説明

新規眼科用組成物及びその使用方法

本発明は、副交感神経遮断薬、交感神経用作用薬、及び局所麻酔薬の組み合わせ物を含むことを特徴とする医薬組成物に関する。このような組成物は、白内障手術の前に眼の前房へと注入されるか、又はレーザー治療の前に眼に滴下されてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は治療分野、とりわけ眼科分野に関する。
【0002】
本発明は、とりわけ、眼に対する外科手術若しくは身体手術(physical operation)の間又は手術の前における、眼の痛み及び/あるいは損傷を治療するための新規医薬組成物を扱う。
【0003】
本発明の対象は、より正確には、白内障の外科手術に対する眼の術前治療又は網膜のレーザー治療との関連における、副交感神経遮断薬、アドレナリン作動性物質、及び有利には局所麻酔薬に基づく組成物である。これらの活性成分は、眼の上又は中に同時に投与されるべきである。
【背景技術】
【0004】
本発明の特定の実施態様において、副交感神経遮断薬は散瞳薬であり、好ましくはトロパ酸誘導体、例えばトロパ酸エステル若しくはトロパ酸アミド、又はシクロヘキシル若しくはシクロペンチル酢酸アミドである。
【0005】
これらの副交感神経遮断薬のうち、特に以下を挙げてよい:シクロドリン(cyclodrine)、ユーカトロピン、ホマトロピン、及びアトロピン(トロパ酸のベンジルエステル)、N−メチルヒヨスチン、及び特にトロピカミド(N−エチル2−フェニルN−4ピリジルメチルヒドロアクリルアミド(hydracrylamide)又はピリジルメチルベンゼンアセトアミド)。
【0006】
局所麻酔薬のうち、とりわけ以下を挙げてよい:ブトカイン(butocaine)、プリロカイン、プロカイン、ノボカイン、テトラカイン、アンブカイン、アミロカイン、ブピバカイン、カルチカイン、ブトキシカイン、ホルモカイン、メピバカイン、エチドカイン、プリロカイン、オルトカイン、オキシブプロカイン、又はベノキシネート、及び主にリドカイン若しくはジエチルアミノ2,6ジメチルアセトアニリド、又はそれらの塩の一つ。
【0007】
アドレナリン作動性物質のうち、とりわけ以下を挙げてよい:ノルアドレナリン、フェニレフリン、イソプレナリン、ジピベフリン、ジメトロフィン(dimetrophine)、ノルフェネフリン、フォレドリン、又はオクテドリン(octedrine)。
【0008】
このタイプの組み合わせは、既に文献に記載されている。
【0009】
特に、Behndig A et al.(Acta Ophthalmologica Scandinavica(2004)82(2)144−147)による出版物には、水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsification)による外科手術との関連における前房内(intracameral)投与を意図した、0.1%シクロペントレート、1.5%フェニレフリン、及び1%リドカインを含む組成物の使用が記載されている。
【0010】
この出版物では、散瞳薬の前房内注入により得られた結果を、局所適用に得られた結果と比較した。作用、特に副作用に差異は全くない。エピネフリンの投与又はリドカインの前房内投与と関連する一般的作用(general effects)を避けることかこの技術で重要であるようだ。
【0011】
別の出版物(L. Apt et al. Am J. of Ophthalmology 89(4)(1980)553−559)には、それぞれの眼に1滴ずつ、眼に滴下する、トロピカミド(0.5%若しくは1%)又はシクロペントレート(0.5%)を2.5%フェニレフリンと組み合わせて含む眼科用組成物の使用が記載されている。ある場合には、2つの散瞳薬の組み合わせ物の滴下の前に、0.5%の麻酔用プロパラカインの滴を局所適用する。しかし、3つの活性成分の組み合わせは想定されていない。
【0012】
さらに、S.A. Miller and W.F. Mielerは、非常に高濃度(3.3%)のフェニレフリン、コカイン(局所麻酔薬、1.3%)、及びアトロピン(0.3%)の組み合わせ物の結膜下注射による全身的作用、特に血圧の上昇の誘導を実証した(Canad. J. Ophtal 13(1978)291−293)。この上昇に続いて、低血圧、肺水腫、及び心内膜虚血が起こった。この著者らは、眼に適用されるフェニレフリンの血圧に対する危険な影響を主張して結論づけている。
【0013】
示される濃度でのこれらの3重の組み合わせ、特に副交感神経遮断薬としてのシクロペントレートの使用は、本発明から除かれる。
【非特許文献1】L. Apt et al. Am J. of Ophthalmology 89(4)(1980)553−559
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来技術において最も類似すると考えられるこれらの参考文献は、強力な薬理作用と、全身的作用を有する薬剤の眼における吸収(resorption)による一般的作用のほぼ全体的な欠如とを効果的に組み合わせることの必要性を示している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の組成物は、特に白内障の外科治療における、外科手術の前又は外科手術の間に眼を処理(prepare)することに対して、特に前房内注入において、主要な関心のあるものである。前房の空間(chamber)の体積は、男性で300μLを超えないので、注入される組成物の体積は、好ましくは、200μL以下、特に50〜200μLであるべきだ。
【0016】
本発明の組成物はまた、網膜に対するレーザー診療の間又は事前に、洗眼剤(collyrium)で投与され得る。典型的には、1〜5滴(通常、20〜40μLの体積)を滴下し、これも、200μL以下の体積を示す。
【0017】
本発明の組成物は、できるだけ迅速な瞳孔検査及び外科手術を行うために、非常に急速な麻酔、並びにほぼ瞬間的な、かなり大きくかつ持続可能な瞳孔の拡張を提供できることを指摘することが重要である。また、対象が、受ける手術にほとんど苦しまないように、麻酔は長期にわたることが指摘されるべきである。このような組み合わせは、副交感神経遮断薬誘導体の散瞳作用を強化するが、長期にわたる散瞳により本質的に特徴づけられる視力の低下を導く過度の長期作用を示さない、という利点を有する。散瞳作用は、主に、視力及びバランスの障害へと変わる。
【0018】
従って、活性成分の比率は、正確に決定されなければならないと考えられた。
【0019】
本発明の組成物は、交感神経様作用薬の濃度、例えばフェニレフリンの濃度により、すなわち急減された濃度により、従来技術で記載されるものと区別され得る。有利には、副交感神経遮断薬の濃度もまた低減している。
【0020】
従って、ちょうど2つの散瞳薬の組み合わせは、低濃度の交感神経様作用薬又はさらには副交感神経遮断薬により、従来技術の溶液から区別される。
【0021】
有利には、本発明の組成物にはまた、局所麻酔薬が含まれる。
【0022】
本発明の医薬組成物には、0.001〜0.6%の副交感神経遮断薬、0.04〜0.5%の交感神経様作用薬、及び場合により0.2〜3%の局所麻酔薬が含まれる。
【0023】
好ましい組成物には、0.01〜0.5%の先に定義する副交感神経遮断薬、0.5〜1.5%の局所麻酔薬、及び0.1〜0.4%の交感神経様作用薬が含まれる。
【0024】
非常に好ましい本発明の眼科用組成物には、単一の調製物中、0.015〜0.025%の副交感神経遮断薬、有利にはトロピカミド、0.75〜1.25%のリドカイン、及び0.2〜0.4%フェニレフリンが含まれる。このような製剤は、特に、白内障の外科治療前の、眼の前房への注入に適している。このために、眼の前房における手術時に切開が為され、組成物はそこに注入される。眼のこの処理は、散瞳と局所麻酔とを同時にもたらし、好ましい条件下、後の水晶体摘出を可能にする。この正確な場合において、体積が0.05〜0.2 mLである調製物の単一注入が、所望の効果を提供する。
【0025】
レーザー手術の場合には、滴下される医薬組成物の濃度は、有利に適合される。特に、副交感神経遮断薬及び局所麻酔薬の濃度は、最も広範囲の濃度のより高い値で、著しく高いものである。従って、好ましくは、副交感神経遮断薬の濃度は、0.1〜0.25%であり、局所麻酔薬の濃度は、2〜3%であるだろう。使い捨て(single use)が意図されるこのような調製物では、防腐剤の使用は必要でなくてよい。従って、本発明の調製物は、いずれの防腐剤も含まなくてよい。この状況において、投与方法はまた異なってよく、1分の間隔で2〜4回、治療される眼に対して調製物の滴下が進められる。従って、痛みの鎮静は、より迅速かつ長期にわたって保証される。
【0026】
本発明では、3つの活性成分を、水性ビヒクル、有利には滅菌したものに溶解又は分散させる。本発明の組成物は、液体又は固体の形態、例えば、洗眼剤の形態、単回投与レシピエント(single−dose recipient)の形態、滴下可能な調製物の形態、即時使用可能な形態、又は凍結乾燥形態であって使用時に水性溶媒で再構成されるべきものなどで提供されてよい。
【0027】
本発明の組成物はまた、混合形態、例えば、別の活性成分を含む水溶液を添加することにより再構成されるべき凍結乾燥された1つの活性成分で提供されてよい。また、壊れやすい膜の上に別の活性成分を含む溶液が発見され得る、前記膜により覆われた1つの固体活性成分を含むボトルを有することも可能である。
【0028】
本発明は以下の実施例を用いてさらに定義されるだろう。
【0029】
[実施例]
[実施例1]
外科手術前の前房内注入のための使い捨て用(single−use)調製物(強力な用量):
・トロピカミド 0.00024 g;
・フェニレフリン(ヒドロクロリド) 0.0038 g;
・リドカイン(ヒドロクロリド) 0.00917 g;
・使い捨て用の1 mLボトルに十分な量の、注入可能な調製物用の水。
【0030】
本発明の調製物は、眼の前房(前房内領域)への注入により投与されるべきである。
【0031】
前記調製物は、全体的な安全性を有し扱いやすい単一パッケージングで呈示されてよく、ついで1 mL未満の液量、典型的には50〜200μLの液量で患者に投与され得た。
【0032】
[実施例2]
外科手術前の前房内注入のための使い捨て用調製物(常用量):
・トロピカミド 0.00016 g;
・フェニレフリン(ヒドロクロリド) 0.00258 g;
・リドカイン(ヒドロクロリド) 0.00943 g;
・使い捨て用の1 mLボトルに十分な量の、注入可能な調製物用の水。
【0033】
実施例1と同一条件下でこの調製物を使用する。
【0034】
[実施例3]
外科手術前に使用するための、トロピカミドを含み防腐剤を含まない洗眼剤:
・トロピカミド 0.05 g;
・ノルエピネフリン(ヒドロクロリド) 0.02 g;
・リドカイン(ヒドロクロリド) 0.12 g;
・滅菌精製水 10 mL。
【0035】
前記調製物は、使い捨て用パッケージングで呈示されるだろう。
【0036】
[実施例4]
レーザー前の投与のための防腐剤を含まない洗眼剤:
・トロピカミド 0.0015 g;
・フェニレフリン 0.030 g;
・ブピバカイン(ヒドロクロリド) 0.25 g;
・10 mLに十分な量の滅菌精製水。
【0037】
前記調製物は、使い捨て用パッケージングで呈示されるだろう。この洗眼剤は、特に、レーザー治療の間の痛みの治療に適している。
【0038】
本発明の洗眼剤は、同一日の間に、1滴、3回、眼に滴下されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
副交感神経遮断薬、交感神経様作用薬、及び局所麻酔薬の組み合わせ物を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
全体の調製物中、前記副交感神経遮断薬の濃度が0.001〜0.6%であり、前記局所麻酔薬の濃度が0.2〜3%であり、かつ前記交感神経様作用薬の濃度が0.04〜0.5%であることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記副交感神経遮断薬の濃度が、全体の調製物中、0.01〜0.50%まで変動し、前記局所麻酔薬の濃度が、全体の調製物中、0.5〜1.5%まで変動し、かつ前記交感神経様作用薬の濃度が、全体の調製物中、0.1〜0.4%まで変動することを特徴とする、白内障手術のための眼の処理に使用するための、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記副交感神経遮断薬の濃度が、全体の調製物中、0.015〜0.025%まで変動し、前記局所麻酔薬の濃度が、全体の調製物中、0.75〜1.25%まで変動し、かつ前記交感神経様作用薬の濃度が、全体の調製物中、0.2〜0.4%まで変動することを特徴とする、白内障手術のための眼の処理に使用するための、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記副交感神経遮断薬の濃度が、調製物中、0.1〜0.25%であり、前記局所麻酔薬の濃度が、調製物中、2〜3%まで変動し、かつ前記交感神経様作用薬の濃度が、調製物中、0.2〜0.4%であることを特徴とする、レーザー手術前の虹彩拡張及び麻酔に使用するための、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記副交感神経遮断薬がトロピカミドであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記局所麻酔薬が、ブトカイン、メピバカイン、テトラカイン、カルチカイン、ブトキシカイン、オルトカイン、及びリドカイン、又はそれらの塩の一つから選択されることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記交感神経様作用薬が、フェニレフリン、イソプレナリン、ジピベフリン、ノルフェネフリン、フォレドリン、及びオクテドリンから選択されることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記副交感神経遮断薬がトロピカミドであり、前記局所麻酔薬がリドカインであり、かつ前記交感神経様作用薬がフェニレフリンであることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項10】
溶液若しくは水性懸濁液の形態、単回投与用ボトル、又は再構成された凍結乾燥調製物若しくは使用時に再構成されるべき凍結乾燥調製物で提供されることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項11】
特に白内障手術のための、水晶体又は網膜の外科手術の前に眼の前房へと注入されるべき薬剤を製造するための、請求項1乃至10のいずれか一項記載の医薬組成物の使用。
【請求項12】
レーザー手術の前に眼に滴下されるべき薬剤を製造するための、請求項1乃至10のいずれか一項記載の医薬組成物の使用。

【公表番号】特表2008−532985(P2008−532985A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500234(P2008−500234)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000528
【国際公開番号】WO2006/095095
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(507286127)
【Fターム(参考)】