説明

有底ビア充填基板およびその製造方法

【課題】 ビア径が極めて小さい場合にもペースト充填が容易な有底ビア充填基板とその製造方法を提供する。
【解決手段】 有底ビア32がランド42の中心から外れた位置に設けられていることから、有底ビア32に導体ペースト34を充填するに際して、通常通りスクリーン印刷用製版36のマスク開口部40をランド42の中心に位置させると、マスク開口部40が有底ビア32の中心からずれることになるので、その有底ビア32が導体ペースト34で塞がれることが抑制される。そのため、導体ペースト34が有底ビア32内に流れ込み広がって充填される際に、その有底ビア32内の空気がマスク開口部40とビア開口との間の空隙から押し出されることから、ビア径が極めて小さい場合にも、有底ビア32内に空気が巻き込まれてボイドを形成することが抑制され、容易に導体ペースト34を充填できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の有底ビアに充填材料が充填された有底ビア充填基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子回路用基板において、小型化や軽量化等を目的として絶縁体層と導体配線層とを交互に積層して多層化することが行われている。絶縁体層には、積層方向に貫通する貫通導体が適宜の位置に設けられ、絶縁体層の上下に備えられた導体配線層がその貫通導体で相互に導通させられる。
【0003】
上記絶縁体層は、セラミックス、ガラス、樹脂等から構成される。また、上記導体配線層は、エッチングによってパターン形成された金属箔、スクリーン印刷によってパターン形成された厚膜導体、蒸着およびエッチング等によってパターン形成された薄膜導体等から構成される。導体配線層には、前記貫通導体上にその端面の面積よりも大きいランドが層間接続のために備えられている。その貫通導体を形成するに際しては、例えば、絶縁体層を貫通するビアを設け、例えば厚膜スクリーン印刷法を利用してその絶縁体層上に導体ペーストを塗布し、そのビア内に充填して硬化させる(例えば特許文献1〜3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−036543号公報
【特許文献2】特開2000−307243号公報
【特許文献3】特開2002−118347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記の貫通導体を形成するための導体ペースト充填は、絶縁体層の両面に開口した貫通ビアに対して行われる場合と、一面のみに開口した有底ビアに対して行われる場合とがある。前者の場合には、導体ペーストは何ら妨げられることなくビア内に流れ込み、容易に充填させられる。ビア径が小さい場合など導体ペーストが流れ込みにくい場合には、必要に応じて塗布側とは反対側の開口から吸引すればよい。一方、後者の場合には、ビア内の空気の逃げ場が塗布側のみにあるため、塗布された導体ペーストがビア開口を塞ぐとその空気の逃げ場が失われ、導体ペーストと空気との置換が不完全になる。そのため、その巻き込まれた空気によってボイドが形成され、電気的特性が損なわれる問題がある。
【0006】
これに対して、ビア開口径よりもマスク開口径を小さくすることにより、そのビアの内周部に導体ペーストを塗布し、そこから外周側に向かって流動させる充填方法が提案されている(前記特許文献1〜3を参照。)。この充填方法によれば、スクリーン製版と基板との間に隙間が残存する状態で導体ペーストがビア内に供給されることから、その隙間から空気を押し出しつつビア内に導体ペーストを容易に満たすことができる。
【0007】
しかしながら、電子回路用基板を一層小型化する目的で、配線幅寸法を細くすると共に、ランドの大きさ、ビア径等を小さくすると、上記のような技術では新たな問題が生じてきた。スクリーン印刷法では、複数種類の製版を用いて順次にペーストを塗布するが、製版相互の寸法誤差や基板配置位置の誤差などによってビアに対して導体ペーストを塗布するためのマスク開口部位置がずれ得る問題がある。また、これらの他、スキージングに伴うマスク開口部の変位に起因する位置ずれも生じ得る。そのため、マスク開口部の大きさや位置は、これらのずれを見込んで定める必要がある。印刷機の印刷精度にもよるが、一般的には、例えば100〜200(μm)程度のずれが見込まれることを考慮すると、例えば、開口径が150(μm)程度の微細なビアでは、ビア径よりもマスク開口部径を小さくしたものでは位置ずれによってマスク開口部がビアから離れる場合があり、ビア内へのペースト供給が不安定になる。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、ビア径が極めて小さい場合にもペースト充填が容易な有底ビア充填基板とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる目的を達成するため、第1発明の要旨とするところは、基板表面の複数のランド内にそれぞれ開口する複数の有底ビアの各々に所定の充填材料が充填された有底ビア充填基板であって、前記複数の有底ビアの各々が前記複数のランドの各々の中心から外れた位置に設けられたことにある。
【0010】
また、第2発明の要旨とするところは、基板表面の複数のランド内にそれぞれ開口する複数の有底ビアの各々にスクリーン印刷によって印刷ペーストを充填して有底ビア充填基板を製造する方法であって、(a)前記複数の有底ビアの各々が前記複数のランドの各々の中心から外れた位置に設けられた基板を用意する工程と、(b)スクリーン印刷用製版の複数のマスク開口部を対応する前記複数のランドの各々の中心に位置させてスクリーン印刷を行う印刷工程とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0011】
前記第1発明によれば、基板の複数の有底ビアの各々がランドの中心から外れた位置に設けられていることから、これら有底ビアに印刷ペーストを充填するに際して、通常通りスクリーン印刷用製版のマスク開口部をランドの中心に位置させると、マスク開口部が有底ビアの中心からずれて位置させられるので、その有底ビアが印刷ペーストで塞がれることが抑制される。そのため、印刷ペーストが有底ビア内に流れ込み広がって充填される際に、その有底ビア内の空気がマスク開口部とビア開口との間の空隙から押し出されることから、ビア径が極めて小さい場合にも、有底ビア内に空気が巻き込まれてボイドを形成することが抑制され、容易にペーストを充填できる。しかも、この作用は通常の印刷通りにマスク開口部をランド中心に一致させることで得られるため、印刷ペーストのはみ出しが生じないようにランドの大きさを大きくする必要がないので、ランドを小さくし或いは有底ビア径を大きくすることも可能となる。
【0012】
また、前記第2発明によれば、複数のマスク開口部を備えたスクリーン印刷用製版を用いて基板の複数の有底ビアに印刷ペーストを充填するためのスクリーン印刷が行われるが、それら複数の有底ビアはそれぞれ複数のランドの中心から外れた位置に設けられていると共にスクリーン印刷用製版のマスク開口部はランドの中心に一致させられているため、マスク開口部が有底ビアの中心からずれて位置させられるので、印刷ペーストが塗布される際にその有底ビアが印刷ペーストで塞がれることが抑制される。そのため、印刷ペーストが有底ビア内に流れ込み広がって充填される際に、その有底ビア内の空気がマスク開口部とビア開口との間の空隙から押し出されることから、ビア径が極めて小さい場合にも、有底ビア内に空気が巻き込まれてボイドを形成することが抑制され、容易にペーストを充填できる。しかも、この作用は通常の印刷通りにマスク開口部をランド中心に一致させることで得られるため、印刷ペーストのはみ出しが生じないようにランドの大きさを大きくする必要がないので、ランドを小さくし或いは有底ビア径を大きくすることも可能となる。
【0013】
なお、上記有底ビアのランド中心からのずれの大きさは、印刷ペーストが有底ビア内に確実に充填されるように適宜定められるものであるが、例えば、ランド径とビア径、および工程上不可避なランドとビア径のずれの大きさに基づいて決められる。
【0014】
因みに、有底ビアの開口をマスク開口部が部分的に覆う位置関係は、従来と同様に有底ビアをランドの中央に設けたまま、スクリーン印刷用製版のマスク開口部をランド中央から外して位置させることでも実現し得る。しかしながら、この方法では、印刷ペーストがランドからはみ出さないようにランドを大きくする必要があるため、基板の小型化の妨げになる不都合がある。マスク開口部をランド中央に位置させ得る或いは位置させる本発明によれば、ランドを従来と同様な大きさに保ち得る。
【0015】
ここで、前記第1発明において、好適には、前記有底ビア充填基板は、前記複数の有底ビアの各々に対して前記充填材料が塗布された複数の塗布領域の各々内にそれら複数の有底ビアの各々の開口面積の45(%)以上が位置するものである。このようにすれば、印刷ペーストが直接供給される面積が十分に大きいため、有底ビア開口のうちマスク開口部から外れた位置にある部分への印刷ペースト供給が不安定になり、延いては充填不良が生じ得ることが抑制される。上記割合は、60〜85(%)の範囲内が一層好ましく、75(%)程度が最も好ましい。
【0016】
また、前記第2発明において、好適には、前記複数の有底ビアの各々は前記複数のランドの各々の中心からスキージング方向に交差する方向にずれたものである。このようにすれば、印刷時にマスク開口部がスキージング方向に変位しても、有底ビアの開口面積のうちマスク開口部内に位置する割合が変化し難いため、一層安定した印刷が可能となる。
【0017】
また、好適には、前記複数の有底ビアの各々の開口面積の45(%)以上が前記複数のマスク開口部の各々内に位置するものである。このようにすれば、印刷ペーストが直接供給される面積が十分に大きいため、有底ビア開口のうちマスク開口部から外れた位置にある部分への印刷ペースト供給が不安定になり、延いては充填不良が生じ得ることが抑制される。
【0018】
また、好適には、前記複数のマスク開口部の各々は平面視において扁平形状を成し且つ各々の広幅方向がスキージング方向に一致するものである。このようにすれば、スキージングの際にマスク開口部が位置ずれしたときの印刷ペーストの直接供給面積の変動が抑制されるので、充填不良が一層抑制される。
【0019】
また、好適には、前記複数のマスク開口部の各々は平面視において楕円形状を成すものである。位置ずれしたときの面積の変動抑制には、楕円形状が特に好ましい。
【0020】
また、好適には、前記複数のマスク開口部は、各々の狭幅方向の差し渡し寸法が前記複数の有底ビアのうちの対応するものの差し渡し寸法以下の扁平形状である。このようにすれば、印刷ペーストが塗布される際にその有底ビアが印刷ペーストで塞がれ延いては有底ビア内に空気が巻き込まれてボイドが形成されることが一層抑制される。
【0021】
また、好適には、前記複数のマスク開口部の各々の前記狭幅方向の差し渡し寸法が前記複数の有底ビアの各々のその方向における差し渡し寸法の2/3以上である。このようにすれば、マスク開口部の狭幅方向の差し渡し寸法が十分に大きくされているため、印刷ペーストの供給が一層容易になる。
【0022】
また、好適には、前記複数の塗布領域の各々は楕円形状である。このような塗布領域は楕円形状のマスク開口部を有するスクリーン印刷用製版を用いて形成されるため、印刷時の位置ずれに起因して印刷ペーストが直接供給される面積が変化し延いては充填材料が有底ビア内に満たされなくなることが好適に抑制される。
【0023】
また、好適には、前記複数のランドの各々の直径は前記複数の有底ビアのうち各々に備えられているものの直径の2〜2.7倍である。このようにすれば、ランドの大きさを有底ビアがその中心に設けられている場合の大きさから変化させることなく、前述したような位置関係を容易に実現できる。例えば、ビア径が150(μm)のとき、ランド径は300〜400(μm)程度が好ましい。なお、ランドや有底ビアの平面形状は特に限定されず、配線パターン設計や部品配置設計等の都合に応じて矩形その他の任意の形状とすることができる。円形以外の形状の場合においては、上記寸法は例えば差し渡し寸法である。
【0024】
また、本発明の適用対象となる基板のランドには、層間接続のためのランドの他、ワイヤボンディング用のボンディングランドや部品の半田付け用の半田ランド等の機能ランドも含まれる。
【0025】
また、本発明は、基板の有底ビアに導体ペーストを充填して層間接続導体を形成するものであれば、構造や製造方法を問わず広く適用し得る。また、絶縁体層と導体層とが交互に積層された多層基板に適用される場合において、各層を印刷形成する毎に加熱処理や加圧処理が施されるものにも、一括して加熱処理や加圧処理が施されるものにも本発明は適用される。一括処理をする場合においては、各層を絶縁体層と導体層の1組毎に別々に形成し、積層して加熱および加圧処理を施すこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例の有底ビア充填基板の断面構造の要部を示す模式図である。
【図2】図1の有底ビア充填基板を製造するための導体層−絶縁体層積層体の製造方法を説明するための工程の各段階を模式的に示す図である。
【図3】図2のペースト充填工程を説明するための模式図である。
【図4】有底ビアとスクリーン製版の開口部との位置関係を示す平面図である。
【図5】図3における導体ペーストの動きを説明するための斜視図である。
【図6】従来の構成における図4に対応する図である。
【図7】ビア面積に対するペースト通過面積の割合と良品率との関係をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0028】
図1は、本発明の有底ビア充填基板の一実施例である多層回路基板10の要部断面を示す図である。図1において、多層回路基板10は、ベース基板12の上に第1導体配線層14,絶縁体層16,および第2導体配線層18が順次に積層されたものである。絶縁体層16には、厚み方向に貫通するビア20が設けられており、そのビア20内にはビア導体22が充填されている。なお、基板10には多数のビア20が設けられているが、この図1には一箇所のみが現れている。
【0029】
上記のベース基板12は、例えば0.8(mm)程度の厚さ寸法を有するアルミナから成るものである。また、前記の第1導体配線層14は、例えば20(μm)程度の厚さ寸法を有する厚膜銅から成るもので、上記ベース基板12の上に厚膜銅ペーストを所定の配線パターンでスクリーン印刷することによって形成されている。
【0030】
また、前記の第2導体配線層18は、銅箔から成るものであり、例えば12(μm)〜35(μm)程度の厚さ寸法を有する。この配線層18は例えばエッチングによって形成された配線パターン形状を有している。
【0031】
なお、上記第2導体配線層18の上には、Au等から成るメッキ層24が設けられている。このメッキ層24は多層回路基板10の最上層に形成された第2導体配線層18に外部配線や部品等を半田付けする目的で、その第2導体配線層18と同一形状で設けられたものである。すなわち、銅箔から成る第2導体配線層18は半田付け性に劣ることから、メッキ層24によってこれが改善されている。
【0032】
なお、図1においては、基板10には、2層の導体層14,18と1層の絶縁体層16とが備えられているが、層数は用途に応じて適宜定められるもので、更に多数の導体層および絶縁体層を積層することができる。層数が増す場合にも、上記メッキ層24は上述した説明から明らかなように最上層のみに設ければ足りる。
【0033】
また、前記ビア導体22は、例えばAg/Sn合金を導体成分として含む厚膜導体材料から成るもので、前記ビア20内に密に充填されている。導体配線層14,18の各層は、ビア導体22によって互いに導通させられている。上述したように層数が増す場合にも、複数の導体層は同様にビア導体で相互に導通させられる。
【0034】
上記の多層回路基板10は、例えば、導体層と絶縁体層とが積層された導体層−絶縁体層積層体46(図2参照)を用意し、前記第1導体配線層14が形成されたベース基板12の上にこれを重ね合わせ、ホットプレスを施すことによって製造したものである。
【0035】
図2は、上記導体層−絶縁体層積層体46の製造方法を説明するための工程の各段階を模式的に示す図である。図2(a)において、まず、電解Cu箔26に樹脂被膜28が設けられたCu貼りフィルム30を用意する。上記樹脂被膜28は、例えば熱可塑性樹脂から成るもので、Cu貼りフィルム30は、例えば、Cu箔26に樹脂溶液を塗布して硬化させることによって製造される。
【0036】
なお、Cu箔26は、樹脂被膜28が設けられた後に予め定められた配線形状でエッチング処理が施されてパターン形成されている。また、樹脂被膜28には、適宜の位置に有底ビア32が設けられている。この有底ビア32は、炭酸ガスレーザ等の適宜の穴開け加工により形成されたものであるが、樹脂被膜28を選択的に加工し得る方法であれば加工方法は特に限定されない。
【0037】
上記の図2(a)は、このようにして用意したCu貼りフィルム30に導体ペーストを充填するペースト充填工程を表したもので、例えば厚膜スクリーン印刷法を用いて、上記有底ビア32に導体ペーストが充填される。図3は、このスクリーン印刷の実施中の状況すなわち導体ペースト34の充填過程を模式的に表したものである。Cu貼りフィルム30上には、スクリーン印刷用製版36が配され、スキージ38が矢印で示すように図における右方向に送られることによって製版36上の導体ペースト34がその製版36のマスク開口部40から押し出され、有底ビア32内に塗布される。上記製版36は、例えば金属薄板にエッチング等によってパターン形成されたメタルマスクである。
【0038】
このとき、製版36のマスク開口部40とCu貼りフィルム30の有底ビア32とは、例えば、図4に示す位置関係にある。有底ビア32は例えば円形を成すもので、例えばφ150(μm)程度の直径を有する。この有底ビア32は、その中心Cvが塗布面の裏面側すなわちCu箔26上に設けられているランド42の中心CLから外れて位置する。ランド42は、例えばφ350(μm)程度の円形を成すものである。
【0039】
一方、マスク開口部40は、例えば矢印Sで示すスキージング方向が長径方向に一致する楕円形状を成すもので、例えば長径が200〜350(μm)程度、短径が150(μm)程度の大きさを備えている。すなわち、マスク開口部40は、有底ビア32の開口の直径に対して、短径が同一寸法、長径がそれよりも大きい寸法で設けられており、開口面積は有底ビア32の例えば2倍程度である。このマスク開口部40は、その中心Coがランド42の中心CLに一致させられている。したがって、上記有底ビア32の中心Cvは、これらランド42中心CLおよびマスク開口部40中心Coに対して、スキージング方向(以下、適宜Y方向という)およびこれに垂直な方向(以下、適宜X方向という)にそれぞれずれた位置に設けられており、図示のものでは、有底ビア32の開口のうち左側の半分強の範囲がマスク開口部40内に位置し、右側の半分弱の部分はマスク開口部40から外れた位置にある。なお、有底ビア32の位置ずれ量は、例えば、X方向、Y方向共に50(μm)程度である。
【0040】
上記のように、マスク開口部40が有底ビア32に対してずれた位置に設けられていることにより、前述したようにスクリーン印刷が施される際には、前記図3に示すように、有底ビア32の開口の一部から導体ペースト34が流れ込み、その有底ビア32内で流動することとなる。すなわち、導体ペースト34は矢印Pで示すように流れ、有底ビア32内に満たされる。なお、この図3は、導体ペースト34の流動を説明するための模式図で、前記の図4に示すような有底ビア32およびマスク開口部40の位置関係と正確に対応するものではない。図4に示すように、マスク開口部40の長径方向がスキージング方向に一致し且つ有底ビア32がマスク開口部40に対してX方向およびY方向にずれて配置される態様では、スキージング方向に対して横方向の一部から導体ペースト34が有底ビア32内に流れ込む。したがって、図3においてスキージング方向を90度だけ変更して紙面に垂直な方向としたものが図4に対応する。
【0041】
図5は、製版36等を省略して斜視図にて上記導体ペースト34充填時の状況を表したもので、下向きの矢印は導体ペースト34の流れを、上向きの矢印は空気の流れを表している。導体ペースト34が塗布・充填される際には、上述したように導体ペースト34が有底ビア32の開口の一部から流れ込み、その有底ビア32内で流れて広がる。このとき、その導体ペースト34の流れに従って、有底ビア32内から空気が外に送り出される。すなわち、導体ペースト34の塗布時には、有底ビア32の開口のうちマスク開口部40内に位置する部分はその導体ペースト34で塞がれることとなるが、マスク開口部40から外れて位置する部分(図5における手前側右部分)は樹脂被膜28と製版36との間に空隙が残されていることから、その隙間から空気が逃げるので、有底ビア32内に空気が巻き込まれることがない。スキージング時には製版36が被印刷面に押し付けられるため有底ビア32の開口が塞がれるが、その際にも、メタルマスクから成る製版36と被印刷面との間には隙間が生ずるので、導体ペースト34で塞がれていなければ空気の逃げ道が残される。
【0042】
そのため、マスク開口部40が有底ビア32の開口よりも大きくされていることによって十分にペースト供給量が確保されることと相俟って、有底ビア32内にボイドが生ずることなく確実に導体ペースト34が満たされる。なお、図5において、44は導体ペースト34が塗布される範囲を表しており、マスク開口部40に一致する。また、前記の図3においても、上向きの矢印は有底ビア32内から排出される空気の流れを表している。
【0043】
なお、上述した作用は、有底ビア32の中心Cvからマスク開口部40がずれて配置されていることに基づくものであるから、図6に示されるような有底ビア48がランド50の中心に設けられた従来の構成において、同様な作用を得ようとすると、有底ビア48に対してマスク開口部52をずらして配置する必要がある。図示の有底ビア48とマスク開口部52との位置関係は、前記図4に示した有底ビア32とマスク開口部40との位置関係と同一である。この配置では、マスク開口部52がランド50の中心CLから外れた位置関係となり、マスク開口部52がランド50の外周縁近傍に位置する。そのため、印刷位置ズレが生じた場合や、ベース基板12に積層するために加圧した際に、印刷ペーストがランド50の外側まで広がることを防ぐためには、ランド50を図6に示す大きさよりも拡大することが必須で、通常の印刷条件で350(μm)が必要とされる場合には、ランド径を400(μm)程度に拡大する必要がある。本実施例によれば、前述したようにランド径は350(μm)であり、何らの寸法変更も無用である。
【0044】
図2に戻って、図2(b)は、上記のようにして導体ペースト34が充填されて得られた導体層−絶縁体層積層体46を表している。導体ペースト34は、前述したように有底ビア32に対して大きいマスク開口部40から塗布された結果として、塗布範囲が図に示すように有底ビア32よりも広い範囲に亘るものとなっている。この塗布範囲は、上記説明から明らかなように、前記図4にマスク開口部40で示した範囲に略一致する。
【0045】
このようにして、各層を構成するための導体層−絶縁体層積層体46を製造した後、Cu箔26が上側に位置するように上下反転させて基板12上に重ね合わせてホットプレスを施し、更にメッキを施すことで、前記多層回路基板10が得られる。前記樹脂被膜28からは絶縁体層16が形成され、前記Cu箔26からは第2導体配線層18が形成される。したがって、このような製造工程を経て得られる多層回路基板10は、ビア導体22の塗布領域が、前記図4に示したマスク開口部40の範囲に略一致しており、その短径寸法が有底ビア32の直径と同一で、面積が有底ビア32の開口面積よりも大きい楕円形状を成しており、有底ビア32の開口面積の半分強が上記塗布領域内に位置するものとなっている。
【0046】
図7は、前記のペースト充填工程において、有底ビア32の開口面積のうちマスク開口部40内に位置する割合(すなわち、ビア面積に対するペースト通過面積の割合。以下、有効面積率という。)と、基板内の全ビア数に対する完全に充填できたビア数の割合(以下、良品率という。)との関係を評価した結果をまとめたもので、実線がマスク開口部40の短径が150(μm)の場合を、破線が100(μm)の場合をそれぞれ示している。有底ビア32の開口径は全て150(μm)とし、マスク開口部40の長径を200〜350(μm)の間で変化させると共に、位置ズレ量(前記図4のCL−Co間距離)を変化させることで有効面積率を変化させた。また、上記「充填できた」とは、空気の巻き込みによるボイドなどが生ずることなく有底ビア32内に導体を完全に満たすことができたことを意味する。
【0047】
上記評価結果によれば、短径150(μm)の場合には、有効面積率が30(%)程度以下のとき、短径100(μm)の場合には、有効面積率が40(%)程度以下のとき、良品率が略0(%)になるが、これを超えると充填できるビア数が増えていき、短径150(μm)の場合には34(%)程度以上になると、短径100(μm)の場合には45(%)程度以上になると、良品率が100(%)となった。長径の相違による傾向の差異は特に認められなかった。この結果によれば、有効面積率が45(%)以上になるように有底ビア32のランド42に対する位置ずれ量(すなわちマスク開口部40に対する位置ずれ量)を定めることにより、有底ビア32内に導体ペースト34を確実に充填できることが明らかとなった。
【0048】
なお、有効面積率が100(%)の場合には、塗布時に有底ビア32の開口が導体ペースト34で完全に塞がれることになるため、空気の逃げ道が無くなり、充填が困難になることが予測される。また、完全に塞がっていなくとも、空気の逃げ道が小さくなれば、充填が困難になることも予測される。しかしながら、実際に試験を行った結果では、前記図7に示したように、有効面積率を100(%)まで高めた場合にも、良品率が低下する傾向が認められなかった。すなわち、理由は定かではないが、短径が有底ビア32の直径と同一以下の大きさであれば、有効面積率が100(%)であっても、導体ペースト34の充填不良は生じない。但し、上下限共に安定性を考慮すると、図示の充填可能範囲の中央部分、60〜85(%)程度の範囲が好ましく、その中央値近傍の75(%)程度に設定するのが最善と考えられる。
【0049】
また、上記評価は、マスク開口部40の長径方向がスキージング方向に一致する向き(縦方向)とされた場合のものであるが、長径方向が如何なる方向を向いていても、導体ペースト34の充填時に有底ビア32内の空気の逃げ道を確保する効果に変わりはない。そのため、例えば、短径方向がスキージング方向に一致する向き(横方向)でマスク開口部を設け、或いは、これらの中間の向き(すなわちスキージング方向に対して例えば45度傾斜した斜め方向)とすることもできる。但し、これらについて評価したところ、良品率が100(%)になるのは、横方向では有効面積率が50(%)以上のとき、斜め方向では62(%)以上のときであった。したがって、縦方向にマスク開口部40を設けることが工程安定性の面からは最も好ましいと考えられる。
【0050】
上述したように、本実施例によれば、有底ビア32がランド42の中心から外れた位置に設けられていることから、有底ビア32に導体ペースト34を充填するに際して、通常通りスクリーン印刷用製版36のマスク開口部40をランド42の中心に位置させると、マスク開口部40が有底ビア32の中心からずれることになるので、その有底ビア32が導体ペースト34で塞がれることが抑制される。そのため、導体ペースト34が有底ビア32内に流れ込み広がって充填される際に、その有底ビア32内の空気がマスク開口部40とビア開口との間の空隙から押し出されることから、ビア径が極めて小さい場合にも、有底ビア32内に空気が巻き込まれてボイドを形成することが抑制され、容易に導体ペースト34を充填できる。しかも、この作用は通常の印刷通りにマスク開口部40中心Coをランド42中心CLに一致させることで得られるため、導体ペースト34のはみ出しが生じないようにランド42の大きさを大きくする必要がないので、ランド42の寸法が小さくなる。
【0051】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0052】
10:多層回路基板、12:ベース基板、14:第1導体配線層、16:絶縁体層、18:第2導体配線層、20:ビア、22:ビア導体、24:メッキ層、26:電解Cu箔、28:樹脂被膜、30:Cu貼りフィルム、32:有底ビア、34:導体ペースト、36:スクリーン印刷用製版、38:スキージ、40:マスク開口部、42:ランド、44:ペースト塗布範囲、46:導体層−絶縁体層積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面の複数のランド内にそれぞれ開口する複数の有底ビアの各々に所定の充填材料が充填された有底ビア充填基板であって、
前記複数の有底ビアの各々が前記複数のランドの各々の中心から外れた位置に設けられたことを特徴とする有底ビア充填基板。
【請求項2】
前記複数の有底ビアの各々に対して前記充填材料が塗布された複数の塗布領域の各々内にそれら複数の有底ビアの各々の開口面積の45(%)以上が位置するものである請求項1の有底ビア充填基板。
【請求項3】
前記複数の塗布領域の各々内に位置する前記複数の有底ビアの各々の開口面積の割合は60〜85(%)の範囲内である請求項2の有底ビア充填基板。
【請求項4】
基板表面の複数のランド内にそれぞれ開口する複数の有底ビアの各々にスクリーン印刷によって印刷ペーストを充填して有底ビア充填基板を製造する方法であって、
前記複数の有底ビアの各々が前記複数のランドの各々の中心から外れた位置に設けられた基板を用意する工程と、
スクリーン印刷用製版の複数のマスク開口部を対応する前記複数のランドの各々の中心に位置させてスクリーン印刷を行う印刷工程と
を、含むことを特徴とする有底ビア充填基板の製造方法。
【請求項5】
前記複数の有底ビアの各々は前記複数のランドの各々の中心からスキージング方向に交差する方向にずれたものである請求項4の有底ビア充填基板の製造方法。
【請求項6】
前記複数の有底ビアの各々の開口面積の45(%)以上が前記複数のマスク開口部の各々内に位置するものである請求項4または請求項5の有底ビア充填基板の製造方法。
【請求項7】
前記複数のマスク開口部の各々は平面視において扁平形状を成し且つ各々の広幅方向がスキージング方向に一致するものである請求項4乃至請求項6の何れか1項の有底ビア充填基板の製造方法。
【請求項8】
前記複数のマスク開口部の各々は平面視において楕円形状を成すものである請求項7の有底ビア充填基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−239050(P2010−239050A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87556(P2009−87556)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】