説明

新規な光学活性遷移金属錯体,及びその製造方法

【課題】 本発明の課題は高度な不斉の場を有する不斉触媒,及びその簡便な合成法を提供することにある。
【解決手段】 上記課題解決のため,キラルなN,N’−二置換−2,2’−ジアミノビナフチルと配位子としてアキラルな中性配位子N,N’−二置換−2,2’−ジアミノビフェニル及びエチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデン)を有する遷移金属錯体を反応せしめ,軸不斉,面不斉,2つの窒素原子上に不斉中心などを有する新規不斉遷移金属錯体触媒を合成した。この遷移金属錯体は高度な不斉の場を有し,不斉ディールス・アルダー反応や不斉グリオキシラート−エン反応を始め種々の不斉反応において効果的な触媒として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規光学活性遷移金属錯体,及びその効率的合成法に関するもので,有機合成の属する分野,及びその他の分野で要求されている不斉合成に供するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品を始めとする生理活性物質には不斉中心を持つ化合物が多く,これら不斉中心を有する化合物には光学異性体が存在する。そして,サリドマイドの例が示すようにこの不斉中心の絶対配置は極めて重要な意味を持つ。エナンチオマーの一方に薬効があり,他のエナンチオマーには薬効がないことが多く,むしろ他のエナンチオマーの存在が有害になる場合もある。そのため,光学異性体の一方のエナンチオマーのみを入手する方法が盛んに研究されている。例えば,その入手法としては,不斉合成法,光学分割やキラルビルディングブロックを利用する方法が挙げられる。近年,不斉合成の発展は目覚しいものがある。目的とする光学活性化合物を不斉合成によって得るためには,不斉補助剤を用いるジアステレオ区別反応,不斉触媒を用いるエナンチオ区別反応が利用されている。そして,より高い光学純度と収率を実現するため,不斉補助剤,不斉触媒の開発が盛んに行われれている。その結果ディールス・アルダー反応,エン反応,アルドール反応やグリニャール試薬を用いたカルボニル付加反応等,有機合成上,基本的かつ重要なC−C結合形成反応が開発されている。
【0003】
生理活性物質の基本骨格にはシクロヘキセン,ジヒドロピランなどディールス・アルダー環化付加体やα−ヒドロキシエステルが多数含まれており,しかも環上の炭素原子やヒドロキシ基の炭素原子に不斉中心を持つ化合物が数多く存在する。不斉ディールス・アルダー反応や不斉グリオキシラート−エン反応はそれら光学活性化合物を一気に構築する方法として極めて有用で,多くの成功例が報告されている。例えば,Evansらはルイス酸触媒の存在下,キラルなN−エノイル−4−置換−2−オキサゾリドンをキラルジエノフィルとしてジエンと反応させ,高いジアステレオ選択性でディールス・アルダー環化付加体を得ている[D.A.Evans,M.D.Ennis,T.Le,N.Mandel,G.Mandel,J.Am.Chem.Soc.,106,1154(1984)]OppolzerらはキラルなN−エノイルカンファーサルタムをキラルジエノフィルとして用い,ジエンと反応させ,高いジアステレオ選択性でディールス・アルダー環化付加体を得る方法を報告している[W.Oppolzer,D.Dupuis,G.Poli,T.M.Raynham,G.Bernardinelli,Tetrahedron Lett.,29,5885(1988)]。一方,Whitesellらはルイス酸触媒存在下,キラルなグリオキシラートとアルケンを反応させ高ジアステレオ選択的にグリオキシラート−エン反応付加体を得ている[J,K.Whitesell,R.M.Lawrense,H.−H.Chen,J.Org.Chem.,51,4779(1986)]。いずれもジエノフィルまたはグリオキシラートに不斉源を埋め込み,アキラルなジエンまたはアルケンと反応させた後,不斉源を切り離して光学活性化合物を得る方法で,分子内不斉ディールス・アルダー反応や分子内グリオキシラート−エン反応にも応用でき,また,不斉源を変えることで多様な反応系に対応することができる。
【0004】
一方,少量の不斉源から多量の光学活性化合物が得られる不斉触媒を用いる方法は経済的な方法として盛んに研究されている。これらの反応では10%mol程度の触媒量を必要としている場合が多く,より少量で,高い不斉収率を示す不斉触媒の開発が望まれている。近年,触媒量が10%mol以下で高い不斉収率を実現した成功例がいくつか報告されている。例えば,Evansらはヘキサフルオロアンチモネートを対アニオンとする光学活性ビスオキサゾリン銅錯体を不斉触媒として用いる不斉ディールス・アルダー反応を報告している[D.A.Evans,S.J.Miller,T.Lectka,P.von Matt,J.Am.Chem.Soc.,121,7559(1999)]。Coreyらは,キラルオキサザボロリジン誘導体にトリフルオロメタンスルホン酸を加え,これを不斉ディールス・アルダー反応の触媒として用い,良好な結果を報告している[E,J.Corey,T.Shibata,T.W.Lee,J.Am.Chem.Soc.,124,3808(2002)]。一方,Evansらは,C2対称光学活性ビスオキサゾリン銅錯体を不斉触媒として用いる不斉グリオキシラート−エン反応が高エナンチオ選択的に進行することを報告している[D.A.Evans,C.S.Burgy,N.A.Paras,T.Vojkovsky,S.W.Tregay,J.Am,Chem.Soc.,120,5824(1998)]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように不斉ディールス・アルダー反応や不斉グリオキシラート−エン反応が数多く報告されている。取り分けここ数年はその数が増加している。キラルなN−エノイル−4−置換−2−オキサゾリドンやN−エノイルカンファーサルタムを用いる方法は高い光学純度のディールス・アルダー環化付加体を与える汎用性の高い方法である。また,Whitesellらが開発したキラルなグリオキシラートを用いる方法も高い光学純度のグリオキシラート−エン反応付加体を与える汎用性の高い方法である。しかしながら,比較的高価な不斉源を化学量論必要とし,経済効率,不斉効率の観点から満足できるものではない。Evansらの開発したキラルなビスオキサゾリン銅錯体を不斉触媒として用いる方法は高い純度のディールス・アルダー環化付加体が得られ,使用する不斉源は2〜10mol%と効率的であるが,より効率的な触媒の開発が望まれている。Coreyらの開発したキラルオキサザボロリジン誘導体−トリフルオロメタンスルホン酸を不斉触媒として用いる方法は高い光学純度のディールス・アルダー環化付加体が得られ,使用する不斉源は6mol%と効率的であるが,熱に不安定で0℃で分解し,到底満足できるものではない。Evansらの開発したキラルなビスオキサゾリン銅錯体を不斉触媒として用いるグリオキシラート−エン反応は高い光学純度の付加体が得られるが,使用する不斉源は10mol%であり,より効率的な触媒の開発が望まれている。こうした不斉触媒反応において,高い不斉収率で反応生成物を得るためには高度に不斉の場が設計された触媒,高効率の触媒を用いる必要があり,その開発が求められている。また,高度に不斉の場を設計された触媒の合成は,一般に複雑で多段階の工程を要する。効率よく,簡便で経済的な高度な不斉の場を有する触媒の合成法が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで発明者らは鋭意検討を重ねた結果,本発明を完成するに至った。即ち,本発明は高度の不斉の場を有する光学活性遷移金属錯体,及びその合成法に関するものであって,有機合成の属する分野,及びその他の分野において用いられる不斉合成に供されるものである。
【0007】
本発明は下記一般式
【0008】
【化1】

【0009】
(式中,Yは窒素,酸素から選択され,Yが窒素の場合,nは1であり,Yが酸素の場合,nは0であり,Rは水素,あるいは置換されていても良いアルキル基,ペルフルオロアルキル基,アセチル基,トリフルオロアセチル基,トリフルオロメタンスルホニル基,p−トルエンスルホニル基から選ばれ,R,R,R,Rはそれぞれ水素,ハロゲン,置換されていても良いアルキル基,アルキルオキシ基,芳香環,複素環から選ばれ,Mは遷移金属から選ばれ,L1*は(R)−2,2’−ジアミノビフェニル誘導体,(R,R)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)誘導体から選ばれる)で示され(ただし,Y=酸素,R=R=R=R=水素は除く),または,下記一般式
【0010】
【化2】

【0011】
(式中,Yは窒素,酸素から選択され,Yが窒素の場合,nは1であり,Yが酸素の場合,nは0であり,Rは水素,あるいは置換されていても良いアルキル基,ペルフルオロアルキル基,アセチル基,トリフルオロアセチル基,トリフルオロメタンスルホニル基,p−トルエンスルホニル基から選ばれ,R,R,R,Rはそれぞれ独立に水素,ハロゲン,置換されていても良いアルキル基,アルキルオキシ基,芳香環,複素環から選ばれ,Mは遷移金属から選ばれ,L2*は(S)−2,2’−ジアミノビフェニル誘導体,(S,S)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)誘導体から選ばれる)で示され(ただし,Y=酸素,R=R=R=R=水素は除く),上記L1*が(R,R)−N,N’−二置換−2,2’−ジアミノ−(R)−ビフェニル(ただし置換基は,置換されていても良いアルキル基,芳香環,複素環,芳香環を有するアルキル基,複素環を有するアルキル基から選ばれる),または(R,R)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン),L2*が(S,S)−N,N’−二置換−2,2’−ジアミノ−(S)−ビフェニル(ただし置換基は,置換されていても良いアルキル基,芳香環,複素環,芳香環を有するアルキル基,複素環を有するアルキル基から選ばれる),または(S,S)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)のいずれかで示される新規な光学活性遷移金属錯体,及びその製造方法に関するものである。以下に本発明の代表例として下記構造式(1)
【0012】
【化3】

【0013】
で示される(R,R)−2,2’−ビス(ベンジルアミノ)−(R)−ビフェニル[(R)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミナト)]パラジウム(II)及び下記構造式(2)
【0014】
【化4】

【0015】
で示される(R,R)−エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)[(R)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミナト)]ジルコニウム(II)ジトリフルオロメタンスルホネートを取り上げ,本発明の有用性を開示する。
【0016】
構造式(1)で示されるパラジウム錯体及び構造式(2)で示されるジルコニウム錯体は文献未載の新規化合物である。構造式(1)で示されるパラジウム錯体は下記反応式に従って合成することができる。
【0017】
【化5】

【0018】
アキラルな2,2’−ビス(ベンジルアミノ)ビフェニルジクロロパラジウム(II)3と(R)−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミノ)−1,1’−ビナフチル4を塩基の存在下,反応させることにより得られる。この工程で使用される溶媒はベンゼン,トルエン,四塩化炭素,クロロホルム,塩化メチレン,THF,エチルエーテル,ピリジンのごとき有機溶媒,あるいはこれらの混合溶媒から適宜選択される。使用する塩基はナトリウムt・ブトキシド,カリウムt−ブトキシドなどの金属アルコキシドから選択される。反応温度は−20℃から溶媒の還流温度の間で適宜選択されるが,好ましくは室温付近である。反応に要する時間は使用する溶媒,塩基,反応温度により異なるが,一般に0.5時間から24時間の間で選択される。
【0019】
ジルコニウム錯体(2)は下記反応式に従って合成することができる。
【0020】
【化6】

【0021】
アキラルなエチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)ジクロロジルコニウム(II)5と(R)−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミノ)−1,1’−ビナフチル4を塩基の存在下,反応させることにより得られ,反応条件はパラジウム錯体(1)と全く同一である。
【0022】
上記のように本発明に係る合成法は極めて簡便で,高度な不斉の場を持つ本発明に係る光学活性遷移金属錯体である構造式(1)で示されるパラジウム錯体及び構造式(2)で示されるジルコニウム錯体を得ることができる。しかも不斉源としてキラルな2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミノ)−1,1’−ビナフチル4のみを用いてパラジウム錯体3の中性配位子のビフェニルに軸不斉を,及びansa−ジルコセン錯体5に面不斉を,2つの窒素原子上に不斉中心を誘導することができる。即ち,不斉源として用いたキラルな2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミノ)−1,1’−ビナフチル4の軸不斉が錯体形成の際に2,2’−ビス(ベンジルアミノ)ビフェニルの軸及び2つの窒素原子,または,エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデン)の面に不斉を誘起し,高度な不斉の場を有する錯体を形成する。(R)体の2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミノ)−1,1’−ビナフチルを用いれば,不斉がすべて(R)体である錯体を形成する。
【0023】
本発明の合成法により得られた構造式(1)で示されるパラジウム錯体または構造式(2)で示されるジルコニウム錯体は1分子中に性質の異なる複数の不斉を持っており,高度な不斉の場を有している。そのため,不斉ディールス・アルダー反応,不斉グリオキシラート−エン反応,不斉アルドール反応を始めとする種々の不斉反応の優れた触媒となりえる。
【0024】
以下に構造式(2)で示されるジルコニウム錯体を本発明の代表例として取り上げ,不斉グリオキシラート−エン反応への応用を参考例として例示し,本発明の有用性を明らかにする。
【0025】
参考例 2−フェニルプロピレンとエチルグリオキシラートの不斉グリオキシラート−エン反応
【0026】
下記に示すように,触媒(R,R)−エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)[(R)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミナト)]ジルコニウム(II)ジトリフルオロメタンスルホネートを使った不斉グリオキシラート−エン反応を行い,高収率で高い光学純度を持つ光学活性エチル4−フェニル−4−ペンテノエートが得られた。
【0027】
【化7】

【発明の効果】
【0028】
以上のように本発明の代表例である構造式(2)で示されるジルコニウム錯体を触媒として用いる不斉グリオキシラート−エン反応は高い光学純度で,グリオキシラート−エン付加体を与える。構造式(1)で示されるパラジウム錯体及び構造式(2)で示されるジルコニウム錯体は触媒としての能力が高く,その使用量は0.5mol%程度と極めて少量で高い光学純度でディールス・アルダー付加体及びグリオキシラート−エン付加体を与える。中心金属としてはパラジウムやジルコニウムに限定されず,ロジウム,ルテニウム,ニッケル,チタン,白金,銅,コバルトなど多くの遷移金属の利用が可能である。そのため,種々の不斉反応に対応でき,優れた不斉触媒として利用できる。また,錯体それ自身の合成も簡便で,しかも,不斉源として1つの軸不斉を有する陰性配位子をアキラルな中性配位子N,N’−二置換−2,2’−ジアミノビフェニルまたはエチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデン)を有する遷移金属錯体に加えるだけで,2つの軸不斉及び2つの不斉中心を,または軸不斉及び面不斉を有する錯体となる。陰性配位子の不斉が中性配位子に誘起し,軸不斉または面不斉,不斉中心を誘起し,1つの軸不斉から高度な不斉の場が構築された遷移金属錯体が簡便な方法で得られる。一般に高度な不斉の場を構築するためには複雑な多段階合成法が必要で,多くの時間と手間を有し,得られた光学活性遷移金属錯体は極めて高価なものとなる。本発明に係る錯体は種々の不斉反応に利用でき,その結果,不斉反応生成物として多量の光学活性化合物が得られる。近年,グリーンケミストリーの観点からアトムエコノミーが重要視されている。本発明は,アトムエコノミーはもちろんのこと,キラルエコノミーにも優れた発明と言える。
【実施例】
【0029】
以下,本発明を実施例により詳細に説明する。なお,本発明の範囲は,かかる実施例に限定されないことは言うまでもない。本発明の範囲内では変形が可能なことは当業者には明らかであろう。
【0030】
実施例1 (R,R)−2,2’−ビス(ベンジルアミノ)−(R)−ビフェニル[(R)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミナト)]パラジウム(II)の合成
2,2’−ビス(ベンジルアミノ)ビフェニルジクロロパラジウム(II)(56.9mg,0.105mmol)をジクロロメタン6.0mlで溶解し、アルゴン雰囲気下で(R)−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミノ)−1,1’−ビナフチル(57.6mg,0.105mmol)とBuOK(23.7mg,0.210mmol)をTHF4.0mlで溶解した溶液を加え、室温で、18時間撹拌した。析出したKClを濾別後、減圧下で溶媒を除去し、ジクロロメタン、アセトン及びヘキサンの混合溶液による再結晶化により、81%の収率で目的物が得られた。
(R,R)−2,2’−ビス(ベンジルアミノ)−(R)−ビフェニル[(R)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミナト)]パラジウム(II)の物性値は以下の通りである。
H NMR(300MHz,CDCl)δ3.69(dd,J=13.68,10.8Hz,2H),4.64(dd,J=13.8,4.2Hz,2H),7.06−7.26(m,20H),7.39−7.46(m,6H),7.82(t,J=9.0Hz,4H),8.48(br,2H).
19F NMR(376MHz,CDCl)δ−76.1(s,6F).
[α]D26=+846.0(c=1.71 in CHCl
【0031】
実施例2 エチル−4−フェニル−4−ペンテノエートの合成
触媒(R,R)−2,2’−エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)−[(R)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミナト)]ジルコニウム(II)は、(R,R)−2,2’−ビス(ベンジルアミノ)−(R)−ビフェニル[(R)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミナト)]パラジウム(II)の合成と同様な方法で、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル−ジクロロジルコニウム(II)と(R)−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミノ)−1,1’−ビナフチルをBuOKの存在下で反応させることにより得られる。
(R,R)−2,2’−エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)−[(R)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ビス(トリフルオロメタンスルホニルアミナト)]ジルコニウム(II)(0.01mmol)をジクロロメタン2.0mlで溶解し、アルゴン雰囲気下でエチルグリオキシレート(0.5mmol)とメチルスチレン(0.75mmol)を加え、0℃で2時間撹拌後、徐々に室温まで加温し、更に20時間撹拌した。減圧下で溶媒を除去し、残渣をシリカカラムに移し、ペンタン/エーテル(5:1)の溶媒で展開することにより、淡黄色の油状の目的物を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式
【化1】

(式中,Yは窒素,酸素から選択され,Yが窒素の場合,nは1であり,Yが酸素の場合,nは0であり,Rは水素,あるいは置換されていても良いアルキル基,ペルフルオロアルキル基,アセチル基,トリフルオロアセチル基,トリフルオロメタンスルホニル基,p−トルエンスルホニル基から選ばれ,R,R,R,Rはそれぞれ独立に水素,ハロゲン,置換されていても良いアルキル基,アルキルオキシ基,芳香環,複素環から選ばれ,Mは遷移金属から選ばれ,L1*は(R)−2,2’−ジアミノビフェニル誘導体,(R,R)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)誘導体から選ばれる)または,下記一般式
【化2】

(式中,Yは窒素,酸素から選択され,Yが窒素の場合,nは1であり,Yが酸素の場合,nは0であり,Rは水素,あるいは置換されていても良いアルキル基,ペルフルオロアルキル基,アセチル基,トリフルオロアセチル基,トリフルオロメタンスルホニル基,p−トルエンスルホニル基から選ばれ,R,R,R,Rはそれぞれ独立に水素,ハロゲン,置換されていても良いアルキル基,アルキルオキシ基,芳香環,複素環から選ばれ,Mは遷移金属から選ばれ,L2*は(S)−2,2’−ジアミノビフェニル誘導体,(S,S)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)誘導体から選ばれる)で示される新規光学活性遷移金属錯体(ただし,Y=酸素,R=R=R=R=水素は除く)。
【請求項2】
1*が(R,R)−N,N’−二置換−2,2’−ジアミノ−(R)−ビフェニル(ただし置換基は,置換されていても良いアルキル基,芳香環,複素環,芳香環を有するアルキル基,複素環を有するアルキル基から選ばれる),または(R,R)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)から選ばれ,L2*が(S,S)−N,N’−二置換−2,2’−ジアミノ−(S)−ビフェニル(ただし置換基は,置換されていても良いアルキル基,芳香環,複素環,芳香環を有するアルキル基,複素環を有するアルキル基から選ばれる),または(S,S)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)から選ばれる請求項1記載の新規光学活性遷移金属錯体。
【請求項3】
Yが窒素,Rがトリフルオロメタンスルホニル基,R,R,R,Rが水素,L1*が(R,R)−2,2’−ビス(ベンジルアミノ)−(R)−ビフェニル,L2*が(S,S)−2,2’−ビス(ベンジルアミノ)−(S)−ビフェニルである請求項1記載の新規光学活性遷移金属錯体。
【請求項4】
Yが窒素,Rがトリフルオロメタンスルホニル基,R,R,R,Rが水素,L1*が(R,R)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン),L2*が(S,S)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)である請求項1記載の新規光学活性遷移金属錯体。
【請求項5】
Yが酸素,Rがフェニル基,R,R,Rが水素,L1*が(R,R)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン),L2*が(S,S)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)である請求項1記載の新規光学活性遷移金属錯体。
【請求項6】
塩基の存在下,下記一般式
【化3】

(式中,Lはラセミ2,2’−ジアミノビフェニル誘導体,ラセミ1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)誘導体から選ばれ,Mは遷移金属から選ばれ,Xはハロゲンから選ばれる)で示される錯体と,下記一般式
【化4】

(式中,Yは窒素,酸素から選択され,Yが窒素の場合,nは1であり,Yが酸素の場合は0であり,Rは水素,あるいは置換されていても良いアルキル基,ペルフルオロアルキル基,アセチル基,トリフルオロアセチル基,トリフルオロメタンスルホニル基,p−トルエンスルホニル基から選ばれ,R,R,R,Rはそれぞれ水素,ハロゲン,置換されていても良いアルキル基,アルキルオキシ基,芳香環,複素環から選ばれる)で示される光学活性ビナフチル誘導体,または下記一般式
【化5】

(式中,Yは窒素,酸素から選択され,Yが窒素の場合,nは1であり,Yが酸素の場合は0であり,Rは水素,あるいは置換されていても良いアルキル基,ペルフルオロアルキル基,アセチル基,トリフルオロアセチル基,トリフルオロメタンスルホニル基,p−トルエンスルホニル基から選ばれ,R,R,R,Rはそれぞれ水素,ハロゲン,置換されていても良いアルキル基,アルキルオキシ基,芳香環,複素環から選ばれる)で示される光学活性ビナフチル誘導体と反応させ,下記一般式
【化6】

(式中,L1*は(R)−2,2’−ジアミノビフェニル誘導体,(R,R)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)誘導体から選ばれる)または,下記一般式
【化7】

(式中,L2*は(S)−2,2’−ジアミノビフェニル誘導体,(S,S)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)誘導体から選ばれる)で示される新規光学活性遷移金属錯体の製造方法(ただし,Y=酸素,R=R=R=R=水素は除く)。
【請求項7】
上記L1*が(R,R)−N,N’−二置換−2,2’−ジアミノ−(R)−ビフェニル(ただし置換基は,置換されていても良いアルキル基,芳香環,複素環,芳香環を有するアルキル基,複素環を有するアルキル基から選ばれる),または(R,R)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン),L2*が(S,S)−N,N’−二置換−2,2’−ジアミノ−(S)−ビフェニル(ただし置換基は,置換されていても良いアルキル基,芳香環,複素環,芳香環を有するアルキル基,複素環を有するアルキル基から選ばれる),または(S,S)−1,1’−エチレンビス(テトラヒドロインデン)のいずれかである請求項6記載の新規光学活性遷移金属錯体の製造方法。

【公開番号】特開2007−106734(P2007−106734A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326687(P2005−326687)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】