説明

散乱イオン分析装置

【課題】簡素かつ安価な構成で散乱イオン分析を精度良く行う。
【解決手段】真空容器15内の試料にイオンビーム13を照射して散乱イオンの分析を行う装置であって、磁場の形成に永久磁石28A,28Bが用いられる。両永久磁石28A,28Bは、試料ステージ32及び散乱イオン測定装置34,36を挟んでイオンビーム13の照射軸と平行な方向に相対向するように配置される。さらに、各永久磁石28A,28Bの内側には、磁場の強さを均一化するための強磁性体30A,30Bが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギーまたは中エネルギーのイオンビームを利用したラザフォード後方散乱分析装置等に好適なもので、試料成分元素の同定や深さ方向の組成分析等に有用なデータを提供するイオン散乱分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体開発や結晶性薄膜等の分野では、デバイス材料その他の試料の表面層についての情報の取得が重要とされている。このような情報を非破壊的に分析する手段として、ラザフォード後方散乱(Rutheford Backscattering Spectroscopy:RBS)分析装置が知られている。このRBS分析装置は、高電圧によって加速されたイオン(例えば水素イオンやヘリウムイオン)を試料の適所にビーム照射して当該試料からイオンを散乱させ、その散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するものである。
【0003】
このような散乱イオン分析装置では、前記イオンビームの照射により前記試料から散乱する散乱イオンのうち特定のエネルギーを有するイオンのみを散乱イオン検出器に誘導すべく、前記イオンビームと平行な方向の磁場を形成することが行われる。従来、このような磁場を形成する手段として、前記試料が収容される真空容器の周囲に常電導コイルが配設されたものや(特許文献1)、超電導コイルが配設されたもの(特許文献2)が知られている。
【特許文献1】特開平7−190963号公報
【特許文献2】特開2003−346696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記散乱イオン分析装置の測定精度を高めるためには、十分な磁場の強さを確保することが重要である。
【0005】
しかし、前記特許文献1が開示する常電導コイルでは、強磁場の形成は難しく、従って測定精度の向上に限りがある。
【0006】
その一方、前記特許文献2が開示する超電導コイルを用いれば、強磁場の形成が可能であるが、当該超電導コイルを機能させるためには、当該超電導コイルを冷却するための液体ヘリウム容器等を含む大掛かりなクライオスタットを前記真空容器の周囲に構築しなければならず、装置全体の大型化及びコストアップは避けられない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、簡素かつ安価な構成で散乱イオン分析を精度良く行うための技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、本発明者らは、磁場形成手段として、前記真空容器内に前記試料がセットされる試料セット位置及び前記散乱イオン測定手段の配設位置を挟んで前記イオンビームの入射方向と平行な方向に相対向するように永久磁石対を配置することに想到した。しかし、永久磁石は強磁場を形成する能力を有する反面、当該磁場の均一性(特に磁極面内での磁場強さの分布の均一性)に劣る欠点がある。
【0009】
本発明は、このような経緯からなされたものであり、加速されたイオンビームが試料に照射されたときに当該試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するための散乱イオン分析装置であって、内部に前記イオンビームが照射されるとともに、このイオンビームが当たる位置に前記試料がセットされる真空容器と、この真空容器内に前記イオンビームの入射方向と平行な方向の磁場を形成するための磁場形成手段と、前記磁場が形成された前記真空容器内で前記試料から散乱するイオンのエネルギースペクトルを測定するための散乱イオン測定手段とを備え、前記磁場形成手段は、前記真空容器内に前記試料がセットされる試料セット位置及び前記散乱イオン測定手段の配設位置を挟んで前記イオンビームの照射方向と平行な方向に相対向するように配置される永久磁石対と、この永久磁石対により形成される磁場の強さの分布であって前記イオンビームの照射方向と直交する面内での分布を均一化する強磁性体とを含むものである。
【0010】
この構成によれば、前記永久磁石対が前記真空容器内に前記試料がセットされる試料セット位置及び前記散乱イオン測定手段の配設位置を挟んで前記イオンビームの照射方向と平行な方向に相対向するように配置されることにより、当該真空容器内に前記イオンビームの照射方向と平行な方向の磁場であって十分な強さをもつ磁場を形成することが可能である。しかも、前記永久磁石対に加えて前記強磁性体が装備されることにより、当該永久磁石により形成される磁場の強さの分布であって前記イオンビームの照射方向と直交する面内での分布が均一化される。
【0011】
具体的に、前記強磁性体は、前記永久磁石対を構成する各永久磁石について設けられ、当該永久磁石よりも前記試料セット位置及び前記散乱イオン測定手段に近い位置に配されているものが、好適である。
【0012】
ここで、前記各強磁性体は前記各永久磁石から離間した位置に配設されていてもよいが、これらの強磁性体がそれぞれ対応する永久磁石に直接固定されている構成であれば、当該強磁性体を保持する構造を省略または簡略化することができるとともに、当該強磁性体による磁場強さ分布均一化効果をより確実にすることができる。
【0013】
前記永久磁石対における少なくとも一方の永久磁石及びこの永久磁石について設けられる強磁性体は、前記イオンビームを通過させるためのビーム挿通孔を有することが、好ましい。この構成によれば、前記ビーム挿通孔を通じて前記永久磁石対の外側から不都合なく前記真空容器内にイオンビームを照射することができる。
【0014】
前記永久磁石対は、強い磁場を形成することが可能である利点を有するが、当該磁場の強さを調節することが困難であるという事情がある。しかし、前記磁場形成手段が、前記永久磁石対及び前記強磁性体に加え、さらに、前記イオンビームの照射軸を取り巻くように配設され、電流が流されることにより前記真空容器内の磁場の強さを変化させる常電導コイルを含むものであれば、前記永久磁石対によって十分な磁場強さを確保しながら、これに加えて前記常電導コイルに電流を流し、かつ、この電流の大きさを適宜調節することにより、磁場の強さの調節をも行うことができる。
【0015】
さらに、前記真空容器内に形成される磁場の強さを検出する磁場検出手段を備えたものによれば、その検出結果を利用して前記真空容器内の磁場の強さを適正に調節することができる。この磁場検出手段は、前記永久磁石対のうちの少なくとも一方の永久磁石の近傍に設けられていることが、好ましい。
【0016】
さらに、前記常電導コイルに電流を供給するコイル給電手段と、前記磁場検出手段により検出される磁場の強さが目標値に近付くように前記コイル給電手段が前記常電導コイルに供給する電流の強さを変化させる磁場制御手段とを備えたものでは、前記磁場検出手段により検出される磁場の強さに基づいて前記真空容器内の磁場の強さが自動的に制御される。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、真空容器内に磁場を形成する手段として、前記真空容器内に前記試料がセットされる試料セット位置及び前記散乱イオン測定手段の配設位置を挟んで前記イオンビームの入射方向と平行な方向に相対向するように配置される永久磁石対と、この永久磁石対により形成される磁場の強さの分布であって前記イオンビームの照射方向と直交する面内での分布を均一化する強磁性体とを含むことにより、簡素かつ安価な構成で十分な強度及び均一性をもつ磁場を前記真空容器内に形成することができ、これにより散乱イオン分析を精度良く行うことができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の好ましい実施の形態に係る散乱イオン分析装置の全体構成を示す。
【0019】
この装置は、イオン照射装置を構成する加速器10及びビームライン機器12と、その下方に位置する本体ハウジング14とを備え、この本体ハウジング14内に真空容器15が形成されている。
【0020】
前記加速器10は、図略のイオン供給源から供給される軽イオン(例えば水素イオンやヘリウムイオン)を高電圧により加速する。この加速されたイオンは、前記ビームライン機器12から前記真空容器15内にイオンビーム13として下向きに照射される。
【0021】
前記本体ハウジング14は、上下に配される天壁16及び底壁18と、これら天壁16と底壁18との間に設けられる筒状の周壁20とを有する。さらに、この周壁20の内側に筒状の内壁22が設けられ、この内壁22の上下端がそれぞれ前記天壁16と前記底壁18とに接合されている。そして、これらの内壁22、天壁16、及び底壁18により前記真空容器15が構成されている。
【0022】
前記内壁22の下部の適当な部位には、図略の試料導入機構によって前記真空容器内15内に試料を導入するための試料導入管24が接続されている。また、当該内壁22の他の部位には、図略の排気ポンプにより前記真空容器15内を排気するための排気管26が接続されている。
【0023】
前記真空容器15内には、磁場形成手段を構成する上下一対の永久磁石28A,28B及び強磁性体30A,30Bと、試料ステージ32と、散乱イオン測定手段を構成するアパーチャ34及びイオン検出器36とが設けられている。
【0024】
前記試料ステージ32は、その上に図略の試料(例えば半導体デバイスや成膜された基板)がセットされるもので、前記試料導入管24と略同等の高さ位置に設けられている。この試料ステージ32上の試料セット位置は、その試料の特定部位に前記イオンビーム13が上から当たる位置に設定されている。
【0025】
前記永久磁石28A,28Bは、前記真空容器15内に上下方向の磁力線をもつ磁場を形成すべく、N極及びS極が上下を向く姿勢で、前記試料ステージ32上の試料セット位置及び前記散乱イオン測定手段(アパーチャ34及びイオン検出器36)の配設位置を挟んで上下方向に相対向するように配置されている。具体的には、前記永久磁石28Aが前記本体ハウジング14の天壁16の下面に固定され、前記永久磁石28Bが同ハウジング14の底壁18の上面に固定されている。
【0026】
なお、これら永久磁石28A,28Bには、例えばネオジウム・鉄系のものやサマリウム・コバルト系のものを用いることが可能である。また、その配置姿勢は、一方のN極と他方のS極が上下方向に相対向していればよく、その上下の向きは問わない。
【0027】
前記強磁性体30A,30Bは、前記永久磁石28A,28Bにより形成される磁場の強さの分布であって前記イオンビーム13の照射方向と直交する磁極面(図例では水平面内)での分布を均一化するために設けられている。図例の強磁性体30A,30Bは、前記各永久磁石28A,28Bと略同等の外形をもつ円板状をなし、前記強磁性体30Aが前記永久磁石28Aの下面に固定され、前記強磁性体30Bが前記永久磁石28Bの上面に固定されている。これらの強磁性体30A,30Bには、例えば飽和磁束密度の高い軟鉄やパーメンジュールなどを用いることが可能である。
【0028】
前記永久磁石及び強磁性体のうち、上側の永久磁石28A及び強磁性体30Aは、前記加速器10及びビームライン装置12から放射されるイオンビーム13を通過させて真空容器15内に入射させるためのビーム挿通孔28h,30hをそれぞれ有している。
【0029】
前記アパーチャ34は、前記試料ステージ32から上方に所定寸法だけ距離を置いた高さ位置に設けられ、その中央に貫通孔34hを有している。この貫通孔34hは、前記イオンビーム13を上から下に通過させるとともに、前記試料ステージ32上の試料から散乱する散乱イオンのうち特定のエネルギーをもつ散乱イオンのみを下から上に通過させて前記イオン検出器36に至らせる形状を有している。
【0030】
前記イオン検出器36は、前記アパーチャ34の貫通孔34hを通過してきた散乱イオンの到達部位を検出し、その検出信号を図略の増幅器に向けて出力するものである。このイオン検出器36の中央にも、前記イオンビーム13を通過させる貫通孔36hが設けられている。
【0031】
さらに、この装置では、前記磁場形成手段として、前記永久磁石28A,28B及び前記強磁性体30A,30Bに加え、前記真空容器15の外側に上下一対の常電導コイル40A,40Bが設けられている。これらの常電導コイル40A,40Bは、前記イオンビーム13の照射軸を中心とする螺旋状に巻かれている。
【0032】
これら常電導コイル40A,40Bには、図2に示すようなコイル用電源回路(コイル給電手段)41が接続されている。このコイル用電源回路41は、前記各常電導コイル40A,40Bに電流を流すことにより、その電流の大きさに対応した度合いで前記真空容器15内の磁場(すなわち前記永久磁石28A,28Bにより形成される磁場)を強化させるとともに、当該電流の大きさを変化させる電流調節機能を有している。前記各常電導コイル40A,40Bに流れる電流は、各々個別に制御することが可能である。
【0033】
一方、前記真空容器15内の適所には、図2に示すような磁気センサ42が設けられている。この磁気センサ42は、前記真空容器15内に形成される磁場の強さを検出するためのもので、その配設箇所としては、例えば図1に示すような前記各永久磁石28A,28Bの近傍箇所が好適である。この磁気センサ42は、前記両永久磁石28A,28Bのいずれか一方についてのみ設けられていてもよいし、両永久磁石28A,28Bの中間位置に設けられていてもよい。この磁気センサ42の好適な具体的配設箇所としては、前記強磁性体30A,30Bの表面、内壁22の表面、アパーチャ34の表面等が挙げられる。
【0034】
この磁気センサ42が出力する検出信号は、図2に示すようなコントローラ44に入力される。このコントローラ44は、コンピュータ等により構成され、前記磁気センサ42により検出される磁場の強さを予め設定された目標値に近付ける磁場制御手段としての機能を有する。具体的に、同コントローラ44は、検出される磁場の強さとその目標値との偏差に基づくフィードバック補正量を演算し、このフィードバック補正量に基づいて、前記コイル用給電回路41が前記各常電導コイル40A,40Bに供給する電流の大きさを変化させる。
【0035】
すなわち、この散乱イオン分析装置では、上下の永久磁石28A,28Bが主たる磁場発生源であり、その磁場の強さの磁極面内分布が上下の強磁性体30A,30Bにより均一化され、その磁場の強さが常電導コイル40A,40Bの通電によって補正される。
【0036】
次に、この散乱イオン分析装置の作用を説明する。
【0037】
まず、図略の試料搬入機構により、試料導入管24を通じて真空容器15内に図略の試料が導入され、試料ステージ32上の所定の試料セット位置にセットされる。その後、試料導入管24が図略の開閉機構により閉じられ、真空容器15内のエアが図略の排気ポンプにより排気管26から吸引されることにより、当該真空容器15内に真空状態が形成される。
【0038】
この状態で、前記加速器10及び前記ビームライン機器12が下向きにイオンビーム13を放射すると、このイオンビーム13は、上側の永久磁石28A及び強磁性体30Aにそれぞれ設けられたビーム挿通孔28h,30hを通じて前記真空容器15内に照射され、さらに、イオン検出器36及びアパーチャ34の貫通孔36a,34aを通過して前記試料ステージ32上の試料の特定部位に当たる。このとき、磁場形成手段により形成される磁場の方向は前記イオンビーム13の照射方向と平行な方向(図例では上下方向)であるため、当該イオンビーム13は前記磁場の影響を受けることなく前記試料の特定部位に向かって直進する。
【0039】
この試料の特定部位へのイオンビーム13の照射は、当該部位からのイオンの散乱を引き起こす。その散乱イオンは、当該イオンのもつ電荷と散乱エネルギーから前記磁場に起因するローレンツ力を受け、前記イオンビーム13の照射軸を取り巻く螺旋軌道を描きながら上方に進行する。この螺旋軌道は、前記散乱イオンのもつエネルギーによって変わるため、結局、特定のエネルギーをもつ散乱イオンのみが前記アパーチャ34の貫通孔34aを通過してイオン検出器36に到達する。すなわち、検出対象となる散乱イオンが前記アパーチャ34によって選別される。その検出信号は前記イオン検出器36から増幅器を経て適当な分析表示装置に送られる。
【0040】
この装置では、前記磁場の発生源が前記永久磁石28A,28Bであるため、例えば常電導コイルのみで磁場が形成される装置に比べて強い磁場を形成することが可能であり、しかも、超電導コイルを用いる装置と違って大掛かりなクライオスタット等を要しない。さらに、各永久磁石28A,28Bに固定されている強磁性体30A,30Bの存在により、前記永久磁石28A,28B間に形成される磁場の強さの磁極面内における分布が均一化される。従って、簡素かつ安価な構成で前記散乱イオンの分析を精度良く行うことができる。
【0041】
前記永久磁石28A,28Bが形成する磁場は、基本的に一定であるが、真空容器15内の環境温度が変わると、前記永久磁石28A,28Bの特性が変動するために当該永久磁石28A,28Bが形成する磁場も変化することになる。しかし、図示の装置では、前記永久磁石28A,28Bに加えて常電導コイル40A,40Bが設けられているので、そのコイル電流の調節によって前記磁場の強さを適宜調節することが可能である。
【0042】
特に、図例の装置では、前記磁場の強さの変動を前記各磁気センサ42が検出し、その検出する磁場の強さを目標値に近付けるように、前記コントローラ44がコイル用給電回路41から前記常電導コイル40A,40Bへの供給電流を変化させるため、前記温度変化にかかわらず磁場を安定させる制御が自動的に実行される。
【0043】
また、この装置では、前記目標値を変えることで磁場強さを積極的に変更することも可能である。
【0044】
なお、前記温度変化に起因する磁場の変化については、例えば真空容器15内の温度を温度センサで検出し、その検出温度に応じて前記コイル電流を変えるようにしても、対処することが可能である。
【0045】
その他、本発明は例えば次のような実施の形態をとることも可能である。
【0046】
・本発明ではイオンビーム13の照射方向を問わない。例えばイオンビーム13が水平方向に照射される場合には、左右両端に永久磁石を配し、これらの永久磁石の内側に強磁性体を配すればよい。
【0047】
・前記各強磁性体30A,30Bは、必ずしも各永久磁石28A,28Bに直接固定されていなくてもよく、前記の磁場強さ分布均一化の効果が得られる位置にあればよい。ただし、前記各強磁性体30A,30Bが前記各永久磁石28A,28Bに直接固定されていない場合でも、当該永久磁石28A,28Bになるべく近接していることが好ましい。
【0048】
・前記常電導コイル40A,40Bは、仕様によっては省略が可能である。また、常電導コイルが設けられる場合に、その配設態様は図示のように上下に分かれたものに限らず、例えばイオンビーム13の照射軸と平行な方向について前記真空容器15の略全域22わたり連続的に常電導コイルが配設されていてもよい。
【実施例1】
【0049】
ヘリウムイオンを100keVで加速してイオンビームとし、強さ1.4Tの磁場が形成された真空容器内に照射したときの測定結果をシミュレーションにより求める。当該結果を図3及び図4に示す。
【0050】
図3は、中心軸(イオンビーム照射軸)からの半径方向の距離ρについて、測定エネルギーE(eV)及びイオン補足立体角ω(mstr)の分布を求めた結果を示している。同図によれば、中心軸から半径30mm〜120mmの範囲をカバーするようにイオン検出器を配置することにより、10〜90keVのエネルギースペクトルを一度の分析操作で得ることができることになる。
【0051】
また、図4に示されるように、前記領域でのエネルギー分解能dE/E(%)は概ね1%以下であり、通常の半導体RBS分析装置での分析に比べて数倍から10倍以上の性能が得られる。しかも、イオン補足立体角ωは10mstr以上あり、通常のRBS分析装置と比較して10倍以上の分析効率が得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態に係る散乱イオン分析装置の全体構成を示す断面正面図である。
【図2】前記分析装置に装備される磁場制御手段の構成を示すブロック図である。
【図3】前記分析装置のイオンビーム照射軸からの距離について散乱イオンの測定エネルギー及び散乱角の分布をシュミレーションにより求めた結果を示すグラフである。
【図4】前記分析装置のイオンビーム照射軸からの距離について測定エネルギー分解の装置及びイオン捕捉立体角の分布をシュミレーションにより求めた結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
13 イオンビーム
14 本体ハウジング
15 真空容器
16 天壁
18 底壁
22 内壁
28A,28B 永久磁石
28h 永久磁石のビーム挿通孔
30A,30B 強磁性体
30h 強磁性体のビーム挿通孔
32 試料ステージ
34 アパーチャ(散乱イオン測定装置)
36 イオン検出器(散乱イオン測定装置)
40A,40B 常電導コイル
41 コイル用給電回路(コイル給電手段)
42 磁気センサ(磁場検出手段)
44 コントローラ(磁場制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速されたイオンビームが試料に照射されたときに当該試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するための散乱イオン分析装置であって、
内部に前記イオンビームが照射されるとともに、このイオンビームが当たる位置に前記試料がセットされる真空容器と、
この真空容器内に前記イオンビームの入射方向と平行な方向の磁場を形成するための磁場形成手段と、
前記磁場が形成された前記真空容器内で前記試料から散乱するイオンのエネルギースペクトルを測定するための散乱イオン測定手段とを備え、
前記磁場形成手段は、前記真空容器内に前記試料がセットされる試料セット位置及び前記散乱イオン測定手段の配設位置を挟んで前記イオンビームの照射方向と平行な方向に相対向するように配置される永久磁石対と、この永久磁石対により形成される磁場の強さの分布であって前記イオンビームの照射方向と直交する面内での分布を均一化する強磁性体とを含むことを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の散乱イオン分析装置において、
前記強磁性体は、前記永久磁石対を構成する各永久磁石について設けられ、当該永久磁石よりも前記試料セット位置及び前記散乱イオン測定手段に近い位置に配されていることを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の散乱イオン分析装置において、
前記各強磁性体がこれに対応する永久磁石に直接固定されていることを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の散乱イオン分析装置において、
前記永久磁石対における少なくとも一方の永久磁石及びこの永久磁石について設けられる強磁性体は、前記イオンビームを通過させるためのビーム挿通孔を有することを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の散乱イオン分析装置において、
前記磁場形成手段は、前記永久磁石対及び前記強磁性体に加え、前記イオンビームの照射軸を取り巻くように配設され、電流が流されることにより前記真空容器内の磁場の強さを変化させる常電導コイルを含むことを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項6】
請求項5記載の散乱イオン分析装置において、
前記真空容器内に形成される磁場の強さを検出する磁場検出手段を備えたことを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項7】
請求項6記載の散乱イオン分析装置において、
前記磁場検出手段が前記永久磁石対のうちの少なくとも一方の永久磁石の近傍に設けられていることを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項8】
請求項6または7記載の散乱イオン分析装置において、
前記常電導コイルに電流を供給するコイル給電手段と、前記磁場検出手段により検出される磁場の強さが目標値に近付くように前記コイル給電手段が前記常電導コイルに供給する電流の強さを変化させる磁場制御手段とを備えたことを特徴とする散乱イオン分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−298333(P2007−298333A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125229(P2006−125229)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,「ナノメータ極薄膜の高分機能・高速組成分析技術に関する基盤研究」(委託研究),産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】