説明

新規化合物、光電変換素子及び太陽電池

【課題】光電変換効率が高く、高耐久性の化合物(色素)、及びそれを用いた光電変換素子、太陽電池の提供。
【解決手段】式1で表されることを特徴とする化合物。


(Ar〜Arは各々アリール基又は複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar、Arは各々アリール基又は複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。f、gはf+g≧2の整数;Xは酸性基を有する有機残基;R、RはH、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。eは1〜5の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物(色素)、及びそれを用いた光電変換素子、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無限で有害物質を発生しない太陽光の利用が精力的に検討されている。このクリーンエネルギー源である太陽光を利用して現在実用化されているものは、住宅用の単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及びテルル化カドミウムやセレン化インジウム銅等の無機系太陽電池が挙げられる。
【0003】
しかしながら、これらの無機系太陽電池の欠点としては、例えば、シリコン系では、非常に純度の高いものが要求され、精製の工程は複雑でプロセス数が多く、製造コストが高いことが挙げられる。
【0004】
その一方で、有機材料を使う太陽電池も多く提案されている。有機太陽電池としては、p型有機半導体と仕事関数の小さい金属を接合させるショットキー型光電変換素子、p型有機半導体とn型無機半導体、あるいはp型有機半導体と電子受容性有機化合物を接合させるヘテロ接合型光電変換素子等があり、利用される有機半導体は、クロロフィル、ペリレン等の合成色素や顔料、ポリアセチレン等の導電性高分子材料、またはそれらの複合材料等である。これらを真空蒸着法、キャスト法、またはディッピング法等により、薄膜化し電池材料が構成されている。有機材料は低コスト、大面積化が容易等の長所もあるが、変換効率は1%以下と低いものが多く、また耐久性も悪いという問題もあった。
【0005】
こうした状況の中で、良好な特性を示す太陽電池がスイスのグレッツェル博士らによって報告された(非特許文献1参照)。提案された電池は色素増感型太陽電池であり、ルテニウム錯体で分光増感された酸化チタン多孔質薄膜を作用電極とする湿式太陽電池である。この方式の利点は、酸化チタン等の安価な金属化合物半導体を高純度まで精製する必要がないこと、従って安価で、さらに利用できる光は広い可視光領域にまでわたっており、可視光成分の多い太陽光を有効に電気へ変換できることである。
【0006】
反面、資源的制約があるルテニウム錯体が使われているため、この太陽電池が実用化された場合に、ルテニウム錯体の供給が危ぶまれている。また、このルテニウム錯体は高価であることと、経時での安定性に問題があり、安価で安定な有機色素へ変更することができれば、この問題は解決できる。
【0007】
電子供与能を有するπ電子共役系及び電子吸引性を有する酸性吸着基を併せ持つ色素分子が、光電変換効率の高い素子を与えることが知られている。電子供与性のπ電子系としては、トリアリールアミン誘導体が広く用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。ところがこれらの色素では、初期の光電変換効率が高いものが得られたとしても、長期にわたる使用において光電変換効率低下が発生し、光電変換素子としては不十分であった。
【特許文献1】特開2005−123033号公報
【特許文献2】特開2006−079898号公報
【特許文献3】特開2006−134649号公報
【特許文献4】特開2006−156212号公報
【非特許文献1】B.O’Regan,M.Gratzel,Nature,353,737(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、新規で、光電変換効率が高く、高耐久性の化合物(色素)、及びそれを用いた光電変換素子、太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0010】
1.下記一般式(1)で表されることを特徴とする化合物。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Ar〜Arは各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。また、置換基が互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar、Arは各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。f、gはf+g≧2の整数を表す。Xは酸性基を有する有機残基を表し、R、Rは水素、ハロゲン原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。eは1〜5の整数を表す。)
2.前記一般式(1)が、下記一般式(2)または(3)で表されることを特徴とする前記1に記載の化合物。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Ar11〜Ar13は各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。または置換基が互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar14、Ar15、Ar24、Ar25は各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。i、jはi+j≧2、m、nはm+n≧2の整数を表す。また、X、Xは酸性基を有する有機残基を表し、R11、R12、R21、R22は水素、ハロゲン原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。h、lは1〜5の整数を表す。)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Ar21〜Ar23は各々置換もしくは未置換のアリール基、複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。または置換基が互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar34、Ar35、Ar44、Ar45、Ar54、Ar55は各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。p、qはp+q≧2、s、tはs+t≧2、v、wはv+w≧2の整数を表す。X〜Xは酸性基を有する有機残基を表し、R31、R32、R41、R42、R51、R52は水素、ハロゲン原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。o、r、uは1〜5の整数を表す。)
3.導電性支持体上の酸化物半導体に色素を担持させてなる色素担持半導体電極と対向電極とを有する光電変換素子において、前記1または2に記載の化合物を含有することを特徴とする光電変換素子。
【0017】
4.前記酸化物半導体が酸化チタンであることを特徴とする前記3に記載の光電変換素子。
【0018】
5.前記3または4に記載の光電変換素子を有することを特徴とする太陽電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、新規で、光電変換効率が高く、高耐久性の化合物(色素)、及びそれを用いた光電変換素子及び太陽電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
前述のように、従来、トリアリールアミン誘導体は光電変換効率が高い色素として知られていた。中でも、上記特許文献1には、置換基として、ビニル基と酸性基との間にフェニル基またはチオフェニル基を1つ有するスチリルトリアリールアミン誘導体が知られていた。ところが、長期の使用の結果、光電変換効率が初期に比べ大幅に低下してしまうという課題があった。
【0021】
そこで本発明者らが検討した結果、酸化物半導体に吸着すると予想している酸性基の近傍に、共役系が伸びるようにスチリル基の先にさらに共役可能な芳香族または複素環を導入することにより、p平面が広がって分子間相互作用が大きくなり、高耐久の光電変換素子が得られることを見出した。同様な効果はスチリル基のフェニル基を別の芳香族、または複素環で置き換えても得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0022】
一般式(1)において、Xで表される酸性基を有する有機残基近傍に、−(Ar)−(Ar)−で表される置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を有すると、色素の共役系が広がり、色素分子間相互作用が強まって、凝集しやすくなり、良好な凝集構造を形成したものと推定している。一般式(2)、(3)で表される化合物についても同様に、色素の共役系が広がり、色素分子間相互作用が強まって、凝集しやすくなり、良好な凝集構造を形成したものと推定している。
【0023】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0024】
本発明の光電変換素子について、図をもって説明する。
【0025】
図1は、本発明の光電変換素子の一例を示す構成断面図である。
【0026】
図1に示すように、基板1、1′、透明導電膜2、7、酸化物半導体3、色素4、電解質5、隔壁9等から構成されている。
【0027】
光電極として、透明導電膜2を付けた基板1(導電性支持体とも言う。)上に、酸化物半導体3の粒子を焼結して形成した空孔を有する半導体層を有し、その空孔表面に色素4を吸着させたものが用いられる。
【0028】
対向電極6としては、基板1′上に透明導電膜7が形成され、その上に白金8を蒸着したものが用いられ、両極間には電解質層として電解質5が充填されている。
【0029】
本発明は、新規化合物(色素)、及びそれを用いた光電変換素子及び太陽電池に関するものである。
【0030】
《一般式(1)で表される化合物》
以下に、前記一般式(1)で表される化合物について説明する。
【0031】
一般式(1)において、Ar〜Ar、Ar、Arは各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。また、置換基が互いに連結して環状構造を形成してもよい。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アンスリル基、ヘナンスリル基等を表し、芳香族複素環基としては、例えばチエニル基、フリル基、インドリル基等を挙げることができる。Ar〜Arはアリール基または芳香族複素環基が好ましい。
【0032】
Ar〜Arの好ましい具体例を下記に示す。
【0033】
【化4】

【0034】
f、gはf+g≧2の整数を表す。
【0035】
は酸性基を有する有機残基を表す。酸性基としては、カルボキシル基、スルホ基、スルフィノ基、スルフィニル基、ホスホリル基、ホスフィニル基、ホスホノ基、チオール基、ヒドロキシ基、ホスホニル基、スルホニル基、及び、それらの塩等が挙げられる。酸性基としては、カルボキシル基またはシアノ基が好ましい。
【0036】
酸性基を有する有機残基としては、下記の有機基、あるいはそれらの組合せが挙げられる。
【0037】
【化5】

【0038】
また、上記有機基の置換可能な部位に置換基を有してもよい。酸性基を有する有機残基には電子求引性部位を有することが好ましい。電子求引性部位としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ニトロ基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、パーフルオロアルキルスルホニル基、パーフルオロアリールスルホニル基、ローダニン環等が挙げられる。特に、好ましい電子求引性部位としては、電子求引性の高い、シアノ基あるいはローダニン環が挙げられ、これらは光電子を効果的に酸化物半導体に注入できるため好ましい。
【0039】
は特に酸化物半導体に吸着能の高いカルボキシル基を有する化合物の場合、酸化物半導体への電荷の流れがスムーズとなり、良好な特性を示し、好ましい。また、Xの置換基として電子求引性基が好ましい。
【0040】
、Rは水素、ハロゲン原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。
【0041】
eは1〜5の整数を表す。
【0042】
一般式(1)で表される化合物の具体例を下記に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
【化13】

【0051】
【化14】

【0052】
【化15】

【0053】
【化16】

【0054】
【化17】

【0055】
【化18】

【0056】
【化19】

【0057】
【化20】

【0058】
【化21】

【0059】
【化22】

【0060】
《一般式(2)で表される化合物》
以下に、前記一般式(2)で表される化合物について説明する。
【0061】
一般式(2)において、Ar11〜Ar13は各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。または置換基が互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar14、Ar15、Ar24、Ar25は各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar11〜Ar13、Ar14、Ar15、Ar24、Ar25で表されるアリール基または複素環基としては、一般式(1)においてAr〜Arで表されるアリール基または複素環基と同義である。
【0062】
i、jはi+j≧2、m、nはm+n≧2の整数を表す。
【0063】
、Xは酸性基を有する有機残基を表し、一般式(1)においてXで表される酸性基を有する有機残基と同義である。
【0064】
11、R12、R21、R22は水素、ハロゲン原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。
【0065】
h、lは1〜5の整数を表す。
【0066】
一般式(2)で表される化合物の具体例を下記に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
【化23】

【0068】
【化24】

【0069】
【化25】

【0070】
【化26】

【0071】
【化27】

【0072】
【化28】

【0073】
【化29】

【0074】
【化30】

【0075】
【化31】

【0076】
【化32】

【0077】
【化33】

【0078】
【化34】

【0079】
【化35】

【0080】
【化36】

【0081】
【化37】

【0082】
【化38】

【0083】
【化39】

【0084】
【化40】

【0085】
【化41】

【0086】
【化42】

【0087】
【化43】

【0088】
《一般式(3)で表される化合物》
以下に、前記一般式(3)で表される化合物について説明する。
【0089】
一般式(3)において、Ar21〜Ar23は各々置換もしくは未置換のアリール基、複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。または置換基が互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar34、Ar35、Ar44、Ar45、Ar54、Ar55は各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar21〜Ar23、Ar34、Ar35、Ar44、Ar45、Ar54、Ar55で表されるアリール基または複素環基としては、一般式(1)においてAr〜Arで表されるアリール基または複素環基と同義である。
【0090】
p、qはp+q≧2、s、tはs+t≧2、v、wはv+w≧2の整数を表す。
【0091】
〜Xは酸性基を有する有機残基を表し、一般式(1)においてXで表される酸性基を有する有機残基と同義である。
【0092】
31、R32、R41、R42、R51、R52は水素、ハロゲン原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。
【0093】
o、r、uは1〜5の整数を表す。
【0094】
一般式(3)で表される化合物の具体例を下記に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
【化44】

【0096】
【化45】

【0097】
【化46】

【0098】
【化47】

【0099】
【化48】

【0100】
【化49】

【0101】
【化50】

【0102】
【化51】

【0103】
【化52】

【0104】
【化53】

【0105】
【化54】

【0106】
【化55】

【0107】
【化56】

【0108】
【化57】

【0109】
【化58】

【0110】
一般式(1)〜(3)で表される色素(以下、本発明の色素ともいう)は、一般的な合成法により合成することができるが、中でも、特開平7−5709号公報、特開平7−5706号公報等に記載の方法を用いて合成することができる。
【0111】
《合成例》
合成例1(例示化合物1−38の合成)
下記スキームにより、中間体の化合物(1)を得た。
【0112】
【化59】

【0113】
4,4′−ジメチルトリフェニルアミン7.5g(27mmol)をトルエン22.5mlに溶解し、N,N−ジメチルホルムアミド2.53mlを加え、氷冷下5℃でオキシ塩化リン3.1mlを滴下した。次いで、室温で1時間撹拌した後、約80℃で加熱し、放冷後、400mlの水へ反応物を投入し、加水分解を行った。有機相を酢酸エチルで抽出し水洗した。その後、有機相を分取し無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、減圧濃縮し、得られた残査をカラムクロマトグラフィーにより精製して、ホルミル化された化合物(1)を5.7g得た。
【0114】
下記スキームにより、例示化合物1−38を得た。
【0115】
【化60】

【0116】
ヨウ化トリフェニルメチルホスホニウム10.05g(24.9mmol)、カリウム−t−ブトキシド2.79g(24.9mmol)を氷浴で冷却しながら窒素気流下で、脱水THF25ml中に懸濁させた。これに上記化合物(1)5.08g(16.6mmol)を脱水THF7mlに溶解させた溶液を滴下して、室温で20時間攪拌を続けた後、トルエンならびに水を加えた。有機層を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた残査をカラムクロマトグラフィーにより精製して化合物(2)を4.32g得た。
【0117】
化合物(2)2.4g(8.13mmol)に、5−ブロモ−2,2′−ビチオフェン−5′−カルボキシアルデヒド1g(3.66mmol)、炭酸ナトリウム0.98g(9.27mmol)、2,6−ジ(t−ブチル)クレゾール0.16g(0.73mmol)、トランス−ジ−μ−アセテートビス(2−(ジ−o−トリルホスフィノ)ベンジル)ジパラジウム0.035g(0.037mmol)を加え、乾燥ジメチルアセトアミド15mlに溶解させ、窒素気流下130℃で15時間加熱した。水ならびにトルエンを加え、有機相を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた残査をカラムクロマトグラフィーにより精製して、化合物(3)を1.33g得た。
【0118】
化合物(3)0.2g(0.41mmol)に、シアノ酢酸0.17g(2.1mmol)、酢酸アンモニウム0.32g(4.1mmol)を加え、酢酸/クロロホルム=1/1混合溶媒6mlに溶解させた。この溶液を12.5時間加熱還流し、有機相を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた残査をヘプタンで洗浄し、得られた固体を回収し乾燥して例示化合物1−38を得た。構造はNMRにより確認した。
【0119】
合成例2(例示化合物2−31の合成)
下記スキームにより、中間体の化合物(4)を得た。
【0120】
【化61】

【0121】
4−メチルトリフェニルアミン25.9g(0.1mol)をトルエン250mlに溶解し、N,N−ジメチルホルムアミド31mlを加え、氷冷下5℃でオキシ塩化リン30mlを滴下した。次いで、室温で2時間撹拌した後、約60℃で加熱し、放冷後、塩化メチレン200mlで希釈し、炭酸カリウム水溶液で中和した。中和液の有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、減圧濃縮し、得られた残査をカラムクロマトグラフィーにより精製して、ホルミル化された化合物(4)20gを得た。
【0122】
下記スキームにより、例示化合物2−31を得た。
【0123】
【化62】

【0124】
ヨウ化トリフェニルメチルホスホニウム10.05g(24.9mmol)、カリウム−t−ブトキシド2.79g(24.9mmol)を氷浴で冷却しながら窒素気流下で、脱水THF25ml中に懸濁させた。これに化合物(4)5.24g(16.6mmol)を脱水THF7mlに溶解させた溶液を滴下して、室温で20時間攪拌を続けた後、トルエンならびに水を加えた。有機層を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた残査をカラムクロマトグラフィーにより精製して化合物(5)を4.32g得た。
【0125】
化合物(5)1.28g(4.07mmol)に、5−ブロモ−2,2′−ビチオフェン−5′−カルボキシアルデヒド2.22g(8.13mmol)、炭酸ナトリウム0.98g(9.27mmol)、2,6−ジ(t−ブチル)クレゾール0.16g(0.73mmol)、トランス−ジ−μ−アセテートビス(2−(ジ−o−トリルホスフィノ)ベンジル)ジパラジウム0.035g(0.037mmol)を加え、乾燥ジメチルアセトアミド15mlに溶解させ、窒素気流下130℃で20時間加熱した。水ならびにトルエンを加え、有機相を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた残査をカラムクロマトグラフィーにより精製して、化合物(6)を1.4g得た。
【0126】
化合物(6)0.29g(0.41mmol)に、シアノ酢酸0.34g(4.2mmol)、酢酸アンモニウム0.64g(8.2mmol)を加え、酢酸/クロロホルム=1/1混合溶媒10mlに溶解させた。この溶液を18時間加熱還流した。その後、減圧濃縮し、得られた残査を水で洗浄し、次いでトルエンで洗浄し、酢酸エチルとトルエンから再沈し例示化合物2−31を得た。構造はNMRにより確認した。
【0127】
合成例3(例示化合物3−3の合成)
下記スキームにより、例示化合物3−3を得た。
【0128】
【化63】

【0129】
ヨウ化トリフェニルメチルホスホニウム15.08g(37.4mmol)、カリウム−t−ブトキシド4.19g(37.4mmol)を氷浴で冷却しながら窒素気流下で、脱水THF35ml中に懸濁させた。これにトリス(4−ホルミルフェニル)アミン2.73g(8.3mmol)を脱水THF7mlに溶解させた溶液を滴下して、室温で35時間攪拌を続けた後、トルエンならびに水を加えた。有機層を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた残査をカラムクロマトグラフィーにより精製して化合物(7)を1.07g得た。
【0130】
化合物(7)1g(3.1mmol)に、5−ブロモ−2,2′−ビチオフェン−5′−カルボキシアルデヒド2.51g(9.2mmol)、炭酸ナトリウム1.12g(10.6mmol)、2,6−ジ(t−ブチル)クレゾール0.19g(0.84mmol)、トランス−ジ−μ−アセテートビス(2−(ジ−o−トリルホスフィノ)ベンジル)ジパラジウム0.039g(0.042mmol)を加え、乾燥ジメチルアセトアミド20mlに溶解させ、窒素気流下130℃で23時間加熱した。水ならびにトルエンを加え、有機相を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた残査をカラムクロマトグラフィーにより精製して、化合物(8)を1.1g得た。
【0131】
化合物(8)0.37g(0.41mmol)に、シアノ酢酸0.51g(6.3mmol)、酢酸アンモニウム0.96g(12.3mmol)を加え、酢酸/クロロホルム=1/1混合溶媒15mlに溶解させた。この溶液を19時間加熱還流した。その後、減圧濃縮し、得られた残査を水で洗浄し、次いでトルエンで洗浄し、酢酸エチルとトルエンから再沈し例示化合物3−3を得た。構造はNMRにより確認した。
【0132】
他の化合物も同様にして合成することができる。
【0133】
このようにして得られた本発明の色素を酸化物半導体(以下、単に半導体ともいう)に担持させることにより増感し、本発明に記載の効果を奏することが可能となる。ここで、半導体に色素を担持させるとは、半導体表面への吸着、半導体が多孔質等のポーラスな構造を有する場合には、半導体の多孔質構造に前記色素を充填する等の種々の態様が挙げられる。
【0134】
また、半導体層(半導体でもよい)1m当たりの本発明の色素の総担持量は0.01〜100ミリモルの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.1〜50ミリモルであり、特に好ましくは0.5〜20ミリモルである。
【0135】
本発明の色素を用いて増感処理を行う場合、色素を単独で用いてもよいし、複数を併用してもよく、また他の化合物(例えば、米国特許第4,684,537号明細書、同4,927,721号明細書、同5,084,365号明細書、同5,350,644号明細書、同5,463,057号明細書、同5,525,440号明細書、特開平7−249790号公報、特開2000−150007号公報等に記載の化合物)と混合して用いることもできる。
【0136】
特に、本発明の光電変換素子の用途が後述する太陽電池である場合には、光電変換の波長域をできるだけ広くして太陽光を有効に利用できるように吸収波長の異なる二種類以上の色素を混合して用いることが好ましい。
【0137】
半導体に本発明の色素を担持させるには、適切な溶媒(エタノール等)に溶解し、その溶液中によく乾燥した半導体を長時間浸漬する方法が一般的である。
【0138】
本発明の色素を複数種併用したり、その他の色素とを併用して増感処理する際には、各々の色素の混合溶液を調製して用いてもよいし、それぞれの色素について別々の溶液を用意して、各溶液に順に浸漬して作製することもできる。各色素について別々の溶液を用意し、各溶液に順に浸漬して作製する場合は、半導体に色素等を含ませる順序がどのようであっても本発明に記載の効果を得ることができる。また、前記色素を単独で吸着させた半導体の微粒子を混合する等することにより作製してもよい。
【0139】
また、本発明に係る半導体の増感処理の詳細については、後述する光電変換素子のところで具体的に説明する。
【0140】
また、空隙率の高い半導体の場合には、空隙に水分、水蒸気等により水が半導体薄膜上、並びに半導体薄膜内部の空隙に吸着する前に、色素等の吸着処理を完了することが好ましい。
【0141】
次に本発明の光電変換素子について説明する。
【0142】
〔光電変換素子〕
本発明の光電変換素子は、導電性支持体上の半導体に色素を含ませてなる光電極と対向電極を電解質層を介して対向配置してなる。以下、半導体、光電極、電解質、対向電極について順次説明する。
【0143】
《半導体》
光電極に用いられる半導体としては、シリコン、ゲルマニウムのような単体、周期表(元素周期表ともいう)の第3族〜第5族、第13族〜第15族系の元素を有する化合物、金属のカルコゲニド(例えば、酸化物、硫化物、セレン化物等)、金属窒化物等を使用することができる。
【0144】
好ましい金属のカルコゲニドとして、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、またはタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモンまたはビスマスの硫化物、カドミウムまたは鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等が挙げられる。他の化合物半導体としては、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム−ヒ素または銅−インジウムのセレン化物、銅−インジウムの硫化物、チタンの窒化物等が挙げられる。
【0145】
具体例としては、TiO、SnO、Fe、WO、ZnO、Nb、CdS、ZnS、PbS、Bi、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS、CuInSe、Ti等が挙げられるが、好ましく用いられるのは、TiO、ZnO、SnO、Fe、WO、Nb、CdS、PbSであり、好ましく用いられるのは、TiOまたはNbであるが、中でも特に好ましく用いられるのはTiO(酸化チタン)である。
【0146】
光電極に用いる半導体は、上述した複数の半導体を併用して用いてもよい。例えば、上述した金属酸化物もしくは金属硫化物の数種類を併用することもできるし、また酸化チタン半導体に20質量%の窒化チタン(Ti)を混合して使用してもよい。また、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,15(1999)記載の酸化亜鉛/酸化錫複合としてもよい。このとき、半導体として金属酸化物もしくは金属硫化物以外に成分を加える場合、追加成分の金属酸化物もしくは金属硫化物半導体に対する質量比は30%以下であることが好ましい。
【0147】
また、本発明に係る半導体は、有機塩基を用いて表面処理してもよい。前記有機塩基としては、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン、キノリン、ピペリジン、アミジン等が挙げられるが、中でもピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジンが好ましい。
【0148】
上記の有機塩基が液体の場合は、そのまま固体の場合は有機溶媒に溶解した溶液を準備し、本発明に係る半導体を液体アミンまたはアミン溶液に浸漬することで、表面処理を実施できる。
【0149】
(導電性支持体)
本発明の光電変換素子や本発明の太陽電池に用いられる導電性支持体には、金属板のような導電性材料や、ガラス板やプラスチックフイルムのような非導電性材料に導電性物質を設けた構造のものを用いることができる。導電性支持体に用いられる材料の例としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム)あるいは導電性金属酸化物(例えばインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの)や炭素を挙げることができる。導電性支持体の厚さは特に制約されないが、0.3〜5mmが好ましい。
【0150】
また、導電性支持体は実質的に透明であることが好ましく、実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが最も好ましい。透明な導電性支持体を得るためには、ガラス板またはプラスチックフイルムの表面に、導電性金属酸化物からなる導電性層を設けることが好ましい。透明な導電性支持体を用いる場合、光は支持体側から入射させることが好ましい。
【0151】
導電性支持体の表面抵抗は、50Ω/cm以下であることが好ましく、10Ω/cm以下であることがさらに好ましい。
【0152】
《光電極の作製》
本発明に係る光電極の作製方法について説明する。
【0153】
本発明に係る光電極の半導体が粒子状の場合には、半導体を導電性支持体に塗布あるいは吹き付けて、光電極を作製するのがよい。また、本発明に係る半導体が膜状であって、導電性支持体上に保持されていない場合には、半導体を導電性支持体上に貼合して光電極を作製することが好ましい。
【0154】
本発明に係る光電極の好ましい態様としては、上記導電性支持体上に半導体の微粒子を用いて焼成により形成する方法が挙げられる。
【0155】
本発明に係る半導体が焼成により作製される場合には、色素を用いての該半導体の増感(吸着、多孔質層への充填等)処理は、焼成後に実施することが好ましい。焼成後、半導体に水が吸着する前に素早く化合物の吸着処理を実施することが特に好ましい。
【0156】
以下、本発明に好ましく用いられる、光電極を半導体微粉末を用いて焼成により形成する方法について詳細に説明する。
【0157】
(半導体微粉末含有塗布液の調製)
まず、半導体の微粉末を含む塗布液を調製する。この半導体微粉末はその1次粒子径が微細な程好ましく、その1次粒子径は1〜5000nmが好ましく、さらに好ましくは2〜50nmである。半導体微粉末を含む塗布液は、半導体微粉末を溶媒中に分散させることによって調製することができる。溶媒中に分散された半導体微粉末は、その1次粒子状で分散する。溶媒としては半導体微粉末を分散し得るものであればよく、特に制約されない。
【0158】
前記溶媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合液が包含される。有機溶媒としては、メタノールやエタノール等のアルコール、メチルエチルケトン、アセトン、アセチルアセトン等のケトン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素等が用いられる。塗布液中には、必要に応じ、界面活性剤や粘度調節剤(ポリエチレングリコール等の多価アルコール等)を加えることができる。溶媒中の半導体微粉末濃度の範囲は0.1〜70質量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜30質量%である。
【0159】
(半導体微粉末含有塗布液の塗布と形成された半導体層の焼成処理)
上記のようにして得られた半導体微粉末含有塗布液を、導電性支持体上に塗布または吹きつけ、乾燥等を行った後、空気中または不活性ガス中で焼成して、導電性支持体上に半導体層(半導体膜とも言う)が形成される。
【0160】
導電性支持体上に半導体微粉末含有塗布液を塗布、乾燥して得られる皮膜は、半導体微粒子の集合体からなるもので、その微粒子の粒径は使用した半導体微粉末の1次粒子径に対応するものである。
【0161】
このようにして導電性支持体等の導電層上に形成された半導体微粒子層は、導電性支持体との結合力や微粒子相互の結合力が弱く、機械的強度の弱いものであることから、機械的強度を高め、基板に強く固着した半導体層とするため前記半導体微粒子層の焼成処理が行われる。
【0162】
本発明においては、この半導体層はどのような構造を有していてもよいが、多孔質構造膜(空隙を有する、ポーラスな層ともいう)であることが好ましい。
【0163】
ここで、本発明に係る半導体層の空隙率は10体積%以下が好ましく、さらに好ましくは8体積%以下であり、特に好ましくは0.01〜5体積%である。なお、半導体層の空隙率は誘電体の厚み方向に貫通性のある空隙率を意味し、水銀ポロシメーター(島津ポアライザー9220型)等の市販の装置を用いて測定することができる。
【0164】
多孔質構造を有する焼成物膜になった半導体層の膜厚は、少なくとも10nm以上が好ましく、さらに好ましくは500〜30000nmである。
【0165】
焼成処理時、焼成膜の実表面積を適切に調製し、上記の空隙率を有する焼成膜を得る観点から、焼成温度は1000℃より低いことが好ましく、さらに好ましくは200〜800℃の範囲であり、特に好ましくは300〜800℃の範囲である。
【0166】
また、見かけ表面積に対する実表面積の比は、半導体微粒子の粒径及び比表面積や焼成温度等によりコントロールすることができる。また、加熱処理後、半導体粒子の表面積を増大させたり、半導体粒子近傍の純度を高め、色素から半導体粒子への電子注入効率を高める目的で、例えば、四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。
【0167】
(半導体の増感処理)
半導体の増感処理は、前述のように本発明の色素を適切な溶媒に溶解し、その溶液に前記半導体を焼成した基板を浸漬することによって行われる。その際には半導体層(半導体膜ともいう)を焼成により形成させた基板を、予め減圧処理したり加熱処理したりして膜中の気泡を除去しおくことが好ましい。このような処理により、本発明の色素が半導体層(半導体膜)内部深くに進入できるようになり、半導体層(半導体膜)が多孔質構造膜である場合には特に好ましい。
【0168】
本発明の色素を溶解するのに用いる溶媒は、前記化合物を溶解することができ、かつ半導体を溶解したり半導体と反応したりすることのないものであれば格別の制限はない。しかしながら、溶媒に溶解している水分及び気体が半導体膜に進入して、前記化合物の吸着等の増感処理を妨げることを防ぐために、予め脱気及び蒸留精製しておくことが好ましい。
【0169】
前記化合物の溶解において、好ましく用いられる溶媒はアセトニトリル等のニトリル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒であり、複数の溶媒を混合してもよい。特に好ましくはアセトニトリル、アセトニトリル/メタノール混合溶媒、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレンである。
【0170】
(増感処理の温度、時間)
半導体を焼成した基板を本発明の色素を含む溶液に浸漬する時間は、半導体層(半導体膜)に深く進入して吸着等を充分に進行させ、半導体を十分に増感させることが好ましい。また、溶液中での色素の分解等により生成して分解物が色素の吸着を妨害することを抑制する観点から、25℃条件下では3〜48時間が好ましく、さらに好ましくは4〜24時間である。この効果は、特に半導体膜が多孔質構造膜である場合において顕著である。ただし、浸漬時間については25℃条件での値であり、温度条件を変化させた場合には、上記の限りではない。
【0171】
浸漬しておくに当たり本発明の色素を含む溶液は、前記色素が分解しないかぎりにおいて、沸騰しない温度にまで加熱して用いてもよい。好ましい温度範囲は5〜100℃であり、さらに好ましくは25〜80℃であるが、前記の通り溶媒が前記温度範囲で沸騰する場合はこの限りでない。
【0172】
《電解質》
本発明に用いられる電解質について説明する。
【0173】
本発明の光電変換素子においては、対向電極間に電解質が充填され、電解質層が形成される。電解質としてはレドックス電解質が好ましく用いられる。ここで、レドックス電解質としては、I/I系や、Br/Br系、キノン/ハイドロキノン系等が挙げられる。このようなレドックス電解質は従来公知の方法によって得ることができ、例えば、I/I系の電解質は、ヨウ素のアンモニウム塩とヨウ素を混合することによって得ることができる。電解質層はこれらレドックス電解質の分散物で構成され、それら分散物は溶液である場合に液体電解質、常温において固体である高分子中に分散させた場合に固体高分子電解質、ゲル状物質に分散された場合にゲル電解質と呼ばれる。電解質層として液体電解質が用いられる場合、その溶媒としては電気化学的に不活性なものが用いられ、例えば、アセトニトリル、炭酸プロピレン、エチレンカーボネート等が用いられる。固体高分子電解質の例としては特開2001−160427号公報記載の電解質が、ゲル電解質の例としては「表面科学」21巻、第5号288〜293頁に記載の電解質が挙げられる。
【0174】
《対向電極》
本発明に用いられる対向電極について説明する。
【0175】
対向電極は導電性を有するものであればよく、任意の導電性材料が用いられるが、Iイオン等の酸化や他のレドックスイオンの還元反応を充分な速さで行わせる触媒能を持ったものの使用が好ましい。このようなものとしては、白金電極、導電材料表面に白金めっきや白金蒸着を施したもの、ロジウム金属、ルテニウム金属、酸化ルテニウム、カーボン等が挙げられる。
【0176】
〔太陽電池〕
本発明の太陽電池について説明する。
【0177】
本発明の太陽電池は、本発明の光電変換素子の一態様として、太陽光に最適の設計並びに回路設計が行われ、太陽光を光源として用いたときに最適な光電変換が行われるような構造を有する。即ち、色素増感された半導体に太陽光が照射されうる構造となっている。本発明の太陽電池を構成する際には、前記光電極、電解質層及び対向電極をケース内に収納して封止するか、あるいはそれら全体を樹脂封止することが好ましい。
【0178】
本発明の太陽電池に太陽光または太陽光と同等の電磁波を照射すると、半導体に担持された本発明に係る色素は照射された光もしくは電磁波を吸収して励起する。励起によって発生した電子は半導体に移動し、次いで導電性支持体を経由して対向電極に移動して、電荷移動層のレドックス電解質を還元する。一方、半導体に電子を移動させた本発明に係る色素は酸化体となっているが、対向電極から電解質層のレドックス電解質を経由して電子が供給されることにより、還元されて元の状態に戻り、同時に電荷移動層のレドックス電解質は酸化されて、再び対向電極から供給される電子により還元されうる状態に戻る。このようにして電子が流れ、本発明の光電変換素子を用いた太陽電池を構成することができる。
【実施例】
【0179】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0180】
実施例
《光電変換素子の作製》
(光電変換素子1の作製)
市販の酸化チタンペースト(粒径18nm)をフッ素ドープ酸化スズ(FTO)導電性ガラス基板上にドクターブレード法により塗布した。60℃で10分間加熱してペーストを乾燥した後、500℃で30分間焼成を行った。次に例示化合物1−1をアセトニトリル/メタノール=1/1混合溶媒に溶解し、3×10−4M/Lの溶液を作製した。酸化チタンを塗布焼結したFTOガラス基板を、この溶液に室温で4時間浸漬して、色素の吸着処理を行い光電変換電極とした。このようにして光電変換電極二部を作製し、一部はそのまま、一部は13ppmのオゾン雰囲気下で20分間オゾン暴露試験を行い、暴露前後の電極を用いて光電変換素子を作製した。
【0181】
電解液としてヨウ化リチウム0.4M、ヨウ素0.05M、4−(t−ブチル)ピリジン0.5Mを含む3−メチルプロピオニトリル溶液を用意した。対極に白金板を用い、先に作製した光電変換電極ならびに電解液をクランプセルで組み立てることにより光電変換素子1を得た。
【0182】
〔光電変換素子2〜16の作製〕
光電変換素子1の作製において、例示化合物1−1を表1に記載の化合物に変更した以外は同様にして、光電変換素子2〜16を作製した。
【0183】
【化64】

【0184】
《光電変換素子の評価》
作製した光電変換素子を、ソーラーシミュレータ(ワコム電創株式会社製、商品名;「WXS−85−H型」)を用い、AMフィルター(AM−1.5)を通したキセノンランプから100mW/cmの擬似太陽光を照射することにより行った。即ち、光電変換素子について、I−Vテスターを用いて室温にて電流−電圧特性を測定し、短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、及び形状因子(F.F.)を求め、これらから光電変換効率(η(%))を求めた。さらに、擬似太陽光を100時間曝露させた前後での変換効率の変化を比較した。
【0185】
なお、光電変換効率(η(%))は、下記式(A)に基づいて算出した。
【0186】
式(A) η=100×(Voc×Jsc×F.F.)/P
ここで、Pは入射光強度[mW/cm−2]、Vocは開放電圧[V]、Jscは短絡電流密度[mA・cm−2]、F.F.は形状因子を示す。
【0187】
評価の結果を表1に示す。
【0188】
【表1】

【0189】
表1より、擬似太陽光照射において、本発明の色素を用いた光電変換素子1〜13は、いずれも、比較色素S(ビニル基と酸性基との間にフェニル基が1つである従来の色素)を用いた光電変換素子14に比べ、高い耐光性を有することが分かる。
【0190】
〔光電変換素子17の作製〕
光電変換素子1で用いたものと同様のFTO導電性ガラス基板上に、アルコキシチタン溶液(松本工商:TA−25/IPA希釈)をスピンコート法にて塗布した。室温で30分放置後、450℃で30分間焼成を行い、短絡防止層とした。続いて、市販の酸化チタンペースト(粒径18nm)を上記基板へドクターブレード法により塗布した後、60℃で10分間加熱処理後、500℃で30分間焼成を行い、厚さ5μmの酸化チタン薄膜を有する半導体電極基板を得た。
【0191】
例示化合物1−16をアセトニトリル/メタノール=1/1混合溶媒に溶解し、3×10−4mol/Lの溶液を調製した。上記半導体電極基板を、この溶液に室温で4時間浸漬して、色素の吸着処理を行った後、クロロホルムで洗浄、真空乾燥し、光電変換電極とした。
【0192】
次に、トルエン溶媒中に、ホール輸送剤として、下記化合物(spiro−MeO TAD)0.17M、ホールドーピング剤としてN(PhBr)SbClを0.33mM、Li[(CFSON]15mMを溶解し、色素吸着後の上記光電変換電極上にスピンコートし、ホール移動層を形成した。さらに真空蒸着法により金を30nm蒸着し、対極を作製した。
【0193】
上記対極に、先に作製した光電変換電極ならびに電解液をクランプセルで組み立てることにより光電変換素子17を得た。
【0194】
【化65】

【0195】
〔光電変換素子18〜23の作製〕
光電変換素子15の作製において、例示化合物1−15を表2に記載の化合物に変更した以外は同様にして、光電変換素子18〜23を得た。得られた各光電変換素子について光電変換素子1と同様にして評価を行った。評価の結果を表2に示す。
【0196】
【表2】

【0197】
表2より、本発明の色素を用いた光電変換素子18〜22は、いずれも、比較色素S(ビニル基と酸性基との間にフェニル基が1つである従来の色素)を用いた光電変換素子23に比べ、オゾン暴露前後における光電変換効率比が高く、高い耐光性を有することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】本発明に用いられる光電変換素子の一例を示す構成断面図である。
【符号の説明】
【0199】
1、1′ 基板
2、7 透明導電膜
3 酸化物半導体
4 色素
5 電解質
6 対向電極
7 透明導電膜
8 白金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする化合物。
【化1】

(式中、Ar〜Arは各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。また、置換基が互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar、Arは各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。f、gはf+g≧2の整数を表す。Xは酸性基を有する有機残基を表し、R、Rは水素、ハロゲン原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。eは1〜5の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)が、下記一般式(2)または(3)で表されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化2】

(式中、Ar11〜Ar13は各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。または置換基が互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar14、Ar15、Ar24、Ar25は各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。i、jはi+j≧2、m、nはm+n≧2の整数を表す。また、X、Xは酸性基を有する有機残基を表し、R11、R12、R21、R22は水素、ハロゲン原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。h、lは1〜5の整数を表す。)
【化3】

(式中、Ar21〜Ar23は各々置換もしくは未置換のアリール基、複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。または置換基が互いに連結して環状構造を形成してもよい。Ar34、Ar35、Ar44、Ar45、Ar54、Ar55は各々置換もしくは未置換のアリール基または複素環基を表し、互いに連結して環状構造を形成してもよい。p、qはp+q≧2、s、tはs+t≧2、v、wはv+w≧2の整数を表す。X〜Xは酸性基を有する有機残基を表し、R31、R32、R41、R42、R51、R52は水素、ハロゲン原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、シアノ基または複素環基を表す。o、r、uは1〜5の整数を表す。)
【請求項3】
導電性支持体上の酸化物半導体に色素を担持させてなる色素担持半導体電極と対向電極とを有する光電変換素子において、請求項1または2に記載の化合物を含有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項4】
前記酸化物半導体が酸化チタンであることを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
請求項3または4に記載の光電変換素子を有することを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−269987(P2009−269987A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121028(P2008−121028)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】