説明

時計用文字板の製造方法、時計用文字板および時計

【課題】光沢感のある優れた外観を呈し、耐久性にも優れた時計用文字板を提供すること、前記時計用文字板を製造することができる製造方法を提供すること、また、当該時計用文字板を備えた時計を提供すること。
【解決手段】時計用文字板の製造方法は、基板2上に、粉末31と硬化性樹脂とを含む組成物を、スクリーン印刷により付与する組成物付与工程と、硬化性樹脂を硬化させ、硬化部を形成する樹脂硬化工程とを有し、粉末31として、プラスチック製の基部311の両面側に金属材料で構成された金属膜312が設けられたものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用文字板の製造方法、時計用文字板および時計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、時計用の文字板には、時刻を示す等の機能を有する文字・数字(いわゆる時字等)、目盛、記号や、各種マーク等の指標が用いられている。
このような指標の形成方法としては、広く、印刷法が用いられている。
しかしながら、従来の印刷法により形成された指標では、高級感に劣るという問題点があった。特に、金属粉末等を分散した組成物を用いた場合、金属粉末の分散状態が変化し、形成される指標部において、金属粉末が均一に分散しておらず(まだらに存在し)、また、いわゆる、にじみやダレ等を生じ易く、得られる時計用文字板の美的外観が特に劣ったものになるという問題点があった。
【0003】
一方、植字と称される植設材を取り付け固定する方法が、特に、高級時計等で採用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような方法では、植設材を一つ一つ手作業で基板に固定(植字)しなければならず、工程やコストの増加につながっていた。また、植設材を取り付け固定する方法で製造された時計用文字板では、比較的大きな外力(衝撃力)等が加わると、植設材が文字板本体(基板)から脱離してしまうことがあった。また、このような方法で用いる植設材は、一般に、文字板本体に植設するための足部を有しているが、この足部は、他の部位に比べて細くなっている。このため、比較的大きな外力等が加わると、足部が折れてしまう等の問題点があった。上記のような問題は、植設材の高さが高いほど発生し易くなる傾向がある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−247096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、光沢感のある優れた外観を呈し、耐久性にも優れた時計用文字板を提供すること、前記時計用文字板を製造することができる製造方法を提供すること、また、当該時計用文字板を備えた時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の時計用文字板の製造方法は、基板上に、粉末と硬化性樹脂とを含む組成物を、スクリーン印刷により付与する組成物付与工程と、
前記硬化性樹脂を硬化させ、硬化部を形成する樹脂硬化工程とを有し、
前記粉末として、プラスチック製の基部の両面側に金属材料で構成された金属膜が設けられたものを用いることを特徴とする。
これにより、光沢感のある優れた外観を呈し、耐久性にも優れた時計用文字板を製造することができる時計用文字板の製造方法を提供することができる。
【0007】
本発明の時計用文字板の製造方法では、前記組成物として、25℃における粘度が8000〜20000cpsのものを用い、
前記粉末は、平均粒径が100〜155μmであり、かつ、プラスチック製の基部上に金属膜が設けられたものであり、
前記スクリーン印刷において、スクリーン版として、少なくとも表面付近がポリ四フッ化エチレンで構成されたワイヤーを備え、メッシュ粗さが20〜120番であり、かつ、前記ワイヤーの直径が50〜120μmであるものを用いることが好ましい。
これにより、製造される時計用文字板の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0008】
本発明の時計用文字板の製造方法では、前記組成物は、シクロヘキサン、イソホロンおよびエチレングリコールモノブチルエーテルよりなる群から選択される1種または2種以上を含むものであることが好ましい。
これにより、組成物中において粉末がより安定して分散することができるとともに、粉末の組成物中における流動性が特に優れたものとなる。この結果、製造される時計用文字板の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0009】
本発明の時計用文字板の製造方法では、前記粉末の平均厚さが、10〜30μmであることが好ましい。
これにより、時計用文字板の生産性を特に優れたものとしつつ、時計用文字板の美的外観を特に優れたものとすることができる。
本発明の時計用文字板の製造方法では、前記基部が、ポリエステル樹脂で構成されたものであることが好ましい。
これにより、時計用文字板の生産性を特に優れたものとしつつ、時計用文字板の美的外観を特に優れたものとすることができる。
本発明の時計用文字板の製造方法では、前記金属膜の平均厚さが、0.01〜3.0μmであることが好ましい。
これにより、時計用文字板の生産性を特に優れたものとしつつ、時計用文字板の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0010】
本発明の時計用文字板の製造方法では、前記硬化性樹脂は、光硬化性樹脂であることが好ましい。
これにより、時計用文字板の生産性を特に優れたものとすることができる。また、製造時における、時計用文字板の構成材料の劣化等をより確実に防止することができ、製造される時計用文字板の信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0011】
本発明の時計用文字板の製造方法では、前記硬化性樹脂は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂よりなる群から選択される1種または2種以上を含むものであることが好ましい。
これにより、粉末の組成物中における流動性を高めることができ、粉末が弾性変形しやすいものとなり、スクリーン版のメッシュを通過しやすいものとなる。この結果、製造される時計用文字板の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0012】
本発明の時計用文字板は、本発明の方法を用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、光沢感のある優れた外観を呈し、耐久性にも優れた時計用文字板を提供することができる。
本発明の時計は、本発明の時計用文字板を備えたことを特徴とする。
これにより、光沢感のある優れた外観を呈し、耐久性にも優れた時計用文字板を備えた時計を提供することができる。また、時計用文字板は、時計全体としての外観に大きな影響を与えるため、上記のような時計用文字板を備えた時計は、全体としての美的外観に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光沢感のある優れた外観を呈し、耐久性にも優れた時計用文字板を提供すること、前記時計用文字板を生産性よく製造することができる時計用文字板の製造方法を提供すること、また、当該時計用文字板を備えた時計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書で参照する図面は、構成の一部を強調して示したものであり、実際の寸法等を正確に反映したものではない。
<時計用文字板の製造方法>
まず、本発明の製造方法について説明する。
図1は、本発明の時計用文字板の製造方法の好適な実施形態を示す断面図、図2は、本発明の時計用文字板の好適な実施形態を示す平面図である。
本実施形態の製造方法は、基板(文字板本体)2を準備する基板準備工程(1a)と、基板2の表面に、所定のパターンで、粉末31と硬化性樹脂とを含む組成物を付与する組成物付与工程(1b)と、硬化性樹脂を硬化させ硬化部32とし、指標3を形成する樹脂硬化工程(1c)とを有している。
【0015】
[基板準備工程]
まず、基板(文字板本体)2を準備する(1a)。
基板2は、時計用文字板1の主要部をなすものであり、後述する指標3を保持する機能を有するものである。
基板2は、いかなる材料で構成されたものであってもよい。
【0016】
基板2の構成材料としては、例えば、各種金属材料、各種非金属材料等を用いることができる。
基板2が金属材料で構成されたものである場合、特に優れた強度特性を有する時計用文字板1を提供することができる。また、基板2が金属材料で構成される場合、基板(文字板本体)2自体が、優れた光沢を有するものとなり、時計用文字板1全体としての美的外観を特に優れたものとすることができる。
基板2が非金属材料で構成される場合、例えば、一般に、比較的軽量で携帯し易い時計用文字板1を提供することができる。また、基板2が非金属材料で構成される場合、例えば、比較的容易に、所望の形状に成形することができる。
【0017】
基板2を構成する金属材料としては、例えば、Fe、Cu、Zn、Ni、Mg、Cr、Mn、Mo、Nb、Al、V、Zr、Sn、Au、Pd、Pt、Agや、これらのうち少なくとも1種を含む合金(例えば、青銅、真鍮、洋白等)等が挙げられる。
また、基板2を構成する非金属材料としては、例えば、セラミックス、プラスチック(特に耐熱性プラスチック)、石材、木材等が挙げられる。
【0018】
セラミックスとしては、例えば、Al、SiO、TiO、Ti、ZrO、Y、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、AlN、Si、SiN、TiN、BN、ZrN、HfN、VN、TaN、NbN、CrN、CrN等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al、CaC、WC、TiC、HfC、VC、TaC、NbC等の炭化物系のセラミックス、ZrB、MoB等のホウ化物系のセラミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組み合わせた複合セラミックスが挙げられる。
基板2が前記のようなセラミックスで構成される場合、特に優れた強度、硬度を有する時計用文字板1を得ることができる。
【0019】
また、基板2を構成するプラスチック材料としては、各種熱可塑性樹脂、各種熱硬化性樹脂が挙げられ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリパラキシリレン(poly-para-xylylene)、ポリモノクロロパラキシリレン(poly-monochloro-para-xylylene)、ポリジクロロパラキシリレン(poly-dichloro-para-xylylene)、ポリモノフルオロパラキシリレン(poly-monofluoro-para-xylylene)、ポリモノエチルパラキシリレン(poly-monoethyl-para-xylylene)等のポリパラキシリレン樹脂等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等として)用いることができる。
【0020】
基板2は、各部位でその組成が実質的に均一な組成を有するものであってもよいし、部位によって組成の異なるものであってもよい。例えば、基板2は、基部と、該基部上に設けられたコート層とを有するものであってもよい。
また、基板2の形状、大きさは、特に限定されず、通常、時計用文字板1の形状、大きさに基づいて決定される。なお、図示の構成では、基板(文字板本体)2は、平板状をなすものであるが、例えば、湾曲板状等をなすものであってもよい。
【0021】
基板2の平均厚さは、特に限定されないが、200〜700μmであるのが好ましく、300〜600μmであるのがより好ましい。
基板2は、圧縮成形、射出成形等、いかなる方法で成形されたものであってもよい。また、基板2の表面に対しては、例えば、鏡面加工、スジ目加工、梨地加工等の表面加工が施されてもよい。これにより、得られる時計用文字板1の質感にバリエーションを持たせることが可能となり、時計用文字板1の美的外観の更なる向上を図ることができる。
【0022】
また、基板2は、その表面の一部に、親液処理、撥液処理が施されたものであっていてもよい。より具体的には、基板2上の組成物を付与すべき部位(指標3を形成すべき部位)に親液処理を施したり、基板2上の組成物を付与すべき部位(指標3を形成すべき部位)以外の部位に撥液処理を施したりしてもよい。これにより、後に詳述する組成物付与工程において、容易かつ確実に、基板2上の所望の部位に、選択的に組成物を付与することができる。その結果、時計用文字板1において、所望の形状、パターンの指標3を、より確実に形成することができる。また、基板2上の組成物が付与されない部位に撥液処理が施されることにより、得られる時計用文字板1において、汚れ等の付着を防止することができるため、時計用文字板1の信頼性を特に優れたものとすることができる。
また、基板2の表面に対しては、後述する工程に先立ち、各種洗浄処理を施してもよい。これにより、例えば、基板2と組成物(指標3)との密着性を特に優れたものとすることができる。
【0023】
[組成物付与工程]
次に、スクリーン印刷法により、基板2の表面に、所定のパターンで、流動性を有する組成物を付与する(1b)。すなわち、基板2の表面において、前記組成物が付与された領域と、前記組成物が付与されていない領域とが混在するようにする。組成物を付与するパターンは、形成すべき指標3の形状・パターンに応じて決定される。
【0024】
スクリーン印刷法を用いることにより、複数個の基板2に対して、個体間でのばらつきを防止しつつ、所定のパターンで繰り返し組成物を付与することができる。このため、品質の安定性に優れた時計用文字板1の大量生産に好適に適用することができる。
スクリーン印刷は、ワイヤー811により構成されたメッシュ81を有するスクリーン版8上に、組成物を配した状態で、スクリーン版8の上面(組成物が配された面)を、スキージ9で押圧することにより行う。
【0025】
本工程で、基板2上に付与される組成物は、粉末31と硬化性樹脂とを含むものである。
粉末31は、プラスチック製の基部311の両面に金属膜312が設けられたものである。本発明は、このような粉末31を有する組成物をスクリーン印刷法によって印刷することに特徴を有する。
【0026】
一般に、スクリーン印刷によって、金属粉末を有する組成物を印刷する場合、金属粉末がスクリーン版のメッシュにおいて目詰まりしやすい。このため、基板上に付与される組成物中における金属粉末の含有率のばらつきが大きくなっていた。また、メッシュが目詰まりする結果、形成すべき指標を正確に形成できない問題があった。
そこで、上記の問題を解決するために、本発明では、組成物の粉末として、上述したような構成を有する粉末31を用いた。
【0027】
粉末31の基部311がプラスチック製であることにより、スクリーン版8のメッシュ81を組成物が通過する際に、粉末31が好適に弾性変形することができ、スクリーン版8のメッシュ81で目詰まりを生じることが確実に防止される。また、粉末31は、メッシュの通過後は速やかにその形状を復元することができ、基板上にパターニングされた組成物の表面形状に沿うように配置されることができる。
【0028】
また、組成物中の硬化性樹脂と金属膜312とは、親和性が低いものである。このため、金属膜312で覆われた粉末31は、硬化性樹脂を含む組成物中において流動しやすく、また、弾性変形しやすいものとなっている。また、粉末31が基部311の両面に金属膜312を有することにより、一旦弾性変形した粉末31は、元の形状に戻る際に、反った状態となることが防止される。また、粉末31が基部311の両面に金属膜312を有することにより、時計用文字板1の製造過程において、基部311の構成材料の熱膨張率と、金属膜312の構成材料の熱膨張率との違いにより、粉末31に反りが生じるのを確実に防止することができる。その結果、製造される時計用文字板1の美的外観を確実に優れたものとすることができる。また、本発明の方法により製造される時計用文字板1の温度が変化した場合であっても、粉末31が変形することが確実に防止される。その結果、時計用文字板1において、温度変化により、粉末31と硬化性樹脂により形成された硬化部32との密着性が低下したり、基板2と指標3との密着性が低下することが確実に防止され、時計用文字板1の耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0029】
以上より、これらの効果が相乗的に作用し、スクリーン版8のメッシュ81を組成物が通過する際に、粉末31は、好適に弾性変形することができるとともに、スクリーン版8のメッシュ81を容易かつ確実に通過することができる。また、メッシュ81を通過した粉末31は、容易に元の平坦な形状に戻ることができる。この結果、基板2上に付与される組成物(形成すべき指標3に対応するようにパターニングされた組成物)の各部位での粉末31の含有率のばらつきを抑制することができる。したがって、時計用文字板1の生産性を優れたものとしつつ、得られる時計用文字板1の美的外観を優れたものとすることができる。
【0030】
これに対し、プラスチック製の基部の一方の面のみに金属膜を設けた粉末を用いた場合、上述したような効果は得られない。すなわち、このような粉末の場合、硬化性樹脂と粉末との親和性が高くなるため、粉末の流動性が十分でなく、弾性変形しにくいものとなる。また、メッシュを通過する際に一旦弾性変形した粉末が、反った状態で維持されやすいものとなる。さらに、時計用文字板1の製造過程において、基部311の構成材料の熱膨張率と、金属膜312の構成材料の熱膨張率との違いにより、粉末31に反りが生じやすい。結果として、得られる時計用文字板は、美的外観が優れたものとならない。
【0031】
基部311を構成するプラスチック材料としては、例えば、各種熱可塑性樹脂、各種熱硬化性樹脂が挙げられ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリパラキシリレン(poly-para-xylylene)、ポリモノクロロパラキシリレン(poly-monochloro-para-xylylene)、ポリジクロロパラキシリレン(poly-dichloro-para-xylylene)、ポリモノフルオロパラキシリレン(poly-monofluoro-para-xylylene)、ポリモノエチルパラキシリレン(poly-monoethyl-para-xylylene)等のポリパラキシリレン樹脂等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等として)用いることができるが、基部311は、ポリエステル樹脂で構成されたものであるのが好ましい。これにより、スクリーン版8のメッシュ81を組成物が通過する際に、粉末31が好適に弾性変形することができ、スクリーン版8のメッシュ81で目詰まりを生じることがより確実に防止される。そして、粉末31をスクリーン版8のメッシュ81を容易かつ確実に通過させることができ、かつ、基板2上に付与される組成物(形成すべき指標3に対応するようにパターニングされた組成物)の各部位での粉末31の含有率のばらつきを抑制することができる。したがって、時計用文字板1の生産性を特に優れたものとしつつ、得られる時計用文字板1の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0032】
基部311の平均厚さは、7〜29.9μmであるのが好ましく、10〜27.8μmであるのがより好ましい。基部311の平均厚さが前記範囲内の値であると、メッシュ81を組成物が通過する際に、粉末31を好適に弾性変形されることができ、製造される時計用文字板1において、形成される指標3の表面形状に添うように、粉末31を配置させることができる。これにより、時計用文字板1の生産性を特に優れたものとしつつ、時計用文字板1の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0033】
金属膜312を構成する金属材料としては、例えば、Fe、Cu、Zn、Ni、Mg、Cr、Mn、Mo、Nb、Al、V、Zr、Sn、Au、Pd、Pt、Agや、これらのうち少なくとも1種を含む合金(例えば、青銅、真鍮、洋白等)等が挙げられるが、中でも、Cu、Al、Au、Pt、Agが好ましい。これにより、製造される時計用文字板1の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0034】
金属膜312の平均厚さは、0.01〜3.0μmであるのが好ましく、0.02〜2.0μmであるのがより好ましい。金属膜312の平均厚さが前記範囲内の値であると、基部311の厚さが相対的に薄くなってしまうのを効果的に防止しつつ、粉末31において金属膜312を構成する金属材料の質感を十分に発揮させることができる。これにより、時計用文字板1の生産性を特に優れたものとしつつ、時計用文字板1の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0035】
また、基部311の両面にある2枚の金属膜312は、平均厚さがほぼ同じであることが好ましい。具体的には、粉末31における一方の金属膜312の平均厚さに対する他方の金属膜312の平均厚さは、3:10〜10:3であることが好ましく、5:10〜10:5であることがより好ましく、8:10〜10:8であることがさらに好ましい。これにより、一旦弾性変形した粉末31は、元の形状に戻る際に、反った状態となることがより確実に防止される。また、粉末31が基部311の両面に金属膜312を有することにより、時計用文字板1の製造過程において、基部311の構成材料の熱膨張率と、金属膜312の構成材料の熱膨張率との違いにより、粉末31に反りが生じるのをより確実に防止することができる。
【0036】
上記のような粉末31は、以下のようにして製造されたものであるのが好ましい。すなわち、粉末31は、プラスチック製のシート材(基部311の厚さに相当する厚さのシート材)上に、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の気相成膜法により、金属層(金属膜312の厚さに相当する金属層)を形成し、その後、所定の大きさ(粉末31の平均粒径に相当する大きさ)に裁断することにより得られたものであるのが好ましい。これにより、基部311と金属膜312との密着性に優れ、美的外観に優れるとともに、好適に弾性変形することができる粉末31を容易かつ確実に得ることができる。
【0037】
また、粉末31の平均粒径は、100〜155μmであるのが好ましく、108〜147μmであるのがより好ましく、113〜141μmであるのがさらに好ましい。これにより、粉末31が、後に詳述するスクリーン版8のメッシュ81を通過するに際して、好適に弾性変形することができるとともに、メッシュ81を通過した後は、その形状が速やかに復元される。このため、基板2上に付与された(パターニングされた)組成物において、粉末31は、その金属膜312の主面の方向(面方向)が基板2上にパターニングされた組成物の表面形状に沿うような配置になる。その結果、製造される時計用文字板1においては、粉末31が、ダイヤモンドやカットガラスのように光を効果的に反射することができ、時計用文字板1の美的外観を優れたものとすることができる。これに対し、粉末31の平均粒径が小さすぎると、金属膜312の材質によっては、外観的にきらきらした光沢が少なくなる場合がある。また、粉末31の平均粒径が大きすぎると、粉末31が、スクリーン版のメッシュを通過するのが困難となり、粉末31のメッシュへの目詰まりが発生し易くなる。
【0038】
なお、粉末の平均粒径を前記上限値よりも大きいものとするとともに、メッシュの粗さも粗くすることが考えられるが、このような場合には、粉末の弾性変形が困難となり、粉末のメッシュへの目詰まりが発生し易くなったり、メッシュを通過する際に粉末が塑性変形してしまう場合がある。
本発明において、粉末の粒径とは、粉末を平面視したときの周囲長と同じ長さの周囲長を有する真円の直径の値を指す。より具体的に説明すると、粉末の平面視したときの形状が一辺の長さがa[μm]の正方形である場合、当該光沢性粉末の粒径は、4a/π[μm]である。
【0039】
粉末31の平面視した際の形状は、特に限定されないが、略正方形であるのが好ましい。
粉末31の平均厚さは、10〜30μmであるのが好ましく、12〜28μmであるのがより好ましい。粉末31の平均厚さが前記範囲内の値であると、粉末31は、スクリーン版8のメッシュ81を通過するに際して、より好適に弾性変形することができるとともに、メッシュ81を通過した後は、その形状がより速やかに復元される。その結果、時計用文字板1の生産性を特に優れたものとしつつ、時計用文字板1の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0040】
また、粉末31の平均厚さに対する粉末31の平均粒径の比は、1〜20であることが好ましく、1〜15であることがより好ましく、3〜11であることがさらに好ましい。これにより、粉末31がより好適に弾性変形することができるとともに、粉末31は、その金属膜312の主面の方向(面方向)が、より確実に基板2上にパターニングされた組成物の表面形状に沿うような配置になる。
【0041】
硬化性樹脂は、未硬化または半硬化の状態のものである。
硬化性樹脂としては、エネルギー線(例えば、熱(熱線)、光(紫外線等の可視光以外の光を含む)、電子線)により硬化する樹脂材料を用いることができ、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等を用いることができ、より具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂(ポリウレタン)、アクリル樹脂等の各種硬化性樹脂を用いることができる。
【0042】
硬化性樹脂として光硬化性樹脂を用いた場合、時計用文字板1の生産性を特に優れたものとすることができる。また、製造時における、時計用文字板1の構成材料の劣化等をより確実に防止することができ、製造される時計用文字板1の信頼性を特に優れたものとすることができる。
また、硬化性樹脂として、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂よりなる群から選択される1種または2種以上を用いた場合、粉末31の組成物中における流動性を高めることができ、粉末31が上述したように弾性変形しやすいものとなり、メッシュ81を通過しやすいものとなる。
【0043】
組成物は、上述した粉末31および硬化性樹脂以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、各種溶剤(粉末31を分散する分散媒として機能するもの)、分散剤、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
溶剤としては、特に限定されないが、例えば、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ペンタン、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテル等の各種溶剤を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。この中でも、溶剤として、シクロヘキサン、イソホロンおよびエチレングリコールモノブチルエーテルよりなる群から選択される1種または2種以上を用いた場合、組成物中において粉末31がより安定して分散することができるとともに、粉末31の組成物中における流動性が特に優れたものとなる。
【0044】
また、粉末31および硬化性樹脂を含む組成物の25℃における粘度は、8000〜20000cpsであることが好ましく、12000〜19000cpsであるのがより好ましく、15000〜18000cpsであるのがさらに好ましい。組成物の粘度が前記範囲内の値であることにより、上記のような比較的大きな粉末31(スクリーン版8のメッシュ粗さに対して比較的大きい粉末31)を含む組成物を、スクリーンのメッシュ81を通過させる際に、粉末31を好適に弾性変形させることができ、メッシュ81に目詰まりが生じたり、組成物中における粉末31の分散状態が悪化するのを防止することができる。これに対し、組成物の粘度が小さすぎると、粉末31を弾性変形させることが困難となり、また、粉末のメッシュへの目詰まりが発生し易くなる。また、組成物の粘度が大きすぎると、スクリーン印刷の効率(作業性)が低下するとともに、上記のような粉末の弾性変形やメッシュ通過後の形状の復元も生じにくくなる。
【0045】
本工程では、スクリーン版8として、ワイヤー811により構成されたメッシュ81を備え、メッシュ81の一部が版膜82により塞がれたものを用いる。これにより、メッシュ81のうち版膜82により塞がれていない領域において、選択的に、ワイヤー811間の隙間から、組成物が基板2上に供給されるように構成されている。
本工程で用いるスクリーン版8は、少なくとも表面付近がポリ四フッ化エチレンで構成されたワイヤー811を備えていることが好ましい。これにより、組成物を、スクリーン版のメッシュを好適に通過させることができ、目的とするパターンの指標を確実に形成することができる。特に、本発明においては、スクリーン印刷に供される組成物が粉末31を含むため高粘度のものとなりやすいが、このようなスクリーン版8は、このような組成物をメッシュに通過させる際において、組成物の流動抵抗を低減することができるため、安定的に印刷を行うことができる。また、ワイヤーの背面に、組成物を十分に回りこませることができ、目的とするパターンを形成することができる。
上記のように、本工程で用いるスクリーン版8は、少なくとも表面付近がポリ四フッ化エチレンで構成されたワイヤー811を備えたものであるのが好ましいが、ワイヤー811全体が、ポリ四フッ化エチレンで構成されたものであるのがより好ましい。これにより、上述したような効果はより顕著に発揮される。
【0046】
また、スクリーン版8は、メッシュ粗さが20〜120番であるのが好ましく、30〜100番であるのがより好ましく、50〜70番であるのがさらに好ましい。メッシュ粗さが小さすぎると(番号が大きすぎると)、粉末の平均粒径によっては、粉末31がスクリーン版8のメッシュ81を通過するのが困難となり、粉末のメッシュ81への目詰まりが発生し易くなる場合がある。一方、メッシュ粗さが大きすぎる(番号が小さすぎる)と、上記のような弾性変形が著しく生じにくくなり、製造される時計用文字板において、粉末の配置が不規則なものとなりやすく、結果として、時計用文字板の美的外観が優れたものとならない場合がある。
【0047】
また、スクリーン版8を構成するワイヤー811の直径は、50〜120μmであるのが好ましく、50〜90μmであるのがより好ましく、60〜70μmであるのがさらに好ましい。スクリーン版(メッシュ)を構成するワイヤーの直径が小さすぎると、ワイヤーの材質等によっては、スクリーン版の強度が低下し、安定した印刷を行うことが困難な場合がある。一方、ワイヤーの直径が大きすぎると、組成物の粘度によっては、ワイヤーの背面に、組成物を十分に回りこませることができず、目的とするパターンを正確に形成することが困難な場合がある。
スキージ9の構成材料としては、例えば、ウレタン系ゴム、シリコーン系ゴム、各種合成ゴム、各種金属等を用いることができるが、中でも、ウレタン系ゴムが好ましい。
【0048】
[樹脂硬化工程]
次に、硬化性樹脂を硬化させ、硬化部32とする(1c)。これにより、指標3が形成され、時計用文字板1が得られる。このようにして得られる時計用文字板1は、光沢感のある優れた外観を呈する指標3を備えたものであり、時計用文字板1全体としての美的外観(高級感)も優れている。また、指標3は粉末31が分散した組成物を用いて製造されたものであるため、粉末31が硬化部32に確実に固定されており、時計用文字板1の使用時に粉末31が脱落してしまうことが効果的に防止されている。したがって、時計用文字板1は、耐久性、信頼性にも優れている。
【0049】
なお、本発明において、指標とは、時刻、時計の向き、時計が備えている機能、時計のブランド、型番等を、使用者等が認識するのに寄与するもの等のことを指す。指標の具体例としては、文字・数字(いわゆる時字等)、目盛、記号や、各種マーク等が挙げられる。
硬化性樹脂の硬化は、硬化性樹脂の種類に応じた方法により行う。例えば、硬化性樹脂が熱硬化性樹脂である場合には加熱により行い、硬化性樹脂が光硬化性樹脂である場合には、光(エネルギー線)の照射により行う。
【0050】
本工程で形成される指標3の平均厚さは、特に限定されないが、8〜300μmであるのが好ましく、10〜200μmであるのがより好ましい。指標3の平均厚さが前記範囲内の値であると、基板2および指標3との密着性を十分に優れたものとしつつ、指標3の立体感を特に優れたものとすることができ、時計用文字板1の美的外観を特に優れたものとすることができる。すなわち、指標3の平均厚さが前記範囲内の値であると、時計用文字板1の美的外観および耐久性をともに特に優れたものとすることができる。また、指標3の平均厚さが前記範囲内の値であると、指標3の視認性を特に優れたものとすることができる。
【0051】
<時計用文字板>
本発明の時計用文字板1は、上記のような方法により製造される。
上述したような方法で製造されたものであることにより、時計用文字板1は、優れた美的外観を備えるとともに、耐久性にも優れている。
【0052】
<時計>
次に、上述したような本発明の時計用文字板1を備えた本発明の時計について説明する。
本発明の時計は、上述したような本発明の時計用文字板を有するものである。なお、本発明の時計を構成する前記時計用文字板(本発明の時計用文字板)以外の部品としては、公知のものを用いることができるが、以下に、本発明の時計の構成の一例について説明する。
【0053】
図3は、本発明の時計(腕時計)の好適な実施形態を示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態の腕時計(携帯時計)100は、胴(ケース)102と、裏蓋103と、ベゼル(縁)104と、ガラス板(カバーガラス)105とを備えている。また、ケース102内には、前述したような時計用文字板1と、ムーブメント101とが収納されており、さらに、図示しない針(指針)等が収納されている。
【0054】
ガラス板105は、通常、透明性の高い透明ガラスやサファイア等で構成されている。これにより、時計用文字板1の美的外観を十分に発揮させることができる。
図3中では省略しているが、ムーブメント101内には、例えば、時間基準源として水晶振動子や、水晶振動子の発振周波数をもとに時計を駆動する駆動パルスを発生する半導体集積回路や、この駆動パルスを受けて輪列機構を1秒毎に指針を駆動するステップモーターや、ステップモーターの動きを指針に伝達する輪列機構等を備えている。
【0055】
胴102には巻真パイプ106が嵌入・固定され、この巻真パイプ106内にはりゅうず107の軸部1071が回転可能に挿入されている。
胴102とベゼル104とは、プラスチックパッキン108により固定され、ベゼル104とガラス板105とはプラスチックパッキン109により固定されている。
また、胴102に対し裏蓋103が嵌合(または螺合)されており、これらの接合部(シール部)115には、リング状のゴムパッキン(裏蓋パッキン)114が圧縮状態で介挿されている。この構成によりシール部115が液密に封止され、防水機能が得られる。
【0056】
りゅうず107の軸部1071の途中の外周には溝1072が形成され、この溝1072内にはリング状のゴムパッキン(りゅうずパッキン)113が嵌合されている。ゴムパッキン113は巻真パイプ106の内周面に密着し、該内周面と溝1072の内面との間で圧縮される。この構成により、りゅうず107と巻真パイプ106との間が液密に封止され防水機能が得られる。なお、りゅうず107を回転操作したとき、ゴムパッキン113は軸部1071と共に回転し、巻真パイプ106の内周面に密着しながら周方向に摺動する。
なお、上記の説明では、時計の一例として、腕時計(携帯時計)を挙げて説明したが、本発明は、腕時計以外の携帯時計、置時計、掛け時計等の他の種類の時計にも同様に適用することができる。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の製造方法は、上述した以外の工程を有するものであってもよい。例えば、基板の指標が設けられた面側や、その反対の面側に、コート層を形成する工程を有していてもよい。これにより、例えば、色調等を調整し、時計用文字板の美的外観をさらに優れたものにしたり、時計用文字板全体としての、耐食性、耐候性、耐水性、耐油性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐変色性等の各種特性を向上させたりすることができる。なお、このようなコート層は、例えば、時計用文字板の使用時等において除去されるものであってもよい。
【0058】
また、図示に示す構成では、組成物中に含まれる粉末が、基部と金属膜とからなるものであるが、例えば、基部と金属膜との間には、少なくとも1層の中間層が設けられていてもよい。
また、上述した実施形態では、基板上の一部に所定のパターンで組成物を付与することにより指標を形成するものとして説明したが、組成物は、基板の全面に付与するものであってもよい。また、本発明の方法により形成される部材は、指標として機能するものでなくてもよい。
また、上述した実施形態では、指標を形成する基板として、時計用文字板に対応する形状のものを用いる場合について中心的に説明したが、指標を形成する基板としてシート状の部材を用い、指標を形成した後に、打ち抜き成形等により、前記シート状の部材を時計用文字板に加工してもよい。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.時計用文字板の製造
(実施例1)
以下に示すような方法により、時計用文字板を製造した。
まず、真鍮で構成された板材をプレス成形することにより、時計用文字板の形状を有する基板を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。得られた基板は、略円盤状をなし、直径:27mm×厚さ:500μmであった。
【0060】
次に、この基板を洗浄した。基板の洗浄としては、まず、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行い、その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
このようにして洗浄を行った基板の表面に、スクリーン印刷により、粉末と未硬化の熱硬化性樹脂(ウレタン樹脂)と溶剤としてのシクロヘキサン、イソホロンおよびエチレングリコールモノブチルエーテルとを含む組成物を、図2に示すような形状・パターンで付与した(組成物付与工程)。組成物を構成する粉末としては、ポリエステル樹脂で構成されたシート材(平均厚さ:20μm)の両面に、真空蒸着により、Alで構成された金属層を形成した後、このシート材を100μm角の正方形状に裁断したものを用いた。ポリエステル樹脂で構成されたシート材の両面に設けられた金属層(金属膜)の平均厚さは、いずれも、0.5μmであった。また、ポリエステル樹脂で構成されたシート材の両面に設けられた金属層(金属膜)中におけるAl含有率は、いずれも、99.9wt%以上であった。また、使用した溶剤については、シクロヘキサン、イソホロンおよびエチレングリコールモノブチルエーテルを全て等量(同重量)ずつ混合したものを用いた。また、本工程で用いた組成物の25℃における粘度は、17000cpsであった。また、スクリーン版としては、ポリ四フッ化エチレンからなるワイヤーで構成されたメッシュと、フォトレジスト材料を用いた写真製版法により所定のパターンに形成された版膜とを備え、メッシュ粗さが70番、ワイヤーの直径が60μmのものを用いた。また、スキージとしては、ウレタン系ゴムで構成されたものを用いた。
【0061】
次に、基板をホットプレート上において、80℃、30分の条件で加熱を行い、硬化性樹脂を硬化させ、硬化部を形成し、指標を形成した(樹脂硬化工程)。これにより、図1、図2に示すような時計用文字板が得られた。
得られた時計用文字板において、指標の平均厚さは、100μmであった。
なお、基板、指標の厚さは、JIS H 5821で規定される顕微鏡断面試験方法に従い測定した。
【0062】
(実施例2〜11)
組成物中に含まれる粉末および溶剤、基板およびスクリーン版の構成を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして時計用文字板を製造した。
(実施例12)
組成物に溶剤としてシクロヘキサンの代わりにエタノールを用い、硬化性樹脂として、エポキシ樹脂(熱硬化性樹脂)を用い、粉末の基部として、平均厚さ:25μmのポリエステル樹脂のシートを用いた以外は、前記実施例8と同様にして時計用文字板を製造した。
(実施例13)
硬化性樹脂として、エポキシ樹脂(紫外線硬化性樹脂)を用い、樹脂硬化工程においてた基板の組成物が付与された面側から、紫外線を照射することにより、硬化性樹脂を硬化させた以外は、前記実施例1と同様にして時計用文字板を製造した。
【0063】
(比較例1)
組成物中に含まれる粉末として、ポリエステル樹脂で構成されたシート材(平均厚さ:20μm)の片面のみに、真空蒸着により、Alで構成された金属層を形成した後、このシート材を100μm角の正方形状に裁断したものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして時計用文字板を製造した。
(比較例2)
粉末として、実質的にAlのみで構成された膜状の金属粉末(平均厚さ:20μm、100μm角)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして時計用文字板を製造した。
【0064】
(比較例3)
スクリーン印刷に供する組成物として粉末を含まない以外は、前記実施例1で用いたものと同様のものを用い、スクリーン印刷後であって硬化性樹脂の硬化前に、粉末を基板上の硬化性樹脂(パターニングされた硬化性樹脂)にふりかけた以外は、前記実施例1と同様にして時計用文字板を製造した。
【0065】
(比較例4)
以下に示すような方法により、時計用文字板を製造した。
まず、真鍮で構成された板材をプレス成形することにより、時計用文字板の形状を有する基板を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。得られた基板は、略円盤状をなし、直径:27mm×厚さ:500μmであった。
次に、基板の指標を設けるべき部位に、指標取り付け用の貫通孔を形成した。貫通孔の直径は、500μmであった。
次に、この基板を洗浄した。基板の洗浄としては、まず、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行い、その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
【0066】
一方、アルミニウム製の板材をプレス成形することにより、基材上に配されるべき表示部と、取り付け用の足部とを有する、2種類の指標部材(第1の指標部材、第2の指標部材)を作製した。第1の指標部材についての、表示部の幅は1.0mm、長さは2.0mm、高さは140μmであった。また、第1の指標部材についての、足部の長さは500μm、足部の直径(太さ)は200μmであった。また、第2の指標部材についての、表示部の幅は1.5mm、長さは3.5mm、高さは140μmであった。また、第2の指標部材についての、足部の長さは500μm、足部の直径(太さ)は200μmであった。
次に、基材の貫通孔に、上記の指標部材(植設材)の足部を挿入し、指標部材を挿入した面とは反対の面側から、エポキシ系接着剤を付与することにより、指標部材を基材に固定した。これにより、時計用文字板が得られた。
【0067】
各実施例および各比較例の時計用文字板の構成を表1にまとめて示す。なお、表中、真鍮をBS、ステンレス鋼(SUS304)をSUS、カーボンブラックを含有するポリカーボネートをPC、カーボンブラックを含有するアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)をABS、カーボンブラックを含有するポリエチレンテレフタレートをPET、カーボンブラックを含有するアクリル系樹脂をPMMA、ポリエステル樹脂をPEs、ポリ四フッ化エチレンをPTFE、エポキシ樹脂をEPO、ウレタン樹脂をPUR、アクリル樹脂をAC、シクロヘキサンをCHXA、イソホロンをIP、エチレングリコールモノブチルエーテルをEGMB、エタノールをEtOHで示した。また、表中、粘度の欄には、25℃における粘度の値を示した。なお、時計用文字板の各部位における表1に示した材料の含有率は、いずれも、99wt%以上であった。
【0068】
【表1】

【0069】
2.時計用文字板の外観評価
2−1.光沢感評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用文字板について、目視および顕微鏡による観察を行い、これらの外観を以下の5段階の基準に従い、評価した。
A:極めて優良な光沢感を呈している。
B:優良な光沢感を呈している。
C:良好な光沢感を呈している。
D:光沢感がやや劣っている。
E:光沢感が劣っている。
【0070】
2−2.立体感評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用文字板について、目視による観察を行い、これらの立体感を以下の5段階の基準に従い、評価した。
A:極めて優良。
B:優良。
C:良。
D:やや不良。
E:不良。
【0071】
2−3.外観総合評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用文字板について、目視および顕微鏡による観察を行い、これらの外観を以下の5段階の基準に従い、評価した。
A:極めて優良。
B:優良。
C:良。
D:やや不良。
E:不良。
【0072】
3.耐久性評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用文字板について、以下に示すような3種の試験を行い、時計用文字板の耐久性を評価した。
3−1.落下試験による評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用文字板について、高さ3.5mから、ステンレス鋼製の厚さ12cmのブロック上に、100回繰り返し落下させた後の、時計用文字板の外観を目視により観察し、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。
A:指標の浮き、剥がれ等が全く認められない。
B:指標の浮き、剥がれ等がほとんど認められない。
C:指標の浮き、剥がれ等がわずかに認められる。
D:粉末の脱離、または、指標の浮き、剥がれがはっきりと認められる。
【0073】
3−2.折り曲げ試験による評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用文字板について、直径3.2mmの鉄製の棒材を支点とし、時計用文字板の中心を基準に35°の折り曲げを行った後、時計用文字板の外観を目視により観察し、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。折り曲げは、圧縮/引っ張りの両方向について行った。
A:指標の浮き、剥がれ等が全く認められない。
B:指標の浮き、剥がれ等がほとんど認められない。
C:指標の浮き、剥がれ等がわずかに認められる。
D:粉末の脱離、または、指標の浮き、剥がれがはっきりと認められる。
【0074】
3−3.熱サイクル試験による評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用文字板を、以下のような熱サイクル試験に供した。
まず、時計用文字板を、20℃の環境下に1時間、次いで、50℃の環境下に1時間、次いで、20℃の環境下に1時間、次いで、−20℃の環境下に1時間静置した。その後、再び、環境温度を20℃に戻し、これを1サイクル(4時間)とし、このサイクルを合計6回繰り返した(合計24時間)。
その後、時計用文字板の外観を目視により観察し、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。
【0075】
A:指標の浮き、剥がれ等が全く認められない。
B:指標の浮き、剥がれ等がほとんど認められない。
C:指標の浮き、剥がれ等がわずかに認められる。
D:粉末の脱離、または、指標の浮き、剥がれがはっきりと認められる。
これらの結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2から明らかなように、本発明の時計用文字板は、光沢感のある優れた美的外観を呈するものであるとともに、耐久性にも優れていた。また、本発明では、指標の立体感に優れた時計用文字板が得られた。特に、本発明では、にじみ等が認められない優れた美的外観を有する時計用文字板が得られた。また、本発明では、時計用文字板の生産性にも優れていた。
これに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。
また、各実施例および各比較例で得られた時計用文字板を用いて、図3に示すような時計を組み立てた。このようにして得られた各時計について、上記と同様の試験、評価を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の時計用文字板の製造方法の好適な実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の時計用文字板の好適な実施形態を示す平面図である。
【図3】本発明の時計(腕時計)の好適な実施形態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1…時計用文字板 2…基板(文字板本体) 3…指標 31…粉末 311…基部 312…金属膜 32…硬化部 8…スクリーン版 81…メッシュ 811…ワイヤー 82…版膜 9…スキージ 101…ムーブメント 102…胴(ケース) 103…裏蓋 104…ベゼル(縁) 105…ガラス板(カバーガラス) 106…巻真パイプ 107…りゅうず 1071…軸部 1072…溝 108…プラスチックパッキン 109…プラスチックパッキン 113…ゴムパッキン(りゅうずパッキン) 114…ゴムパッキン(裏蓋パッキン) 115…接合部(シール部) 100…腕時計(携帯時計)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、粉末と硬化性樹脂とを含む組成物を、スクリーン印刷により付与する組成物付与工程と、
前記硬化性樹脂を硬化させ、硬化部を形成する樹脂硬化工程とを有し、
前記粉末として、プラスチック製の基部の両面側に金属材料で構成された金属膜が設けられたものを用いることを特徴とする時計用文字板の製造方法。
【請求項2】
前記組成物として、25℃における粘度が8000〜20000cpsのものを用い、
前記粉末は、平均粒径が100〜155μmであり、かつ、プラスチック製の基部上に金属膜が設けられたものであり、
前記スクリーン印刷において、スクリーン版として、少なくとも表面付近がポリ四フッ化エチレンで構成されたワイヤーを備え、メッシュ粗さが20〜120番であり、かつ、前記ワイヤーの直径が50〜120μmであるものを用いる請求項1に記載の時計用文字板の製造方法。
【請求項3】
前記組成物は、シクロヘキサン、イソホロンおよびエチレングリコールモノブチルエーテルよりなる群から選択される1種または2種以上を含むものである請求項1または2に記載の時計用文字板の製造方法。
【請求項4】
前記粉末の平均厚さが、10〜30μmである請求項1ないし3のいずれかに記載の時計用文字板の製造方法。
【請求項5】
前記基部が、ポリエステル樹脂で構成されたものである請求項1ないし4のいずれかに記載の時計用文字板の製造方法。
【請求項6】
前記金属膜の平均厚さが、0.01〜3.0μmである請求項1ないし5のいずれかに記載の時計用文字板の製造方法。
【請求項7】
前記硬化性樹脂は、光硬化性樹脂である請求項1ないし6のいずれかに記載の時計用文字板の製造方法。
【請求項8】
前記硬化性樹脂は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂よりなる群から選択される1種または2種以上を含むものである請求項1ないし7のいずれかに記載の時計用文字板の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法を用いて製造されたことを特徴とする時計用文字板。
【請求項10】
請求項9に記載の時計用文字板を備えたことを特徴とする時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−54303(P2010−54303A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218672(P2008−218672)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】