また表面塗膜の湿潤および乾燥密着性を一般に改良している。放射線硬化性成分は繊維セメントに添加できる、すなわち繊維セメント成形材料の全体バッチに添加できるか、または繊維セメントと硬化性材料との両方が含まれる添加した材料の領域の形として添加できるか、そのいずれかで添加でき、またこの放射線硬化性成分は繊維セメント、または繊維セメントが構成する基材に塗布できる。こうして、硬化性化合物と繊維セメントとが緊密に混合した表面下の界面領域を調製する。例えば、繊維セメントの領域を打設することができ、繊維セメントと硬化性化合物との混合物の領域をその上に塗布する。次いでこの繊維セメント製品を養生し、頂部領域にある重合可能な化合物が繊維セメント材料と緊密に混合された繊維セメント物品が生成される。このものの頂部に、硬化性化合物のさらなる領域を追加することができ、次いでこの混合物を例えば電子ビームで硬化させる。最上部領域のEB硬化性材料は、上部領域の他の架橋可能な成分と架橋し、また予め調製した表面下の界面領域の架橋可能成分と架橋するであろう。こうして、具体的には樹脂の成分と、繊維セメント領域の成分との混合物を施工することにより、表面下の界面領域を形成する。EB硬化性化合物を使用することにおける利点は、それらが熱およびUVの存在する状態でも安定なまま残存し、したがって必要により、より容易に活性化することができる点である。
【0066】
本発明の好ましい実施形態の複合建築用製品は、従来の表面塗装を使用して調製した同様のシートと比較して、外的環境作用剤、熱、湿気に対する、また特に引掻き傷または摩耗に対するより高い抵抗性をもたらし、建物の外側表面の被覆材として建築分野で使用することができる点が有利である。これらの製品は、管など耐薬品性が問題である用途に使用することもできる。硬化した表面下の界面領域を付加することにより、既存の繊維セメント製品と比較した場合、この複合物品には、風化、特に凍結/融解損傷または不連続中性化が低減され他傾向となる。
【0067】
本発明の好ましい実施形態の上述の記載は、本発明の基本的な新規な特徴を示し、記述し、指摘しているが、当業者であれば、本発明の精神から逸脱することなく、例示した本発明の詳細の形態における種々の省略、置換、および変更ならびにその使用が実施できよう。特に、本発明の好ましい実施形態は、それにより製造した物品の最終使用に適した他の形状および構成において現われる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】好ましい一実施形態の複合建築用物品の横断面図であり、物品内に形成された表面下の界面領域を示している。
【図2】他の実施形態の複合建築用物品の横断面図であり、物品内に形成された2箇所の表面下の界面領域を示している。
【図3】建築用物品の外部表面に近接して表面下の界面領域を形成している他の実施形態の複合建築用物品の横断面図である。
【図4】物品の基材内に別々の表面下の界面領域を形成している他の実施形態の複合建築用物品の横断面図である。
【図5】物品の基材内に2つの異なった型の表面下の界面領域を形成している他の実施形態の複合建築用物品の横断面図である。
【図6】建築用物品の外側表面に近接して表面下の界面領域を組み込んでいる中空複合建築用物品の横断面図である。
【図7】物品内に2つの異なった型の表面下の界面領域を組み込んでいる中空複合建築用物品の横断面図である。
【図8】本発明の好ましい実施形態の複合建築用物品を形成する方法を例示している。
【図9】好ましい一実施形態の圧縮FRCの凍結−融解サイクル後におけるILB結果を、界面領域がまったくない同等の圧縮FRCシートの結果と比較する図である。
【図10A】凍結−融解サイクルを行った後の好ましい一実施形態のFRC物品を切断して示す写真である。
【図10B】凍結−融解サイクルを行った後の好ましい一実施形態のFRC物品を切断して示す写真である。
【符号の説明】
【0069】
100、200、300、400、500、600 建築用物品
102、202、302、402、502、602 基材
104、204、304、504、604 外部層
106、206、306、406、506、606 表面下の界面領域
508 第2の表面下の界面領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維セメントを主として含む第1の領域と、放射線硬化性材料を主として含む第2の領域と、それらの間に位置する表面下の界面領域とを有し、該表面下の界面領域が、前記放射線硬化性材料と前記繊維セメントとで構成される絡み合ったマトリックスを含む複合建築用物品であって、前記界面領域が、前記建築用物品の耐久性を増加させるように構成されている複合建築用物品。
【請求項2】
前記表面下の界面領域が、前記第1および第2の領域と一体となって形成される、請求項1に記載の複合建築用物品。
【請求項3】
前記第1の領域が、約20体積%〜40体積%の空隙率を有する繊維セメント基材を含む、請求項2に記載の複合建築用物品。
【請求項4】
前記表面下の界面領域における放射線硬化性材料が、実質的に触媒を含有せず、主として放射線により硬化可能である、請求項1に記載の複合建築用物品。
【請求項5】
前記表面下の界面領域の厚さが、第1の領域の空隙率、放射線硬化性成分の粘度およびそれらの組合せからなる群から選択される特性を調整することにより制御される、請求項1に記載の複合建築用物品。
【請求項6】
前記表面下の界面領域が、約1μm〜1,000μmの厚さを有する、請求項1に記載の複合建築用物品。
【請求項7】
前記放射線硬化性材料が、エポキシ、ウレタン、ポリエステル、アクリレート、メタクリレート、ポリエステル、ポリエステルエポキシ、チオレンアクリル、ウレタンアクリル、スチレン、官能基化スチレンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の複合建築用物品。
【請求項8】
外装用パネル、シート、ボード、厚板、トリム、シェイクおよび管からなる群から選択される、請求項1に記載の複合建築用物品。
【請求項9】
建築用物品であって、該建築用物品のマトリックスの少なくとも一部が、繊維セメントと放射線硬化性材料とで構成される網目構造を含み、該網目構造が、建築用物品の耐久性を増加させるように構成されている建築用物品。
【請求項10】
前記放射線硬化性材料が、前記建築用物品のマトリックス全体にわたって散在している、請求項9に記載の建築用物品。
【請求項11】
補強繊維をさらに含み、該繊維の少なくとも一部を放射線硬化性材料で処理している、請求項9に記載の建築用物品。
【請求項12】
主として放射線硬化性材料で構成される外部塗装をさらに含み、該外部塗装が、前記建築用物品の外部塗装とマトリックス間の密着性を増加させるように、前記網目構造と一体になって形成される、請求項9に記載の建築用物品。
【請求項13】
前記放射線硬化性材料が、中性化を低減する封止材である、請求項1に記載の建築用物品。
【請求項14】
建築用製品を形成する方法であって、
繊維セメント基材に放射線硬化性材料を塗布するステップであって、該放射線硬化性材料は制御された形で前記基材中に広がり、放射線硬化性材料と繊維セメントとの混合物を含む領域を形成するステップと、
放射線硬化性材料と繊維セメントとの3次元網目構造を形成するように放射線を照射して、前記基材内の放射線硬化性材料を硬化させるステップとを含む方法。
【請求項15】
電子ビーム放射線を照射して前記放射線硬化性材料を硬化させる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記放射線硬化性材料を前記繊維セメント基材に直接接触させる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記放射線硬化性材料を多段階方法で硬化させる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
ロールコーティング、噴霧、カーテンコーティング、および浸漬からなる群から選択される方法を使用して、前記繊維セメント基材に前記放射線硬化性材料を塗布する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
建築用製品を形成する方法であって、
放射線硬化性材料を、繊維セメント複合材料を形成するための成分と配合するステップと、
未硬化シートを成形するステップであって、該未硬化シートの少なくとも一部では前記放射線硬化性材料が全体にわたって分布しているステップと、
前記未硬化シートを硬化させて、繊維セメントと放射線硬化性材料との網目構造を含有する建築用製品を形成するステップとを含む方法。
【請求項20】
前記未硬化シートを硬化させる前に、該未硬化シートを未養生の繊維セメント基材に結合させるステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記建築用製品に、放射線硬化性材料の塗装を施工するステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate


【公表番号】特表2007−524013(P2007−524013A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549563(P2006−549563)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【国際出願番号】PCT/US2005/000957
【国際公開番号】WO2005/071179
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(505018256)ジェイムズ ハーディー インターナショナル ファイナンス ベスローテン フェンノートシャップ (11)
【氏名又は名称原語表記】JAMES HARDIE INTERNATIONAL FINANCE B.V.
【Fターム(参考)】