説明

曲げ加工方法

【課題】加工時間が短く、加工精度が良好で、一端側連結部31の両側の1対の直線部30、30に、長さが異なる1対の折り曲げ部を同時に形成できる曲げ加工方法を提供する。
【解決手段】一端側連結部31が1対の直線部30、30の直角方向βに対して、両直線部30、30にそれぞれ形成する1対の折り曲げ部の長さの差分に応じて傾斜するように素材W1を形成する。その後、両直線部30、30に曲げ方向が同じとなる折り曲げ部を同時に形成する。これにより、折り曲げ部を形成した後に、一端側連結部31が両直線部30、30に対して所望の状態から傾斜することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、回転電機用の巻線(マグネットワイヤ)を構成する断面円形或は矩形の金属線(例えば平角線)や、その他、棒材、パイプ材、板材等の所定の素材に曲げ加工を施す曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、誘導モータ、直流モータ(ジェネレータを含む)等の回転電機は、産業用又は車輌用の動力源として広く用いられており、そのステータのコイルのレイアウトは、比出力が高い分布巻きが多用されている。近時、ハイブリット駆動車輌及び電気自動車に用いられるモータとして、出力/寸法要求等からスロットの占積率の高い平角線をマグネットワイヤとして用いることが提案されている。
【0003】
上述のような回転電機に使用されるマグネットワイヤは、複数個所を折り曲げることによりコイルを構成する。このように素材に曲げ加工を施す構造として、素材を順次曲げ加工装置に送り、1個所ずつ曲げ加工を施す構造が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭58−176037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような分布巻きで使用されるコイルを形成するために、後述する図23に示すように、素材を、互いに平行な複数の直線部30、30と、隣り合う直線部30、30の一端部又は他端部同士を連結する一端側連結部31及び他端側連結部32a、32b(図3参照)とからなる形状とし、更に、一端側連結部31の両側の1対の直線部30、30の一部にそれぞれクランク部12a、12bを形成する未公開の構造が開発されている。これら各クランク部12a、12bは、曲げ方向が互いに逆で1対の折り曲げ部39a、39bからなる。また、1対の直線部30、30にそれぞれ形成するクランク部12a、12bは、一端側連結部31と他端側の折り曲げ部39bとの間の長さが異なる。このように、長さが異なるクランク部12a、12bを形成するのは、後述する図1に示すように、3相のコイルを適切に組み合わせてステータコア2内に省スペースで組み込むためである。
【0006】
上述のようなクランク部12a、12bを有するコイルを形成する方法として、例えば、図33ないし図37に示すように、直線部30毎にそれぞれ形成することが考えられる。このために、まず、図33に示すように、直線状のマグネットワイヤ等の素材W2(図4など参照)を折り曲げて、複数の直線部30、30と、隣り合う直線部30、30の一端又は他端部同士を連結する一端側連結部31及び他端側連結部32a、32b(図3参照)とからなる素材W1を得る。この状態で、一端側連結部31は両側の1対の直線部30、30に対してほぼ直角に折り曲げられている。次に、図34に示すように、片側の直線部30の一部(クランプ部C、斜線部)をクランプした状態で、この片側の直線部30の連結部31側を片側に折り曲げ、折り曲げ部39aを形成する(成形部F、黒塗部)。そして、図35に示すように、片側の直線部30の一部(クランプ部C、斜線部)をクランプした状態で、この片側の直線部30の連結部31側を図34の場合と反対側に折り曲げ、折り曲げ部39bを形成する(成形部F、黒塗部)。これにより、片側の直線部30にクランク部12aを形成する。
【0007】
次に、図36に示すように、他側の直線部30の前記片側の直線部30の連結部31からの距離が異なる位置(クランプ部C、斜線部)をクランプした状態で、この他側の直線部30の連結部31側を片側に折り曲げ、折り曲げ部39aを形成する(成形部F、黒塗部)。そして、図37に示すように、他側の直線部30の一部(クランプ部C、斜線部)をクランプした状態で、この他側の直線部30の連結部31側を図36の場合と反対側に折り曲げ、折り曲げ部39bを形成する(成形部F、黒塗部)。これにより、他側の直線部30にクランク部12bを形成する。更に、図37の状態から、連結部31を捻るように傾斜させ、図37の(b)で、両直線部30、30が重なるような状態とする。
【0008】
上述のように、クランク部12a、12bを直線部30毎に形成する方法の場合、加工工程が多いため、加工時間が長くなることが避けられない。また、図34の(b)及び図36の(b)に示すように、一方の直線部30の加工を行っている際に、他方の直線部30が曲げ方向に沿って大きく振れてしまう。このような曲げ加工は、例えば、ボビンに巻かれたマグネットワイヤ等の素材W2を順次送り込みながら加工を行うため、直線部30の振れを確保するためのスペースを確保するか、送り機構をこの振れに合わせて移動させる必要があり、装置が大型化することが避けられない。また、何れにしても、直線部30の振れを円滑に行うことは難しく、加工精度を確保しにくい。
【0009】
これに対して、図38ないし図40に示すように、一端側連結部31の両側の1対の直線部30、30に同時にクランク部12a、12bを形成する方法が考えられる。まず、上述の場合と同様に、図38に示すような形状の素材W1を得る。次に、図39に示すように、1対の直線部30、30の一端側連結部31からの距離が異なる部分(クランプ部C、斜線部)をクランプした状態で、これら両直線部30、30の一端側連結部31側を片側に同時に折り曲げ、それぞれに折り曲げ部39a、39aを形成する(成形部F、黒塗部)。そして、図40に示すように、両直線部30、30の一部(クランプ部C、斜線部)をクランプした状態で、これら両直線部30、30の一端側連結部31側を図39の場合と反対側に同時に折り曲げ、それぞれに折り曲げ部39b、39bを形成する(成形部F、黒塗部)。これにより、両直線部30、30にクランク部12a、12bを同時に形成する。
【0010】
上述のような方法で、クランク部12a、12bを両直線部30、30に同時に形成する方法の場合、図40の(a)に示すように、一端側連結部31が両直線部30、30に対して直角な状態から傾斜してしまう。分布巻きのコイルに使用するものとしては、一端側連結部31が両直線部30、30に対してほぼ直角となる形状を得る必要がある。このため、上述のような形成方法では、更に、図40の状態から一端側連結部31を両直線部30、30に対して直角とするような工程が必要になり、やはり加工工程が増えて、加工時間が長くなる。
【0011】
そこで、本発明は、加工時間が短く、加工精度が良好で、一端側連結部の両側の1対の直線部に、長さが異なる1対の折り曲げ部を同時に形成できる曲げ加工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、互いに平行な複数の直線部(30、30)と、該各直線部(30、30)のうちの隣り合う直線部(30、30)の一端部同士及び他端部同士を交互に連結する一端側連結部(31、31a、31b、31c)及び他端側連結部(32a、32b)とを順次形成してなる素材(W1)の、前記一端側連結部(31、31a、31b、31c)の両側に存在する1対の直線部(30、30)に、それぞれ、該一端側連結部(31、31a、31b、31c)までの長さが異なる折り曲げ部(39a、39b)を形成する曲げ加工方法であって、
前記一端側連結部(31)が前記1対の直線部(30、30)の直角方向に対して、該両直線部(30、30)にそれぞれ形成する前記折り曲げ部(39a、39b)の長さの差分に応じて傾斜するように前記素材(W1)を形成した後、
前記両直線部(30、30)に曲げ方向が同じとなる折り曲げ部(39a又は39b)を同時に形成することを特徴とする方法である。
【0013】
前記1対の直線部(30、30)に、それぞれ曲げ方向が互いに逆で、前記一端側連結部(31、31a、31b、31c)とそれぞれの直線部(30、30)の他端側の折り曲げ部(39b)との間の長さが異なる1対の折り曲げ部(39a、39b)を形成する。
【0014】
前記両直線部(30、30)の前記折り曲げ部(39a又は39b)よりも前記連結部(31)と反対側を固定した状態で、該折り曲げ部(39a又は39b)を形成する。
【0015】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより各請求項の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る本発明によると、1対の直線部に折り曲げ部を同時に形成する前に、一端側連結部を両直線部の直角方向に対して、両直線部にそれぞれ形成する折り曲げ部の長さの差分に応じて傾斜させているため、折り曲げ部を形成した後に、一端側連結部が両直線部に対して所望の状態から傾斜することを防止できる。この結果、加工時間を短くできる。
【0017】
請求項2に係る本発明によると、1対の折り曲げ部を形成した後に、一端側連結部が両直線部に対して所望の状態から傾斜することを防止できるため、加工時間を短くできる。
【0018】
請求項3に係る本発明によると、加工時に直線部が振れることがなく、加工精度を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明により製造されるコイルを組み込んだステータを示す、(a)が斜視図、(b)が平面図。
【図2】そのコイル(V相)を示す、(a)が斜視図、(b)が平面図。
【図3】本発明により製造するコイルの中間素材を示す図。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る曲げ加工装置の平面図。
【図5】図4の下方から見た図。
【図6】図4の上方から見た図。
【図7】図4のイ−イ断面図。
【図8】図4の右方から見た図。
【図9】オフセット曲げ部の曲げ中心と回動中心との関係を説明する為の模式図。
【図10】曲げ加工後の状態を示す曲げ加工装置の平面図。
【図11】スプリングバックを考慮して更に曲げ加工を行った状態を示す曲げ加工装置の平面図。
【図12】曲げ加工機の概略側面図。
【図13】一部を省略して示す曲げ加工機の概略平面図。
【図14】架台をスライドさせる部分のみを示す概略側面図。
【図15】同じく概略平面図。
【図16】曲げ加工装置の別例を一部を省略して示す平面図。
【図17】曲げ加工装置の別例で素材に段差部を形成する第1工程を示す、図16と同様の図。
【図18】第1工程により形成される部分の主要部を抜き出して示す拡大図。
【図19】曲げ加工装置の別例で素材に段差部を形成する第2工程を示す、図16と同様の図。
【図20】素材の段差部を曲げる工程を示す、図16と同様の図。
【図21】図4ないし図20で得られた素材の一部を示す、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の上方から見た図。
【図22】その素材に更に曲げ加工を行う方法の第1工程を示す、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の上方から見た図。
【図23】同じく第2工程を示す、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の上方から見た図。
【図24】図21ないし図23により行う曲げ加工方法に使用する曲げ加工装置に素材を配置した状態を示す、(a)は(b)の左側面図、(b)は正面図、(c)は(b)の右側面図。
【図25】同じく曲げ加工の第1工程を示す、(a)は(b)の左側面図、(b)は正面図、(c)は(b)の右側面図。
【図26】同じく第2工程を示す、(a)は(b)の左側面図、(b)は正面図、(c)は(b)の右側面図。
【図27】同じく第3工程を示す、(a)は(b)の左側面図、(b)は正面図、(c)は(b)の右側面図。
【図28】本発明の第2の実施形態に係る曲げ加工装置を組み込んだ曲げ加工機を示す平面図。
【図29】一部を省略して曲げ加工装置に素材を配置した状態を示す曲げ加工機の平面図。
【図30】曲げ加工の第1工程を示す、図29と同様の図。
【図31】同じく第2工程を示す、図29と同様の図。
【図32】同じく第3工程を示す、図29と同様の図。
【図33】本発明を導き出す過程で考えた、両直線部にそれぞれ長さが異なるクランク部を形成するための第1の方法で使用する素材の一部を示す、(a)は正面図、(b)は側面図。
【図34】その素材に更に曲げ加工を行う第1工程を示す、(a)は正面図、(b)は側面図。
【図35】同じく第2工程を示す、(a)は正面図、(b)は側面図。
【図36】同じく第3工程を示す、(a)は正面図、(b)は側面図。
【図37】同じく第4工程を示す、(a)は正面図、(b)は側面図。
【図38】本発明を導き出す過程で考えた、両直線部にそれぞれ長さが異なるクランク部を形成するための第2の方法で使用する素材の一部を示す、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の上方から見た図。
【図39】その素材に更に曲げ加工を行う第1工程を示す、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の上方から見た図。
【図40】同じく第2工程を示す、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の上方から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態を図面に沿って説明する。まず、本実施形態により製造されるコイルを組み込んだ回転電気(モータ、ジェネレータ等)のステータについて、図1及び図2に沿って説明する。本ステータ1は、ロータと共に電気モータ(ジェネレータを含む)を構成し、該電気モータは、電気自動車及びハイブリッド車輌の駆動源となる電気モータ(含むジェネレータ)、特にブラシレスDCモータに適用して好適である。ステータ1は、図1に示すように、多数の珪素鋼板の薄板を積層したステータコア2、及び、所定の素材であるマグネットワイヤ(導体、巻線)3を巻回したコイル4からなる。ステータコア2は、リング状からなり、内径側に開口するスロット5、5及びティース6、6が交互に多数形成されている。そして、所定ピッチ離れた2個のスロット5、5の間を分布巻きにて3相U,V,Wの各コイル4(4U,4V,4W)が巻かれている。
【0021】
マグネットワイヤ3は、断面矩形状の平角線からなり、銅等からなる導体部の全周に絶縁樹脂等の絶縁被膜が形成されている。上記ワイヤ3からなる3相のコイル4U,4V,4Wは、同相のスロット5、5内においては、同相の複数本(例えば4本)のワイヤ3がステータコア2の径方向に並んで配置されており、かつステータコア2の軸方向Lの一端面7から突出した一端側コイルエンド部8においては、同相の複数本のワイヤ3がステータコア2の径方向(又は軸方向)に並んで配置され、ステータコア2の軸方向Lの他端面9から突出した他端側コイルエンド部10においては、同相の複数本のワイヤ3がステータコア2の径方向内径側に屈曲すると共にステータコア2の径方向に並んで配置されている。
【0022】
代表してV相のコイル4Vを示すと、コイル4Vは、図2に示すように、同じスロット5を占めるように、2組4V1,4V2がセットとなって径方向に配置されるように、ワイヤ3を略2周巻回することにより構成されている。各組のコイル4V1,4V2は、スロット5、5内に配置されるスロット導体部11、11と、ステータコア2の一端面7から突出して、所定間隔隔てたスロット導体部11、11を連結するように、径方向R外方にクランク状に屈曲して周方向Mに延びる一端側コイルエンド部8と、ステータコア2の他端面9から突出して、所定間隔離れたスロット導体部11、11と連結するように、径方向R内方に屈曲して周方向Mに延びる他端側コイルエンド部10と、からなる。
【0023】
また、一端側コイルエンド部8は、周方向Mに延びる部分の途中で径方向Rに屈曲させて略クランク形状としている。このため、一端側コイルエンド部8の周方向M部分のうち、径方向Rに関して内側となる部分に接続するクランク部12aよりも、径方向Rに関して外側となる部分に接続するクランク部12bを、クランク形状部分の長さが長くなるようにしている。また、他端側コイルエンド部10は、1周目部分と2周目部分とが、先端部分では径方向Rに重なり合うように、径方向Rに折れ曲がる基端部分では軸方向Lに重なり合うようにしている。このため、2周目の他端側コイルエンド部10を構成する部分の形状を、径方向Rに関して内方に向かう程間隔が狭くなる方向に屈曲した段付き形状としている。また、他端側コイルエンド部10の周方向Mに延びる部分の途中を軸方向Lに屈曲させて略クランク形状としている。他のコイル4U、4Wも同様に形成し、それぞれ複数組み合わせて前述の図1に示したステータ1を得る。各コイル4を上述のように形成し、図1に示すように適切に組み合わせてステータコア2内に組み込めば、このステータコア2内に省スペースでコイル4を組み込める。
【0024】
上述のコイル4は、図3に示すような矩形波状に形成された平角線などの(中間)素材W1に、更に曲げ加工などを加えて複数(図示の例では2周)巻回することにより構成される。この素材W1は、互いに平行な複数の直線部30、30と、各直線部30、30のうちの隣り合う直線部30、30の一端部又は他端部同士を交互に連結する、一端側(図3の上側)連結部31a、31b、31c及び他端側(図3の下側)連結部32a、32bとから構成される。このうちの各直線部30、30の中間部は、前述のスロット導体部11を構成する。また、各一端側連結部31a〜31c及び各直線部30、30の一端部は、前述の一端側コイルエンド部8を構成し、電源からの端子を接続したり、他のコイルと接続するリード側となる。また、図3の右側の一端側連結部31a、31aは、2周巻回されるコイル4の1周目を構成し、図3の左側の一端側連結部31cは、コイル4の2周目を構成し、これらの間の一端側連結部31bは、1周目と2周目との間、即ち周回が変化する渡りの部分を構成する。このため、それぞれ長さが異なる。また、各他端側連結部32a、32b及び各直線部30、30の他端部は、前述の他端側コイルエンド部9を構成し、端子などの接続部がない反リード側となる。
【0025】
また、一端側連結部31a〜31cは、直線部30、30の直角方向に対して傾斜させている。このため、一端側連結部31a〜31cと直線部30、30との連続部を構成する曲げ部33a、33bのうち、図3の左側の曲げ部33a、33aの角度(一端側連結部31a〜31cと直線部30、30との成す角度)を90°よりも大きくし、図3の右側の曲げ部33b、33bの角度を90°よりも小さくしている。一方、他端側連結部32a、32bは、直線部30、30に対してほぼ直角方向に曲げられている。また、図3の右側に配置され、コイル4の1周目を構成する他端側連結部32a、32aと直線部30、30との連続部は、単に折り曲げただけの曲げ部33c、33cとしている。これに対して、図3の左側に配置され、コイル4の2周目を構成する他端側連結部32b、32bと直線部30、30との連続部を形成する曲げ部33d、33dは、先端に向かう程間隔が狭くなるような段付き形状としている。このように、曲げ部33d、33dを段付き形状としているのは、素材W1を巻回してコイル4とした場合に、曲げ部33c、33cと曲げ部33d、33dとが干渉することを防止して、前述したようコイル4の他端側コイルエンド部10のような形状とし、コイルエンド部10の形状をよりコンパクトにするためである。
【0026】
上述の図3に示した矩形波状の素材W1を形成するための曲げ加工装置20a、20b、及び、このような曲げ加工装置20a、20bを備えた曲げ加工機40について、図4ないし図23を用いて説明する。このような曲げ加工装置20a、20bは、上述の他端側連結部32a、32bの長さの違いに応じて選択して使用されるものである。即ち、コイル4の1周目を形成する場合には曲げ加工装置20aを使用し、コイル4の2周目を形成する場合には曲げ加工装置20bを使用する。また、曲げ加工装置20a、20bは、順次送り込まれる曲げ加工前の直線状の平角線などの素材W2に、4個所の曲げ加工を繰り返し施すものである。
【0027】
まず、コイル4の1周目を形成する曲げ加工装置20aについて、図4ないし図11を用いて説明する。なお、本実施形態の場合、十分に長い素材W2を巻回した図示しないボビンを、曲げ加工装置20の図4、5の右側、図6、7の左側に配置し、このボビンから素材W2を図4、5の右から左に、図6、7の左から右に各図の左右方向に沿って送る(供給する)ようにしている。このため、図4、5の右側、図6、7の左側が送り方向上流、図4、5の左側、図6、7の右側が送り方向下流となる。
【0028】
曲げ加工装置20aは、5個の治具21a、21b、21c、21d、21e、複数のオフセット曲げ部22、22などを備える。このうちの各治具21a〜21eは、それぞれ回動軸23、23を中心に回動自在に直列に連結されている。即ち、送り方向上流端に配置された治具21aと、この治具21aと隣接する治具21bとは、この治具21bが上流端の治具21aに対して図4の時計方向に回動自在に連結されている。また、治具21bと中央の治具21cとは、中央の治具21cが治具21bに対して図4の反時計方向に回動自在に連結されている。また、中央の治具21cとこの治具21cの送り方向下流に隣接する治具21dとは、この治具21dが中央の治具21cに対して図4の反時計方向に回動自在に連結されている。更に、治具21dと送り方向下流端に配置された治具21eとは、この治具21dが下流端の治具21eに対して図4の反時計方向に回動自在に連結されている。そして、各治具21a〜21eに素材W2を配置し、各治具21a〜21eをそれぞれ相対的に回動させることにより、素材W2に曲げ加工を施す。
【0029】
このために、各治具21a〜21eは、それぞれ回動方向と反対側に前記素材W2の変位を抑える抑え部24、24を固定している。即ち、各抑え部24、24の抑え面24a、24aを素材W2の側面に当接させ、曲げ加工時に素材W2が各治具21a〜21eに対して変位することを抑える。また、中央の治具21cを除く各治具21a、21b、21d、21eには、それぞれ保持部25、25を各抑え部24、24と素材W2を挟んで対向する位置に固定している。これら各保持部25、25と各抑え部24、24との間隔は、素材W2の幅よりも僅かに大きくし、この素材W2を緩く挟持するようにしている。なお、治具21b、21dには、抑え部24、24と保持部25、25とを、それぞれ両端部に離隔して固定している。但し、両端部の抑え部24、24、保持部25、25をそれぞれ一体としても良い。また、中央の治具21cにも保持部を配置しても良い。
【0030】
又、各オフセット曲げ部22、22は、5個の治具21a〜21eのうちの互いに連結される1対の治具の何れかに、回動軸23、23から素材W2の回動側に所定量オフセットして配置される。本実施形態の場合、治具21b、21dのそれぞれの両端部に固定された保持部25、25の抑え部24、24に対向する側の角部を部分円筒面状に形成することにより、オフセット曲げ部22、22としている。なお、オフセット曲げ部22、22は、保持部25、25と別体に、例えば、円筒部材を配置することなどにより構成しても良い。このような各オフセット曲げ部22、22は、曲げ加工後の素材W2の内周面の曲率半径とほぼ同じ曲率半径の円筒面としている。また、各オフセット曲げ部22、22は、回動軸23、23から所定量オフセットさせることにより、各治具21a〜21dの回動により素材W2を前記各治具21a〜21eに対して変位させることなく曲げられるようにしている。
【0031】
このために、各オフセット曲げ部22、22の回動軸23、23に対するオフセット量を、次のように定める。なお、以下の説明では、各オフセット曲げ部22、22を円筒状の部材とする。また、素材W2の1個所の曲げ部についてのみ説明するが、全ての曲げ部は同じ関係を有する。図9に示すように、素材W2の曲げ角度をθ、素材W2の厚さ(素材W2が断面円形の場合は直径)をT、素材W2の中立線Nから素材W2の曲げ加工後の内周面までの距離の厚さTに対する割合をα、オフセット曲げ部22の曲率半径をr、オフセット曲げ部22の曲げ中心Pの回動軸23の回動中心Oに対する距離のうち、素材W2の曲げ方向で素材W2を曲げる以前の状態が直線であるとした場合の直線方向と平行方向(X方向、図9の左右方向)に関する距離をX、同じく、前記直線方向と直角な方向(Y方向、図9の上下方向)に関する距離をY、とした場合に、曲げ中心Pは、少なくとも曲げ加工後に、回動中心Oに対し、
X=(r+T×α)×θ/2
Y=(r+T×α)×θ/2/tan(θ/2)
を満たす位置に設置される。
【0032】
上述の式について説明する。先ず、仮に、曲げ中心Pと回動中心Oとを一致させた状態で素材W2に曲げ加工を施した場合、中立線Nの位置で、素材W2が(r+T×α)×θだけ治具に対し移動する。即ち、中立線Nの曲げ部分の円周長さ分、素材W2が引き込まれる。従って、曲げ加工の際に素材W2が引き込まれないようにする為には、オフセット曲げ部22を曲げ加工の前後で素材W2に沿って(r+T×α)×θだけ移動させれば良い。図9から明らかなように、オフセット曲げ部22のY方向の移動距離は考慮する必要がない。この場合に、オフセット曲げ部22の移動は、回動中心Oを中心として行われる為、図9(b)から明らかなように、曲げ中心Pの回動中心OからのX方向の距離は、オフセット曲げ部22の移動距離の半分である(r+T×α)×θ/2となる。このように、曲げ中心Pの回動中心OからのX方向の距離が分かれば、三角関数から、同じくY方向の距離(r+T×α)×θ/2/tan(θ/2)を導き出せる。
【0033】
本実施形態の場合、上述のような曲げ加工を行うために、5個の治具21a〜21eのうちの両端の治具21a、21eは、素材W2の送り方向に対して回動不能に、且つ、送り方向に直角な方向に移動不能に配置され、送り方向上流端の治具21aは、送り方向に沿って移動可能としている。即ち、送り方向上流端の治具21aは、架台26上に送り方向に亙って固定されたレール27に沿って移動可能に、且つ、抑え部24と保持部25との隙間が送り方向に沿うような向きで配置されている。このために、図8に示すように、治具21aの底面に送り方向に沿って凹部28を形成し、この凹部28内にレール27が進入するようにしている。この結果、治具21aがレール27に沿って移動可能で、且つ、レール27に対して回動不能に配置される。
【0034】
また、送り方向下流端の治具21eは、架台26上でレール27の送り方向下流に、抑え部24と保持部25との隙間が送り方向に沿うような向きで、回動不能及び移動不能に固定されている。したがって、治具21aと治具21eとは、送り方向に沿う同一直線状に配置される。また、上流端の治具21aをレール27に沿って移動可能としているため、両端部の治具21a、21eが送り方向に沿って遠近動自在である。なお、下流端の治具21eも移動させても良いが、後述するように、曲げ加工装置20の下流に次の曲げ工程を行う装置を配置するため、上流端の治具21aのみを移動させることが好ましい。また、下流端の治具21eは、曲げ加工を施す素材の下流端の形状によっては、回動軸23を中心として回動可能とすることもできる。
【0035】
また、上流端の治具21aの下流に隣接した治具21bに、ハンドル29を固定して、このハンドル29を操作することにより、治具21bに上流端の治具21aとの回動軸23を中心とした回動方向(図4の時計方向)に力を付与可能としている。このように治具21bに回動方向の力を付与することにより、中央の治具21cに送り方向に対して直角方向一方(図3の上方向)に移動する力を付与する。したがって、治具21bが、上流端の治具21aとの回動軸23を中心とした回動方向に回動し、中央の治具21cに直角方向一方に移動する力を付与する作動部材である。
【0036】
上述のような曲げ加工装置20aにより素材W2に曲げ加工を行う場合、両端部の治具21a、21eが互いに近づくように、上流端の治具21aをレール27に沿って移動させる。これと共に、中央の治具21cに送り方向に対して直角方向一方に移動する力を付与しつつ、各治具21a〜21eをそれぞれ前述した方向に相対的に、図10に示すような位置関係となるまで回動させる。これにより、素材W2に4個所の曲げ加工をほぼ同時に施す。本実施形態では、上流端の治具21aに隣接する治具21bに固定したハンドル29を、送り方向下流に移動させつつ、図4、10の時計方向に回動させるように操作する。これにより、上流端の治具21aを送り方向下流にスライドさせ、治具21bを上流端の治具21aに対して時計方向に回動させ、更に、中央の治具21cに送り方向に対して直角方向一方に移動する力を付与できる。治具21bの回動方向及び中央の治具21cの移動方向が決まれば、下流端の治具21eが固定されているため、治具21aの移動により、治具21b、21c、21dが、前述したような方向に相対回動する。なお、治具21aの移動及び治具21bの回動は、アクチュエータにより行っても良い。
【0037】
また、上述のような曲げ加工の際、素材W2の曲げ加工装置20aの上流側部分が、治具21aにより引っ張られる。このため、本実施形態では、前述のボビンから供給される素材W2を、ボビンと曲げ加工装置20との間で余裕を持って撓ませておき、治具21aの移動により素材W2が円滑に引っ張られるようにしている。なお、ボビンを治具21aの移動に合わせて回転させるなど、素材W2を治具21aの移動に追従して供給可能としても良い。また、治具21aの移動とボビンによる供給とを円滑に連動できれば、素材W2を撓ませておかなくても良い。
【0038】
更に、本実施形態では、後述するように、素材W1(図3、21参照)の直線部30、30に長さが異なるクランク部12a、12b(図2、23参照)を形成すべく、前述したように、直線部30、30の一端部同士を連結する一端側連結部31(31a、31b、31c)を、この一端側連結部31の両側に存在する1対の直線部30、30の直角方向に対して傾斜させている。このため、図10に示すように、両端の治具21a、21eと、これら両治具21a、21eにそれぞれ隣接する治具21b、21dとの曲げ角度を90°と異ならせている。即ち、上流端の治具21aと治具21bとの成す角度を90°よりも小さくし、下流端の治具21eと治具21dとの成す角度を90°よりも大きくするまで、各治具21a〜21eを回動させている。このために、治具21a、21eと治具21b、21dとのそれぞれの曲げ角度を、規制部材60a、60bにより規制している。これら治具21a、21eと治具21b、21dとのそれぞれの曲げ角度が決まれば、治具21cと治具21b、21dとの曲げ角度が、これら治具21b、21dの長さに応じて決まる。本実施形態では、これら治具21b、21dの長さを同じとし、中央の治具21cと治具21b及び治具21dとの曲げ角度を、それぞれほぼ90°としている。また、本実施形態では、素材W2のスプリングバックを考慮して、図11に示すように、更に各治具21a〜21を回動させている。
【0039】
このように、素材W2に4個所の曲げ加工を施したならば、曲げ加工を施した部分を曲げ加工装置20aから外し、素材W2を送り方向下流に移動させて(送り)、次に加工すべき部分を曲げ加工装置20aに装着し、上述した加工を再度行う。このような加工を順次行うことにより、前述の図3に示した矩形波状の素材W2のうち、コイル4の1周目部分を得る。なお、この場合の素材W2の送り量は、1周目の範囲内では同じとしている。
【0040】
なお、ステータコア2に配置されるコイルは、前述の図1に示したように複数種類存在する。各種のコイルはそれぞれステータコア2に配置される径方向の位置に応じて周長が異なる。即ち、各直線部同士の間隔が異なる。また、軸方向長さ(軸長)が異なるステータコアに配置する場合、直線部の長さも異なる。このため、周長或は軸長(何れも曲げ部33a、33b、33c、33d間の長さ)が異なるコイル毎に、複数組の治具を用意する必要がある。即ち、前述の5個の治具21a〜21eとして、両端に配置される治具を除く各治具21b〜21eのうちの少なくとも1個の治具の長さが異なる、複数組の組み合わせを用意する。そして、素材W2に形成される(素材W1の)複数の曲げ部33a〜33dの間(隣り合う直線部30、30同士の間)の長さ、或は、直線部30、30の長さに応じて、曲げ加工の際に何れかの治具の組を選択可能とする。
【0041】
例えば、略矩形波状の(中間)素材W1(図3)が、曲げ加工後に湾曲させられることにより2周以上巻回されるものである場合、5個の治具として、中央の治具21cの長さが異なる2組以上の組み合わせを用意する。そして、素材W1の周回に応じて、治具の組を変えると共に直線状の素材W2を5個の治具21a〜21e(曲げ加工装置20a)に配置する際の送り量を変えることにより、素材W1の周回が変化する渡りの部分はこの送り量を変えることにより、それぞれ各曲げ部33a〜33dの間の長さの変化を調整する。なお、軸長は変わらないため、治具21b、21dは同じものを使用できる。
【0042】
このように、素材W1の周回が変化する渡りの部分の長さ調整を、送り量により変化させれば、素材W1を2周巻回してコイル4を形成する場合、治具の組として2組用意すれば良く、用意する治具の組を少なくできる。したがって、各種コイルを素材を2周巻回して形成する場合、それぞれのコイルを形成する治具の組を2組ずつ用意すれば良い。このため、治具の組を低減でき、低コスト化を図れる。これに対して、渡りの部分の長さ調整を治具の交換により行う場合、この分、治具の組が必要になり、素材W1を2周巻回する場合、3組の治具が必要になる。
【0043】
本実施形態の場合、前述したように、素材W1を2周巻回させることによりコイル4を形成する。したがって、上述のように曲げ加工装置20aにより1周目の加工が終わったならば、まず、素材W2を1周目と2周目との渡りの部分の長さ分、送り方向に移動させて、この渡りの部分の長さ調整を行う。即ち、図3に示した一端側連結部31bの長さを送り量により調整する。次いで、素材W2を曲げ加工装置20aから外し、2周目用の曲げ加工装置20b(図16ないし図20参照)に交換して、素材W2の2周目に相当する部分を、この曲げ加工装置20bにより加工する。本実施形態では、曲げ加工装置20a、20bをそれぞれ同じ架台26上に配置し、この架台26をスライドさせることにより曲げ加工装置20a、20bの交換を行う。したがって、曲げ加工装置20bについて説明する前に、このような構成を備えた曲げ加工機40について、図12ないし図15を用いて説明する。
【0044】
曲げ加工機40は、上述のように曲げ加工装置20a、20bを配置する架台26と、架台26をスライドさせるスライド機構41と、架台26を曲げ加工装置20a、20bと共に、図12の上下方向に変位させる変位機構(昇降機構)42と、曲げ加工装置20a、20bに素材W2を配置するための抑え機構43と、素材W2を掴んで曲げ加工装置20a、20bから取り外すチャック機構44とを備える。このうちのスライド機構41は、図12、14に示すように、架台26を支持する基台41aを、レール41b、41bに対してスライド可能に配置してなる。このため、基台41aをレール41b、41bに沿って、手動又はアクチュエータなどにより自動で移動させることにより、架台26を図12の表裏方向、図13、15の上下方向、図14の左右方向に移動可能である。また、変位機構42は、モータと送りねじ機構の組み合わせなどのアクチュエータにより架台26を、基台41aに対して図12、14の上下方向に移動(昇降)させるものである。また、抑え機構43は、図13の上下方向に移動可能な抑え部材43aを有すると共に、図12に示すように、曲げ加工装置20a(20b)の上側に、図13に示すように、曲げ加工装置20aの側方に外れた位置に配置される。また、チャック機構44は、曲げ加工機40の天板40aの下面に送り方向に配置されたレール40bに沿って移動可能に配置される。そして、曲げ加工装置20aの上方の送り方向下流に位置した状態で、チャック44aにより素材W2を掴めるようにしている。このために、曲げ加工装置20aの治具21dにチャック44aが進入可能な溝44b(図4など参照)を形成している。
【0045】
上述のような曲げ加工機40により、曲げ加工装置20a(20b)へのコイルの配置、分離、曲げ加工装置20aと曲げ加工装置20bとの交換は、次のように行う。まず、スライド機構41により曲げ加工装置20aを素材W2の送り方向に沿った位置に配置する。この際、架台26の位置は素材W2の配設位置よりも下方となっている。次いで、抑え機構43の抑え部材43aを素材W2上に配置し、この状態で、変位機構42により曲げ加工装置20aと共に架台26を上昇させる。これにより、素材W2を抑え部材43aにより上側から抑えつつ、曲げ加工装置20aの各治具21a〜21eの抑え部24と保持部25との隙間内に素材W2を配置する。この際、各治具21a〜21eは直線状に配設されている。抑え部材43aを退避させた後、曲げ加工装置20aにより曲げ加工を行う。次いで、チャック機構44を所定位置に移動させ、チャック44aにより曲げ加工後の素材W2を掴み、この状態で、変位機構42により曲げ加工装置20aを架台26と共に下降させる。これにより、素材W2が曲げ加工装置20aから分離される。そのまま曲げ加工装置20aにより加工を続ける場合には、素材W2を所定量送り、上述の工程を繰り返す。一方、曲げ加工装置20bにより曲げ加工を行う場合には、スライド機構41により架台26を移動させて、曲げ加工装置20bを素材W2の送り方向に沿った位置に配置する。そして、上述の場合と同様の工程を繰り返す。
【0046】
次に、このような曲げ加工装置20bについて、図16ないし図20を用いて説明する。この曲げ加工装置20bは、前述したように、矩形波状の(中間)素材W1(図3)の2周目に相当する部分を加工するものである。この素材W1の2周目に相当する部分の他端側連結部32b、32bは、前述したように、曲げ部33d、33dが段付き形状となっている。このため、曲げ加工装置20bは、この段付き形状を形成する部分の構造、及び、中央の治具21cの長さが、前述の曲げ加工装置20aと異なり、その他の部分の構造は、この曲げ加工装置20aと同じである。したがって、以下の説明では、このように異なる部分の構造を中心に行い、その他の曲げ加工装置20aと同じ構造の部分は説明及び図示を省略又は簡略にする。
【0047】
曲げ加工装置20aは、5個の治具21a、21b、21c、21d、21e(治具21a及び治具21eについては、図3などを参照)により素材W2に曲げ加工を施す前に、素材W2の所定部分に段差部35(図19)を形成する段差成形部材36を備える。この段差成形部材36は、素材W2の配設方向に対し傾斜した方向に変位自在に配置された、第1押圧部材37及び第2押圧部材38を有する。これら両押圧部材37、38は、互いに素材W2を挟んで反対側に、且つ、素材W2の送り方向(図16ないし図20の左右方向)にずれた位置に配置される。
【0048】
本実施形態では、第1押圧部材37は、中央の治具21cの抑え部24で、この抑え部24を治具21cに対して変位自在に配置している。また、この抑え部24の抑え面24aは、段差部35の形状に見合った形状を有する押圧成形部37aとしている。また、第2押圧部材38は、中央の治具21cの送り方向上流(図16ないし図20の右側)に隣接した治具21bの保持部25で、この保持部25を治具21bに対して変位自在に配置している。また、この保持部25の下流(図16ないし図20の左側)端でオフセット曲げ部22よりも上流にずれた部分には、段差部35の上流側の曲げ部35a(図19)に見合った段差38aを形成している。また、中央の治具21cの送り方向下流に隣接した治具21dの保持部25の上流端でオフセット曲げ部22よりも下流にずれた部分には、段差部35の下流側の曲げ部35b(図19)に見合った段差38bを形成している。即ち、これら段差38a、38bは、第1押圧部材37と素材W2を挟んだ位置で、送り方向上流又は下流にずれた位置に形成されている。
【0049】
上述の両押圧部材37、38は、それぞれ素材W2の配設方向に対して素材W2の送り方向下流に向かう成分を含む傾斜方向に素材W2を押圧することにより、素材W2の送り方向下流側からの引き込みを防止しつつ、素材W2の所定部分に段差部35を形成する。即ち、まず、図17に示すように、第1押圧部材37(治具21cの抑え部24)を、この第1押圧部材37と素材W2を挟んだ位置で、送り方向上流にずれた位置に形成された段差38bに向けて(矢印H方向に)変位させることにより、第1押圧部材37と段差38bとの間で素材W2を変形させる。この際、図18に示すように、第1押圧部材37を段差38bに向けて矢印方向に押圧するが、この方向は、第1押圧部材37の押圧成形部37aと素材W2との接触点I、及び、段差38bを形成した保持部25と素材W2との接触点Jでは、ほぼ滑りが生じないように、これら接触点I、Jでの摩擦との関係で規制する。次いで、図19に示すように、第2押圧部材38(治具21bの保持部25)を、第1押圧部材37に向けて変位させることにより、第1押圧部材37と第2押圧部材38の段差38aとの間で素材W2を変形させて、段差部35を形成する。
【0050】
なお、このような両押圧部材37、38の移動は、手動又はアクチュエータなどにより自動で行う。手動で行う場合、例えば、両押圧部材37、38の移動方向をそれぞれ治具21c又は治具21bとの間で凹凸嵌合などにより規制する。そして、治具21c及び治具21bにそれぞれ固定したナット部材に螺合したねじを回転させることにより、第1押圧部材37及び第2押圧部材38を上述の凹凸嵌合に沿って押圧する。自動で行う場合、例えば、モータにより上述のねじを回転させることにより両押圧部材37、38を押圧する。
【0051】
上述のように、素材W2に段差部35を形成したならば、前述の曲げ加工装置20aと同様に、上流端の治具21aを送り方向に沿って移動させ、各治具21a〜21eを相対的に回動させることにより、図20に示すように、素材W2に曲げ加工を施す。本実施形態では、治具21cと治具21b及び治具21dとの相対回動により素材W2を曲げるオフセット曲げ部22は、それぞれ段差部35内に、即ち、曲げ部35a、35bの間に存在する。このため、各治具21a〜21eの曲げ加工により、段差部35の両端寄り部分が曲げられ、図3、20に示したように、素材W1の曲げ部33d、33dを段付き形状に形成する。なお、治具21bの保持部25に形成したオフセット曲げ部22は、第2押圧部材38であるこの保持部25が上述のように第1押圧部材37に向けて移動した状態で、素材W2に引き込みが生じない正規の位置に配置される。
【0052】
次に、上述のように曲げ加工装置20a、20bにより矩形波状に形成した(中間)素材W1の直線部30、30の一端側に、互いに長さが異なるクランク部12a、12bを形成する曲げ加工方法及び曲げ加工装置について、図21ないし図27を用いて説明する。なお、図21ないし図27では、一端側連結部31(31a、31b、31c)と、この一端側連結部31により連結される1対の直線部30、30との一部を抜き出して示すが、その他の部分も同様である。まず、曲げ加工方法について、図21ないし図23を用いて説明する。
【0053】
本実施形態では、前述の図1、2で説明したように、コイル4の一端側コイルエンド部8の周方向Mに延びる部分の途中を径方向Rに屈曲し、略クランク形状とするために、両直線部30、30に、互いに長さが異なるクランク部12a、12bを形成する。即ち、両直線部30、30に、それぞれ曲げ方向が互いに逆である1対の折り曲げ部39a、39bを形成し、図23(a)の左側の直線部30の1対の折り曲げ部39a、39bによりクランク部12aを、右側の1対の折り曲げ部39a、39bによりクランク部12bを構成している。そして、一端側連結部31とそれぞれの直線部30の他端側の折り曲げ部39bとの間の長さを異ならせている。本実施形態では、図23(a)の左側のクランク部12aよりも、右側のクランク部12bの方が長い。
【0054】
このように長さが異なるクランク部12a、12bを効率良く形成するため、本実施形態では、素材W1は、上述した工程により、図21に示すように形成する。即ち、前述の曲げ加工装置20a、20bにより、互いに平行な複数の直線部30、30と、各直線部30、30のうちの隣り合う直線部の一端部同士及び他端部同士を交互に連結する、一端側連結部31及び他端側連結部32a、32b(図3)とを順次形成し、素材W1を得る。そして、この加工の際に、一端側連結部31が両側に存在する1対の直線部30、30の直角方向βに対して傾斜するように素材W1を形成している。この傾斜は、直線部30、30にそれぞれ形成する1対の折り曲げ部39a、39b、即ちクランク部12a、12bの長さの差分に応じたものとする。図示の例の場合、図23(a)の左側のクランク部12aよりも、右側のクランク部12bの方が長いため、図21に示すように、一端側連結部31aを図21(a)の左から右に向かう程同図の上側に向かう方向に、クランク部12a、12bの長さの差分に応じて傾斜させている。
【0055】
このように一端側連結部31を傾斜させた素材W1を得た後に、図22、23に示すように、この素材W1にクランク部12a、12bを形成する。まず、図22に示すように、両直線部30、30の一端側連結部31からの距離が異なる部分(クランプ部C、斜線部)をクランプ(固定)した状態で、これら両直線部30、30の一端側連結部31側を片側に同時に折り曲げ、それぞれに一端側の折り曲げ部39aを形成する(成形部F、黒塗部)。この際、クランプ部Cは、一端側の折り曲げ部39aをそれぞれ形成すべき部分よりも、一端側連結部31と反対側(他端側)に隣接した部分としている。
【0056】
次いで、図23に示すように、両直線部30、30の一部(クランプ部C、斜線部)をクランプした状態で、これら両直線部30、30の一端側連結部31側を図22の場合と反対側に同時に折り曲げ、それぞれに他端側の折り曲げ部39bを形成する(成形部F、黒塗部)。この際、クランプ部Cは、他端側の折り曲げ部39bをそれぞれ形成すべき部分よりも他端側に隣接した部分としている。このように、両直線部30、30に曲げ方向が同じとなる一端側の折り曲げ部39a、39a及び他端側の折り曲げ部39b、39bを、それぞれ同時に形成することにより、図23に示すように、長さが異なるクランク部12a、12bを得られると共に、一端側連結部31を両直線部30、30に対してほぼ直角方向に配設できる。
【0057】
上述のような曲げ加工を行う加工装置について、図24ないし図27を用いて説明する。曲げ加工装置50は、基台51上のレール51a、51aに遠近動自在に配置された1対の架台52、52と、それぞれの架台52上に、レール52aに沿って互いに平行に移動可能に支持板53、53と、それぞれの支持板53に設けた曲げ治具54及び固定治具55とを備える。基台51上のレール51a、51aと、架台52上のレール52aとは、互いに直角となる方向にそれぞれ配置される。また、支持板53、53は、互いに対向して配置され、それぞれの架台52がレール51aに沿って、図24ないし図27のそれぞれの(a)(c)の表裏方向、同じく(b)の左右方向に移動することにより、互いに遠近動自在である。また、支持板53、53がそれぞれの架台52上のレール52aに沿って移動することにより、互いの位置を平行方向{図24ないし図27のそれぞれの(a)(c)の左右方向、同じく(b)の表裏方向}に関してずらすことができる。
【0058】
また、曲げ治具54は、支持板53に回転自在に支持される回転部54aと、この回転部54aの回転中心から所定量オフセットした位置に突出固定された略円柱状の曲げ部54bとを備える。それぞれの支持板53、53に設けた曲げ部54bは、互いに対向するように配置される。また、固定治具55は、支持板53の曲げ部54bに隣接する位置に配置された1対のクランプ治具56、56を有し、少なくとも何れかのクランプ治具56を図24ないし図27の上下方向に移動させることにより、素材W1の直線部30をクランプ可能としている。この際、1対のクランプ治具56、56同士の間にレール52aと平行に貫通するように存在する凹溝55a内に、直線部30が配置される。また、凹溝55aの曲げ部54b側の開口部で、この凹溝55aの壁面55b、55bと固定治具55の端面55cとの連続部は、部分円筒面状の面取り部55d、55dとしている。各面取り部55d、55dの曲率は、直線部30に形成すべき折り曲げ部39a、39bの曲率に対応させている。また、各面取り部55d、55dの曲率中心と曲げ部54bの回動中心との関係は、前述の図9に示した、オフセット曲げ部22の曲げ中心Pと回動軸23の回動中心Oとの関係と同じである。
【0059】
上述のような曲げ加工装置50による曲げ加工は、次のように行う。まず、前述の図21に示したような素材W1を、図24に示すように配置する。この際、1対の直線部30、30を、互いに対向して配置される固定治具55、55の凹溝55a内にそれぞれ挿入配置し、両直線部30、30の所定位置をクランプする。この際、支持板53、53を支持する架台52を基台51上のレール51aに沿って移動させ、1対の直線部30、30の間隔に合わせる。また、支持板53、53を架台52上のレール52aに沿って移動させ、凹溝55aの面取り部55dの位置を、それぞれの直線部30、30に折り曲げ部39a、39aを形成すべき部分に合わせる。この状態で、図22(a)のクランプ部Cが固定治具55によりクランプされ、成形部Fが面取り部55d部分に配置される。次いで、図25に示すように、互いに対向して配置される曲げ治具54、54の回転部54a、54aを同時に回転させ、曲げ部54b、54bにより直線部30、30を同時に折り曲げる。この結果、図22に示すような形状が得られる。なお、このような架台52及び支持板53の移動、回転部54aの回転は、それぞれ手動、或は、図示しないアクチュエータにより自動で行う。
【0060】
次いで、直線部30、30のクランプを解除し、架台52、52をレール51aに沿って移動させることにより、支持板53、53を離間させ、直線部30、30を凹溝55a、55aから外す。そして、曲げ治具54を更に回転させ、曲げ部54bを図24に示し状態に対して直線部30、30を挟んだ反対側まで移動させる。そして、支持板53、53をレール52aに沿ってそれぞれ移動させ、凹溝55aの面取り部55dの位置を、それぞれの直線部30、30に折り曲げ部39b、39bを形成すべき部分に合わせる。更に、再度、架台52、52をレール51aに沿って移動させ、支持板53、53の間隔を直線部30、30の間隔に見合った状態とし、凹溝55a、55a内にそれぞれ直線部30、30を配置し、更にクランプし、図26に示す状態とする。この状態で、図23(a)のクランプ部Cが固定治具55によりクランプされ、成形部Fが面取り部55d部分に配置される。次いで、図27に示すように、曲げ治具54、54の回転部54a、54aを図25の場合と反対方向に同時に回転させ、曲げ部54bにより直線部30、30を同時に折り曲げる。この結果、図23に示すような形状が得られる。
【0061】
上述のような本実施形態によると、まず、図4ないし図20で説明したように、曲げ加工装置20a、20bの両端の治具21a、21eが送り方向に沿って互いに近づくように上流端の治具21aを移動させ、中央の治具21cに送り方向に対して直角方向一方に移動する力を付与しつつ、各治具21a〜21eを相対的に回動させて、略直線状の素材W2に4個所の曲げ加工を施している。上流端の治具21aは、素材W2の送り方向に対する回動不能及び送り方向に直角な方向に移動不能であるため、素材W2に4個所の曲げ加工をこの素材W2が送り方向に対して振れることなく施せ、装置が大型化することなく加工精度を良好にできる。
【0062】
即ち、素材W2の送り込みは例えば、装置の上流に配置され素材W2を巻回した図示しないボビンを回転させることにより行う。したがって、送り方向上流端の治具21aが送り方向に対して振れることなく、この送り方向に沿って移動すれば、このようなボビンを備えた送り機構全体を移動させる必要がない。この結果、装置が大型化したり、機構が複雑になることはない。また、前述の特許文献1に記載された構造と異なり、素材W2の4個所に1回の工程で曲げ加工を施せるため、加工時間を短くでき、低コスト化を図れる。また、特許文献2、3に記載された構造と異なり、歯車の噛み合い誤差や突部同士の噛み合い誤差などがなく、素材W2の曲げを精密に行え、加工精度を良好にできる。
【0063】
また、オフセット曲げ部22を回動軸23に対してオフセットした位置に配置して、素材W2を治具21a〜21eに対して変位させることなく曲げ加工を行えるため、曲げ加工の際に素材に損傷が生じることを防止できる。即ち、曲げ加工時に、素材W2が治具21a〜21eを構成する抑え部24に対し変位しない(引き込みが生じない)ため、素材W2と抑え部24との間で摺れ合いが生じることを防止でき、素材W2に損傷が生じることを防止できる。また、曲げ加工時に素材W2に引っ張り力が作用しないため、素材W2の曲げ加工を正確に行える。
【0064】
また、素材W2が上述のようにコイル4を構成する平角線である場合でも、平角線の4個所を曲げる加工を精度良く行える。即ち、平角線は断面円形の丸線と異なり曲げ方向が限定されるため、何等工夫しなければ、4個所に曲げ加工を施しにくい。特に、上述のような形状に形成する場合、曲げ方向が異なるため、更に曲げ加工を施しにくい。これに対して本実施の形態の場合には、曲げ方向が限定される平角線であっても、曲げ方向を異ならせて行う曲げ加工を、容易に、且つ、精度良く行える。また、曲げ加工の際に引き込みが生じないため、曲げ加工の際に絶縁用のエナメル層を傷つけることがなく、良質な回転電機用のコイル4を得られる。
【0065】
また、図16ないし図20に示した曲げ加工装置20bを使用すれば、素材W2に段差部35を形成する加工を送り方向下流からの引き込みを防止しつつ行えるため、下流端の治具21eを変位可能な構造とする必要がなく、装置の簡略化を図れる。即ち、段差部35の形成時に、素材W2の一部を単に押圧部材により押した場合、素材Wの両端が段差部35に向けて引き込まれる。これに対して本実施形態では、段差部35の形成を第1押圧部材37及び第2押圧部材38により行うと共に、これらの押圧方向を適切に規制しているため、送り方向下流からの引き込みを防止しつつ、段差部35を形成する加工を行える。また、このような段差部35を形成するために、第1押圧部材37を中央の治具21cに配置し、第2押圧部材38を中央の治具21cの上流に隣接した治具21bに配置している。即ち、段差部35を形成する構造を曲げ加工装置20bに組み込み、別途設けていない。このため、このため、段差部35の形成と曲げ加工を別の加工装置で行う必要がなく、加工時間の短縮化を図れる。
【0066】
更に、本実施の形態の曲げ加工装置20a、20bにより、前述の図1、2に示したような回転電機用のコイル4を製造すれば、コイル4の接合個所を少なくできる為、製造コストの低減を図れ、且つ、コイル4の小型化を図れる。即ち、上述のように素材Wに曲げ加工を施せば、1回の加工により、折り曲げ部を多く形成できる為、曲げ加工後の素材を溶接等により接合して、前述の図2に示したようなコイル4を得る場合に、接合個所を少なくでき、製造コストの低減を図れる。又、接合個所を少なくできれば、各コイル4同士の間隔を詰めることができ、コイル4全体の小型化を図れる。
【0067】
次に、本実施形態の場合、図21ないし図27で説明したように、一端側連結部31の両側の1対の直線部30、30に折り曲げ部39a、39bを同時に形成する前に、一端側連結部31を両直線部30、30の直角方向に対して、両直線部30、30にそれぞれ形成する1対の折り曲げ部39a、39b(クランク部12a、12b)の長さの差分に応じて傾斜させている。このため、折り曲げ部39a、39bを形成した後に、一端側連結部31が両直線部30、30に対して所望の状態から傾斜することを防止できる。即ち、長さが異なるクランク部12a、12を同時に形成した場合に、一端側連結部31を両直線部30、30に対してほぼ直角にできる。これに対して、一端側連結部31を傾斜させずに、例えば、両直線部30、30の直角方向とした状態で、長さが異なるクランク部を同時に形成した場合、形成後に、一端側連結部31が両直線部30、30の直角方向に対して傾斜するため、更に、一端側連結部31の傾斜状態を両直線部に対して直角方向にする工程が必要になり、加工時間が長くなる。したがって、本実施形態の場合、このよう工程が必要なくなり、加工時間を短くできる。また、本実施形態では、加工時に、折り曲げ部39a(39b)を形成すべき部分よりも一端側連結部31と反対側(他端側)を固定して(クランプして)行っているため、加工時に直線部30、30が振れることがなく、加工精度を良好にできる。
【0068】
なお、1対の直線部30、30にそれぞれ形成する折り曲げ部の形状或は数が、上述の場合と異なっても、一端側連結部を折り曲げ部の長さの差分に応じて傾斜させれば、折り曲げ部を形成した後に、一端側連結部が両直線部に対して所望の状態(直角方向とは限らない)から傾斜することを防止できるため、やはり、加工時間を短くできる。
【0069】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態について、図28ないし図32を用いて説明する。本実施形態は、素材W2に曲げ加工を施す曲げ加工装置20cを自動で駆動する曲げ加工機61に関するものである。自動で行う点以外は、基本的に上述の第1の実施形態と同様であるため、同様の部分の説明は省略又は簡略にし、以下、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0070】
曲げ加工装置20cは、素材W2の送り方向(図28ないし図32の左右方向)上流(同じく右側)端の治具21aに曲げ部材62aを、中央の治具21cの両側に曲げ部材62b、62cを、下流(同じく左側)端の治具21eに曲げ部材62dを、それぞれ回動自在に連結してなる。これら曲げ部材62a〜62dのうち、治具21aと治具21cとの間に存在する曲げ部材62a、62bにより治具21bを、治具21cと治具21eとの間に存在する曲げ部材62c、62dにより治具21dを、それぞれ構成する。言い換えれば、治具21b及び治具21dは、曲げ部材62a、62b又は曲げ部材62c、62dを分離配置してなる。
【0071】
これら各曲げ部材62a〜62dは、それぞれ素材W2を配置するための溝63を有する。この溝63を形成する回動方向両側(図28の状態で上下方向両側)部分が、抑え部及び保持部に相当する。また、治具21a、21c、21eも抑え部24及び保持部25を有し、これら抑え部24と保持部25との間を溝63としている。このような各溝63は、前述の図3に示した素材W1のうち、段付きでない形状の曲げ部33cを有する部分を形成するために使用するものである。また、治具21cの両側に配置される曲げ部材62b、62cは、このような溝63に加えて、この溝63に対して回動方向にずれた位置に別の溝64を有する。このような別の溝64は、前述の図3に示した素材W1のうち、段付き形状の曲げ部33dを有する部分を形成するために使用するものである。また、この場合、別の溝64を形成する回動方向両側部分が、抑え部及び保持部に相当する。
【0072】
また、本実施形態の場合、中央の治具21cは、遠近動自在に配置された1対の治具部材72a、72bからなり、これら両治具部材72a、72bの間隔を変えることにより、治具21cと曲げ部材62b、62cにより曲げられる部分の長さを変えられる。このため、前述の図3に示した素材W1の他端側連結部32a、32bの長さに応じた加工を、両治具部材72a、72の間隔を変えるだけで行える。言い換えれば、曲げ部間の長さである他端側連結部32a、32bの長さを変更する場合に治具を変える必要がない。このため、加工時間の短縮を図れると共に、複数の治具を用意する必要がなく低コスト化を図れる。本実施形態では、片側の治具部材72aを曲げ部材62bと共に変位可能としている。また、曲げ部材72a、72bの間隔に合わせて、次述するスライド機構65a、65cのスライド量を調整する。また、これに加えてスライド機構65bのスライド量を調整することにより、素材W1の直線部30、30の長さも、治具を変えることなく調整可能である。
【0073】
上述のように構成される曲げ加工装置20cは、曲げ加工機61により駆動される。この曲げ加工機61は、複数のスライド機構65a、65b、65c、複数のモータ66a、66b、66c、66d、67a、67b、67c、67d、67e、73などを備える。このうちの各スライド機構65a〜65cは、それぞれ、モータ66a〜66dにより回転するねじ68と、このねじ68の回転によりこのねじ68に沿って移動可能な移動テーブル69、70とからなる。即ち、移動テーブル69、70に固定した図示しないナット部材をねじ68に螺合し、このねじ68の回転によりナット部材と共に移動テーブル69、70をスライド可能としている。なお、このスライド機構をボールねじ機構により行えば、円滑なスライドが可能となる。また、各モータ67a〜67dは、それぞれ移動テーブル69、70又は固定テーブル71に配置され、それぞれ歯車機構などの減速機構を介して、曲げ部材62a〜62d及び下流端の治具21eを、所定角度回動させている。
【0074】
上述の各部材の配置について説明する。まず、図28の右下に配置されるスライド機構65aは、ねじ68を素材W2の送り方向と平行に配置し、モータ66aの回転により移動テーブル69をこの送り方向と平行にスライド可能である。これらモータ66a及びスライド機構65aにより第1の駆動手段を構成する。なお、移動テーブル69は、モータ66dによりこの送り方向と直角な方向にもスライド可能であるが、今回の曲げ加工では使用しない。この移動テーブル69上には、上流端の治具21a及び曲げ部材62aを設置している。また、モータ67a及びこのモータ67aの回転を伝達する減速機構も設置している。したがって、治具21a及び曲げ部材62a、更にはモータ67a及び減速機構も、移動テーブル69と共に送り方向にスライド自在である。なお、このような治具21bの曲げ部材62aを回動させるモータ67a及び減速機構を含め、各治具21b〜21dを回動させるモータ67b〜67d及びそれぞれの減速機構が第2の駆動手段を構成する。この第2の駆動手段は、それぞれにモータを配置しているが、各治具21b〜21dの回動部分のうち何れか複数を1個のモータにより駆動する構造とすることもできる。例えば、中央の治具21cを構成する1対の治具部材72a、72bが遠近動しない構造であれば、曲げ部材62b、62cの回動部分を1個のモータによりそれぞれ減速機構を介して回動させることもできる。
【0075】
また、図28の中央に配置されるスライド機構65bは、ねじ68を素材W2の送り方向と直角な方向に配置し、モータ66bの回転により移動テーブル70をこの直角方向にスライド可能である。また、図28の上方に配置されるスライド機構65cは、ねじ68を素材W2の送り方向と平行に配置し、モータ66cの回転により移動テーブル70をこの送り方向にスライド可能である。これらモータ66b、66c及びスライド機構65b、65cにより第3の駆動手段を構成する。また、移動テーブル70上には、中央の治具21c及び曲げ部材62b、62cを設置している。また、モータ67b、67c及びこれらモータ67b、67cの回転をそれぞれ伝達する減速機構も設置している。したがって、治具21c及び曲げ部材62b、62c、更にはモータ67b、67c及びそれぞれの減速機構も、移動テーブル70と共に、スライド機構65bにより送り方向と直角方向に、スライド機構65cにより送り方向にそれぞれスライド自在である。
【0076】
なお、移動テーブル70には、上述したように、中央の治具21cを構成する治具部材72a及び曲げ部材62aを移動させるモータ73及びスライド機構74を設置している。このスライド機構74は、送り方向と平行に配置されらねじ75と、このねじ75に沿って移動可能な移動テーブル76とを備える。この移動テーブル76には、治具部材72a及び曲げ部材62a、この曲げ部材62aを駆動するモータ67b及び減速機構などを設置している。そして、モータ73の駆動により、こられ各部材と共に移動テーブル76を送り方向に沿って移動させ、治具部材72a、72b同士を遠近動自在としている。
【0077】
また、図28の左方に配置される固定テーブル71は、図示しない架台などの固定部分に移動不能に固定される。この固定テーブル71上には、下流端の治具21e及び曲げ部材62dを設置している。また、モータ67d、67e及びこれらモータ67d、67eの回転をそれぞれ伝達する減速機構も設定している。これらモータ67d及び減速機構により第6の駆動手段を構成する。なお、モータ67eは、治具21eを回動させるものであるが、通常の曲げ加工では使用しない。例えば、素材W2の先端を曲げずに素材W1の状態で直線部30がそのまま延出される形状とする場合に使用する。この場合、治具21eを曲げ部材62dと共に同方向に回転させ、治具21eの溝63と曲げ部材62dの溝63とが直線状となるようにする。このように、素材W2の直線部30をそのまま延出することにより、他のコイルと接続する端子を形成する。
【0078】
上述のように構成される曲げ加工装置20c及び曲げ加工機61により素材W2に施す曲げ加工は、次のように行う。まず、図29に示すように、治具21a、21c、21e及び曲げ部材62a〜62dの各溝63が送り方向に沿って一直線上になるように、各移動テーブル69、70の位置を調整する。そして、この状態で、素材W2を各溝63に配置する。なお、図29では、予め、上述のように治具21eを回動させる加工を行い、素材W2の先端を矩形波状に形成すると共に、下流端の直線部30を延出した形状としている。
【0079】
次に、図30、31に示すように、移動テーブル69を送り方向下流に移動させると共に、移動テーブル70を送り方向に直角な方向及び送り方向に移動させる。この際、これら各移動テーブル69、70の移動に同期して、各モータ67a〜67dを駆動し、各曲げ部材62a〜62dを治具21a、21c、21eに対してそれぞれ所定方向に所定量回動させる。これにより、両端の治具21a、21eが送り方向に沿って互いに近づくように上流端の治具21aを移動させると共に、中央の治具21cに送り方向に対して直角方向一方(図28ないし図32の上方)に移動する力を付与しつつ、各治具21a〜21eのそれぞれの曲げ角度が所定の角度となるように各治具21a〜21eを相対的に回動させる。そして、このような各移動テーブル69、70の移動、及び、各曲げ部材62a〜62dの回動を、図32に示す状態まで行って曲げ加工を終了する。素材W2の次の部分を曲げ加工する場合には、図示しないチャックにより素材W2を掴んだ状態で、治具21a、21c、21e及び曲げ部材62a〜62dを下降させるか、或は、素材W2を上昇させることにより、この素材W2を各溝63から外し、更に、この素材W2を所定量送った状態で、逆の動作を行うことにより、この素材W2を各溝63内に配置する。そして、図29ないし図32に示した工程を繰り返す。
【0080】
また、前述の図3に示した素材W1のうち、段付き形状の曲げ部33dを有する部分を形成する場合には、曲げ部材62b、62cを図28の状態から同図の上側に回動させて、治具21cの溝63に対して傾斜した状態でこの溝63と、曲げ部材62b、62cの別の溝64とを連続させる。この時、これら各溝64及び溝63がなす形状が、前述の図19に示した素材W2の段差部35部分と同じとなる。このような本実施形態では、段差部35が予め形成された状態で素材W2が曲げ加工装置20cに配置される。そして、上述した図29ないし図32の工程を行うことにより、段付き形状の曲げ部33dを有する部分を形成できる。
【0081】
上述のような本実施形態によれば、素材の4個所に曲げ加工を行う工程を自動で行える。また、中央の治具21cの治具部材72a、72bの間隔を変えることにより、素材W1の他端側連結部32a、32b或は直線部30、30の長さに応じた加工を、治具の組を変えることなく行える。その他の構成及び作用は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0082】
なお、本実施形態の場合、上述の上流端の治具21aを送り方向に移動させる第1の駆動手段(モータ66a及びスライド機構65a)と、各治具21a〜21eを回動させる第2の駆動手段(モータ67a〜67d及びそれぞれの減速機構)と、中央の治具21cを送り方向と平行な方向及び送り方向に直角な方向に移動させる第3の駆動手段(モータ66b、66c及びスライド機構65b、65c)とのうち、少なくとも2個の駆動手段を備えれば、上述のような曲げ加工が可能である。また、本実施形態に、第1の実施形態の構成を適宜組み込んで使用することも可能である。例えば、曲げ加工装置20bの第1押圧部材37及び第2押圧部材38により段差部35を形成する構造を組み込むことが可能である。この場合、これら両押圧部材37、38を駆動するモータを設ける。
【符号の説明】
【0083】
12a、12b クランク部
20a、20b、20c 曲げ加工装置
21a、21b、21c、21d、21e 治具
22 オフセット曲げ部
24 回動軸
30 直線部
31、31a、31b、31c 一端側連結部
32a、32b 他端側連結部
33a、33b、33c、33d 曲げ部
35 段差部
35a、35b 曲げ部
36 段差形成部
37 第1押圧部材
37a 押圧成形部
38 第2押圧部材
38a、38b 段差
39a、39b 折り曲げ部
62a、62b、62c、62d 曲げ部材
63 溝
64 別の溝
W1、W2 素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な複数の直線部と、該各直線部のうちの隣り合う直線部の一端部同士及び他端部同士を交互に連結する一端側連結部及び他端側連結部とを順次形成してなる素材の、前記一端側連結部の両側に存在する1対の直線部に、それぞれ、該一端側連結部までの長さが異なる折り曲げ部を形成する曲げ加工方法であって、
前記一端側連結部が前記1対の直線部の直角方向に対して、該両直線部にそれぞれ形成する前記折り曲げ部の長さの差分に応じて傾斜するように前記素材を形成した後、
前記両直線部に曲げ方向が同じとなる折り曲げ部を同時に形成することを特徴とする曲げ加工方法。
【請求項2】
前記1対の直線部に、それぞれ曲げ方向が互いに逆で、前記一端側連結部とそれぞれの直線部の他端側の折り曲げ部との間の長さが異なる1対の折り曲げ部を形成することを特徴とする、請求項1に記載の曲げ加工方法。
【請求項3】
前記両直線部の前記折り曲げ部よりも前記連結部と反対側を固定した状態で、該折り曲げ部を形成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の曲げ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公開番号】特開2011−36875(P2011−36875A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185248(P2009−185248)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】