説明

新規な水溶性ポリイミド樹脂とその製造方法及びその用途

【課題】新規な水溶性ポリイミド樹脂とその製造方法及びその用途を提供する。
【解決手段】新規な水溶性ポリイミド樹脂のポリイミド分子の構造中に、例えば、−OH基、−COOH基の如く、アルカリ性水溶液中において溶解度を増大する親水性官能基を有し、エレクトリック製品やフォトエレクトリック製品の絶縁性保護フィルムとして使用できる水溶性ポリイミド樹脂。該水溶性ポリイミド樹脂は、ゲル透過クロマトグラフィ法(GPC)により、ポリスチレン換算での数平均分子量(Mn)が約10,000〜300,000であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ポリイミド樹脂とその製造方法に関し、更に詳細には、アルカリ性水溶液に対し優れた溶解度を有し、フィルムビルド後には、優れた耐熱性を有し、銅箔との優れた粘着性及び電気絶縁性を有する水溶性ポリイミド樹脂に関し、エレクトリック産業に広く利用される水溶性ポリイミド樹脂を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、柔軟性と優れた電気絶縁性を有し、しかも耐熱性を備えているため、エレクトリック部品中の電気絶縁フィルムとして広く利用されている。更に、エレクトリック産業の日増しの進歩と発展に伴い、ポリイミドのエレクトリック産業における電気絶縁フィルムとしてのエレクトリック部品の用途も日増しに増大するがため、環境保全の意識の高騰に従い、ポリイミドの特性に係わる研究も多くなされているのが現状である。
【0003】
このため、特に半導体工業において、半導体集積回路またはプリント回路プレート上に回路図案を構築するためには、先にプレート上にフォトレジスタンス フィルムを形成し、その後、必要とする回路図案を有するフォトマスクにより露光し、フォトレジストタンス フィルムを現像して、必要とする部分のフォトレジストタンス フィルムを残す、その後、エッチングなどの方法により不要の部分を除去し。これらフォトレジストタンス フィルムの材料として、芳香族ポリイミドが多く使用されている。
【0004】
しかしながら、従来技術により使用されている芳香族ポリイミドとして、例えば、米国特許のUS4321319とUS6001534などに掲示されている感光性ポリイミドは、有機溶剤を用いて現像をするため、環境保全と人体における安全性の観点から問題となっている。
また、米国特許のUS5668248に掲示されているポリアミック酸エステル類は、ポリアミック酸のカルボキシル基がエチレン基をもたない化合物により、エステル化されたものであるが、ポリアミック酸エステルは、最後に高温で環化する際、分子構造において脱水が起きて膜が厚くなる収縮が発生し、かつ、上記ポリアミック酸エステルの単体原料の合成は煩雑で、製造面においても不利な欠点が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許US4321319
【特許文献2】米国特許US6001534
【特許文献3】米国特許US5668248
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、環境保全の観点及び従来技術により発生する問題点から、有機溶液を現像に使用せず、水溶液中で現像できるポリイミドが求められており、本発明の課題は、このようなポリイミドとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく、ポリイミドに関し、鋭意検討を行っていたところ、その分子構造中に親水性官能基を有し、アルカリ性水溶液中において、ポリイミド樹脂の溶解度を増大することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は下記化学式(I)と化学式(II)により示される重複ユニットを有する水溶性ポリイミド樹脂を提供するものであり、これら重複ユニットはブロック又はランダム排列であっても良い。
【0009】
【化1】

上式中、Bは4価の有機基を示し、Rはフェニレン基であり、bは0,1又は2の数値を示し、Aは-OH-基と-COOH基から選ばれる基を示し、かつ、bが2である場合、これら複数のAは同じであっても良く、異なっていても良い。Zは、下記式により示される基である。
【0010】
【化2】

式中、RとRは、それぞれ同じであっても良く、異なっていても良い。独自に炭素原子1〜6個を含むアルキレン基、炭素原子6〜20個を含むアリールレン基、アリールアルキレン基、アリールオキシアルキレン基を示し、n、xとyは1、又は1より大きい整数を示す。aとcは、それぞれ重複ユニットにおけるもル百分率を示し、かつ、aは50〜97モル%範囲内であり、好ましくは、70〜95モル%範囲内を示す。cは3〜50モル%範囲内であり、好ましくは5〜30モル%範囲内を示す。
【0011】
ゲル透過クロマトグラフィ法(GPC)により計測された本発明の水溶性ポリイミド重合体の数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算で約10,000〜300,000であり、好ましくは約40,000〜100,000である。その固有粘度(IV)は、0.20〜0.95dL/gであり、好ましくは0.20〜0.40dL/gである。
【0012】
本発明において、上記固有粘度とは、N‐メチルピロリジノン(NMP)を溶剤に用い、ポリマー濃度を0.5g/dLに調製したポリマー溶液について、25℃の水浴中、恒温下で30分間放置し、毛細管粘度計(Ubbelohode ビスコメーター)を用いて測定し、次に下式により計算した固有粘度である。
【0013】
【数1】

式中、tは粘度計の上下にある二つの目盛りの間を溶剤が流通するブランク時間数(秒)を示し、
tは粘度の上下にある二つの目盛りの間をポリマー溶液が流通する時間数(秒)をそれぞれ示す。
【0014】
本発明の水溶性ポリイミド樹脂は、アルカリ性水溶液中において優れた溶解度を示すものであり、塗布により被膜を形成(膜の厚さ:10〜25μm)した場合、その膜片(サイズ:9×5.5cm)を1000ccの1重量%の炭酸ソーダ水溶液に溶解させた際、その溶解に必要とする時間は130秒以下であることからも、そのアルカリ性水溶液中における優れた溶解度を有することが良く示される。
【0015】
更に、本発明の水溶性ポリイミド樹脂は、感光性基を有する化合物と反応し、水溶性感光ポリイミド樹脂を形成することが可能である。例えば、本発明の水溶性ポリイミド樹脂が水酸基を有する時、すなわち、上式中Aは水酸基を示す場合、炭素‐炭素二重結合の無水ジカルボン酸化合物と反応することにより、感光性官能基を有するポリイミド樹脂を得ることができる。この無水ジカルボン酸化合物としては、例えば、無水マレイン酸、置換基を有する無水マレイン酸、無水テトラヒドロフタル酸、置換基を有する無水テトラヒドロフタル酸、無水メチレンフタル酸、置換基を有する無水メチレンフタル酸などが挙げられる。
【0016】
又、本発明は上記の式(I)及び式(II)の重複ユニットを有する水溶性感光ポリイミド樹脂に関する下記の製造方法をも提供する。
これらの製造方法は下記の工程を含む:
(a) テトラカルボン酸ジ酸無水物とシロキサン官能基を有するジアミン、及びカルボキシル基と/又はヒドキシル基官能基を有するジアミンとの反応により、カルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するポリアミック酸前駆体を得る。上記の反応中、ジアミンの総モル当量に対するテトラカルボン酸ジ無水物のモル当量比は、テトラカルボン酸ジ酸無水物:ジアミン=1:08〜1:1.2であり、シロキサン官能基を有するジアミンと、カルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミンのモル比率は3:97〜50:50範囲内であり、好ましくは、5:95〜30:70範囲内である。
(b) 上記の(a)において得たカルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するポリアミック酸前駆体を加熱し環化することにより、上記の式(I)と式(II)で示す重複ユニットを有するポリイミド樹脂を得る。
【0017】
本発明の製造方法において、カルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミン中のカルボキシル基とシロキサン官能基を有するジアミン中のアミン基との反応を防止するため、好ましくは、先にシロキサン官能基を有するジアミンとテトラカルボン酸ジ酸無水物とを、テトラカルボン酸ジ酸無水物との過剰のモル当量を用いて反応させた後、次にカルボキシ基と/又はヒドロキシ官能基を有するジアミンを添加して反応させると良い。
【0018】
本発明のポリイミド樹脂は、フォトレジスト剤として使用することが可能である。しかも、フォトレジスト剤として、例えば、銅プレートなどのプレート上に塗布し、露光現像の後、又は露光後焼付けしても、この焼付けにより膜の厚さが減少することは無い。
本発明は、新規の化合物をも提供する。即ち、本発明のポリイミド樹脂を製造するための中間体である3,5−ジアミノ−4−ヒドロキシルベンゾイック酸を新規化合物として提供する。
【0019】
又、本発明は、3,5−ジアミノサリチル酸をも新規化合物として提供する。これは本発明のポリイミド樹脂を製造する際の中間体として使用され、別名として2−ヒドロキシル−3,5−ジアミノベンゾイック酸が挙げられる。
【0020】
更に、本発明は、可溶性感光ポリイミド樹脂組成物にも関するものであり、その組成として(A)上記の式(I)で示す重複ユニットを有する水溶性感光ポリイミド樹脂;(B)(メタ)アクリル酸単体希釈剤;及び(C)フォトイニシェーターを含有する。上記の組成において、(A):(B)は重量比で100:10〜200、好ましくは、100:60〜150である。(C)のフォトイニシェーターは、組成分(A)を100重量%とした場合、その含有比率は0.1〜15.0重量%であり、更に好ましくは、1.0〜10.0重量%である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の製造例1において製造された化合物のNMRスペクトルを示す。
【図2】本発明の製造例1において製造された化合物のIRスペクトルを示す。
【図3】本発明の製造例3において製造された化合物のNMRスペクトルを示す。
【図4】本発明の製造例3において製造された化合物のIRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、ポリイミド樹脂の製造方法中に用いられるテトラカルボン酸ジ酸無水物としては、下記の具体例が挙げられるが、それらに限定されるものではない。例えば、2,2’−ジ−(3,4−ジカルボキシルフェニル)ヘキサフルオロプロパンジ酸無水物(6−FDA)、ピロメリト酸ジ酸無水物(PMDA)、4,4’−オキソジフタル酸無水物(ODPA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ酸無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(BTDA)、エチレンテトラカルボン酸ジ酸無水物、ブタンテトラカルボン酸ジ酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸ジ酸無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ酸無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ酸無水物、2,2−ジ(3,4−ジカルボキシルフェニル)プロパンジ酸無水物、2,2−ジ(2,3−ジカルボキシルフェニル)プロパンジ酸無水物、ジ(3,4−ジカルボキシルフェニル)エーテルジ酸無水物、ジ(3,4−ジカルボキシルフェニル)スルホンジ酸無水物、1,1−ジ(2,3−ジカルボキシル)エタンジ酸無水物、ジ(2,3−ジカルボキシルフェニル)メタンジ酸無水物、ジ(3,4−ジカルボキシルフェニル)メタンジ酸無水物、4,4’−(パラフェニルジオキシ)ジフタル酸ジ酸無水物、4,4’−(メタフェニルジオキシ)ジフタル酸ジ酸無水物、2,3,6,7−ナフチルテトラカルボン酸ジ酸無水物、1,4,5,8−ナフチルテトラカルボン酸ジ酸無水物、1,2,5,6−ナフチルテトラカルボン酸ジ酸無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸ジ酸無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジ酸無水物、2,3,6,7−アンスリルテトラカルボン酸ジ酸無水物と1,2,7,8−フェナンスリルテトラカルボン酸ジ酸無水物などが挙げられる。これらジ酸無水物は単独で使用しても良く、多種類を混合して用いても良い。
【0023】
本発明において、ポリイミド樹脂の製造方法中に用いられるカルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミンの具体的実例としては、下記に示すものが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、例えば、3,5−ジアミノ−4−ヒドロキシルベンゾイック酸(DAPHBA)、3,5−ジアミノサリチル酸(DASA、又は2−ヒドロキシル−3,5−ジアミノベンゾイック酸とも称する)、3,5−ジアミノベンゾイック酸(DABZ)などが挙げられる。
【0024】
本発明において、ポリイミド樹脂の製造方法中に使用されるシロキサン官能基を有するジアミンとしては、例えば、1,3−ジ(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(DSI)、1,3−ジ(4−アミノブチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジ(3−アミノプロピル)−1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルジシロキサン、1,3−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジ(3−アミノフェノキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルシジキロサン、1,3−ジ(4−アミノフェノキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ポリシロキサンジアミン(Mw=900)などが挙げられる。
【0025】
本発明のポリイミド樹脂の製造方法において、本発明の効果に影響がない範囲内、上記のカルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミン及びシロキサン官能基を有するジアミン以外のジアミンをも使用することが可能であり、その具体例としては、例えば、パラフェニルジアミン(PDA)、4,4’−オキソジアニリン(ODA)、1,3−ジ(4−アミノフェノキシ)べンゼン(TPE−R)、2,2−ジ(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(BAPP)、ジ(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン(BAPS)、1,3−ジ(3−アミノフェノキシ)べンゼン(APB)、4,4’−ジ(4−アミノフェノキシ)−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(BAPB)、ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)メタン、1,1−ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)エタン、1,2−ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)エタン、2,2−ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)ブタン、2,2−ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジ(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)ケトン、ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)チオエーテル、ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホキシド、ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)エーテルなどが挙げられる。これらは単独で使用しても良く多種類を混合して用いても良い。
【0026】
上記のカルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミン及びシロキサン官能基を有するジアミン以外のその他のジアミンを使用する場合、その他のジアミンと、カルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミンとシロキサン官能基を有するジアミンの合計との比率は、70:30〜90:10である。しかし、最終におけるジアミン総モルに対するテトラカルボン酸ジ酸無水物とのモル当量比は、テトラカルボン酸ジ酸無水物:ジアミン=1:0.8〜1:12範囲内である必要がある。
【0027】
本発明のポリイミド樹脂の製造方法において、当該テトラカルボン酸ジ酸無水物とジアミンとの反応は、非プロトン極性溶媒中で行われるが、その非プロトン極性溶媒としては、反応原料や生成物と反応しないものであれば良く、特に限定されたものではない。具体的としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタンなどが挙げられる。そのうち、好ましくはN−メチルピロリドン(NMP)とN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)が良く使用される。
【0028】
本発明のポリイミド樹脂の製造方法において、当該テトラカルボン酸ジ酸無水物とジアミンとの反応は、通常室温から90℃範囲内の温度下で行われ、好ましくは30℃〜75℃範囲内の温度下で行われる。
【0029】
本発明の水可溶性ポリイミド樹脂組成物において、組成物(B)の(メタ)アクリル酸単体稀釈剤としては稀釈剤の用途の外、その分子構造中にエチレン官能基が存在するため、組成物の露光後の硬化にも役立つものであり、その具体例としては、例えば、エチレングリコールジアクリル酸エステル、プロピレングリコールジアクリル酸エステル、ブチレングリコールジアクリル酸エステル、ジエチレングリコールジアクリル酸エステル、ジプロピレングリコールジアクリル酸エステル、トリメチロールプロパントリアクリル酸エステル、トリエチロールプロパントリアクリル酸エステル、ペンタエリトリットジアクリル酸エステル、ジペンタエリトリットトリアクリル酸エステル、エチレングリコールジメタアクリル酸エステル、プロピレングリコールジメタアクリル酸エステル、ブチレングリコールジメタアクリル酸エステル、ジエチレングリコールジメタアクリル酸エステル、ジプロピレングリコールジメタアクリル酸エステル、トリメチロールプロパントリメタアクリル酸エステル、トリエチロールプロパントリメタアクリル酸エステル、ペンタエリトリットジメタアクリル酸エステル、ジペンタエリトリットトリメタアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0030】
本発明のポリイミド樹脂を用いてフォトレジスト剤を調製する際、フォトイニシェーター剤を調合することができる。本発明のフォトレジスト組成物を調製する際に使用されるフォトイニシェーター剤としては、可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線とX−線などの輻射線の照射下、その分子構造に裂解が起こり、フリーラジカル基、陽イオン又は負イオンなどのアクティブ サイト(Active site)を生じ、ポリイミドとアクリル酸エステル単体との重合反応を行うことに用いられる。
【0031】
これらフォトイニシェーター剤としては、具体例として、例えば、2,2’−ジ(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2’−ジイミダゾール、2,2’−ジ(2−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2’−ジイミダゾール、2,2’−ジ(2,4−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ジイミダゾール、2,2’−ジ(2,4,6−トリクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ジイミダゾール、2,2’−ジ(2,4−ジブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ジイミダゾールと2,2’−
ジ(2,4,6−トリブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ジイミダゾールなどのイミダゾール類が挙げられる。
【0032】
フォトイニシェーター剤の実例としては、又、例えば、トリフェニルホスフィン酸化物(TPO,BASF(株)社より購入可能)、ジ(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィン酸化物(Irgacure 819 (IR819),Ciba Geigy(株)より購入可能)、アルキルフェニルケトン類、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(例えば、Irgacure 184 (IR184),Ciba Geigy(株)より購入可能)、2−メチル−(4−メチルチェニル)−2−モルホリノ−1−プロパ−1−ノン(例えば、Irgacure 907 (IR907),Ciba Geigy(株)より購入可能)等が挙げられる。
【0033】
又、フォトイニシェーター剤の実例としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、メチル−2−ベンゾインベンゾイック酸エステル及びその誘導体などのベンゾイン系フォトイニシェーターなどが挙げられる。
【0034】
又、フォトイニシェーター剤の実例としては、更に、例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(例えば、Irgacure 651 (IR651),Ciba Geigy(株)より購入可能)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパ−1−ノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパ−1−ノン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,2−ジメトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタ−1−ノン、2,2’−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタ−1−ノン、4−アジドアセトフェノン、4−アジドベンジリデンアセトフェノンとその誘導体などのアセトフェノン構造体などが挙げられる。
【0035】
又、フォトイニシェーター剤の実例としては、更に、例えば、ベンゾフェノン、4,4’−ジ(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ジ(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンとそれらの誘導体などのベンゾフェノン類が挙げられる。
【0036】
更に、フォトイニシェーター剤の実例としては、又、例えば、ジアセチル蟻酸エステル、ジベンゾイル蟻酸エステル、メチルベンゾイル蟻酸エステルとそれらの誘導体などのα−ジケトン構造を有するフォトイニシェーター剤などが挙げられる。
【0037】
又、例えば、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−タ−シャリ−ブチルアントラキノン、1,4−ナフトキノンとそれらの誘導体などの多核キノン構造を有するフォトイニシェーター剤、例えば、キサントン、チオキサントン、2,4−ジエチルキサントン、2−クロロチオキサントンなどとそれらの誘導体などのキサントン(xanthone)類構造を有するフォトイニシェーター剤なども使用される。
【0038】
又、例えば、4−アザンフェニルアミン、4−アザ−4’−メトキシジフェニルアミン、4−アジド−3−メトキシジフェニルアミンなどとそれらの誘導体などのアザ構造を有するフォトイニシェーター剤、例えば、2−(2’−フリルエチリデン)−4,6−ジ(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3’,4’−ジメトキシスチレン)−4,6−ジ(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4’−メトキシナフチル)−4,6−ジ(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2’−ブロモ−4’−メチルフェニル)−4,6−ジ(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2’−チオフェンエチリデン)−4,6−ジ(トリクロロメチル)−s−トリアジンとそれらの誘導体などのトリアジン構造を有するフォトイニシェーター剤などが挙げられる。
【0039】
これらのフォトイニシェーター剤は単独で用いても良く、又2種以上を混合して使用しても良い。これらフォトイニシェーター剤(C)の使用量は、組成分(A)を100重量%とした場合、通常0.1〜15.0の重量%であり、好ましくは1.0〜10.0重量%が使用される。
【0040】
本発明を下記製造例、実施例と調合例により、更に詳しく説明するが、これら製造例、実施例と調合例の目的は本発明を説明するだけのものであり、本発明を限定するものではない。
【0041】
下記製造例、実施例と調合例において、使用される化合物については下記に省略される。
6-FDA:2,2’−ジ−(3,4−ジカルボキシルフェニル)ヘキサフルオロプロパンジ酸無水物(Mw=444)
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノン−テトラカルボン酸無水物(Mw=322.2)
DAPHBA:3,5−ジアミノ−4−ヒドロキシベンゾイック酸(Mw=168.15)
DABZ:3,5−ジアミノベンゾイック酸(Mw=152.25)
HA6F:2,2−ジ(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(Mw=366.3)
ODA:4,4’−オキソジアニリン(Mw=200.2)
PSLX:ポリシロキサンジアミン(Mw=900)
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
触媒:M/C、M/アルミナ、M=Pt、Pd、Rh、Ru、Niとこれらに係る遷移金属、担体としては、前者は活性炭であり、後者はアルミナである。
【0042】
原料単体の製造
製造例1:
3,5−ジニトロ−4−ヒドロキシベンゾイック酸(DNPHBA)の製造:
3リットル用量の撹拌容器内、588gの98%の濃硫酸中に138gのパラーヒドロキシベンゾイック酸(PHBA,長春人造樹脂(株)合成、Mw=168)を浸たし、原料化合がかたまるのを防止しながら、徐々に内容物を撹拌する。氷水浴中に反応容器を放置し、添加ろとを用いて、190gの98%濃硝酸を徐々に上記の溶液中に滴加し、添加速度を調節しながら20〜40℃範囲に反応系を維持して、1.5時間反応した後、すべての硝酸を反応溶液中に滴加して1.5時間撹拌を続ける。水浴中に維持した状況下で、素早く1.5リットルの氷水を加え、ニトロ化反応を終止し、放熱状態に注意しながら稀釈工程を行い、15分間撹拌を継続した後、濾過した固体を得る。その固体を純水500mlで洗浄して、3.5−ジニトロ−パラ−ヒドロキシベンゾイック酸(DHPHBA)の黄色化合物を得る。収率:91.7%(熔点:237℃;DSC)。
【0043】
第1図と第2図にそのNMRとIRスペクトルをそれぞれ示す。そのNMRスペクトル中、べンゼン環上の水素は、ニトロ基とカルボキシル基による強い電子吸引性のため、8.5ppmシフトしている。しかし、IRスペクトルにおいて、3448cm−1にヒドキシル基のピークが示され、1702cm−1にカルボキシル基のピークがあり、1552cm−1と1320cm−1において、ニトロ基のピークが見られる。
【0044】
製造例2:
3,5−ジアミノ−4−ヒドロキシベンゾイック酸(DAPHBA)の製造:
上記製造例1で得た40gのDNPHBAの粗製物を、高圧釜内にある1200mlのメタノール中に溶解させ、完全に溶解した後、窒素ガスを用いて10分間酸素の除去を行い、その後38gの98%濃硫酸を徐々に加え、更に1gのPd/C触媒を加え、高圧釜を密閉して、7kg/cmの水素ガスを導入して12〜16時間反応を行い、水素ガスの消費がないのを見計らい、高圧釜の水素を排除して常圧に戻し、懸浮状の固体を高圧釜より取り出して濾過する。窒素ガス雰囲気下でその粉体を188gの4N塩酸溶液中に加え、更に2gのSnCl・HOを加え、90℃までに加熱して完全に溶解させた後、水素化触媒を熱濾過で除去し、溶液の温度が降下した後に固体が析出し、22gの3,5−ジアミノ−4−ヒドロキシベンゾイック酸(DAPHBA)を得る。その生成物鉄皿に放置したところ、鉄皿が腐蝕されるので、その生成物を塩酸塩と推定する。この塩酸塩も本発明の水可溶性ポリイミドの製造に用いることができる。
【0045】
製造例3:
3,5−ジアミノ−4−ヒドロキシベンゾイック酸(DAPHBA)の別な製造方法:
製造例1で得た20gのDNPHBAの粗製物を高圧釜内にある100mlのテトラヒドロフランと50mlのメタノール混合液に溶解させ、完全に溶解した後、窒素ガスを用いて10分間酸素ガスを除去し、その後、19.5gの98%濃硫酸を徐々に添加し、更に250mgのPd/C触媒を加え、高圧釜を密閉して7kg/cmの水素ガスを導入して、12〜16時間反応し、水素ガスの消費がないのを確認した後、高圧釜内の水素ガスを除去して常圧に戻し、高圧釜内の懸浮状固体を取り出してろ過し、この固体と493gの純水と混合し、85℃までに加熱し、固体が完全に溶解した後、熱ろ過により水素化触媒を除去し、ろ過して溶液を得る。その溶液を減圧下で蒸留し、固体が析出するまで純水の回収を続け、400mlのイソプロパノールを加え、液体中の固体を再結晶して、15.8gの3.5−ジアミノ−4−ヒドロキシベンゾイック酸(DAPHBA)の生成物を得る。熔点:248.6℃。
第3図と第4図にそのNMRとIRスペクトルをそれぞれ示す。そのNMRスペクトルにおいて、べンゼン環上の水素は電子吸引性のニトロ基より、電子供与性のアミノ基に転換したため、7.6ppmシフトする。その他の水素に、本測定はDOを溶剤として用いたために、DOによりDに転換し、スペクトル中に顕示されない。しかし、IRスペクトルにおいて、3500〜2600cm−1にNH基とOH基のピークが見られ、1687cm−1にCOOH基のピークがあり、1162−1000cm−1においてC−Nの振動ピークが見られる。
【0046】
製造例4:
3,5−ジニトロサリチル酸(DNSA)の製造:
容量3リットルの撹拌容器内において、138gのサリチル酸を588gの98%濃硫酸中に浸し、徐々に内容物を撹拌し、原料化合物がかたまらないようにする。氷水浴中に反応容器を放置し、添加ろとを用いて上記の溶液中に190gの98%濃硝酸を徐々に滴加し、添加速度を調節することにより反応温度を20〜40℃に保持する。約1.5時間を経過した後、すべての硝酸を滴下し終え、更に、1.5時間撹拌を続ける。氷浴中に保持した状態下、素早く1.5リットルの氷水を加えてニトロ化反応を終止させる。稀釈工程においては放熱状態に注意を払い、15分間撹拌を続けた後、ろ過して固体を得る。次に、500mlの純水を用いて上記で得た固体を3回洗浄して、黄色の3,5−ジニトロサリチル酸(DNSA)を得る。収率=84%(熔点:167.7℃;DSC)。
【0047】
製造例5:
3,5−ジアミノサリチル(DASA)の製造:
上記製造例1で得た粗製物20gを150mlのメタノール中に溶かし、窒素ガスを用いて10分間酸素ガスを除去した後、19.5gの98%濃硫酸を徐々に加え、次に250gのPd/C触媒を加え、高圧釜を密閉して水素ガス7kg/cmを導入する。約12〜16時間反応させ、水素ガスの消費がないのを確認し、高圧釜内の水素ガスを除去して常圧に戻す。高圧釜内の懸浮固体を取り出してろ過し、その固体を600gの純水と混合し、85℃までに加熱して完全に固体を溶解させ、熱ろ過により水素化触媒を除去し、ろ過により得た溶液を減圧下で蒸留し、固体が析出するまで純水の回収を行い、450mlのイソプロパノールを加え、液体内の固体を再結晶して、17.3gの3,5−ジアミノサリチル酸(DASA)を得る。熔点に246.7℃。
ポリイミドの製造
【実施例1】
【0048】
容量500mlのガラス質反応容器内に、44.4gの2,2’−ジ−(3,4−ジカルボキシルフェニル)ヘキサフルオロプロパンジ酸無水物(6-FDA,Mw=444,O.1モル)と250gのN−メチルピロリドン(NMP)を加え、室温下で溶解するまで撹拌する。次に27.0gのポリシロキサンジアミン(PSLX,Mw=900,0.03モル)を一滴ずつ反応容器に加え、反応容器内の温度を35℃以上にならないように維持し、2時間撹拌を続けた後、更に、11.43gの上記の製造例3で製造したDAPHBA(0.068モル)を徐々に反応容器中に加え、室温下で12時間撹拌を続ける。その後、30gのトルエンを反応容器中に加え、反応温度を150℃に上升して、高温下で還流反応を8時間続け、水溶性ポリイミド溶液を得て、これをP1−1と称する。その固有粘度(inherent viscosity, IV)は0.23dL/gであり、かつ、その数平均分子量(Mn)61000である。その反応経路を下記に示す。
【0049】
【化3】

上式中、aはDAPHBAのモル分率を示し、cは、PSLXのモル分率を示す。
本発明中の固有粘度の測定を下記に示す。すなわち、Cannon−Fenske粘度計を用い、試料が粘度計の二つの特定位置の間を流れる時間を測定し、tと称し、同様な条件下でブランクとしての溶剤が、上記の二つの特定位置の間を流れる時間をtと称し、下式により固有粘度(IV)を計算し、単位はdL/gで示す。試験前において、試料とブランク用の溶剤は、すべて25℃の水浴中に予め30分間恒温に保ち、上記の溶剤としては、N−メチルピロリジノン(NMP)が使用される。
【0050】
【数2】

上式中、tは試料が粘度計の二つの特定位置間を流れる時間を示し、
は、ブランク用溶剤が粘度計の二つの特定位置間を流れる時間を示し、
cは、試料溶液の濃度を示す(g/100ml)。
【実施例2】
【0051】
容量500mlのガラス質反応容器内に、44.4g(0.1モル)の6-FDAと251gのNMPを加え、室温下で溶解するまで撹拌する。次に、27.0g(0.03、モル)のPSLXを一滴ずつ反応容器中に加え、反応容器内の温度が35 ℃以上にならないように維持して、2時間撹拌を続けた後、更に、8.4g(0.05モル)の上記製造例3により製造したDAPHBAと2.74gの3,5−ジアミノベンゾイック酸(DABZ,Mw=152.25,0.018モル)を徐々に反応容器内に加え、室温下で12時間撹拌を続ける。しかる後、30gのトルエンを反応容器中に加え、反応温度を150℃まで上升し、高温下で8時間還流し反応を続けて、水溶性ポリイミド溶液を得る。これをP1−2と称し、そのIVは0.24dL/g、Mnは62500である。
【実施例3】
【0052】
容量500mlのガラス質反応容器内に、44.4g(0.1モル)の6-FDAと250gのNMPを入れ、室温下で溶解するまで撹拌する。次に、9g(0.01モル)のPSLXを一滴ずつ反応容器中に入れ、反応容器内の温度が35℃以上にならないように維持して、2時間撹拌を続けた後、更に、14.8g(0.088モル)の前記製造例3により製造したDAPHBAを徐々に反応容器内に加え、室温下で12時間撹拌を続ける。その後、30gのトルエンを反応容器中に加え、反応温度を150℃まで上升させ、高温下で8時間還流反応を続けて、水溶性ポリイミド溶液を得る。これをP1−3と称し、そのIVは0.35dl/gであり、Mnは83600である。
【実施例4】
【0053】
容量500mlのガラス質反応容器内に、32.2gの3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(BTDA,Mw=322.2,0.1モル)及び215gのNMPを加え、室温下で溶解するまで撹拌する。次に、27.0g(0.03、モル)のPSLXを一滴ずつ反応容器中に加え、反応容器内の温度が35 ℃以上にならないように維持して、3時間撹拌を続けた後、更に、6.73g(0.04モル)の上記製造例3により製造したDAPHBAと5.6gの4,4’−オキソジアニリン(ODA,Mw=200.2,0.028モル)を徐々に反応容器内に加え、室温下で12時間撹拌を続ける。しかる後、26gのトルエンを反応容器中に加え、反応温度を150℃まで上升し、高温下で8時間還流し反応を続けて、水溶性ポリイミド溶液を得る。これをP1−4と称し、そのIVは0.21dl/g、Mnは59500である。
【実施例5】
【0054】
容量500mlのガラス質反応容器内に、32.2g(0.1モル)のBTDAと215gのNMPを入れ、室温下で溶解するまで撹拌する。次に、27.0g(0.03モル)のPSLXを一滴ずつ反応容器中に入れ、反応容器内の温度が35℃以上にならないように維持して、3時間撹拌を続けた後、更に、1.68g(0.01モル)の上記製造例3により製造したDAPHBAと、3.045gの3,5−ジアミノベンゾイック酸(DABZ、0.02モル)及び7.61g(0.038モル)のODAを徐々に反応容器内に加え、室温下で15時間撹拌を続ける。その後、30gのトルエンを反応容器中に加え、反応温度を150℃まで上升させ、高温下で8時間還流反応を続けて、水溶性ポリイミド溶液を得る。これをP1−5と称し、そのIVは0.20dl/gであり、Mnは59000である。
【実施例6】
【0055】
容量500mlのガラス質反応容器内に、44.4g(0.1モル)の6−FDAと250gのNMPを入れ、室温下で溶解するまで撹拌する。次に、27.0g(0.03モル)のPSLXを一滴ずつ反応容器中に入れ、反応容器内の温度が35℃以上にならないように維持して、2時間撹拌を続けた後、更に、11.43g(0.068モル)の上記製造例5により製造したDASAを徐々に反応容器内に加え、室温下で12時間撹拌を続ける。その後、30gのトルエンを反応容器中に加え、反応温度を150℃に上升させ、高温下で8時間還流反応を続けて、水溶性ポリイミド溶液を得る。これをP1−6と称し、そのIVは0.18dL/gであり、Mnは48300である。
【0056】
比較例1
容量500mlのガラス質反応容器内に、44.4g(0.1モル)の6−FDAと290gのNMPを加え、室温下で溶解するまで撹拌する。次に、27.0g(0.03モル)のPSLXを一滴ずつ反応容器中に加え、反応容器内の温度が35℃以上にならないようにして、2時間撹拌を続けた後、更に、24.9gの2,2−ジ(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)−1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HA6F,Mw=366.3,0.068モル)を徐々に反応容器内に加え、室温下で12時間撹拌を続ける。その後、35gのトルエンを反応容器中に加え、反応温度を150℃に上升して、高温下で8時間還流反応を行い、水溶性ポリイミド溶液を得て、これをP1−1と称し、そのIVは0.18dL/gであり、Mnは57600である。
【0057】
比較例2
容量500mlのガラス質反応容器内に、32.2g(0.1モル)のBTDAと215gのNMPを入れ、室温下で溶解するまで撹拌する。次に、27.0g(0.03モル)のPSLXを一滴ずつ反応容器中に加え、反応容器内の温度が35℃以上にならないようにして、3時間撹拌を続けた後、更に、10.99g(0.03モル)HA6Fと7.6g(0.038モル)のODAを徐々に反応容器内に加え、室温下で15時間撹拌を続ける。その後、30gのトルエンを反応容器中に加え、反応温度を150℃に上升して、高温下で8時間還流反応を行い、水溶性ポリイミド溶液を得て、これをP1−2と称し、そのIVは0.21dL/gであり、Mnは59800である。
【0058】
ネガテッブ型感光性ポリイミド樹脂組成物の調製
調製例1〜3と、調製例6
上記P1−1〜P1−3とP1−6樹脂溶液をそれぞれ100g秤量し、それぞれ20gのテトラエチレングリコールジメタアクリル酸エステル、2gのベンゾフェノン、0.05gのミヒラーケトン(Michler‘s ketone)、1gのN−フェニルジエタノールアミンと1.5gの2−メルカプトベンゾイミダゾールと均一に撹拌混合して、ネガティブ型感光性ポリイミド樹脂組成物を得て、これらをそれぞれVA−1〜VA−3とVA−6と称する。
【0059】
比較調製例1
100gのP1−1樹脂溶液を秤量し、20gのテトラエチレングリコールジメタアクリル酸エステル、2gのベンゾフェノン、0.05gのミヒラーケトン(Michler‘s ketone)、1gのN−フェニルジエタノールアミンと、1.5gの2−メルカプトベンゾイミダゾールとを均一に撹拌混合して、ネガティブ型感光性ポリイミド樹脂組成物を得る。これをVA−1と称する。
【0060】
ポジティブ型感光性ポリイミド樹脂組成物の調製
調製例4と5
P1−4とP1−5樹脂溶液をそれぞれ100g秤量し、それぞれ12gのジメトキシアンスリルスルホン酸ジフェニルインドルニウムと均一に撹拌混合して、ポジティブ型感光性ポリイミド樹脂組成物を得る。それぞれをVA−4、VA−5と称する。
【0061】
比較調製例2
100gのP1−2樹脂溶液を秤量し、12gのジメトキシアンスリルスルホン酸ジフェニルインドルニウムと均一に撹拌混合して、ポジティブ型感光性ポリイミド樹脂組成物を得る。これをVA−2と称する。
【0062】
感光性ポリイミド乾燥フィルムの製造とその物性測定
ブレード コーター(間隙は100μm)を使用し、上記により得たポリイミド樹脂組成物を、それぞれポリエチレンテレフタレート(PET)プレート上に塗布し、90℃で20分間焼き付けする。この焼き付け後のポリイミドフィルムを、120℃、1kht/cmの圧力で、銅箔(長春人造樹脂(株)より入手、CCP−ED銅箔、1/3オンス)と共にトランスファー プレスを用いて圧延する。次に、1重量%の炭酸ソーダ(NaCO)水溶液を現像液として、破壊点測定を行い、その結果を表1に示す。
【0063】
破壊点試験(別名溶解度試験とも称する)
上記により得たポリイミドを厚さ約10〜25μmのフィルムに注型し、それからサイズ9×5.5cm2大のフィルムを取り、1000mlの1重量%の炭酸ソーダ水溶液中に溶解させ、完全に溶解するまでの必要時間を測定する。
【0064】
解析度試験
上記の感光性フィルムを、所定の図案を有するフォトマスクを用い、紫外線露光機(ORC,Manufacturing(株)製造)を用いて露光し(300mJ/cm)、次に、1重量%の炭酸ソーダ水溶液を用いて現像を行い、更に、純水に浸して洗浄し、フォトレジスト図案を形成する。続いて、オーブン中、100℃で1時間、150℃で1時間、200℃で1時間の条件下で焼成する。上記により得た図案について、拡大鏡と走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、図案の形状の良否とミニマム線幅(解析度)を評価した結果を表1に示す。
【0065】
溶解度の分析測定
乾燥フィルムを銅箔上に圧延した後、切断して5×5cmサイズの試片を作製し、この試片を1重量%の炭素ソーダ水溶液現像液中に入れ、フィルムが完全に溶解するまでの時間を秒単位で測定する。
【0066】
粘着剥離強度試験
引張試験機(HT−9102型、弘達儀器(株)製品)を使用し、銅箔よりフィルムを剥離する際に必要とする引張力を測定し、その結果を表1に示す。
【0067】
はんだ溶接試験
焼付け後のフィルムを3×3cmサイズに裁断して試片を作製し、この試片を320℃のはんだ浴中に5分間放置した後に取り出して、フィルムと銅箔との間に膨張が発生したか否を調べ、試験に合格したか否を判定する。
【0068】
【表1】

上記の表1より、ポリイミドの合成の際、原料の単体として、本発明の−OH基と/または−COOH基の官能基を有するジアミンを用い、ジカルボン酸無水物と重合反応して得たポリイミド樹脂は、アルカリ性水溶液中で優れた溶解性を示し、かつ、これにより得たポリイミドフィルムは、比較例1と2のVA−1とVA−2と比較した場合、各種の物性について同様な結果を示すことが明らかとなり、これにより本発明のポリイミド樹脂は、アルカリ性水溶液を用いて現像することができるので、有機溶剤を必要とせず、工場での操作を改良し、環境保全の立場からも有利であることが判る。更に、ポリマー上に存在する−OH基と/又は−COOH基は、他の化合物と置換又は付加反応することができるので、樹脂の物性の改良に有用である。例えば、更に酸無水物と付加反応を行うことで、立体的な立体架橋構造を得ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)と式(II)により示される重複ユニットを有し、かつ、これらの重複ユニットはブロック又はランダム排列でも良い水溶性ポリイミド樹脂:
【化4】

上式中、Bは4価の有機基を示し、Rはフェニレン基であり、bは0.1、又は2の整数を示し、Aは−OH基と−COOH基より選ばれる基を示し、かつ、bが2である場合、これら複数のAは同じであっても良く、又、異なっていても良い。Zは下記の式により示された基であり、
【化5】

式中、RとRは同じであっても良く、異なっていても良い。それぞれ独自に炭素原子1〜6個を含むアルキレン基、炭素原子6〜20個を含むアリールレン基、アリールアルキレン基、アリールオキシアルキレン基を示し、n,xとyは1、又は1より大なる整数を示す。aとcは、それぞれ重複ユニットにおけるモル百分率を示し、かつ、aは50〜97モル%範囲であり、cは3〜50モル%範囲である。
【請求項2】
ゲル透過クロマトグラフィ法(GPC)により、ポリスチレン換算での数平均分子量(Mn)が約10,000〜300,000である請求項1に記載の水溶性ポリイミド樹脂。
【請求項3】
固有粘度(IV)が0.20〜0.95dL/gである請求項1に記載の水溶性ポリイミド樹脂。
【請求項4】
下記の式(I)と式(II)に示される重複ユニットを有する水溶性ポリイミド樹脂の製造方法。
【化6】

上式中、Bは4価の有機基を示し、Rはフェニレン基であり、bは0.1又は2の整数を示し、Aは−OH基と−COOH基より選ばれる基を示し、かつ、bが2である際、これら複数のAは同じであっても良く、又、異なっていても良い。Zは下記式に示す基であり、
【化7】

上式中、RとRは同じであっても良く、異なっていても良い。それぞれ独自に炭素原子1〜6個を含むアルキレン基、炭素原子6〜20個を含むアリールレン基、アリールアルキレン基、アリールオキシアルキレン基を示し、n,xとyは1に等しいか又は大なる整数を示し、aとcは、それぞれ重複ユニットにおけるモル百分率を示し、かつ、aは50〜97モル%範囲であり、cは3〜50モル%範囲である。その中、上記の重複ユニットはブロック又はランダム排列を示し、
その製造方法は下記工程より成る:
(a) テトラカルボン酸ジ酸無水物と、シロキサン官能基を有するジアミン、及びカルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミンとを反応させ、カルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するポリアミック酸前駆体を得る。そのうち、ジアミンの総モル当量に対するテトラカルボン酸ジ酸無水物のモル当量比は、テトラカルボン酸ジ酸無水物:ジアミン=1:0.8〜1:1.2であり、かつ、シロキサン官能基を有するジアミンと、カルボキシ基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミンとのモル比は3:97〜50:50である;
(b) 上記(a)で得たカルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するポリアミック酸前駆体を加熱環化して、式(I)と式(II)に示す重複ユニットを有するポリイミドを得る。
【請求項5】
(a) 工程において、先にシロキサン官能基を有するジアミンと、テトラカルボン酸ジ酸無水物とを、モル当量より過剰のテトラカルボン酸ジ酸無水物を用いて反応させ、次に、カルボンキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミンを添加して反応させる請求項4に記載の水溶性ポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
(a) 工程において、テトラカルボン酸ジ酸無水物とジアミンとの反応が室温から90℃の温度下で行われる請求項4に記載の水溶性ポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項7】
テトラカルボン酸ジ酸無水物が、2,2’-ジ(3,4−ジカルボキシルフェニル)ヘキサフルオロプロパンジ酸無水物、ピロメリト酸ジ酸無水物、4,4’−オキソジフタル酸無水物、3,3’
,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ酸無水物、3,3’ ,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ酸無水物、エチレンテトラカルボン酸ジ酸無水物、ブタンテトラカルボン酸ジ酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸ジ酸無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ酸無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ酸無水物、2,2−ジ(3,4−ジカルボキシルフェニルプロパンジ酸無水物、2,2−ジ(2,3−ジカルボキシルフェニル)プロパンジ酸無水物、ジ(3,4−ジカルボキシルフェニル)エーテルジ酸無水物、ジ(3,4−ジカルボキシルフェニル)スルホンジ酸無水物、1,1−ジ(2,3−ジカルボキシルフェニル)エタンジ酸無水物、ジ(2,3−ジカルボキシルフェニル)メタンジ酸無水物、ジ(3,4−ジカルボキシルフェニル)メタンジ酸無水物、4,4’−(パラフェニルジオキシ)ジフタル酸ジ酸無水物、4,4’−(メタ−フェニルジオキシ)ジフタル酸ジ酸無水物、2,3,6,7−ナフチルテトラカルボン酸ジ酸無水物、1,4,5,8−ナフチルテトラカルボン酸ジ酸無水物、1,2,5,6−ナフチルテトラカルボン酸ジ酸無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸ジ酸無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジ酸無水物、2,3,6,7−アンスリルテトラカルボン酸ジ酸無水物と1,2,7,8−フェナンスリルテトラカルボン酸ジ酸無水物からなる群より1種又は多種選ばれる請求項4に記載の水溶性ポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項8】
カルボキシル基と/又はヒドロキシル基官能基を有するジアミンが、3,5−ジアミノ−4−ヒドロキシベンゾイック酸、3,5−ジアミノサリチル酸と3,5−ジアミノベンゾイック酸からなる群より1種又は多種選ばれる請求項4に記載の水溶性ポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項9】
シロキサン官能基を有するジアミンが、1,3−ジ(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジ(4−アミノブチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジ(3−アミノプロピル)−1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルジシロキサン、1,3−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジ(3−アミノフェノキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジ(4−アミノフェノキシメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ポリシロキサンジアミン(Mw=900)からなる群より1種又は多種選ばれる請求項4に記載の水溶性ポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項10】
3,5−ジアミノ−4−ヒドロキシベンゾイック酸である化合物。
【請求項11】
3,5−ジアミノサリチル酸である化合物。
【請求項12】
下記成分(A)、(B)と(C)を含有する;
(A)請求項1に記載の水溶性ポリイミド樹脂;
(B)(メタ)アクリル酸単体稀釈剤;
(C)フォトイニシェーター;
そのうち、成分(A):(B)の重量比が100:10〜200;成分(C)のフォトイニシェーターが、成分(A)を100重量%とした場合、その含有比例が0.1〜15.0重量%である可溶性ポリイミド樹脂組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−144374(P2011−144374A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3003(P2011−3003)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(506253012)長春人造樹脂廠股▲ふん▼有限公司 (9)
【Fターム(参考)】