説明

放熱装置

【課題】放熱装置において、取付け時の調整作業を簡略化すると共に発熱体の放熱効率を高める。
【解決手段】放熱装置は、発熱体(100)に固定されるベース部(10)と、発熱体(100)から発せられる熱を放熱する可動放熱部(20)と、可動放熱部(20)を発熱体(100)に向けて付勢する第1の付勢機構(36,38)と、この第1の付勢機構(36,38)の付勢方向とは異なる方向に、可動放熱部(20)をベース部(10)に向けて付勢する第2の付勢機構(34,35)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記述された実施態様は、可動放熱部を備える放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パッケージに発熱量の大きい部品が搭載されている場合は、通常、放熱フィンを搭載することによって部品の発熱を放熱している。
放熱フィンの固定方法にはいろいろな種類があるが、例えば、以下の2つの固定方法が挙げられる。
【0003】
1番目の固定方法は、発熱する部品の高さを測定して、その高さに合わせたスペーサを放熱フィンと発熱体との間に介在させて、ネジなどで放熱フィンを発熱体に固定するものである。
【0004】
2番目の固定方法は、コイルスプリングや板バネなどで放熱フィンを部品側に常に付勢した状態で発熱体に固定するものである。
図13は、放熱フィン210及び基板ユニット200を示す概略平面図である。
【0005】
図14及び図15は、放熱フィン210,220の固定方法の例を示す説明図である。
図13に示すように、発熱体である基板ユニット200には、複数の放熱フィン210が配置されている。各放熱フィン210は、基板ユニット200上に設けられた図14に示す部品201の上部に配置されている。
【0006】
図14に示すように、放熱フィン210は、固定ネジ211及びナット212によって、スペーサ213を挟んで基板ユニット200に対し固定されている。スペーサ213は、部品201の高さに合わせて選択される。
【0007】
一方、図15に示す放熱フィン220は、例えば板バネである取付金具221に対し、固定ネジ222により固定される。取付金具221は、基板ユニット200に対し、固定ネジ223により固定される。
【0008】
図14及び図15に示す放熱フィン210,220と発熱する部品201との間には、これらの間隙を埋めるべく、コンパウンドやサーマルシートなどの熱接合材214,224が挿入されている。
【0009】
ところで、半導体冷却モジュールとして、楔形の冷却素子が押圧バネによって半導体素子と熱伝導体との間に押圧されるものが知られている。
また、冷却装置として、一対の平面状交差側壁を有する平面視多角形状に形成される伝熱ピストンが、上記一対の平面状交差側壁の交差点方向に押圧されることで、ピストン挿入穴の内壁面に楔状に圧接されるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3−6848号公報
【特許文献2】特開2004−31467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の2つの放熱フィンの固定方法の例のうち、1番目の固定方法は、使用するスペースを選択するために発熱する部品の高さを測定するため、調整の工数がかかってしまう。また、放熱フィンを部品ごとに設けると、単一の放熱フィンでは十分な放熱効率を得ることができない。
【0012】
更には、スペーサの高さにばらつきが発生するため、放熱フィンを発熱する部品に隙間なく安定して密着させることは困難である。そのため、サーマルシートやコンパウンドなどの熱接合材を用いることになる。また、複数種類のスペーサを準備することになる。
【0013】
2番目の固定方法は、コイルスプリングや板バネなどで放熱フィンを発熱する部品側に付勢するが、1番目の固定方法と同様に、放熱フィンを発熱する部品ごとに設けると、単一の放熱フィンでは十分な放熱効率を得ることができない。
【0014】
本発明の目的は、放熱装置において取付け時の調整作業を簡略化することである。また、発熱体の放熱効率を高めることができる放熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本明細書で開示する放熱装置は、発熱体に固定されるベース部と、上記発熱体から発せられる熱を放熱する可動放熱部と、第1の付勢機構と、第2の付勢機構と、を備える。上記第1の付勢機構は、上記可動放熱部を上記発熱体に向けて付勢する。上記第2の付勢機構は、上記第1の付勢機構の付勢方向とは異なる方向に、上記可動放熱部を上記ベース部に向けて付勢する。
【発明の効果】
【0016】
本明細書で開示する放熱装置によれば、取付け時の調整作業を簡略化することができる。また、発熱体の放熱効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】放熱装置及び基板ユニットを示す概略平面図である。
【図2A】可動フィン部及び二方向付勢部を透視的に示す平面図である。
【図2B】可動フィン部及び二方向付勢部を透視的に示す正面図である。
【図2C】可動フィン部及び二方向付勢部を図2AのA方向から透視的に見た矢視図である。
【図3A】二方向付勢部を示す概略斜視図である。
【図3B】二方向付勢部を示す概略分解斜視図である。
【図4】可動フィン部を示す平面図である。
【図5】変形例に係る二方向付勢部を透視的に示す正面図である。
【図6A】トーションスプリング及びカムを取り外した状態の二方向付勢部を透視的に示す側面図である。
【図6B】トーションスプリング及びカムを取り外した状態の二方向付勢部を透視的に示す平面図である。
【図7A】圧縮スプリング及びローラを取り外した状態の二方向付勢部を透視的に示す側面図である。
【図7B】圧縮スプリング及びローラを取り外した状態の二方向付勢部を透視的に示す付勢前の平面図である。
【図7C】圧縮スプリング及びローラを取り外した状態の二方向付勢部を透視的に示す付勢後の平面図である。
【図8A】二方向付勢部の付勢力について説明するための可動フィン部及び二方向付勢部の正面図である。
【図8B】二方向付勢部の付勢力について説明するための可動フィン部及び二方向付勢部の平面図である。
【図9】変形例に係る放熱装置、及び基板ユニットを示す平面図である。
【図10A】放熱装置及び基板ユニットを示す斜視図である。
【図10B】図10AのB部拡大図である。
【図11】比較例に係るフィン部及び基板ユニットを示す斜視図である。
【図12】実施の形態及び比較例の温度分布を示すグラフである。
【図13】放熱フィン及び基板ユニットを示す概略平面図である。
【図14】放熱フィンの固定方法の例を示す説明図(その1)である。
【図15】放熱フィンの固定方法の例を示す説明図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態に係る放熱装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は、放熱装置1及び基板ユニット100を示す概略平面図である。
図2A及び図2Bは、可動フィン部20及び二方向付勢部30を透視的に示す平面図及び正面図である。
【0019】
図2Cは、可動フィン部20及び二方向付勢部30を図2AのA方向から透視的に見た矢視図である。
図3A及び図3Bは、二方向付勢部30を示す概略斜視図及び概略分解斜視図である。
【0020】
図4は、可動フィン部20を示す平面図である。
図1に示すように、放熱装置1は、基板ユニット100に固定される固定フィン部10と、互いに独立して移動可能に固定フィン部10に対し連結される複数の可動フィン部20とを備える。なお、図1では、各可動フィン部20に対し2つずつ配置される二方向付勢部30の図示を省略している。
【0021】
可動フィン部20は、図2B及び図2Cに示すように、基板ユニット100に配置される例えば電子部品である部品101の上面に接触することで、基板ユニット100(部品101)から発せられる熱を熱伝導により放熱する。
【0022】
一方、固定フィン部10は、可動フィン部20を介して、基板ユニット100から発せられる熱を熱伝導により放熱する。
ここで、基板ユニット100は、「発熱体」の一例である。固定フィン部10は、本実施の形態では「固定放熱部」としても機能する「ベース部」の一例である。可動フィン部20は、「可動放熱部」の一例である。固定フィン部10及び可動フィン部20は、部品101から発せられる熱を熱伝導により放熱するべく、例えば金属からなる。
【0023】
図1に示すように、固定フィン部10には、上面の前端(図1の紙面における下端)と後端とに亘って一直線状に延びる複数のフィン10aが互いに平行に形成されている。固定フィン部10は、複数の固定フィン固定用ネジ40によって基板ユニット100に固定されている。
【0024】
固定フィン部10には、それぞれに1つずつ可動フィン部20が収容される複数の可動フィン収容孔10bが形成されている。この可動フィン収容孔10bは、固定フィン部10を高さ方向に貫通するように形成されている。
【0025】
可動フィン収容孔10bは、平面視略正方形状の可動フィン部20を水平方向に移動させる移動スペースを確保するべく、平面視において、可動フィン部20よりも大きい略正方形状に形成されている。
【0026】
図4に示す可動フィン部20には、上面の前端(図4の紙面における下端)と後端とに亘って一直線状に延びる複数のフィン20aが互いに平行に形成されている。可動フィン部20の平面視の四つ角のうち対角線方向に対向する2つの角には、それぞれ二方向付勢部30が配置される。
【0027】
可動フィン部20のうち二方向付勢部30が配置される2つの角には、図2B及び図2Cに示すように、フランジ部20bが形成されている。
フランジ部20bは、可動フィン部20の下端から水平方向に突出するように形成されている。フランジ部20bには、二方向付勢部30の後述するシャフト33を高さ方向に貫通させる貫通孔20cが形成されている。
【0028】
図2B及び図2Cに示すように、可動フィン部20の底面は平面であるが、上面には、フィン20aの形成面とフランジ部20bとの間に傾斜面20dが形成されている。可動フィン部20の高さ方向の厚みは、フランジ部20bが最も薄く、フランジ部20bからフィン20aの形成面に近づくほど傾斜面20dによって徐々に増す。
【0029】
図2A、図4等に示すように、可動フィン部20には、フィン20aの形成面と傾斜面20dとに亘る半楕円形状のカム用凹部20eが上方に開口するように形成されている。このカム用凹部20eには、後述するカム35の押圧ピン35a(図3B参照)が挿入される。
【0030】
上述のように、二方向付勢部30は、各可動フィン部20の平面視の4つの角のうちの対角線方向に対向する2つの角に配置される。二方向付勢部30は、可動フィン部20を固定フィン部10に対し移動可能に連結する。
【0031】
二方向付勢部30は、図3A及び図3Bに示すように、ブラケット31と、ブラケット固定用ネジ32と、シャフト33と、トーションスプリング34と、カム35と、圧縮スプリング36と、低摩擦部材37と、ローラ38と、ストッパ39と、を含む。
【0032】
圧縮スプリング36及びローラ38は、可動フィン部20を基板ユニット100に向けて、本実施の形態では鉛直下方である第1の付勢方向(矢印D1)に付勢する「第1の付勢機構」として機能する。
【0033】
トーションスプリング34及びカム35は、可動フィン部20を固定フィン部10に向けて、上記第1の付勢方向(矢印D1)とは異なる方向(本実施の形態では水平方向)である第2の付勢方向(矢印D)に付勢する「第2の付勢機構」として機能する。
【0034】
このように、二方向付勢部30は、第1の付勢方向(矢印D1)と、これに直交する第2の付勢方向(矢印D2)とに、それぞれ独立して可動フィン部20を付勢する。
ブラケット31は、水平な固定端部31aと、鉛直な鉛直部31bと、水平な自由端部31cとが連続して一体に形成されている。ブラケット31は、固定端部31aにおいて、ブラケット固定用ネジ32によって固定フィン部10に固定される。
【0035】
自由端部31cは、固定端部31aとの間に鉛直部31bを挟んで位置することで、固定端部31aよりも高い位置に形成されている。
自由端部31cが固定端部31aよりも高い位置に形成されるのは、自由端部31cと、その下方に位置するフランジ部20b(可動フィン部20)との間に、後述する第1の付勢機構及び第2の付勢機構が配置されるためである。
【0036】
シャフト33は、ブラケット31の自由端部31aの底面から鉛直下方に延びるように設けられている。シャフト33には、後述する圧縮スプリング36の上端が当接する大径部33aと、後述するストッパ39が嵌合する小径部33bとが形成されている。
【0037】
トーションスプリング34は、下方からシャフト33に挿入され、ブラケット31の自由端部31cの下部に配置される。
トーションスプリング34の鉛直上方に折り曲げられた上端部34aは、ブラケット31の自由端部31cに形成されたスプリング受け孔31dに下方から挿入される。トーションスプリング34の鉛直下方に折り曲げられた下端部34bは、カム35に形成されたスプリング受け孔35bに上方から挿入される。
【0038】
カム35には、鉛直下方に突出する押圧ピン35aが形成されている。この押圧ピン35aは、トーションスプリング34により付与される付勢力によってカム35がシャフト33を回転中心として回転することで、可動フィン部20のカム用凹部20eの側壁を押圧する。
【0039】
なお、可動フィン部20に設けられる2つの二方向付勢部30では、カム35の回転方向が互いに反対方向となるようにトーションスプリング34が配置されている。この2つの二方向付勢部30によって、可動フィン部20は、第2の付勢方向(図2Aに矢印D2で示す紙面右下方向)に、固定フィン部10の可動フィン収容孔10bの側壁に向けて付勢される。
【0040】
圧縮スプリング36は、シャフト33に下方から挿入され、上端がシャフト33の大径部33aの底面に当接する。圧縮スプリング36は、第1の付勢方向(鉛直下方)への付勢力を、ローラ38を介して可動フィン部20に付与する。
【0041】
ローラ38には、回動中心となるシャフト33を貫通させる貫通孔38aが形成されている。この貫通孔38aの上端側の一部は、圧縮スプリング36の下端側の一部を収容するべく、貫通孔38aよりも大径に形成されたスプリング収容部38bとなっている。
【0042】
圧縮スプリング36の下端とスプリング収容部38bの底面との間には、ローラ38の回動が圧縮スプリング36の下端との接触により妨げられないように、例えばリング状のシートである低摩擦部材37が配置されている。
【0043】
ローラ38には、第1の付勢方向(矢印D1)である鉛直下方にいくほど縮径するテーパ部38cが形成されている。このテーパ部38cの鉛直方向に対する傾斜角度は、可動フィン部20の傾斜面20dの鉛直方向に対する傾斜角度と同一となっている。
【0044】
ローラ38は、可動フィン部20がトーションスプリング34及びカム35によって固定フィン部10に向けて付勢されて移動する際に、テーパ部38cが可動フィン部20の傾斜面20dに接触して回転する。
【0045】
ローラ38の底面と可動フィン部20のフランジ部20bとの間には間隙があり、圧縮スプリング36による鉛直下方の付勢力は、可動フィン部20の傾斜面20dにおいて、ローラ38のテーパ部38cを介して可動フィン部20に付与される。
【0046】
ストッパ39は、例えばEリングであり、可動フィン部20のフランジ部20bの下方に、フランジ部20bと間隔を隔てて位置し、シャフト33の小径部33bに嵌合している。
【0047】
なお、本実施の形態では、圧縮スプリング36によって第1の付勢方向(矢印D1)への付勢力を得ているが、可動フィン部20を基板ユニット100に向けて付勢するものであれば、水平方向に傾けたトーションスプリングその他の弾性部材等を用いてもよい。
【0048】
また、本実施の形態では、トーションスプリング34によって第2の付勢方向(矢印D2)への付勢力を得ているが、可動フィン部20を固定フィン部10に向けて付勢するものであれば、水平方向に傾けた圧縮スプリングその他の弾性部材等を用いてもよい。
【0049】
また、図5に示す二方向付勢部30´のように、固定フィン部10ではなく基板ユニット100に固定される二方向付勢部を用いてもよい。この場合、可動フィン部20は、固定フィン部10ではなく基板ユニット100に対し、移動可能に連結されることになる。
【0050】
図5に示す二方向付勢部30´は、ブラケット31及びブラケット固定用ネジ32に代えて、シャフト固定用ネジ32´を含む。このシャフト固定用ネジ32´は、基板ユニット100の下方から基板ユニット100を貫通してシャフト33に挿入される。
【0051】
なお、図5に示す二方向付勢部30´ではブラケット31が省略されているため、トーションスプリング34の上端部34aは、例えば、シャフト33又はこのシャフト33に固定された部材に固定される。
【0052】
以下、二方向付勢部30の付勢動作について説明する。
図6A及び図6Bは、トーションスプリング34及びカム35を取り外した状態の二方向付勢部30を透視的に示す側面図及び平面図である。
【0053】
図6A及び図6Bに示すブラケット31の固定端部31がブラケット固定用ネジ32によって固定フィン部10に固定される際に、圧縮スプリング36は、圧縮された状態にある。
【0054】
そのため、圧縮スプリング36は、その下方に配置されたローラ38を鉛直下方の第1の付勢方向(矢印D1)に付勢する。二方向付勢部30が可動フィン部20の2つの角に設けられているため、各二方向付勢部30のローラ38のテーパ部38cに傾斜面20dが接触することで、可動フィン部20は、部品101に向けて第1の付勢方向(矢印D1)に付勢される。
【0055】
なお、ローラ38は、可動フィン部20がトーションスプリング34及びカム35によって固定フィン部10に向けて付勢されて移動する際に、可動フィン部20に接触して回転する機能も果たす。
【0056】
図7A〜図7Cは、圧縮スプリング36及びローラ38を取り外した状態の二方向付勢部30を透視的に示す側面図、付勢前の平面図及び付勢後の平面図である。
図7A〜図7Cに示すブラケット31の固定端部31がブラケット固定用ネジ32によって固定フィン部10に固定される際に、カム35の押圧ピン35aは、トーションスプリング34が回転方向に圧縮された状態で、カム用凹部20eに挿入される。
【0057】
トーションスプリング34は、上端部34aがブラケット31のスプリング受け孔31dに挿入されて固定されている。そのため、トーションスプリング34は、下端部34bにおいて、カム35を回転方向に付勢する。このように付勢されたカム35の押圧ピン35aは、可動フィン部20のカム用凹部20eの側壁を押圧する。
【0058】
上述のように互いに反対方向に回転する2つのカム35によって、可動フィン部20は、固定フィン部10の可動フィン収容孔10bの側壁に向けて図7Cに示す第2の付勢方向(矢印D2)に付勢される。これにより、図1及び図2Aに示すように、可動フィン部20は、固定フィン部10の可動フィン収容孔10bの側壁の互いに隣接する2面に面接触する。
【0059】
図8A及び図8Bは、二方向付勢部20の付勢力について説明するための可動フィン部20及び二方向付勢部30の正面図及び平面図である。
2つの二方向付勢部30によって鉛直下方の第1の付勢方向(矢印D1)に付与される付勢力(2×F1)は、可動フィン部20を移動させる際に以下の式(1)の関係を満たす。

2×F1>f2(=μ2×n2)−mg ・・・式(1)

【0060】
ここで、「f2」は可動フィン部20と固定フィン部10との接触によって垂直方向移動に抵抗する力であり、「μ2」は可動フィン部20と固定フィン部10との接触面の摩擦係数である。「n2」は可動フィン部20が水平方向に固定フィン部10に与える力であり、「mg」は可動フィン部20の重力質量である。
【0061】
また、2つの二方向付勢部30によって水平方向の第2の付勢方向(矢印D2)に付与される付勢力(2×F2)は、可動フィン部20を移動させる際に以下の式(2)の関係を満たす。

2×F2>f1(=μ1×n1) ・・・式(2)

【0062】
ここで、「f1」は可動フィン部20と部品101との接触によって水平方向移動に抵抗する力であり、「μ1」は可動フィン部20と部品101との接触面の摩擦係数である。「n1」は可動フィン部20が鉛直下方に部品101に与える力である。
【0063】
上記式(1)及び式(2)の関係を満たさない場合には、接触面の摩擦係数μ1,μ2を軽減させるために、可動フィン部20、固定フィン部10等に摺動性の良い表面処理を施すことが好ましい。
【0064】
なお、以上の説明では、ベース部として、固定フィン部10を例に説明したが、図9に示すようにフィンを有さないブロック状の固定放熱部10´を用いてもよい。可動フィン部20についても、フィンを有さないブロック状の放熱部を用いてもよい。
【0065】
更には、固定放熱部(固定フィン部10)及び可動放熱部(可動フィン部20)の内部に気体や液体の流路を設け、強制的に放熱を行ってもよい。
【0066】
図10Aは、放熱装置1及び基板ユニット100を示す斜視図である。図10Bは、図10AのB部拡大図である。
図10Aに示す放熱装置1は、可動フィン部20を図10Bに示す1つのみ備えるものとする。この可動フィン部20は、図10A及び図10Bでは図示しない上述の二方向付勢部30によって、部品101及び固定フィン部10に向けて付勢されている。
【0067】
図11は、比較例に係るフィン部20´及び基板ユニット100を示す斜視図である。
図11に示す基板ユニット100には、部品101ごとにフィン部20´が配置されている。
【0068】
図12は、実施の形態及び比較例の温度分布を示すグラフである。
図12のグラフには、図10Aに示す可動フィン部20を通る実線C1と、図11に示すフィン部20´を通る破線C2との基板ユニット100(部品101)の表面における温度分布のシミュレーション結果が表されている。
【0069】
周囲温度は45〔℃〕である。実施の形態に係る実線C1のうち部品101の表面部分の温度は、68.3〔℃〕である。比較例に係る破線C2のうち部品101の表面部分における温度は、72.1〔℃〕である。
【0070】
部品101の表面部分における周囲温度からの上昇温度は、フィン部20´(破線C2)に対して可動フィン部20(実線C1)が約14%下回った。これは、実施の形態では、部品101から可動フィン部20に熱伝導された熱が更に固定フィン部10に熱伝導されて、放熱が進んだためである。
【0071】
このように実施の形態では可動フィン部20の熱が固定フィン部10に熱伝導されるため、部品101の周囲の4点では、実施の形態に係る実線C1の温度が、比較例に係る破線C2の温度よりも高くなっている。
【0072】
以上説明した本実施の形態では、放熱装置1は、可動フィン部(可動放熱部)20を基板ユニット(発熱体)100に向けて付勢する第1の付勢機構(圧縮スプリング36及びローラ38)を備える。また、放熱装置1は、上記第1の付勢機構の付勢方向とは異なる方向に、可動フィン部20を固定フィン部(ベース部)10に向けて付勢する第2の付勢機構(トーションスプリング34及びカム35)を備える。
【0073】
これにより、可動フィン部20は、部品101及び固定フィン部20に向けてそれぞれ独立して付勢されるため、スペーサ等が不要となり、可動フィン部20を部品101及び固定フィン部20に密着させるための調整が不要となる。また、部品101から可動フィン部20に熱伝導された熱を、固定フィン部10及び基板ユニット100に熱伝導させることができる。
【0074】
よって、本実施の形態に係る放熱装置1によれば、取付け時の調整作業を簡略化することができると共に発熱体(基板ユニット100)の放熱効率を高めることができる。更には、可動フィン部20と基板ユニット100の部品101とが密着するため、可動フィン部20と部品101との間に必ずしも熱接合材を配置する必要がなくなる。そのため、熱接合材が省略された場合には、熱接合材に起因する熱抵抗の発生を防ぐことができると共に、放熱装置1を簡素な構成とすることもできる。
【0075】
本実施の形態では、可動フィン部20は、固定フィン部10に対し移動可能に連結される。そのため、可動フィン部20を基板ユニット100に固定するためのスペースを省略することができ、したがって、基板ユニット100の配線エリア等のスペースを確保することができる。
【0076】
本実施の形態では、放熱装置1は、複数の可動フィン部20と、それぞれ別個の可動フィン部20を単一の固定フィン部10に向けて付勢する複数の第2の付勢機構(トーションスプリング34及びカム35)とを備える。そのため、単一の固定フィン部10によって複数の可動フィン部20の放熱効率を高めることができる。更には、基板ユニット100の反りを防止することもできる。
【0077】
本実施の形態では、複数の可動フィン部20は、互いに独立して移動可能に単一の固定フィン部10に対し連結される。そのため、基板ユニット100の配線エリア等のスペースをより一層確保することができる。
【0078】
本実施の形態では、固定フィン部10には、可動フィン部20が収容される収容孔(可動フィン収容孔10b)が複数個形成されている。そのため、単一の固定フィン部10によって複数の可動フィン部20の放熱効率を高めながら、固定フィン部10によっても有効に放熱効率を高めることができる。
【0079】
本実施の形態では、複数の第2の付勢機構(トーションスプリング34及びカム35)は、複数の可動フィン部20を、それぞれ別個の可動フィン収容孔10bの側壁に向けて付勢する。そのため、部品101から可動フィン部20に熱伝導された熱を可動フィン収容孔10bの側壁から固定フィン部10に熱伝導させることができる。
【0080】
本実施の形態では、ローラ38は、図2Cに示すように固定フィン部10に連結されるか、或いは、変形例に係る図5に示すように基板ユニット100に連結される。また、ローラ38は、可動フィン部20が第2の付勢機構(トーションスプリング34及びカム35)によって固定フィン部10に向けて付勢されて移動する際に可動フィン部20に接触して回転する。そのため、ローラ38によって、可動フィン部20が固定フィン部10に向けて付勢される際の摩擦を低減することができる。
【0081】
本実施の形態では、ローラ38には、第1の付勢機構(圧縮スプリング36及びローラ38)の基板ユニット100に向けての第1の付勢方向(矢印D1)にいくほど縮径するテーパ部38cが形成されている。可動フィン部20には、テーパ部38cに対向する傾斜面20dが形成されている。可動フィン部20は、傾斜面20dにおいて、第1の付勢機構(圧縮スプリング36及びローラ38)によってローラ38のテーパ部38cを介して基板ユニット100に向けて付勢される。そのため、可動フィン部20の固定フィン部10に向けての付勢を妨げずに、可動フィン部20を基板ユニット100に向けて付勢することができる。
【0082】
本実施の形態では、第1の付勢機構(圧縮スプリング36及びローラ38)と第2の付勢機構(トーションスプリング34及びカム35)とは、互いに直交する方向へ可動フィン部20を付勢する。そのため、可動フィン部20を部品101及び固定フィン部10により確実に密着させることができる。
【0083】
本実施の形態では、第2の付勢機構(トーションスプリング34及びカム35)は、第1の付勢機構(圧縮スプリング36及びローラ38)の基板ユニット100に向けての第1の付勢方向(矢印D1)を回転中心とする回転方向に可動フィン部20を付勢する。そのため、簡素な構成によって、可動フィン部20を、部品101及び固定フィン部10に向けて付勢することができる。
【0084】
本実施の形態では、第1の付勢機構の第1の付勢方向(矢印D1)に延びる付勢中心と、第2の付勢機構の付勢方向である回転方向の回転中心とは、互いに同一(本実施の形態ではシャフト33)である。そのため、より一層簡素な構成によって、可動フィン部20を、部品101及び固定フィン部10に向けて付勢することができる。
【0085】
本実施の形態では、放熱装置1は、単一の可動フィン部20を付勢する少なくとも2つの第2の付勢機構(トーションスプリング34及びカム35)を備え、2つの第2の付勢機構は、互いに反対の回転方向に可動フィン部20を付勢する。そのため、より一層簡素な構成によって、可動フィン部20を、固定フィン部10に向けて付勢することができる。
【0086】
本実施の形態では、ベース部の一例として、基板ユニット100から発せられる熱を放熱する例えば金属からなる固定フィン部(固定放熱部)10を用いている。そのため、固定フィン部10からも放熱を積極的に行うことができ、基板ユニット100の放熱効率を高めることができる。
【0087】
以上説明した実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
発熱体に固定されるベース部と、
前記発熱体から発せられる熱を放熱する可動放熱部と、
前記可動放熱部を前記発熱体に向けて付勢する第1の付勢機構と、
前記第1の付勢機構の付勢方向とは異なる方向に、前記可動放熱部を前記ベース部に向けて付勢する第2の付勢機構と、
を備えることを特徴とする放熱装置。
(付記2)
前記可動放熱部は、前記ベース部に対し移動可能に連結されることを特徴とする付記1記載の放熱装置。
(付記3)
複数の前記可動放熱部と、
それぞれ別個の前記可動放熱部を単一の前記ベース部に向けて付勢する複数の前記第2の付勢機構と、
を備えることを特徴とする付記1記載の放熱装置。
(付記4)
前記複数の可動放熱部は、互いに独立して移動可能に単一の前記ベース部に対し連結されることを特徴とする付記3記載の放熱装置。
(付記5)
前記ベース部には、前記可動放熱部が収容される収容孔が複数個形成されていることを特徴とする付記3記載の放熱装置。
(付記6)
前記複数の第2の付勢機構は、前記複数の可動放熱部を、それぞれ別個の前記収容孔の側壁に向けて付勢することを特徴とする付記5記載の放熱装置。
(付記7)
前記ベース部又は前記発熱体に連結されたローラを更に備え、
前記ローラは、前記可動放熱部が前記第2の付勢機構によって前記ベース部に向けて付勢されて移動する際に前記可動放熱部に接触して回転する、
ことを特徴とする付記1記載の放熱装置。
(付記8)
前記ローラには、前記第1の付勢機構の前記発熱体に向けての付勢方向にいくほど縮径するテーパ部が形成され、
前記可動放熱部には、前記テーパ部に対向する傾斜面が形成され、
前記可動放熱部は、前記傾斜面において、前記第1の付勢機構によって前記ローラの前記テーパ部を介して前記発熱体に向けて付勢される、
ことを特徴とする付記7記載の放熱装置。
(付記9)
前記第1の付勢機構と前記第2の付勢機構とは、互いに直交する方向へ前記可動放熱部を付勢することを特徴とする付記1記載の放熱装置。
(付記10)
前記第2の付勢付与機構は、前記第1の付勢機構の前記発熱体に向けての付勢方向を回転中心とする回転方向に前記可動放熱部を付勢することを特徴とする付記9記載の放熱装置。
(付記11)
前記第1の付勢機構の付勢方向に延びる付勢中心と前記第2の付勢機構の付勢方向である回転方向の回転中心とは、互いに同一であることを特徴とする付記10記載の放熱装置。
(付記12)
単一の前記可動放熱部を付勢する少なくとも2つの前記第2の付勢機構を備え、
前記2つの前記第2の付勢機構は、互いに反対の前記回転方向に前記可動放熱部を付勢する、
ことを特徴とする付記10記載の放熱装置。
(付記13)
前記ベース部は、前記発熱体から発せられる熱を放熱する固定放熱部であることを特徴とする付記1記載の放熱装置。
【符号の説明】
【0088】
1 放熱装置
10 固定フィン部
10a フィン
10b 可動フィン収容孔
20 可動フィン部
20a フィン
20b フランジ部
20c 貫通孔
20d 傾斜面
20e カム用凹部
30 二方向付勢部
31 ブラケット
31a 固定端部
31b 鉛直部
31c 自由端部
31d スプリング受け孔
32 ブラケット固定用ネジ
32´ シャフト固定用ネジ
33 シャフト
33a 大径部
33b 小径部
34 トーションスプリング
34a 上端部
34b 下端部
35 カム
35a 押圧ピン
35b スプリング受け孔
36 圧縮スプリング
37 低摩擦部材
38 ローラ
38a 貫通孔
38b スプリング収容部
38c テーパ部
39 ストッパ
40 固定フィン固定用ネジ
100 基板ユニット
101a 部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体に固定されるベース部と、
前記発熱体から発せられる熱を放熱する可動放熱部と、
前記可動放熱部を前記発熱体に向けて付勢する第1の付勢機構と、
前記第1の付勢機構の付勢方向とは異なる方向に、前記可動放熱部を前記ベース部に向けて付勢する第2の付勢機構と、
を備えることを特徴とする放熱装置。
【請求項2】
複数の前記可動放熱部と、
それぞれ別個の前記可動放熱部を単一の前記ベース部に向けて付勢する複数の前記第2の付勢機構と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の放熱装置。
【請求項3】
前記ベース部又は前記発熱体に連結されたローラを更に備え、
前記ローラは、前記可動放熱部が前記第2の付勢機構によって前記ベース部に向けて付勢されて移動する際に前記可動放熱部に接触して回転する、
ことを特徴とする請求項1記載の放熱装置。
【請求項4】
前記ローラには、前記第1の付勢機構の前記発熱体に向けての付勢方向にいくほど縮径するテーパ部が形成され、
前記可動放熱部には、前記テーパ部に対向する傾斜面が形成され、
前記可動放熱部は、前記傾斜面において、前記第1の付勢機構によって前記ローラの前記テーパ部を介して前記発熱体に向けて付勢される、
ことを特徴とする請求項3記載の放熱装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−129796(P2011−129796A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288601(P2009−288601)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】