説明

新規FKI−1746−1およびFKI−1746−2物質並びにそれらの製造方法

【課題】微生物由来のマクロファージ内脂肪滴蓄積阻害作用を有する新規物質を提供する。
【解決手段】アスペルギルス属に属し、化合物FKI-1746-1及び/又は化合物FKI-1746-2を生産する能力を有する微生物、特にアスペルギルス・クラバトナニクスFKI-1746(Aspergillus clavatonanicus FKI-1746)(FERM AP-21482)を培地に培養し、培養物からFKI-1746-1物質及び/又はFKI-1746-2物質を採取する。これらの新規物質はマクロファージ内脂肪滴蓄積阻害作用を有し、動脈硬化症やそれに起因する疾病の予防、治療に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージ内の脂肪滴蓄積を特異的に阻害して動脈硬化症やそれに起因する疾病の予防や治療に有用な新規FKI-1746-1およびFKI-1746-2物質、それらの製造法、並びにそれらの用途に関する。さらに本発明は、新規FKI-1746-1およびFKI-1746-2物質の製造に使用する新規微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の向上に伴い、成人の高脂血症や肥満などの生活習慣病が、粥状動脈硬化症、さらには心筋梗塞、脳溢血や脳卒中など死と直結した病態へと進展することが知られている。現在、動脈硬化の予防治療薬としてスタチン系薬剤、例えばプラバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチンやアトロバスタチンなどが用いられているが、これら薬剤は、すべて体内でのコレステロール生合成の律速酵素の1つである HMG-CoA還元酵素を阻害することにより、血中のコレステロール値を低下させる効果に起因する。しかし、動脈硬化症は複雑でかつ複合的な成因によることからも、作用機構の異なる薬剤の開発が強く望まれている。
【0003】
粥状動脈硬化症の初期病変では、動脈内皮に浸潤したマクロファージが、血中を流れる低密度リポタンパク質(Low Density Lipoprotein; 以下 LDLと称することもある) が酸化や糖化などの何らかの変性を受けて生じる変性 LDLを認識し、際限なく取り込み、加水分解して生成する遊離のコレステロールや脂肪酸をコレステリルエステルやトリアシルグリセロールに変換して脂肪滴として細胞質に蓄積する過程を経て、動脈硬化を進展させることが知られている。従って、このマクロファージ内の脂肪滴蓄積の過程を阻害する物質は、直接動脈硬化巣の進展を抑止することが期待される。
【0004】
マクロファージ内への脂肪滴の蓄積(泡沫化)を抑制する化合物として、ジフェニルウレア化合物(特許文献1)、アニリド化合物(特許文献2)、ベンズイミダゾール(特許文献3)などが提案されている。このようなマクロファージ脂肪滴蓄積阻害剤に着目した開発がこれまで数多く試みられてきたが、そのほとんどは動物試験にて副腎毒性や下痢などの副作用を示し、開発中止に至っている。こうした背景から、副作用などが少なく、より安全で効果的な医薬品の開発が望まれている。また、そのような観点から本発明者等により、微生物由来のマクロファージ泡沫化阻害物質が提案されている(特許文献4、5)。
【特許文献1】特開2000-143629 号公報
【特許文献2】特開平10-29986号公報
【特許文献3】特開平9-31062 号公報
【特許文献4】国際公開第2004/033703 号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2002/081503 号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、さらに、より安全で効果的なマクロファージ脂肪滴蓄積を阻害する物質を微生物より見出すことを課題とする。また、動脈硬化症の病巣に直接働き、その進展を抑止するためのより安全で効果的な医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、微生物の生産する代謝産物を対象にマクロファージ脂肪滴蓄積阻害剤の検索を行った結果、新たに土壌から分離した真菌 FKI-1746 株の培養液中にマクロファージ脂肪滴蓄積を阻害する活性を有する物質が産生されていることを見出した。次いで、該培養物からマクロファージ脂肪滴蓄積阻害活性物質を分離・精製した結果、後述の化学構造を有する新規な物質であることを見出し、本物質をそれぞれFKI-1746-1およびFKI-1746-2物質と称することにした。
【0007】
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、下記の式[I]で表される化合物であるFKI-1746-1物質、および下記式[II]で表される化合物であるFKI-1746-2物質に関するものである。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
本発明はまた、アスペルギルス属に属し、上記FKI-1746-1物質および/または FKI-1746-2 物質を生産する能力を有する微生物を培地に培養し、培養物中にFKI-1746-1物質または FKI-1746-2 物質を蓄積せしめ、該培養物からFKI-1746-1物質または FKI-1746-2 物質を採取することを特徴とする新規FKI-1746-1物質または FKI-1746-2 物質の製造法に関する。
【0011】
上記製造法において、微生物は、アスペルギルス・クラバトナニクスFKI-1746 (Aspergillus clavatonanicus FKI-1746) (FERM AP-21482)であることが好ましい。
また本発明は、アスペルギルス属に属し、上記FKI-1746-1物質および/またはFKI-1746-2物質を生産する能力を有する微生物、特に、アスペルギルス・クラバトナニクスFKI-1746 (Aspergillus clavatonanicus FKI-1746) (FERM AP-21482)に関する。
【0012】
さらに本発明は、上記のFKI-1746-1物質を有効成分とする、マクロファージの脂肪滴蓄積阻害剤、および上記のFKI-1746-2物質を有効成分とする、マクロファージの脂肪滴蓄積阻害剤を提供する。また、上記FKI-1746-1物質を有効成分とする、動脈硬化症の予防剤または治療剤、および上記FKI-1746-2物質を有効成分とする、動脈硬化症の予防剤または治療剤も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マクロファージの脂肪滴蓄積阻害作用を有する新規物質FKI-1746-1およびFKI-1746-2が提供される。また、これらの物質を有効成分とする医薬組成物は、マクロファージの脂肪滴蓄積阻害剤、および動脈硬化の予防または治療剤として使用できる。さらに、本発明によれば、新規物質FKI-1746-1および/またはFKI-1746-2を生産する微生物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のFKI-1746-1物質およびFKI-1746-2物質は、アスペルギルス属に属し、FKI-1746-1物質および/またはFKI-1746-2物質を生産する能力を有する微生物を培地に培養し、培養物中にFKI-1746-1物質またはFKI-1746-2物質を蓄積せしめ、該培養物からFKI-1746-1物質またはFKI-1746-2物質を採取することにより製造することができる。
【0015】
本発明のFKI-1746-1またはFKI-1746-2物質を生産するために使用される菌株としては、一例として、本発明者等によって土壌より新に分離されたアスペルギルス・クラバトナニクス FKI-1746 株(Aspergillus clavatonanicus FKI-1746 が挙げられる。本菌株の菌学的性質は以下の通りである。
1.形態的特徴
本菌株は、ツァペック・イーストエキス寒天培地、20% サッカロース・ツァペック・イーストエキス寒天培地、麦芽汁寒天培地、ツァペック・ドックス寒天培地などで良好に生育し、各種寒天培地で分生子の着生は良好であった。
【0016】
ツァペック・イーストエキス寒天培地に生育したコロニーを顕微鏡で観察すると、菌糸は透明で隔壁を有しており、分生子柄は基底菌糸より直生する。分生子柄の先端は長いこん棒状に肥大し40-55 ×120-200 μm の頂のうを形成する。
【0017】
アスペルジラは単列性でフィアライドからなり、大きさは 4.0-6.0×2.5-3.0 μm でフィアライドが頂のうの全体を覆い、こん棒状に分裂した分生子頭を形成する。分生子は亜球形 楕円形で大きさは 2.5-2.8×2.8-5.0 μm で、その表面は滑面である。
2 .培養性状
各種寒天培地上で、25℃、7 日間培養した場合の肉眼的観察結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
3.生理的性状
1)最適生育条件
本菌株の最適生育条件は、pH 5〜6 、温度14.0〜32.0℃である。
【0020】
2)生育の範囲
本菌株の生育範囲は、pH 3〜10、温度6.0 〜34.0℃である。
3)好気性、嫌気性の区別
好気性
【0021】
上記FKI-1746株の形態的特徴、培養性状および生理的性状に基づき、既知菌種との比較を試みた結果、本菌株はアスペルギルス・クラバトナニクス (Aspergillus clavatonanicus) に属する一菌株と同定し、アスペルギルス・クラバトナニクスFKI-1746と命名した。なお本菌株はアスペルギルス・クラバトナニクスFKI-1746 (Aspergillus clavatonanicus FKI-1746)として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている(受領番号:FERM AP-21482)。
【0022】
本発明のFKI-1746-1および/またはFKI-1746-2物質を製造するには、上記アスペルギルス・クラバトナニクスFKI-1746株を用いるのが好ましいが、これに限定されることなく、該株の人工変異株や自然変異株も含めた、アスペルギルス属に属し、FKI-1746-1および/またはFKI-1746-2物質を生産する能力を有する微生物であればすべて使用することができる。
【0023】
上記微生物を培養するには、培地としては栄養源に微生物が同化し得る炭素源、消化し得る窒素源、さらに必要に応じて無機塩、ビタミン等を含有させた栄養培地が使用される。上記の同化し得る炭素源としては、グルコース、フラクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、デキストリン、澱粉等の糖類、大豆油等の植物性油脂類が単独でまたは組み合わせて用いられる。消化し得る窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粉、綿実粉、コーン・スティープ・リカー、麦芽エキス、カゼイン、アミノ酸、尿素、アンモニウム塩類、硝酸塩類が単独でまたは組み合わせて用いられる。その他必要に応じてリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの塩類、鉄塩、マンガン塩、銅塩、コバルト塩、亜鉛塩等の重金属塩類やビタミン類、その他FKI-1746-1およびFKI-1746-2物質の生産に好適なものが適宜添加される。
【0024】
培養の際、発泡が激しいときには、必要に応じて液体パラフィン、動物油、植物油、シリコン、界面活性剤等の消泡剤を添加してもよい。上記の培養は、上記栄養源を含有すれば、培地は液体でも固体でもよいが、通常は液体培地を用い培養するのがよい。目的物質を大量に工業生産する場合には、通気攪拌培養するのが好ましい。
【0025】
培養を大きなタンクで行う場合には、生産工程において菌の生育遅延を防止するために、はじめに比較的少量の培地に生産菌を接種培養した後、次に培養物を大きなタンクに移して、そこで生産培養するのが好ましい。この場合、前培養に使用する培地および生産培養に使用する培地の組成は、同一であっても異なっていてもよい。
【0026】
培養を通気攪拌条件で行う場合は、例えばプロペラやその他機械による攪拌、ファンメーターの回転または振盪、ポンプ処理、空気の吹き込み等、既知の方法が適宜使用される。通気用の空気は滅菌したものを使用する。
【0027】
また、培養温度は、本FKI-1746-1およびFKI-1746-2物質の生産菌がこれらの物質を生産する範囲内で適宜変更し得るが、通常は20〜30℃、好ましくは27℃前後で、適宜振盪培養と静置培養を単独または組み合わせて培養するのがよい。
【0028】
培養時間は培養条件によっても異なるが、FKI-1746-1物質の生産には、振盪培養と静置培養を組み合わせた場合、通常、10〜14日程度である。またFKI-1746-2物質の生産には振盪培養を用いるのが好ましく、その場合通常4〜7日程度である。
【0029】
培養物に蓄積された本発明の新規物質を採取するには、微生物培養物から代謝産物を採取するのに通常使用される方法を用いることができる。例えば、有機溶媒による抽出、濃縮、乾燥、吸着、濾過、遠心分離、クロマトグラフィーなどの方法により目的物質を分離・精製する。
【0030】
本発明のFKI-1746-1および/またはFKI-1746-2物質を、アスペルギルス・クラバトナニクスFKI-1746株の培養物から採取するには、全培養物をエタノール等の水混和性有機溶媒で抽出し、抽出液より減圧下において有機溶媒を留去した後、続いて残渣を酢酸エチル等の水不混和性有機溶媒で抽出することによって行われる。これらの抽出法に加え、脂溶性物質の採取に用いられる公知の方法、例えば吸着クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、遠心向流分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わせ、または繰り返すことによってFKI-1746-1およびFKI-1746-2物質を分離、精製することができる。
【0031】
このようにして得られた、本発明のFKI-1746-1物質の理化学的性状について以下に説明する。
(1)性状:白色粉末
(2)分子式:C25H21N5O3
HRFAB-MS (m/z) [M+H]+ 計算値440.1723, 実測値440.1771
(3)分子量:439
FAB-MS(m/z) で[M+H]+ 440, [M+Na]+ 462 を観測
(4)紫外部吸収スペクトル:エタノール溶液中で測定した紫外部吸収スペクトルは図1に示すとおりであり、λmax (EtOH,ε): 206 (38820), 226 (30187), 267 (9916), 278 (9408), 303 (3726), 315 (2977) nmの吸収を示す。
(5)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは図2に示すとおりであり、νmax 3448, 1716, 1623cm-1等に特徴的な吸収極大を示す。
(6)比旋光度: [α] D 22 - 44.68 °(c=0.01、エタノール)
(7)溶剤に対する溶解性:クロロホルムや酢酸エチルに易溶。メタノール、エタノールやアセトニトリルに可溶。水に不溶。
(8)プロトン及びカーボン核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中で、バリアン社製300MHz核磁気共鳴スペクトロメータで測定した水素の化学シフト(ppm )及び炭素の化学シフト(ppm )は下記に示すとおりである。
【0032】
δH : 1.36-1.44 (2H), 1.76 (1H), 1.80 (1H), 1.86 (1H), 1.90 (1H), 2.36 (1H), 2.97 (1H), 3.74 (1H), 4.62 (1H), 4.93 (1H), 5.69 (1H), 7.10 (1H), 7.28 (1H), 7.42 (1H), 7.50 (2H), 7.64 (1H), 7.74 (1H), 8.28 (1H) ppm
δC : 25.0, 29.7, 33.9, 53.0, 53.5, 56.5, 60.6, 69.4, 91.8, 116.8, 120.95, 123.9, 126.7, 127.1, 127.3, 127.8, 129.6, 135.0, 136.8, 137.7, 146.6, 151.1, 158.7, 170.7, 174.1 ppm
以上のように、FKI-1746-1物質の各種理化学性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果 FKI-1746-1 物質は下記の式[I]で表される化学構造であることが決定された。
【0033】
【化1】

【0034】
次に、本発明のFKI-1746-2物質の理化学的性状について説明する。
(1)性状:黄色粉末
(2)分子式:C27H27N5O4
HRFAB-MS (m/z) [M+H]+ 計算値486.2141, 実測値486.2126
(3)分子量:485
FAB-MS(m/z) で[M+H]+ 486, [M+Na]+ 508 を観測
(4)紫外部吸収スペクトル:エタノール溶液中で測定した紫外部吸収スペクトルは図1に示すとおりであり、λmax (EtOH,ε): 209 (42756), 300 (10180) nmの吸収を示す。
(5)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは図2に示すとおりであり、νmax 3432, 1685, 1596cm-1 等に特徴的な吸収極大を示す。
(6)比旋光度: [α] D 22 - 19.56 °(c=0.01、エタノール)
(7)溶剤に対する溶解性:メタノール、クロロホルムや酢酸エチルに可溶。水に不溶。
(8)プロトン及びカーボン核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中で、バリアン社製300MHz核磁気共鳴スペクトロメータで測定した水素の化学シフト(ppm )及び炭素の化学シフト(ppm )は下記に示すとおりである。
【0035】
δH : 1.50 (3H), 1.62 (3H), 2.02 (3H), 2.35 (1H), 2.42 (3H), 2.65 (1H), 5.37 (1H), 5.87 (1H), 7.11 (1H), 7.32 (1H), 7.33 (1H), 7.50 (1H), 7.54 (1H), 7.70 (1H), 7.79 (1H), 7.98 (1H), 8.29 (1H) ppm
δC : 21.2, 21.9, 24.8, 25.6, 40.2, 51.3, 65.7, 74.4, 77.9, 115.9, 119.8, 120.5, 124.2, 125.5, 127.0, 127.6 (x2), 130.4, 132.7, 134.9, 136.7, 137.8, 145.2, 146.9, 160.4, 168.0, 173.9 ppm
以上のように、FKI-1746-2物質の各種理化学性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果、FKI-1746-2物質は下記の式[II]で表される化学構造であることが決定された。
【0036】
【化2】

【0037】
本発明の物質FKI-1746-1およびFKI-1746-2は、後述の試験例に示すように、マクロファージの脂肪滴蓄積阻害作用を有する。従って、これらの物質はマクロファージの脂肪滴蓄積が重要な役割を果たしている動脈硬化巣の進展を抑えることができ、動脈硬化症やそれに起因する疾病の予防薬または治療薬として有用である。
【0038】
本発明の物質FKI-1746-1およびFKI-1746-2は、それぞれ単独であるいは組み合わせて、マクロファージの脂肪滴蓄積阻害剤、または動脈硬化症やその関連疾患の予防薬または治療薬として使用でき、製剤化は常法によればよい。例えば、本発明物質を有効成分とし、慣用の担体や賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、緩衝剤、懸濁化剤、安定化剤、pH調節剤、着色剤、矯味剤、香料などを添加し、溶液、懸濁液、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などに製剤化することができる。
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
FKI-1746-1物質の製造方法
寒天斜面培地 (グリセロール 0.1 % (関東化学) 、KH2PO4 0.08 % (関東化学) 、K2HPO4 0.02 % (関東化学) 、MgSO4 ・7H2O 0.02 % (和光純薬) 、KCl 0.02 % (関東化学) 、NaNO3 0.2 % (和光純薬) 、酵母エキス 0.02%(オリエンタル酵母)、寒天 1.5 %(清水食品)、pH 6.0に調製) で培養したFKI-1746株を、種培地 (グルコース 2 % (和光純薬) 、ポリペプトン 0.5 % (和光純薬) 、MgSO4 ・7H2O 0.05 % (和光純薬) 、酵母エキス 0.2 % (オリエンタル酵母) 、KH2PO4 0.1 % (関東化学) 、寒天 0.1% (清水食品)pH 6.0に調製) 10 mL を分注した大試験管に一白金耳ずつ接種し、27°C で 3日間ロータリーシェイカー (210 rpm)で培養した後、生産培地 (グリセロール 3.0 % (関東化学) 、オートミール 2.0 % (日本食品製造合資) 、ダイゴ人工海水1.8%(日本製薬)、乾燥酵母 1.0 % (旭化成) 、KH2PO4 1.0 % (関東化学) 、Na2HPO4 1.0 % (関東化学) 、MgCl2 ・6H2O 0.5 % (関東化学) 、 pH 未調整) 3 L を分注した 500 mL 容三角フラスコに 1% 植菌し、27°C で 3日間振とう培養後、さらに 10 日間静置培養を行った。
【0041】
培養終了後、この培養液 (3 L)にエタノール(3 L )を加え、1時間撹拌後抽出液を得た。さらに、減圧下でエタノールを留去して 3 Lの濃縮液とした。この濃縮液より酢酸エチル(3 L )で活性成分を抽出し、酢酸エチル層を濃縮乾固し褐色活性粗物質(5.81 g)を得た。この粗物質をシリカゲルカラム(シリカゲル 60 、メルク社製、30 g)にて粗精製を行った。クロロホルムーメタノール(100:0 、100:1 、50:1、25:1、10:1、5:1 、1:1 、0 :100 )の各混合溶媒を展開溶媒とするクロマトグラフィーを行い、溶出液を各条件で 400 mL に分画した。FKI-1746-1物質を含む画分(50:1フラクション)を濃縮することで、褐色物質 974.76 mgを得た。これを少量のメタノールに溶解し、分取 HPLC ( カラム : PEGASIL ODS、20φ× 250 mm 、センシュー科学) により最終精製を行った。35 %アセトニトリル水溶液のアイソクラティックを移動相とし、6 mL/minの流速において、UV 210 nm の吸収をモニターした。保持時間 31 min に活性を示すピークを観察し、このピークを分取して分取液を減圧下濃縮し白色粉末のFKI-1746-1成分を収量 5.27 mgで単離した。
【実施例2】
【0042】
FKI-1746-2物質の製造方法
寒天斜面培地 (グリセロール 0.1 % (関東化学) 、KH2PO4 0.08 % (関東化学) 、K2HPO4 0.02 % (関東化学) 、MgSO4 ・7H2O 0.02 % (和光純薬) 、KCl 0.02 % (関東化学) 、NaNO3 0.2 % (和光純薬) 、酵母エキス 0.02%(オリエンタル酵母)、寒天 1.5 %(清水食品)、pH 6.0に調整) で培養したFKI-1746株を、種培地 (グルコース 2 % (和光純薬) 、ポリペプトン 0.5 % (和光純薬) 、MgSO4 ・7H2O 0.05 % (和光純薬) 、酵母エキス 0.2 % (オリエンタル酵母) 、KH2PO4 0.1 % (関東化学) 、寒天 0.1% (清水食品)pH 6.0に調製) 100 mLを分注した500 mL容三角フラスコに一白金耳ずつ接種し、27°C で 3日間ロータリーシェイカー (210 rpm)で培養した後、生産培地 (グリセロール 3.0 % (関東化学) 、オートミール 2.0 % (日本食品製造合資) 、乾燥酵母 1.0 % (旭化成) 、KH2 PO4 1.0 % (関東化学) 、Na2HPO4 1.0 % (関東化学) 、MgCl2 ・6H2O 0.5 % (関東化学) 、 pH 未調製) 20 Lを分注した 30 L 容ジャーファーメンターに 1% 植菌し、27°C で 7日間培養した。
【0043】
培養終了後、この培養液 (20 L) にエタノール(20 L)を加え、1時間撹拌後抽出液を得た。さらに、減圧下でエタノールを留去して 20 L の濃縮液とした。この濃縮液より酢酸エチル(20 L)で活性成分を抽出し、酢酸エチル層を濃縮乾固し黄色油状の活性粗物質(35.5 g)を得た。この粗物質をシリカゲルカラム(シリカゲル 60 、メルク社製、350 g )にて粗精製を行った。クロロホルムーメタノール(100:0 、100:1 、50:1、10:1、1:1 )の各混合溶媒を展開溶媒とするクロマトグラフィーを行い、溶出液を各条件で 1 Lに分画した。FKI-1746-2物質を含む画分(100:0 フラクション)を濃縮することで、黄色油状物質 4.97 g を得た。この粗物質をシリカゲルカラム(シリカゲル 60 、メルク社製、50 g)にて精製を行った。ヘキサンー酢酸エチル(20:1、10:1、5:1 、1:1 )の混合溶媒を展開溶媒とするクロマトグラフィーに続き、クロロホルムーメタノール(100:0 、50:1、1:1 )の各混合溶媒を展開溶媒とするクロマトグラフィーを行い、溶出液を各条件で 300 mL に分画した。FKI-1746-2物質を含む画分(クロロホルムーメタノール 50:1 )を濃縮することで、黄色油状物質432 mgを得た。さらに、この粗物質をODS カラムクロマトグラフィー(センシュー科学社製、4 g )にて精製を行った。アセトニトリルー水(30:70 、40:60 、50:50 、60:40 、70:30 、80:20 、100:0 )の混合溶媒を展開溶媒とするクロマトグラフィーを行い、溶出液を各条件で15 mL に分画した。FKI-1746-2物質を含む画分(アセトニトリルー水 50:50)を濃縮することで、黄色物質42.8 mg を得た。これを少量のメタノールに溶解し、分取 HPLC ( カラム : PEGASIL ODS、20φ× 250 mm 、センシュー科学) を行った。20 %アセトニトリル水溶液のアイソクラティックを移動相とし、6 mL/minの流速において、UV 210 nm の吸収をモニターした。保持時間 28 min に活性を示すピークを観察し、このピークを分取して分取液を減圧下濃縮し、残渣水溶液を凍結乾燥することにより黄色粉末11.65 mgを得た。これを少量のメタノールに溶解し、分取 HPLC ( カラム : PEGASIL ODS、20φ× 250 mm 、センシュー科学) により最終精製を行った。
【0044】
20 % アセトニトリル 0.05%トリフルオロ酢酸水溶液のアイソクラティックを移動相とし、6 mL/minの流速において、UV 210 nm の吸収をモニターした。保持時間 26 min に活性を示すピークを観察し、このピークを分取して分取液を減圧下濃縮し、残渣水溶液を凍結乾燥することにより黄色粉末のFKI-1746-2成分を収量 6.47 mgで単離した。
【0045】
試験例1)
本発明のFKI-1746-1物質およびFKI-1746-2物質のマウス腹腔マクロファージ内でのコレステリルエステル及びトリアシルグリセロールの形成に対する阻害作用を以下の方法により試験した。
【0046】
マウス腹腔マクロファージ内でのコレステリルエステル及びトリアシルグリセロール形成は生田目らの方法(J. Biochem. 125 巻、317-327 頁、1999年)に従って行った。
マウス腹腔より単離したマクロファージを6.8%リポ蛋白質欠乏血清含有のダルベッコ改変イーグル培地(6.8%LPDS-DMEM 培地)に2.0 ×105 cells/mlで懸濁して、48穴マイクロプレート(Corning 社製)に0.25 ml ずつまく。
【0047】
次に、5%炭酸ガスインキュベーター内で37℃、2 時間培養を行った後、付着しない細胞をハンクス液(Hank’s solution)で洗浄することにより除去する。洗浄後、6.8%LPDS-DMEM 培地で一時間培養した後、サンプル(2.5 μlメタノール溶液)、リポソーム(10μlの0.3 M グルコース中にホスファチジルコリン/ホスファチジルセリン/ジセチルホスフェート/コレステロール=10: 10: 2: 15 (nmol)の組成から構成されている)及び [1-14C]オレイン酸(5 μl、1.85 kBq、1nmol )を添加し、さらに14時間培養した。
【0048】
培養上清を除去し、細胞内中性脂質をヘキサン0.6 mlとイソプロパノール0.4 mlを加えて2回抽出した。これを濃縮後、TLC (シリカゲルプレート、メルク社製、厚さ0.5 mm)にスポットし、ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70: 30: 1 、v/v )の溶媒で展開し、分離した [14C]コレステリルオレートと[14C] トリアシルグリセロールの量をBAS 2000 (富士フィルム社製) で定量した。その結果、FKI-1746-1物質および FKI-1746-2 物質は、[14C] コレステリルオレートの形成を阻害し、それぞれのIC50値は、59.9と 44.9 μg/mL と測定された。
【0049】
以上のように、本発明の新規物質FKI-1746-1およびFKI-1746-2は、マクロファージの脂肪滴蓄積阻害作用を有することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明によるFKI-1746-1物質の紫外部吸収スペクトル(エタノール溶液中)を示す図である。
【図2】本発明によるFKI-1746-1物質の赤外部吸収スペクトル(臭化カリウム法)を示しす図である。
【図3】本発明によるFKI-1746-1物質のプロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示す図である。
【図4】本発明によるFKI-1746-1物質のカーボン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示す図である。
【図5】本発明によるFKI-1746-2物質の紫外部吸収スペクトル(エタノール溶液中)を示す図である。
【図6】本発明によるFKI-1746-2物質の赤外部吸収スペクトル(臭化カリウム法)を示す図である。
【図7】本発明によるFKI-1746-2物質のプロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示す図である。
【図8】本発明によるFKI-1746-2物質のカーボン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]で表される化合物であるFKI-1746-1物質。
【化1】

【請求項2】
下記式[II]で表される化合物である FKI-1746-2 物質。
【化2】

【請求項3】
アスペルギルス属に属し、FKI-1746-1物質および/または FKI-1746-2 物質を生産する能力を有する微生物を培地に培養し、培養物中にFKI-1746-1物質または FKI-1746-2 物質を蓄積せしめ、該培養物からFKI-1746-1物質または FKI-1746-2 物質を採取することを特徴とする、請求項1記載のFKI-1746-1物質または請求項2記載の FKI-1746-2 物質の製造法。
【請求項4】
アスペルギルス属に属し、FKI-1746-1物質および/または FKI-1746-2 物質を生産する能力を有する微生物が、アスペルギルス・クラバトナニクスFKI-1746 (Aspergillus clavatonanicus FKI-1746) (FERM AP-21482)である請求項3記載の製造法。
【請求項5】
アスペルギルス属に属し、請求項1記載のFKI-1746-1物質および/または請求項2記載のFKI-1746-2物質を生産する能力を有する微生物。
【請求項6】
アスペルギルス・クラバトナニクスFKI-1746 (Aspergillus clavatonanicus FKI-1746) (FERM AP-21482)である請求項5記載の微生物。
【請求項7】
請求項1記載のFKI-1746-1物質を有効成分とする、マクロファージの脂肪滴蓄積阻害剤。
【請求項8】
請求項1記載のFKI-1746-1物質を有効成分とする、動脈硬化症の予防剤または治療剤。
【請求項9】
請求項2記載のFKI-1746-2物質を有効成分とする、マクロファージの脂肪滴蓄積阻害剤。
【請求項10】
請求項2記載のFKI-1746-2物質を有効成分とする、動脈硬化症の予防剤または治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−184946(P2009−184946A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25155(P2008−25155)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】