有機エレクトロルミネッセンス素子および有機レーザダイオード
【課題】低いエネルギー密度(電流密度)での励起下においても、スペクトル幅の極めて狭い発光を取り出すことのできる有機EL素子を提供する。
【解決手段】基板と、陽電極層と、少なくとも1つの有機材料を含む有機層と、陰電極層とからなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、主たる光の取り出し方向は、上記基板の表面に対して平行方向であり、上記素子によって構成される、有機層をコアの一部とした光導波路の、横電場モード(transverse electroc mode)のいずれかのカットオフ波長が、上記有機層に含まれるいずれかの有機材料の蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【解決手段】基板と、陽電極層と、少なくとも1つの有機材料を含む有機層と、陰電極層とからなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、主たる光の取り出し方向は、上記基板の表面に対して平行方向であり、上記素子によって構成される、有機層をコアの一部とした光導波路の、横電場モード(transverse electroc mode)のいずれかのカットオフ波長が、上記有機層に含まれるいずれかの有機材料の蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とも称する。)および有機レーザダイオードに関し、より詳しくは、低い電流密度でも、スペクトル幅が極めて狭い発光を得ることができる有機EL素子および有機レーザダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子等の有機半導体発光素子は、無機半導体発光素子と比較して、素子構造が簡単であるとともに、より短波長の光(たとえば、400〜550nm程度)が得られることから、大容量化(高記録密度化)が可能となるなど、様々な分野への応用が期待されており、近年活発に研究開発が行なわれている。
【0003】
有機レーザダイオードは、有機EL素子に続く次世代技術として、その実現が期待されている。発光波長の多用性、作製プロセスの簡便性等を活かし、設計自由度の高いレーザダイオードを低コストで作製することができると考えられる。
【0004】
有機レーザは、光励起型の有機レーザと、電流励起型の有機レーザとに大別することができる。光励起型の有機レーザは、光エネルギー(典型的には、レーザ光の照射)により有機物を励起し、生成した励起子が再結合する際に発光を生じる。発光は誘導放出により増幅され、レーザ光として取り出される。一方、電流励起型の有機レーザにおいては、レーザ活性層(発光層)への正孔および電子の注入のために、電気エネルギー(すなわち、陽極−陰極間への電圧の印加)が用いられる。陽極からレーザ活性層(発光層)へ正孔が注入され、陰極からレーザ活性層(発光層)に電子が注入されることによって、レーザ活性層(発光層)内で正孔と電子が再結合して発光が生じるともに、誘導放出により増幅され、レーザ光として取り出される。前者は特許文献および非特許文献においてこれまでに数多くの報告がなされているが、後者については未だ実現がなされていない。
【0005】
ここで、光励起型および電流励起型有機レーザのいずれにおいても、増幅自然放出(ASE:Amplified Spontaneous Emission)を生じさせるための閾値(ASE閾値)が十分低いことが求められる。
【0006】
非特許文献1には、下記式(3)で示される4,4’−ビス[(N−カルバゾール)スチリル]−ビフェニル(以下、BSB−Czとも称する。)が6重量%の濃度でドープされた、下記式(4)で示される4,4’−ビス(N−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)薄膜が、波長337nmの窒素ガスレーザ(パルス幅500ps)を励起光源としたとき、0.32μJ/cm2程度の極めて低いASE閾値を示すことが記載されている。
【0007】
【化1】
【0008】
【化2】
【0009】
また、非特許文献2には、上記BSB−Cz:CBP薄膜(膜厚500nm)に、cw(continuous wave)のHe−Cdレーザ光(励起波長325nm)を照射すると、15W/cm2程度の低い励起パワーで、半値全幅(FWHM:Full Width at Half maximum)が極めて狭い発光が得られることが示されている。
【0010】
しかし、光励起による有機レーザでは、レーザ光を得るために、別にレーザ活性材料を励起させるための光源を用意する必要があり、装置の大型化等が問題となる。そのため、電流励起型の有機レーザダイオードの実現が望まれている。
【0011】
励起用の光源を用いることなく有機色素材料を発光させる発光素子としては、有機EL素子が知られている。有機EL素子は、通常、陽電極層、正孔注入・輸送層、発光層、電子注入・輸送層、陰電極層がこの順で積層されてなり、陽電極層と陰電極層との間に電圧を印加し、発光層に正孔および電子を注入することにより、発光層を発光させるものである。しかし、有機EL素子から得られる光は、通常、出射光の角度分布は広く、また、スペクトル幅も広い(単色性が低い)。
【0012】
有機EL素子に大電流を流すことでレーザダイオードの実現を目指す研究も、これまで数多く試みられているが、以下に示すような多くの課題点を抱えている。すなわち、(1)大電流密度下での発熱による有機膜の破壊・劣化、(2)励起子−励起子相互作用、励起子−ポーラロン相互作用による大電流密度下における励起子失活、(3)励起子、ポーラロン、電極の光吸収による光伝播損失、等である。いずれも特に電流励起の有機レーザにおいて顕著な問題となり、これら全てについて対策を講じる必要があるが、現在のところ十分には克服できていない。
【非特許文献1】T.Aimoto,Y.Kawamura,K.Goushi,H.Yamamoto,H.Sasabe,and C.Adachi,Appl.Phys.Lett.86,07110(2005)
【非特許文献2】H.Nakanotani,C.Adachi,S.Watanebe,and R.Kato,Appl.Phys.Lett.90(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、低いエネルギー密度(電流密度)での励起下においても、スペクトル幅の極めて狭い発光を取り出すことのできる有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基板と、陽電極層と、少なくとも1つの有機材料を含む有機層と、陰電極層とからなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、主たる光の取り出し方向は、前記基板の表面に対して平行方向であり、上記素子によって構成される、有機層をコアの一部とした光導波路の、横電場モード(transverse electroc mode)のいずれかのカットオフ波長が、上記有機層に含まれるいずれかの有機材料の蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【0015】
上記陽電極層と陰電極層の少なくとも一方は、上記いずれかのカットオフ波長の光に対して透明な電極層であることが好ましい。ここで、透明な電極層とは、50%以上の光を透過する電極層を指すものとし、たとえば、透明導電性酸化物、金属薄膜等が含まれる。
【0016】
また、上記有機層は、複数の層からなる積層構造を有することが好ましく、上記陽電極層と接する側に正孔注入・輸送層を有し、上記陰電極層と接する側に電子注入・輸送層を有することがさらに好ましい。
【0017】
上記発光層で生じる光のうち、上記カットオフ波長における、上記有機層に含まれるいずれかの有機材料の屈折率が、上記陽電極層の屈折率よりも高いことが好ましい。
【0018】
上記基板の表面は、上記いずれかのカットオフ波長の光に対して透明であることが好ましい。ここで、透明であるとは、50%以上の光を透過することを指すものとする。
【0019】
また、上記いずれかのカットオフ波長における上記基板の表面の屈折率が、1.7以下であることが好ましく、さらに、上記基板は、ガラス基板あるいは表面にシリコン酸化膜を有するシリコン基板であることがより好ましい。
【0020】
上記有機層は、レーザ活性の材料を含むことが好ましく、下記式(1)で示される部位を含有する化合物を含むことがより好ましい。さらには、下記式(2)で示される化合物を含むことがより好ましい。
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、Xは、置換あるいは非置換のアルキル基、アリール基または複素環基を表す。)
【0023】
【化4】
【0024】
(式中、Y、ZおよびZ’は、それぞれ独立して、置換あるいは非置換のアルキル基、アリール基または複素環基を表す。)
上記陰電極層は、Agを含むことが好ましい。
【0025】
上記有機層の厚みは、100〜1000nmの範囲であることが好ましく、その厚みに応じて、取り出される光のピーク波長が異なることが好ましい。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、当該発光層の厚みを変えることにより、取り出される光のピーク波長を制御することができる。
【0026】
上記正孔注入・輸送層は、金属酸化物を含むことが好ましく、酸化モリブデンを含むことが特に好ましい。
【0027】
上記電子注入・輸送層は、第I族元素もしくは第II族元素をドーパントとして含むことが好ましく、セシウムをドーパントとして含むことが特に好ましい。
【0028】
前記陽電極層の厚みは、3〜100nmであることが好ましい。
上記陽電極層は、透明導電性酸化物からなることが好ましい。
【0029】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、横方向に取り出される光はレーザ光と共通の性質も有している。端面より出射される光は、高い指向性(コヒーレント性)および単色性を示す。発光が光学的に増幅されることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、低いエネルギー密度(電流密度)での励起下においても、スペクトル幅の狭い発光を取り出すことのできる端面発光型有機EL素子が提供される。また、本発明の有機EL素子においては、発光層の膜厚を変化させることのみで発光ピーク波長を変えることができるため、任意の可視域において所望の発光ピーク波長を示す複数の有機EL素子を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。図1に示される有機EL素子100は、基板101上に形成されており、基板101から、陽電極層102、正孔注入・輸送層103、発光層104、電子注入・輸送層105、陰電極層106をこの順で備えている。ここで、有機層は、正孔注入・輸送層103、発光層104、電子注入・輸送層105の積層構造となっているが、これに限られるものではない。
【0032】
基板101としては、たとえばガラス基板、表面にSiO2酸化膜を有するシリコン基板、SiO2基板、サファイア基板、シリコン基板、GaAs基板、GaNInP基板、高分子ポリマーからなるプラスチック基板等を用いることができる。本発明の有機EL素子の主たる光取り出し面は、上記基板の表面に対して平行方向である。ここで、基板の表面に対して平行方向とは、基板の表面に対する角度が45°以下の方向を指すものとする。ただし、基板の表面に対して平行方向に伝播する光を、ミラー等で垂直方向に反射させ、垂直方向に光を取り出すことも可能である。光導波路に効率良く光を閉じ込めるため、発光素子に形成される光導波路の、横電場モードのいずれかのカットオフ波長における基板の表面の屈折率は上記有機層に含まれるいずれかの有機材料の屈折率より小さいことが好ましく、該カットオフ波長における基板の表面の屈折率は1.7以下程度であることが好ましい。低コスト性および作製の簡便性から、ガラス基板あるいは表面にシリコン酸化膜を有するシリコン基板であることがより好ましい。また、基板表面は、発光素子に形成される光導波路の、横電場モードのいずれかのカットオフ波長の光に対して透明であることが好ましい。
【0033】
陽電極層102は、正孔注入・輸送層103に正孔を注入する作用を有する。陽電極層は、仕事関数の大きい(好ましくは、4eV以上)金属、またはその合金、電気導電性化合物等より形成することが好ましい。スペクトル幅の狭い発光を得るためには、陽電極層は、発光素子に形成される光導波路の、横電場モードのいずれかのカットオフ波長の光に対して透明であることが好ましく、このような陽電極材料の具体例としては、ITO(インジウム−スズ酸化物)、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)、SnO2、ZnO、AZO(アルミニウム−亜鉛酸化物)等の導電性材料、Au等の金属を挙げることができる。陽電極層102の厚みは、通常、3nm〜100μmが好ましく、電極による光伝播損失を考慮すると、3〜50nmがより好ましい。
【0034】
有機層(正孔注入・輸送層103、発光層104、電子注入・輸送層105)を形成する有機材料の具体例としては、たとえば、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリビニルカルバゾール誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の有機半導体等を挙げることができる。
【0035】
ここで本発明においては、上記いずれかのカットオフ波長における有機層のいずれかの有機材料の屈折率が、陽電極層102の屈折率よりも高いことが好ましい。
【0036】
発光層104は、注入された正孔および電子を再結合させ光を発生する作用を有する。発光層104を形成する有機半導体材料は、レーザ活性材料、すなわち、レーザ発振し得る材料であることが好ましく、発振閾値(ASE閾値)がより低い材料であることがさらに好ましい。このような有機半導体材料を選択することにより、電圧の印加によって、スペクトル幅の狭い発光を得ることができる。発振閾値(ASE閾値)がより低い材料を用いれば、より低い電流密度でも、レーザ発振させることができると考えられる。
【0037】
上記屈折率およびASE閾値の観点から、好ましい有機半導体材料としては、前記式(1)で示される化合物を挙げることができる。さらに、前記式(2)で示される化合物がさらに好ましい。前記式(2)で示される化合物の具体例として、前記式(3)で示されるBSB−Czを挙げることができる。BSB−Cz単層膜のPL発光効率(photoluminescent efficiency)およびASE閾値は、それぞれ77%、約0.6μJ/cm2である。
【0038】
正孔注入・輸送層としては、アクセプタをドープしたBSB−Czを好ましく使用することができる。具体的なドーパントとしては、MnOx、WO3、SnO2、In2O3、ZnO等の各種金属酸化物が好ましいが、正孔注入特性をより良く改善できることから、酸化モリブデン(MoOx)特に好ましい。そのドーパント濃度は、1〜100質量%とすることができる。
【0039】
正孔注入・輸送層の厚みは、通常、0.2〜100nmとすることができる。ドープによる光学的な不活性化を考慮すると、より薄い0.2〜30nmであることが好ましい。
【0040】
BSB−Cz単層膜と、MoOxがドープされたBSB−Cz層の屈折率とはほとんど同じ値を示し、エリプソメーター(J.A.Woollam社製 Fast Spectroscopic Ellipsometer M−2000U)により測定されるその屈折率は、波長450nmの光に対して約2.2、波長470nmの光に対して約2.1、波長550nmの光に対して約2.0、波長650nmの光に対して約1.9である。陽電極層102として、ITOを用いた場合、その屈折率は、およそ2.0〜1.8程度(波長約400〜700nmの光に対して)であるから、上記屈折率の条件を満たす。
【0041】
電子注入・輸送層105を形成する材料としては、特に制限されず、従来公知の有機半導体材料を用いることができるが、発光層との界面でキャリアトラップを生じないように上記BSB−Czをホスト材料とすることが好ましい。この場合、ドーパントとしては、セシウム、カリウム等の第I族元素、マグネシウム、カルシウム等の第II族元素を好ましく使用することができ、そのドーパント濃度は、1〜50質量%とすることができる。電子注入・輸送層の厚みは、通常、0.2〜200nmとすることができ、作成プロセス等を考慮すると、0.2〜100nmであることが好ましい。
【0042】
有機層全体の厚みは、たとえば100〜1000nmの範囲とすることができる。発光層の厚みが100nm未満であると、有機層内部での光伝播が困難になる傾向がある。また、発光層の厚みが300nmを超えると、駆動電圧が上昇し、作製プロセスも長時間を要するため、発光層104の厚みは、より好ましくは、100〜300nmである。
【0043】
陰電極層106は、電子注入・輸送層105に電子を注入する作用を有する。陰電極層は、仕事関数の小さい(好ましくは4eV以下)金属またはその合金、電気導電性化合物等より形成することが好ましい。陰電極材料の具体例としては、Ag、Mg、Mg−Ag合金、Al、Al−Li合金、Al/Al2O3混合物、In等を挙げることができるが、伝播損失を抑えるために、反射率の高いAgを用いるのが特に好ましい。陰電極層105の厚みは、通常、5nm〜500nm、好ましくは、10〜200nm程度である。
【0044】
図2は、図1に示される有機EL素子100の概略上面図である。図2に示されるように、本発明の有機EL素子の上面からみたときの形状は、略長方形であることが好ましい。この際、主たる光取り出し面は、図2の矢印に示されるように、より短い辺を有する方の端面である。このような形状とすることにより、出射光量を増大させることができ、また、丸型や正方形型と比較して熱放出性を向上させることができる。該長方形の各辺の長さは、特に制限されず、たとえば、5〜500μm×500〜2000μmとすることができる。
【0045】
また、有機EL素子の耐久性を考慮し、本発明の有機EL素子は封止されていることが好ましい。たとえば、ガラス封止缶による窒素雰囲気下あるいはアルゴン雰囲気下での封止、SiOx膜、SiNx膜、SiOxNy膜、パリレン膜の成膜による封止等が挙げられる。
【0046】
本発明の有機EL素子によれば、極めて低い電流密度で、基板の表面に対して平行方向に、スペクトル幅の狭い(単色性が高い)光を得ることができる。本発明の有機EL素子から取り出される光は、発光層で発生した光の増幅を伴ったものである可能性がある。この点については後述する。本発明において、極めて低い電流密度でスペクトル幅の極めて狭い発光の発振が可能となるのは、発光層で発生した光のうち、素子各層によって形成される導波路のカットオフ波長に近い光がコヒーレント的に重ね合わされ、基板表面にほぼ平行な向きに出射したことによる。また、発光の増幅は、光の波長が0−1遷移の波長と一致するときに比較的容易に起こりやすい。なお、カットオフ波長近傍の端面発光についての詳細は、たとえば、1)M.Pauchard,M.Vehse,J.Swensen,D.Moses,A.J.Heeger,E.Perzon,and M.R.Andersson,Appl.Phys.Lett.83,4488(2003)、2)F.Li,O.Solomesch,P.R.Mackie,D.Cupertino,and N.Tessler,J.Appl.Phys.99,013101(2006)等に記載されている。
【0047】
本発明の有機EL素子の別の特徴は、発光層の厚みの調整により、取り出される光のピーク波長を制御できる点にある。たとえば、有機EL素子を、陽電極層(ITO 30nm)/正孔注入・輸送層(7質量%−MoOxドープBSB−Cz 10nm)/発光層(BSB−Cz Lnm)/電子注入・輸送層(20質量%−CsドープBSB−Cz 60nm)/陰電極層(Ag 100nm)で構成した場合、発光層の厚み(L)を100〜150nmの範囲で変化させると、最も発光強度が高いピーク波長が約450〜500nmの範囲で変化し、発光層の厚みを大きくするほど、より高波長の光を取り出すことができる。
【0048】
図1のような素子においては、基板より屈折率の高い有機材料を含む有機層と透明陽電極層を選択することで、屈折率の低い基板と反射率の高い陰電極層にこれらが挟まれた、光導波路が形成される。このような光導波路のカットオフ波長は、それぞれのモードごと(TE0、TM0、TE1、TM1、TE2、TM2、、、)に光導波路内に光を閉じ込めることができる波長の上限として定義されている。その値は、光導波路を構成する材料種、その光学定数、構造によって、一意的に決定するものであり、一般に数値計算によって算出される。
【0049】
カットオフ波長よりわずかに大きい波長の光は、素子表面に対してほぼ平行の形で出射することになる。このカットオフ波長近傍の出射光のうち、横電場モード(transverse electroc mode;TEモード)の光が、陰電極による伝播損失を受けにくいため、スペクトル幅の極めて狭い発光となる。
【0050】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
ガラス基板301上に、フォトリソグラフィおよびリフトオフにより、幅500μm、長さ8000μmの穴を有するフォトレジスト膜を形成した。次に、RFマグネトロンスパッタリングにより、ガラス基板301上全体に、ITO層を厚さ30nmで形成した(ITOターゲット:10質量%SnO2/90質量%In2O3、フローレート:Ar 30sccm、圧力:約1×10-1Pa、RFパワー:20W)。ついで、フォトレジスト膜をその上に形成されたITO層と共に除去し、パターニングされた陽電極層302(ITO層)を有する基板を得た。該基板を洗剤および有機溶剤を用いて洗浄し、UV−オゾン処理した。
【0052】
次に、正孔注入・輸送層、発光層および電子注入・輸送層をこの順で、基板表面全体に真空加熱蒸着により形成した(圧力:3×10-3Pa以下、蒸着速度:約0.2nm/s)。正孔注入・輸送層には、MoOxが7質量%の濃度でドープされたBSB−Czを用い、層厚は10nmとした。発光層には、BSB−Czを用い、層厚は100nmとした。電子注入・輸送層には、Csが20質量%の濃度でドープされたBSB−Czを用い、層厚は60nmとした。これら3つの層はいずれもアモルファス状態とした。次に、シャドーマスクを用いた熱蒸着により、電子注入・輸送層の上に、陰電極層303として、Ag層を100nm厚で形成した(圧力:3×10-3Pa以下、蒸着速度:約0.1nm/s)。これにより、図3に示される素子構造を得た。最後に、図3に示される分割線305に沿って、ガラスカッターにより基板を素子ごと破断し、ライン形状の有機EL素子を得た。活性領域304のサイズは、500μm×2mmである。
【0053】
<実施例2〜3>
発光層の厚みをそれぞれ、130nm、150nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0054】
上記膜厚で素子作製した場合の、光導波路のカットオフ波長の計算値は、TE1モードに対して、それぞれ456nm、479nm、499nmであった。後述するように、これらの値はBSB−Czの蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている。
【0055】
<比較例1〜2>
ガラス基板上の全面に、陽電極層としてITO層を形成すること以外は実施例1と同様にして電子注入・輸送層の形成までを行なった(発光層の層厚130nm(比較例1)、150nm(比較例2))。次に、電子注入・輸送層上に、シャドーマスクを用いた熱蒸着により、直径1mmの円形状Ag層(層厚100nm厚)を形成し、面発光型有機EL素子を得た。
【0056】
<比較例3>
正孔注入・輸送層、発光層および電子注入・輸送層の有機半導体材料として、BSB−Czの代わりに、トリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして端面発光型有機EL素子を作製した。発光層の層厚は、180nmとした。Alq3の最も発光強度が高い光のピーク波長における屈折率は、約1.7である。
【0057】
[有機EL素子の特性評価]
(1)電流密度−電圧(J−V)特性
上記実施例1〜3の有機EL素子(発光層の厚さがそれぞれ、100、130、150nm)についてJ−V特性を測定した。測定は、図4に示されるように、ガラス基板上に形成された有機EL素子をステージ401上に載置し、陽電極層−陰電極層間に、コンタクトプローブ402を用いて電圧を印加することにより行なった。J−V特性の測定には、半導体パラメータアナライザ(Agilent Technologies Inc.製 E5250)を用いた。結果を図5に示す。
【0058】
(2)端面から取り出される光の発光スペクトル
図4に示されるように、受光部の直径が1mmである光ファイバ403を有するマルチチャネルスペクトロメータ(Hamamatsu Photonics Co.製 PMA−11)を用いて、端面から出射される光を集光し、発光スペクトルを測定した。光ファイバ403は、素子表面と平行に、素子と同じ高さに置いた。
【0059】
有機EL素子端面から取り出される光の発光スペクトルを図6に示す。図6(a)は、実施例1(発光層の層厚:100nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から200mA/cm2まで変化させたときの発光スペクトルである。図6(b)は、実施例2(発光層の層厚:130nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から500mA/cm2まで変化させたときの発光スペクトルである。図6(c)は、実施例3(発光層の層厚:150nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から100mA/cm2まで変化させたときの発光スペクトルである。また、図7は、実施例1〜3の有機EL素子端面から取り出される光の、電流密度100mA/cm2における発光スペクトルを重ね合わせた図である。各発光スペクトルは、ピーク強度が1となるように規格化されている。参考のため、ガラス基板上に形成されたBSB−Cz単層膜(約100nm厚)の蛍光スペクトルをともに示す。
【0060】
BSB−Cz単層膜の蛍光スペクトルと比較すると明らかなように、実施例1〜3の有機EL素子の端面から取り出される光のうち、特定のピーク波長を有する光(最も発光強度が高い光)のスペクトル幅は極めて狭いことがわかる。これらのピークの半値全幅(FWHM)は、それぞれ12nm(実施例1、発光層の層厚:100nm)、6.5nm(実施例2、発光層の層厚:130nm)、11nm(実施例3、発光層の層厚:150nm)である。
【0061】
また、図7より、当該スペクトル幅の狭い光のピーク波長が発光層の層厚に依存していることがわかる。すなわち、発光層の層厚が100、130、150nmと大きくなるに従い、ピーク波長は、446nm、471nm、500nmと大きくなる。FWHMは、端面発光のピーク波長がBSB−Czの0−1遷移の波長に近いほど狭くなり、発光層の厚みが130nmのときに6.5nmであった。
【0062】
ピーク波長の値は、前述の計算値と極めて近い。この発光が光導波路のカットオフ波長近傍の光であることが分かる。また、これらの波長はいずれもBSB−Cz単層膜の蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている。
【0063】
(3)ITO表面から取り出される光の発光スペクトル
光ファイバを有するスペクトロメータ(Ocean Optics Co.製 SD2000)を用い、該光ファイバの先端を基板の下に設置して、電流密度Jが1、10、100mA/cm2である場合における実施例2(発光層の層厚:130nm)および3(発光層の層厚:150nm)の有機EL素子のITO表面から取り出される光の発光スペクトルを測定した。結果を図8に示す。また、図8には、比較のため、比較例1(発光層の層厚:130nm)および2(発光層の層厚:150nm)の有機EL素子のITO表面から取り出される光の発光スペクトルも示した。
【0064】
実施例2および3の有機EL素子のITO表面から出射する光のFWHMは、50nm以上とブロードであり、FWHM値は、通常の面発光型有機EL素子と同等であることが図8からわかる。
【0065】
(4)偏光特性
回転偏向板用いて、実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の偏光特性を測定した。結果を図9に示す。図9(a)〜(c)は、それぞれ実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の偏光特性を示す図である。スペクトル幅が狭い光(最も発光強度が高い光)は、基板表面と平行な方向(TEモード、図9における90°方向)に偏光していることがわかる。また、より強度の低いTMモード(transverse magnetic mode、図9における0°方向)の光や偏光していない光も存在することがわかる。
【0066】
(5)発光強度の電流密度依存性
有機EL素子の端面から出射する光の発光強度と、電流密度との関係を調べた結果を図10に示す。図10(a)は、実施例2の有機EL素子の端面から出射する光の発光スペクトルのうち、TEピーク(すなわち、ピーク波長471nmのピーク)に関する、発光強度と電流密度との関係を示している。図10(a)には、参考のため、原点を通る比例直線を示している。発光強度は、電流密度100mA/cm2のときに1となるように規格化している。図10(a)からわかるように、発光強度と電流密度とは比例関係になく、高電流密度における発光強度値を用いてフィッティングした外挿線は、原点を通らない。図10(b)は、実施例2の有機EL素子の端面から出射する光の発光スペクトルのうち、偏光していない光(波長450nm)に関する、発光強度と電流密度との関係を示している。このような無偏光の光は、端面領域近傍からの発光に起因するものと考えられる。図10(b)には、比較例1の有機EL素子の面発光スペクトルの電流密度依存性を合わせて示している。これらの発光強度は、完全に電流密度に比例し、フィッティング直線は原点を通ることがわかる。したがって、上に記したような比例関係からの逸脱は、スペクトル幅の狭いピークに特有のものである。
【0067】
(6)発光スペクトル形状の変化
図11(a)〜(c)は、それぞれ実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の発光スペクトル形状の電流密度依存性を示す図である。全ての発光スペクトルは、最高ピーク強度が1となるように規格化されている。図11から明らかなように、電流密度が10mA/cm2の場合と、100mA/cm2以上の場合とではスペクトル形状が異なり、電流密度が高くなるとともに、スペクトル幅の狭いピークの強度比が高くなっている。
【0068】
(7)近視野像
ビームプロファイラー(Hamamatsu Photonics Co.製 LEPAS−12)を用いて、端面発光の近視野像を測定した。図12(a)は、実施例2の有機EL素子の端面発光の近視野像であり(電流密度100mA/cm2)、図12(b)および(c)は、図12(a)におけるx=0、y=0での光分布パターンの断面図である(電流密度10、100mA/cm2)。発光位置は、素子表面近傍に局在化している(y=0)。また、光分布パターンは、電流密度に大きくは依存しないことがわかる。
【0069】
(8)比較例3の有機EL素子の発光スペクトル
図13は、比較例3(発光層の層厚:180nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から400mA/cm2まで変化させたときの端面発光スペクトルである。図13に示されるように、電流密度の増加に伴い、スペクトル幅の狭小化が認められるものと、そのFWHMは約50nm程度と大きい。
【0070】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示される有機EL素子の概略上面図である。
【図3】実施例1の有機EL素子の構造を示す概略上面図である。
【図4】電流密度−電圧特性および端面発光スペクトルの測定方法を示す模式図である。
【図5】実施例1〜3の有機EL素子の電流密度−電圧特性を示す図である。
【図6】実施例1〜3の有機EL素子端面から取り出される光の発光スペクトルである。
【図7】実施例1〜3の有機EL素子端面から取り出される光の、電流密度100mA/cm2における発光スペクトルを重ね合わせた図である。
【図8】実施例2〜3および比較例1〜2の有機EL素子のITO表面から取り出される光の発光スペクトルである。
【図9】実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の偏光特性を示す図である。
【図10】実施例2の有機EL素子の端面から出射する光の発光強度と、電流密度との関係を示す図である。
【図11】実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の発光スペクトル形状の電流密度依存性を示す図である。
【図12】実施例2の有機EL素子の端面発光の近視野像を示す図である。
【図13】比較例3(発光層の層厚:180nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から400mA/cm2まで変化させたときの端面発光スペクトルである。
【符号の説明】
【0072】
101,301 基板、102,302 陽電極層、103 正孔注入・輸送層、104 発光層、105 電子注入・輸送層、106,303 陰電極層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とも称する。)および有機レーザダイオードに関し、より詳しくは、低い電流密度でも、スペクトル幅が極めて狭い発光を得ることができる有機EL素子および有機レーザダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子等の有機半導体発光素子は、無機半導体発光素子と比較して、素子構造が簡単であるとともに、より短波長の光(たとえば、400〜550nm程度)が得られることから、大容量化(高記録密度化)が可能となるなど、様々な分野への応用が期待されており、近年活発に研究開発が行なわれている。
【0003】
有機レーザダイオードは、有機EL素子に続く次世代技術として、その実現が期待されている。発光波長の多用性、作製プロセスの簡便性等を活かし、設計自由度の高いレーザダイオードを低コストで作製することができると考えられる。
【0004】
有機レーザは、光励起型の有機レーザと、電流励起型の有機レーザとに大別することができる。光励起型の有機レーザは、光エネルギー(典型的には、レーザ光の照射)により有機物を励起し、生成した励起子が再結合する際に発光を生じる。発光は誘導放出により増幅され、レーザ光として取り出される。一方、電流励起型の有機レーザにおいては、レーザ活性層(発光層)への正孔および電子の注入のために、電気エネルギー(すなわち、陽極−陰極間への電圧の印加)が用いられる。陽極からレーザ活性層(発光層)へ正孔が注入され、陰極からレーザ活性層(発光層)に電子が注入されることによって、レーザ活性層(発光層)内で正孔と電子が再結合して発光が生じるともに、誘導放出により増幅され、レーザ光として取り出される。前者は特許文献および非特許文献においてこれまでに数多くの報告がなされているが、後者については未だ実現がなされていない。
【0005】
ここで、光励起型および電流励起型有機レーザのいずれにおいても、増幅自然放出(ASE:Amplified Spontaneous Emission)を生じさせるための閾値(ASE閾値)が十分低いことが求められる。
【0006】
非特許文献1には、下記式(3)で示される4,4’−ビス[(N−カルバゾール)スチリル]−ビフェニル(以下、BSB−Czとも称する。)が6重量%の濃度でドープされた、下記式(4)で示される4,4’−ビス(N−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)薄膜が、波長337nmの窒素ガスレーザ(パルス幅500ps)を励起光源としたとき、0.32μJ/cm2程度の極めて低いASE閾値を示すことが記載されている。
【0007】
【化1】
【0008】
【化2】
【0009】
また、非特許文献2には、上記BSB−Cz:CBP薄膜(膜厚500nm)に、cw(continuous wave)のHe−Cdレーザ光(励起波長325nm)を照射すると、15W/cm2程度の低い励起パワーで、半値全幅(FWHM:Full Width at Half maximum)が極めて狭い発光が得られることが示されている。
【0010】
しかし、光励起による有機レーザでは、レーザ光を得るために、別にレーザ活性材料を励起させるための光源を用意する必要があり、装置の大型化等が問題となる。そのため、電流励起型の有機レーザダイオードの実現が望まれている。
【0011】
励起用の光源を用いることなく有機色素材料を発光させる発光素子としては、有機EL素子が知られている。有機EL素子は、通常、陽電極層、正孔注入・輸送層、発光層、電子注入・輸送層、陰電極層がこの順で積層されてなり、陽電極層と陰電極層との間に電圧を印加し、発光層に正孔および電子を注入することにより、発光層を発光させるものである。しかし、有機EL素子から得られる光は、通常、出射光の角度分布は広く、また、スペクトル幅も広い(単色性が低い)。
【0012】
有機EL素子に大電流を流すことでレーザダイオードの実現を目指す研究も、これまで数多く試みられているが、以下に示すような多くの課題点を抱えている。すなわち、(1)大電流密度下での発熱による有機膜の破壊・劣化、(2)励起子−励起子相互作用、励起子−ポーラロン相互作用による大電流密度下における励起子失活、(3)励起子、ポーラロン、電極の光吸収による光伝播損失、等である。いずれも特に電流励起の有機レーザにおいて顕著な問題となり、これら全てについて対策を講じる必要があるが、現在のところ十分には克服できていない。
【非特許文献1】T.Aimoto,Y.Kawamura,K.Goushi,H.Yamamoto,H.Sasabe,and C.Adachi,Appl.Phys.Lett.86,07110(2005)
【非特許文献2】H.Nakanotani,C.Adachi,S.Watanebe,and R.Kato,Appl.Phys.Lett.90(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、低いエネルギー密度(電流密度)での励起下においても、スペクトル幅の極めて狭い発光を取り出すことのできる有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基板と、陽電極層と、少なくとも1つの有機材料を含む有機層と、陰電極層とからなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、主たる光の取り出し方向は、前記基板の表面に対して平行方向であり、上記素子によって構成される、有機層をコアの一部とした光導波路の、横電場モード(transverse electroc mode)のいずれかのカットオフ波長が、上記有機層に含まれるいずれかの有機材料の蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【0015】
上記陽電極層と陰電極層の少なくとも一方は、上記いずれかのカットオフ波長の光に対して透明な電極層であることが好ましい。ここで、透明な電極層とは、50%以上の光を透過する電極層を指すものとし、たとえば、透明導電性酸化物、金属薄膜等が含まれる。
【0016】
また、上記有機層は、複数の層からなる積層構造を有することが好ましく、上記陽電極層と接する側に正孔注入・輸送層を有し、上記陰電極層と接する側に電子注入・輸送層を有することがさらに好ましい。
【0017】
上記発光層で生じる光のうち、上記カットオフ波長における、上記有機層に含まれるいずれかの有機材料の屈折率が、上記陽電極層の屈折率よりも高いことが好ましい。
【0018】
上記基板の表面は、上記いずれかのカットオフ波長の光に対して透明であることが好ましい。ここで、透明であるとは、50%以上の光を透過することを指すものとする。
【0019】
また、上記いずれかのカットオフ波長における上記基板の表面の屈折率が、1.7以下であることが好ましく、さらに、上記基板は、ガラス基板あるいは表面にシリコン酸化膜を有するシリコン基板であることがより好ましい。
【0020】
上記有機層は、レーザ活性の材料を含むことが好ましく、下記式(1)で示される部位を含有する化合物を含むことがより好ましい。さらには、下記式(2)で示される化合物を含むことがより好ましい。
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、Xは、置換あるいは非置換のアルキル基、アリール基または複素環基を表す。)
【0023】
【化4】
【0024】
(式中、Y、ZおよびZ’は、それぞれ独立して、置換あるいは非置換のアルキル基、アリール基または複素環基を表す。)
上記陰電極層は、Agを含むことが好ましい。
【0025】
上記有機層の厚みは、100〜1000nmの範囲であることが好ましく、その厚みに応じて、取り出される光のピーク波長が異なることが好ましい。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、当該発光層の厚みを変えることにより、取り出される光のピーク波長を制御することができる。
【0026】
上記正孔注入・輸送層は、金属酸化物を含むことが好ましく、酸化モリブデンを含むことが特に好ましい。
【0027】
上記電子注入・輸送層は、第I族元素もしくは第II族元素をドーパントとして含むことが好ましく、セシウムをドーパントとして含むことが特に好ましい。
【0028】
前記陽電極層の厚みは、3〜100nmであることが好ましい。
上記陽電極層は、透明導電性酸化物からなることが好ましい。
【0029】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、横方向に取り出される光はレーザ光と共通の性質も有している。端面より出射される光は、高い指向性(コヒーレント性)および単色性を示す。発光が光学的に増幅されることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、低いエネルギー密度(電流密度)での励起下においても、スペクトル幅の狭い発光を取り出すことのできる端面発光型有機EL素子が提供される。また、本発明の有機EL素子においては、発光層の膜厚を変化させることのみで発光ピーク波長を変えることができるため、任意の可視域において所望の発光ピーク波長を示す複数の有機EL素子を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。図1に示される有機EL素子100は、基板101上に形成されており、基板101から、陽電極層102、正孔注入・輸送層103、発光層104、電子注入・輸送層105、陰電極層106をこの順で備えている。ここで、有機層は、正孔注入・輸送層103、発光層104、電子注入・輸送層105の積層構造となっているが、これに限られるものではない。
【0032】
基板101としては、たとえばガラス基板、表面にSiO2酸化膜を有するシリコン基板、SiO2基板、サファイア基板、シリコン基板、GaAs基板、GaNInP基板、高分子ポリマーからなるプラスチック基板等を用いることができる。本発明の有機EL素子の主たる光取り出し面は、上記基板の表面に対して平行方向である。ここで、基板の表面に対して平行方向とは、基板の表面に対する角度が45°以下の方向を指すものとする。ただし、基板の表面に対して平行方向に伝播する光を、ミラー等で垂直方向に反射させ、垂直方向に光を取り出すことも可能である。光導波路に効率良く光を閉じ込めるため、発光素子に形成される光導波路の、横電場モードのいずれかのカットオフ波長における基板の表面の屈折率は上記有機層に含まれるいずれかの有機材料の屈折率より小さいことが好ましく、該カットオフ波長における基板の表面の屈折率は1.7以下程度であることが好ましい。低コスト性および作製の簡便性から、ガラス基板あるいは表面にシリコン酸化膜を有するシリコン基板であることがより好ましい。また、基板表面は、発光素子に形成される光導波路の、横電場モードのいずれかのカットオフ波長の光に対して透明であることが好ましい。
【0033】
陽電極層102は、正孔注入・輸送層103に正孔を注入する作用を有する。陽電極層は、仕事関数の大きい(好ましくは、4eV以上)金属、またはその合金、電気導電性化合物等より形成することが好ましい。スペクトル幅の狭い発光を得るためには、陽電極層は、発光素子に形成される光導波路の、横電場モードのいずれかのカットオフ波長の光に対して透明であることが好ましく、このような陽電極材料の具体例としては、ITO(インジウム−スズ酸化物)、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)、SnO2、ZnO、AZO(アルミニウム−亜鉛酸化物)等の導電性材料、Au等の金属を挙げることができる。陽電極層102の厚みは、通常、3nm〜100μmが好ましく、電極による光伝播損失を考慮すると、3〜50nmがより好ましい。
【0034】
有機層(正孔注入・輸送層103、発光層104、電子注入・輸送層105)を形成する有機材料の具体例としては、たとえば、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリビニルカルバゾール誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の有機半導体等を挙げることができる。
【0035】
ここで本発明においては、上記いずれかのカットオフ波長における有機層のいずれかの有機材料の屈折率が、陽電極層102の屈折率よりも高いことが好ましい。
【0036】
発光層104は、注入された正孔および電子を再結合させ光を発生する作用を有する。発光層104を形成する有機半導体材料は、レーザ活性材料、すなわち、レーザ発振し得る材料であることが好ましく、発振閾値(ASE閾値)がより低い材料であることがさらに好ましい。このような有機半導体材料を選択することにより、電圧の印加によって、スペクトル幅の狭い発光を得ることができる。発振閾値(ASE閾値)がより低い材料を用いれば、より低い電流密度でも、レーザ発振させることができると考えられる。
【0037】
上記屈折率およびASE閾値の観点から、好ましい有機半導体材料としては、前記式(1)で示される化合物を挙げることができる。さらに、前記式(2)で示される化合物がさらに好ましい。前記式(2)で示される化合物の具体例として、前記式(3)で示されるBSB−Czを挙げることができる。BSB−Cz単層膜のPL発光効率(photoluminescent efficiency)およびASE閾値は、それぞれ77%、約0.6μJ/cm2である。
【0038】
正孔注入・輸送層としては、アクセプタをドープしたBSB−Czを好ましく使用することができる。具体的なドーパントとしては、MnOx、WO3、SnO2、In2O3、ZnO等の各種金属酸化物が好ましいが、正孔注入特性をより良く改善できることから、酸化モリブデン(MoOx)特に好ましい。そのドーパント濃度は、1〜100質量%とすることができる。
【0039】
正孔注入・輸送層の厚みは、通常、0.2〜100nmとすることができる。ドープによる光学的な不活性化を考慮すると、より薄い0.2〜30nmであることが好ましい。
【0040】
BSB−Cz単層膜と、MoOxがドープされたBSB−Cz層の屈折率とはほとんど同じ値を示し、エリプソメーター(J.A.Woollam社製 Fast Spectroscopic Ellipsometer M−2000U)により測定されるその屈折率は、波長450nmの光に対して約2.2、波長470nmの光に対して約2.1、波長550nmの光に対して約2.0、波長650nmの光に対して約1.9である。陽電極層102として、ITOを用いた場合、その屈折率は、およそ2.0〜1.8程度(波長約400〜700nmの光に対して)であるから、上記屈折率の条件を満たす。
【0041】
電子注入・輸送層105を形成する材料としては、特に制限されず、従来公知の有機半導体材料を用いることができるが、発光層との界面でキャリアトラップを生じないように上記BSB−Czをホスト材料とすることが好ましい。この場合、ドーパントとしては、セシウム、カリウム等の第I族元素、マグネシウム、カルシウム等の第II族元素を好ましく使用することができ、そのドーパント濃度は、1〜50質量%とすることができる。電子注入・輸送層の厚みは、通常、0.2〜200nmとすることができ、作成プロセス等を考慮すると、0.2〜100nmであることが好ましい。
【0042】
有機層全体の厚みは、たとえば100〜1000nmの範囲とすることができる。発光層の厚みが100nm未満であると、有機層内部での光伝播が困難になる傾向がある。また、発光層の厚みが300nmを超えると、駆動電圧が上昇し、作製プロセスも長時間を要するため、発光層104の厚みは、より好ましくは、100〜300nmである。
【0043】
陰電極層106は、電子注入・輸送層105に電子を注入する作用を有する。陰電極層は、仕事関数の小さい(好ましくは4eV以下)金属またはその合金、電気導電性化合物等より形成することが好ましい。陰電極材料の具体例としては、Ag、Mg、Mg−Ag合金、Al、Al−Li合金、Al/Al2O3混合物、In等を挙げることができるが、伝播損失を抑えるために、反射率の高いAgを用いるのが特に好ましい。陰電極層105の厚みは、通常、5nm〜500nm、好ましくは、10〜200nm程度である。
【0044】
図2は、図1に示される有機EL素子100の概略上面図である。図2に示されるように、本発明の有機EL素子の上面からみたときの形状は、略長方形であることが好ましい。この際、主たる光取り出し面は、図2の矢印に示されるように、より短い辺を有する方の端面である。このような形状とすることにより、出射光量を増大させることができ、また、丸型や正方形型と比較して熱放出性を向上させることができる。該長方形の各辺の長さは、特に制限されず、たとえば、5〜500μm×500〜2000μmとすることができる。
【0045】
また、有機EL素子の耐久性を考慮し、本発明の有機EL素子は封止されていることが好ましい。たとえば、ガラス封止缶による窒素雰囲気下あるいはアルゴン雰囲気下での封止、SiOx膜、SiNx膜、SiOxNy膜、パリレン膜の成膜による封止等が挙げられる。
【0046】
本発明の有機EL素子によれば、極めて低い電流密度で、基板の表面に対して平行方向に、スペクトル幅の狭い(単色性が高い)光を得ることができる。本発明の有機EL素子から取り出される光は、発光層で発生した光の増幅を伴ったものである可能性がある。この点については後述する。本発明において、極めて低い電流密度でスペクトル幅の極めて狭い発光の発振が可能となるのは、発光層で発生した光のうち、素子各層によって形成される導波路のカットオフ波長に近い光がコヒーレント的に重ね合わされ、基板表面にほぼ平行な向きに出射したことによる。また、発光の増幅は、光の波長が0−1遷移の波長と一致するときに比較的容易に起こりやすい。なお、カットオフ波長近傍の端面発光についての詳細は、たとえば、1)M.Pauchard,M.Vehse,J.Swensen,D.Moses,A.J.Heeger,E.Perzon,and M.R.Andersson,Appl.Phys.Lett.83,4488(2003)、2)F.Li,O.Solomesch,P.R.Mackie,D.Cupertino,and N.Tessler,J.Appl.Phys.99,013101(2006)等に記載されている。
【0047】
本発明の有機EL素子の別の特徴は、発光層の厚みの調整により、取り出される光のピーク波長を制御できる点にある。たとえば、有機EL素子を、陽電極層(ITO 30nm)/正孔注入・輸送層(7質量%−MoOxドープBSB−Cz 10nm)/発光層(BSB−Cz Lnm)/電子注入・輸送層(20質量%−CsドープBSB−Cz 60nm)/陰電極層(Ag 100nm)で構成した場合、発光層の厚み(L)を100〜150nmの範囲で変化させると、最も発光強度が高いピーク波長が約450〜500nmの範囲で変化し、発光層の厚みを大きくするほど、より高波長の光を取り出すことができる。
【0048】
図1のような素子においては、基板より屈折率の高い有機材料を含む有機層と透明陽電極層を選択することで、屈折率の低い基板と反射率の高い陰電極層にこれらが挟まれた、光導波路が形成される。このような光導波路のカットオフ波長は、それぞれのモードごと(TE0、TM0、TE1、TM1、TE2、TM2、、、)に光導波路内に光を閉じ込めることができる波長の上限として定義されている。その値は、光導波路を構成する材料種、その光学定数、構造によって、一意的に決定するものであり、一般に数値計算によって算出される。
【0049】
カットオフ波長よりわずかに大きい波長の光は、素子表面に対してほぼ平行の形で出射することになる。このカットオフ波長近傍の出射光のうち、横電場モード(transverse electroc mode;TEモード)の光が、陰電極による伝播損失を受けにくいため、スペクトル幅の極めて狭い発光となる。
【0050】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
ガラス基板301上に、フォトリソグラフィおよびリフトオフにより、幅500μm、長さ8000μmの穴を有するフォトレジスト膜を形成した。次に、RFマグネトロンスパッタリングにより、ガラス基板301上全体に、ITO層を厚さ30nmで形成した(ITOターゲット:10質量%SnO2/90質量%In2O3、フローレート:Ar 30sccm、圧力:約1×10-1Pa、RFパワー:20W)。ついで、フォトレジスト膜をその上に形成されたITO層と共に除去し、パターニングされた陽電極層302(ITO層)を有する基板を得た。該基板を洗剤および有機溶剤を用いて洗浄し、UV−オゾン処理した。
【0052】
次に、正孔注入・輸送層、発光層および電子注入・輸送層をこの順で、基板表面全体に真空加熱蒸着により形成した(圧力:3×10-3Pa以下、蒸着速度:約0.2nm/s)。正孔注入・輸送層には、MoOxが7質量%の濃度でドープされたBSB−Czを用い、層厚は10nmとした。発光層には、BSB−Czを用い、層厚は100nmとした。電子注入・輸送層には、Csが20質量%の濃度でドープされたBSB−Czを用い、層厚は60nmとした。これら3つの層はいずれもアモルファス状態とした。次に、シャドーマスクを用いた熱蒸着により、電子注入・輸送層の上に、陰電極層303として、Ag層を100nm厚で形成した(圧力:3×10-3Pa以下、蒸着速度:約0.1nm/s)。これにより、図3に示される素子構造を得た。最後に、図3に示される分割線305に沿って、ガラスカッターにより基板を素子ごと破断し、ライン形状の有機EL素子を得た。活性領域304のサイズは、500μm×2mmである。
【0053】
<実施例2〜3>
発光層の厚みをそれぞれ、130nm、150nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0054】
上記膜厚で素子作製した場合の、光導波路のカットオフ波長の計算値は、TE1モードに対して、それぞれ456nm、479nm、499nmであった。後述するように、これらの値はBSB−Czの蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている。
【0055】
<比較例1〜2>
ガラス基板上の全面に、陽電極層としてITO層を形成すること以外は実施例1と同様にして電子注入・輸送層の形成までを行なった(発光層の層厚130nm(比較例1)、150nm(比較例2))。次に、電子注入・輸送層上に、シャドーマスクを用いた熱蒸着により、直径1mmの円形状Ag層(層厚100nm厚)を形成し、面発光型有機EL素子を得た。
【0056】
<比較例3>
正孔注入・輸送層、発光層および電子注入・輸送層の有機半導体材料として、BSB−Czの代わりに、トリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして端面発光型有機EL素子を作製した。発光層の層厚は、180nmとした。Alq3の最も発光強度が高い光のピーク波長における屈折率は、約1.7である。
【0057】
[有機EL素子の特性評価]
(1)電流密度−電圧(J−V)特性
上記実施例1〜3の有機EL素子(発光層の厚さがそれぞれ、100、130、150nm)についてJ−V特性を測定した。測定は、図4に示されるように、ガラス基板上に形成された有機EL素子をステージ401上に載置し、陽電極層−陰電極層間に、コンタクトプローブ402を用いて電圧を印加することにより行なった。J−V特性の測定には、半導体パラメータアナライザ(Agilent Technologies Inc.製 E5250)を用いた。結果を図5に示す。
【0058】
(2)端面から取り出される光の発光スペクトル
図4に示されるように、受光部の直径が1mmである光ファイバ403を有するマルチチャネルスペクトロメータ(Hamamatsu Photonics Co.製 PMA−11)を用いて、端面から出射される光を集光し、発光スペクトルを測定した。光ファイバ403は、素子表面と平行に、素子と同じ高さに置いた。
【0059】
有機EL素子端面から取り出される光の発光スペクトルを図6に示す。図6(a)は、実施例1(発光層の層厚:100nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から200mA/cm2まで変化させたときの発光スペクトルである。図6(b)は、実施例2(発光層の層厚:130nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から500mA/cm2まで変化させたときの発光スペクトルである。図6(c)は、実施例3(発光層の層厚:150nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から100mA/cm2まで変化させたときの発光スペクトルである。また、図7は、実施例1〜3の有機EL素子端面から取り出される光の、電流密度100mA/cm2における発光スペクトルを重ね合わせた図である。各発光スペクトルは、ピーク強度が1となるように規格化されている。参考のため、ガラス基板上に形成されたBSB−Cz単層膜(約100nm厚)の蛍光スペクトルをともに示す。
【0060】
BSB−Cz単層膜の蛍光スペクトルと比較すると明らかなように、実施例1〜3の有機EL素子の端面から取り出される光のうち、特定のピーク波長を有する光(最も発光強度が高い光)のスペクトル幅は極めて狭いことがわかる。これらのピークの半値全幅(FWHM)は、それぞれ12nm(実施例1、発光層の層厚:100nm)、6.5nm(実施例2、発光層の層厚:130nm)、11nm(実施例3、発光層の層厚:150nm)である。
【0061】
また、図7より、当該スペクトル幅の狭い光のピーク波長が発光層の層厚に依存していることがわかる。すなわち、発光層の層厚が100、130、150nmと大きくなるに従い、ピーク波長は、446nm、471nm、500nmと大きくなる。FWHMは、端面発光のピーク波長がBSB−Czの0−1遷移の波長に近いほど狭くなり、発光層の厚みが130nmのときに6.5nmであった。
【0062】
ピーク波長の値は、前述の計算値と極めて近い。この発光が光導波路のカットオフ波長近傍の光であることが分かる。また、これらの波長はいずれもBSB−Cz単層膜の蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている。
【0063】
(3)ITO表面から取り出される光の発光スペクトル
光ファイバを有するスペクトロメータ(Ocean Optics Co.製 SD2000)を用い、該光ファイバの先端を基板の下に設置して、電流密度Jが1、10、100mA/cm2である場合における実施例2(発光層の層厚:130nm)および3(発光層の層厚:150nm)の有機EL素子のITO表面から取り出される光の発光スペクトルを測定した。結果を図8に示す。また、図8には、比較のため、比較例1(発光層の層厚:130nm)および2(発光層の層厚:150nm)の有機EL素子のITO表面から取り出される光の発光スペクトルも示した。
【0064】
実施例2および3の有機EL素子のITO表面から出射する光のFWHMは、50nm以上とブロードであり、FWHM値は、通常の面発光型有機EL素子と同等であることが図8からわかる。
【0065】
(4)偏光特性
回転偏向板用いて、実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の偏光特性を測定した。結果を図9に示す。図9(a)〜(c)は、それぞれ実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の偏光特性を示す図である。スペクトル幅が狭い光(最も発光強度が高い光)は、基板表面と平行な方向(TEモード、図9における90°方向)に偏光していることがわかる。また、より強度の低いTMモード(transverse magnetic mode、図9における0°方向)の光や偏光していない光も存在することがわかる。
【0066】
(5)発光強度の電流密度依存性
有機EL素子の端面から出射する光の発光強度と、電流密度との関係を調べた結果を図10に示す。図10(a)は、実施例2の有機EL素子の端面から出射する光の発光スペクトルのうち、TEピーク(すなわち、ピーク波長471nmのピーク)に関する、発光強度と電流密度との関係を示している。図10(a)には、参考のため、原点を通る比例直線を示している。発光強度は、電流密度100mA/cm2のときに1となるように規格化している。図10(a)からわかるように、発光強度と電流密度とは比例関係になく、高電流密度における発光強度値を用いてフィッティングした外挿線は、原点を通らない。図10(b)は、実施例2の有機EL素子の端面から出射する光の発光スペクトルのうち、偏光していない光(波長450nm)に関する、発光強度と電流密度との関係を示している。このような無偏光の光は、端面領域近傍からの発光に起因するものと考えられる。図10(b)には、比較例1の有機EL素子の面発光スペクトルの電流密度依存性を合わせて示している。これらの発光強度は、完全に電流密度に比例し、フィッティング直線は原点を通ることがわかる。したがって、上に記したような比例関係からの逸脱は、スペクトル幅の狭いピークに特有のものである。
【0067】
(6)発光スペクトル形状の変化
図11(a)〜(c)は、それぞれ実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の発光スペクトル形状の電流密度依存性を示す図である。全ての発光スペクトルは、最高ピーク強度が1となるように規格化されている。図11から明らかなように、電流密度が10mA/cm2の場合と、100mA/cm2以上の場合とではスペクトル形状が異なり、電流密度が高くなるとともに、スペクトル幅の狭いピークの強度比が高くなっている。
【0068】
(7)近視野像
ビームプロファイラー(Hamamatsu Photonics Co.製 LEPAS−12)を用いて、端面発光の近視野像を測定した。図12(a)は、実施例2の有機EL素子の端面発光の近視野像であり(電流密度100mA/cm2)、図12(b)および(c)は、図12(a)におけるx=0、y=0での光分布パターンの断面図である(電流密度10、100mA/cm2)。発光位置は、素子表面近傍に局在化している(y=0)。また、光分布パターンは、電流密度に大きくは依存しないことがわかる。
【0069】
(8)比較例3の有機EL素子の発光スペクトル
図13は、比較例3(発光層の層厚:180nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から400mA/cm2まで変化させたときの端面発光スペクトルである。図13に示されるように、電流密度の増加に伴い、スペクトル幅の狭小化が認められるものと、そのFWHMは約50nm程度と大きい。
【0070】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示される有機EL素子の概略上面図である。
【図3】実施例1の有機EL素子の構造を示す概略上面図である。
【図4】電流密度−電圧特性および端面発光スペクトルの測定方法を示す模式図である。
【図5】実施例1〜3の有機EL素子の電流密度−電圧特性を示す図である。
【図6】実施例1〜3の有機EL素子端面から取り出される光の発光スペクトルである。
【図7】実施例1〜3の有機EL素子端面から取り出される光の、電流密度100mA/cm2における発光スペクトルを重ね合わせた図である。
【図8】実施例2〜3および比較例1〜2の有機EL素子のITO表面から取り出される光の発光スペクトルである。
【図9】実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の偏光特性を示す図である。
【図10】実施例2の有機EL素子の端面から出射する光の発光強度と、電流密度との関係を示す図である。
【図11】実施例1〜3の有機EL素子の端面から出射する光の発光スペクトル形状の電流密度依存性を示す図である。
【図12】実施例2の有機EL素子の端面発光の近視野像を示す図である。
【図13】比較例3(発光層の層厚:180nm)の有機EL素子について、電流密度を10μA/cm2から400mA/cm2まで変化させたときの端面発光スペクトルである。
【符号の説明】
【0072】
101,301 基板、102,302 陽電極層、103 正孔注入・輸送層、104 発光層、105 電子注入・輸送層、106,303 陰電極層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、陽電極層と、少なくとも1つの有機材料を含む有機層と、陰電極層とからなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
主たる光の取り出し方向は、前記基板の表面に対して平行方向であり、
前記素子によって構成される、前記有機層をコアの一部とした光導波路の、横電場モードのいずれかのカットオフ波長が、前記有機層に含まれるいずれかの有機材料の蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記陽電極層と前記陰電極層の少なくとも一方が、前記いずれかのカットオフ波長の光に対して透明な電極層である請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記有機層が、複数の層からなる積層構造を有する請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記複数の層からなる積層構造を有する有機層が、前記陽電極層と接する側に正孔注入・輸送層を有し、前記陰電極層と接する側に電子注入・輸送層を有する請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層で生じる光のうち、前記カットオフ波長における、前記有機層に含まれるいずれかの有機材料の屈折率が、前記陽電極層の屈折率よりも高い請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記基板の表面が、前記いずれかのカットオフ波長の光に対して透明である請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記いずれかのカットオフ波長における前記基板の表面の屈折率が、1.7以下である請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記基板が、ガラス基板である請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記基板が、表面にシリコン酸化膜を有するシリコン基板である請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記有機層が、レーザ活性の材料を含む請求項1〜9のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記有機層が、下記式(1):
【化1】
(式中、Xは、置換あるいは非置換のアルキル基、アリール基または複素環基を表す。)
で示される部位を含有する化合物を含む請求項1〜10のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記有機層が、下記式(2):
【化2】
(式中、Y、ZおよびZ’は、それぞれ独立して、置換あるいは非置換のアルキル基、アリール基または複素環基を表す。)
で示される化合物を含む請求項11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記陰電極層は、Agを含む請求項1〜12のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記有機層の厚みは、100〜1000nmの範囲である請求項1〜13のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記有機層の厚みに応じて、取り出される光のピーク波長が異なる請求項14に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
前記正孔注入・輸送層が、金属酸化物を含む請求項4〜15のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項17】
前記正孔注入・輸送層が、酸化モリブデンを含む請求項16に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項18】
前記電子注入・輸送層が、第I族元素もしくは第II族元素をドーパントとして含む請求項4〜17のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項19】
前記陽電極層の厚みが3〜100nmである請求項1〜18のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項20】
前記陽電極層は、透明導電性酸化物からなる請求項2〜19のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項21】
発光が光学的に増幅される請求項1〜20のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項22】
有機レーザダイオードである請求項21に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項1】
基板と、陽電極層と、少なくとも1つの有機材料を含む有機層と、陰電極層とからなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
主たる光の取り出し方向は、前記基板の表面に対して平行方向であり、
前記素子によって構成される、前記有機層をコアの一部とした光導波路の、横電場モードのいずれかのカットオフ波長が、前記有機層に含まれるいずれかの有機材料の蛍光スペクトルの半値全幅の波長域に含まれている有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記陽電極層と前記陰電極層の少なくとも一方が、前記いずれかのカットオフ波長の光に対して透明な電極層である請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記有機層が、複数の層からなる積層構造を有する請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記複数の層からなる積層構造を有する有機層が、前記陽電極層と接する側に正孔注入・輸送層を有し、前記陰電極層と接する側に電子注入・輸送層を有する請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層で生じる光のうち、前記カットオフ波長における、前記有機層に含まれるいずれかの有機材料の屈折率が、前記陽電極層の屈折率よりも高い請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記基板の表面が、前記いずれかのカットオフ波長の光に対して透明である請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記いずれかのカットオフ波長における前記基板の表面の屈折率が、1.7以下である請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記基板が、ガラス基板である請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記基板が、表面にシリコン酸化膜を有するシリコン基板である請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記有機層が、レーザ活性の材料を含む請求項1〜9のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記有機層が、下記式(1):
【化1】
(式中、Xは、置換あるいは非置換のアルキル基、アリール基または複素環基を表す。)
で示される部位を含有する化合物を含む請求項1〜10のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記有機層が、下記式(2):
【化2】
(式中、Y、ZおよびZ’は、それぞれ独立して、置換あるいは非置換のアルキル基、アリール基または複素環基を表す。)
で示される化合物を含む請求項11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記陰電極層は、Agを含む請求項1〜12のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記有機層の厚みは、100〜1000nmの範囲である請求項1〜13のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記有機層の厚みに応じて、取り出される光のピーク波長が異なる請求項14に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
前記正孔注入・輸送層が、金属酸化物を含む請求項4〜15のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項17】
前記正孔注入・輸送層が、酸化モリブデンを含む請求項16に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項18】
前記電子注入・輸送層が、第I族元素もしくは第II族元素をドーパントとして含む請求項4〜17のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項19】
前記陽電極層の厚みが3〜100nmである請求項1〜18のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項20】
前記陽電極層は、透明導電性酸化物からなる請求項2〜19のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項21】
発光が光学的に増幅される請求項1〜20のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項22】
有機レーザダイオードである請求項21に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図12】
【公開番号】特開2009−48837(P2009−48837A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212863(P2007−212863)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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