説明

新規ポリアミド酸、ポリイミド並びにその用途

【課題】回路材料として有用な、透明性が高く、耐反り性に優れかつ低沸点の有機溶剤に可溶な、また低温でイミド化可能なポリイミド樹脂およびその前駆体であるポリアミド酸を得る。
【解決手段】構成単位として下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と
【化1】


下記一般式(2)で表されるジアミン(I)と
【化2】


(式中、RはC1〜C4のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、イミノ基から選ばれた2価の結合基を示し、nは、0または1を表す。)を必須成分として含むことを特徴とする新規なポリアミド酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ポリイミドおよびその前駆体であるポリアミド酸に関するものである。さらに該ポリイミドおよびポリアミド酸を用いたフィルム、接着剤に関する。また、それらのフィルムまたは接着剤から得られる積層板および該積層板を用いて得られる回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミドは一般にジアミンとテトラカルボン酸二無水物を溶媒中で反応させてポリアミド酸を生成し、これを脱水閉環する等の方法で得られている。こうして得られるポリアミド酸およびポリイミドの特性は用いるジアミン、テトラカルボン酸二無水物の選択と、これらの組合せで定まり、耐熱性に優れるもの、寸法安定性に優れるもの等、種々知られている。その中で、テトラカルボン酸二無水物として芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いたポリイミドの多くは、優れた耐熱性及び機械特性を有しており、耐熱性に優れている反面、不溶不融である、極めて融点が高いなど加工性の点で課題を有する場合もあり、決して使いやすい材料とはいえない
近年ポリイミドは、回路材料として絶縁層、表面保護層などにも使用されているが、一般にこれらは有機溶剤に可溶な前駆体であるポリアミド酸を基材に塗布し、加熱処理によって溶剤を除去すると共にイミド化を進めていることで用いられることが多い。この時に用いる酸アミド系溶剤は高沸点であり、皮膜の発泡の原因になることがある。また完全に溶媒を揮散させるために250℃以上の高温乾燥工程を必要とし、汎用のプロセスでの加工しにくいという問題がある。さらに芳香族のポリイミドではそれら高温の加工プロセス中での含有不純物の酸化劣化、電荷移動錯体(CT錯体)といわれる錯体の分子内、分子間での形成などから外観は褐色に着色していることが多い。
【0003】
また、ポリイミドは種々の分野へ応用されるようになってきており、電子機器の様々な部位に用いられるようになっている。用途としても、半導体実装材料、回路のベース材料のほか、部品や回路を保護するフィルム、あるいは様々な電子部品や回路材料を接着する接着剤としての用途など多岐にわたる。それら多岐にわたる用途のなかで、従来から要求されている耐熱性や絶縁性に加え、近年は透明性や、低い温度での加工性などの特性が要求されてきている。
【0004】
更に、従来の芳香族ポリイミド材料は耐熱性を向上するために剛直な骨格をもつため、イミド化後の収縮によりフィルムにした際反りが大きいなどの問題があり、これらを解決できるような新規ポリイミドの開発が望まれていた。
【0005】
低温での加工性と低着色性を併せ持つポリイミド前駆体については特許文献1に開示されている。特許文献1では比較的低温で加工可能な低着色性のポリイミドを供するために前駆体溶液に別の化合物を混合することで解決を図っている。しかしこれは他の化合物を用いて希釈することでポリイミド本来の骨格が持つ性質の発露を抑制しているに過ぎず、問題の本質的な解決には至っていない。また特許文献2〜4で低温加工可能で低反り性を有するポリイミドが提案されているものの、その性能は不十分であった。一方透明性で反りのないポリイミドが特許文献5で開示されているが、これは300℃以上の高温での加工が必要であり、満足できるものではない。
【特許文献1】特開平9-012883号公報
【特許文献2】特開2002-145981号公報
【特許文献3】特開2005-36025号公報
【特許文献4】特開2005-154502号公報
【特許文献5】特開2004-149724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透明性が高く、耐反り性に優れ、かつ低沸点の有機溶剤に可溶な、また低温でイミド化可能なポリイミド樹脂およびその前駆体であるポリアミド酸を得るべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造のポリイミド樹脂が上記課題を解決することを見出し、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(A)構成単位として下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と
【0008】
【化1】

【0009】
下記式(2)で表されるジアミン(I)と、
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、RはC1〜C2のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、イミノ基から選ばれた2価の結合基を示し、nは、0または1を表す。)を必須成分として含むことを特徴とする新規なポリアミド酸。
(B)構成単位として下記式(1)で表される酸二無水物と、
【0012】
【化3】

【0013】
下記式(2)で表されるジアミン(I)と
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、RはC1〜C2のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、イミノ基から選ばれた2価の結合基を示し、nは、0または1を表す。)、
その他のジアミン(II)として下記式(3)で表されるジアミン、
【0016】
【化5】

【0017】
を必須成分として含むことを特徴とする新規なポリアミド酸。
(C)(A)または(B)のポリアミド酸であって、
ジアミン(I)のアミノ基のモル数xとその他のジアミン(II)のアミノ基の総モル数yの比(x:y)が100:0から35:65までの範囲内であることを特徴とする新規なポリアミド酸。
(D)(A)〜(C)のポリアミド酸であって、
酸二無水物の酸無水物の総モル数aとジアミンのアミノ基のモル数の和b(b=x+y)の比(a:b)が0.8:1から1.25:1までの範囲内であることを特徴とする新規なポリアミド酸。
(E)(A)〜(D)のポリアミド酸のアミド酸の一部または全部がイミド化したポリイミド。
(F)(A)〜(D)のポリアミド酸および/または(E)のポリイミドを含むことを特徴とするフィルム。
(G)(A)〜(D)のポリアミド酸および/または(E)のポリイミドを含むことを特徴とする接着剤。
(H)(F)のフィルム層を含むことを特徴とする積層板。
(I)(G)の接着剤層を含むことを特徴とする積層板。
(J)(H)および/または(I)の積層板からなる回路基板。
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、耐反り性・耐屈曲性に優れ、かつ低沸点の有機溶剤に可溶で成形加工性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明のポリアミド酸は、原料として4,4'-オキシジフタル酸二無水物(下記式(1))で
【0021】
【化6】

【0022】
を用いることを必須とする。4,4’-オキシジフタル酸二無水物としては特に制限はないが、純度が高いものを用いた方がポリアミド酸およびポリイミドとして高分子量のものを得やすいため好ましい。具体的には閉環率98%、より好ましくは99%以上のものが好ましい。
【0023】
本発明のポリアミド酸は上記のテトラカルボン酸二無水物のほかに、公知の酸二無水物を効果を損なわない範囲で併用してもよい。その例としては1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられ、一般にポリイミドの原料として用いられるテトラカルボン酸二無水物を使用することができる。その量は使用する全テトラカルボン酸二無水物のうち50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
【0024】
本発明のポリアミド酸は、原料のジアミンとして下記一般式(2)で表されるジアミンを含有するものである。
【0025】
【化7】

【0026】
(式中、RはC1〜C2のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、イミノ基から選ばれた2価の結合基を示し、nは、0または1を表す。)
一般式(2)で表されるジアミン化合物の具体例としては、nが1である場合、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,2]オクタン、2,5−ビス(アミノメチル)−7,7−ジフルオロビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−7,7,8,8−テトラフルオロビシクロ[2,2,2]オクタン、2,5−ビス(アミノメチル)−7−オキサビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−7−チアビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−7−オキソビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−7−アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,2]オクタン、2,6−ビス(アミノメチル)−7,7−ジフルオロビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−7,7,8,8−テトラフルオロビシクロ[2,2,2]オクタン、2,6−ビス(アミノメチル)−7−オキシビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−7−チオビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−7−オキソビシクロ[2,2,1]ヘプタン、および2,6−ビス(アミノメチル)−7−イミノビシクロ[2,2,1]ヘプタンであり、nが0の場合、2,5−ジアミノビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ジアミノビシクロ[2,2,2]オクタン、2,5−ジアミノ−7,7−ジフルオロビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ジアミノ−7,7,8,8−テトラフルオロビシクロ[2,2,2]オクタン、2,5−ジアミノ−7−オキサビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ジアミノ−7−チアビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ジアミノ−7−オキソビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ジアミノ−7−アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ジアミノビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ジアミノビシクロ[2,2,2]オクタン、2,6−ジアミノ−7,7−ジメチルビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ジアミノ−7,7−ジフルオロビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ジアミノ−7,7,8,8−テトラフルオロビシクロ[2,2,2]オクタン、2,6−ジアミノ−7−オキシビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ジアミノ−7−チオビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ジアミノ−7−オキソビシクロ[2,2,1]ヘプタン、および2,6−ジアミノ−7−イミノビシクロ[2,2,1]ヘプタンである。ただし、nが1である場合のアミノメチル基、およびnが0である場合のアミノ基の立体異性体は区別せず同一のものとする。また、それらの置換位置は2,5位と2,6位の2種類あるが、本発明ではそれらを区別せず混合したものを1種類として扱う。従って一般式(2)で示される脂肪族ジアミンの純度は、立体異性体および置換位置異性体を区別せず、それらを合計した値である。
【0027】
また純度が高いものを用いた方がポリアミド酸およびポリイミドとして高分子量のものを得やすい。純度としては好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは99.5%以上である。
【0028】
本発明のポリアミド酸は、更にその他のジアミン(II)として下記式(3)で表される1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)を用いることも好ましい態様である。
【0029】
【化8】

【0030】
1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンとしては特に制限はないが、純度が高いものを用いた方がポリアミド酸およびポリイミドとして高分子量のものを得やすい。純度としては好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98.5%以上である。
【0031】
本発明のポリアミド酸では上記の二種類のジアミンのほかにさらにその他のジアミン(II)として以下のものを使用しても良い。併用して用いる好ましいジアミンの例としては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、シロキサンジアミンなどが挙げられる。芳香族ジアミンの例としては4,4’−ジアミノジフェニルエーテルや4,4’−ジアミノベンゾフェノンなどポリイミド合成に一般的なジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミンの例としてはヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン等、ポリオキシアルキレンジアミン等が挙げられる。これらのジアミンについては本発明のポリアミド酸の特性を変化させない範囲(通常全ジアミンの添加量中、30重量%以下)で使用することができる。
【0032】
本発明のポリアミド酸を得る場合に、ジアミン(I)のアミノ基のモル数xとその他のジアミン(II)のアミノ基の総モル数yの比(x:y)としては100:0から35:65までの範囲内であることが好ましい。さらに好ましくは100:0から50:50の範囲内であることが好ましい。さらに好ましくは90:10から60:40の範囲が好ましい。これらの範囲である場合、本発明のポリアミド酸をイミド化して得られるポリイミドに十分な透明性・柔軟性を持たせることができる。この範囲外である場合、得られるポリイミドの耐反り性や耐屈曲性が十分とならない場合がある。
【0033】
本発明のポリアミド酸を得る場合に、ジアミン(I)のノルボルネン部分が芳香環等のポリマーセグメントに比較して透明性の高いセグメントとして作用する。ノルボルネン部を含むジアミンの量が十分である場合、透明性が高い良好なポリイミドを供するが、一方多すぎると脆く耐屈曲性が劣るポリイミドを供することとなる。そのためジアミン(I)の重量としてはポリアミド酸の重量に対して10重量%から70重量%の範囲であることが望ましい。さらに好ましくは30重量%から60重量%の範囲であることが望ましい。
【0034】
本発明のポリアミド酸は、酸二無水物の酸無水物の総モル数aとジアミンのアミノ基のモル数の和b(b=x+y)の比(a:b)は0.80:1から1.25:1までの範囲内であることが好ましい。さらに好ましくは0.85:1から1.18:1までの範囲内、より好ましくは0.90:1から1.11:1の範囲であることが好ましい。これらの範囲であると十分に分子量の高い、耐熱性や耐屈曲性等が優れたポリアミド酸やポリイミドとなる。
【0035】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、非プロトン性極性溶媒中で公知の方法で行うことができる。非プロトン性極性溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記する場合がある)、テトラヒドロフラン(THF)、ジグライム、シクロヘキサノン、1,4-ジオキサンなどが例示できる。非プロトン性極性溶媒は、一種類のみ用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。この時、上記非プロトン性極性溶媒と相溶性がある非極性溶媒を混合して使用しても問題なく、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、ソルベントナフサなどの芳香族炭化水素が良く使用される。混合溶媒における非極性溶媒の割合は、30重量%以下であることが好ましい。これは非極性溶媒が30重量%以上では溶媒の溶解力が低下しポリアミド酸が析出する恐れがあるためである。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、良く乾燥したジアミン成分を脱水精製した前述反応溶媒に溶解し、これに良く乾燥したテトラカルボン酸二無水物を添加して反応を進める方法が好ましい。
【0036】
本発明のポリアミド酸は、合成時に構成成分の一部を高沸点溶媒中で加熱脱水しイミド化を行い使用してもよい。イミド化反応によって生じた水は閉環反応を妨害するため、水と相溶しない有機溶剤を系中に加えて共沸させてディーン・スターク(Dean-Stark)管などの装置を使用して系外に排出する。イミド化反応の触媒として無水酢酸、β-ピコリン、ピリジンなどの化合物を使用することは妨げない。
【0037】
本発明のポリアミド酸はポリイミドの前駆体であることから、ポリイミド化して使用することができる。ポリイミド化の手法としては特に制限はなく、公知の所謂熱イミド化、化学イミド化のいずれの手法を用いることも出来る。本発明では加熱による脱水環化反応を行う手法についてより具体的に述べるが、特に手法を制限するわけではない。加熱によるイミド化としては特に制限はないが、例えば得られたポリアミド酸を溶媒に溶解させたポリアミド酸溶液を基材に塗布乾燥し、得られたフィルムなどをオーブン等で加熱することなどでフィルム状のポリイミドを得ることができる。
【0038】
本発明では上記のようにして得られたポリアミド酸およびポリイミドは有機溶剤に溶解し、溶液は塗布用ワニスとしてそのまま使用することができる。また、これらの溶液を貧溶媒中に投入して樹脂を再沈析出させて未反応モノマを取り除いて精製し、乾燥して固形の樹脂として使用することもできる。高温工程を嫌う用途や特に不純物や異物が問題になる用途では、再び有機溶剤に溶解して濾過精製ワニスとすることが好ましい。この時使用する溶剤は加工作業性を考え、沸点の低い溶剤を選択することが可能である。
【0039】
使用可能な有機溶剤として例えば、ケトン系溶剤としてアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンを、またエーテル系溶剤として、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライムなどが挙げられる。これらの溶剤は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0040】
本発明のポリアミド酸の使用方法は特に限定されるものではないが、例えば単独溶液または様々な添加剤を混合した溶液として接着剤として用いることができる。また当該溶液を基材上に塗布乾燥することでフィルム化して使用することができる。またこれら接着剤やフィルムをさらにオーブン等でキュアを行うことでポリイミドとし、回路材料等に使用されるベースフィルム・カバーフィルム・接着フィルムとして使用できる。特に柔軟性に優れ、耐はぜ折性、耐屈曲性等に優れた回路材料を得ることができる。この際添加可能な添加剤等は特に限定されないが、無機充填剤、難燃剤、その他添加剤等を加えることができる。
【0041】
(無機充填剤)
無機充填剤の種類としては特に制限はないが、シリカ、アルミナ、酸化チタン、タルク、焼成タルク、カオリン、焼成カオリン、マイカ、クレー、窒化アルミニウム、ガラスなどが挙げられる。これらの無機充填剤はカップリング剤を使用すると樹脂と充填剤との密着性が向上する。その際に使用するカップリング剤としては特に制限はない。無機充填剤含有量は、一般的には樹脂成分の合計量100質量部に対して、10〜150質量部の範囲で用いられる。
【0042】
(難燃剤)
難燃剤の種類としては特に制限はないが、含ハロゲン化合物、含リン化合物、および無機難燃剤等が挙げられる。これらを一種用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。含有量は、例えば含ハロゲン有機化合物の場合は、一般的には樹脂成分の合計量100に対して、臭素原子の含有量として0.1〜10質量%程度の範囲で用いられる。また含リン有機化合物の場合は、一般的には樹脂成分の合計量100に対して、リン原子の含有量として0.1〜5質量%程度の範囲で用いられる。無機難燃剤の場合は、一般的には樹脂成分の合計量100質量部に対して25〜150質量部の範囲で用いられる。
【0043】
(添加剤)
添加剤の種類としては特に制限はないが、消泡剤、レベリング剤、表面張力調整剤として一般に使用される添加剤などがあげられる。含有量は、一般的には樹脂成分の合計量100質量部に対して、0.0005〜10質量部の範囲で用いられる。
【0044】
(熱硬化性樹脂との混合)
また本発明のポリアミド酸は、例えばエポキシ樹脂・熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂と混合し、フィルム状に成型することで熱硬化性の接着シートとして使用することができる。その際の粘着性、熱圧着性などはポリアミド酸および/またはポリイミドの分子量などを制御することで適切な粘着性・熱圧着性などを得ることができる。また熱硬化速度に関しては、アミド酸濃度(部分イミド化比率)を制御することで制御することが可能である。エポキシ樹脂としては特に制限はなく、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物が全て使用できる。熱硬化性ポリイミドとしては特に制限はなく、ビスマレイミドあるいはポリビスマレイミド樹脂、BTレジン、ナジック酸末端をもつポリイミド樹脂などの熱硬化性ポリイミドが全て使用できる。これらの熱硬化性樹脂は1種類または2種類以上の混合物が使用できる。熱硬化性樹脂を混合する際は、硬化剤、硬化促進剤等の添加剤を適宜混合することもできる。これら熱硬化性樹脂の含有量としては、一般的には樹脂成分の合計量100に対して10〜90%の範囲で用いられる。
【0045】
(光硬化性樹脂との混合)
また本発明のポリアミド酸は、例えばアクリル酸化合物などの光硬化性樹脂と混合し、フィルム状に成型することで露光・現像可能な感光性のポリイミドフィルムとして使用することができる。この際ポリアミド酸骨格中のアミン(II)の量や、アミド酸濃度を制御することで各種有機溶剤やアルカリ水溶液への現像性を制御することができる。アクリレートとしては特に制限はなく、分子内に2個以上のアクリル酸基またはメタクリル酸基を有するアクリル酸化合物が全て使用できる。これらの光硬化性樹脂は1種類または2種類以上の混合物が使用できる。光硬化性樹脂を混合する際は、光重合開始剤、光重合開始助剤、増感剤等の添加剤を適宜混合することもできる。これら光硬化性樹脂の含有量としては、一般的には樹脂成分の合計量100に対して10〜90%の範囲で用いられる。
【0046】
(積層板)
本発明のポリアミド酸およびポリイミドは、上述のように単独または混合物としてフィルム化した後、適宜積層することで積層板とすることができる。その際は公知のポリイミドフィルムや銅箔と積層することでフレキシブルプリント配線板のベース基材としたり、加工したフレキシブルプリント配線板のカバーフィルムとしたりすることで使用できる。
【0047】
(回路基板)
本発明のポリアミド酸およびポリイミドは、上述の積層板を用いて回路基板とすることができる。その際は上述のベース基材を回路加工し、公知のカバーフィルムでカバーした回路基板や、公知のベース基材を回路加工したのち、上述のカバーフィルムでカバーした回路基板とすることができる。
【実施例】
【0048】
本発明の実施例について以下に示す。実施例中の評価は、以下のように行った。
イミド化率:銅箔上にポリアミド酸を塗布乾燥し、厚み20μmとしたものを、オーブンで160℃30分キュアを行った上でアミド基の吸収強度を赤外線吸収測定装置で測定し、キュア前の吸収強度を基準としてアミド基残存率とした。イミド化率を以下の式としてイミド化率を算出した。
【0049】
【数1】

【0050】
可溶性:上記銅箔上のキュア後フィルムをNMP溶液に浸漬し、1時間以内に完全に溶解するかどうかを観察した。
【0051】
透過率:同様にガラス上に塗布乾燥したフィルムをさらにオーブンで160℃30分キュアを行った上でUV−VIS吸光度測定装置を用いて365nmの透過率を求めた。
【0052】
反り:同様にポリイミド(カプトン(登録商標)EN、東レ・デュポン(株)製、フィルム(25μm)上でキュアまで行ったサンプルを5cm角に切出し、水平な台上で4端の浮き上がり量を測定し、平均値を「反り」とした
耐はぜ折性:PETフィルム上にポリアミド酸溶液を塗布乾燥し、厚み20μmとしたものを、フレキシブルプリント基板材料(ネオフレックス(登録商標)、三井化学(株)製、ポリイミド厚み18μm、銅箔厚み9μm、両面板)にL/S=50/50μの回路加工をおこなったものに、真空ラミネート装置(名機社製)を用いてラミネート温度60℃でラミネートした。さらにオーブン中で160℃30分イミド化を行い、できた回路基板を荷重100g、R=0.3mmではぜ折試験を行った。10回以上ラミネートフィルム上に亀裂が入らない場合を○、10回以下で亀裂が入る場合は×とした。
【0053】
実施例1
乾燥窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口フラスコに、脱水精製したNMP400gを入れ、窒素ガスを流しながら10分間激しく攪拌した。次に2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン(以下、NBDAと略記する場合がある、(分子量154))48.2g(0.313モル)を投入し、均一になるまで攪拌した。さらに4,4'-オキシジフタル酸二無水物(ODPA、分子量310)100.0g(0.322モル)を、系を氷水浴で5℃に冷却しながら粉末状のまま少しずつ添加した。その後12時間撹拌を続けた。この間フラスコは5℃に保った。こうしてできたポリアミド酸溶液について、イミド化率、可溶性、透過率、反り、耐はぜ折性等の物性測定を行った。また組成および評価結果を表1に示す。
【0054】
実施例2
乾燥窒素ガス導入管、温度計、冷却器、撹拌機、およびディーンスターク管を備えた四口フラスコに、4,4'-オキシジフタル酸二無水物(ODPA、分子量310)100.0g(0.322モル)を計量して添加した。1,3,5-トリメチルベンゼン135gを入れ、攪拌してスラリー状態とし、そこに脱水精製したNMP315gを入れさらに攪拌した。次に激しく攪拌しながらNBDA(分子量154)33.7g(0.219モル)をゆっくり滴下した。系をオイルバスを用いて175℃まで加温し、発生する水を系外に除いた。4時間加熱したところ系からの水の発生は認められなくなった。系を氷水浴で25℃付近まで冷却し、冷却したところにさらに1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB、分子量292)27.4g(0.094モル)を粉末状のまま少しずつ添加した。その後12時間撹拌を続け、この間フラスコは30℃に保った。評価は実施例1と同様に行った。
【0055】
実施例3〜6
実施例1と同様に合成し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
実施例1と同条件で、4,4'-オキシジフタル酸二無水物と4,4’-ジアミノフェニルエーテルを反応し、ポリアミド酸溶液を得た。評価は実施例1と同様に行った。結果は表2に示す。
【0057】
比較例2〜3
実施例1と同様に、表2に示した処方で反応を行い得られたポリアミド酸について評価した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表中の略称の説明:
ODPA:4,4'-オキシジフタル酸二無水物、マナック社製(製品名ODPA−M)、分子量310.2
PMDA:1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ダイセル化学工業社製、分子量218
NBDA:2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタンと2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物、三井化学株式製、分子量154
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、三井化学株式社製(製品名APB−N)、分子量292
ODA:4,4’-ジアミノフェニルエーテル、分子量200
HMDA:1,6-ジアミノヘキサン、分子量116
DODA:1,12-ジアミノドデカン、分子量200
14EL:ポリオキシアルキレン含有ジアミン、イハラケミカル社製(製品名エラスマー14EL)、平均分子量1250程度
【0061】
本発明のポリアミド酸を使用した場合160℃30分という低温短時間でイミド化が完成でき、かつ紫外光の透過率も高く、耐反り性や耐はぜ折性に優れる。一方、一般的なポリアミド酸(比較例1)では160℃30分ではイミド化率が低く、また紫外光の透過率も非常に低い。また反りがひどくカールしてしまう、脆いため耐はぜ折試験で亀裂が入ってしまうなどの問題がある。またジアミン(I)を使用しない場合(比較例2)、反りがひどくカールしてしまう。またテトラカルボン酸二無水物としてODPA以外を使用した場合(比較例3)紫外光の透過率が低い、耐はぜ折性試験で亀裂が入るなど問題がある。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のポリアミド酸およびポリイミドは、耐反り性や耐はぜ折性に優れ、また低温短時間でイミド化が可能であることからフィルムや接着剤としてフレキシブルプリント基板などの電子回路基板用の絶縁材料に使用することができ、有用である。また透明性が良好であることから、光硬化性の樹脂と混合することで光硬化性のフィルムや接着剤として使用することができ、回路基板の被覆材料などとしても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成単位として下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と
【化1】

下記一般式(2)で表されるジアミン(I)と
【化2】

(式中、RはC1〜C4のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、イミノ基から選ばれた2価の結合基を示し、nは、0または1を表す。)を必須成分として含むことを特徴とする新規なポリアミド酸。
【請求項2】
構成単位として下記式(1)で表される酸二無水物と
【化3】

下記一般式(2)で表されるジアミン(I)と
【化4】

(式中、RはC1〜C4のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、イミノ基から選ばれた2価の結合基を示し、nは、0または1を表す。)、
その他のジアミン(II)として、下記式(3)で表されるジアミン
【化5】

を必須成分として含むことを特徴とする新規なポリアミド酸。
【請求項3】
請求項2記載のポリアミド酸であって、
ジアミン(I)のアミノ基のモル数xとその他のジアミン(II)のアミノ基の総モル数yの比(x:y)が100:0から35:65までの範囲内であることを特徴とする新規なポリアミド酸。
【請求項4】
請求項1〜3記載のポリアミド酸であって、
酸二無水物の酸無水物の総モル数aとジアミンのアミノ基のモル数の和b(b=x+y)の比(a:b)が0.8:1から1.25:1までの範囲内である新規なポリアミド酸。
【請求項5】
請求項1〜4記載のポリアミド酸のアミド酸の一部または全部がイミド化したポリイミド。
【請求項6】
請求項1〜4記載のポリアミド酸および/または請求項5記載のポリイミドを含むことを特徴とするフィルム。
【請求項7】
請求項1〜4記載のポリアミド酸および/または請求項5記載のポリイミドを含むことを特徴とする接着剤。
【請求項8】
請求項6記載のフィルム層を少なくとも一層含むことを特徴とする積層板。
【請求項9】
請求項7記載の接着剤層を少なくとも一層含むことを特徴とする積層板。
【請求項10】
請求項8および/または9記載の積層板から製造されることを特徴とする回路基板。

【公開番号】特開2008−308550(P2008−308550A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156601(P2007−156601)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】