説明

日焼け細胞形成抑制剤

【課題】優れた細胞形成抑制効果を発現する日焼け細胞形成抑制剤、ならびに当該日焼け細胞形成抑制剤を含有する皮膚用外用剤および化粧料を提供すること。
【解決手段】有効成分として、ガロイル基含有アルビフロリンおよびガロイル基含有ペオニフロリンからなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイル基含有化合物を含有することを特徴とする日焼け細胞形成抑制剤、ならびに前記日焼け細胞形成抑制剤を含有する皮膚用外用剤および化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日焼け細胞形成抑制剤に関する。さらに詳しくは、日焼け細胞形成抑制剤、当該日焼け細胞形成抑制剤を含有する皮膚用外用剤および化粧料、ならびに当該日焼け細胞形成抑制剤に有用な新規化合物である4−O−ガロイルアルビフロリンに関する。
【背景技術】
【0002】
人体の皮膚が太陽光線に含まれている紫外線に暴露されたとき、その表皮細胞が傷害を受け、壊死した表皮細胞である日焼け細胞(サンバーンセル)が形成されることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
本発明者らは、紫外線による皮膚障害に対する皮膚細胞自体の抵抗力を向上させる日焼け細胞形成抑制剤として、シャクヤク抽出物を有効成分として含有するサンバーンセル形成抑制剤を開発している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、前記日焼け細胞形成抑制剤は、シャクヤク抽出物を有効成分とするものであり、確かに優れた日焼け細胞形成抑制効果を発現するが、さらに一層優れた日焼け細胞形成抑制効果を発現する日焼け細胞形成抑制剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−246410号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジョンソン・ビーイー(Johnson BE)ら、「ジャーナル・オブ・インベスティゲイティブ・デルマトロジー (Journal of Investigative Dermatology)、1969年、第53巻、p.85−93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、シャクヤク抽出物を有効成分として含有する日焼け細胞形成抑制剤よりもさらに一層優れた日焼け細胞形成抑制効果を発現する日焼け細胞形成抑制剤、および当該日焼け細胞形成抑制剤を含有する皮膚用外用剤および化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)有効成分として、ガロイル基含有アルビフロリンおよびガロイル基含有ペオニフロリンからなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイル基含有化合物を含有することを特徴とする日焼け細胞形成抑制剤、
(2)ガロイル基含有アルビフロリンが、式(I):
【0009】
【化1】

【0010】
で表される4−O−ガロイルアルビフロリン、式(II):
【0011】
【化2】

【0012】
で表される6'−O−ガロイルアルビフロリン、およびそれらの薬理的に許容しうる塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイルアルビフロリン化合物である前記(1)に記載の日焼け細胞形成抑制剤、
(3)ガロイル基含有ペオニフロリンが式(III):
【0013】
【化3】

【0014】
で表されるガロイルペオニフロリンおよびその薬理的に許容しうる塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイルペオニフロリン化合物である前記(1)または(2)に記載の日焼け細胞形成抑制剤、
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の日焼け細胞形成抑制剤を含有してなる皮膚用外用剤、
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の日焼け細胞形成抑制剤を含有してなる化粧料、ならびに
(6)式(I):
【0015】
【化4】

【0016】
で表される4−O−ガロイルアルビフロリン
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の日焼け細胞形成抑制剤は、シャクヤク抽出物を有効成分として含有する日焼け細胞形成抑制剤よりも一層優れた細胞形成抑制効果を発現するという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】シャクヤク抽出物が添加された三次元皮膚モデルの組織片の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、シャクヤク抽出物を有効成分として含有する日焼け細胞形成抑制剤に着目して研究を重ねたところ、シャクヤクに含まれている主要物質であるペオニフロリンおよびアルビフロリンには、日焼け細胞形成抑制効果がほとんど認められず、また没食子酸でも日焼け細胞形成抑制効果がほとんど認められないことが判明した。ところが、本発明者らがさらに鋭意研究を重ねたところ、驚くべきことに、没食子酸エステルのなかでも特定のエステル基を有する没食子酸エステル、すなわちガロイル基含有アルビフロリンおよびガロイル基含有ペオニフロリンが優れた日焼け細胞形成抑制効果を発現することが見出された。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0020】
本発明の日焼け細胞形成抑制剤は、有効成分として、ガロイル基含有アルビフロリンおよびガロイル基含有ペオニフロリンからなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイル基含有化合物を含有することを特徴とする。また、ガロイル基含有アルビフロリンのなかでも、式(I)で表される4−O−ガロイルアルビフロリンは、本発明者らによって見出された新規化合物である。
【0021】
本発明の日焼け細胞形成抑制剤に含有されるガロイル基含有アルビフロリンおよびガロイル基含有ペオニフロリンの原料として、例えば、シャクヤクを用いることができる。なお、シャクヤクとは、ボタン科ボタン属芍薬(Paeonia lactiflora PallasまたはPaeonia albiflora Pallas)のことを意味する。原料として用いられるシャクヤクの部位としては、例えば、葉、幹、種子、根茎などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの部位のなかでは、根茎が好ましい。根茎は、例えば、その外皮を除去し、乾燥させた後、粉末化させることによって用いることができる。
【0022】
本発明の日焼け細胞形成抑制剤に含有されるガロイル基含有アルビフロリンおよびガロイル基含有ペオニフロリンの原料としてシャクヤクを用いる場合、シャクヤクを溶媒抽出することによって得られたシャクヤク抽出液を用いることができる。
【0023】
シャクヤク抽出液は、例えば、シャクヤクを水、親水性溶媒、親油性溶媒などの抽出溶媒に浸漬し、必要に応じて加熱下または加圧下で攪拌することによって得ることができる。
【0024】
抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの炭素数2〜5の多価アルコールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどの低級脂肪族ケトンなどに代表される親水性有機溶媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。抽出溶媒のなかでは、水と親水性有機溶媒との併用が好ましく、水とアルコール系溶媒との併用がより好ましく、水とエタノールまたは1,3−ブチレングリコールとの併用がさらに好ましい。水と親水性有機溶媒とを併用する場合、水と親水性有機溶媒との比率(水/親水性有機溶媒:容量比)は、特に限定されないが、通常、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは30/70〜70/30である。
【0025】
次に、シャクヤク抽出液をカラムクロマトグラフィーで水およびエタノールを用いて溶出させ、水溶出分および各分画分に粗分画した後、必要により、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどによって分離・精製を行なうことにより、シャクヤク抽出液に含まれているガロイル基含有化合物を単離することができる。単離されたガロイル基含有化合物は、常法に従って同定することにより、その構造および分子量を特定することができる。
【0026】
以上のようにしてシャクヤク抽出液に含まれている化合物を単離することができる。このシャクヤク抽出液に含まれている化合物のなかでも、式(I)で表される4−O−ガロイルアルビフロリン、式(II)で表される6'−O−ガロイルアルビフロリンなどに代表されるガロイル基含有アルビフロリン、および式(III)で表されるガロイルペオニフロリンなどに代表されるガロイル基含有ペオニフロリンなどのガロイル基含有化合物が優れた日焼け細胞形成抑制効果を発現することは、以下の実施例で確認されている。なお、ガロイル基含有化合物は、所望により、薬理的に許容しうる塩に変換することもできる。薬理的に許容しうる塩への変換は、慣用の方法に従って行なえばよい。
【0027】
本発明の日焼け細胞形成抑制剤は、有効成分として、ガロイル基含有アルビフロリンおよびガロイル基含有ペオニフロリンからなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイル基含有化合物を含有することを特徴とする。
【0028】
ガロイル基含有アルビフロリンのなかでは、式(I)で表される4−O−ガロイルアルビフロリン、式(II)で表される6'−O−ガロイルアルビフロリン、およびそれらの薬理的に許容しうる塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイルアルビフロリン化合物は、日焼け細胞形成抑制効果の観点から、好適に使用することができる。
【0029】
ガロイル基含有ペオニフロリンのなかでは、式(III)で表されるガロイルペオニフロリンおよびその薬理的に許容しうる塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイルペオニフロリン化合物は、日焼け細胞形成抑制効果の観点から、好適に使用することができる。
【0030】
本発明の日焼け細胞形成抑制剤は、前記ガロイル基含有化合物のみから構成されていてもよく、あるいは製剤化したものであってもよい。
【0031】
本発明の日焼け細胞形成抑制剤は、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどの薬学的に許容しうるキャリアー、その他の任意の助剤を用い、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状などの任意の剤形に製剤化することができる。助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
本発明の皮膚用外用剤は、前記日焼け細胞形成抑制剤を含有するものである。皮膚用外用剤としては、例えば、軟膏剤、外用液剤、貼付剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0033】
皮膚用外用剤における日焼け細胞形成抑制剤の含有量は、その用途や剤形などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、好ましくは0.001〜50質量%、より好ましくは0.01〜30質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。
【0034】
本発明の化粧料は、前記日焼け細胞形成抑制剤を含有するものである。化粧料としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、メイクアップクリーム、化粧用オイル、パック、ファンデーション、口紅、頬紅、アイライナー、マスカラ、アイシャドー、マニキュア、白粉、浴用剤、美白剤、サンスクリーン剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0035】
化粧料における日焼け細胞形成抑制剤の含有量は、その用途や剤形などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、好ましくは0.001〜50質量%、より好ましくは0.01〜30質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。
【0036】
本発明の皮膚用外用剤および化粧料には、例えば、油脂、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン、界面活性剤、防腐剤、糖類、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子化合物、増粘剤、粉体、紫外線吸収剤、紫外線遮断剤、保湿剤、香料、pH調整剤などを使用することができる。また、本発明の皮膚用外用剤および化粧料には、必要に応じて、例えば、ビタミン類、皮膚賦活剤、血行促進剤、常在菌コントロール剤、活性酸素消去剤、抗炎症剤、殺菌剤などの薬効成分、生理活性成分、希釈剤、賦形剤、結合剤などを含有させてもよい。
【0037】
なお、本発明の日焼け細胞形成抑制剤は、ヒトのほか、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシなどの各種哺乳動物にも適用することができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
実施例1
(1)抽出
原料として、シャクヤクの根茎の外皮を除去し、乾燥させてフードプロセッサー(粉砕機)にて粉砕させたもの0.4kgおよび抽出溶媒として80容量%エタノール水溶液2Lを丸底フラスコに投入し、水浴上にて80℃で2時間還流させた後、室温まで放冷し、得られた抽出液を濾過することによって濾液を回収した。
【0040】
次に、エバポレーターを用いて前記で得られた濾液から溶媒(80%エタノール水溶液)を減圧留去後、凍結乾燥することにより、シャクヤクの80%エタノール抽出物148.1gを得た(収率:約37%)。
【0041】
(2)分画
前記で得られたシャクヤクの80%エタノール抽出物148.1gを精製水3Lに溶解させた溶液を、直径約5cmのカラムの溶出部にガラスウールを詰め、多孔性樹脂〔三菱化学(株)製、商品名:ダイアイオンHP20〕が充填されたカラムに通すことにより、抽出物を多孔性樹脂に添着させた。
【0042】
次に、このカラムに、展開溶媒として、精製水2L(画分1)、20%エタノール水溶液2L(画分2)、40%エタノール水溶液2L(画分3)、60%エタノール水溶液2L(画分4)、80%エタノール水溶液2L(画分5)、99%エタノール水溶液2L(画分6)を順次通すことにより、各溶媒による溶出を行ない、各画分における溶出液を回収した後、各溶出液に含まれている溶媒を減圧留去し、溶出物を得た。
【0043】
前記画分3の溶出物(原料に対する収率:約2%、カラムにおける固形分に対する収率:約5.4%)7.0gをメタノール100mLに溶解させ、得られた溶液に添着用シリカゲル〔メルク(MERCK)社製、商品名:Silicagel 60)15gを添加し、溶媒を減圧留去し、前記溶出物をシリカゲルに吸着させた吸着物を得た。
【0044】
直径8cm、長さ60cmのカラムの溶出部にガラスウールを詰め、カラム内にクロロホルムを添加した後、海砂を充填した。このカラム内に、展開用シリカゲル〔メルク(MERCK)社製、商品名:Silicagel 60〕600gにクロロホルム5000mLを添加したものを充填した後、前記で得られた吸着物を充填し、さらにその上段に海砂を充填した。
【0045】
次に、このカラムに、展開溶媒として、クロロホルム:メタノール:精製水=10:3:1溶液2L(Fr.1)、クロロホルム:メタノール:精製水=10:3:1溶液2L(Fr.2)、クロロホルム:メタノール:精製水=10:3:1溶液3L(Fr.3)、クロロホルム:メタノール:精製水=7:3:1溶液3L(Fr.4)、クロロホルム:メタノール:精製水=7:3:1溶液2L(Fr.5)を順次通すことにより、各溶媒による溶出を行ない、各画分における溶出液を回収した後、各溶出液に含まれている溶媒を減圧留去し、溶出物を得た。その結果、Fr.3での収率は、カラムにおける固形分に対し、約17.7%であり、Fr.4での収率は、カラムにおける固形分に対し、約8.0%であった。
【0046】
(3)分取
Fr.3およびFr.4のそれぞれについて、リサイクル高速液体クロマトグラフィー(HPLC)〔日本分光工業(株)製、品番:LC−908〕を用い、各成分を分取した。Fr.3については、移動層で8回カラム内を通過させることにより、各成分を分離した後に分取し、Fr.3−1およびFr.3−2とした。また、Fr.4については、移動層で8回カラム内を通過させることにより、各成分を分離した後に分取し、Fr.4−1〜Fr.4−5とした。
【0047】
なお、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の条件は、以下のとおりである。
・分取カラム:日本分析工業(株)製、商品名:JAIGEL GS310(20mm×500mm)を2本連結させて使用
・カラム温度:30℃
・流速:5mL/min
・検体濃度:100mg/mL[HPLC用メタノール〔和光純薬工業(株)製〕に溶解]
・注入量:3mL
・検出:254nm
・移動層:メタノール
【0048】
前記で得られた各画分に含まれている成分を調べたところ、ペオニフロリンがFr.2、Fr.3−1およびFr.4−2で観察され、アルビフロリンがFr.3−1およびFr.4−1で観察され、ガロイルペオニフロリンがFr.3−2およびFr.4−4で観察され、6'−O−ガロイルアルビフロリンがFr.4−3で観察され、未知化合物がFr.4−5で観察された。
【0049】
実施例2
実施例1で得られたFr.4−5に含まれている未知化合物の同定を以下の方法によって行なった。
(1)質量分析
質量分析装置〔日本電子(株)製、商品名:JMS-AX505HA〕を用いてFr.4−5に含まれている未知化合物の質量分析を行なった。その結果、4−O−ガロイルアルビフロリンであった。
【0050】
(2)核磁気共鳴
核磁気共鳴測定機器〔日本電子(株)製、商品名:JNM-AL300〕を用いてFr.4−5に含まれている未知化合物の核磁気共鳴として、1H−NMR、13C−NMR、HMQCおよびHMBCを調べた。
なお、1H−NMR、13C−NMR、HMQCおよびHMBCの測定条件は、以下のとおりである。
【0051】
1H−NMR:300MHz、室温、積算回数256回
13C−NMR:75MHz、室温、積算回数6000回
・HMQC:室温、積算回数80回
・HMBC:室温、測定範囲:1H(9.9〜−0.1ppm)、13C(200〜0ppm)
・PI1 60ms、積算回数:256回
・PI1 62.5ms、積算回数:336回
・PI1 75ms、積算回数:256回
【0052】
13C−NMRの測定結果において、未知化合物と6'−O−ガロイルアルビフロリンとは、6'位および4位の炭素のデータを除き、相似性を有していた。また、未知化合物の分子量をFABMS〔日本電子(株)製、商品名:JMS-AX505HA〕により測定したところ、未知化合物には、6'−O−ガロイルアルビフロリンと同様に、633(m/z)にピークが検出された。
【0053】
なお、FABMSによる測定条件は、以下のとおりである。
・分解能:500
・使用ガスの種類:キセノンガス
・測定質量範囲:50−800m/z
・一次加速電圧:6.0kV
・二次加速電圧:3.0kV
・イオンマルチプライヤ:1.4kV
・マトリクス:m−ニトロベンジルアルコール
【0054】
以上のことから、未知化合物は、アルビフロリンを母核とし、官能基の結合位置が6'−O−ガロイルアルビフロリンと異なる構造異性体である可能性が強く示唆され、式:
【0055】
【化5】

【0056】
で表される化合物であることが推定された。
【0057】
未知化合物の1H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトルおよびHMBC解析によるCとHとの相関を表1に示す。なお、表1において、「位置」とは、上記式における位置を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示されるように、HMBC解析から6'位のCのH(5.12ppm)から7'''位のカルボニル結合性炭素への関与が認められなかったことから、6'位にエステル結合が存在する可能性が否定された。さらに、8位の炭素に結合するH(5.16ppm, 5.19ppm)から7''位および7'''位のカルボニル結合性炭素への関与が認められ、また、4位の炭素に結合するH(5.16ppm, 5.19ppm)からも、7''位および7'''位のカルボニル結合性炭素への関与が認められた。
【0060】
一方で、NMRの解析により、未知化合物は、ベンゾイル基とガロイル基を有することが、6'−O−ガロイルアルビフロリンとのスペクトル相同性によって確認されている。したがって、ベンゾイル基とガロイル基が7''位および7'''位にエステル結合していることが判明した。
【0061】
前記したように、未知化合物の母核構造がアルビフロリンであることが判明していることから、未知化合物は、4位にガロイル基、8位にベンゾイル基が結合している構造の推定が妥当であると考えられることから、未知化合物は、4−O−ガロイルアルビフロリンであると同定された。
【0062】
実験例1
長期維持培地〔マクテック社(Maktek corp.)製、商品名:LEPI-100-LLMM〕を6ウェルの培養プレートに各々添加した後、三次元皮膚モデル〔マクテック社(Maktek corp.)製、商品名:Melano Derm〕を滅菌済みのピンセットで培養プレートに移し、37℃、5%CO2の雰囲気中で1時間前培養を行なった。
【0063】
この前培養を行なった後、培養プレートにあらかじめリン酸緩衝液PBS〔マクテック社(Maktek corp.)製〕1mLを加えておいたウェル上に三次元皮膚モデルを置き、この三次元皮膚モデルに紫外線(波長:306nm、紫外線強度:80mJ/cm2)を照射した。
【0064】
三次元皮膚モデルに紫外線を照射した後、滅菌済みのステンレスワッシャー2個をウェルの底に重ねて置き、その上に三次元皮膚モデルを載せ、培地5mLを添加した。その際、三次元皮膚モデルに気泡が存在する場合には、ピンセットで軽く三次元皮膚モデルを振動させて気泡を取り除いた。
【0065】
その後、この培地を37℃、5%CO2の雰囲気中で24時間培養した。培養後、三次元皮膚モデルをリン酸緩衝液PBS〔マクテック社(Maktek corp.)製〕で洗浄し、バイオプシーパンチを用いて三次元皮膚モデルを切り出し、4%パラホルムアルデヒド緩衝溶液〔和光純薬工業(株)製〕で固定し、ヘマトキシリン・エオジン染色(以下、HE染色という)およびTUNEL染色(TdT-mediated dUTP-biotin Nick End Labeling)により、組織切片の観察を行なった。
【0066】
次に、24時間の前培養を行なった後、以下に示す試料100μLを三次元皮膚モデルに添加し、37℃、5%CO2の雰囲気中で24時間培養した。培養後、原料を除去するために、リン酸緩衝液PBS〔マクテック社(Maktek corp.)製〕1mLで3回洗浄した。
【0067】
洗浄後、前記と同様にして紫外線を三次元皮膚モデルに照射し、試料100μLを三次元皮膚モデルに再度添加し、37℃、5%CO2の雰囲気中で培養した。培養後、三次元皮膚モデルを切り出し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、HE染色した後、組織切片を正立型顕微鏡で観察した。
【0068】
各試験に用いた三次元皮膚モデルの細胞形態変化を観察するため、組織切片を正立型顕微鏡で観察し、写真撮影した。三次元皮膚モデルは、4%パラホルムアルデヒドによる固定と、パラフィンによる包埋と、ミクロトームによる切片化とを行ない、HE染色およびTUNEL染色を行なった。
【0069】
試料として、実施例1の「(1)抽出」において、エタノールの代わりに1,3−ブチレングリコールを用いて抽出したシャクヤクの1,3−ブチレングリコール抽出液(乾燥残分量:4%、従来品、以下、1,3−BG抽出液という)、画分3(40%エタノール抽出物)、ペオニフロリン、アルビフロリン、ガロイルペオニフロリン、4−O−ガロイルペオニフロリン、6’−ガロイルペオニフロリンおよび没食子酸を用い、試験後の組織切片の写真を図1に示す。
【0070】
なお、1,3−BG抽出液は、試料濃度が乾燥残分相当量となるように換算した量で用いた。すなわち、試料濃度が0.2%の場合には、1,3−BG抽出液5%を用いた。
【0071】
図1において、Aは紫外線の照射を受けていない三次元皮膚モデルの組織切片の顕微鏡写真、Bは未処理の三次元皮膚モデルの組織切片の顕微鏡写真、Cはペオニフロリンで処理された三次元皮膚モデルの組織切片の顕微鏡写真、Dはアルビフロリンで処理された三次元皮膚モデルの組織切片の顕微鏡写真、Eはガロイルペオニフロリンで処理された三次元皮膚モデルの組織切片の顕微鏡写真、Fは4−O−ガロイルペオニフロリンで処理された三次元皮膚モデルの組織切片の顕微鏡写真、Gは6’−ガロイルペオニフロリンで処理された三次元皮膚モデルの組織切片の顕微鏡写真を示す。また、その日焼け細胞形成抑制効果を以下の評価基準に基づいて評価した。その結果を表2に示す。
【0072】
〔評価基準〕
++++:日焼け細胞形成抑制効果が非常に強い。
+++: 日焼け細胞形成抑制効果が強い。
++: 日焼け細胞形成抑制効果が中間。
+: 日焼け細胞形成抑制効果が弱い。
−: 日焼け細胞形成抑制効果が認められない。
【0073】
【表2】

【0074】
図1および表2に示された結果から、ペオニフロリン、アルビフロリンおよび没食子酸には、日焼け細胞形成抑制効果が認められなかったのに対し、ガロイルペオニフロリン、4−O−ガロイルアルビフロリンおよび6’−ガロイルアルビフロリンは、優れた日焼け細胞形成抑制効果を発現することがわかる。このことから、ガロイル基は、ペオニフロリンまたはアルビフロリンと結合することにより、皮膚細胞内で安定した抗酸化活性を示すため、優れた日焼け細胞形成抑制効果を発現するものと考えられる。また、ガロイルペオニフロリン、4−O−ガロイルアルビフロリンおよび6’−ガロイルアルビフロリンは、従来の1,3−BG抽出液と対比して、優れた日焼け細胞形成抑制効果を発現するものであることがわかる。
【0075】
以下に、本発明の処方例を示す。配合量の単位は、質量%である。また、E.O.は、エチレンオキサイドの付加モル数を示す。
【0076】
処方例1〔化粧水〕
4−O−ガロイルアルビフロリン 0.1
グリセリン 6.0
ソルビトール 2.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(E.O.60) 0.1
ビタミンC−2グルコシド 0.1
香料 適量
防腐剤 適量
エタノール 5.0
精製水 残部
合計 100.0
【0077】
処方例2〔化粧水〕
6'−O−ガロイルアルビフロリン 0.5
グリセリン 3.0
3−ブチレングリコール 3.0
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.0) 0.5
パラオキシ安息香酸メチル 0.15
クエン酸 0.1
クエン酸ソーダ 0.1
ビタミンE 0.1
アスコルビン酸リン酸ナトリウム 0.1
ハマメリスエキス 1.0
防腐剤 適量
香料 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0078】
処方例3〔化粧水〕
ガロイルペオニフロリン 0.1
1,3−ブチレングリコール 6.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
リン酸アスコルビルマグネシウム 0.1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(E.O.60) 0.1
エタノール 10.0
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0079】
処方例4〔クリーム〕
4−O−ガロイルアルビフロリン 3.0
ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル(E.O.40) 2.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 5.0
ステアリン酸 3.0
ベヘニルアルコール 0.4
スクワラン 15.0
イソオクタン酸セチル 4.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
酢酸トコフェロール 0.1
β−グリチルレチン酸 0.1
アルブチン 0.1
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0080】
処方例5〔乳液〕
6'−O−ガロイルアルビフロリン 1.0
スクワラン 5.0
ワセリン 2.0
ミツロウ 0.5
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 0.5
ポリオキシエチレンオレイルエーテル 0.8
グリセリン 5.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
水酸化カリウム 0.1
防腐剤 適量
香料 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0081】
処方例6〔サンスクリーン剤〕
4−O−ガロイルアルビフロリン 5.0
酸化チタン 3.0
酸化亜鉛 2.0
流動パラフィン 8.0
液状ラノリン 2.0
ステアリン酸 2.0
イソヘキサデシルアルコール 7.0
モノステアリン酸グリセリン 2.0
ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル 0.9
トリエタノールアミン 1.0
1,2−ヘキサンジオール 2.0
プロピレングリコール 5.0
防腐剤 適量
香料 適量
酸化防止剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0082】
処方例7〔サンスクリーン剤〕
ガロイルペオニフロリン 8.0
パラメトキシケイ皮酸オクチル 3.0
オキシベンゾン 2.0
スクワラン 10.0
液状ラノリン 10.0
ジイソステアリン酸グリセリン 3.0
プロピレングリコール 5.0
防腐剤 適量
香料 適量
酸化防止剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の日焼け細胞形成抑制剤は、安全性が高い植物抽出物である、ガロイル基含有アルビフロリンおよびガロイル基含有ペオニフロリンからなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイル基含有化合物を有効成分としているので、例えば、皮膚用外用剤、化粧料などに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、ガロイル基含有アルビフロリンおよびガロイル基含有ペオニフロリンからなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイル基含有化合物を含有することを特徴とする日焼け細胞形成抑制剤。
【請求項2】
ガロイル基含有アルビフロリンが、式(I):
【化1】


で表される4−O−ガロイルアルビフロリン、式(II):
【化2】


で表される6'−O−ガロイルアルビフロリン、およびそれらの薬理的に許容しうる塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイルアルビフロリン化合物である請求項1に記載の日焼け細胞形成抑制剤。
【請求項3】
ガロイル基含有ペオニフロリンが式(III):
【化3】


で表されるガロイルペオニフロリンおよびその薬理的に許容しうる塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のガロイルペオニフロリン化合物である請求項1または2に記載の日焼け細胞形成抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の日焼け細胞形成抑制剤を含有してなる皮膚用外用剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の日焼け細胞形成抑制剤を含有してなる化粧料。
【請求項6】
式(I):
【化4】

で表される4−O−ガロイルアルビフロリン。

【図1】
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【公開番号】特開2011−42614(P2011−42614A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191327(P2009−191327)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】