説明

新規ペプチド

【課題】高いα−MSH阻害作用を有し、尚且つ安全性の高い優れた新規素材の提供。
【解決手段】式(I):Arg−Pro−Phe−Pheで表されるペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩。また、式(II):Arg−Gly−Pro−Phe−Pheで表されるペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩。更に、前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩を含む組成物。新規ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩は、α−MSHの作用を阻害することができ、それによりメラニン生成を抑制して、皮膚に美白効果をもたらすため等に有益に利用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアミノ酸配列を有する新規ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩、並びにそれらに関連する発明に関する。本発明の新規ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩は、メラノサイト刺激ホルモン(α−Melanocyte Stimulating Hormone;α−MSH)の作用を阻害し、メラニン生成を抑制して、皮膚に美白効果をもたらすためなどに利用され得る。
【背景技術】
【0002】
シミやソバカスは、人の肌の大きな悩みとなっており、シミは早ければ10代で現れ、50代では殆どの人にシミがあると言われている。このようなシミなどの症状を予防・改善するための美白剤の開発は、アンチエイジングへの人々の意識が高まっているなか、特に重要である。
【0003】
そして実際、数多くの美白用化粧料などが研究開発され、市場に多数出回っている。そうした美白剤の成分の作用機構は様々であるが、現在市場に出ている美白剤の多くは、メラノサイトにおけるチロシナーゼ活性阻害をターゲットとしたものが主となっている。
【0004】
メラノサイト刺激ホルモン(α−Melanocyte Stimulating Hormone;α−MSH)は、皮膚表皮角化細胞が産生し、その産生量は紫外線照射により大きく上昇することが知られている。そしてα−MSHは、皮膚にあるメラノサイト膜上のメラノコルチン1レセプター(Melanocortin 1 receptor;MC1R)に結合して、メラノサイト細胞内でメラニンの生合成酵素であるチロシナーゼを活性化し、黒色メラニンの生成を促進させることが周知である。従って、α−MSHのレセプターへの結合を阻害することによって、メラノサイト内におけるチロシナーゼ活性は抑制され、メラニンの生成が抑制されることとなる。
【0005】
このようにα−MSHの作用を阻害することによって、メラニン生成を抑制し、美白効果を得る試みが近年なされつつある。こうしたα−MSH阻害剤としては、例えばマメ科クララ(苦参)のエッセンス(特許文献1)、茶(Thea Sinensis L.)抽出物(特許文献2)などが提案されている。しかし、植物エキス等の従来のα−MSH阻害剤は、皮膚への浸透性や効果の再現性などの面から十分な効果を与えるものとは言い難いものであった。そのため、より確実に高いα−MSH阻害効果を有し、尚且つ安全性の高い新規素材の開発が望まれていた。またそのような新規素材は、低分子で皮膚浸透性が高く、製造が容易で、製剤化したときの溶解性や安定性にも優れるものであることが強く望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2004-2433号公報
【特許文献2】特開2003-183175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題に鑑み、高いα−MSH阻害作用を有し、尚且つ安全性の高い優れた新規素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のアミノ酸配列を有する新規ペプチドが、高いα−MSH阻害作用を有し、尚且つ安全性の高い優れた新規素材として利用され得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って、本発明は以下を提供する。
(1) 式(I):Arg−Pro−Phe−Phe(配列番号1)で表されるペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩。
(2) 式(II):Arg−Gly−Pro−Phe−Phe(配列番号2)で表されるペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩。
(3) 項目(1)または(2)に記載のペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩を含む組成物。
(4) α−MSHの作用を阻害するために用いられ得る、項目(3)に記載の組成物。
(5) 美白用に用いられ得る、項目(3)または(4)に記載の組成物。
(6) 皮膚外用剤として用いられ得る、項目(3)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
(7) 項目(1)または(2)に記載のペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩、あるいは項目(3)〜(6)のいずれかに記載の組成物を用いて、α−MSHの作用を阻害する方法。
(8) α−MSHの作用を阻害するための組成物の製造のための、項目(1)または(2)に記載のペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩の使用。
(9) 項目(1)または(2)に記載のペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(10) 項目(1)または(2)に記載のペプチドをコードする塩基配列に対するアンチセンス配列からなるポリヌクレオチド。
(11) 項目(9)及び/又は(10)記載のポリヌクレオチドを含む、プラスミド。
(12) 項目(9)及び/又は(10)記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
(13) 項目(9)及び/又は(10)記載のポリヌクレオチドを含む、形質転換体。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高いα−MSH阻害作用を有する新規素材が提供される。また本発明のペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩は、細胞に作用させても細胞数を減少させないことが示されている。従って、本発明により、α−MSH阻害作用を有し、かつ細胞毒性を示さずに安全に使用され得る新規ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩が提供される。
また、本発明により提供される新規ペプチドは、短鎖の直鎖ペプチドであり、低分子であるため、皮膚浸透性が高く、製造も容易で、尚且つ製剤化したときの溶解性や安定性にも優れる点で非常に有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたって、単数形の表現は、特に他に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書中において使用される用語は、特に他に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられていることが理解されるべきである。
【0012】
本発明は、下記式(I)または(II)で表されるペプチド、もしくはその誘導体またはそれらの塩を提供する。
式(I):Arg−Pro−Phe−Phe(一文字略記:RPFF、配列番号1);
式(II):Arg−Gly−Pro−Phe−Phe(一文字略記:RGPFF、配列番号2)。
【0013】
本明細書中において、「ペプチドの誘導体」とは、例えば、ペプチドをアセチル化、パルミトイル化、ミリスチル化、アミド化、アクリル化、ダンシル化、ビオチン化、リン酸化、サクシニル化、アニリド化、ベンジルオキシカルボニル化、ホルミル化、ニトロ化、スルフォン化、アルデヒド化、環状化、グリコシル化、モノメチル化、ジメチル化、トリメチル化、グアニジル化、アミジン化、マレイル化、トリフルオロアセチル化、カルバミル化、トリニトロフェニル化、ニトロトロポニル化、またはアセトアセチル化した誘導体等をいう。
【0014】
本明細書中において、「塩」とは、ペプチドまたはその誘導体の薬理学的に許容される任意の塩(無機塩および有機塩を含む)をいい、例えば、ペプチドまたはその誘導体のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩、蟻酸塩、安息香酸塩、ピクリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等)等が挙げられ、好ましくは、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩およびトリフルオロ酢酸塩であり、より好ましくはアンモニウム塩、酢酸塩およびトリフルオロ酢酸塩である。
【0015】
本発明のペプチドは、当該分野で公知の方法により作製され得る。例えば、本発明のペプチドは、化学合成方法(例えば、固相法(例えば、Fmoc法)、液相法等)により合成されてもよく、また遺伝子組換え発現等の方法により作製されてもよい。なお本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、L−体であってもD−体であってもよいが、好ましくはL−体である。
【0016】
さらに本発明のペプチドは、目的のアミノ酸配列を含むタンパク質のアミノ酸配列中から、目的のアミノ酸配列からなるペプチドをプロテアーゼ処理等の公知の手段によって切り出すことによっても調製され得る。例えば、RPFF配列を含むタンパク質としては、以下の表1に示すようなタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
【表1】

【0018】
当業者は、プロテアーゼの配列特異性等を考慮して、目的のアミノ酸配列を含むタンパク質のアミノ酸配列中から、目的のアミノ酸配列からなるペプチドを切り出すために適切なプロテアーゼを適宜選択し得る。またタンパク質をプロテアーゼで加水分解する場合に用いられる反応条件は、特に制限されず、技術常識に従って当業者により適宜選択され得る。プロテアーゼによる加水分解処理後には、必要に応じ、当該分野で公知の手段によって精製することにより、目的のペプチドを精製することができる。
【0019】
このように、天然のタンパク質をプロテアーゼで加水分解して得られるペプチドは、化学合成方法で製造する場合よりもコスト面から有利となる。さらに、天然のタンパク質をプロテアーゼで加水分解して得られるペプチドは、生体に対してより安全であると考えられる。従って、このようにして得られたペプチドは、生体への適用に対しより高い安全性が求められる内服剤や食品、敏感肌用化粧料、飼料などに好適に使用され得る。
【0020】
本発明のペプチドの誘導体は、当該分野で公知の任意の方法により、当業者によって容易に作製され得る。
【0021】
本発明のペプチドの塩もまた、当該分野で公知の任意の方法により、当業者によって容易に作製され得る。
【0022】
本発明には、上記の特定配列を有するペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩のいずれもが用いられ得るが、より確実に高い本願効果を得るためには、好ましくはペプチドまたはその塩が用いられ、特に好ましくはペプチドが用いられる。
【0023】
以上のようにして得られた本発明のペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩は、α−MSHの作用を阻害するために、ひいては生体内でメラノサイトにおけるメラニン生成を抑制し、皮膚に美白効果をもたらすためなどに使用することができる。
【0024】
またα−MSHは、皮膚真皮中にある線維芽細胞に作用し、真皮コラーゲンを分解して皮膚老化に大きな影響を与えるマトリックスメタロプロテアーゼ−1(Matrix metalloproteinase-1;MMP−1)の産生を促進する作用があることが示唆されている。従って、本発明のペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩は、かかるα−MSHの作用を阻害して、線維芽細胞におけるMMP−1の産生を抑制し、真皮コラーゲンの分解を抑制して皮膚のシワ形成などを予防・改善・治療するためにも使用され得る。
【0025】
さらにα−MSHは、MC1Rに対してのみならず、同じレセプターファミリーのMC2R〜MC5R(即ち、副腎皮質細胞で発現して、ストレス応答性のステロイド産生に関わるMC2R;脳や胎盤、腸、弓状核、室傍核ニューロンで発現して、インスリンの調節等を主に行うMC3R;脳や弓状核、室傍核ニューロンで発現して、体重恒常性の調節やインスリンの調節等を主に行うMC4R;脳や脂肪細胞、筋肉、外分泌腺で発現して、外分泌腺機能の調節を主に行うMC5R)に対しても、リガンドとして働くことが知られている。従って、本発明のペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩は、これらのレセプターに対してもアンタゴニストとして作用し、シグナル伝達を調節し得ると考えられる。
【0026】
本発明はまた、前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩を含むことを特徴とする組成物を提供する。かかる特徴を有することにより、該組成物は例えば、医薬組成物、食品組成物、化粧料または飼料として、さらにα−MSHに関連する生理状態の解明のための研究試薬として好適に使用され得る。
【0027】
医薬組成物としては、例えば、ヒトをはじめとする哺乳動物におけるα−MSHの作用に起因する疾患の予防剤及び/又は治療剤等が挙げられる。具体的には、本発明の組成物は、例えば、メラノサイトのMC1Rに対するα−MSH作用阻害によるメラニン生成抑制を機序として、紫外線による色素沈着、肝斑、雀卵斑、老人性色素斑、炎症後色素沈着、脂漏性角化症などの予防剤及び/又は治療剤として、或いは美白剤として、また、線維芽細胞などのMC1Rに対するα−MSH作用阻害によるMMP−1産生抑制を機序として、紫外線曝露、加齢等による皮膚のシワもしくはタルミの予防剤及び/又は治療剤として或いは皮膚の弾力性、保湿性、もしくはハリの低下に対する予防剤及び/又は治療剤として、更に、副腎皮質細胞などに発現しているMC2Rに対するα−MSH作用阻害を機序として免疫不全症・異常症の予防剤及び/又は治療剤として、脂肪細胞などに発現しているMC4R及び/又はMC5Rに対するα−MSH作用阻害を機序として食欲調節剤などとして使用され得る。
【0028】
化粧料としては、例えば、ヒトをはじめとする哺乳動物におけるα−MSHの作用に起因する状態の予防剤及び/又は改善剤等が挙げられる。具体的には、本発明の組成物は、例えば、メラノサイトのMC1Rに対するα−MSH作用阻害によるメラニン生成抑制を機序として、紫外線による色素沈着や、シミ・ソバカス・くすみの生成などの予防剤及び/又は改善剤として、或いは美白剤として、更に線維芽細胞などのMC1Rに対するα−MSH作用阻害によるMMP−1産生抑制を機序として、紫外線曝露、加齢等による皮膚のシワもしくはタルミの予防剤及び/又は改善剤として或いは皮膚の弾力性、保湿性、もしくはハリの低下に対する予防剤及び/又は改善剤として使用され得る。
【0029】
食品組成物としては、例えば、ヒトをはじめとする哺乳動物におけるα−MSHの作用に起因する状態の予防用及び/又は改善用の食品等が挙げられる。具体的には、本発明の組成物は、例えば、メラノサイトのMC1Rに対するα−MSH作用阻害によるメラニン生成抑制を機序として、紫外線による色素沈着や、シミ・ソバカス・くすみの生成などの予防用又は改善用の食品として、或いは美白用食品として、また、線維芽細胞などのMC1Rに対するα−MSH作用阻害によるMMP−1産生抑制を機序として、紫外線曝露、加齢等による皮膚のシワもしくはタルミの予防用又は改善用の食品として或いは皮膚の弾力性、保湿性、もしくはハリの低下に対する予防用又は改善用の食品として、更に、副腎皮質細胞などに発現しているMC2Rに対するα−MSH作用阻害を機序として免疫不全・異常の予防用及び/又は改善用の食品として、脂肪細胞などに発現しているMC4R及び/又はMC5Rに対するα−MSH作用阻害を機序として食欲調節用の食品などとして使用され得る。特定の実施形態において、本発明の食品組成物は、上記のような用途に用いられるものである旨の表示を付した食品として提供され得る。
【0030】
飼料としては、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ、ウマ等の家畜や、イヌ、ネコ等のペット動物におけるα−MSHの作用に起因する状態の予防用及び/又は改善用の飼料等が挙げられる。具体的には、本発明の組成物は、ペット動物などの毛色を変色させるための飼料などとして提供され得る。
【0031】
本組成物中の前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩の含有量は、ペプチド等の種類、組成物の剤型等によっても異なるが、一般には、高い本願効果を得る観点から、0.00001〜80重量%、好ましくは0.0001〜70重量%、より好ましくは0.001〜50重量%、さらに好ましくは0.001〜20重量%、さらにより好ましくは0.01〜10重量%、さらにより好ましくは0.05〜10重量%、さらにより好ましくは0.12〜10重量%である。
【0032】
本発明の組成物は、前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩の他に製剤分野や食品分野等において通常使用される担体、基剤、および/または添加剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合して調製することができる。
【0033】
一態様において、本発明の組成物は、前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩が、例えば0.05重量%以上、好ましくは0.08重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上となるようにいったん精製されたものを、前記含有量になるように配合することにより、調製され得る。
【0034】
担体としては、例えば、糖類(例えば、マンニトール、乳糖、デキストラン等)、セルロース類(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、結晶性セルロース等)、水難溶性ガム類(例えば、アラビアガム、トラガントガム等)、架橋ビニル重合体、脂質類等が1種または2種以上組み合わせて用いられ得る。
【0035】
基剤としては、例えば、水、油脂類、鉱物油類、ロウ類、脂肪酸類、シリコーン油類、ステロール類、エステル類、金属石鹸類、アルコール等が1種または2種以上組み合わせて用いられ得る。
【0036】
添加剤としては、例えば、界面活性剤、可溶化成分、乳化剤、油分、安定化剤、増粘剤、防腐剤、結合剤、滑沢剤、分散剤、pH調整剤、保湿剤、紫外線吸収剤、キレート剤、経皮吸収促進剤、抗酸化剤、崩壊剤、可塑剤、緩衝剤、ビタミン類、アミノ酸類、着色剤、香料等が1種または2種以上組み合わせて用いられ得る。
【0037】
さらに本発明の組成物には、必要に応じて更なる有用な作用を付加するために、他の美白成分や、抗炎症成分、抗菌成分、細胞賦活化成分、収斂成分、抗酸化成分、ニキビ改善成分、生体成分合成促進成分、血行促進成分、保湿成分、老化防止成分等の各種成分が1種または2種以上組み合わせて配合されてもよい。
【0038】
本発明の組成物は、外用剤(化粧料を含む)、内服剤(食品および飼料を含む)等の任意の剤型であり得るが、皮膚の症状に対してより直接的に高い効果を発揮させるためには、好ましくは外用剤として使用され得る。
【0039】
外用剤としては、例えば、液状、乳液状、クリーム状、ローション状、ペースト状、ムース状、ジェル状、シート状(基材担持)、エアゾール状、スプレー状等の任意の形態で使用され得る。
【0040】
化粧料としては、例えば、ローション、乳液、クリーム、オイル、パック等の基礎化粧料、またファンデーション、頬紅、口紅等のメーキャップ化粧料、さらに洗顔料、クレンジング、ボディ洗浄料等の洗浄料、入浴剤等の任意の形態で使用され得る。
【0041】
内服剤(食品および飼料を含む)としては、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゲル剤、リポソーム剤、エキス剤、チンキ剤、レモネード剤、ゼリー剤等の任意の形態で使用され得る。
【0042】
また本発明の食品組成物は、食品衛生上許容される配合物を混合して、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品等に加工して利用することができる。さらに食品とする場合には、パン、麺、惣菜、食肉加工食品(例えば、ハム、ソーセージなど)、水産加工食品、調味料(例えば、ドレッシングなど)、乳製品、菓子(例えば、ビスケット、キャンディー、ゼリー、アイスクリームなど)、スープ、ジュースなどの任意の一般の食品形態としても提供され得る。このような形態にする場合、本発明のペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩は、目的とする食品の性質等に依存して、当業者に公知の方法により適宜配合され得る。
【0043】
飼料としては、任意の形態で使用され得るため、特に限定は無い。
【0044】
本発明はさらに、前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩、あるいは前記組成物を用いることを特徴とする、α−MSHの作用を阻害する方法を提供する。
【0045】
本発明の方法においては、前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩、あるいは前記組成物を、α−MSHの作用を阻害して所期の効果が得られる有効量以上用いればよい。
【0046】
すなわち、本発明の方法における前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩の使用量は通常、外用剤の場合には、成人1人体重約50kgあたり好ましくは約0.1μg〜2g/日である。また、内服剤の場合における当該使用量は通常、成人1人体重約50kgあたり好ましくは約0.001〜10000mg/日、より好ましくは約1〜1000mg/日、さらに好ましくは約1〜100mg/日である。
【0047】
本発明の方法は、さらに前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩あるいは前記組成物を皮膚に適用する工程を含んでいてもよい。この場合の前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩の皮膚への適用量は、好ましくは約1ng〜500μg/cm2、より好ましくは約0.01〜50μg/cm2、さらに好ましくは約0.1〜10μg/cm2である。
【0048】
本発明はさらに、α−MSHの作用を阻害するための組成物、好ましくは外用剤として使用され得る組成物の製造のための、前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩の使用を提供する。
【0049】
前記ペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩の使用量は、前記組成物中の含有量となるように使用すればよい。
【0050】
本発明はさらに、前記ペプチドをコードする塩基配列からなることを特徴とするポリヌクレオチドを提供する。
【0051】
本発明のポリヌクレオチドは、前記ペプチドをコードする限り、特に限定されない。当業者は、RPFFまたはRGPFFをコードするポリヌクレオチドを、遺伝暗号表に従い、コドン使用頻度等を考慮して容易に選択し得る。
【0052】
本発明のポリヌクレオチドは、当該分野で公知の方法により作製され得る。例えば、市販のDNA合成機(例えばAppliedBiosystems3400DNA合成機、AppliedBiosystems社製)を用いて作製することができる。
【0053】
本発明はさらに、前記ペプチドをコードする塩基配列に対するアンチセンス配列からなることを特徴とするポリヌクレオチドを提供する。かかるポリヌクレオチドもまた、前述と同様にして作製することができる。
【0054】
本発明のポリヌクレオチドは、遺伝子組換え技術により前記ペプチドを発現させるために、または遺伝子治療等において、あるいはα−MSHに関連する生理状態の解明のための研究試薬として利用することができる。
【0055】
さらに、かかるポリヌクレオチドを使用することにより、以下に述べる本発明のプラスミドまたは発現ベクターを作製することができる。
【0056】
本発明はさらに、前記ポリヌクレオチドを含むことを特徴とするプラスミドを提供する。
【0057】
本発明のプラスミドは、特に限定されないが、例えばpBR系プラスミド、pUC系プラスミド等の公知のプラスミドに、一般的な分子生物学的実験手法を使用して本発明のポリヌクレオチドを組込んで作製できる。
【0058】
本発明はさらに、本発明のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする発現ベクターを提供する。
【0059】
本発明の発現ベクターは、特に限定されないが、例えばpcDNA3、pSD64、λファージベクター等の公知のベクターに、一般的な分子生物学的実験手法を使用して本発明のポリヌクレオチドを発現可能な状態で組込んで作製できる。
【0060】
以上のようにして得られたプラスミドまたは発現ベクターを使用することにより、以下に述べる形質転換体を作製することができる。
【0061】
本発明はさらに、前記ポリヌクレオチドを含むことを特徴とする形質転換体を提供する。
【0062】
本発明の形質転換体は、前記プラスミドまたは発現ベクターを所望の宿主に導入すること、または前記ポリヌクレオチドを直接宿主の染色体に組込むこと等により得ることができる。宿主としては特に限定されず、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等を使用することができる。発現ベクターを宿主へ導入する方法としては、例えばカルシウム処理法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法等の公知の方法を用いればよい。
【0063】
以上のようにして得られた形質転換体を適当な条件下で培養して前記ペプチドを発現させ、これを精製することにより、前記ペプチドを得ることもできる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0065】
実施例1:ペプチドの調製
1−1.ペプチドの合成
(1)Arg−Pro−Phe−Phe(一文字略記:RPFF、配列番号1);
(2)Arg−Gly−Pro−Phe−Phe(一文字略記:RGPFF、配列番号2)
上記2種のペプチドを、ペプチド自動合成装置(Applied Biosystems製, Peptide Synthesizer, ABI 433A)をその使用説明書に従って使用し、Fmoc法による固相合成法により合成した。
次いで、分取HPLCで未反応物を除去して精製することにより、被験ペプチドを調製した。
【0066】
1−2.合成ペプチドの純度検定
得られた精製物を、それぞれ分析用逆相高速液体クロマトグラフィー[カラム:Inertsil ODS−3 (内径: 4.6mm、長さ: 250mm) 、GL Sciences社製、;移動相:溶媒A(0.1%トリフルオロ酢酸水溶液)および溶媒B(0.1%トリフルオロ酢酸、100%アセトニトリル)のグラジエント(0分(溶媒B=10%)〜40分(溶媒B=50%));流速:1.0ml/分;検出法:波長 220nmにおける吸光度]に付したところ、RPFFペプチドについては21.1分、RGPFFペプチドについては22.2分に単一の鋭いピークが示され、純度は共に95%以上の高純度であることが確認された。
【0067】
実施例2:B−16 F10メラノーマ細胞を用いた、メラニン生成抑制効果測定試験
対数増殖期にあるB−16 F10メラノーマ細胞(ATCC No. CRL-6475)を0.25%トリプシン溶液(GIBCO製)で処理して細胞剥離を行った後、D‐MEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium(GIBCO製)に、10%FCSを添加し、更にAntibiotic−Antimycotic(×100)(GIBCO製)を1/100希釈して添加した培地)に入れ、1000rpm、5分間遠心して細胞の回収を行った。培地を吸引し、新しい培地に交換した後、その一部をトリパンブルーで染色して生細胞数をカウントした。次いで、細胞を6ウェルプレートに6×104細胞/ウェルで播種した。培地は上記D-MEM培地を用い、各ウェル3mlずつ使用した。次いで、37℃で5%炭酸ガスおよび95%空気の環境下で1日間培養を行った。1日間の培養後、実施例1で調製した各被験ペプチド及びメラノサイト刺激ホルモンα−MSH(Sigma社製)を、それぞれ下記の表2の濃度になるように添加した培地3mlに交換して、更に2日間培養を行った。また別途コントロールとして、被験ペプチドもα−MSHも添加しないD-MEM培地のみを添加したウェル(コントロール1)、及び被験ペプチドを添加せずにα−MSHのみを添加したD-MEM培地を添加したウェル(コントロール2)についても同様に2日間培養を行った。
【表2】

【0068】
2日間の培養後、メラニン生成抑制効果の確認を行った。まず、6ウェルプレートから培地を吸引除去し、細胞数をCell Counting Kit-8(DOJINDO)により測定した。その後、プレートをHBSS(-)で2回リンスし、4N NaOH 350μlを各ウェルに添加し、60℃で2時間処理をして、メラノサイト内からメラニンを溶解した。各ウェルから採取された溶解液150μlについて、マイクロプレートリーダーを用いAbs(吸光度)を測定した。メラニン生成抑制率は下記の[式1]により算出した。
【0069】
[式1] メラニン生成抑制率(%)=A1×100/A2
ここで、A1は被験ペプチド及びα−MSHを共に添加した各ウェルの吸光度(450nm);A2はコントロール2の吸光度(450nm)を表す。
【0070】
この結果を、図1に示す。図1に示されるように、本願ペプチドは、α−MSHの添加により上昇したメラノサイトのメラニン生成を、濃度依存的に顕著に抑制することが明らかとなった。よって本願ペプチドは、高いα−MSH阻害作用を有し、α−MSHに起因するメラニン生成を抑制して、皮膚に美白効果をもたらすためなどに用いられ得ることが認められた。
【0071】
さらに、細胞数に関しても解析を行った。Cell Counting Kit-8(DOJINDO)を用いて測定されたWST-8活性について、その活性率(%)を、下記の[式2]により算出した。
【0072】
[式2] WST-8活性率(%)=A1×100/A2
ここで、A1は被験ペプチド及びα−MSHを共に添加した各ウェルの吸光度(450nm-620nm);A2はコントロール2の吸光度(450nm-620nm)を表す。[450nmは測定波長であり、620nmは参照波長である]。
【0073】
この結果、被験ペプチドの添加により細胞数に大きな減少は認められず、本願ペプチドが細胞毒性を有さず、安全に使用され得るものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、メラニン生成抑制効果に関する測定結果を示すグラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0075】
配列表の配列番号1は、本発明のペプチドである。
配列表の配列番号2は、本発明のペプチドである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):Arg−Pro−Phe−Phe(配列番号1)で表されるペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩。
【請求項2】
式(II):Arg−Gly−Pro−Phe−Phe(配列番号2)で表されるペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩。
【請求項3】
請求項1または2に記載のペプチドもしくはその誘導体またはそれらの塩を含む組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155305(P2009−155305A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338651(P2007−338651)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】